第3章 オーストラリア

2 青少年のインターネット利用環境に関する世論

(1)連邦政府の強制的フィルタリング導入施策案に関する論争

2006年6月に1億1,660万豪ドルの予算で開始された、連邦政府315のフィルタリング施策「オーストラリアの家庭をオンラインで守る、Protecting Australian Families Online316」に関連した論争について以下に述べる。

ア 契機

同施策には、全世帯にフィルタリングソフトを無料提供する内容が含まれていた。
2007年12月には、取組を強化するため、家庭や学校から子どもが不適切なサイトへアクセスしないよう、インターネット接続サービス事業者に強制的フィルタリングシステム(=ブロッキングシステム)を導入するよう求める政策を発表した。

イ 規制案の発表

この動きに呼応して、通信・メディア庁はコンテンツサービス事業者に対して、すべてのサイトに年齢証明システムを搭載するよう求める規制案「2007年アクセス制限システム声明、Restricted Access System Declaration of 2007 317」を発表した。

ウ メディア報道

インターネット接続サービス事業者にフィルタリングシステムを導入させる詳細計画は水面下で進められていたが、2008年10月にその情報が漏れ、メディアに大きく取り上げられ、政府の検閲に関する議論が沸き起こった。

エ 非違法サイト遮断に対する反対意見

当初、議論の矛先は、禁止(refused classification、拒否分類)というレイティングレベルに相当するコンテンツに向けられたが、非違法サイトも遮断対象になる可能性があることなどから反対意見が起こった。

オ ウィキリークスURLのブラックリスト追加に関する論争

2009年3月には、匿名による政府・企業・宗教法人などの機密情報を公開するサイトであるウィキリークスが、通信・メディア庁のブロッキング対象候補ページURLのブラックリストを公開した。これに反応して、通信・メディア庁はウィキリークスのURLをブラックリストに追加した。その結果、オーストラリアはサイトを検閲する国と称されるようになった。318

カ 世論調査結果

インターネットサービス事業者に強制的なフィルタリングシステムを導入させるという政策に対しては、多方面から反対意見が出ており、複数の消費者調査で賛成派は5%前後に過ぎなかった。
非違法サイトもブロッキング対象になる可能性があること、技術的に実現するのが困難であること、回線速度が低下すること、納税者にとっての税負担が増加することなどが反対理由として挙げられている。

キ 議会での保守連合の反対

2010年8月5日には自由党をはじめとする保守連合が反対を表明し、フィルタリングシステムの導入案は事実上議会を通過しなかった319

ク 大手インターネット接続サービス事業者によるブロッキング開始発表

しかし、2011年6月には、オーストラリアの2大インターネット接続サービス事業者であるテルストラ(Telstra)とオプタス(Optus)が、通信・メディア庁が児童虐待サイトに指定したサイトや国際機関が作成したリストに基づくサイトへのアクセスを自発的にブロックすると発表している320

ケ 保守連合によるオンライン安全性への取組

その一方で、保守連合はオンライン安全性に関する作業部会を設置して「子どものためのオンライン安全性に関する討議書、Discussion Paper on Online Safety for Children」を作成し、2012年11月に発表した。
国内の約90%の高校生がフェイスブックのアカウントを持っており、ネットゲームやスマートフォン、iPadなどのタブレットが子どもの日常生活に浸透しているオーストラリアの現状において、ネットいじめや子どもが不適切なサイトにアクセスすることへの危惧に対応するため、討議書では子どもを守る対策を提起し、保護者や学校、若者、業界など関係者からの意見を求めている。
対策としては、オンラインの安全性について全国レベルで指導的な役割を担う委員会の設立や、子どもを狙った悪質な内容ならびに有害な内容をソーシャルメディアなどから即座に削除するための手順、保護者や学校に対する支援などが挙げられている。
これらは、現在のシステムでは対応しきれていない範疇のもの、例えば、違法とは言えないが子どもにとって適切ではない内容、いじめや嫌がらせ、運営母体が海外にあるサイトのコンテンツに対する迅速な対応といったものである。関係者による意見募集は、2013年3月29日まで行っている321

(2)州におけるYouTubeアクセス禁止に関する論争

322における論争としては、You Tubeアクセス禁止に関する事例がある。
17歳の少女が暴力を受ける映像が動画サイトYou Tubeにアップロードされていたことを理由に、2007年3月、全州の学校からYou Tubeへのアクセスが禁止された。これに対して、You Tubeの運営会社であるGoogleの役員をはじめとした人々が禁止措置に反対意見を唱え、論争となった。