第4章 子供・若者の成長のための社会環境の整備(第1節)
第1節 家庭、学校及び地域の相互の関係の再構築
1 家庭教育支援(文部科学省)
家庭は、子供の健やかな育ちの基盤である。一方、地域とのつながりの希薄化や、親が身近な人から子育てを学んだり助け合ったりする機会の減少など、子育てや家庭教育を支える環境が変化している。このため、社会全体で家庭教育を支えることが求められている。
文部科学省は、「地域における家庭教育支援基盤構築事業」により、身近な地域において保護者が家庭教育に関する学習や相談ができる体制が整うよう、家庭教育支援チームの組織化などによる相談対応や、保護者への学習機会の企画・提供などの家庭教育を支援する地方公共団体の取組を推進している(平成30年度は539市町村の5,291か所で実施)(第4-1図)。また、「教育と福祉の連携による家庭教育支援事業(訪問型家庭教育支援等)」を地方公共団体に委託して実施し、家庭教育支援チーム等による訪問型の家庭教育支援体制の構築を図った(平成30年度は6府県で実施)。

また、平成29(2017)年度より「家庭教育支援チーム」の活動の推進に係る文部科学大臣表彰を実施し、地域における家庭教育支援活動の一層の推進を図っている。
さらに、平成30(2018)年度は、地域で「家庭教育支援チーム」を立ち上げる際、チームの組織づくりが円滑かつ効果的になされるよう必要な視点等を整理した「家庭教育支援チーム」の手引書を作成した。
令和元(2019)年度も、保護者への学習機会の提供、相談対応等の家庭教育支援の基盤整備や、様々な課題を抱えた家庭に対する訪問型家庭教育支援のより一層の推進を図ることとしている。
2 地域と学校が連携・協働する体制の構築(文部科学省)
文部科学省は,平成29(2017)年3月に改正された「社会教育法」(昭24法207)及び「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」(昭31法162)を踏まえ,幅広い地域住民や企業・団体等の参画により,地域と学校が連携・協働して,地域全体で未来を担う子供たちの成長を支え,地域を創生する「地域学校協働活動」と,保護者や地域住民等が学校運営に参画する仕組みであるコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)を全国的に推進している。
地域学校協働活動を推進する体制である「地域学校協働本部」は,平成30(2018)年11月現在で6,190本部が整備されている。
地域学校協働活動については,教育委員会が地域住民等と学校との連携協力体制を整備することや,地域学校協働活動に関し,地域住民等と学校との情報共有を行う「地域学校協働活動推進員」の委嘱に関する規定の整備が行われたことを踏まえ,地域学校協働活動が円滑かつ効果的に実施されるよう推進している。地域学校協働活動の推進を通じて,地域の将来を担う人材が育成されるとともに,学校を核とした地域住民のつながりが深まり,自立した地域社会の構築・活性化につながっていくことが期待される。また,地域学校協働活動を推進することは,「社会に開かれた教育課程」の実現や,学校における働き方改革にも資するものである。
また,コミュニティ・スクールについては,保護者や地域住民等から構成される学校運営協議会において,学校運営の基本方針の承認を行うとともに,学校運営への必要な支援についての協議などが行われており,コミュニティ・スクールを導入している学校は,平成30年4月1日現在,前年度から1,832校増えて,5,432校に広がっており,着実にその導入が進んできている。さらに,学校運営協議会と学校関係者評価を一体的に推進することで,日々の教育活動や地域学校協働活動の成果や課題の共有や取組の改善に生かし,学校運営の評価・改善サイクルを充実させていくことが期待される。
文部科学省においては,平成30年度も,地域学校協働本部やコミュニティ・スクールの体制づくりへの支援に係る補助事業を行うとともに,一層の普及・啓発を図るため,コミュニティ・スクール推進員やコンサルタントの派遣といった施策も進めている。
COLUMN NO.5
「となりカフェ」:いつでも君のそばに~居場所づくりを通じた教育と福祉の連携における大阪府立西成高校の取組~
不登校や中退を予防するためには、学校だけではなく、家庭、地域、関係機関が官民を問わず、連携して対応することが重要である。ここでは、教室での集団生活に馴染めない生徒や学校内に居場所がない生徒のための居場所を民間団体と連携して提供している大阪府立西成高校の取組「となりカフェ」を紹介する。
「となりカフェ」は「家でも学校でもない第3の居場所」として西成高校内で運営されているもので、平成24(2012)年度に大阪府の委託事業の一環として開所された。教師でも親でもない「第3の大人」であるスタッフとの交流を通じて生徒との信頼関係を構築することで、生徒の不登校や中退を予防しようとする取組を支援するものである。普段接している「指導する立場の大人」である教師とは異なり、悩みに寄り添い「話を聴いてくれる大人」と接することで、生徒は徐々に表情が柔らかくなり、欠席の日数も減ってくる。「となりカフェ」利用者の中退率は、同校全体の中退率に比べて4分の1程度とかなり低いという。
「となりカフェ」では、服装や食生活など生徒の細かい日常を垣間見ることができる。現在は週2回の頻度で開催されているが、生徒とスタッフの間では密なコミュニケーションが可能であることから、貧困や虐待など困難な環境下にある生徒を見つけやすい。スタッフは、「となりカフェ」で発見した課題を教師やスクールソーシャルワーカーなどと共有するほか、生徒が希望すれば、支援が必要な生徒を学校外の福祉機関に橋渡しするなど、福祉と教育が連携する中間支援的な役割も果たしている。開所されてから6年を経て、西成高校の教員とスタッフは日常的に綿密な連携をとるようになっており、早急に対応できる体制が構築されてきている。
また、となりカフェではアート作品の創作など芸術に関する体験活動も企画されている。こうしたイベントが困難な環境下で染みついてしまった狭い価値観から生徒が脱却するきっかけとなり、虐待や貧困からの脱出へつながることもある。また、「コミュニティ」における活動を体験する機会ともなっている。
となりカフェのように、学校をはじめとした教育機関がNPO法人等による支援活動を受け入れている事例はそれほど多くない。しかし、こうした教育と福祉が連携した取組は、不登校や中退などの課題を解決する手段として大きな可能性を秘めていると考えられる。


3 地域全体で子供を育む環境づくり
(1)放課後子ども総合プランの推進(文部科学省、厚生労働省)
共働き家庭などの「小1の壁」を打破するとともに、次代を担う人材を育成するため、全ての就学児童が放課後などを安全・安心に過ごし、多様な体験・活動を行うことができるよう、平成26(2014)年7月に厚生労働省と文部科学省が共同で「放課後子ども総合プラン」を策定した。同プランでは、学校施設(余裕教室や放課後等に一時的に使われていない教室等)を徹底活用して、放課後児童クラブ及び放課後子供教室の一体型を中心とした取組を推進するほか、令和元(2019)年度末までに、放課後児童クラブについて、約30万人分を新たに整備すること、全小学校区(約2万か所)で一体的にまたは連携して実施し、うち1万か所以上を一体型で実施することを目指している。さらに、「新しい経済政策パッケージ」(平成29年12月閣議決定)に基づき、「放課後子ども総合プラン」に掲げるこれらの目標を1年前倒しして、平成30(2018)年度末までに達成することとしている。
全ての子供を対象に、地域住民等の参画を得て、学習やスポーツ・文化芸術活動、地域住民との交流活動などの機会を提供する「放課後子供教室」は、平成30(2018)年11月現在、1,171の市町村で18,749教室が行われている。共働き家庭など保護者が仕事などで昼間家庭にいない小学生を対象に、授業の終了後などにおいて、学校の余裕教室や児童館などを利用して遊びや生活の場を提供する「放課後児童クラブ」1は、平成30年5月現在、1,619市町村で25,328か所実施され、1,234,366人の児童が登録されている(第4-2図)。量的整備は進んできたが、一体型は、平成30年5月現在、4,913か所にとどまっている。

ついては、文部科学省と厚生労働省が共同で策定した「新・放課後子ども総合プラン」(平成30年9月)に基づき、令和5(2023)年度末までに、放課後児童クラブについて、約152万人分を整備すること、全小学校区(約2万か所)で放課後児童クラブ及び放課後子供教室を一体的に又は連携して実施し、うち1万か所以上を一体型で実施することを目指すこととしている。
(2)中高生の放課後等の活動の支援(文部科学省、厚生労働省)
小学生のみならず、中学生・高校生等も含め、放課後に全ての子供たちが安心して、多様な学習・体験活動ができるよう、地域全体で取り組んでいくことが重要である。
文部科学省では、地域と学校が連携・協働し、幅広い地域住民等の参画による地域学校協働活動を推進しており、その一環として、中学生、高校生等に対して、地域住民の協力等による原則無料の学習支援(地域未来塾)を推進している。平成30(2018)年度は全国2,995か所で実施した。
厚生労働省は、地域における中学生・高校生の活動拠点としての機能をもつ児童館の整備を推進している。
(3)地域で展開される多様な活動の推進
ア 環境学習(文部科学省、環境省、農林水産省)
子供を含めた一人一人が環境問題に関心を持ち、自ら環境保全活動に取り組んでいく態度を養っていくことは、豊かな自然を守り、未来へと引き継いでいくためにも必要である。
環境省をはじめとする関係府省は、「環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律」(平15法130)(以下「環境教育等促進法」という。)と「環境保全活動、環境保全の意欲の増進及び環境教育並びに協働取組の推進に関する基本的な方針」(平成30年6月閣議決定)に基づき、家庭、学校、職場、地域その他あらゆる場における、生涯にわたる質の高い環境教育の機会を提供している2。
環境省は、「持続可能な開発のための教育」(ESD:Education for Sustainable Development)3の視点を取り入れた環境教育により地域で推進するリーダーとなる人材の育成に努めているほか、環境教育等促進法に基づく「体験の機会の場」の拡充に向けた取組を行っている。
文部科学省は、子供がその発達段階に応じて、環境の保全についての理解と関心を様々な機会に深めることができるよう、学校教育や社会教育において環境教育を推進している。小学校、中学校及び高等学校の学習指導要領において、社会や理科、技術・家庭科など関連の深い教科を中心に環境教育に関する内容の充実を図るとともに、太陽光発電設備などを環境教育に活用するエコスクール(環境を考慮した学校施設)の整備や、青少年教育施設における豊かな自然環境を活用した体験型の環境学習の機会の提供を行っている。
農林水産省、文部科学省、環境省は、関係団体と連携して、次代を担う高校生と森や海・川の名人との交流を通して、その技や人となりを聞き書きし、成果を発信することにより、青少年の健全育成等を図るための「聞き書き甲子園」を行っている。
イ 自然体験(文部科学省、農林水産省、環境省)
文部科学省は、広く体験活動に対する理解を求めるための家庭や企業に対する普及啓発を推進している。平成26(2014)年度から、地域において家庭、学校、青少年関係団体、NPOなどをネットワーク化し、相互の情報交換や情報共有、事業の共同実施などを円滑化するためのプラットフォームの形成を支援している。
独立行政法人国立青少年教育振興機構は、国立青少年教育施設の立地条件や特色を活かした自然体験活動の機会と場の提供を行っている(国立青少年教育施設の取組については、第4章第1節3(4)ア「青少年教育施設」を参照)。
林野庁は、森林内での様々な体験活動を通じて、森林と人々の生活や環境との関係についての理解と関心を深める森林環境教育を推進しており、関係団体と連携し、学校における身近な森林を活用した環境教育の活動を広げるための情報交換等を行う「学校の森・子どもサミット」を行っている。また、国有林野事業では、学校などと森林管理署長などが協定を結び、自然体験活動の場を提供する「遊々の森」の設定を進めている4(第4-3図)。平成29(2017)年度末現在、学校などとの協定により、国有林野内において154か所の「遊々の森」が設定されており、総合的な学習の時間などにおける森林環境教育の場としても利用されている。

このほか、緑と親しみ、緑を愛し、緑を守り育てる活動を行う緑の少年団が日頃の活動状況を発表し、相互の研鑽を図る全国緑の少年団活動発表大会等に対する支援を行っている。
環境省は、国立公園等の優れた自然地域において自然観察会等を開催することにより、子供たちに自然環境の大切さ等を学ぶ機会を提供するとともに、インターネット等を通じ様々な自然とのふれあいの場やイベントなどに関する情報を発信している。
ウ 警察による社会奉仕活動やスポーツ活動の場の提供(警察庁)
警察は、少年5の規範意識の向上と社会との絆の強化を図る観点から、関係機関・団体、地域社会と協力しながら、環境美化活動をはじめとする少年の社会奉仕活動や生産体験活動といった社会参加活動、警察署の道場を開放した少年柔剣道教室をはじめとするスポーツ活動を行うなど、少年の多様な活動機会の確保と居場所づくりを推進している。
エ スポーツへの参加機会の拡充(文部科学省)
文部科学省では、スポーツを通じた健康増進に関する施策を持続可能な取組とするため、域内の体制整備及び運動・スポーツに興味・関心を持ち、習慣化につながる取組を支援している。
オ 文化芸術活動の推進(文部科学省)
子供が豊かな心や感性を育むためには、学校教育の場で優れた文化芸術に触れる機会を確保することが重要である。
文部科学省は、オーケストラなどの実演芸術の鑑賞や文化芸術団体によるワークショップをはじめ実演芸術に身近に触れることができる機会の提供6や、子供たちが親とともに民俗芸能、工芸技術、邦楽、日本舞踊、茶道、華道などの伝統文化・生活文化等について、計画的・継続的に体験・修得できる機会を提供する取組に対する支援7など、子供の文化芸術体験活動を推進している(第4-4図)。

カ 花育(はないく)活動の推進(農林水産省)
農林水産省は、文部科学省や国土交通省と連携して、花壇作りやフラワーアレンジといった花や緑との触れ合いを通じて子供に優しさや美しさを感じる気持ちを育む「花育活動」を推進している。平成30(2018)年度は、地域において、小中学生と花きの生産者等が交流する花育活動の実施に対する支援を行った。
キ 都市と農山漁村の共生・対流の促進(内閣官房、総務省、文部科学省、農林水産省、環境省)
内閣官房、総務省、文部科学省、農林水産省、環境省は、子供の農山漁村での宿泊による農林漁業体験や自然体験活動等を行う「子ども農山漁村交流プロジェクト」を通じ、都市農村交流の取組を推進している。
(4)体験・交流活動等の場の整備
ア 青少年教育施設(文部科学省)
青少年教育施設は、体験活動を中心とする様々な教育プログラムの実施や、子供や若者が行う自主的な活動の支援により、青少年の健全な育成や青少年教育の振興を図ることを主たる目的として設置された施設である。
独立行政法人国立青少年教育振興機構は、国立青少年教育施設(全国28施設。第4-5図)を通じて、様々な体験活動などの機会を提供しており、平成29(2017)年度は約510万人に利用されている。また、教育的研修支援や青少年教育に関する調査研究等を実施し、それらの成果を全国の公立青少年教育施設や関係団体へ普及している。

イ 都市公園(国土交通省)
都市公園は、都市における緑とオープンスペースを確保し、水と緑が豊かで美しい都市生活空間の形成や都市住民の様々な余暇活動の場の提供のため設置されており、スポーツやレクリエーション活動などを通じて、子供や若者をはじめあらゆる世代が交流を図ることができる場である。
国土交通省は、幅広い年齢層の人々が自然との触れ合いやスポーツ・レクリエーション、文化芸術活動といった多様な活動を行う拠点となる都市公園の整備を推進している8。
ウ スポーツ活動の場(文部科学省)
スポーツは心身の健全な発達に重要な役割を果たすものである。体育・スポーツ施設9は、青少年をはじめとする地域住民の日常スポーツ活動の場であり、近年のスポーツニーズの多様化・高度化に伴い、魅力的な施設づくりが望まれている。国民の日常生活における体力づくりやスポーツ活動の場や子供の身近な外遊びの場が不足している今日、地域住民の最も身近なスポーツ活動の場として、学校体育施設を地域住民に対し積極的に開放することも望まれている。
文部科学省は、国民の誰もがいつでも身近にスポーツに親しむことができる環境を整備するため、総合型地域スポーツクラブなどの地域におけるスポーツ環境の充実を図っている。
エ 自然公園(環境省)
自然公園は、優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ることにより、国民の保健、休養、教化に資するとともに、生物の多様性の確保に寄与することを目的として指定されており、子供や若者をはじめ広く国民の自然とのふれあいや野外活動の場として重要な役割を果たしている。平成30(2018)年度末現在、国立公園34か所10、国定公園56か所、都道府県立自然公園311か所が指定されている。平成28(2016)年における自然公園の利用者は、延べ約9億人に達している。
環境省は、自然とのふれあいを求める国民のニーズに対応するため、平成30年度は、29の国立公園において直轄事業を行い、46都道府県の国立・国定公園では自然環境整備交付金及び環境保全施設整備交付金を交付し、歩道、園地、休憩所などの安全で快適な公園利用施設の整備や既存施設の長寿命化対策を推進している。このほか、環境学習・保全調査や過去に損なわれた自然環境を再生するための自然再生事業、新宿御苑などの国民公園における施設整備を実施し、広く国民に供している。
オ 水辺空間の整備(文部科学省、国土交通省、環境省)
国土交通省、文部科学省、環境省は、地域の身近に存在する川などの水辺空間(「子どもの水辺」)における環境学習・自然体験活動を推進するため、「『子どもの水辺』再発見プロジェクト」を実施している。「子どもの水辺」は平成30(2018)年度末時点で、305か所が登録されている。市民団体や教育関係者、河川管理者が一体となった取組が行われているほか、「子どもの水辺サポートセンター」11による水辺の安全利用のための情報提供や学習プログラムの紹介といった支援を行っている(第4-6図)。安全確保や親水空間確保のための水辺の整備が必要な場合には、「水辺の楽校(がっこう)プロジェクト」12により、水辺に近づきやすい河岸整備などを実施している。

カ レクリエーションの森の整備(農林水産省)
林野庁は、国有林野を国民の保健・文化・教育的利用に積極的に供するため、自然休養林などの「レクリエーションの森」13の活用を推進している(第4-7図)。平成30(2018)年4月1日現在、全国881か所、34万ヘクタールをレクリエーションの森として設定しており、平成29(2017)年度には延べ1億4千万人が利用している。また、この中でも特に優れた景観を有する等、地域の観光資源として潜在能力の高い93箇所を平成29年に、「日本(にっぽん)美しの森 お薦め国有林」として選定し、ホームページ14等で各地域の特徴や体験できるアクティビティの紹介等を行っている。

キ 被災地における学び・交流の場づくり(文部科学省)
文部科学省は、被災地においても学校・公民館などを活用して、被災した子供たちの放課後や週末などにおける安心安全な居場所づくりや学習・交流活動を支援しており、被災地の地域コミュニティの再生にも寄与している。
ク 道路、路外駐車場、公園、官庁施設、公共交通機関等のバリアフリー化の推進(警察庁、国土交通省)
国土交通省は、「どこでも、だれでも、自由に、使いやすく」というユニバーサルデザインの考え方を踏まえた「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平18法91)(以下「バリアフリー法」という。)に基づき、施設など(旅客施設、車両等、道路、路外駐車場、都市公園、建築物など)の新設などの際の「移動等円滑化基準」への適合義務、既存の施設などに対する適合努力義務を定めるとともに、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」において、令和2(2020)年度末までの整備目標を定めている。平成29(2017)年度においては、バリアフリー法を取り巻く環境の変化を踏まえ、また、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機として、共生社会の実現を目指し、全国において更にバリアフリー化を進めるため、第196回国会において「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律」(平30法32)(以下「改正バリアフリー法」という。)が成立した。加えて、改正バリアフリー法の施行に向けて、必要な政省令等を公布した(平成30年11月1日施行。ただし、一部の規定は平成31年4月1日施行。)。交通政策基本法(平25法92)に基づく交通政策基本計画(平成27年2月閣議決定)においても、バリアフリーをより一層身近なものにすることを目標の一つとして掲げており、これらを踏まえながらバリアフリー化の更なる推進を図っている。また、市町村が作成する移動等円滑化促進方針及び基本構想に基づき、移動円滑化促進地区及び重点整備地区において重点的かつ一体的なバリアフリー化を推進しているとともに、バリアフリー化の促進に関する国民の理解を深め、協力を求める「心のバリアフリー」を推進するため、高齢者、障害者などの介助体験や疑似体験を行う「バリアフリー教室」などを開催しているほか、バリアフリー施策のスパイラルアップ(段階的・継続的な発展)を図っている。具体的なバリアフリー化における取組として、
- 歩行空間については、駅、官公庁施設、病院等を結ぶ道路や駅前広場等において、高齢者・障害者をはじめとする誰もが安心して通行できるよう、幅の広い歩道の整備や歩道の段差・傾斜・勾配の改善、無電柱化等を推進している。また、令和元(2019)年度においては、新設又は改築を行う際に道路移動等円滑化基準に適合させなければならない特定道路の指定を拡大し、全国の主要鉄道駅周辺等の道路のユニバーサルデザイン化を推進する。
- 全国の高速道路のサービスエリア及び国が整備した「道の駅」において、概ね3年以内に、24時間利用可能なベビーコーナーの設置、屋根付きの優先駐車スペースの確保等を完了させるなど、高速道路のサービスエリアや「道の駅」における子育て応援の取組みを推進している。
- 水辺空間については、治水上及び河川利用上の安全・安心に係る河川管理施設の整備により、良好な水辺空間の形成を推進している。
- 都市公園については、子供から高齢者まで幅広く安全で快適に利用することができるよう、園路の段差解消や誰もが使いやすいトイレの整備などを行っている。
- 窓口業務を行う官署が入居する官庁施設については、バリアフリー法に基づく建築物移動等円滑化誘導基準に規定された整備水準の確保などにより、妊婦、乳幼児連れの人をはじめ全ての人が、安全に、安心して、円滑かつ快適に利用できる施設を目指した整備を推進している。
- 建築物については、バリアフリー法に基づく認定特定建築物等のうち一定のものについては、スロープ、エレベーターなどの整備に対する助成によりバリアフリー化の一層の促進を図っている。
- 公共交通機関については、バリアフリー法に基づき公共交通事業者などに対して、旅客施設の新設・大規模な改良や車両などの新規導入の際に移動等円滑化基準に適合させることを義務付け、既存施設については同基準への適合努力義務を課しているとともに、その職員に対し、バリアフリー化を図るために必要な教育訓練を行うよう努力義務を定めている。さらに、鉄道駅など旅客ターミナル、旅客船のバリアフリー化やノンステップバス、リフト付きバス、福祉タクシーの導入などに対する支援措置を実施している。
- 鉄道車両のベビーカー・車椅子優先スペースについて、「公共交通移動等円滑化基準」を改正し、4両編成以上には1列車2箇所以上に設置することを義務付けするとともに、「バリアフリー整備ガイドライン」を改訂し、通勤型列車においては、1車両1箇所以上に設置することを標準とした。さらに、鉄道駅などの旅客施設におけるエレベーターについて、利用の状況に応じた複数化・大型化を義務付けるとともに、妊産婦、ベビーカー使用者、高齢者、障害者等の「優先マーク」の掲出を標準とした。
- 平成26(2014)年3月に定められたベビーカー利用に配慮する統一的な「ベビーカーマーク」(第4-8図)や「ベビーカー利用に当たってのお願い(呼び掛け)」により、「ベビーカーの安全な使用」や「ベビーカー利用への理解・配慮」を呼び掛けるチラシやポスターを作成し、普及・啓発を図るキャンペーン等を実施している。今後も、ベビーカー使用者や周囲の方に対して、理解・協力を呼び掛けていく。
国土交通省と警察庁は、バリアフリー法における重点整備地区内の主要な生活関連経路を構成する道路に設置されている信号機などについては、令和2年度までに、原則として全ての当該道路において、音響信号機、歩行者感応信号機などの信号機の設置、歩行者用道路であることを表示する道路標識の設置、横断歩道であることを表示する道路標示の設置などのバリアフリー化を実施することを目標としている(第4-9図)。

ケ 公園遊具の安全点検(国土交通省)
国土交通省は、遊具の安全確保を図り、安全で楽しい遊び場づくりを推進するため、「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」の周知徹底に取り組んでいる15。
4 子供・若者が犯罪等の被害に遭いにくいまちづくり
(1)子供・若者が犯罪等の被害に遭いにくいまちづくり
近年、幼い子供が被害者となる犯罪が多発し、子供を取り巻く環境は厳しいものとなっている。また、自然災害の際には、児童福祉施設や幼稚園などの災害時要援護者関連施設では、子供が自然災害から身を守るために安全な場所に避難するなどの一連の行動を取るために支援を要する。
このため、子供が犯罪や災害などの被害に遭いにくい環境を創出するために次のような取組を行っている。
ア 通学路やその周辺における子供の安全の確保のための支援(警察庁)
警察は、「登下校防犯プラン」(平成30(2018)年6月22日登下校時の子供の安全確保に関する関係閣僚会議決定)を受け、通学路や通学時間帯を考慮した警戒・パトロールの重点的な実施を図るとともに、スクールサポーターや防犯ボランティア等の関係団体と連携した見守り活動を推進している。また、子供が犯罪に遭った場合や、声掛けやつきまとい等により犯罪に遭うおそれがある場合に助けを求めることができる「子供110番の家」16(第4-10図)の活動に対する支援を行っている。

COLUMN NO.6
登下校時における子供の安全確保~「登下校防犯プラン」~
平成30(2018)年5月、新潟市において下校途中の児童が殺害され未来ある尊い命が奪われるという痛ましい事件が発生した。
従来、登下校時における子供の安全を確保するための対策については、地域の現場において多岐にわたる取組が行われてきた。しかし、既存の防犯ボランティアが高齢化し、担い手が不足しつつあることに加えて、共働き家庭の増加に伴い保護者による見守りも困難になっている。また、放課後児童クラブ・放課後子供教室等で放課後を過ごす子供が増加するなど、下校・帰宅の在り方も多様化している。このため、従来の見守り活動に限界が生じ、「地域の目」が減少した結果、「見守りの空白地帯」が生まれている。
この「見守りの空白地帯」における子供の危険を取り除き、今回のような事件が二度と発生しないよう対策を強化することは、関係省庁が横断的に取り組むべき課題と考えられる。このため、政府においては、「登下校時の子供の安全確保に関する関係閣僚会議」を開催し、従来の取組を検証した上で、同年6月22日に「登下校防犯プラン」を取りまとめた。
「登下校防犯プラン」では、「地域における連携の強化」、「通学路の合同点検の徹底及び環境の整備・改善」、「不審者情報等の共有及び迅速な対応」、「多様な担い手による見守りの活性化」、「子供の危険回避に関する対策の促進」の5つを柱として、施策を推進することとしている。
登下校時における子供の安全確保のため、同プランに掲げる各施策について、関係省庁が連携の上、各種取組を推進している。
なお、関係省庁の施策や各地域の取組等の情報は、内閣府が設置した「登下校防犯ポータルサイト」に掲載されている。


イ 道路、公園等の公共施設や共同住宅における防犯施設の整備等の推進(警察庁、国土交通省)
警察庁は、「安全・安心まちづくり推進要綱」に基づき、防犯に配慮した公共施設などの整備・管理の一層の推進を図っている。
警察庁、国土交通省、経済産業省と建物部品関連の民間団体からなる「防犯性能の高い建物部品の開発・普及に関する官民合同会議」は、侵入までに5分以上の時間を要するなどの一定の防犯性能を有する「防犯建物部品」の開発とその普及に努めている。また、警察庁と国土交通省の協力の下、住宅・防犯設備関連団体が「防犯優良マンション標準認定基準」を作成し、周知を図るなど、防犯に配慮した共同住宅の整備を推進している。
国土交通省は、住宅性能表示制度において、開口部の侵入防止対策を「防犯に関すること」として性能表示事項とし、防犯に配慮した住宅の普及を進めている。
ウ 児童福祉施設や幼稚園などにおける災害対応の推進(国土交通省)
国土交通省は、児童福祉施設や幼稚園等の要配慮者利用施設を保全するため、第4次社会資本整備重点計画に基づき土砂災害から人命を守る施設の整備を重点的に実施している。あわせて、災害時における子供等要配慮者の円滑かつ迅速な避難を確保するため、「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(平12法57)に基づき、土砂災害警戒区域等に関する基礎調査結果の公表及び区域指定により危険な区域を明示し、市町村地域防災計画において土砂災害警戒区域内の要配慮者利用施設の名称及び所在地、土砂災害に関する情報伝達体制等を定めるとともに、これら要配慮者利用施設の管理者等に対して避難確保計画の作成及び避難訓練の実施を義務付けることにより警戒避難体制の充実・強化を図る等、ハード・ソフト一体となった対策を推進している。
(2)安心して外出や外遊びができる環境の整備
ア 通学路の交通安全対策(警察庁、文部科学省、国土交通省)
文部科学省、国土交通省、警察庁は、平成24(2012)年度に実施した通学路の緊急合同点検の結果を踏まえ、学校、教育委員会、道路管理者、警察などの関係機関が連携して実施する通学路の交通安全対策を支援するとともに、各地域における定期的な合同点検の実施や対策の改善・充実などの継続的な取組を支援するなど、通学路における交通安全の確保に向けた取組を推進している。
警察は、道路交通の実態などに応じ、学校、教育委員会、道路管理者などの関係機関と連携し、信号機や横断歩道の整備などの対策を推進している。
文部科学省は、特に対策が必要な市町村に対し、通学路安全対策アドバイザーを派遣し、専門的な見地からの必要な指導・助言の下、学校、教育委員会、関係機関の連携による通学路の合同点検や安全対策の検討を行うほか、通学路安全対策アドバイザーの協力の下に行われる交通安全教育を支援している。
国土交通省は、学校、教育委員会、警察などの関係機関と連携し、歩道の整備、防護柵の設置、路肩のカラー舗装化などの対策を推進している。
イ 子供の不慮の事故防止(消費者庁)
消費者庁は、「不慮の事故」が子供の死因の上位を占めている現状を踏まえ、「子どもを事故から守る!プロジェクト」17を推進し、子供の事故防止に取り組んでいる。平成28(2016)年6月には、「子供の事故防止に関する関係府省庁連絡会議」(9府省庁)を設置18し、平成29(2017)年5月に、関係府省庁連絡会議を実施主体として、「子どもの事故防止週間」を新たに定め、関係府省庁が連携して、集中的な広報活動を実施した。
また、保護者等に向けた注意喚起を行うとともに、事故予防の豆知識などをメールマガジンやツイッターで発信している。そのほか、各地の子供関連イベントに積極的に参加するなど、子供の事故防止に関する啓発活動を行っている。
ウ 生活道路における交通安全対策の推進(警察庁、国土交通省)
警察庁と国土交通省は、生活道路における子供などの安全な通行を確保するため、空間そのものを安全にするという視点に立って、区域(ゾーン)の設定による最高速度30km/hの区域規制、路側帯の設置・拡幅、物理的デバイスの設置などの車両の速度抑制方策を効果的に組み合わせ、市街地や住宅地における人優先エリアの形成を図っている。
エ 自転車利用環境の整備(警察庁、国土交通省)
国土交通省と警察庁は、車道通行を基本とした安全な自転車通行空間を早期に確保するため、「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」(平成28年7月一部改定)の周知を図っている。また、「自転車活用推進計画」(平成30年6月閣議決定)に基づき、自転車の交通ルール遵守の効果的な啓発や、歩行者・自転車・自動車の適切な分離など、安全で快適な自転車利用環境の創出に向けた取組を推進している。