特集2 長期化するひきこもりの実態
1 はじめに
社会生活を円滑に営む上での困難を有する子供・若者に対する支援を効果的に推進するためには、これらの者の実態を把握することが不可欠である。平成22(2010)年4月1日に施行された「子ども・若者育成支援推進法」第17条においても、「国及び地方公共団体は第15条第1項に規定する子ども・若者が社会生活を円滑に営む上での困難を有することとなった原因の究明、支援の方法等に関する必要な調査研究を行うよう努めるものとする。」とされている。
内閣府では、これまで、平成21(2009)年度と平成27(2015)年度に、満15歳から満39歳までの者を対象にひきこもりの実態調査を実施してきているが、両調査の結果を比較したところ、ひきこもりの状態となってから7年以上経つ者の割合が増加しており、ひきこもりの長期化傾向がうかがわれた。
そこで、青年期以降のひきこもりの実態を調査することにより、青少年期の生活がその後の生活に及ぼす影響等を明らかにし、青少年の育成支援に係る諸施策の企画・立案に役立てることを目的に、平成30(2018)年度において、満40歳から満64歳までの者を対象とするひきこもりの実態調査を、「生活状況に関する調査」として実施した。
この特集では、平成30年度に内閣府が行った「生活状況に関する調査1」(以下「平成30年度調査」という。)の結果について、平成27年度に満15歳から満39歳までを対象に実施した「若者の生活に関する調査」(以下「平成27年度調査」という。)の結果とも比較しながら紹介する。
2 平成30年度調査の概要
(1)調査の対象、時期、方法
平成30年度調査は、層化二段無作為抽出法で抽出された全国の満40歳から満64歳までの5,000人とその同居者の方を対象に、平成30年12月7日から同月24日までの間、内閣府から委託を受けた民間の調査会社の調査員が調査対象者の自宅を訪問して調査票を渡し、後日、再び訪問して調査票を回収するという、訪問留置・訪問回収の方法により実施した。
(2)ひきこもりの定義
調査の対象となるひきこもりの定義としては、平成27年度調査と同様、厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業「思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究(H19-こころ-一般-010)」で作成された「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」における次の定義を用いた。
様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念である。
なお、ひきこもりは原則として統合失調症の陽性あるいは陰性症状に基づくひきこもり状態とは一線を画した非精神病性の現象とするが、実際には確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべきである。
この定義を平成30年度調査の調査項目に当てはめ、以下の者をひきこもり状態にある者とした。
「ふだんどのくらい外出しますか。」との問いについて、下記の①~④に当てはまる者であって、「現在の状態となってどのくらい経ちますか。」との問いについて、6か月以上と回答した者2
①趣味の用事のときだけ外出する
②近所のコンビニなどには出かける
③自室からは出るが、家からは出ない
④自室からほとんど出ない
ただし、次のア~ウのいずれかに該当する者は、ひきこもりには該当しないとして除いている。
ア 「現在の状態になったきっかけは何ですか。」との問いに、「病気」を選択し、自由記述欄に身体的病気の病名を記入した者3
イ 下記の①~③のいずれかに該当する者
①「あなたの現在の就労・就学等の状況についてお答えください。」との問いに、「勤めている」又は「自営業・自由業」を選択した者
②「ふだんご自宅にいるときに、よくしていることすべてに○をつけてください。」との問いに、「仕事をする」を選択した者
③「現在の状態になったきっかけは何ですか。」との問いに、「その他」を選択し、自由記述欄に自宅で仕事をしている旨を記入した者
ウ 下記の①~③のいずれかに該当する者で、「最近6ヶ月間に家族以外の人と会話しましたか。」との問いに、「よく会話した」又は「ときどき会話した」を選択した者
①「あなたの現在の就労・就学等の状況についてお答えください。」との問いに、「専業主婦・主夫」又は「家事手伝い」を選択した者
②「ふだんご自宅にいるときに、よくしていることすべてに○をつけてください。」との問いに、「家事をする」、「育児をする」又は「介護・看護をする」を選択した者
③「現在の状態になったきっかけは何ですか。」との問いに、「妊娠した」若しくは「介護・看護を担うことになった」を選択した者、又は「その他」を選択し、自由記述欄に出産・育児をしている旨を記入した者
(3)回答者の属性
平成30年度調査の回答者の属性は、次のとおりである。
ア 性別

イ 年齢

ウ 同居者

3 ひきこもりの者の推計数
広義のひきこもり群の出現率は1.45%であり、推計数は61.3万人であった4。平成27年度調査の結果と比較すると、出現率は低いが推計数は多かった5。

[平成27年度調査(対象:15~39歳)の結果]6

なお、平成27年度調査においては、専業主婦・主夫、家事手伝いと回答した者を一律に広義のひきこもり群から除外していたが、平成30年度調査においては、広義のひきこもり群と認定した47名のうち11名が専業主婦・主夫、家事手伝いであった。
4 ひきこもりの傾向・特徴
(1)性別
広義のひきこもり群の男女比率は、「男性」が76.6%、「女性」が23.4%であり、「男性」の割合が平成27年度調査の結果よりも高かった。

[平成27年度調査(対象:15~39歳)の結果]

(2)ひきこもりの状態になってからの期間
広義のひきこもり群の者がひきこもりの状態になってからの期間は、3~5年の者の割合が21.3%と最も高かったが、7年以上の者の割合が5割近くを占めており、平成27年度調査の結果より高かった。

[平成27年度調査(対象:15~39歳)の結果]

(3)初めてひきこもりの状態になった年齢
広義のひきこもり群の者が初めてひきこもりの状態になった年齢は、30歳代の者の割合が若干低かったものの、15歳から24歳までの者の割合が6割を超えていた平成27年度調査の結果とは異なり、全年齢層に大きな偏りなく分布していた。

[平成27年度調査(対象:15~39歳)の結果]

(4)ひきこもりの状態になったきっかけ
広義のひきこもり群の者がひきこもりの状態になったきっかけは、「不登校」と「職場になじめなかった」が最も多かった平成27年度調査の結果とは異なり、多かった順に、「退職したこと」、「人間関係がうまくいかなかったこと」、「病気」、「職場になじめなかったこと」であった。

[平成27年度調査(対象:15~39歳)の結果]

(5)ふだんの生活態度について、昼夜逆転の生活をしている
広義のひきこもり群の者のうち「昼夜逆転の生活をしている」に「はい」又は「どちらかといえば、はい」と回答した者の割合は、平成27年度調査の結果と同様、広義のひきこもり群以外の者の割合より高かった。

[平成27年度調査(対象:15~39歳)の結果]

(6)ふだん自宅でよくしていること
広義のひきこもり群の者がふだん自宅でよくしていることは、広義のひきこもり群以外の者と比較して、「ラジオを聴く」と回答した者の割合は高かったが、「テレビを見る」、「インターネットをする」などと回答した者の割合は低かった。

(7)通信手段でふだん利用しているもの
通信手段でふだん利用しているものの割合は、「携帯電話での通話(LINE等のアプリによる通話を含む)」、「携帯電話でのメール」、「チャットまたはメッセンジャー」などで広義のひきこもり群の方が広義のひきこもり群以外の者よりも低かった。

(8)ふだん悩み事を相談する相手
広義のひきこもり群の者が悩みを相談する相手については、広義のひきこもり群以外と比較して、「配偶者」、「友人・知人」と回答した者の割合が低かった。また、「誰にも相談しない」と回答した者の割合が約45%であった。

5 過去にひきこもり状態であった者の傾向・特徴
(1)過去にひきこもり状態であった者の定義
平成30年度調査の調査項目に当てはめ、以下の者を過去にひきこもり状態であった者とした。
「今までに6か月以上連続して、以下のような状態になったことはありますか。」との問いについて、下記の①~④に当てはまる者
①趣味の用事のときだけ外出する
②近所のコンビニなどには出かける
③自室からは出るが、家からは出ない
④自室からほとんど出ない
ただし、次のア又はイのいずれかに該当する者は、ひきこもりには該当しないとして除いている。
ア 「その状態になったきっかけは何でしたか。」との問いに、「病気」を選択し、自由記述欄に身体的病気の病名を記入した者及び「その他」を選択し、自由記述欄に自宅で仕事をしている旨を記入した者7
イ 「今までに6か月以上連続して、以下のような状態になったことはありますか。」との問いについて、「趣味の用事のときだけ外出する」を選択し、かつ、その同居者が「対象者の方は今までに6か月以上連続して、上記①~④のような状態になったことはありますか。」との問いについて、「なったことはない」と回答した者
(2)過去にひきこもりの状態であった期間
過去にひきこもり状態にあった者のひきこもりであった期間は、「6ケ月~1年」と回答した者の割合が25.4%と最も高く、3年未満と回答した者の割合が5割以上を占めていた。

[平成27年度調査(対象:15~39歳)の結果]

(3)過去に初めてひきこもりの状態になった年齢
過去に初めてひきこもりの状態になった年齢については、全年齢層に大きな偏りなく分布していた。

[平成27年度調査(対象:15~39歳)の結果]

(4)過去にひきこもりの状態になったきっかけ
過去にひきこもりの状態になったきっかけは、「不登校」と回答した者の割合が最も高かった平成27年度調査の結果とは異なり、回答した者の割合が高かった順に、「退職したこと」、「人間関係がうまくいかなかったこと」、「職場になじめなかったこと」、「妊娠したこと」、「病気」であった。

[平成27年度調査(対象:15~39歳)の結果]

(5)ひきこもりの状態ではなくなったきっかけや役立ったこと
〈回答抜粋〉
- 粘り強く職安で自分が出来そうな仕事を探したからだと思う。
- 気にしてくれる家族、友だちが、ときどき声をかけてくれたこと。
- 病院のデイケア
- 社会と関わりたいと思った。毎日が退屈に感じた。
- 特にない。自然と。
- 友達に趣味に誘われて出かけるようになりました。
6 おわりに
平成30年度調査の結果により、全国の満40歳から満64歳までの人口の1.45%に当たる61.3万人がひきこもり状態にあると推計された。また、専業主婦や家事手伝いでひきこもり状態の者も存在すること、ひきこもり状態になってから7年以上の者が半数近くにも及ぶこと、初めてひきこもりの状態になった年齢が全年齢層に大きな偏りなく分布していること、若い世代と異なり退職したことをきっかけにひきこもり状態になった者が多いことなども明らかになった。
平成27年度に実施した満15歳から満39歳までの方を対象とした調査でも人口の1.57%に当たる54.1万人がひきこもり状態にあると推計されており、「ひきこもり」は、どの年齢層にも、どんな立場の者にもみられるものであり、どの年齢層からでも、実に多様なきっかけでなりうるものであることが分かる。
この調査結果が、子供・若者の支援には直接関わらない部局を含め、政府全体で共有されるとともに、地方公共団体や民間団体にも広く共有され、ひきこもり対策を一層充実するために活用されるよう期待したい。