第6章 創造的な未来を切り拓く子供・若者の応援(第1節)

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第1節 グローバル社会で活躍する人材の育成

1 自国の伝統・文化への理解促進等(文部科学省)

国際社会で活躍する日本人の育成を図るためには、我が国や郷土の伝統や文化を受け止め、その良さを継承・発展させるための教育を充実させることが必要である。このため、平成29(2017)年に改訂した新学習指導要領においては、各教科等において、古典など我が国の言語文化、県内の主な文化財や年中行事、我が国や郷土の音楽、和楽器、武道、和食や和服などの指導を充実することとしている。

2 外国語教育の推進(文部科学省)

グローバル化が急速に進展する中で、外国語によるコミュニケーション能力は、これまでのように一部の業種や職種だけでなく、生涯にわたる様々な場面で必要とされることが想定され、その能力の向上が課題となっている。文部科学省では、小・中・高等学校を通じた英語教育改革を進めるため、グローバル化に対応した教育環境の整備や新学習指導要領の方向性について議論を重ねてきたところであり、平成28(2016)年12月21日には中央教育審議会より「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」が示され、小・中・高等学校で一貫した目標の作成、小学校中学年(3・4年生)における外国語活動や高学年(5・6年生)における教科としての外国語の導入、中・高等学校における外国語教育の改善・充実等が提言された。これを踏まえ、文部科学省において学習指導要領の改訂を行った。

文部科学省としては、外国語教育の更なる充実・強化を図るため、新学習指導要領の全面実施に向けた教材の整備、外国語指導助手(ALT:Assistant Language Teacher)の活用等による指導体制の充実などに取り組んでいる。

また、総務省及び外務省と共に「語学指導等を行う外国青年招致事業(JETプログラム:The Japan Exchange and Teaching Programme)」を推進している。本プログラムは外国語教育の充実や、地域レベルでの国際交流の進展を図ることを通じて、諸外国との相互理解を増進するとともに、我が国の国際化の促進に寄与することを目的としている。本プログラムにALTとして活躍する参加者は児童生徒が授業で生きた外国語に触れたり、実際に外国語を使ったりする機会を充実させるために重要な存在であり、平成30(2018)年度は、本プログラムにより30か国から招致した5,044人のALTが学校などで語学指導や国際理解のための活動に従事している。

3 海外留学と留学生受入の推進等(文部科学省)

日本人の海外留学者数は、平成28(2016)年に55,969人であり、平成16(2004)年をピークに減少傾向にある。主な留学先は、平成12(2000)年には6割がアメリカ、2割弱が中国であったが、平成28年にはアメリカは3割強、中国は2割強となっている(第6-1図)。一方、外国人留学生は増加を続けており、平成30(2018)年5月1日現在で298,980人である。国・地域別でみると、約4割が中国からの留学生となっている(第6-2図)。

文部科学省は、異文化体験や同世代の外国人との相互コミュニケーションといった国際交流を通じて、初等中等教育段階から多様な価値観に触れる機会を確保することにより、子供に国際的な視野を持たせ、自らが主体的に行動できるようなグローバル人材の基盤を形成するため、都道府県や民間団体が行う以下のような取組を支援している1

  • 高校生に対する海外留学費用の一部支援や外国人高校生の日本の高校への招致
  • 留学フェアの開催

そのほか、ドイツやオーストラリアなどの外国政府や海外大学が主催する高校生派遣・招致事業の募集や選考、派遣に協力している。

また、平成26(2014)年度から、社会課題に対する関心と深い教養、コミュニケーション能力、問題解決力等の国際的素養を身に付け、将来、国際的に活躍できるグローバル・リーダーの育成に資する教育課程等の研究開発及び実践を行う高等学校等を「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」として平成26年度に56校、平成27(2015)年度に56校、平成28年度に11校の計123校を指定し、支援している。

4 海外子女教育の充実(文部科学省)

我が国の国際化の進展に伴って多くの日本人が子供を海外に同伴しており、平成30(2018)年4月現在、海外に在留している義務教育段階の子供の数は84,247人となっている。

文部科学省では、海外子女教育の重要性を考慮し、日本人学校や補習授業校の教育の充実・向上を図るため、日本国内の義務教育諸学校の教師を派遣するとともに、退職教師をシニア派遣教師として派遣するなど、高い資質・能力を有する派遣教師の一層の確保に努めている(平成30年度は現職派遣教師989人、シニア派遣教師274人、プレ(正規教師を目指す臨時採用教師等)派遣教師11人)。

さらに、教育環境の整備として、義務教育教科書の無償給与、教材の整備、通信教育などを行っている。

このほか、外国における災害、テロ、感染症などに対応するため、在外教育施設派遣教員安全対策資料の作成などを行うほか、有事の際には、関係省庁や現地の在外教育施設などと緊密な連携を図り、教職員や児童生徒の安全確保に努めるとともに、臨時休校等のため一時帰国した児童生徒の就学機会が確保されるよう、都道府県教育委員会等に周知を図っている。

なお、海外子女教育・帰国児童生徒教育に関する情報は、総合ホームページ(通称「CLARINET(クラリネット)2」)に掲載している。

5 オリンピック・パラリンピック教育の推進(文部科学省)

平成25(2013)年9月の国際オリンピック委員会(IOC)総会において、2020年オリンピック・パラリンピック競技大会を東京で開催することが決定した。国内では、令和2(2020)年の東京大会まで1年余となり、大会に向けた準備が加速している。

オリンピック憲章では、オリンピック精神(以下「オリンピズム」という。)は、「肉体と意志と精神のすべての資質を高めバランスよく結合させる生き方の哲学」であり、「スポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求するものである」とされている。また、オリンピック・ムーブメントの目的は、「オリンピズムとオリンピズムの価値に則って実践されるスポーツを通じ、若者を教育することにより、平和でより良い世界の構築に貢献する」こととされており、パラリンピックは、そのビジョンとして「パラリンピックアスリートが、スポーツにおける卓越した能力を発揮し、世界に刺激を与え興奮させることができるようにすること」を掲げている。さらに、パラリンピック・ムーブメントの発展により「スポーツを通じ、障害のある人にとってより良い共生社会を実現する」ことを究極の目標としている。

文部科学省では、子供たちがオリンピック・パラリンピックを通じて、スポーツの価値への理解を深めるとともに、規範意識を養い、国際・異文化理解、共生社会への理解等を深めるため、オリンピック・パラリンピック・ムーブメントの中核の一つであるオリンピック・パラリンピック教育を全国で展開している。

平成27(2015)年2月には、オリンピック・パラリンピック教育を推進するための基本的な考え方や具体的な内容・手法について検討を行う「オリンピック・パラリンピック教育に関する有識者会議」を開催し、平成28(2016)年7月に最終報告を発表した。また、平成27年度はオリンピック・パラリンピック教育の推進のための効果的手法等に関するより実践的な調査研究を実施し、その成果を広く発信することにより、オリンピック・パラリンピック・ムーブメントを日本全国へ波及させるための土台を整備する「オリンピック・パラリンピック・ムーブメント調査研究事業」を実施した。

平成28年度以降は、有識者会議における検討や上記の調査研究の成果も踏まえ、全国各地に、オリンピック・パラリンピック教育を推進する拠点を設置し、2020年東京大会への機運を醸成するとともに、スポーツの価値やスポーツを通じた国際貢献・共生社会への理解を深める「オリンピック・パラリンピック・ムーブメント全国展開事業」を実施している。平成29(2017)年度は20府県市、平成30(2018)年度は34道府県市に拡大したほか、上記受託者である筑波大学、日本体育大学、早稲田大学のほか、公益財団法人日本オリンピック委員会、日本パラリンピック委員会、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、東京都などを招いて全国中核拠点会議を実施している。会議では、それぞれの最新の取組を共有し、実施地域に提供することでこれからの取組にいかすことを目的としている。

6 持続可能な開発のための教育(ESD)の推進(文部科学省、環境省)

ESDとは、地球規模の課題を自分のこととして捉え、身近なところから取り組むことにより、課題の解決につながる新たな価値観や行動を生み出すこと、そしてそれによって持続可能な社会を創造していくことを目指す学習や活動であり、ユネスコ(UNESCO:国際連合教育科学文化機関)が中心となり、これまで世界中で取り組まれている。

我が国においても、「国連持続可能な開発のための教育の10年」(2005年-2014年)の開始当初からESDの推進に積極的に取り組んできており、「ESDに関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)」に基づき、平成28(2016)年に「ESDに関する関係省庁連絡会議」(文部科学事務次官と環境事務次官が共同議長)において策定した「我が国におけるGAP実施計画(ESD国内実施計画)」に沿って、ESD推進のための様々な施策を展開している。

具体的な施策として、文部科学省では、ユネスコスクール3をESDの推進拠点として位置づけ、ユネスコスクール全国大会の開催等を通して、ユネスコスクールの活動の振興を図っている。また、地域の多様なステークホルダーによるESDコンソーシアムの形成のほか、若者のESD活動への参画促進とネットワーク構築のためのESD日本ユース・コンファレンスの開催等を行っている。これらの取組を通して、グローバルな課題の解決にも貢献する、持続可能な社会づくりの担い手を育む。

7 国際交流活動(内閣府、外務省、文部科学省)

(1)船・航空機を用いた青年の国際交流(内閣府)

内閣府は、日本と世界各国の青年の交流を通じ、国際社会・地域社会で活躍する次世代グローバル・リーダーを育成することを目的に、航空機による派遣・招へい又は船による多国間交流を行う6つの青年国際交流事業を実施している(第6-3図)。平成30(2018)年度は、「国際青年育成交流事業」、「日本・韓国青年親善交流事業」、「日本・中国青年親善交流事業」、「東南アジア青年の船事業」、「世界青年の船事業」、「地域課題対応人材育成事業『地域コアリーダープログラム』」を実施した。これらの事業では、各国の若者とのディスカッションや交流活動の企画・実施における協働、共同生活、文化交流、訪問国での施設訪問やホームステイ、ボランティア活動などの多様な研修・交流プログラムを実施している。こうした活動を通じて、参加した若者は、リーダーシップ能力や異文化対応力を向上させるとともに、国境を越えた末永く続く深い友好関係を構築している。特に平成30年度は、「世界青年の船事業」を明治150年関連施策の一つとして実施し、明治期以来の日本のグローバル人材育成の精神を再認識し、現代にいかすという趣旨の下、あらゆる分野における「日本の強み」に関する知識の習得、外国青年とのディスカッション等を通じて、日本の良さを世界に発信できる青年の育成に取り組んだ。青年国際交流事業に参加した我が国の若者は、これまでに17,400人を超え、事業で得た成果を社会に還元するため、青少年育成や人道的支援、国際交流などの社会貢献活動を活発に行っている。また、日本青年国際交流機構を自主的に組織し、世界40か国以上で設立された外国の若者のOB・OG組織や全国47都道府県で設立された青年国際交流機構と連携して、諸外国と地域につながるネットワークを構築している。

第6-3図 青年国際交流事業

COLUMN NO.7
 青年国際交流の推進~内閣府「国際青年交流会議」について~

内閣府では、日本の青年たちに、航空機や船を用いた諸外国の青年との交流の機会を提供し、人材育成を行う様々な青年国際交流事業を行っている。これらの事業は、青年相互の友好と理解を促進するとともに、青年の国際的視野を広げ、次代を担うにふさわしい国際性を備えた健全な青年を育成することを目的としている。

その中でも最も古い歴史を持つのが「国際青年育成交流事業」である。約60年前の昭和34(1959)年度に現在の上皇陛下の御成婚を記念して開始した青年海外派遣事業と、昭和37(1962)年度に開始した外国青年招へい事業の2つの事業を、現在の天皇陛下の御成婚を記念して継承・発展させた事業が本事業である。本事業は、平成6(1994)年度から25年間実施し、これまでに延べ約3,200名の国内外の青年が参加している。

本事業の中で特に特徴的な行事が2泊3日の合宿型ディスカッションプログラムの「国際青年交流会議」である。この会議では、例年、9月に海外3か国にそれぞれ派遣された日本青年と、10月に日本でのプログラムのために招へいされた6か国の外国青年とが東京で一堂に会し、国際課題等について議論を行う。平成30(2018)年度の会議には、日本青年を派遣したオーストリア、ラオス、ラトビアの3か国に、チリ、ドミニカ共和国、ベトナムを加えた6か国から外国青年を招へいした。

平成30年度の会議では、「持続可能な開発目標(SDGs)」を総括テーマとし、「キャリア形成」、「メディアリテラシー」及び「多文化共生」の各分野について議論を行った。また、パートナーシップを通じた青年の社会参加・社会活動を促すため、分野横断型の議論も推し進めた。

会議2日目には皇太子同妃両殿下(現天皇皇后両陛下)の行啓を賜り、各国青年の代表者9名によるディスカッションを御視察いただいた。「水と災害」を題材に、持続可能な開発目標(SDGs)とパートナーシップについて青年たちが議論する様子を御覧いただき、議論終了後にも青年一人一人に時間をかけてお声掛けいただいたことは、青年たちにとって貴重な経験となった。皇太子殿下にはその後のレセプションにも御臨席いただき、各国の代表者と御懇談いただいた。

皇室と縁の深いこの事業は、2019年のお代替わりを契機に、「国際社会青年育成事業」に生まれ変わる。「国際青年育成交流事業」を行ってきた25年の間にグローバル化が急速に進展したことを踏まえ、①地域ごとに抱える特定の国際課題をテーマに設定するとともに、②派遣国を1か国から2か国に増やすことで、複数の国のケース・スタディを行う形に発展させる。日本の青年に対して、より多角的な国際的視野を養う機会を提供することができるようになるものと考えられる。「国際青年交流会議」も継続・発展し、天皇陛下に御即位後も引き続きお務めになる行事として、5年に一度の御臨席を賜ることになった。内閣府としては、引き続き、より現代のグローバル社会で活躍できる、国際的視野を持つ青年育成に注力していくこととしている。

青年たちの議論を御覧になる皇太子同妃両殿下(現天皇皇后両陛下)
会議参加者による集合写真

(2)青少年の国際交流(文部科学省)

文部科学省は、子供や若者が国際社会の一員であることを自覚し、自分とは異なる文化や歴史に立脚する人々と共生していくことが課題となっていることから、平成30(2018)年度は、「地域における青少年の国際交流推進事業」等を実施し、子供や若者が国内外の様々な人々との交流を通して、多様な価値観に触れる機会を提供した。

独立行政法人国立青少年教育振興機構においても、様々な国際交流事業を実施している。例えば、絵本・童話を通してお互いの文化の特徴や共通性の認識を深めることを目的とする「日中韓子ども童話交流事業」を実施している。この事業は、小学4年生から6年生にあたる日本・中国・韓国の子供100名が6泊7日の間行動を共にし、理解を深め合うもので、日中韓3か国で巡回開催している。平成30年度は日本で開催し、令和元(2019)年度は中国で開催される予定である。

(3)スポーツを通じた国際交流(外務省、文部科学省)

スポーツを通じた国際交流は国際相互理解を促進し国際平和に大きく貢献するとともに、青少年の身体・精神の健全な成長にも重要な役割を果たす。スポーツ庁は、公益財団法人日本スポーツ協会が行うアジア地区とのスポーツ交流事業や公益財団法人日本オリンピック委員会が行う国際競技力向上のためのスポーツ交流事業等に対して、青少年も含めたスポーツ国際交流を支援している。また、令和2(2020)年に向け、スポーツ庁、外務省を中心としてスポーツを通じた国際協力・国際貢献事業「Sport for Tomorrow」を官民連携で推進し、スポーツの価値を伝え、青少年の健全な成長に貢献している。

(4)その他のグローバル人材の育成に資する取組(外務省)

外務省は、国際協力機構を通じ、青年海外協力隊(JOCV)として、開発途上国が要請する技術・技能を有する満20歳から39歳までの男女を募集、選考、訓練の上、開発途上国へ原則として2年間派遣している。派遣された協力隊員は、草の根レベルの技術協力を行い、相手国の経済・社会の発展に寄与するとともに、広い国際的視野を養い、得られた知識・経験を帰国後に社会へ還元している。平成30(2018)年12月末現在、72か国に対し、1,910名(うち女性は1,066名)を派遣中であり、累積の派遣人数は、44,478名(うち女性は20,770名)である。

また、将来を担う若者の芽を育むため、諸外国の若者を日本へ招へいし、日本の若者を諸外国に派遣する事業を推進し、同世代の若者の交流プログラムを通じ、政治、経済、社会、文化、歴史、日本の外交姿勢や魅力等についての対日理解の促進及び対外発信の強化に努めている。具体的には、対日理解促進交流プログラムを実施した。


1 http://www.mext.go.jp/a_menu/01_f.htm
2 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/main7_a2.htm
3 ユネスコの理念や目的を学校のあらゆる面に位置付け、児童生徒の「心の中に平和の砦を築く」ことを目指す世界的な学校間ネットワーク。世界182か国で11,000校以上、日本国内では1,116校(平成30年11月現在)がユネスコ本部の認定を受け、ユネスコスクールネットワークに加盟している。
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