第4章 カナダ

4 青少年のインターネット利用環境(レイティング、ゾーニング)に関する民間機関の取組や現時点における青少年のインターネット利用環境に関する民間団体の取組の内容

(2)ウェブサイト運営者とコンテンツ掲載者、フィルタリング提供業者等における民間紛争の解決活動

民間紛争については、カナダではインターネット関連紛争に特定した解決活動が実施されているわけではなく、問題が発生した場合には当事者同士(サイト運営者、掲載者、インターネット・サービス・プロバイダーなど)の間で話し合いがもたれ、そこで解決に至らない場合には、前述の「インターネット・サービス・プロバイダーによるブロッキング」や「憎悪発言に関するアクセスブロック」のケースのように、裁判所に申し立てを行う。以下は、「インターネット・サービス・プロバイダーによるブロッキング」および「憎悪発言に関するアクセスブロッキング」の事例である。

ア インターネット・サービス・プロバイダーによるブロッキング

2005年7月にカナダの インターネット・サービス・プロバイダーであるTelusは、労使紛争中にテレコミュニケーション労働組合の組合員によって運営されているサイトへのアクセスをブロッキングした。Telus側は、その理由Telusの従業員の安全およびプライバシーが侵害される危険を招く専有情報や写真がサイトに含まれていただめであると主張している481
この一方的なTelusの行動は、「サイトのコンテンツに関する責任を免除される代わりに、カナダのインターネット・サービス・プロバイダー はコンテンツにかかわらずあらゆる情報を流す」という一般的慣行を逸脱するものであった。
また、それだけでなく、この行為は、カナダ電気通信法(Canadian Telecommunications Act)の第36条にも違反している。同条では、「カナダの通信事業者は、カナダ・ラジオテレビ通信委員会(CRTC)による承認を得ずに、コンテンツを規制したり、または一般市民に対してそのコンテンツで伝達される情報の意味や目的に影響を与えたりしてはならない。」と規定している。
この事件は、サイトの運営者に対し、誹謗中傷を含むコンテンツを削除する裁判所命令がTelusによって勝ち取られたことで決着した。

イ 憎悪発言に関するアクセスブロッキング

Richard Warman氏のCRTCに対する申し立て:2006年、カナダの人権弁護士Richard Warman氏は、CRTCに対して、カナダ国外でホストされている憎悪発言の2つのサイトへのアクセスのブロッキングをカナダのインターネット・サービス・プロバイダーに許可するよう申請した482。CRTCはその申請を却下したが、CRTCはカナダのインターネット・サービス・プロバイダーに対してコンテンツのブロッキングを要求することはできないが、ブロックを許可できる可能性があることがこの判決で認識された。ただし、CRTCは「この能力の範囲についてはよく探求する必要がある」と加えた。
Richard Warman VS オンラインフォーラムFreeDomain.caの判決:オンタリオ法廷における2009年の判決では、Richard Warman 氏は憎悪発言のサイトの匿名参加者の身元を明らかにするよう Web サイトに要求する判決を勝ち取った。
しかし、被告はその判決に上訴した。法廷が判決に際して頼った規定は、オンタリオ州の民事訴訟における一般義務の開示規則に過ぎず、この裁判の状況に適したものではなかった。よって、オンラインでの発言への法廷の関与の状況は不明確なままである。

ウ 違法コンテンツの場合

違法コンテンツまたは違法の可能性のあるコンテンツがフィルタの支援サイトであるCybertip.caに報告され、Cleanfeed カナダのリストに掲載され、その結果としてサイトがブロックされた場合の紛争プロセスは以下の<1>~<3>のとおりである。

<1>Cleanfeedカナダは細心の注意を払いブロックリストを作成しているが、何らかの理由により、誤って違法ではないコンテンツのサイトがフィルタリングによってブロックされてしまった場合には、不服申し立ての手続が取られる場合がある。
<2>顧客またはコンテンツ所有者が、サイトにアクセスできないことに関してインターネット・サービス・プロバイダーに苦情を出した場合、インターネット・サービス・プロバイダーはその問題が Cleanfeed カナダのブロッキングリストに起因するものかどうかをまず調査する。
<3>Cybertip.caが、インターネット・サービス・プロバイダーまたはコンテンツ所有者から直接苦情を受け付けると、そのコンテンツが Cybertip.ca によって再度調査される。さらに最終的な調査として Cybertip.ca は国家の法執行機関の判断を仰ぎ、その判断が最終的な判断となり、対象のURLがブロッキングリストに残るべきかが決定される。

上記の不服申し立てのプロセスは、イギリスのインターネット監視団体(Internet Watch Foundation483、IWO)のCleanfeedフィルタリング・イニシアティブから発生する苦情処理の仕組みを参考にして、作成されたものである。2006年の11月以降、Cybertip.ca は2件の不服申し立てを受け取ったが、両ケースともに Cleanfeed リストには掲載されていない。すなわち、何らかの別の理由からサイトにアクセスできなかったのであるが、それを申立人が Cleanfeed によるブロッキングだと誤解したという事例であった。

エ 不服申立て過程の段階的説明

以下は、不服申立て過程を段階的に説明したものである。
Cleanfeedでは、 カナダに不服申し立てをする目的でCybertip.caによって維持されるブロッキングリスト内に保存されたURLへのアクセスを希望する、マテリアルのホストの責任者、コンテンツまたはデザインの責任者、あるいはそれ以外の何人も、コンテンツ評価の正確性について不服申し立てまたは陳情をする場合には、次の手続に従うものとしている。

<1>不服申立てまたは陳情は、Cybertip.ca の最高責任者に委任され、その責任者が個人的に再評価のプロセスの責任を負う。
<2>最高責任者は、その不服申立てまたは陳情を記録し、その再評価をCybertip.ca の監督者に委任できる。ただし、その監督者は元の評価決定に携わったものであってはならない。もし監督者が元の評価に係わっていた場合には、最高責任者が自ら再評価プロセスを実行する必要がある。
<3>該当するもの (監督者または最高責任者) は再度当該URL を訪れてコンテンツを再度評価し、前回のプロセスから得られた証拠を考慮しながら、当該URL をブロッキング リストに載せたままにすべきかを判断する。
<4>上記の<3>の見直しを経ても URL をブロッキング リストに載せたままにすべきかが判断できない場合には、そのすぐ下の管理者から第二の意見を得る。その段階でも意見の一致が得られない場合には、次の管理者の意見を得る。
<5>ここまでの手順に従って Cybertip.ca のスタッフによって十分な考慮がなされた上で、そのURLをブロッキングリストに載せたままにすべきであると判断された場合には、申立て人にその旨を連絡する。
<6>Cybertip.ca 内のこのプロセスに関与した全員がその URL をブロッキング リストから外すべきであると判断した場合には、その URL はブロッキング リストから削除され、すべてのプロセス関与者にその旨が報告される。そしてその結果が申立人に連絡される。
<7>申立人が<5>の判断に異議を唱える場合には、Cybertip.ca は、National Child Exploitation Coordination Centre(ナショナル チャイルド エクスプロイテーション センター)に独立した判定を求める。この判定が最終的な判断となる。

オ ウェブサイト運営者等が青少年による有害情報の閲覧を制限する措置などを取った場合における民事責任の制限

前述のようにカナダではインターネットコンテンツのフィルタリングなどに関する法律がないため、ウェブサイト運営者等が青少年による有害情報の閲覧を制限する措置などを取った場合には、その行為が憲法で保証されている言論や表現に自由に違反しないかどうかが論点となり、それに対する民事責任の制限などは定められていない484