第2部 子ども・若者育成支援施策の実施状況
第3章 困難を有する子供・若者やその家族の支援
様々な困難を有するが故に特別な支援が必要な子供・若者がいる。その困難は,ニート,ひきこもり,不登校など社会生活を円滑に営む上での困難や,障害,虐待を始めとする犯罪被害,定住外国人であることなど多岐にわたっていることから,それぞれに必要な支援を行っている。非行や犯罪に陥った子供・若者については,その抱える困難に配慮し,社会の一員として立ち直ることができるよう支援している。
第1節 困難な状況ごとの取組
1 ニート,ひきこもり,不登校の子供・若者への支援等
(1)社会生活を円滑に営む上での困難を有する子供・若者を地域において支援するための取組(内閣府,文部科学省,厚生労働省,各省庁)
「子ども・若者育成支援推進法」に基づき,ニートやひきこもり,不登校といった社会生活を円滑に営む上での困難を有する子供・若者に対し,教育,福祉,保健,医療,矯正,更生保護,雇用などの様々な分野の関係機関がネットワークを形成し,それぞれの専門性を生かして発達段階に応じた支援を行っていくことや,社会生活を円滑に営むことができるようにするために,関係機関の施設はもとより,子供や若者の住居その他の適切な場所において,必要な相談や助言,指導を行うことが必要とされている。
内閣府は,
- 平成26(2014)年度から,地方公共団体の実情に応じて効果的に子ども・若者支援地域協議会81の設置促進を図るため,協議会が未設置の都道府県・政令指定都市を対象とした「子ども・若者支援地域協議会設置促進事業」を実施している。
- 困難を有する子供や若者に対する支援に携わる人材の養成を図るため,アウトリーチ(訪問支援)研修を始めとする各種研修を実施している82。公的機関において相談業務に当たる職員に対しては,総合的に支援するための法的仕組みや関係機関の役割などについて理解を深めることを目的とした研修を実施している。民間団体において相談業務に当たる職員に対しても,困難を有する子供や若者の特性やその家族についての理解,支援方策についての学びを深めるとともに,継続した支援を行うための組織運営についても実践的に学ぶことを目的とした研修を実施している。
- 支援に関する調査研究を行っている。平成26年度は,全国の地方公共団体における取組の実態を把握し,各地域における総合的な支援ネットワークの形成を促進するための調査研究を実施した。平成27(2015)年度は,ひきこもりに該当する子供・若者の実態や,必要としている支援の内容などを把握するための調査研究を実施する。
独立行政法人国立青少年教育振興機構は,ニートやひきこもり,不登校の子供や若者に対する各種事業を実施している。
COLUMN NO.7
アウトリーチ(訪問支援)とは
近年の我が国における,困難を有する子供・若者を巡る社会問題の一つとして,「ひきこもり」が挙げられる。
内閣府が平成22(2010)年に実施した調査(ひきこもりに関する実態調査)によると,15歳~39歳の若者のうち,「準ひきこもり」の状態を含めた「広義のひきこもり」は,69.6万人と推計される。
子ども・若者育成支援推進法第15条では,困難を有する子供・若者に対する支援の一つとして,「子ども・若者の住居その他の適切な場所において必要な相談,助言又は指導を行うこと」が規定されている。
ひきこもり状態の者は,自ら相談機関等に出向くことの難しい場合が多いことから,支援を行う者がその家庭等を訪問して行うアウトリーチ(訪問支援)が有効とされている。これは,福祉や医療等の領域で,支援を行う者が被支援者の自宅へ出向く「家庭訪問」に近い意味合いで用いられてきた支援方法の一つである。
アウトリーチにおいては,施設来訪型(来所型)の支援よりも専門的で臨機応変な対応が求められることから,講義等による技能習得には限界があるとされる。そのため,内閣府では,より実践的な知識・技能を習得するための実地研修を含めた以下の3部構成で,困難を有する子供・若者を被支援者として想定した「アウトリーチ(訪問支援)研修」を実施し,アウトリーチを担う人材の養成を進めている。
第1部:合同研修前期(学識経験者等による講義:5日)
第2部:実地研修(支援機関での実地研修:5日)
第3部:合同研修後期(習得事項のまとめを目的とした演習:3日)

(2)ニート等の若者への支援(厚生労働省)
厚生労働省は,ニート等の若者が充実した職業生活を送り,我が国の将来を支える人材となるよう「地域若者サポートステーション」(以下「サポステ」という。)において,地方自治体と協働し,職業的自立に向けての専門的相談支援,就職後の定着・ステップアップ支援,若年無業者等集中訓練プログラムを実施している(15~39歳対象)(第2-3-1図)。サポステでは,以下のようなサービスの多くを無料で受けることができる。
- キャリア・コンサルタントなどによる個別的な相談,支援計画の作成や,必要に応じて外部の適切な支援機関や団体の紹介
- 個別・グループなどによる就労に向け踏み出すためのプログラム
- 就職した者への定着・ステップアップ相談
- 合宿形式を含むサポート,自信回復,職場で必要な基礎的能力付与,就職活動に向けての基礎知識獲得などを集中的に実施
- 職場見学や職場体験
- 保護者を対象としたセミナーや個別相談

(3)ひきこもりへの支援(厚生労働省)
厚生労働省は,保健・医療・福祉・教育・雇用といった分野の関係機関と連携の下でひきこもり専門相談窓口としての機能を担う「ひきこもり地域支援センター」の整備を推進している(第2-3-2図)。「ひきこもり地域支援センター」は,平成26(2014)年度末現在,52の都道府県と政令指定都市に設置されている83。平成25(2013)年度からは地域に潜在するひきこもりを早期に発見し,ひきこもりを抱える家族や本人に対するきめ細やかな支援が可能となるよう,継続的な訪問支援などを行う「ひきこもりサポーター」を都道府県・政令指定都市が養成し,市町村が家族や本人へサポーターを派遣する事業を行っている。その他,精神保健福祉センターや保健所,児童相談所において,医師や保健師,精神保健福祉士による相談・支援を,本人や家族に対して行っている。

(4)不登校の子供・若者への支援(文部科学省)
不登校への対応については,未然防止や早期発見・早期対応の取組や,学校が家庭・地域・関係機関と連携した取組に加え,子供の悩みや不安を受け止めて相談に当たる相談体制の整備が重要である。
文部科学省は,不登校の未然防止や不登校の子供への必要な支援の在り方を検討するための基礎資料として,平成23(2011),24(2012)年度に不登校経験者の状況を把握するための追跡調査を実施,平成26(2014)年7月に報告書を公表した。また,11月には,全国不登校フォーラムを開催し,不登校の子供たちへの支援策について話し合い,参加者から意見を聞いた。さらに,平成27(2015)年2月には有識者会議を立ち上げ,今後の不登校施策について検討を開始した。
そのほか,不登校などの未然防止や早期発見・早期対応につながる取組,不登校などに対応できる関係機関同士の連携した取組を推進するための試行的な実践を地方公共団体や民間団体などに委託し,成果の普及を図っている。
なお,不登校の子供への相談・指導を行うために都道府県・市町村教育委員会が設置している教育支援センター(適応指導教室)では,不登校の子供が在籍する学校とも連絡をとりながら,子供の実情に応じた学習指導が行われている。(学校内外での相談体制の整備については,第2部第2章第3節2「相談体制の充実」と次項を参照。)
また,小学校及び中学校における不登校の児童生徒がフリースクールなどの学校外で学んでいる現状を踏まえ,文部科学省は「全国フリースクール等フォーラム」を開催するなど,フリースクールなどで学んでいる子供たちへの支援について検討を行っている。
(5)心の問題への対応(文部科学省,厚生労働省)
文部科学省は,教育相談体制の一層の充実を図るため,養護教諭と関係教職員による健康相談や保健指導,スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置拡充を推進している。(家庭教育支援については,第2部第4章第1節1「保護者等への支援を行う「家庭を開く」取組」を参照。)
厚生労働省は,こころの不調・病気に関する説明や各種支援サービスの紹介など,治療や生活に役立つ情報を分かりやすくまとめた「みんなのメンタルヘルス総合サイト」84と,10代・20代とそれを取り巻く人々(家族・教育職)を対象に本人や周囲が心の不調に気づいたときにどうするかなど分かりやすく紹介する「こころもメンテしよう~若者を支えるメンタルヘルスサイト~」85の2つのウェブサイトを厚生労働省ホームページに設置している(学校内外の相談体制については,第2部第2章第3節2「相談体制の充実」を参照)。
(6)高校中途退学者への支援(文部科学省,厚生労働省)
文部科学省は,「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」86の中で,高校中退の状況を把握し,公表している。
厚生労働省は,学校,ハローワーク,サポステが高校中退者の情報を共有し,支援が必要な者に対し必要な支援を実施できるよう連携を図っている。
2 障害のある子供・若者の支援
(1)障害のある子供・若者の支援
ア 特別支援教育の推進(文部科学省)
障害のある子供の能力や可能性を最大限に伸ばし,自立し社会参加するために必要な力を培うことが必要である。一方で,近年,子供の障害の重度・重複化,多様化が進んでいる。
特別支援学校や小学校・中学校の特別支援学級では,一人一人の障害の状態などに応じ,特別の教育課程や少人数の学級編制の下,個別の指導計画や教育支援計画が作成され,特別な配慮をもって作成された教科書,専門的な知識・経験のある教職員,障害に配慮した施設・設備を活用して,指導が行われている。通学が困難な子供に対する訪問教育も行われている。通常の学級では,通級による指導87のほか,障害に配慮した指導方法や支援員の活用など,一人一人の教育的ニーズに応じた教育が行われている。
文部科学省は,特別支援教育を推進するための以下のような取組を行っている88。
- 幼稚園,小学校・中学校・高校,特別支援学校といった全ての学校において,発達障害を含め障害のある子供に対する学校の支援体制を整備するため,関係機関との連携や専門家チームによる支援に要する経費の一部補助
- 公立の幼稚園,小学校・中学校・高校に発達障害を含む障害のある子供をサポートする「特別支援教育支援員」を配置するための経費の地方財政措置や,私立学校が障害に応じた教育を実施する上で必要とする設備を整備する経費の一部補助
- 特別支援教育に関わる教員に対する専門的な研修や,保護者を始め様々な人々が理解を深めるための取組
- インクルーシブ教育システムの構築に向けた取組として,早期支援コーディネーターの配置による早期からの教育相談・支援体制の構築,合理的配慮協力員等の配置による学校における合理的配慮の充実
- 平成26(2014)年7月から,文部科学省の「インクルーシブ教育システム構築モデル事業」で得られた実践事例を独立行政法人国立特別支援教育総合研究所の「『合理的配慮』実践事例データベース」上で公表し,障害のある子供への「合理的配慮」の充実に役立つ情報の発信89
イ 障害のある子供たちへの就学支援(文部科学省)
文部科学省と地方公共団体は,障害のある子供の特別支援学校や小・中学校への就学の特殊事情に鑑み,これらの学校に就学する子供の保護者などの経済的負担を軽減するため,保護者の経済的負担能力に応じて就学奨励費を支給している。
ウ 障害のある子供と障害のない子供や地域の人々との交流及び共同学習(文部科学省)
障害のある子供と障害のない子供や地域の人々が活動を共にすることは,子供の経験を広め,積極的な態度を養い,豊かな人間性や社会性を育む上で意義があるばかりでなく,地域の人々が障害のある子供に対する正しい理解と認識を深めるためにも有意義である。
文部科学省は,こうした交流及び共同学習が一層推進されるよう,現行学習指導要領などにおいて障害のある子供と障害のない子供との交流及び共同学習の機会を設けることを規定するとともに,「交流及び共同学習ガイド」90のホームページへの掲載を行っている。また,特別支援学校に在籍する子供の居住する地域の小・中学校との交流や共同学習の推進に関する実践研究に取り組んでいる。
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所91は,都道府県で交流及び共同学習を推進する立場にある教職員を対象に「交流及び共同学習推進指導者研究協議会」を開催し,交流・共同学習の理解促進と具体的な方策の普及を図っている。
エ 障害の特性に配慮した適切な福祉サービスの提供(厚生労働省)
障害のある子供や若者が地域で安心して生活ができるよう,「児童福祉法」(昭22法164)と「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(平成17法123)(以下「障害者総合支援法」という。)に基づき,市町村などが障害児通所支援やホームヘルプといった必要な福祉サービスを提供している。
(2)発達障害のある子供・若者の支援
ア 「発達障害者支援センター」92を核とした地域支援体制の強化(厚生労働省)
厚生労働省は,「発達障害者支援法」(平16法167)に基づき,地域において医療,保健,福祉,教育及び労働といった分野の関係者と連携し,発達障害者やその家族に対する相談支援を推進している93。具体的には,
- 地域生活支援事業における「発達障害者支援体制整備」により,都道府県・指定都市において,発達障害者やその家族に対して,各ライフステージに対応する一貫した支援を行うため,保健所・保育所などの支援関係機関のネットワークを構築するとともに,ペアレントメンター94の養成とその活動を調整する人の配置,アセスメントツール95の導入を促進する研修会などの実施,家族対応力の向上を支援するペアレントトレーニング96や当事者の適応力向上を支援するソーシャル・スキル・トレーニング(SST)97の普及を推進している。また,地域における発達障害児(者)の支援体制と社会参加を促す観点から,市町村や事業所への支援,医療機関との連携や困難ケースへの対応などを行う発達障害者地域支援マネジャーを発達障害者支援センターなどに配置することにより,地域支援機能の強化を図っている。
- 国立障害者リハビリテーションセンターにおける発達障害者地域支援マネジャーを対象とした研修について,従前の基礎的な研修に加え,平成27(2015)年度はより専門的な知見の浸透を目的とする応用研修を実施する。
- 地域生活支援事業における「巡回支援専門員整備」により,発達障害に関して知識を有する専門員が保育所など子供や親が集まる施設・場を巡回し,施設の職員や親に対し障害の早期発見・早期対応のための助言などの支援を行っている。
- 発達障害・重症心身障害児(者)の地域生活支援モデル事業により,発達障害児(者)・重症心身障害児(者)やその家族が地域で安心して暮らしていけるよう,支援手法の開発,関係する分野との協働による支援や切れ目のない支援などを整備し,地域生活支援の向上を図っている。
- 全国の発達障害者支援センターの中央拠点としての役割を担う「発達障害情報・支援センター」98における情報発信や支援手法の普及を図っている(第2-3-3図)。

イ 学校における支援体制の整備(文部科学省)
発達障害の可能性のある子供は通常の学級にも在籍しており,文部科学省は,発達障害を含む障害のある子供への学校における支援体制の整備を推進している(詳細は,前項の「(1)障害のある子供・若者の支援」を参照)。また,平成26(2014)年度から新たに,通常の学級において,発達障害の可能性のある子供を早期に発見し,早期に支援するため,一斉指導における指導方法の改善や,一人一人の教育的ニーズに応じた個別指導の工夫などを行っている。
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所は,以下の取組を行っている。
- 「発達障害教育情報センター」99において,学校の教職員や保護者に対し,厚生労働省とも連携しながら,発達障害に関する正しい理解や支援に関する様々な教育情報,教員研修用の講座をインターネットを通じて提供
- 発達障害のある子供に対する指導・支援に関して指導的な立場にある教職員による研究協議などを通じ,専門的知識と技能を高めるため,発達障害教育指導者研究協議会を開催
(3)障害者に対する就労支援等(厚生労働省,文部科学省)
「障害者の雇用の促進等に関する法律」(昭35法123)は,民間企業などに対し,雇用する労働者の一定割合(障害者雇用率)に相当する数以上の障害者を雇用することを義務づけている(障害者雇用率制度)。平成25(2013)年4月からは,民間企業の障害者の法定雇用率を2.0%(従来1.8%)に引き上げ,更なる障害者雇用の促進を図っている。
厚生労働省は,障害者雇用率の達成に向け,ハローワークなどにおいて厳正な達成指導を実施しているほか,以下の取組を行っている。
- ハローワークが中心となり,地域の福祉施設,特別支援学校,医療機関などの関係機関と連携し,就職から職場定着まで一貫した支援を行う「チーム支援」
- 障害者本人の就労に対する不安や中小企業の障害者雇用に関する不安を解消するため,地域の福祉施設,特別支援学校,医療機関などの関係機関と連携し,職場実習,就労支援セミナー,事業所見学会などの実施(福祉,教育,医療から雇用への移行推進事業)
- 「障害者総合支援法」に基づく,一般就労への移行を支援する「就労移行支援」と,一般就労が困難な者に対して働く場を提供する「就労継続支援」
- 近年急増する精神障害や発達障害がある求職者について,障害特性に応じたきめ細かな就労支援
- 発達障害などによりコミュニケーション能力や対人関係に困難を抱えている若者に対し,「若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラム」において,ハローワークに配置している専門の相談員によるきめ細かな個別相談や支援
- 障害者職業能力開発校(全国19校)において,職業訓練上特別な支援を要する障害者に重点を置きつつ,障害の特性に応じた職業訓練
- 企業,社会福祉法人,特定非営利活動法人,民間教育訓練機関といった地域の多様な委託先を開拓し,就職に必要な知識・技能を習得するための委託訓練
特別支援学校では,子供の障害の状態などに応じ,例えば,コンピュータや情報通信ネットワークを活用して,情報技術や情報処理の能力を育成したり,産業界との連携を図った職場体験の機会を設けたりするなど,時代の進展や社会の変化に対応した職業教育が行われている。特に,企業などにおける現場実習は,子供の勤労観や職業観を育成し,学校生活から社会生活への円滑な移行を進める上で重要な学習活動であることから,積極的に取り組まれている。
3 非行・犯罪に陥った子供・若者の支援等100
(1)総合的取組
ア 関係府省の連携(内閣府,各省庁)
子供や若者による社会の耳目を集める重大な事件の発生が後を絶たないなど,予断を許さない状況となっている。
政府では,非行対策の推進について密接な連絡や情報交換,協議を行うため,子ども・若者育成支援推進本部の下に少年非行対策課長会議を設置し,関係府省が連携して対策の充実強化を図っている101。
また,平成27(2015)年2月に神奈川県川崎市で発生した中学1年生殺害事件を受け,文部科学省では,関係府省庁とも連携し,対応方策を取りまとめ,教育委員会等への周知を行った。(より詳細な内容については,第2部第3章第1節3(10)「いじめ・暴力対策」を参照。)
イ 家庭,学校,地域の連携
非行は,家庭,学校,地域のそれぞれが抱えている問題が複雑に絡み合って発生している。このため,家庭,学校,地域のより一層の緊密な連携の下に,一体的な非行防止と立ち直り支援を推進していく必要がある。
<1> 「サポートチーム」(内閣府,警察庁,法務省,文部科学省)
「サポートチーム」は,多様化,深刻化している少年の問題行動の個々の状況に着目し,的確な支援を行うため,学校,警察,児童相談所,保護観察所といった関係機関がチームを構成し,適切な役割分担の下に連携して対処するものである。関係機関は,日常的なネットワークの構築などを通じて,「サポートチーム」の編成やその活動において緊密な連携を図っている。
警察庁と文部科学省は,サポートチームの効果的な運用を図るため,管区警察局との共催により問題行動に対する連携ブロック協議会を開催し,緊密な連携を図っている。
<2> 学校と警察の連携(警察庁,文部科学省)
子供の非行や校内暴力を防止するためには,学校と警察が密接に連携する必要がある。このため,警察署の管轄区域,市町村の区域等を単位に,全ての都道府県で学校警察連絡協議会が設置されている。平成26(2014)年4月1日現在,全国の小学校,中学校,高校の約97%の参加を得て,約2,700組織の学校警察連絡協議会がある。
また,非行防止や健全育成を図るため,都道府県警察と都道府県教育委員会などとの間で締結した協定や申合せに基づき,非行少年,不良行為少年その他の健全育成上問題を有する子供に関する情報を警察・学校間で通知する「学校・警察連絡制度」が各地で構築されている。
<3> スクールサポーター(警察庁)
警察は,退職した警察官などをスクールサポーターとして警察署などに配置するとともに,学校からの要請に応じて派遣している。スクールサポーターは「警察と学校の橋渡し役」として,学校における子供の問題行動への対応や,巡回活動,相談活動,安全確保に関する助言を行っている。平成26(2014)年4月1日現在,43都道府県に約800人が配置されている。
<4> 更生保護サポートセンター(法務省)
処遇活動,犯罪予防活動を始めとする更生保護の諸活動を一層促進するための拠点である「更生保護サポートセンター」が,平成26(2014)年度現在,全国に計345か所設置されている。「更生保護サポートセンター」には,保護司が駐在して,教育委員会や学校,児童相談所,福祉事務所,社会福祉協議会,警察,ハローワークといった様々な関係機関・団体と協力し,保護観察を受けている人の立ち直り支援や,非行防止セミナー,住民からの非行相談を行っている。
(2)非行防止,相談活動等
ア 非行少年を生まない社会づくり(警察庁)
最近の非行の背景には,従来,少年の規範意識の醸成を担ってきた家庭や地域社会の教育機能の低下,少年自身のコミュニケーション能力の不足,少年がともすれば自分の居場所を見出せず孤立し疎外感を抱いている現状が挙げられる。こうした問題の解決に社会全体で取り組む必要がある。
警察は,「非行少年を生まない社会づくり」の取組を全国的に推進している。具体的には,問題を抱え非行に走る可能性がある少年に対して積極的に連絡して手を差し伸べ,社会奉仕活動への参加促進や就学・就労の支援などにより,その立ち直りを支援する活動を行う「少年に手を差し伸べる立ち直り支援活動」を推進している。特に,少年事件の共犯率が成人事件と比較して高く,不良交友関係が立ち直りの大きな阻害要因となっていることから,少年警察ボランティアなどと連携しながら,不良交友関係の解消や不良交友関係に代わる居場所づくりに努めている。このほか,地域住民などに対する地域の非行情勢などの積極的な情報発信により,非行に関する社会全体の理解を深め,厳しくも温かい目で少年を見守る社会気運の醸成を図っている。(第2-3-4図)

イ 非行防止教室(警察庁,文部科学省,法務省)
警察は,職員の学校への派遣や少年警察ボランティアなどの協力により,非行防止教室を開催している。具体的な非行事例などを題材にして直接少年に語り掛けることにより,少年自身の規範意識の向上を図っている。
文部科学省は,学校,家庭,地域が十分な連携を図り,子供の豊かな人間性や社会性などを育むため道徳教育の充実を図るとともに,関係機関と連携した非行防止教室の開催などにより規範意識を養い,子供の非行防止に努めている。
法務省は,「中学生サポート・アクションプラン」として,中学生の犯罪・非行の未然防止と健全育成を図っている。このプランでは,非行問題に関する豊富な知識や保護観察対象者に対する処遇経験を有する保護司(学校担当保護司)が,直接中学校へ赴き,非行問題や薬物問題をテーマにした非行防止教室を開催したり,問題を抱えた子供への指導方法などについて教師と協議などを行ったりしている。
ウ 多様な活動機会・居場所づくりの推進(警察庁,文部科学省)
(第2部第2章第1節2「多様な活動機会の提供」,第2部第4章第1節3「放課後の居場所やさまざまな活動の場づくり」を参照。)
エ 相談活動(内閣府,警察庁,法務省,文部科学省)
地域住民に身近な市町村を中心に設立されている青少年センター(青少年の育成を図ることを目的とし,相談活動などを行う機関を指す。少年補導センターや青少年育成センターといった名称で活動。)では,相談活動や街頭補導,有害環境の適正化に関する活動が行われている。青少年センターが扱う相談の内容は,非行に関するもののほか,いじめ,不登校,虐待の問題など様々である。
警察は,少年の非行や家出,自殺の未然防止とその兆候の早期発見や犯罪,いじめ,児童虐待などに係る被害少年の保護のための相談窓口を設けている。心理学などの専門知識を有する少年補導職員や非行の取り扱い経験の豊かな警察官などが,少年や保護者からの相談を受け,必要な指導や助言を行っている。ヤングテレホンコーナーといった名称によるフリーダイヤルなどでの電話相談, FAXや電子メールにより,利用しやすい環境の整備に努めている102。平成26(2014)年に警察が受理した相談の件数は,63,770件で,前年に比べ1,355件(2.1%)減少した(第2-3-5表)。相談内容をみると,少年自身からの相談では,交友問題や犯罪被害に関する悩みが多く,保護者からの相談では,家庭や非行の問題に関する悩みが多い(第2-3-6図)。相談後も継続的な指導・助言を必要とするケースは,9,423件で,全体の14.8%を占めている(学校における相談体制については,第2部第2章第3節2(1)「学校における相談体制の充実」を参照)。
区分 | 相談件数 | 性別(件) | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
うち電話相談 | うちメール相談 | ||||||||
相談者別 | 構成比(%) | 構成比(%) | 構成比(%) | 男性 | 女性 | ||||
合計 | 63,770 | 100.0 | 29,736 | 100.0 | 789 | 100.0 | 28,205 | 35,565 | |
少年自身 | 13,435 | 21.1 | 4,527 | 15.2 | 282 | 35.7 | 6,017 | 7,418 | |
未就学 | 16 | 0.0 | 4 | 0.0 | 0 | 0.0 | 8 | 8 | |
小学生 | 766 | 1.2 | 224 | 0.8 | 5 | 0.6 | 387 | 379 | |
中学生 | 3,053 | 4.8 | 881 | 3.0 | 63 | 8.0 | 1,455 | 1,598 | |
高校生 | 5,024 | 7.9 | 1,785 | 6.0 | 107 | 13.6 | 2,193 | 2,831 | |
大学生 | 701 | 1.1 | 228 | 0.8 | 6 | 0.8 | 282 | 419 | |
その他 | 436 | 0.7 | 105 | 0.4 | 7 | 0.9 | 173 | 263 | |
有職少年 | 1,664 | 2.6 | 535 | 1.8 | 10 | 1.3 | 772 | 892 | |
無職少年 | 1,241 | 1.9 | 446 | 1.5 | 5 | 0.6 | 445 | 796 | |
不詳 | 534 | 0.8 | 319 | 1.1 | 79 | 10.0 | 302 | 232 | |
保護者 | 30,845 | 48.4 | 14,297 | 48.1 | 116 | 14.7 | 9,398 | 21,447 | |
その他 | 19,490 | 30.6 | 10,912 | 36.7 | 391 | 49.6 | 12,790 | 6,700 | |
(出典)警察庁調べ |
法務省は,子供の人権問題について,人権擁護委員や法務局・地方法務局の職員による相談対応を行っている。また,少年鑑別所103でも,法務少年支援センターで子供の非行や問題行動に悩む保護者や学校関係者などからの相談に応じており,臨床心理学などを専門とする職員が助言や情報提供を行っている。「更生保護サポートセンター」でも,犯罪予防活動の一環として,保護司が子供の非行や問題行動で悩む親からの相談に応じている。
COLUMN NO.8
法務少年支援センターの地域援助業務について
少年鑑別所は,非行・犯罪に関する問題や,思春期の子供たちの行動理解などに関する知識・ノウハウを活用して,平成27(2015)年6月に施行された少年鑑別所法第131条に基づき,法務少年支援センターとして,児童福祉機関,学校・教育関係機関,NPOなどの民間団体など,青少年の健全育成に携わる関係機関・団体と連携を図りながら,地域における非行・犯罪の防止に関する活動や,健全育成に関する活動の支援などに取り組んでいます。
(1)相談・助言
問題行動などでお困りの事例について,面接や心理検査などを行った上で,どうして問題行動が生じているのか,どのように対応すればよいのかなどについて,情報提供や,助言を行います。
(2)研修会などへの講師派遣,事例検討会への出席
学校や関係機関が主催する研修会,講演会などに,少年鑑別所の職員を派遣し,非行や子育ての問題について分かりやすく説明をしたり,子供に対する教育・指導方法についてコンサルテーションを行ったりしています。
少年院・少年鑑別所の役割や,少年保護手続の流れなどについて,法教育授業や職員研修もお受けしています。
また,関係機関・団体からの依頼に応じて,問題行動のある子供に関する事例検討会などに出席し,見立てや指導方法に関する助言を行います。
御希望がありましたら,どうぞお気軽に,最寄りの少年鑑別所の窓口に御相談下さい。

オ 補導活動(内閣府,警察庁)
少年の非行を防止する上で,問題行動の初期段階での適切な対応が極めて重要である。
警察は,全国に設置された「少年サポートセンター」(第2-3-7図)を中心として,繁華街や公園といった非行が行われやすい場所に重点を置いて日常的に補導活動を実施し,不良行為などの問題行動を早期に発見して,少年自身やその家庭に対する適切な助言や指導に努めている。また,警察が委嘱する少年指導委員や少年補導員,少年警察協助員といった少年警察ボランティアが,補導活動や社会環境の浄化活動などの地域に密着した活動を行っている。
市町村に置かれている青少年センターでも,市町村などから委嘱された少年補導委員による街頭補導や有害環境の適正化の活動が行われている。

カ 事件の捜査・調査
<1> 警察(警察庁)
警察は,非行少年を発見した場合は,必要な捜査や調査を行い,検察官や家庭裁判所,児童相談所といった関係機関へ送致または通告するほか,その少年の保護者に助言を与えるなど,非行少年に対して適切な指導がなされるよう措置している。
- 犯罪少年(14歳以上20歳未満で罪を犯した者)
「刑事訴訟法」(昭23法131)や「少年法」(昭23法168)に規定する手続に従って,必要な捜査を遂げた後,罰金以下の刑に当たる事件は家庭裁判所に,禁錮以上の刑に当たる事件は検察官に送致または送付する。
- 触法少年(14歳未満で刑罰法令に触れる行為をした者)
保護者がいないか保護者に監護させることが不適当と認められる場合には,児童相談所に通告する。その他の場合には,保護者に対して適切な助言を行うなどの措置を講じている。また,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に触れると考えられるなどの場合には,事件を児童相談所長に送致しなければならない。
- ぐ犯少年(20歳未満で一定の事由があって,その性格や環境に照らして,将来,罪を犯し,または刑罰法令に触れる行為をするおそれのある者)
18歳以上20歳未満の場合は,家庭裁判所に送致している。14歳以上18歳未満の場合は,事案の内容や家庭環境から判断して家庭裁判所か児童相談所のいずれかに送致または通告している。14歳未満の場合には児童相談所に通告するか,その非行の防止を図るために特に必要と認められる場合には保護者の同意を得た上で補導を継続的に実施する。
<2> 検察庁(法務省)
検察官は,
- 警察からの送致などを受けて必要な捜査を行い,犯罪の嫌疑があると認めたときは,事件を家庭裁判所に送致する。犯罪の嫌疑がなくとも,ぐ犯などの事由がある場合には,同様に事件を家庭裁判所に送致している。その際,少年に刑罰を科すのが相当か,保護観察や少年院送致といった保護処分に付すのが相当かなど,処遇に関する意見を付している。
- 家庭裁判所から少年審判に関与すべき旨の決定があった場合に,これに関与し,裁判所の事実認定を補助している。
- 家庭裁判所から刑事処分相当として検察官に送致された少年については,原則として公訴を提起している。
検察官が十分な捜査を行い事案を解明した上で適切な処理をすることは,少年犯罪に対する最も基本的で重要な対策であり,今後も一層充実させることとしている。
キ 非行集団対策(警察庁)
ひったくりや路上強盗といった街頭犯罪は,その検挙人員の約5割が少年である。暴走族や非行少年グループといった非行集団によって敢行される各種の犯罪は,我が国の治安にとって看過できないものとなっている。非行集団は,暴走行為や集団的暴行事件などの集団的な違法行為を敢行するだけでなく,所属する少年が,特殊詐欺を始めとした各種の犯罪を敢行するきっかけを作りだしていることが少なくない。
警察は,少年部門,交通部門,刑事部門の連携を強化して,非行集団の実態把握を徹底し,
- 非行集団やその予備軍となる非行少年などを,各種法令を活用して徹底的に取り締まることによる,非行集団の弱体化と解体
- 少年の非行集団及び暴力団への加入阻止や離脱支援
- 車両の不正改造防止対策などの総合的な暴走族対策の推進や,暴走族追放条例制定の促進など暴走族を許さない社会環境づくり
などの取組を推進している。
(3)薬物乱用防止(内閣府,警察庁,法務省,文部科学省,厚生労働省)
政府では,犯罪対策閣僚会議の下に設置された薬物乱用対策推進会議において,危険ドラッグなどの新たな乱用薬物への対応や薬物の再乱用防止対策の強化などを特に留意すべき課題として掲げた「第四次薬物乱用防止五か年戦略」(平成25年8月)104及び危険ドラッグの乱用者が犯罪や交通死亡事故を引き起こすなど,深刻な社会問題となっていることから策定された「危険ドラッグの乱用の根絶のための緊急対策」105(平成26年7月)に基づき,関係府省庁が連携して,危険ドラッグを始めとする薬物乱用の根絶に向けた総合的な対策を推進している。
警察は,危険ドラッグを含む最近の薬物犯罪情勢や政府全体の薬物対策の取組強化を踏まえ,薬物密輸・密売組織の実態解明及びその壊滅に向けた取締り,関係機関との連携による水際対策の強化などにより,薬物供給を遮断するとともに,規制薬物や指定薬物の乱用者の徹底検挙,子供に対する薬物乱用防止教室,大学生や新社会人に対する薬物乱用防止講習会などを行い,薬物需要の根絶を図っている。
法務省は,少年院において,薬物に対する依存のある者を対象に,薬物非行防止指導を実施している。特に指導の必要性が高い者については,重点指導施設において,集中的な指導を実施している。また,教育内容・方法を充実させ,職員の指導技術を向上させるという観点から,家庭裁判所などの関係機関の職員を招へいし,研究授業を実施するとともに,薬物依存から離脱するための効果的な指導方法について検討を行っている。刑事施設では,麻薬や覚醒剤などの薬物に対する依存がある受刑者を対象に,薬物依存離脱指導106を実施している。保護観察所では,保護観察に付されている者に対し,自発的意思に基づく簡易薬物検出検査を実施するとともに,一定の条件を満たした者に対して認知行動療法などに基づく薬物処遇プログラムを実施している。また,再犯防止・社会復帰支援をより一層強化するため,地域の医療・保健・福祉機関や民間支援団体との連携の強化,施設内処遇との一貫性を考慮した処遇の充実に努めている。
文部科学省は,薬物乱用防止教育の充実を図るため,厚生労働省や警察庁と連携して,小学校,中学校,高校において薬物乱用防止教室を開催している。また,厚生労働省と連携して,薬物についての有害性・違法性に関する正しい知識の周知に努めるとともに,小学生から大学生などに向けて,広く薬物乱用防止に係る啓発資料を作成し,配布している。
厚生労働省は,以下の取組を行っている。
- 子供や若者の乱用薬物の入手先となっている,インターネットを利用した密売事犯や外国人による密売事犯などに対する取締りの強化
- 地域における薬物乱用防止・薬物依存症に関する相談体制の充実
- 医療機関による対応の充実
- 再乱用防止対策として,都道府県と協力した薬物依存症の正しい知識の普及や,保健所・精神保健福祉センターにおける薬物相談窓口における薬物依存症者やその家族に対する相談事業・家族教室の実施
- 危険ドラッグを使用した者が二次的犯罪や健康被害を起こす事例が多発していることから,指定薬物に指定される際など機会をとらえて,危険ドラッグに関するポスターの作成・配布,麻薬・覚醒剤乱用防止運動などにおける啓発実施の徹底,関係機関などとも連携した広報啓発の実施,情報を一元的に収集・提供するための「あやしいヤクブツ連絡ネット」の運用
- 危険ドラッグの指定薬物への迅速な指定
- 指定薬物である疑いのある物品などについて,検査命令及び販売等停止命令を実施
- 危険ドラッグのインターネット販売店について,プロバイダなどに対して削除要請の実施
(4)少年審判
家庭裁判所は,非行少年に対する調査・審判を行い,非行があると認めるときは,教育的な働き掛けも行いながら,少年が非行に至った原因などを検討し,その少年にとって最も適切と考えられる処分を決定する。保護処分には,保護観察,児童自立支援施設等送致及び少年院送致の三種類があり,審判を開いたり保護処分に付したりする必要がない場合などには,審判不開始や不処分にすることもある。犯行時に14歳以上の者に係る禁錮以上の刑に当たる罪の事件について刑事処分を相当と認めるときは,検察官に送致する(第2-3-8図)。

ア 受理の状況(最高裁判所)
平成26(2014)年における少年保護事件の全国の家庭裁判所での新規受理人員は,107,479人であった。内訳をみると,窃盗(30.6%),道路交通保護事件(20.1%),過失運転致死傷等(19.1%)が多い。近年,少年保護事件の新規受理人員は減少傾向が続いており,平成26年は前年と比較して13,805人(11.4%減)減少した(第2-3-9図)。
イ 処理の状況(最高裁判所)
平成26(2014)年における少年保護事件の既済人員は110,430人で,このうち一般事件(交通関係事件を除く少年保護事件。以下同じ。)が67,548人(全体に占める割合61.2%),交通関係事件((無免許)過失運転致死傷,(無免許)過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱,業務上(重・自動車運転)過失致死傷,(無免許)危険運転致死傷及び道路交通保護事件。以下同じ。)が42,882人(同38.8%)となっている。終局決定別にみると,審判不開始が43.6%と最も多く,次いで保護処分が20.7%となっている(第2-3-10図)。
<1> 保護処分
保護処分に付された者は22,887人で,その内訳は,一般事件が13,266人(58.0%),交通関係事件が9,621人(42.0%)である。前年と比較し,1,506人(6.2%減)減少している。
- 保護観察
保護観察に付された少年は19,750人で,その内訳は,一般事件が10,389人(52.6%),交通関係事件が9,361人(47.4%)である。前年と比較し1,194人(5.7%減)減少している。交通関係事件のうち6,594人(70.4%)は交通短期保護観察に付されたものである。
- 児童自立支援施設等送致107
児童自立支援施設や児童養護施設に送致された者は225人である。
- 少年院送致
少年院送致となった者は2,912人で,その内訳は,一般事件が2,652人(91.1%),交通関係事件が260人(8.9%)と,一般事件が多くを占める。前年と比較して,一般事件は273人(9.3%減),交通関係事件は28人(9.7%減)減少している。
<2> 検察官送致
刑事処分が相当であるとして検察官送致となった者は2,757人で,その多くを交通関係事件が占める(2,631人(95.4%))。前年と比較して314人(10.2%減)減少している。
<3> 児童相談所長等送致108
知事や児童相談所長に送致された者は,163人である。
<4> 審判不開始,不処分109
裁判官や家庭裁判所調査官は,調査や審判の段階で,少年の問題性を見極めた上で,以下のような再非行防止に向けた働き掛けをしている。
- 非行の内容を振り返らせ,被害の実情を伝えるなどする中で必要な助言・指導を行い,反省を深めさせる
- 学校などと連絡を取って生活態度や交友関係の改善に向けた協力態勢を築く
- 「犯罪被害を考える講習」や地域の清掃といった社会奉仕活動への参加を促す
また,再非行を防止するために家族が果たす役割が大きいことから,少年の非行に家族関係が及ぼしている影響を見極めた上で,問題解決に向けて家族関係の調整を行ったり,子供と保護者に社会奉仕活動への参加を促したりするなどの働き掛けを行っている。ほかにも,保護者会を実施して保護者の気持ちや経験を語り合う場を設けることにより,保護者の子供に対する指導力を高めたり,保護者が自らの養育態度を見つめ直し,監護者としての責任を自覚するように働き掛けたりしている。このような働き掛けも行った上で,その少年について審判を開いたり保護処分に付したりする必要がないと考える場合には,審判不開始や不処分とすることがある。
(5)被害者への配慮
ア 被害者への情報提供などの様々な制度や取組(警察庁,法務省,最高裁判所)
警察は,被疑少年の健やかな育成に留意しつつ,捜査上の支障のない範囲内で,被害者などの要望に応じて,捜査状況などに関する情報を可能な限り被害者などに提供するように努めている。
法務省は,
- 全国の検察庁において,少年事件の被害者を含む全ての被害者やその親族の心情などに配慮するという観点から,被害者に,事件の処理結果などの情報を提供している。
- 少年院,地方更生保護委員会,保護観察所において,加害少年の健全な育成に留意しつつ,被害者の希望に応じて,少年院送致処分や保護観察処分を受けた加害少年に関し,少年院での処遇状況に関する事項や仮退院審理に関する事項,保護観察の開始・終了や保護観察中の処遇状況に関する事項を通知している。
- 検察庁,地方更生保護委員会,保護観察所において,被害者の希望に応じて,刑事処分となった加害少年に関し,事件の処理結果や,裁判結果,受刑中の処遇状況に関する事項,仮釈放審理に関する事項,保護観察の開始・終了や保護観察中の処遇状況に関する事項を通知している。
- 「更生保護法」(平19法88)に基づき,地方更生保護委員会が,少年院からの仮退院の審理や刑事処分となった少年の仮釈放の審理において被害者の意見などを聴取する制度と,保護観察所が被害者の心情などを保護観察中の加害少年に伝達する制度を実施している(第2-3-11図)。

家庭裁判所は,
- 「少年法」に基づく,一定の重大事件の被害者による少年審判の傍聴や,被害者に対する審判状況の説明といった被害者のための制度110の適切な運用に努めている。
- 調査や審判の段階で,被害者の心情などに十分配慮しながら,被害者から話を聞くなどして被害の実情や被害感情の把握に努め,被害者の声を少年審判手続に反映するよう努めている。
イ 被害者の心情を踏まえた適切な加害者処遇(法務省)
近年,刑事司法の分野において,被害者やその親族の心情などについて,一層の配慮を行うことが求められるようになってきている。
少年院や少年刑務所等では,「被害者の視点を取り入れた教育」が意図的・計画的に実施されるよう,矯正教育や改善指導の充実に努めている。この教育により,自分の犯した罪と向き合い,犯した罪の大きさや被害者の心情などを認識し,被害者に誠意をもって対応していくとともに,再び罪を犯さない決意を固めさせるための働き掛けを行っている。
保護観察でも,個々の事案の状況に応じ,その処遇過程において,少年が自らの犯罪と向き合い,犯した罪の大きさや被害者の心情などを認識し,被害者に対して誠意をもって対応していくことができるようになるための助言指導を行っている。また,被害者を死亡させたり,その身体に重大な傷害を負わせたりした事件により保護観察に付された少年に対しては,犯した罪の重さや被害者の実情などを認識させながら被害者に対する謝罪の気持ちをかん養し,具体的なしょく罪計画を策定させるしょく罪指導を実施している。
(6)少年鑑別所(法務省)
少年鑑別所は,<1>家庭裁判所等の求めに応じ,鑑別対象者の鑑別111を行うこと,<2>観護の措置が執られて少年鑑別所に収容される者などに対し,必要な観護処遇を行うこと,<3>地域社会における非行及び犯罪の防止に関する援助を行うことを業務とする法務省所管の施設である。観護措置による収容期間は,原則として2週間以内であり,特に必要のあるときは,家庭裁判所の決定により,期間が更新(延長)されることがある(最長8週間)。鑑別の結果は,鑑別結果通知書として家庭裁判所に送付されて審判の資料となるほか,保護処分が決定された場合には,少年院,保護観察所に送付され,処遇の参考にされる。また,少年鑑別所の在所者については,心身の発達途上にあり,その健全な育成に配慮することが重要と考えられることから,在所者の自主性を尊重しつつ,情操を豊かにし,健全な社会生活を営むために必要な知識及び能力を向上させるための支援を実施している。
法務省は,少年鑑別所における鑑別・観護処遇,地域の非行防止のための相談活動の充実を図っている。特に,平成25(2013)年度から導入した,再非行の可能性及び教育上の必要性を定量的に把握する「法務省式ケースアセスメントツール(MJCA)」を効果的に活用し,再非行防止に資する鑑別の充実に取り組んでいる。
(7)少年院・児童自立支援施設等
ア 少年院・少年刑務所等(法務省)
少年院は,家庭裁判所において少年院送致の保護処分に付された者と,16歳に達するまでの間に刑の執行を受ける者を収容し,矯正教育その他の在院者の健全な育成に資する処遇を行う施設である112。矯正教育は,少年の特性に応じ,生活指導,職業指導,教科指導,体育指導,特別活動指導を組み合わせて行うものであり,少年の特性に応じた矯正教育の目標,内容,期間や実施方法を具体的に定めた個人別矯正教育計画を作成し,きめ細かく行われている。
懲役や禁錮の実刑の言渡しを受けた少年は,刑執行のため,主に少年刑務所等に収容される。少年刑務所等は,一人一人に個別担任を指定して面接や日記指導といった個別的な指導を行うなど,心身が発達段階にあり可塑性に富む少年受刑者の特性に応じた矯正処遇を,各少年の資質と環境の調査の結果に基づいて実施している。
イ 児童自立支援施設(厚生労働省)
児童自立支援施設113は,不良行為を行った子供,行うおそれのある子供に対して,その自立を支援することを目的として,一人ひとりの状況に応じ,生活指導,学習指導,職業指導,家庭環境の調整を行う施設である。
厚生労働省は,児童自立支援施設運営指針114などにより,児童自立支援施設の質の確保と向上を図っている。
(8)更生保護,自立・立ち直り支援(法務省)
ア 少年院からの仮退院,少年刑務所等からの仮釈放
少年院からの仮退院と少年刑務所等からの仮釈放とは,収容されている者を,法律や判決,決定によって定められている収容期間の満了前に仮に釈放し,その円滑な社会復帰を促す措置である。少年院からの仮退院と少年刑務所等からの仮釈放を許された者は,収容期間が満了するまでの間,保護観察を受ける。平成25(2013)年における少年院仮退院者は,全出院者の99.7%に当たる3,428人であった。
保護観察所は,少年院からの仮退院と少年刑務所等からの仮釈放に先立って,出院・出所後の少年を取り巻く生活環境(家庭,職場,交友関係など)が,その改善更生を促す上で適切なものとなるよう,引受人などとの人間関係や出院・出所後の職業などについて調整を行い,受入体制の整備を図っている。
イ 保護観察
保護観察は,非行・犯罪に陥った少年に,社会生活を営ませながら,その改善更生を図る上で必要な生活行動に関する一定の事項(遵守事項と生活行動指針)を守って健全な生活をするよう指導監督するとともに,自助の責任を踏まえつつ,就学や就職などについて補導援護することにより,少年の改善更生を促すものである115。保護観察官と民間篤志家である保護司とが協働して,その実施に当たっている。平成25(2013)年に保護観察所が新たに開始した保護観察事件数の57.6%に当たる24,239件が,家庭裁判所の決定により保護観察に付された少年や地方更生保護委員会の決定により少年院からの仮退院を許された少年の事件であった。保護観察処分少年及び少年院仮退院者について,平成25年における保護観察開始人員の非行名別構成比を男女別にみると,保護観察処分少年は,男女ともに,窃盗,傷害,道路交通法違反の順に高く,男子の少年院仮退院者は,窃盗,傷害,強盗の順に高く,女子の少年院仮退院者は,傷害,窃盗,覚せい剤取締法違反の順に高い。
複雑かつ困難な問題を抱えた少年に対しては,保護観察官による直接的関与の程度を強めるなどにより,重点的な働き掛けを行っている。また,少年の持つ問題性やその他の特性を類型化し,各類型に焦点を当てた処遇を実施している。
北海道雨竜郡沼田町の「沼田町就業支援センター」では,主に少年院を仮退院した少年を対象とし,旭川保護観察所沼田駐在官事務所に併設された宿泊施設に居住させ,濃密な保護観察を実施するとともに,同町が運営する農場で農業実習を受けさせ,改善更生の促進を図っている116(第2-3-12図)。

ウ 処遇全般の充実・多様化
<1> 関係機関の連携
非行の深刻化に対処するため,少年のプライバシーなどとの調整を図りながら,関係機関が情報を共有し,各機関のなすべき役割を果たしていく必要がある。
法務省は,以下の取組により,保護処分の適正かつ円滑な執行を図っている。
- 全国の少年院において,家庭裁判所,地方更生保護委員会,保護観察所,少年鑑別所といった関係機関の担当者が一堂に会し,在院者の少年院入院後の処遇経過や今後の処遇方針,保護関係調整について検討を行う処遇ケース検討会を実施
- 家庭裁判所,少年鑑別所,少年院,地方更生保護委員会,保護観察所において,少年院や保護観察における効果的な処遇と連携の在り方を検討するため,定期的に協議会を開催
- 処遇機関において,必要に応じ,学校,警察,福祉施設の職員とも個別事例の検討を実施
<2> 社会参加活動や社会貢献活動による改善更生の取組
保護観察所は,社会性に乏しい少年を社会体験的な活動に参加させることにより,その健全育成を図る社会参加活動を実施している。また,平成25(2013)年6月に公布された「刑法等の一部を改正する法律」(平25法49)により,「更生保護法」に基づく保護観察の特別遵守事項の類型の一つに,社会貢献活動に関する規定が加えられた。これは,少年や若者を中心とする保護観察対象者が,福祉施設での介護補助活動や公共の場所での清掃活動など社会に役立つ活動を行い,他人から感謝されることや周囲と協力しつつ任された役割をやり遂げることにより,自己有用感や社会性,規範意識の向上を図るためのものである。保護観察所では,平成23年度から活動場所の確保や活動のノウハウを蓄積することなどを目的として,本人の同意を得た上で,関係機関・団体の協力の下,各地で社会貢献活動を先行実施している。上記規定の施行後においては,先行実施を通じて得た知見などを活用し,一層多様で効果的な活動の実施に努めていく。
COLUMN NO.9
更生保護における社会貢献活動
犯罪をした人や非行のある少年のうち,多くの者に共通する傾向として,「どうせ頑張っても無駄だ」「自分など誰の役にも立たない」といった諦めの気持ちや自信のなさがあり,これらは,犯罪や非行から立ち直り,一人の社会人として自立していく上で克服しなくてはならない大きな課題の一つである。ここでは,こうした課題を克服するために,保護観察に付された少年等に対して保護観察所が行っている取組の一つである社会貢献活動について紹介する。
1 概要
社会貢献活動とは,社会の役に立つ活動を行い,他人から感謝されることなどを通じて,達成感(「自分もやればできるんだ」)や自己有用感(「自分も人の役に立てるんだ」)を獲得させ,その立ち直りを促し,再犯・再非行の防止を図る取組である。
活動の内容としては,例えば,公園や海岸といった公共の場所での環境美化活動や,福祉施設での車椅子や遊具の清掃,介護・レクリエーションの補助といった活動が実施されている。

2 参加者の反応
参加した少年等からは,「他にもこうした活動があれば参加したいと思った」「まだまだ自分は甘い考えだったんだなと気付いた」「自分でも人の役に立てることが分かった」「お年寄りの方が『また来てね』と言ってくれて,うれしかった」など,活動を通して,自分の新たな一面を見出したり,人の役に立つことのうれしさや他者に配慮することの大切さに気付いたりしたという感想が寄せられている。
3 活動をより充実させるために
社会貢献活動を実施するためには,活動場所の提供を始め,活動中の保護観察対象者に対する助言や励ましをいただいたり,あるいは一緒に活動していただいたりするなど,地域の様々な機関や法人,ボランティア団体その他の方々の協力が不可欠である。
保護観察の特別遵守事項の類型の一つとして社会貢献活動を設定することを可能とする改正更生保護法の施行後も,より多様な活動場所を確保し,一層効果の高い活動を実施するため,社会貢献活動に対する地域の方々の理解と協力がこれまで以上に得られるよう,積極的な広報活動や,活動場所を提供していただく機関・団体等が感じる不安の低減等に努めていく。
<3> 民間ボランティア・施設・団体等との連携
(第2部第4章第3節2「地域における多様な担い手の育成」を参照。)
(9)非行少年に対する就労支援等(法務省,厚生労働省)
少年院や少年刑務所等は,処遇の一環として,就労に対する心構えを身に付けさせ,就労意欲を喚起し,各種の資格取得を奨励している。また,ハローワークなどとの連携による職業講話,職業相談,職業紹介,求人情報の提供といった就労支援を実施している(第2-3-13図)。

保護観察所は,矯正施設や家族,学校と協力し,出院・出所後の少年の就労先の調整・確保に努めている。保護観察中の無職少年に対しては,その処遇過程において,就労意欲がない原因や意欲があっても就労できない理由,就労しても継続しない理由など,不就労の原因となっている問題点の把握に努め,その解消を図るための助言指導を行っている。平成26(2014)年度から本格実施してきた「更生保護就労支援事業」(一部の保護観察所が民間法人に委託し,矯正施設在院・在所中から就労に至るまでの,専門家による継続したきめ細やかな支援を実施するもの)について,平成27(2015)年度から実施庁を拡大する予定である(第2-3-14図)。さらに,協力雇用主117に対する支援の強化として,平成27年度から「就労・職場定着奨励金」及び「就労継続奨励金」を導入する予定であるほか,引き続き,出院・出所後の若者の雇用に理解を示すソーシャルファーム(労働市場で不利な立場にある人々のための雇用機会の創出・提供に主眼を置いてビジネス展開を図る企業・団体など)の開拓・確保に努めていく。

ハローワークは,少年院や少年刑務所等,保護観察所と連携して,出院・出所予定者や保護観察に付された少年を対象とした職業相談,職業紹介,セミナー・事業所見学会,職場体験講習,トライアル雇用といった就労支援を推進している。また,就労後の相談,問題点の把握,問題解決のための助言など,就労継続のための支援を行っている。
厚生労働省は,施設などを退所したが社会的自立が十分ではない若者に対し,日常生活上の援助や就業支援を行う「自立援助ホーム」(児童自立生活援助事業)の充実に努めている(第2部第3章第2節2(4)「施設退所児童の自立支援策の推進」も参照)。
(10)いじめ・暴力対策(警察庁,文部科学省)
いじめ,暴力行為といった子供の問題行動は依然として相当数に上っており,教育上の大きな課題となっている。
文部科学省は,都道府県・指定都市教育委員会や学校に対して,
- 問題行動が起こったときには,粘り強い指導を行い,なお改善が見られない場合には,出席停止や懲戒などの措置も含めた毅然とした対応をとること
- 問題行動の中でも特に校内傷害事件を始め,犯罪行為の可能性がある場合には,学校だけで抱え込むことなく,直ちに警察に通報し,その協力を得て対応すること
- いじめが犯罪行為として取り扱われるべきと認められるときは,学校はためらうことなく早期に警察に相談し,警察と連携した対応を取ること,また,いじめられている子供の生命や身体の安全が脅かされているような場合には直ちに警察に通報すること
などを求めており,引き続き,都道府県などの関係者を集めた会議や研修会などの場を通じ,周知徹底を図っていく。
警察は,少年相談活動やスクールサポーターの学校への訪問活動などにより,いじめの早期把握に努めるとともに,把握したいじめの重大性や緊急性,被害を受けた子供やその保護者などの意向,学校などの対応状況などを踏まえ,学校などと緊密に連携しながら,的確な対応を推進している。警察庁は,「いじめ防止対策推進法」(平25法71)の施行に伴い,都道府県警察に対し平成25(2013)年9月に発出した「いじめ防止対策推進法の施行について」(通達)118,及び10月に発出した「いじめ防止基本方針の策定について」(通達)に基づき,学校におけるいじめ問題への的確な対応を一層推進している。また,校内暴力についても,学校などとの情報交換により,早期把握に努め,悪質な事案に対し厳正に対処するなど,内容に応じた適切な措置と再発の防止に努めている。
(その他のいじめに関する取組については,第2部第3章第2節5「いじめ被害,自殺対策」を参照)
また,平成27(2015)年2月に神奈川県川崎市で発生した中学1年生殺害事件を受け,文部科学省では,関係府省庁とも連携し,生命・身体に重大な被害が生じるおそれのある児童生徒に対する早期対応の指針を策定するとともに,<1>学校や教育委員会における組織的な対応,<2>警察を始めとする関係機関との連携,<3>課題を抱える家庭への支援の充実,<4>子供のSOSを受け止める取組の充実等を進めるよう全国の教育委員会等に要請した。
4 子供の貧困問題への対応
(1)「子どもの貧困対策の推進に関する法律」などの施行(内閣府,文部科学省,厚生労働省)
近年,稼得年齢層を含む生活保護受給者が増加している。非正規雇用労働者や年収200万円以下の世帯など,生活困窮に至るおそれの高い層が増加している。生活保護受給世帯のうち約25%の世帯主が出身世帯においても生活保護を受給していたというある地方公共団体の調査結果にもみられるように,いわゆる「貧困の連鎖」も生じている。
こうした状況を踏まえ,平成25(2013)年6月に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」(平25法64。以下「子どもの貧困対策推進法」という。)が,同年12月に「生活保護法の一部を改正する法律」(平25法104)と「生活困窮者自立支援法」(平25法105)が成立した。
「子どもの貧困対策推進法」は,平成26(2014)年1月17日に施行された。この法律は,子供の将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう,貧困の状況にある子供が健やかに育成される環境を整備するとともに,教育の機会均等を図るため,子供の貧困対策を総合的に推進することを目的としている。(第2-3-15図)。

(2)「子供の貧困対策に関する大綱」の策定(内閣府,文部科学省,厚生労働省)
「子どもの貧困対策推進法」第8条では,「政府は,子どもの貧困対策を総合的に推進するため,子どもの貧困対策に関する大綱を定めなければならない」とされている。これを踏まえ,政府は,「子どもの貧困対策推進法」に基づき設置された「子どもの貧困対策会議」(会長:内閣総理大臣)の第1回の会合(平成26(2014)年4月)において「大綱案の作成方針」を決定するとともに,大綱案の作成に当たっては,内閣府特命担当大臣の下で,有識者や貧困の状況にある当事者等の意見を聴取する場(「子どもの貧困対策に関する検討会」を指す。以下,「検討会」という。)を設けることとした。検討会は同年6月までに計4回の会合を開催し,検討会での議論を大綱案に盛り込むべき事項として取りまとめ,内閣府特命担当大臣に手交した。政府では,検討会での意見の取りまとめやその後実施したパブリックコメントによる幅広い意見を踏まえ,同年8月に開催した「子どもの貧困対策会議」(第2回)において大綱案を正式決定し,同日の閣議により「子供の貧困対策に関する大綱」を閣議決定した(第2-3-16図)。
同大綱には,10の基本的な方針のほか,25の子供の貧困に関する指標が掲げられ,その指標の改善に向けた重点施策として教育の支援,生活の支援,保護者に対する就労の支援,経済的支援や調査研究,施策の推進体制等に関する各施策が盛り込まれた。

(3)経済的困難を抱える家族への支援(文部科学省,厚生労働省)
(第2部第2章第1節5「経済的支援の充実」を参照。)
(4)学校をプラットフォームとした総合的な子供の貧困対策の推進(文部科学省)
全ての子供が集う場である学校を,子供の貧困対策のプラットフォームとして位置付け,子供の貧困問題を早期に発見し,教育と福祉・就労との組織的な連携,学校における確実な学力保障・進路支援,地域による学習支援を行うことにより,貧困の連鎖を断ち切ることが重要である。
文部科学省では,福祉の専門家であるスクールソーシャルワーカーの配置を推進しており,平成27(2015)年度においては,1,466人から2,447人に増加することとしている。また,学校支援地域本部を活用し,家庭での学習習慣が十分に身についていない中学生などを対象に,大学生や元教員などの地域住民の協力による原則無料の学習支援(地域未来塾)を平成27年度から新たに2,000中学校区で実施することとしている。
COLUMN NO.10
「子供の未来応援国民運動」発起人集会
平成27年4月2日,子供の貧困対策を,国民の幅広い理解と協力の下に「子供の未来応援国民運動」として展開していくため,関係各界からの発起人が一堂に会したキックオフイベント「『子供の未来応援国民運動』発起人集会」が開催された。
政府からは,安倍内閣総理大臣,有村内閣府特命担当大臣,下村文部科学大臣,塩崎厚生労働大臣等が出席したほか,地方公共団体,経済界,労働組合,マスコミ,支援団体等から成る発起人が参画し,子供たちへのエールが送られた。
この中で,安倍内閣総理大臣からは,「子供の貧困は,頑張れば報われるという真っ当な社会の根幹に関わる問題です。子供たちの未来が家庭の経済事情によって左右されることがないよう,社会を挙げて取り組んでいきたいと思います。」「誰にでもチャンスのある,活力に満ちた,優しい,そして明るい,強い日本を作っていこうではありませんか。」との呼びかけが行われた。
その後,国民運動事業の例などを盛り込んだ「子供の未来応援国民運動趣意書」が採択され,今後の国民運動の方向性が示された。
発起人集会の後半には,有村内閣府特命担当大臣,赤澤内閣府副大臣,越智内閣府大臣政務官等も出席し,大学生ボランティアによる子供への学習支援や,従業員の2割が母子家庭の母親であり全社員を正社員として雇用している企業のひとり親家庭に対する就労支援など,具体的な支援の事例が紹介された。

(5)ひとり親家庭への支援(厚生労働省)
第1部でみたとおり,子供がいる現役世帯のうち,ひとり親家庭が特に経済的に困窮しているという実態がうかがえる。
厚生労働省は,「母子及び父子並びに寡婦福祉法」(昭39法129)などに基づき,子育て・生活支援策(保育所の優先入所など),就業支援策(知識技能の習得に係る給付金の支給など),養育費の確保策(養育費・面会交流相談支援センターの設置など),経済的支援策(児童扶養手当の支給など)といった総合的な自立支援策を展開している119。また,平成25(2013)年3月から施行された「母子家庭の母及び父子家庭の父の就業の支援に関する特別措置法」(平24法92)により,母子家庭の母と父子家庭の父の就業支援に関する施策の充実や民間事業者に対する協力の要請を行っている。なお,平成26(2014)年4月16日に成立した「時代の社会を担う子どもの健全な育成を図るための次世代育成支援対策推進法等の一部を改正する法律」(平26法28)により,平成26年10月に「母子及び寡婦福祉法」の法律名が「母子及び父子並びに寡婦福祉法」に改称されるとともに,新たに父子家庭を対象とした福祉資金貸付制度が創設されたほか,高等職業訓練促進給付金・自立支援教育訓練給付金が法律に位置付けられ,公課禁止,差押え禁止とされた。あわせて,同年12月より,児童扶養手当と公的年金との併給制限が見直され,公的年金の額が児童扶養手当の額を下回る場合は,その差額分の手当を支給できることとされた。

(6)世代を超えた貧困の連鎖の防止(厚生労働省)
平成27(2015)年4月1日に施行された「生活困窮者自立支援法」に基づき,生活保護受給世帯の子供を含む生活困窮家庭の子供に対する学習支援事業が制度化され,貧困の連鎖の防止のための取組が強化される。この制度化により,居場所づくりを含む学習支援の実施や,中退防止のための支援を含む進路相談,親に対する養育支援など,各自治体において地域の実情に応じ,創意工夫をこらし事業が実施されることとなる。
(7)状況把握(厚生労働省)
厚生労働省は,国民生活基礎調査により子供の相対的貧困率を把握している(第1部第3章第3節「子供の貧困」を参照)。
5 困難を有する子供・若者の居場所づくり
(非行少年の立ち直り支援については第2部第3章第1節3「非行・犯罪に陥った子供・若者の支援等」を,要保護児童の居場所づくりとグループホームなどの居場所づくりについては第2部第3章第2節2「社会的養護の充実」を,それぞれ参照。)
6 外国人等特に配慮が必要な子供・若者の支援
(1)「日系定住外国人施策の推進について」に沿った施策の推進(内閣府)
政府では,「日系定住外国人施策の推進について」(平成26年3月)に基づき,「日本語能力が不十分である者が多い日系定住外国人を日本社会の一員としてしっかりと受け入れ,社会から排除されないようにする」ことを施策の基本的な考え方として,関係府省の連携の下,日本語学習,子供の教育,就労,社会生活などの分野に関して各種の施策を推進している120。
(2)外国人の子供の教育の充実等(内閣府,文部科学省)
外国人には就学義務が課されていないが,その保護する子を公立の義務教育諸学校に就学させることを希望する場合には,国際人権規約や児童の権利条約に基づき,無償で受け入れている。これにより,教科書の無償配布や就学援助を含め,日本人と同一の教育を受ける機会を保障している。
文部科学省は,外国人の子供の公立学校への受入れに当たって,以下の取組を行っている121。
- 日本語指導を含む個別の課題解決のために,都道府県からの申請に応じて配当する教職員の加配定数を措置
- 日本語指導者などに対する実践的な研修
- 教員を中心とする関係者が外国人の子供に対し適応指導や日本語指導を行える環境作りを支援するための,「日本語能力測定方法」や「研修マニュアル」の活用
- 帰国・外国人の子供の受入促進や,日本語指導の充実,支援体制の整備に関する地方公共団体の取組を支援する補助事業
- 不就学となっている外国人の子供を対象に,公立学校や外国人学校などへの就学に必要な支援を学校外において実施する地方公共団体の取組を支援する補助事業の実施
- 日本語指導が必要な子供を対象とした「特別の教育課程」を編成・実施することができるよう,学校教育法施行規則の一部を改正し,平成26(2014)年4月から施行
COLUMN NO.11
ブラジルから来た先生~愛知県豊田市立保見中学校教諭 伊木ロドリゴ さん~
日本に定住している外国人の子供に対する教育の充実は,「子ども・若者育成支援推進大綱」にも盛り込まれている重要な施策の一つである。
自動車産業が集積する東海地方には,多くの日系定住外国人が家族を伴って暮らしており,その子供たちの多くが地域の義務教育諸学校で学んでいる。
そうした学校の一つである愛知県豊田市立保見中学校に,「ロド先生」と呼ばれる日系ブラジル人の伊木(いき)ロドリゴさんが正規の教諭として勤務している。ロド先生は10歳で家族とともに来日,幼少時に周囲から心無いいじめを受けたり,白血病にり患して療養生活を送るなどしたが,そうした大きな苦難を乗り越え,日本語を猛勉強して日本の公立大学へ進学。教員免許を取得し,日系ブラジル人で愛知県初の公立中学校教諭となった。
これまでに多くの日系定住外国人の子供たちを指導してきたロド先生は,彼らが思うような進路に進めない背景に基礎学力や日本語能力が十分に身に付けられない実情があると指摘し,周囲の温かな理解と期待,そして適切な支援が何より必要であり,また,子供に比べ日本語の習得に時間を要する外国人の親にも子供の教育に関心を持とうにも言葉の壁に阻まれている現状があり,同様に適切な支援が必要という。
日系定住外国人の生徒たちの多くは,ロド先生が数々の困難を経験し,乗り越えてきたその姿をみて,「何事も諦めてはいけない」と感じている。ロド先生の奮闘を道しるべとして,ロド先生に続く子供たちの今後の頑張りに期待したい。

(3)定住外国人の若者の就職の促進等(内閣府,厚生労働省)
日系人などの外国人集住地域のハローワークでは,日系人を始めとする定住外国人の若者の就職を促進するため,就業支援ガイダンスを実施するとともに,ガイダンス出席者を対象とした職業意識啓発指導や職業指導といった個別の就職支援を実施している。また,就職意欲が高い日系人など若年者に対し,早期の就職を実現させるため,担当制による個々の求職者のニーズを踏まえた綿密な支援を行っている。
また,都道府県においては,訓練の受講に当たって一定の日本語能力を有する者に対して,その日本語能力などに配慮した職業訓練が実施されている。
(4)性同一性障害者等(法務省,文部科学省,各省庁)
法務省は,人権擁護機関(法務省人権擁護局,法務局・地方法務局・支局,人権擁護委員)において,「子どもの人権を守ろう」や「外国人の人権を尊重しよう」のほか,「性的指向を理由とする差別をなくそう」,「性同一性障害を理由とする差別をなくそう」などを啓発活動の年間強調事項として掲げ,講演会の開催や啓発冊子の配布などによる啓発活動を実施している。
文部科学省は,性同一性障害のある子供への対応について,学級担任や管理職を始め,養護教諭,スクールカウンセラー,教職員が協力して,実情を把握した上で相談に応じるとともに,必要に応じて関係医療機関とも連携するなど,子供の心情に十分配慮した教育相談の徹底を関係者に対して依頼しているが,その状況について,平成26(2014)年6月に調査結果を公表するとともに適切な対応について改めて依頼した。
COLUMN NO.12
LGBT(性的少数者)である子供・若者の置かれた現状を学ぶ
近時,「LGBT」という言葉を見聞する機会が増している。LGBTとは,レズビアン(Lesbian:女性同性愛者),ゲイ(Gay:男性同性愛者),バイセクシュアル(Bisexual:両性愛者),トランスジェンダー(Transgender:性同一性障害者等の身体の性と心の性が一致しない者)の頭文字を合わせた言葉である。
性的少数者である子供・若者は,周囲からの誤解や偏見により進学・就職等で様々な困難に直面することが多いといわれており,性的少数者の子供・若者が置かれた現状を学び,今後,必要な支援を充実させていく必要がある。
政府では,「子ども・若者育成支援推進大綱」(平成22年7月子ども・若者育成支援推進本部決定)において,「性同一性障害者や性的指向を理由として困難な状況に置かれている者等特に配慮が必要な子ども・若者に対する偏見・差別をなくし,理解を深めるための啓発活動を実施していく」ことを明記しているほか,「自殺総合対策大綱」(平成24年8月閣議決定)においても,「自殺念慮の割合等が高いことが指摘されている性的マイノリティについて,無理解や偏見等がその背景にある社会的要因の一つであると捉えて,教職員の理解を促進する」と明記している。
平成26(2014)年6月に文部科学省が発表した「学校における性同一性障害に係る対応に関する状況調査」によれば,性同一性障害とみられる児童・生徒は全国の小・中・高等学校で少なくとも606人にのぼり,そのうち約6割の学校で特別な配慮を実施している。
地方自治体では,性的少数者の人権を尊重し,性的指向と性的自認による差別を禁止する条例を制定したり,専用の相談窓口の開設,学校教職員等を対象とした研修を実施するところもみられる。
内閣府においても,平成26年12月及び平成27(2015)年3月の2回,性的少数者の置かれた現状と必要な支援について啓発活動を実施している民間団体講師を招へいし,国・地方自治体のほか民間団体で子供・若者育成支援に携わる職員等を対象とした研修会を開催するなど,大綱の趣旨に沿った啓発活動を行った。

(5)十代の親への支援(厚生労働省)
厚生労働省は,妊娠・出産・育児について,医師や助産師などから専門的なアドバイスを受ける機会でもある妊婦健診を必要な回数(14回程度)を受けられるよう,平成24(2012)年度までは補正予算による基金事業及び地方財政措置により,公費助成を行ってきたが,平成25(2013)年度からは必要な妊婦健診に係る費用の全てについて地方財政措置を講じ,恒常的な仕組みとした。また,妊娠や出産の悩みを抱える若者に対して,訪問指導などの母子保健事業を活用した支援や女性健康支援センター事業を通じた相談体制の充実を図っている。
(6)法定相続分に係る最高裁判決を受けた対応(法務省)
嫡出でない子の取扱いに関し,最高裁判所の違憲判断(平成25年9月4日)122を受け,平成25(2013)年12月に民法が改正され,嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分と同等とされた。
http://www.moj.go.jp/kyousei_kyouse06.html
http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse04.html