第4章 子供・若者の成長のための社会環境の整備(第3節)
第3節 子供・若者を取り巻く有害環境等への対応
1 「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」の的確な施行等(内閣府)
「青少年インターネット環境整備法」では,
- 政府において青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策に関する基本的な計画を策定し,実施すること
- 学校教育,社会教育及び家庭教育におけるインターネットの適切な利用に関する教育・啓発活動の推進などを図ること
- 携帯電話・PHS事業者,インターネット接続サービスを提供する事業者(ISP),インターネット接続機器製造事業者などが青少年有害情報のフィルタリングソフトの提供義務などを負うこと
- 国及び地方公共団体がインターネットの適切な利用に関する活動を行う民間団体などを支援すること
などが規定されている(第4-13図)。平成27(2015)年7月30日,この法律に基づく「青少年インターネット環境整備基本計画(第3次)」が子ども・若者育成支援推進本部で決定された。

(1)実態の把握(内閣府)
内閣府は,青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備を推進するため,青少年インターネット環境整備法の実施状況を検証するとともに,青少年のインターネット利用環境整備に関する基礎データを得ることを目的として,青少年及びその保護者を対象とした「青少年のインターネット利用環境実態調査」を実施している25。
- 青少年の約8割が,いずれかの機器でインターネットを利用しており,利用機器は多様化している。
- スマートフォン・携帯電話のいずれかを利用する青少年の割合は年々上昇し,高校生の9割以上がスマートフォンを利用している。
- 平日1日当たりの青少年のインターネットの利用時間は,平均で約2時間20分,高校生では約3人に2人がスマートフォンを通じて2時間以上インターネットを利用している。
- スマートフォンでインターネットを利用している青少年の保護者のうち,8割以上が青少年のインターネット利用に関する何らかの取組を実施している。
- 実施している取組のうち,「フィルタリングを使っている」は4割強となっている。
- 保護者のインターネットに関する啓発や学習の経験は,「学校で配布された啓発資料で知った」,「学校の保護者会などで説明を受けた」がそれぞれ6割前後で上位となっている。
(2)フィルタリングの普及啓発(内閣府,警察庁,総務省,文部科学省,経済産業省)
「青少年インターネット環境整備法」では,国などがフィルタリングについて広報啓発活動を行うことが規定されており,関係府省庁が民間団体などと連携して,フィルタリングの普及啓発を推進している。
警察は,違法情報に対する取締りを推進するとともに,有害情報から子供を守るためのフィルタリングの普及,プロバイダの自主的措置の促進に努めている。また,子供にもスマートフォンが普及し,その利用に係る福祉犯被害などが増加していることから,関係府省などと連携して,スマートフォンに対応したフィルタリング,家庭のルールづくりの必要性などについての広報啓発や,関係事業者に対する要請を行っている。
総務省は,インターネット上の有害な情報から子供を保護するため,携帯電話事業者などに対するフィルタリングサービスの改善要請や,学校関係者や保護者を始めとする住民に対するフィルタリングの普及促進活動を推進している。
文部科学省は,有識者等により「ネットモラルキャラバン隊」を結成し,フィルタリングやインターネット利用のルールに関する学習・参加型のシンポジウムを保護者等を対象に全国で実施,さらに携帯電話等をめぐるトラブルや犯罪被害の事例,対処方法のアドバイスなどを盛り込んだ児童生徒向けの普及啓発資料を作成し,全国の小中高等学校等へ配付している。
経済産業省は,各地域において青少年のインターネット利用に関する指導を行う指導者及びその候補者を対象とした指導力向上セミナーを開催し,青少年のインターネット利用環境の変化及びフィルタリング等の手段による対策に関する最新情報を提供することなどを通じて,関係者全体のインターネットリテラシーの向上と青少年及びその保護者などによる実効的な自主的対策を促進している。
以上のような取組の結果,一般社団法人電気通信事業者協会の発表によると,携帯電話などのフィルタリングサービスの利用者数は,平成27(2015)年12月末時点で約710万人となっている。平成25(2013)年以降やや減少しているものの,平成18(2006)年9月末時点の約63万人と比較すると約11倍となっている。
(3)悪質な違法行為の取締りなど(警察庁,法務省)
警察庁は,一般のインターネット利用者などからの違法情報等に関する通報を受理し,警察への通報やプロバイダ,サイト管理者などへの削除依頼を行うインターネット・ホットラインセンターを運用している(第4-19図)。同センターでは,平成26(2014)年には150,352件の通報を受理しており,プロバイダなどに対して8,303件の違法情報の削除依頼を行い,そのうち7,890件(95.0%)が削除された。外国のウェブサーバに蔵置された児童ポルノ情報についても,当該外国の同種の機関に対し削除に向けた取組を依頼している。

警察は,サイバーパトロールや,都道府県警察が委嘱した民間のサイバーパトロールモニター,インターネット・ホットラインセンターからの通報により,インターネット上に流通する違法情報・有害情報の把握に努めるとともに,全国の警察が連携して,以下の取組を進めている。
- 出会い系サイトの利用に起因する犯罪から子供を保護するため,当該サイトを利用して子供を性交などの相手となるよう誘引する行為などの積極的な取締り
- 出会い系サイト以外のコミュニティサイトの利用に起因する子供の被害が未だ高い水準で推移していることを受け,関係機関・団体と連携し,フィルタリングの普及促進といった各種対策
- これらのサイトの利用に起因する子供の被害を防止するための広報啓発
- インターネット利用者の規範意識を醸成するため,サイバー防犯ボランティアの育成・支援
法務省は,人権擁護機関において,インターネット上の名誉毀損・プライバシー侵害などの人権侵害情報について相談を受けた場合,プロバイダなどに対する発信者情報の開示請求や当該情報の削除依頼の方法について助言している。人権侵害情報による被害の回復を被害者自ら図ることが困難な場合は,表現の自由に配慮しつつ,「プロバイダ責任制限法 名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」に基づいて,プロバイダなどに当該情報の削除を要請するなど被害者の救済に努めている。
(4)子供や保護者に対する啓発(内閣府,警察庁,総務省,法務省,文部科学省)
内閣府は関係省庁や地方公共団体と連携し,インターネット利用におけるフィルタリングの普及や適切な利用を推進するため,リーフレットの配布などによる啓発活動に取り組んでいる26(第4-20図)。また,平成27(2015)年度,地域における関係機関,団体が連携し,自立的に各種取組を実施できるようにするための体制構築を目的として,「青少年のインターネット利用環境づくりフォーラム」を,全国3か所で開催した(第4-21図)。加えて,関係府省は,地方公共団体,関係団体,関係事業者などと連携,協力し,平成28(2016)年の春に,多くの青少年が初めてスマートフォンなどを手にする春の卒業・進学・新入学の時期に特に重点を置き,「平成28年春のあんしんネット・新学期一斉行動」として,啓発活動等の取組を集中的に展開した。


警察は,出会い系サイトやコミュニティサイトの利用に起因する犯罪による被害やインターネット上の違法情報・有害情報の影響から子供を守るための広報啓発を推進している。平成26年2月の広報重点を「サイバー空間の脅威に対する社会全体の対処能力の強化」として,全国の小学校や中学校などにおいて情報セキュリティに関する講習を開催した。この講習では,子供や保護者,学校の教職員などに対し,インターネット上の違法情報・有害情報に起因した犯罪,子供を被害者とするサイバー犯罪の具体的事例や対応策を紹介するとともに,フィルタリングの導入などを勧めている。
総務省は,地方の各総合通信局が地域の核としてコーディネーター役を務め,関係者を巻き込んだリテラシー向上の枠組み整備とこれを活用した周知啓発活動を推進している。具体的には,文部科学省や情報通信分野などの企業・団体と連携し,子供のインターネットの安心・安全な利用に向けて,主に保護者・教職員や子供を対象とした啓発講座を全国規模で行う「e-ネットキャラバン」の活動を全国で実施している。また,インターネットリテラシー指標に関する開発,実施を通じた全国的な啓発活動を行っている。
法務省の人権擁護機関では,「インターネットを悪用した人権侵害をなくそう」を啓発活動の年間強調事項の一つとして掲げ,講演会開催,啓発冊子の配布等,各種啓発活動を実施している。その一環として,「インターネットと人権」をテーマとした啓発教材を作成し,全国の高校1年生に配布するなどし,各種啓発活動で活用している。また,これまで作成した小・中・高校生や保護者向けの啓発教材を活用したり,ブログサイトやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)サイトに,人権に関する正しい理解を深めることや相談先や救済手続を案内することを目的としたインターネット広告を掲載したりした。
文部科学省は,保護者や学校関係者,地方公共団体,事業者の効果的な取組を推進するため,「ネット安全安心全国推進フォーラム」を開催している。平成28(2016)年3月に開催し,「スマホ時代の今だから~私たちはどう対応すべきか~」をテーマに,事例発表やパネルディスカッションを行い,これからインターネット社会に向き合い,共に生きていく子供のために大人として何をすべきなのか,青少年を取り巻く現状や取組の紹介などを通じて,考える機会を提供した。
(5)関係業界の自主的な取組の促進(内閣府,警察庁,総務省)
メディアが提供する情報には,有用なものも多い反面,特に性・暴力表現に関する情報などは子供に悪影響を及ぼす場合があるとの指摘もあるなど懸念される状況にある。子供を取り巻く有害情報対策には,まず,関係業界自身が自主的な取組を図ることが大切であり,マスコミを始め関係業界では自主的な取組が行われている(第4-22表)。
関係業界 | 内容 |
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マスコミ全般 |
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出版 |
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映画・ビデオ・コンピューターソフト等 |
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放送 |
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広告 |
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興行 |
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カラオケ ボックス |
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インターネット |
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インターネットカフェ・
まんが喫茶 |
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携帯電話・PHS |
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(出典)内閣府調べ |
利用者・産業界・教育関係者などが相互に連携するために民間企業・各種団体・PTA等によって設立された安心ネットづくり促進協議会27では,広く国民一般を対象としたリテラシー向上の推進に取り組んでおり,インターネットや様々なメディアを活用し,リテラシー向上やフィルタリングの普及などの活動を全国各地で実施している。
警察は,青少年保護育成条例により青少年への販売などが規制されている有害図書類について,条例違反行為の取締りを行っている。
2 ネット依存への対応(文部科学省)
近年,スマートフォン等を始めとするインターネット接続機器の普及に伴い,長時間利用による生活リズムの乱れや有害サイト等を通じた被害などが深刻な問題となっている。
このような現状を踏まえ,文部科学省では,青少年を取り巻く有害環境対策の推進として次のような取組を実施している。
- 有識者等により「ネットモラルキャラバン隊」を結成し,フィルタリングやインターネット利用のルールに関する学習・参加型のシンポジウムを保護者等を対象に全国7箇所で実施
- インターネットの有効な活用方法などについて,青少年自ら研修し,学んだ成果を発信する「青少年安心ネット・ワークショップ」の実施
- 急速に普及していくインターネット環境に対応するため,地域の先進的な取組に対する支援の実施
- 多くの青少年が初めてスマートフォン,タブレット等を手にする春の卒業・進学・新入学の時期に特に重点を置き,サービスを提供する関係事業者や学校等の関係者が連携して,青少年・保護者に対して実施するスマートフォンやソーシャルディア等の安心・安全な利用のための普及啓発活動等の取組「春のあんしんネット・新学期一斉行動」を実施
- 携帯電話等をめぐるトラブルや犯罪被害の事例,対処方法のアドバイスなどを盛り込んだ児童生徒向けの普及啓発資料「ちょっと待って!スマホ時代のキミたちへ~1日中スマホやネットばかりになってない?~」リーフレットを作成し,全国の小中高等学校等へ配付(第4-23図)
- これからインターネット社会に向き合い,共に生きていく子供たちのために,大人として何をすべきなのか,青少年を取り巻く現状や取組の紹介等を通じて,参加者全員で考えるため,「スマホ時代の今だから~私たちはどう対応すべきか~」をテーマに「ネット安全安心全国推進フォーラム」を開催
青少年のスマートフォンを所有する割合や,スマートフォンなどを通じてインターネットを活用する割合及び平均的な利用時間が増加傾向にあり,いわゆるネット依存への対策が喫緊の課題となっている。このため,文部科学省では,青少年教育施設を活用し,ネット依存傾向の青少年を対象とした自然体験や宿泊体験プログラムの実施を通じたネット依存対策を実施している。
3 性風俗関連特殊営業の取締り等(警察庁)
警察は,「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(昭23法122)に基づき,学校などの周辺や住宅地域における違法な性風俗関連特殊営業,18歳未満の者に客の接待などをさせる違法な風俗営業などの取締りを積極的に進めている。
4 酒類,たばこの未成年者に対する販売等の禁止
(1)取締り・処分等(警察庁,法務省)
警察は,「未成年者喫煙禁止法」(明33法33)と「未成年者飲酒禁止法」(大11法20)に基づき,未成年者が酒類やたばこを容易に入手できないような環境を整備するため,指導取締りを徹底するとともに,年齢確認の徹底,従業員研修の実施,自動販売機の適切な管理などについて,関係業界が自主的に措置をとるよう働き掛けている。
検察は,「未成年者飲酒禁止法」や「未成年者喫煙禁止法」に違反する事案について,必要な捜査を行い,事案に応じた処分を行っている。
(2)飲酒防止(内閣府,国税庁)
国税庁28は,未成年者飲酒防止を始めとする酒類の販売管理の徹底を図る観点から,「未成年者の飲酒防止に関する表示基準」(以下「表示基準」という。)の策定や,酒類小売販売場ごとに酒類販売管理者の選任を義務付けるなどの所要の措置を講じている。また,国税局長が委嘱した酒類販売管理協力員が収集した情報などを踏まえ,職員が表示基準の遵守状況を確認し,違反のあった場合には是正指導を行っている。このほか,酒類業界に対して,未成年者飲酒防止に配意して販売,広告・宣伝を行うよう要請するとともに,購入者の年齢確認ができない従来型自動販売機の撤廃といった取組を支援している。
酒類に係る社会的規制等関係省庁等連絡協議会(内閣府,警察庁,公正取引委員会,総務省,文部科学省,厚生労働省,国税庁)は,毎年4月を未成年者飲酒防止強調月間と定め,啓発用ポスターの作成・配布による全国的な広報啓発活動を連携して行っている。また,全国小売酒販組合中央会が実施している「未成年者飲酒防止・飲酒運転撲滅全国統一キャンペーン」やビール酒造組合を中心に実施している「STOP!未成年者飲酒」プロジェクトの取組を支援するなど,国民の未成年者飲酒防止に関する意識の高揚を図っている。
未成年者の飲酒を含む不適切な飲酒の影響による心身の健康障害の発生,進行及び再発の防止を図ること等を目的として,「アルコール健康障害対策基本法」(平25法109)が平成26(2014)年6月に施行された。内閣府は,アルコール健康障害対策を総合的かつ計画的に推進すべく,同法に基づく基本計画の策定に向けた検討を進めており,平成28年(2016)年5月末までに基本計画として閣議決定することとしている。また,同法に定めるアルコール関連問題啓発週間(毎年11月10日~16日)等を通じ,未成年者飲酒の防止等の啓発を行っている。
(3)喫煙防止(財務省)
財務省29は,未成年者喫煙防止の観点から,自動販売機を設置する場合には成人識別自動販売機とすることをたばこ小売販売業の許可の条件としている。また,インターネットによるたばこ販売については,販売時に購入希望者の年齢識別が適切に講じられるよう,あらかじめ公的な証明書により購入希望者の年齢確認などを行った上で販売することをたばこ小売販売業の許可の条件としている。これらの条件に対する違反のあった場合には,「たばこ事業法」(昭59法68)に基づく行政処分(許可の取消し・営業停止)の対象となる。