第2章 イギリス

2 青少年のインターネット利用環境に関する世論

(2)オンライン・ブロッキングに関する世論

子どものインターネット利用環境の安全性向上を目指し、過去に数々の提言がなされてきたが、2004 年には移動体通信事業者が自主規制に踏み切り、ネットワークレベルでのフィルタリングを開始した。(この自主規制については、4(3)「オ ISP 協会の自主的行動規範」を参照)。固定網でも、子どもに有害なコンテンツをブロックするかどうか(オンライン・ブロッキング)について、政府は現在政策をまとめているところであり、2012 年に大規模なコンサルテーションが実施された155。英国で一般にコンサルテーションという場合、一般市民に影響する大規模プロジェクトや施策、法案などについて、行政が広く一般市民からの意見を求めるプロセスを指し、効率や透明性を高め、また一般市民の参加を促す目的で行われる。よって関心のある個人や団体は誰でも自由に意見を申し立てることができる。このオンライン・ブロッキングに関するコンサルテーションでは、インターネット上のポルノや、その他の有害なコンテ ンツから子供を効果的に守るためにはどうしたら良いかと言う点を中心に、政府が子供を持つ親や事業者に広く意見を求めた。具体的には、どのアプローチが効果的で技術的に実施可能か、既に改善されている点は何か、更なる改善が求められる点は何か等の問いが一般に広く投げかけられた。コンサルテーションペーパーは2012 年6 月28日にUKCCIS の会議で公表された。 オンライン・ブロッキングに関して政府が実施したコンサルテーションに対して寄せられた意見をここにまとめる。(オンライン・ブロッキングに関する詳細は、3「(2)オンライン・ブロッキングに関するコンサルテーション」参照)。

ア 世論調査の結果

2012年4月にオンラインパネル調査会社YouGov、(以下「YouGov」という)156がサンデー・タイムズ誌157と協力して実施した世論調査(サンプル数1,717人:調査対象はイギリス成人)158では、

・希望する者だけにインターネット・フィルターを設定するべきだとする人が57%

・「デフォルトON159」とすべきだとする人が36%

という結果であった。
2012年5月に同組織が実施した同じ内容の世論調査(サンプル数1,663人、イギリス成人)160では、

・希望する者だけにインターネット・フィルターを設定すべき161だとする人が52%

・「デフォルトON」とすべきだとする人が35%

という結果であった。回答者の性別、年代別、社会階層別、地域別の回答傾向の違いについては、次々ページに示すアンケート調査結果を参照されたい。
1番目の質問の主旨は以下の2点のどちらの立場を支持するかという点についてアンケート調査で確認するというものである。

<1>インターネット接続サービスのフィルタリングは、顧客がそれを望んだ場合にのみ、実施されるべきとする「オプトイン・フィルター」を支持する意見
<2>インターネット接続サービスのフィルタリングは、顧客がフィルタリングされない状態を望む場合にのみ、実施されないべきとする「オプトアウト・フィルター」を支持する意見

2番目の質問の主旨は、以下のとおりである。
ほとんどのインターネット・サービス・プロバイダーは現在オプトアウト・フィルターの導入に反対しているが、自分が見聞きした結果から、この理由についてどのように考えるか、についてアンケート調査で確認する。

表2-2-1:ISPがインターネットサイトのフィルタリングを行うことに関する意見調査(2012年5月)162
    性別 年代別(歳) 社会階層別 地域別
  合計 18~
24
25~
39
40~
59
60
以上
A,B,
C1
C2,D,
E
ロン
ドン
その
他南

部・
ウェ
ール
北部 スコ
ット
ラン
重み付けサンプル数(人) 1663 808 855 201 424 569 469 948 715 213 540 356 409 145
重みなしサンプル数(人) 1663 805 858 74 437 683 469 1102 561 244 566 323 388 142
「オプトインまたはオプトアウトの
どちらが望ましいか?」(%)
                           
オプトインが望ましい 52 65 39 61 56 53 42 53 50 53 51 50 49 61
オプトアウトが望ましい 35 24 45 27 26 34 48 35 35 35 35 32 41 29
わからない 13 11 16 12 18 14 10 12 15 12 14 18 10 10
「オプトアウトフィルタリングについて
見聞したこと、
それについての考えは?」(%)
                           
インターネット検閲原則には
反対だから
24 29 19 36 25 19 22 23 25 24 20 22 19 27
フィルタリングは効果的でなく
簡単に改造されるから
9 12 7 11 7 10 10 11 8 9 10 8 10 11
インターネット接続サービスの
フィルタリングには
経済的利益がないから
47 42 51 34 43 48 53 49 44 51 47 48 44 42
その他 1 2 0 1 2 2 0 2 0 1 2 1 1 0
わからない 19 15 23 17 23 21 14 16 23 16 22 21 16 20

(出典:ユーゴブ(YouGov)と日曜タイムズ紙(Sunday Times)が共同で実施した世論調査5月版)

なお、上記の社会階層の分類(A、B、C1、C2、D、E)とは、NRS163による以下の分類に基づく。

表2-2-2:NRSに基づく社会階層分類
等位 社会階層 主要所得者の職業
A 中上流(upper middle) 高度管理職・行政職・専門職
B 中流(middle class) 中級管理職・行政職・専門職
C1 中下流(lower middle class) 監督級管理職・行政職・専門職
C2 高度労働者階級
(skilled working class)
熟練労働者
D 労働者階級(working class) 非熟練労働者
E 最下流(the lowest) 臨時工

(出典:リサーチ会社IPSOSサイト)

イ 育児関係チャリティ団体の意見164

子どもと家族の生活向上に向けた活動を推進するチャリティ団体、「家族・子育て協会(Family and Parenting Institute、以下FPIという)」は、インターネット・サービス・プロバイダー(Internet Service Provider、以下ISPという)がネットワーク上で有害コンテンツをブロックする「デフォルトON」のシステムでは、有害なコンテンツがフィルターから漏れてしまう、または問題のないコンテンツがブロックされてしまうことが多く、有害コンテンツの遮断という面からはさほど有効ではなく、むしろ保護者が過剰な安心感を抱いてしまうため逆効果である、という意見を表明している。
「デフォルトON」というソリューションだけに依存するのではなく、すべてのメーカーがペアレンタルコントロールを機器に予め装備するように働きかけ、ISPは保護者への啓蒙活動を積極的に行っていくのが好ましいとする考えを展開した。ISPは合同で行動規範をまとめ、それへの準拠を誓うべきで、さらにフィルターやペアレンタルコントロールの効果に関する独立した立場からの評価が求められるとした。

ウ 規制反対組織の意見165166

フィルタリングを一種の検閲だとして反対を唱えるキャンペーン組織、公開権利グループ(Open Rights Group、以下「ORG」という)は、以下の<1>~<4>のとおり主張した。

<1>ネットワークレベルのフィルタリングは検閲に当たるため、政府は強制すべきではない。
<2>デフォルトでインターネットのフィルタリングを導入してしまうと、親は自分の家庭に合った決断をする権利を失ってしまう。
<3>インターネットアクセスツール市場の障害となるばかりか、業界に多大なる費用負担をもたらす。
<4>フィルタリングシステムは往々にしてオーバーブロッキングしてしまい、合法的なコンテンツまで阻害してしまう。

ORGはウェブサイトのオーバーブロッキングに反対する活動を推進している。
現在すでに移動体通信事業者がネットワークレベルでのフィルタリングを導入しているが、それによって多数のオーバーブロッキングが発生していることが報告されている。もし一般のインターネットにも同様のフィルタリングが導入されると、移動網で発生している問題がより大規模に発生してしまうとして、ネットワークレベルではなく、機器レベルでフィルタリングの適用が選択できるシステムにすべきだと主張している。

エ 有識者の意見167168

ロンドン経済大学のソニア・リビングストン(Sonia Livingston)教授は以下のように主張している。

<1>どの保護者にもインストールできる簡単なフィルターで、かつ子どもの成熟度に合わせて保護者が設定を変えることができるようなフィルターが必要
<2>子どもの権利を尊重し、親と子どもがガイドラインについて話し合えるようなものとすべき
<3>言論の自由を尊重するようなフィルターが必要。コンテンツのオーバーブロッキングが起きないようにし、正確で公開性のあるフィルターとすること
<4>完璧な安全性確保など、実現不可能である事実を前提にすること