第3章 困難を有する子供・若者やその家族の支援(第1節)

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第1節 子供・若者の抱える課題の複合性・複雑性を踏まえた重層的な支援の充実(内閣府)

1 子ども・若者支援地域協議会を通じた縦と横の支援ネットワークの構築

社会生活を円滑に営む上での困難を有する子供・若者に対し,年齢階層で途切れることなく継続した支援を行う「縦のネットワーク」を機能させ,あわせて,教育,福祉,保健,医療,矯正,更生保護,雇用等の関係機関・団体が,個々の子供・若者に関する情報を適切に共有し,有機的に連携する「横のネットワーク」を機能させることが必要とされている。

内閣府は,「子ども・若者育成支援推進法」に基づく「子ども・若者支援地域協議会」1(第3-1図)の設置促進を図るため,平成27(2015)年度は,同協議会の設置されていない都道府県等を対象とした「子ども・若者支援地域協議会設置促進事業」を実施した(第3-2図)。また,困難を有する子供・若者に対する支援に関する調査研究として,平成27年度は,ひきこもりに該当する子供・若者の実態や,必要としている支援の内容などを把握するための調査研究を実施した。

第3-1図 子ども・若者支援地域協議会
第3-2図 子ども・若者支援地域協議会設置数の推移

COLUMN NO.7
 名古屋市の子ども・若者支援地域協議会の取組

社会生活を円滑に営む上での困難を有する子供・若者の複雑で深刻な問題に対応するには単一の機関だけでは困難であることから,「子ども・若者育成支援推進法」(以下「法」という。)では,地方公共団体にこのような子供・若者に対する支援を効果的かつ円滑に実施する仕組みとして「子ども・若者支援地域協議会」を設置するよう努めることを求めている。ここでは,名古屋市の子ども・若者支援地域協議会における,関係機関の連携をスムーズに進めるための取組について紹介する。

名古屋市では,社会生活を円滑に営む上での困難を有する子供・若者の状況に応じた支援を行い,最終的には就労など自立できるようにするため,平成25(2013)年6月に「名古屋市子ども・若者総合相談センター」を,同年8月には「名古屋市子ども・若者支援地域協議会」を設置した。

同協議会は,24の行政機関,10の関係団体(小中学校長会など),学識者のほか,30もの民間支援団体によって構成されており(平成28年4月現在),同協議会の運営や構成機関の連絡調整等については,法21条に規定する「子ども・若者支援調整機関」である「名古屋市子ども・若者総合相談センター」(以下「相談センター」という。)が行っている。

会議体としては,構成機関から選定された17の代表者による代表者会議を設置しており,ネットワークによる支援が円滑に機能するための現状把握や課題について話し合っている。代表者会議で提案された課題などについては,実務者によるワーキンググループで検討するほか,各団体等に企画委員を募り,事務局である相談センターと企画委員により,ネットワークが円滑に機能するよう,様々な取組を行っている。同協議会の運営や子供・若者に関する支援全般については,他自治体で先進的な若者支援の取組を行っている認定NPO法人からアドバイザーを招聘し,アドバイスをいただいている。

これまで,例えば,以下のような取組を行ってきた。

図1 名古屋市協議会の仕組み

1 連携依頼票の作成・使用

連携する支援機関同士で,統一したフォーマットをもとに相談者の情報を共有することで,複合的な課題を抱えた相談者をどの支援機関につないでも,途切れることなく適切な支援が受けられるようにするため,相談センターから他の支援機関に相談者をつなぐ際,「連携依頼票」により,相談者の基本情報や,相談内容,連携の目的・内容を共有している。

2 成果指標の策定・活用

「就労」や「復学」といったゴールのみで成果を測定するばかりではなく,「相談者が今どの段階までステップアップでき,どのような支援を受けているのか」などの情報を共有し支援に生かしていくことは,ネットワークを活用した支援を行う上で,非常に大切なことであり,「自立に向けた行動」及び「コミュニケーション(対人関係)」をそれぞれ10段階で評価する成果指標を策定し,相談センターから他の支援機関につないだケースについて定期的に状況を確認している。

図2 成果指標について

3 社会資源マップ

支援内容や支援分野のほかに,得意分野や具体的な支援事例を掲載し,支援者が他団体と連携を行うために必要な社会資源マップを作成した。

(*27年度フォーマット作成,28年度完成の予定)

社会資源マップ

4 事例検討のためのグループワーク

複数の民間団体等から提供された,重複した課題を抱えたケースについて,グループワークを行い,一人ひとりが各ケースについて「できること」を真剣に考えた。

その中で,思いもつかない意見が出たり,新しい発想が生まれるなど,「一緒に考えてくれる人が増える」ことのメリットを共有できた。

5 支援機関訪問

支援機関の現場見学を行い,各機関の支援方法等について知る機会としている。

6 研修会の実施やメールマガジンの発行

支援者としてのスキル向上のための研修のほか,毎年度様々なテーマで研修会を実施している。また,各支援機関の取組や事業を共有するため,定期的にメールマガジンを発行している。

図3 活動の様子

2 アウトリーチの充実

「子ども・若者育成支援推進法」第15条では,困難を有する子供・若者に対する支援の一つとして,「子ども・若者の住居その他の適切な場所において必要な相談,助言又は指導を行うこと」が規定されている。

困難を有する子供・若者の中には,自ら相談機関に出向くことが難しい者もおり,支援を行う者が問題に応じて家庭等に出向き,必要な相談,助言又は指導を行うアウトリーチ(訪問支援)が必要な場合がある。

内閣府は,アウトリーチに携わる人材の養成を目的とした「アウトリーチ(訪問支援)研修」を実施している。この研修では,講義・演習のほか,実地研修(研修生が,アウトリーチ等の実績のある相談機関・団体に赴き,支援の現場で指導を受ける実習)も実施しており,実践的な技能の習得を図っている。

そのほかにも内閣府は,困難を有する子供・若者に対する相談業務に従事する公的相談機関の職員や,NPO法人等の職員を対象に,適切な支援を行うために必要な知見等の習得を目的とした研修を実施し,子供・若者育成支援に関わる幅広い人材の養成に努めている。

COLUMN NO.8
 アウトリーチで寄り添う~佐賀県子ども・若者支援地域協議会の取組~

不登校やひきこもり状態等の人の中には「相談や支援を受けたいけれど不安感から相談に行けない」,「知らない人に相談するのは気が向かない」などのほか,様々な理由から自ら相談機関等に出向くことが難しい人もおり,このような場合に対応する方法として,アウトリーチが有効であるとされている。

ここではアウトリーチの実例を紹介することとしたい。

・ある女子生徒に対するアウトリーチの実例

高校1年生の女子生徒は,入学した高校で友人を作れず,教室に馴染めないためか,徐々に休みがちになり,夏休み前の7月頃に不登校となった。女子生徒の性格は,おとなしく勤勉であり,過去に学校生活や私生活で不登校や問題行動等は見られなかった。心配した保護者は登校を促すと同時に,登校を拒否する具体的な理由を尋ねたが,女子生徒は明確な理由を示さない。外出先で友人に会ってしまうことに不安があるのか,自室にひきこもりがちな生活となってしまった。

学級担任や教育相談員が家庭に訪問したが,女子生徒が自室から出てこないため,登校のサポートや,女子生徒を適切な相談機関につなぐことが難しい状況であった。このままでは,高校の中途退学が懸念されたため,万が一の場合に備え,中途退学した後の支援も考慮して,教育機関以外での接点を確保するため,保護者の同意を得た上で,佐賀県子ども・若者支援地域協議会において情報を共有し,今後の対応方法などについて検討した。その結果,指定支援機関(以下,「同機関」という。)でサポートを行うこととなった。

学級担任と教育相談員から保護者に対し,同機関の情報を提供した。後日,教育相談員も同席の上,同機関のスタッフと保護者で面談を行うこととなった。面談では,女子生徒の小中学校時代の様子や,不登校状態に至った経緯などを話した。

同機関において,面談で得た情報を整理し,スタッフとして在職する臨床心理士や精神保健福祉士,社会福祉士,教員退職者等を交え,女子生徒の支援方針について協議を行い,保護者と本人の同意を得た上で,アウトリーチを開始した。

同機関のスタッフは,アウトリーチで女子生徒と会う際,登校を促す関わり方に対して女子生徒が不安感や拒絶感を抱いている可能性もあることから,「好きな科目から一緒に勉強してみようか」など,不登校になった理由はあえて尋ねず,学習を介した寄り添う支援に重きを置いた。

夏休みの時期を含めた1か月から2か月ほどの期間,週に1回から2回の頻度でアウトリーチを行った結果,女子生徒が同機関のスタッフに一定の信頼を寄せたことから,女子生徒から次第に自身の心境を話す等の変化が見られた。

女子生徒からは,小学校時代にからかうような言動をしてきた同級生が,入学した高校に在学しており,極度の苦手意識や不安感情を抱いていると打ち明けてきた。高校では,女子生徒と同級生に接点はないが,校内で大きな声で話している姿などを見ると,極度な不安感に襲われてしまうとのことだった。

同機関のスタッフと保護者,そして女子生徒で話し合い,学級担任と教育相談員のサポートの下で,再び登校を試みることとなったが,徐々に登校できるようになり,欠席日数が少なくなるなどの改善が見られた。

このため,同機関のスタッフによるアウトリーチは一旦終了し,保護者や学級担任,教育相談員から要望があれば,再度対応するとした上,学級担任と教育相談員は引き続き女子生徒をサポートすることとなった。

(個人情報保護のため,特定の個人を識別できるおそれのある情報については変更している。)

佐賀県における若者自立支援体制

この事例は,関係機関と連携したアウトリーチが有効に働いた一例である。佐賀県においては,アウトリーチの実績があるNPO法人NPOスチューデント・サポート・フェイス(以下,「SSF」という。)が,「佐賀県子ども・若者支援地域協議会」における指定支援機関と子ども・若者総合相談センターを一体的に運営し,佐賀県子ども・若者総合相談センターで受けた相談について県内の関係機関と緊密に連携し,必要に応じて指定支援機関としてアウトリーチに取り組んでいる。

このことにより,子供・若者やその家族等の相談から他の支援機関・団体の紹介,個別支援までを一体として効果的かつ円滑に実施することができている。

同協議会においては,年1回の代表者会議のほか,複数の関係機関等により支援方法・内容等を検討した方がよいと思われるケースについて,SSFを中心とした構成機関間で当該ケースへの対応について協議し,ケースによってはSSFが指定支援機関として本人や家族へのアウトリーチを行うなどして伴走型支援を実施している。

支援方法・内容等を協議する際の関係機関との情報共有については,子ども・若者育成支援推進法第24条において秘密保持義務が課せられており,このことにより,相談者に対して安心して相談できる環境を整備するとともに,協議会における積極的な情報交換や官民間の連携の推進が担保されている。


1 「子ども・若者育成支援推進法」第19条で地方公共団体に設置の努力義務が課されている協議会。
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