第1章 子供・若者育成支援施策の総合的な推進(特集)
特集 こども政策の新たな展開
1 こども政策の推進に係る作業部会
こども4や若者5に関する施策(以下「こども政策」という。)については、これまで、政府を挙げて、各般の施策に取り組み、様々な取組が着実に前に進められてきたものの、少子化、人口減少に歯止めがかからない。また、令和2年度には、児童虐待の相談対応件数や不登校、いわゆるネットいじめの件数が過去最多となり、令和2年は約800人もの19歳以下のこどもが自殺するなど、こどもを取り巻く状況は深刻になっており、さらに、コロナ禍がこどもや若者、家庭に負の影響を与えている。
こうした中、「経済財政運営と改革の基本方針2021」(令和3年6月18日閣議決定。以下本章においては「骨太方針2021」という。)において、「子供の貧困、児童虐待、障害、重大ないじめなど子供に関する様々な課題に総合的に対応するため、年齢による切れ目や省庁間の縦割りを排し、妊娠前から、妊娠・出産・新生児期・乳幼児期・学童期・思春期を通じ、子供の権利を保障し、子供の視点に立って、各ライフステージに応じて切れ目ない対応を図るとともに、就学時等に格差を生じさせない等の教育と福祉の連携、子供の安全・安心の確保、関係部局横断的かつ現場に至るまでのデータ・統計の充実・活用等を行い、困難を抱える子供への支援等が抜け落ちることのないような体制を構築することとし、こうした機能を有する行政組織を創設するため、早急に検討に着手する」こととされた。
これを踏まえ、令和3年7月、こども政策の推進に係る作業部会(以下「作業部会」という。)を開催し、政府において新たな行政組織の在り方等の検討を開始した。
2 こども政策の推進に係る有識者会議
作業部会と並行して、骨太方針2021に基づき、こどもを産み育てやすい環境の整備を加速化するとともに、こどもの命や安全を守る施策を強化し、こどもの視点に立って、こどもを巡る様々な課題に適切に対応するためのこども政策の方向性について検討を行うため、令和3年9月から「こども政策の推進に係る有識者会議」(以下「有識者会議」という。)(座長・清家篤 日本私立学校振興・共済事業団理事長、慶應義塾学事顧問)を開催した。同会議は、5回にわたって会合を開催し、18人の臨時構成員によるプレゼンテーション、事務局が実施した多数の当事者・関係者ヒアリングやこども・若者からのヒアリング等を踏まえ、同年11月に報告書を取りまとめた。同報告書は、座長から内閣総理大臣に手交された。

同報告書においては、少子高齢化の進行は、社会全体の根幹を揺るがしかねない、まさに「有事」とも言うべき危機的な状況にあり、また、コロナ禍により、こどもや若者、家庭を巡る様々な課題が深刻化しているなど、我が国の現状についての認識が改めて示されるとともに、今後取り組むべきこども政策として、三つの柱及び政策を進めるに当たって共通の基盤となるものが示された。

あわせて、骨太方針2021に基づき、有識者会議での議論や、「少子化社会対策大綱」(令和2年5月29日閣議決定)を踏まえ、政府を挙げて取り組む政策(中長期的な検討課題も含む)を、令和3年11月に「こどもに関する政策パッケージ」として取りまとめた。令和3年度補正予算を中心として前倒しで当面実施する施策と、来年度以降に実施・検討する施策も含めたものとの2段階で公表している。

3 こども政策の新たな推進体制に関する基本方針
令和3年12月、政府は、有識者会議の報告書で示された今後のこども政策の基本理念等を踏まえつつ、「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」(以下本章においては「基本方針」という。)を閣議決定した。基本方針においては、常にこどもの最善の利益を第一に考え、こどもに関する取組・政策を我が国社会の真ん中に据えて(「こどもまんなか社会」)、こどもの視点で、こどもを取り巻くあらゆる環境を視野に入れ、こどもの権利を保障し、こどもを誰一人取り残さず、健やかな成長を社会全体で後押しすることとし、そのための新たな司令塔として、こども家庭庁を創設することとしている。
こども家庭庁においては、これまで内閣府や厚生労働省等に分散していたこども政策の司令塔機能を一本化し、こども政策について一元的に企画・立案・総合調整を行うとともに、結婚支援から、妊娠前の支援、妊娠・出産の支援、母子保健、子育て支援、こどもの居場所づくり、困難な状況にあるこどもの支援などの事務を集約して、自ら実施することとするなど、こども政策を更に強力に進めていくこととしている。
基本方針の概要は以下のとおり。
(1)こども家庭庁の必要性、目指すもの
こども政策をさらに強力に進めていくため、常にこどもの視点に立ち、こどもの最善の利益を第一に考え、こどもまんなか社会の実現に向けて専一に取り組む独立した行政組織と専任の大臣が必要。新たな行政組織として、こどもが、自立した個人としてひとしく健やかに成長することができる社会の実現に向けて、こどもと家庭の福祉の増進・保健の向上等の支援、こどもの権利利益の擁護を任務とするこども家庭庁を創設する。こどもにとって必要不可欠な教育は文部科学省の下で充実を図る。こども家庭庁と文部科学省が密接に連携して、こどもの健やかな成長を保障する。
(2)こども家庭庁の基本姿勢
① こどもの視点、子育て当事者の視点
② 地方自治体との連携強化
③ NPOをはじめとする市民社会との積極的な対話・連携・協働
(3)強い司令塔機能
内閣総理大臣の直属の機関として、内閣府の外局とする。これまで別々に担われてきた司令塔機能をこども家庭庁に一本化し、就学前の全てのこどもの育ちの保障や全てのこどもの居場所づくりなどを主導する。各省大臣に対する勧告権等を有するこども政策を担当する内閣府特命担当大臣を必置化する。別々に運営されてきた総理を長とする閣僚会議を一体的に運営する。別々に作成・推進されてきた大綱を一体的に作成・推進する。
(4)法律・事務の移管・共管・関与
主としてこどもの権利利益の擁護、こどもや家庭の福祉・保健等の支援を目的とするものはこども家庭庁に移管。こどもの権利利益の擁護、こどもや家庭の福祉・保健等の支援とそれ以外の政策分野を含んでいるものは関係府省庁で共管。国民全体の教育の振興等を目的とするものは、関係府省庁の所管としつつ、個別作用法に具体的な関与を規定するほか、総合調整を行う。
(5)新規の政策課題や隙間事案への対応
こども政策に関し他省に属しない事務を担い、各省庁の間で抜け落ちることがないよう必要な取組を行うとともに、新規の政策課題に取り組む。
(6)体制と主な事務
内閣総理大臣、こども政策を担当する内閣府特命担当大臣、こども家庭庁長官の下に、内部部局として、企画立案・総合調整部門、成育部門、支援部門の3部門の体制を設ける。移管する定員を大幅に上回る体制を目指し、地方自治体職員や民間人材を積極的に登用する。
(7)スケジュール、安定財源の確保
令和5年度のできる限り早い時期に創設する。「こどもに関する政策パッケージ」等に基づき、こども家庭庁の創設を待たずにできることから速やかに実施。国民各層の理解を得ながら、社会全体での費用負担の在り方を含め、幅広く検討を進め、確保に努めていく。応能負担や歳入改革、企業を含め社会・経済の参加者全員が広く負担していく新たな枠組みについても検討する。


4 こども家庭庁の創設に向けて
基本方針に基づき、政府は、令和4年2月に「こども家庭庁設置法案」及び「こども家庭庁設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案」を閣議決定し、令和4年通常国会(第208回国会)に提出した。両法案の施行期日は令和5年4月1日とし、同日にこども家庭庁を設置することとしている。

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コロナ禍における子供・若者に対する政府の主な対応
本稿では、新型コロナウイルス感染症に関する政府の対応のうち、特に子供・若者を対象とした主な対応(令和4年4月末時点)を紹介する。
1.学校における対応
(1)学校における感染症対策の徹底
文部科学省では、学校における新型コロナウイルス感染症に関する対応について、国内で患者が確認され始めた当初より、手洗いや咳エチケットなどの基本的な感染症対策に努めること等を始め、国内外での流行状況等に応じて、様々な対策を周知してきた。
「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」においては、最新の知見を踏まえつつ、随時内容を更新し、必要な衛生管理についての考え方等を示している。
当該マニュアルには、医療的ケアを必要とする児童生徒等や基礎疾患等がある児童生徒等に関する対応の留意点や、障害特性に配慮した感染症対策の例示を記載するなど、障害のある児童生徒等が安心して学べる環境の整備に努めている。また、外国人学校に向けて、「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」の多言語翻訳版を作成するとともに、ホームページやメールマガジンを通じた多言語での感染症対策に係る情報提供を行っている。
現在も学校において感染者の確認が続いており、地域の感染状況に応じた感染症対策を講じつつ、引き続き児童生徒の健やかな学びが確保されるよう、文部科学省として学校や学校の設置者に対し継続した支援を行っていく。
(2)児童生徒の学習機会の確保
学校教育は協働的な学び合いの中で行われる特質を持つことに鑑み、新型コロナウイルス感染症の影響がある中においても、感染症対策を講じつつ、学校教育ならではの学びを大事にしながら教育活動を進め、最大限子供たちの健やかな学びを保障していくことが重要である。
そのために、やむを得ず学校に登校できない児童生徒に対しては、ICTも活用しながら、指導計画を踏まえた教師による学習指導と学習状況の把握を行うことが重要であることや、自宅等における学習の状況や成果を学校における学習評価に反映することができること、一定の要件により再度学校での指導において取り扱わないとすることができること等を通知において示している。また、登校日の設定や分散登校の実施、時間割編成の工夫、長期休業期間の見直し等の様々な工夫により、学校における教育活動を充実させることが重要であることも示している。
各教育委員会や学校がこうした考え方に基づき児童生徒の学習保障のための取組を着実に行うことができるよう、文部科学省において、子供たちの学びの保障のための人的体制整備として、地域の感染状況を踏まえ、感染症対策を行いつつ、子供たち一人一人のきめ細かな学習指導や心のケア等を実施するため、地域の状況に応じてスクールカウンセラー等を追加配置するための必要な支援を行った。
さらに、臨時休業中等において児童生徒が家庭でもICTを活用して学習を行うことができるよう、「GIGAスクール構想」を加速し、1人1台端末の早期実現や家庭でもつながる通信環境の整備などを進めている。加えて、児童生徒の学習の支援方策の一つとして開設した「子供の学び応援サイト」を通じて児童生徒及び保護者等が自宅等で活用できる教材や動画等を紹介している。また、同サイトでは学校の先生が研修を行ったり、学習指導を行う際の参考として使用したりするための様々な資料へのリンクをテーマ別に掲載するなど充実を図っている。
(3)高校入試、大学入試の取組
高校入試については、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の中においても、受検生が安心して臨めるよう、高校入試の実施者である都道府県教育委員会等に対し、試験会場等における感染症対策や追検査等による受検機会の確保等についての配慮を依頼し、各実施者においてこれらの措置を実施した。
大学入試については、令和2年度同様、入学志願者が安心して受験できる環境を確保するため、試験場の衛生管理体制等の構築に当たっての望ましい方法や内容を整理したガイドラインを周知し、それに基づき各大学等において感染症対策を実施した。また、新型コロナウイルス感染症に罹患した場合等にも受験機会が確保されるよう、大学入学共通テストでは、例年本試験の1週間後に実施している追試験を2週間後とし、試験場も本試験と同様に全国47都道府県に設置した。各大学に対しては、追試験の設定や別日程への振替措置を講じるよう要請し、99%の大学が対応した。さらに、令和3年度は、新型コロナウイルスの影響によりこれらの追試験等も受験することができなかった入学志願者に対し、例えば共通テストを受験できなかった場合は個別入試で合否判定することや、いずれの試験も受験できなかった場合には別途再度の追試験を設けるなど、更なる受験機会の確保を要請した。
(4)大学及び高等専門学校等における対応
①学生等の学修機会の確保
文部科学省は、大学等の教育において、豊かな人間性をかん養するためには、学生同士や学生と教職員の間の人的な交流が行われることも重要な要素であるという考えの下、各大学等における学修機会の確保と新型コロナウイルス感染症対策の徹底の両立を促すため、授業の実施に当たっての留意事項や優れた取組事例等の周知を行うとともに、各大学の授業の実施状況や講じられた工夫等についての把握に努めてきた。令和4年度の授業の実施に当たっても、学生が安心し、また十分納得した形で学修できるようにするため、各大学等に対して、十分な感染対策を講じた上での面接授業の実施など、学修者本位の教育活動の実施と新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた取組について要請を行っている。
また、授業の実施方針等について不安や疑問を抱いている学生がいる場合には、大学等の考え方や、講じている対応の必要性・合理性について丁寧に説明し、その理解を得るよう求めるほか、大学図書館をはじめとする学内施設についても、学修活動の拠点として重要な意義を有することを踏まえ、できる限り学生・研究者等の利用に供するための工夫に努めるよう要請した。
②経済的に困難な状況にある学生等への支援
文部科学省では、授業料等の納付が困難な学生等に対しては、それらの納付の猶予等の弾力的な取扱いや減免等のきめ細かな配慮をするよう、各大学等に繰り返し要請している。また、真に支援が必要な低所得世帯を対象とする高等教育の修学支援新制度(令和2年4月開始)と、より幅広い世帯を支援対象としている独立行政法人日本学生支援機構(以下「JASSO」という。)の貸与型奨学金の両制度において、家計が急変した学生等への支援を行っている。それに加え令和3年度補正予算において、今般の新型コロナウイルスの影響により厳しい状況にある学生等の学びを継続するための緊急給付金を実施している。これらの支援施策の制度を学生等が適切に利用し、一人一人の学生等に支援が届くようにするため、各大学等において学生等からの相談に対して、例えば問合せ窓口を一本化するなど、困難や不安を抱える学生等の目線に立って、確実に対応できる体制をとるように要請した。
③留学生への支援
文部科学省では、大学等に対し、日本人留学生及び留学を予定している学生や入国を予定している外国人留学生向けに、日本政府が行う検疫の内容等の必要な情報の発信に努めている。
また、日本人の留学に関し、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、JASSOが実施する感染症危険情報レベルが2以上の国・地域への渡航に対する「海外留学支援制度」や「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」などの奨学金の支援については、一時停止していたが、令和2年11月より「海外留学支援制度」の学位取得型については感染症危険情報レベルが2又は3であっても、渡航を希望する場合には、留学中における新型コロナウイルス感染症への感染防止対策や留学先大学における防疫措置等を確認した上で、海外への派遣による留学の支援を再開し、令和3年6月には大学間交流協定等に基づく1年間(実際の派遣期間9か月以上)の海外留学プログラムについて、令和4年2月には1年未満のプログラムについて、「海外留学支援制度」、「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」の奨学金による支援再開について周知をした。令和3年6月には、「留学予定者ワクチン接種支援事業」を実施し、留学先でワクチン接種が必要とされていた留学予定者に対し、大学拠点接種の中で接種が受けられるよう支援を行った。
外国人留学生については、新型コロナウイルス感染症による水際対策により、新規入国が原則停止されていたところだが、令和4年3月以降段階的な緩和がされたことを踏まえて、留学生の円滑かつ着実な入国を進めていくため「留学生円滑入国スキーム」を導入し、入国を進めているところである。
(5)在外教育施設における対応
文部科学省では、在外教育施設が臨時休業となり、日本へ一時帰国する児童生徒が国内の学校へ転入を希望する場合に円滑な受入れがなされるよう各教育委員会等に周知するとともに、保護者からの相談等に対応するための窓口を文部科学省及び公益財団法人海外子女教育振興財団に設置した。また、在外教育施設には、新型コロナウイルス感染症の影響で登校が再開できない場合であっても、「子供の学び応援サイト」の活用や1人1台端末環境における適切な学習支援をお願いしている。
2.児童虐待防止対策
厚生労働省では、学校等の休業や外出自粛が行われていた中で、子供の生活環境が変化し、児童虐待が増えることが懸念されるため、関係府省庁、地方公共団体、関係機関団体等の連携の下、これまでの取組(第3章第3節1「児童虐待防止対策」を参照)を更に推進している。加えて、子供の見守り機会が減少することにより、児童虐待のリスクが高まっている中で、今後も、地域によってはこうした状況が続くことが見込まれることから、これまでの取組に加え、様々な地域ネットワークを総動員して、支援ニーズの高い子供等を定期的に見守る体制を確保し、児童虐待の早期発見・早期対応につなげる必要がある。
3.子供の居場所づくり等への支援
新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、貧困の状況にある子供の置かれた状況が一層厳しいものとなる中、子ども食堂や学習支援等の民間の草の根の支援活動においても従来の支援活動の方法等を見直す必要が生じるとともに、子供たちが社会的孤立等に陥らないよう、子供たちと「支援」を結びつけるつながりの場づくりが必要となった。
令和3年度は、子ども食堂や学習支援などの子供の居場所づくりなどをNPO等へ委託して行う地方公共団体に対し、「地域子供の未来応援交付金」による緊急支援を行った。さらに、令和3年度補正予算において、補助率10分の10の事業を創設し、地方公共団体への支援を強化している。
4.自殺対策
自殺対策基本法及び自殺総合対策大綱に基づき、地域の実情に応じた実践的な自殺対策の取組を推進している。また、SNS等を活用した相談体制を強化し、相談から具体的支援につなげるため、地域のネットワークを活用した包括的な支援対策を構築するとともに新型コロナウイルス感染症による経済活動、社会生活及び社会的孤立等の影響から、自殺の要因となりかねない経済、雇用、暮らしや健康問題等の悪化による自殺リスクの高まりを踏まえ、民間団体が行う自殺防止に関する取組を支援している。
5.孤独・孤立対策
孤独・孤立は、新型コロナウイルス感染拡大の影響が長期化する中で、依然として深刻な社会問題となっている。政府における孤独・孤立対策については、第3章第2節1(3)「孤独・孤立対策の推進」を参照。