特集 地域における青少年育成活動
3 青少年育成の担い手
ここでは,青少年育成の担い手として地域における活動を積極的に行っている団体や地域における活動を牽引している方々の取組3を紹介する。
(1)青少年育成都道府県民会議・青少年育成市町村民会議
青少年育成都道府県民会議(以下「県民会議」という。),青少年育成市町村民会議(以下「市民会議」という。)とは,青少年育成の国民運動を展開している団体である。県民会議は神奈川県を除くすべての都道府県にある。市町村民会議は全国に1,209団体ある。
我が国最初の県民会議は,昭和41(1966)年に滋賀県で誕生した。同年には他の都道府県でも続々と設置された。この背景には,国民の青少年問題への関心が高まっていたことが挙げられる。昭和41年2月には,「あすをきずく青少年のつどい中央大会」において,佐藤内閣総理大臣(当時)より,昭和41年を青少年の年として青少年育成国民運動を盛り上げていきたいとのあいさつもなされていた。
県民会議や市民会議は,「少年の主張大会」や「青少年育成地方大会」といった啓発イベント,「大人が変われば子どもも変わる」や「家庭の日」,「あいさつ・声かけ運動」といった各種の運動,社会貢献活動などに取り組んでいる青少年や青少年団体への表彰や支援,非行防止や健全育成のためのパンフレット・ポスター作成をはじめとする広報啓発活動などの様々な事業を,地域の実情に即して実施している。
ここでは,県民会議や市民会議が実施している青少年の健全な育成のための特色ある取組を紹介する。
① 「夢配達人プロジェクト」(公益社団法人青少年育成広島県民会議)
公益社団法人青少年育成広島県民会議(以下「青少年育成広島県民会議」という。)は,青少年育成県民運動の推進母体として,昭和41(1966)年の設立以来,時代を担う青少年の健全な育成を図ることを目的に様々な事業を行っている。
主要事業の一つである「夢配達人プロジェクト推進事業」は,小学生の夢を「夢配達人(夢に関係する憧れの人や名人など)」の協力を得ながら,地域の人たちと一緒に実現することを通じて,豊かな想像力や主体性を持った青少年を育成するとともに,地域ぐるみでの青少年育成活動の定着を図ることを目的とし,平成16(2004)年にスタートした。
毎年,広島県内の子どもから夢を募集し,「福山の伝統工芸品である琴を作り,たくさんの人に聞いてもらいたい」,「被爆者に原爆の様子を聞いて,それを基に作曲家と一緒に歌を作って歌いたい」など,これまでに58件もの夢を実現してきた。(図表14)

夢が実現するまでの流れとして,まず,応募された夢を選考委員会で審査し,そこで約10件の夢を採択する。次に,夢の実現をサポートする組織(以下「実行委員会」という。)を学校・地域の人々・青少年育成団体などとともに立ち上げる。そして,実行委員会の場において,実現までの計画を作成し,約1年かけて子どもと一緒に夢を実現していく。

夢を実現した子どもからは,「地域の文化・伝統を学ぶことができた」,「日頃お世話になっている地域の人たちを喜ばせることが出来てよかった」といった感想が寄せられ,事業に参加した大人からは,「地域の絆を深めることができた」,「子どもの成長に驚かされた」など,様々な感想が寄せられた。
これまでの事業を通して,子ども,大人,地域の人々が得たことは,充実感,達成感を共有し,互いの気持ちに感謝し合うことだった。
青少年育成広島県民会議では,引き続き,「夢配達人プロジェクト推進事業」を通じ,地域の宝である子どもを,家庭,学校,地域が一体となって,守り,育てていく。
② 市民一丸となって子どもの心を育むために(会津若松市青少年育成市民会議)
会津若松市青少年育成市民会議(以下「会津若松市民会議」という。)は,市内14地区に組織されている青少年育成推進協議会(以下「青少協」という。)からの推薦による,区長会・PTA・民生委員などの市民で構成され,市長を会長に市民総ぐるみにより,子どもの健全育成のための市民運動を展開している。各地区の青少協では,地域の実状に応じた広報・啓発活動などを通して,次代を担う子どもの心の育成に取り組んでいる。ここでは,会津若松市民会議が行っている様々な取組のうち,「青少年の心を育てる市民行動プラン"あいづっこ宣言"」について紹介する。
青少年問題は,家庭・学校・地域社会が一丸となって取り組むべき問題である。現代社会は,核家族化や共働き世帯の増加,少子化の進行,さらには,情報化や価値観の多様化も加わり,地域の連帯意識が揺らいでいる。こうした中,市民が共通の指針のもとに,一丸となって青少年の心の育成に取り組めるよう,平成14(2002)年2月に市民の有識者でつくる「青少年の心を育てる市民行動プラン策定会議」が1年がかりでまとめたのが"あいづっこ宣言"である。(図表16)

宣言の内容は,人としての道に沿った普遍的なもので,大人にも子どもにも共通する6つの行動規範と締めくくりの言葉で構成されている。会津藩士の子弟の心構えである「什(じゅう)の掟」4など,会津で培われた伝統的な教えを踏まえ,自分を律し,他人を思いやることの大切さがうたわれている。「あいづっこ」とは,会津に生まれ育った全ての人を指しており,子どもだけの宣言ではなく,大人にとっては「このようなあいづっこ(会津人)に育てます」「そのための手本となります」という宣言でもある。
"あいづっこ宣言"に込められた思いの実現のため,会津若松市民会議が推進母体となり,以下のような様々な事業を実施している。(図表17)

- 市民総ぐるみで「朝のあいさつ"おはよう"運動」
- 小学1年生を対象に「"あいづっこ宣言"暗唱合格証」授与
- 小中学生を対象に「会津の先人との約束(絵手紙)」募集
- 民間企業への"あいづっこ宣言"普及啓発事業
- "あいづっこ宣言"に関する「作文コンクール」,「標語募集」,「講演会」など
"あいづっこ宣言"に込められた内容は,大人の行動規範でもある。幼い頃に"あいづっこ宣言"を覚え,思春期には困ったときや苦しいときに思い出し,人の親となったときには,子育ての柱とし,また,孫たちに教え聞かせるなど,人生のそれぞれの時期に,会津市民,会津人の心の糧となってほしいとの想いで普及に取り組んでいる。
(2)青少年育成活動を実施しているNPOなどの民間団体
青少年育成活動を取り組んでいる民間団体は,県民会議,市民会議のほかにも数多くある。
① 「人とのふれあいを深める自然体験」(メダカ里親の会)(平成24年度「子ども若者育成・子育て支援功労者表彰」内閣総理大臣表彰受賞)
メダカ里親の会は,平成7(1995)年から栃木県宇都宮市を中心に,子どもの身近に豊かな自然環境を残すための活動や農村における自然体験や交流事業を通して,自然の大切さや命の尊さを感じる子どもの心を育んでいる。子どもの健全育成に資する体験的環境学習活動に取り組む草分け的存在で,17年を超える実績を持ち大きな功績をあげている団体である。
メダカ里親の会が行う「田んぼの学校」では,小学生を中心とした子どもに対し,農村の資源を活用し,田植え,草取り,稲刈りなどの農作業や,田んぼの周辺に生息する生き物の観察,収穫祭を行うことにより,田んぼがもたらす恵みを理解する体験的環境教育を通じて,子どもの自然観や人生観を養っている。県内外からも多くの支持を集めており,首都圏の子どもが自然とのつながりを体験することにより,豊かな人間性を育むことのできる活動として高い評価を受けている。また,家族での参加も推進しており,子どもと親のふれあいの機会の提供だけでなく,地域の様々な年代の参加者との世代間交流ができる機会にもなっている。(図表18)

② 「無理なく,楽しみながら,持続可能な活動」(ジェスパル)(平成24年度「子ども若者育成・子育て支援功労者表彰」内閣府特命担当大臣表彰受賞)
ジェスパルは,平成6(1994)年に千葉県木更津市で,PTA,青少年相談員,子ども会育成会といった青少年育成団体の現役とOBにより,地域の子どもの健全育成を願って自主的に設立された団体である。以来,約20年間「楽しみながら,無理なく,費用は自ら捻出する」をモットーに活動しており,既成の組織の枠を超えた団体としてユニークな存在となっている。
ジェスパルの活動には子どもからお年寄りまで数多くの方々の参加があり,地域のコミュニティづくりに寄与している。特に,地域交流ラジオ体操は夏休み期間中毎日・地区内7会場で開催され,毎年延べ1万人以上が参加しており,ラジオ体操を通じて世代間の交流が図られている。運営には団体の会員を中心に,地区の関係団体の役員のほか,地区の中学生も携わっている。(図表19)

また,子どもから保護者まで約100名が参加するサマーキャンプや,他の青少年育成団体や区長会,老人クラブといった地域団体や小・中学校,公民館などの関係機関と連携した違法ビラの撤去活動など様々な事業を実施している。
各種イベントでは模擬店を出店し,会の活動費を自ら捻出するなど,無理せず楽しみながらの活動が継続されている。
ジェスパルの活動が充実することによって,PTAなどの既存の様々な活動が活性化しており,地域の関係団体の活動への相乗効果もみられる。また,サマーキャンプに参加した小学生がその後,中学生のリーダーとして小学生の指導に当たるなど,団体の活動がその地域で持続可能なシステムとして構築されている。
③ 乳幼児,小学生,中高生の居場所づくり(バニラシティ・イングリッシュセンター)(平成23年度「子ども若者育成・子育て支援功労者表彰」内閣府特命担当大臣表彰受賞)
バニラシティ・イングリッシュセンターは,若者の居場所づくりを推進する団体として,平成15(2003)年に兵庫県に設立された団体である。現在は,乳幼児と母親,小学生,中高生と,子どもの発達段階に応じた居場所づくりに取り組んでいる。
乳幼児とその母親が気軽に集える場「TREEはうす」は,商店街の空き店舗を活用し,保育士や幼稚園教諭経験者といったスタッフが常駐し,親子向けの講座,絵本の読み聞かせ,伝承遊び,英語遊びなどを実施している。親子がくつろげる"たまり場"として地域の親子連れでにぎわっている。
地域内の小学生がのびのびと遊べる場である子どもの冒険広場「ウッドランド」では,公園や空き地などでの禁止事項をできる限りなくし,「自分の責任で自由に遊ぶ」を原則に自由な遊びができる場を展開している。(図表20)

若者自身がやりたいことを伸び伸びと取り組める場である若者ゆうゆう広場「ゆうゆうたじま」は,中高生が学校帰りに気軽に立ち寄れ,フリースペースで自由に過ごす"たまり場"としての役割を担っている。音楽や絵画などのサークル活動,清掃などのボランティア活動,地域の特色を生かした様々なイベント活動などを行える場所となっている。
それぞれの広場で,乳幼児と母親,小学生,中高生に対し,様々な体験活動の機会を提供していることに加え,それぞれの広場を超えて,バーベキュー大会,ハロウィンやクリスマスの仮装大会,餅つき大会など,季節ごとに子どもから大人までが楽しめる多彩なイベントを催し,異世代・多世代交流が育まれる場・機会づくりが行われている。
(3)青少年育成国民運動推進員・青少年育成国民運動推進指導員
地域における青少年育成の担い手として,民間の有志指導者(ボランティア)の存在を忘れることはできない。ここでは,青少年育成国民運動推進員と青少年国民運動推進指導員を取り上げる。
青少年育成国民運動推進員(以下「推進員」という。)とは,地方公共団体や県民会議・市民会議が実施する青少年育成のための運動に参加する方々である。小学校区などの小地区ごとに,地方公共団体の首長などから委嘱された推進員がおり,その地区の青少年育成活動を担っている。
青少年国民運動推進指導員(以下「指導員」という。)とは,地域の代表として県民会議の構成員となり,青少年育成県民運動の企画に参加し,推進員への情報提供や指導助言を行うとともに,地域の子どもや若者の実態把握と市町村への情報伝達に当たり,関係団体の活動に協力している方々である。
平成25(2013)年2月現在,推進員,指導員合わせて,約7万人が全国で活動している。
① 門賢氏(平成24年度「子ども若者育成・子育て支援功労者表彰」内閣総理大臣表彰受賞)
三重県の紀宝町青少年育成町民会議会長である門氏は,昭和63(1988)年から,紀宝町青少年健全育成推進指導員や警察協助員として,町の青少年健全育成活動に当たっている。子どもが主体的で自立した人間に育つよう,住民と連携して,様々な事業を行っている。
放課後や土・日曜日には,自身の工務店作業場を子どもの遊び場として開放し,ゲームなどで家にこもりがちな現代の子どもに,大工道具や木材片を利用したものづくりを体験させている(図表21)。また,学校や家庭での悩みなどの相談活動を行い,不登校,いじめへの対応や,非行少年の立ち直り支援,家庭環境などの問題解決を図るなど,青少年健全育成に尽力している。子どもの視点に立った活動を長年地道に行っているため,子どもからの信頼が厚く,学校の先生や保護者に相談できないでいる多くの子どもが作業場に集まり,様々な悩みを相談している。

このほか,中学校や高校で選手に選ばれなかった子どもを集め,野球チーム・駅伝チームを編成し大会に出場させ,自信とチームワークの大切さを学ばせている。また,「あいさつ運動」,「夜間非行防止パトロール」,「地域ふれあい合宿」,「清掃登山」,「ふれあいコンサート」などを実施している。
② 石井健一郎氏(平成23年度「チャイルド・ユースサポート章」受章)
広島県の宇品東地区青少年健全育成連絡協議会会長である石井氏は,昭和59(1984)年より,地域の伝承文化の保存活動と子どもの見守り活動を地域ぐるみで行い,大人と子どもの触れ合いを通して,「宇品っ子」としての連帯意識の醸成と,地域全体のコミュニティの再生に大きく貢献している。
宇品地区の伝承文化である「宇品踊り」は,石井氏の学校への働きかけにより中学校や小学校で体育祭や運動会の学校行事に取り入れられようになった。子どもに「宇品踊り」を体験させながら,宇品の伝統芸能を後世に伝え,永続させるための工夫がなされており,「宇品踊り」が地域に根づいている。(図表22)

子どもの安全を守る「子ども110番の家」に登録している地域の家や店舗を回って場所を確認する活動「子ども110番の家スタンプラリー大会」では,人気アニメのキャラクターのスタンプを集めることで,より楽しく「子ども110番の家」を周知できるようにするなどの工夫がされている。これにより,普段接する機会の少ない「子ども110番の家」の大人と子どもの触れ合いの場を持つことや,地域の大人が子どもに温かい目を向けることに寄与している。(図表23)

(4)青少年育成に携わるその他の方々
推進員・指導員以外にも,地域では様々な方々が非行防止などの健全育成活動に取り組んでいる。
① 山中睦夫氏(平成23年度「子ども若者育成・子育て支援功労者表彰」内閣府特命担当大臣表彰受賞)
山中氏は,昭和54(1979)年から栃木県小山市で,子どもの健全な成長には,遊び体験や自然体験,生活体験,社会体験,食や伝承の文化体験といったバランスの取れた支援や環境整備が必要との考えの下,地域の子どもの育成組織である子ども会育成会の活動に貢献している。また,コミュニティの充実と連動させる活動を目指し,各地の地域指導者の発掘と育成にも取り組んでいる。
毎年開催されている「子ども育成フォーラム」,「子どもフェスティバル」,「高校生フォーラム」を発案し,子どもに対し,遊び体験や社会体験といった様々な体験を提供している。これらの参加者は年々増加しており,地域指導者も多数輩出している。「高校生フォーラム」は,地域での活動を議論のテーマとし,高校生同士が意見交換しながら,高校生の地域貢献意識を高めることを目的としている。開催に当たっては,司会を希望する高校生に対し,事前にファシリテーター研修を実施している。フォーラムでは,高校生を中心とした活発な議論が展開されており,内向きになりがちな最近の高校生の意識を一般社会に向けることや,一人の人間としての自己有用感の意識向上,子どもの日頃の問題意識を深めるコミュニケーション力の向上にも大きな力を発揮しつつある。(図表24)

② 井内清満氏(平成23年度「子ども若者育成・子育て支援功労者表彰」内閣府特命担当大臣表彰受賞)
井内氏は,平成元(1989)年から千葉県で,非行少年の立ち直り支援として,24時間365日の相談対応や活動の場づくりを行っている。厳しく叱り,温かく見守る,約束事は絶対守るといった考えの下で,青少年と真正面から向き合っている。
24時間365日の相談対応では,公的機関が開設していない時間帯(休日,夜間)の相談や訪問しての相談活動などを行い,青少年や保護者,関係機関などと一緒になって問題解決に当たっている。この相談活動により,これまでに非行少年やその保護者に関する困難な問題を多く解決している。(図表25)

非行少年などの立ち直り支援として結成したサッカーチーム「FC椿森」の活動では,親交試合として,地元企業,高校,警視庁チームが参加し,試合を通じてコミュニティの再生に貢献している。この活動は,千葉県サッカー協会や企業からも大きな評価を受けている。(図表26)

平成14(2002)年には,活動を永続するため,ユース・サポート・センター・友懇塾を結成し,非行に陥った少年や不登校の少女,その親たちと一緒に街の清掃や里山の下草刈りなどを行っている。また,立ち直った少年を友懇塾スタッフとして育成するなど,後継者の育成にも努めている。