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イギリス・韓国における青少年のインターネット環境整備状況等調査

第II部 調査の結果

3 青少年のインターネット利用環境に関する制度、法及び政策とその背景

(4)インターネット上の違法・有害情報に対するフィルタリングなどの閲覧防止対策

Ofcomは、イギリスの自主規制に基づくインターネット上の違法・有害情報閲覧防止対策として、以下の5つを挙げている。


・フィルタリング
「3(4)ア フィルタリング」の項を参照
・コンテンツ・ラベリング
「4(3)インターネット上の情報の分類」の項を参照
・ユーザー作成コンテンツ(User Generated Contents:以下「UGC」という。)、コミュニティースタンダード
・オンライン広告規定
「4(2)オンライン広告について」の項を参照
・年齢証明
物理的な確認が困難であること、またそれを可能にするためには莫大な費用がかかること、費用をかけてシステムを構築したとしても、個人情報流出につながる可能性を更に大きくしてしまう、といった主に3つの問題を抱えており、今後の課題の一つとされている166

ア フィルタリング
(ア)背景

1996年にロンドン警視庁は、インターネット・サービス・プロバイダ協会(Internet Service Providers’ Association:以下「ISPA」という。)を通じ、ISP側に、違法コンテンツを持つ少なくとも133のニュースグループへのアクセスを禁止するよう要請した。この件に関し、議会では何の議論もなされなかったが、科学産業大臣(当時)であったイアン・タイラー(Ian Tyler)氏は「インターネット規制の法律が議会で定められるのは時間の問題」とし、ISPに対しては「責任ある」自主規制をするべきであると述べた。その結果、セイフティネットと呼ばれる合意に達し、「オフラインで違法な情報はオンラインでも違法」、「違法な情報がISPのサーバー上に掲載されているが、ISP側がそのことを知らない場合、どの程度の責任があるか」について定められた。このセイフティネットがもたらした最も大きな成果は1996年9月に設立されたインターネット監視財団(IWF)であった。
その後、2007年9月6日、ゴードン・ブラウン(Gordon Brown)首相167(当時)は臨床心理学者であるバイロン博士に報告書の提出を指示した168。6か月間に及ぶ調査の実施後、2008年、博士はバイロン報告書(The Byron Review)を政府に提出した。2010年には政権交代があったものの、現与党である保守党も、この報告書及び政策を全面的に受け入れ、続投していく旨を明らかにした。

(イ)経緯

違法・有害情報を懸念する保護者は多いが、対処法を知らない保護者も多い。バイロン博士はバイロン報告書の中で、フィルタリング機能が内蔵されているパソコンを購入することが理想的であると述べている。また、設定や使用方法もシンプルかつ明確であるべきだとしている。バイロン報告書を受け、Ofcom、英国規格協会(British Standard Institution:BSI)、内務省、各ISPとアプリケーション開発者が共同でKitemark169認証ロゴを作成した。このロゴを目印にすることで、品質と子どものインターネット安全利用が保証されたフィルタリング・ソフトウェアが保護者にとって探しやすくなることを目的としている170

図1-3-3 Kitemark認証ロゴ

図1-3-3 Kitemark認証ロゴ

(出典:Ofcom)

(ウ)インターネット接続可能端末に対するフィルタリング状況等

○フィルタリング状況
IWFが、有害・違法コンテンツに対処するためのホットラインを運営し、コンテンツに対するレイティング及びフィルタリングを実施及び促進している。インターネット上の有害コンテンツから国民を守るという従来の立場から、英国政府からの支持を受けながら活動が行われている。


○ブロッキング状況
「ア(ア)背景」で述べた警察のISPに対する要請を受けて、ISPの一つであるデーモン・インターネット(Demon Internet)は許しがたい検閲行為であると反発した。しかし、インターネット・サービス・プロバイダ協会(ISPA)のシェズ・ハミル(Shez Hamill)会長は、あるインタビューで「インターネットプロバイダはポルノ産業の宝庫のように思われている。この先入観を取り除く必要がある。ISPAの会員の多くが既にその努力をしようと足並みを揃えている中で、デーモン社は協会の概念に共感しようとしない。」171と述べ、デーモン社の態度を批判している。
最大手電話会社、ブリティッシュ・テレコム(British Telecom)グループは、2004~2006年に、IWFが作成した違法ウェブサイトのリストに基づき、そうした違法サイトへのアクセスをブロックする「クリーンフィード(Cleanfeed)」システムを導入した。同システムは、その後、約80%のISPによって使用されている。クリーンフィードは、別名サイレント・コンテンツ・フィルタリング・システムとも呼ばれ、ユーザーはクリーンフィードによって規制されていることが分からないようになっている。それゆえ、ユーザーの同意なしにサイトの閲覧に制限をかけている。
違法サイト(IWFのブロッキング・リストに追加済みのサイト)にアクセスしようとすると、接続に問題があるか、ページが存在しないといったメッセージが表示される。
2008年に行われたアンケートによれば、約90%のユーザーはクリーンフィードの存在を知らないと答えた。また、クリーンフィードというシステムを知らされた後で、システムを信用しないと回答したユーザーは約60%に上った172
また、ISPによるブロッキングの実行は、自由という権利の侵害であるとの声も上がっている。
政府による検閲行為であると批判が出る一方、規制導入の必要性を喚起する事件は既にいくつか起きている。


・オスロのテロ事件(2011年7月22日)
ノルウェーの首都オスロ中心部での爆発事件に始まり、ノルウェー人青年が郊外のウトヤ島で与党、労働党の青少年キャンプ参加者らを無差別に乱射して殺害した。テロなどとは無縁だった静かな国で起きたこの事件は、世界中を震撼させた。地元紙によれば、容疑者やノルウェーのネオナチ団体サイトを利用して匿名の会員と自動車爆弾の製造方法についてやりとりを行っており、犯行の参考にしていた可能性があるとされる。危険物製造方法やその関連情報についての情報取得、交換を可能とするインターネットが悪用されたケースといえる。


・ロンドン及びイングランド暴動(2011年8月7日)
8月4日に黒人青年が、銃犯罪の捜査をしていた警察に射殺されたことをきっかけに、ロンドン東部から全国に放火や略奪行為などの暴動が拡大した。元々は射殺された青年の遺族らが警察に不審を抱き、真実と説明を求めて警察周辺で行っていたデモであったが、夜更けから群集の一部が過激化し、携帯電話のメール及びスマートフォンからのメールやSNSのやりとりを通じ、あっという間に全国に飛び火した。暴動の拡大があまりにも早く、警察当局の対応が追いつかず、3,000人が逮捕され(うち1,600人が起訴された)、5人が命を落とした。
暴動の4日後、キャメロン(David Cameron)首相は将来的に特定危険人物のインターネット接続制限を目的として、内務大臣テレサ・メイ(Theresa May)に対し、業界幹部の招集を要請した。首相は、8月25日に、Twitter、Facebook、BlackBerryのイギリス支社代表者らとの極秘会談に出席し、犯罪撲滅を目的とするソーシャルメディアの制限(一定期間使用不可能にするなど)について話し合った。キャメロン首相は、「ソーシャルメディアが暴力のために使われているときは、一時的に閉鎖する必要がある」と述べた173

イ ブロッキングの現状とオーバーブロッキングの問題
(ア)ブロッキングの現状

多くのプロバイダによる尽力が行われているが、現実的には、有害・違法内容のブロッキングは完全ではないようである。
Ofcomの報告書によれば、市場に出ているブロッキング・ツールには完全無欠なものはなく、ブロッキングすべき内容が適切にブロッキングできていないか、オーバーブロッキングしてしまうかのいずれかになってしまっている。その理由としては、下記の6つが挙げられている174
・正確なコンテンツ分類が困難であること
・自動ツールに頼ることにより、コンテンツが間違って分類されること
・イギリスやヨーロッパのコンテンツがアメリカの機関に同一視されないこと(アメリカ英語とイギリス英語など、文化的な違いによるものから起こる)
・アメリカで使用されている用語がイギリスで認識されないこと
・ブロッキングに関する関心が不足していること
・ブロッキングに対して過剰なアプローチをする分野が存在すること


EUによるメディアの安心・安全利用に向けた取組175の一つであるSIPプログラム(Safer Internet Plus Programme)において2006年に実施されたプロジェクト、「SIP-Bench」によれば、子どもが見てもよいとされるコンテンツの8分の1がブロックされ、子どもが見たら有害とされるコンテンツの32分の1がブロックされていないという176
2011年、欧州インターネット・サービス・プロバイダ協会(EuroISPA)は、欧州議会(European Parliament)に対し、オンライン上の性的児童虐待コンテンツの完全削除を要請した177。同協会は、「ブロックした段階では、有害・違法コンテンツはオンライン上に残ったままであり、いつ誰が被害にあうかも知れない状況のままである」とし、コンテンツの削除は抜本的な対策をとるための最低限の措置であるとしている。なぜなら、児童性愛者たちの多くが、ブロッキングを迂回するノウハウに関する知識を持っており、画像を含むオンライン上の情報をコピーし、共有し続けるためである。
欧州委員会の委託により、インターネット安全プログラムの一部として英国児童インターネット安全協議会(UKCCIS)が行った調査によれば、一定のカテゴリごとのブロッキングについては実験されたすべてのツールがカテゴリ別のコンテンツをブロックすることに成功し、うち84%は各家庭のニーズに応じてカスタマイズできることが分かった。ただし、20%のツールはブロックされるべきものがブロックされていないこと(under brocking)が確認された178。ワード利用のブロックはおよそ半分のツールしか成功しなかった。UGCに関しては、フィルタリング・ツールではそれほど効果がないことも分かっている。
携帯電話のフィルタリングについては、アップル社のiPhone(内蔵型ペアレンタル・コントロール)とフィルタリング・ツールのSymbianが実験に使用された。その結果、iPhoneはウェブ・コンテンツのみのフィルタリングとなっており、Symbian は様々なフィルタリング設定ができると宣伝しているが、利用方法が複雑で、実際にはテキストや電子メールしかフィルタリングできないことが分かった。アプリケーションの使用制限に関しては、iPhoneがメール・アカウントやユーチューブ(YouTube)などのアプリケーションを使用制限できることが分かったが、コンテンツのフィルタリングとアプリケーションの使用制限の両方が可能なツールはないことが分かった。また、PCと比べて、携帯電話のフィルタリング・ツールはオーバーブロッキングの確率が高いことも判明した。

(イ)オーバーブロッキングの問題

2008年、ウィキメディア財団が運営するインターネット百科事典、「ウィキペディア」にドイツのロックバンド、スコーピオンズのアルバムの項目がエントリーされたところ、このアルバムのジャケットに、裸の少女がいかがわしいポーズをとっているイメージが使用されているため、インターネット監視財団(IWF)のブラックリストの対象となった。しかし、結果としてイメージのみならず、ウィキペディアのページそのものがブロックされたため、ユーザーからサイトにアクセスできないという苦情が殺到した。1978年児童保護法(Protection of Children Act 1978)179は、アルバムがリリースされた時点では制定されていなかったが、IWF側によれば、アルバムジャケットのイメージは「18歳以下のいかがわしい写真(画像)」に該当するため、同法が適用されるとのことであった。この他にもIWFには、2007年だけでも約3万5千件の苦情が寄せられたが、通報を受けてブロックされたイメージのうち約3分の2は合法であったとの結論がのちに下されている180
2011年11月には、ファイル保存サービスを提供するFileserveのサイトへアクセスできなくなるという事態が起きた。IWF側は問題があるとされるFileserveのURLをブロックしたのみであると説明したが、Fileserveサイトそのものへアクセスできなくなった原因は不明とされた。アクセス件数が上位10位にランクインするFileserveは、多くのユーザーによって利用されているため、この問題によってプロバイダへ多くの苦情が寄せられた181
また、ウェブサイトの内容上、多数の法律関係のサイトの閲覧が許可されない状態であるといった問題も存在する。
IWFの広報担当ジョセフ・スパーク(Joseph Spark)氏によると、フィルタリングやブロッキングで解決されない場合の対処法についての質問がIWFに多数寄せられているという。同氏は、「IWFのURLリスト(ブロッキング・リスト)は、ユーザーの通告に基づいて作成されたものであり、残念ながら万能という訳にはいかない。IWFとしては、この問題への対処法としては、何層かに分けて対処するレイヤード・アプローチ(layered approach)を使うべきであると考えている。具体的には、通告と削除(notice and takedown182)、ブロッキング、法規制の強化、支払いメカニズムの阻害である。」と述べている183

ウ 行政的措置

イギリスにおいては、政府、警察、インターネット業界と以下に挙げる関連機関が独特な協働関係を形成しながら行政的措置を進めている。

(ア)インターネット監視財団(IWF)

1996年に設立されたインターネット監視財団(Internet Watch Foundation:以下「IWF」という。)は、内務省(The Home Office)、法務省(The Ministry of Justice)、ビジネス・企業・規制改革省(The Department for Business, Enterprise and Regulatory Reform DERR:以下「DERR」という。)と密に連携しながらオンライン上の違法コンテンツ削減に尽力している民間機関である。資金面において、IWFはEUとISP企業、携帯電話会社(プロバイダと製作会社)、コンテンツ・プロバイダ、通信会社といった、多くのインターネット関連業界によって支えられている。IWFはイギリスにおける違法オンラインコンテンツに対処する主要機関であり、国としては唯一のホットラインを提供している。国際的なホットラインネットワークであるINHOPEにも会員として参加しており、イギリス国内はもちろん、海外の関連当局とも連携し、違法コンテンツの通告・削除に力を入れている。
IWFは、違法コンテンツに対する措置だけでなく、インターネットの安全利用に関する情報普及の促進にも尽力している。本報告書の「4 青少年のインターネット利用環境に関する民間機関の取組」でも述べるが、IWFは、保護者、教師、子どもたちへの注意を呼びかけるキャンペーンも行っている。また、IWFは違法コンテンツを含むウェブサイトのリストを基にしたデータベースを使い、ネットワークレベルでのフィルタリングを行う。インターネット・サービス・プロバイダ協会(ISPA)によれば、イギリスの主要プロバイダ、特に小規模のプロバイダはIWFのデータベースを活用しているため、IWFのデータベースが存在するだけでも、既に多くのインターネット利用者が違法コンテンツから守られているとしている184
IWFが通告を受けた際の対処のプロセスは図1-3-4のとおりである。

図1-3-4 違法・有害コンテンツ対処プロセス185

図1-3-4 違法・有害コンテンツ対処プロセス

(出典:IWF)

(イ)インターネット・サービス・プロバイダ協会(ISPA)

インターネット・サービス・プロバイダ協会(Internet Service Providers’ Association:ISPA)は、IWFの要求に基づき、会員企業に適切な対応をすることを義務付け、違法コンテンツの削除に貢献する民間機関である186

(ウ)内務省「児童保護のためのインターネット・タスクフォース(The Home Office Internet Task Force for Child Protection)」

内務大臣の主導により、2001年に設立されたタスクフォースは、子どものインターネット安全利用環境の改善に努めるとともに、保護者に向けた具体的なガイドラインを提供する政府機関である187

(エ)子ども・学校・家族省「ネットいじめ撲滅タスクフォース(Cyberbullying task force)」

2007年、当時の子ども・学校・家族省(The Department for Children, Schools and Families)(現・教育省)がネットいじめ対策として設立したタスクフォースは、インターネット業界関係者、教師などの学校関係者、子どものチャリティ団体、法律強化関連団体まで幅広い分野の関係者と共に、革新的かつ実用的な解決策を打ち出してきた188。2011年11月現在の教育省(The Department for Education)では、いじめ反対同盟(Anti-bullying Alliance)やBeatbullyingを始めとする、いじめ対策団体と連携し、いじめ撲滅運動やキャンペーン等の普及に努めている189

(オ)警視庁専門刑事部(Metropolitan Police Specialised Crime Directorate)

専門刑事部児童虐待捜査課は、児童保護関連団体とともに、ロンドンにおける児童虐待やに児童に対する性犯罪事件を捜査している。ハイテク犯罪チームがコンピュータによる技術的なサポートを行い、インターネット上で児童をターゲットにする犯罪を取り締まっている。また、警視庁のウェブサイトでは、インターネット上で子どものいかがわしい画像を見た際には、警視庁だけでなくインターネット監視財団(IWF)に通報が可能であることも追記している。ロンドン以外の地域に関しては、各地域の警察署に通報することができる190

(カ)児童搾取対策オンライン保護センター(CEOP)

2006年の設立以降、政府、警察、関連ビジネス分野と連携しながら児童の性的搾取に関する取締りを包括的に行っている政府関連団体である。イギリス国内だけでなく、インターポールや各国の警察といった、国外の関連当局とも緊密に連携している。オンライン上の犯罪やそのリスクの削減のため、違法コンテンツを流している組織的犯罪にも焦点を当てて取締りを行っている191

エ その他法的措置、罰則

イギリスにおける児童に対する性的虐待は、インターネット監視財団(IWF)が示す下記のいずれかの法律の下に罰せられる192。また、刑の軽重度は量刑ガイドライン審議会(Sentencing Guidelines Council)が作成したレベルに応じて決定される。ただし、「いかがわしい(indecent)」の定義については、いずれの法律においても明確にされておらず、陪審又は治安判事の解釈に委ねられている193。画像は静止画、動画すべてを対象とし、データ形式で保存可能なものを含む。各法律等ごとに、名称、制定の背景・経緯、内容、改正の議論に分類して記載する。また、本報告書ではイングランド及びウェールズの法律のみを述べることとする。

表1-3-4 性的児童虐待コンテンツに関する法律等

名称

1978年児童保護法(イングランド及びウェールズ)The Protection of Children Act 1978(England and Wales)194

背景・経緯

1977年、アメリカで児童ポルノ、児童の性的搾取の懸念が高まっていた。これを受け、シリル・タウンゼンド(Cyril Townsend)保守党議員が議員提出法案(Private Member’s Bill)を国会に提出した。その後、法制定を求める160万人分の署名を首相官邸に提出され、カトリック系保守派活動家のメアリー・ホワイトハウス(Mary Whitehouse)の活動及びメディアによる圧力の結果、同法が制定された195

内容

18歳以下のいかがわしい写真の撮影、作成、頒布、利益目的の所有等を禁止する。擬似写真も同様に扱うこととする。最高で10年間の拘禁刑と罰金が科せられる196

 

改正の議論等

過去、1994年、2008年に2度改正している。2011年11月現在のところ、改正の議論は特にない。

名称

2003年性犯罪法:主要改正点(イングランド及びウェールズ)(The Sexual Offences Act 2003(England and Wales))

背景・経緯

警察と内務省は、1997年性犯罪法の届出義務制度では不十分であるとは認識しており、1999年に性犯罪全般に関する見直しに着手していた。2000年7月に発生した当時8歳の少女サラ・ペイン(Sarah Payne)誘拐・殺人事件後に展開された新聞社のキャンペーン活動が政府の取組を一層加速させた197。2001年7月に1997年法の見直し案を公表し、一般国民の意見を求めた。寄せられた意見を反映し、2002年10月、内務大臣は性犯罪者情報の管理強化の声明を出し、同年11月に「公衆の保護(Protecting the Public)198」と呼ばれる白書を発表した。この白書を受け、2003年11月20日に2003年性犯罪法が裁可され、2004年5月に施行された。

内容

従来の1997年法に届出命令が強化された。犯罪者に住所、居所、氏名、生年月日等を警察に届け出、更新させることによって性犯罪者の現在の情報を把握する。指紋採取と写真撮影もされ、届出情報に加えることができる。違反者には拘禁または罰金が科せられる。
また、第45条により、1978年児童保護法が定める「児童」の年齢を16歳未満から18歳未満へと引き上げた199

改正の議論等

2011年11月現在、改定の議論は特にない。

名称

2003年性犯罪法の第46条に関連した検察庁と英国警察長協会間の覚書(Memorandum of Understanding: Section 46, Sexual Offences Act 2003)

背景・経緯

児童虐待の画像を作成し流通させる犯罪と闘う支援をしている際に、公共電子コミュニケーション・ネットワーク及びサービスを利用している者が罪を犯す危険にさらされる恐れがある状況に対して、その立場を明らかにすることを目的にしている。さらに、児童保護と効果的な捜査との間の均衡を保つため、違法な画像を発見し当局に報告する際に、それに関与した者と組織に対しガイダンスを提供する200

内容

2003年性犯罪法の刑事訴訟、捜査における適用除外が定められている。児童のいかがわしい写真、又は擬似写真を作成する罪に対する抗弁を限定する。この抗弁は、証拠の確保等の捜査に必要な役割を担う警察を始めとする関連当局が、後から訴えられることのないよう仕事に専念できることを目的としている201

改正の議論等

2011年11月現在、改正の議論は特にない。

名称

2006年警察司法法(Police and Justice Act 2006)

背景・経緯

1978年児童保護法を改正し、1978年法に基づき、警察が捜査をする際、裁判所に依存することなく捜査に専念できる権限を与える。警察と裁判所双方の時間節約にもなるとされる202

内容

第39条11項により、児童の不適切な写真を取り締まることを許可するメカニズムを定める203

改正の議論等

2008年4月1日現行施行後、2011年11月現在のところ、改正の議論はない。

名称

2008年刑事司法及び入国管理法(Criminal Justice and Immigration Act 2008)

背景・経緯

2003年3月に起きた高校教師殺人事件204では、当時39歳の犯人が、10代から暴力的な性嗜好を持っていたことが後の捜査で判明した。犯人は常に過激ポルノのサイトを利用しており、被害者殺害後も遺体の隠し場所を変え続け、鑑賞のために頻繁に遺体を見に行っていたために、奇怪かつ不気味な性的殺人事件として話題となった。事件後、被害者の家族は過激なポルノサイトを規制する活動を開始し、2005年8月に内務省が「過激なポルノグラフィーの所有205」の協議書を公表し、児童ポルノ以外のポルノ所有する行為そのものを犯罪化した。

内容

ポルノ関連の規定、第5部の第63条から第71条において、過激なポルノの所有、情報社会サービスプロバイダに関わる特別規則、児童のいかがわしい写真、ポルノ全般を規制する。

改正の議論等

2011年11月現在、改正の議論はない

(出典:各法律等に関する文献を参考に作成)

表1-3-5 わいせつコンテンツに関する法律

名称

1959年及び1964年わいせつ刊行物法(Obscene Publications Act 1959 and 1964)

背景・経緯

1959年法が制定されるまでは、イングランド及びウェールズにおけるわいせつ刊行物はコモン・ロー(Common Law)と1857年法(Obscene Publications Act 1857)によって規制されていた。1950年代に英国著者協会(Society of Authors)が1857年法改正を薦めるための委員会を設置し、1955年2月に内務省に法案を提出した。何度かの否決があったが、1959年7月、当時の社会民主党首ロイ・ジェンキンス(Roy Jenkins)が再度、法案を議会に提出して可決され、1959年8月29日より現行に至る。

内容

元々はわいせつな表現を含む出版物を規制するものであったが、1994年刑事裁判及び治安法(Criminal Justice and Public Order Act 1994)によって1978年児童保護法が改正され、インターネット上での児童ポルノに関する情報、及び児童を扱ったように見えるいかがわしい擬似写真(pseudo photographs)にも児童保護法が適用されることとなった。なお、「わいせつ刊行物」とは、「それを閲覧する者を堕落させ(deprave)」、腐敗させる(corrupt)ものであると定義されている。違反者は最高5,000ポンドの罰金と5年間の拘禁刑に科せられる。ただし、出版社(プロバイダ)は善意であることを自ら立証した場合には、第2条、第5項により免責される206
2008年刑事司法及び入国管理法により、拘禁刑が3年から5年に延長された207

改正の議論等

1959年法は1964年に一度改正されている。2011年11月現在のところ、改正の議論は特にない。

名称

2008年刑事司法及び入国管理法208:第63条 (Criminal Justice and Immigration Act 2008: Section 63209

背景・経緯

2008年刑事司法及び入国管理法(Criminal Justice and Immigration Act 2008)の背景・経緯に記載したとおり。

内容

2008年刑事司法及び入国管理法(Criminal Justice and Immigration Act 2008)の法律内容に記載したとおり。第67条により、違反者は最高2年の拘禁刑または罰金、または両方を科せられる210

改正の議論等

2011年11月現在、改正の議論はない。

(出典:各法律に関する文献を参考に作成)


表1-3-6 写真以外の性的児童虐待コンテンツに関する法律

名称

2009年検死官及び刑事司法改革法 (Coroners and Justice Act 2009)211

背景・経緯

1975~1998年の間に発生した医師のハロルド・シップマン(Harold Shipman)による連続患者殺人事件に対する反省点を契機として1984年検死官法を改正したものである。従来の検視官法では、不自然な死や原因不明な死については、医療現場において医師が検死官に死亡を報告し、調査を委ねるか、自分で死亡原因証明書を作成するかの判断基準について規定がなかった。

内容

第2章で児童ポルノ・イメージの所有を禁止している212。違反者は最高3年の拘禁刑または罰金、または両方が科せられる213

改正の議論等

2011年11月現在、改正の議論はない。

表1-3-7 量刑ガイドライン審議会の定める量刑レベル214

レベル

内容

レベル1

エロチックなポーズの画像(性行為はなし)

レベル2

子ども同士の性行為(挿入なし)及び子どもによる自慰行為

レベル3

子どもとの性行為(挿入なし)

レベル4

子どもとの、及び子ども同士の性行為(挿入を含む)

レベル5

サディズム、動物との性行為

(出典:量刑ガイドライン審議会ガイドライン)

表1-3-8 サービス・プロバイダに関する特別規則

名称

電子商取引指令(EU Electronic Commerce Directive 2000/31/EC)

背景・経緯

オンライン市場における免責規定を設けることによって経済成長、競争力、投資を促進する目的で、2000年6月8日の欧州議会において可決された215

内容

伝送、蓄積等される情報全般に対するサービス・プロバイダの免責について、単なる導管(mere conduit)、キャッシング(caching)、ホスティング(hosting)の3つに分けて規定している。ホスティングにおいては、サービス・プロバイダが次の要件のいずれかを満たせば免責される規定となっている。

  1. サービス・プロバイダが、利用者の要求により蓄積された情報について、違法な行為、情報に関する認識を有しておらず、かつ損害賠償のクレームとの関係では、違法な行動がそこから明白である事実、又は状況に気付いていない場合
  2. サービス・プロバイダが、かかる知識又は認知を得た際に直ちに対処した場合

また、加盟国はプロバイダに対し、自己が伝送又は蓄積する情報に関する一般的な義務を課さず、違法な活動を示す事実又は状況を積極的に追求する一般的な義務を課してはならない216。単なる導管とキャッシングは自動的、受動的、機械的なものが免責される。

改正の議論等

2011年11月現在、改正の議論はない。

名称

電子商取引(EU指令)規則 2002(Electronic Commerce (EC Directive)Regulations 2002)

背景・経緯

イギリスが、EUの2000年電子商取引の法的側面に関する指令を受けて制定。

内容

ECの電子商取引法と同様、単なる導管(mere conduit)217、キャッシング(caching)218、ホスティング(hosting)219の3つに分けて規定している。ホスティングについて、違法な行為、情報に関する知識がなく、かつ、それらがサービスプロバイダに明白となる事実、状況の認識がない場合、そのような知識、認識を得た場合、直ちに対処する場合には、蓄積の結果による損害やその他のいかなる金銭的救済、刑事的責任について責任を負わない220。児童ポルノといったコンテンツをホスティングしている認識がありながら、何も対処をしなかった場合は1978年児童保護法の第1条に違反する可能性がある。

改正の議論等

2011年11月現在、改正の議論はない。

(出典:各法律に関する文献を参考に作成)

表1-3-9 送信防止措置に関する規則

名称

1996年名誉毀損法(Defamation Act 1996)221

背景・経緯

コンピュサーブ(Compuserve)、ヨーロッパ・オンライン(Europe Online)、マイクロソフト(Microsoft)の3サービス・プロバイダが協力し、オンライン上のコミュニケーションにおける名誉毀損責任を明確化することを求めるロビー活動を行ったことにより制定された222

内容

免責事由を電子メディアのオペレーターや生放送を実施する放送事業者にまで拡張することを目的とした法律。「インターネット免責事由(Internet defence)」として知られるようになっている。
名誉を深く傷つけ、公共の面前にて個人の立場を著しく低下させた場合に成立する。最高で6か月の拘禁刑、又は5,000ポンドの罰金、若しくはその両方に科せられる。ただし、以下の要件のいずれかを満たせば免責される。

  1. 他人の名誉を傷つけたとされる言論の著者(author)、編集者(editor)、又は出版社(publisher)でないこと
  2. かかる言論の出版に際して合理的な注意を払ったこと
  3. かかる言論を出版した、又はそれに貢献した事実を知らず、そう信じる理由がないことを示すこと

また、以下に挙げる事項にかかわっただけでは、他人の名誉を傷つけたとされる著者、編集者、出版社とはみなされない。

  1. 他人の名誉を傷つけたとされる言論を含む印刷物の印刷、製造、配布、又は販売。
  2. かかる言論が録音又は録画された媒体の現像、複製、配布、又は販売。
  3. かかる言論が録音された電子媒体の運用、又はかかる言論が電子形式で引用、コピー、又は配布される機器、システム、サービスの提供。
  4. ライブ映像又は音声の配信者として、かかる言論の発信者に対して有効な抑制手段を持たない状況
  5. 通信システムの運営者又は提供者として、かかる言論を配信する人物に対して有効な抑制手段を持たない状況

改正の議論等

1996年の改正により、従来の名誉毀損の規制が、インターネット上での名誉毀損にも適用されることが明確となった。2011年11月現在、改正の議論はない。

名称

2003年通信法(Communications Act 2003)223

背景・経緯

1997年に政権の座についた労働党が、イギリスの経済政策の取組として「第3の道(Third Way)」を発表し、市場開放と競争促進を主要な施策として掲げた。通信・放送市場の融合規制への政府のアプローチは、こうした政策全体の中に位置付けられる224。2000年12月12日、電気通信を所管する当時の貿易産業省(Department of Trade and Industry(DTI))と放送分野を所管する文化・メディア・スポーツ省(Department for Culture, Media and Sport (DCMS))は、共同で「通信の新しい未来(A New Future for Communications225)を発表した。メディア融合を焦点に、Ofcomの設立を主眼とするもので、活力ある競争的なメディア市場の促進、全国民が最も高品質で多様な選択肢のあるサービスへアクセスできるようにすること、市民及び消費者の保護が掲げられた。

内容

わいせつ、又は攻撃的や脅し、嫌がらせ内容を公共の電子手段を用いて送ることを禁止する。

違反者は最高で200万ポンドの罰金が科せられる226

改正の議論等

2011年11月現在のところ、改正の議論はない。

(出典:各法律に関する文献を参考に作成)

加えて、2008年刑事司法及び入国管理法の第68条において、情報社会サービスプロバイダへの規制が定められている。過激なポルノの所有を禁ずる第63条は、EU圏内のプロバイダに適用されるが、その内容を知り得なかった場合、又は削除要請に迅速に対応した場合などは、適用が除外される。公益を深刻に損なう場合、イギリス以外のEU加盟国のサービスプロバイダを追訴することも可能とする。
国会開会の際に行われる女王演説(Queen’s Speech)227においては、現在までのところ青少年のインターネット利用環境に関して特に触れられていないが、ブロードバンドの超高速化、子どもの教育(学校の教科項目において教師に更なる自由権限を与えること)の重要性に関しては演説の中で述べられている228


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