前頁 次頁

コラム3 若者自立支援の取組と成果~多様な主体の連携により,若者の雇用可能性をITのチカラで広げる~

特定非営利活動法人「育て上げ」ネット理事長 工藤 啓

若者と高齢者の間には,大きなITディバイドがあることは「世代間格差」の文脈から語られることはあるが,若者の間にも「IT世代内格差」が存在し,それが“雇用可能性”に大きな影響を与えていることはあまり認識されていない。

「若者は携帯やパソコン,インターネットを使いこなしている」は事実だろうか。

NPO法人「育て上げ」ネットでは,1000名の若年無業者のIT活用状況を調べたところ,結果は下記のようなものであった。

●パソコンのボタンを押したことがない 20%

●WordやExcelを開いたことがない  50%

この数字を見て「まさか」と思われるかもしれない。しかし,若者支援業界という狭い分野の支援者に驚きはない。ここでひとつの仮説を立ててみる。

家庭環境や成長段階において,ITに触れる機会がなかった若年無業者が,基礎的なスキル形成を行うことができたら彼ら/彼女らの雇用可能性を開くことができるのではないか,というものだ。それを実行するためにはいくつかの条件をクリアしなければならない。

一つは,その機会提供は無償であること。無業であれば収入がない。預貯金はわからないが収入のない若者にとって有料の講座は出たくても参加できないかもしれないからだ。

二つ目に,ITスキル向上の環境がない。パソコン,ソフトウェア,インターネット,テキストなど,機会を提供するためにはそれだけの環境を準備しなければならない。

そして,最後に,適任の講師がいない。ITの講師はたくさんいるかもしれないが,若年無業者の状況や置かれている環境に配慮しつつ,ITスキルの向上という価値を提供できる人材がいない。残念ながら若者支援業界に関わる支援者のITスキルはそれほど高くない。

これらの諸課題を解決しつつ,若者の雇用可能性をITのチカラで広げようと取り組んだのが「若者UPプロジェクト」である。NPO法人「育て上げ」ネットを事務局に,日本マイクロソフト株式会社と,厚生労働省の事業として行われている地域若者サポートステーションが協働して,若年無業者にITスキル形成の機会を提供し,同時に就労支援を通じて就労移行を目指したプロジェクトである。

若者UPプロジェクト別ウインドウで開きます

プロジェクト映像

若者UPプロジェクト

この行政,企業,NPO等の三者共同により先に述べた諸条件はクリアすることができた。もともと地域若者サポートステーションの利用は無料であるが,日本マイクロソフト株式会社とその他協力企業からパソコン,ソフトウェアなどが提供されたことにより,このプロジェクトも利用料なしで提供可能となった。そして,人材育成も地域若者サポートステーションの職員に,ITスキル講師のためのトレーニング(Train the Trainer for MOT)を行った。現場の若者支援者が,一定水準を満たした専門インストラクターの技術や意識を身につけたことで,支援者でありインストラクターである人材へと成長するに至る。

若者UPの事業成果は第三者評価制度を活用し,明治大学のインキュベーションセンターに拠点を持つ株式会社公共経営・社会戦略研究所に依頼をした。プロジェクト前後の若者の定量的調査,ステークスホルダー等へのヒアリングによる定性的調査の他,プロジェクトを社会的アウトカムやインパクトを費用便益分析によって評価する「社会的投資収益分析(SROI分析 : Social Return on Investment Analysis)」を評価手法とした。

第三者評価報告書

このプロジェクトは,初年度は全国5カ所,二年目は全国25カ所の地域若者サポートステーションに展開した。現時点(2012年2月末)の集計では,既に4000名を超える無業の若者にITスキル研修の機会を提供し,受講後6か月以内の就労等進路決定率は50%に迫ろうとしている。就業先も多様であるが,IT業界に進んだ若者は少数派であり,多くの若者が「パソコンがまったくできない」自分をスキル形成によって自己肯定化し,かつ,一般の求人票にあるWordやExcelを要件にしている求人に積極的に(臆することなく)応募することができるようになった結果であると受け止めている。

このプロジェクトは,政府(行政),企業,NPO等が「若者の雇用可能性をITのチカラで広げる」というビジョン,同じ方向を目指して協力し,それぞれが持つリソースを相互に活用したからこそ,実現と成果を出せたものと関係者で分析している。

平成24年より,若者UPプロジェクトで培った経験やネットワークを生かし,東日本大震災復興に対して同様の仕組みで「東北UPプロジェクト」を開始している。東北という地域もまたITディバイドが存在し,かつ,復興に対しては雇用も重要な要素として挙げられている。その状況に対して,日本マイクロソフト株式会社と育て上げネットでは,被災復興活動を行うNPO等とパートナーシップを結び,被災三県において「被災者の雇用可能性をITのチカラで広げる」ための活動に取り組んでいる。ひとりでも多くの被災された方がITスキルの形成により,次のステージに移行できることに貢献できるよう,関係者一同全力でプロジェクトを進めていく。

東北UPプロジェクト

東北UPプロジェクト

▲このページの上へ

前頁 次頁