第1章 アメリカ

3 青少年のインターネット利用環境に関する制度、法及び政策とその背景

(8)児童ポルノに対する政策、規制及び取組

アメリカでは1950年代以来、「わいせつ(obscene)」とみなされるポルノは違法であり、「わいせつ」物は憲法修正第一条の「言論の自由」で保護されるものと認められていない。ただし、「品位に欠ける(indecent)」ものは違法ではない。

現在、児童ポルノは「わいせつ」であり、違法とされている。1970年代に「性革命(Sex revolution)」が起こり、その過程で児童に対する性的虐待が社会問題化し、1977年に児童ポルノが違法となった 158(表21参照)。インターネットの発達とともに児童ポルノ犯罪が拡大したことから、現在に至るまで厳罰化の過程をたどっているといえる。また、児童ポルノは児童が性的虐待の被害者となるため、従来から先進国の中でも児童虐待件数が突出して多いアメリカにおいて取締りは強化されてきた 159。さらに、2000年・2009年には児童ポルノの所持と、児童に対する性的虐待犯罪との間の相関性を示す調査結果も報告され、児童ポルノの単純所持に対する罰則の厳罰化を促進したともいわれる 160

前述のように、連邦法である「1998年性犯罪者からの児童保護法(Protection of Children From Sexual Predators Act of 1998)」は、18歳以下の未成年者を性的行為の目的で誘惑したり、車などで移動したりする行為に対する処罰を重罰化したほか、児童ポルノ保持者に対しても処罰を規定した。さらに、ISP(携帯電話事業者なども含む)も、児童ポルノの存在に気づいたら、警察又は全米失踪・被搾取児童センター(NCMEC)に通報する義務があると規定された。ただし、それを違法ウェブサイトとして強制的に閉鎖する義務はなく、自主規制に任されている。

2011年には、通称「インターネット・ポルノ制作者からの児童保護法(Protecting Children from Internet Pornographers Act of 2011)」とされるH.R. 1981が下院を通過した。これは、ISPは顧客の名前、銀行口座番号、IPアドレス、クレジットカード番号及び住所といったデータを最低1年間保存する義務があるとするものであったが、議員や市民団体などからプライバシーの侵害などを理由に反対意見が多く、成立には至らなかった 161

児童ポルノの通報があっても、IPアドレスやそれを使用している個人を特定するデータがなければ、捜査に数か月を要することが多く、それが児童ポルノの被害者となっている子供の救済を困難にしているという状況が報告されている。しかしながら、アメリカではIPアドレスなどのインターネット利用者のデータの保存には反対意見が多く、上のような法律は提案されても施行には至っていない。

現在は、IPアドレス及びその関連データは、1986年に成立した「電子通信プライバシー保護法(Electronic Communications Privacy Act of 1986:ECPA)」の「記録通信法(Stored Communications Act:SCM)」によって、警察などからデータを保存するよう要請があれば、ISPは90日間保存する義務があると定められている。その期間は再要請でさらに90日間まで延長可能である 162

表21 アメリカにおける児童ポルノ及びインターネット上の安全に関連する主要な連邦法(案)の一覧
制定年 連邦法

「合衆国法典」第18編 第110章 第1部

第2251条 児童に対する性的搾取(Sexual Exploitation of Children)

第2251条A 児童の売買(Selling and Buying of Children)

第2252条 児童の性的搾取を含む内容のある物に関連する活動(児童ポルノの所持、配布、受領)(Certain activities relating to material involving the sexual exploitation of minors (Possession, distribution and receipt of child pornography))

第2252条A 児童ポルノを内容に含む、又は児童ポルノで構成された物に関わる活動(Certain activities relating to material constituting or containing child pornography

第2256条 定義(Definitions)

第2260条 アメリカに輸入することを目的とした、性的に虐待されている児童が写っている物の制作(Production of sexually explicit depictions of a minor for importation into the United States

1977年
「1977年児童性的搾取防止法(Protection of Children Against Sexual Exploitation Act of 1977)」
1984年
「1984年児童保護法(Child Protection Act of 1984)」
1986年
「1986年 児童性的虐待ポルノ法(Child Sexual Abuse and Pornography Act of 1986)」
「1986年 児童虐待被害者の権利法(Child Abuse Victims' Rights Act of 1986)」
1998年
「1998年 児童オンラインプライバシー保護法(The Children's Online Privacy Protection Act of 1998, COPRA)」
2000年
「児童インターネット保護法(Children's Internet Protection Act:CIPA)」
2002年
「2002年 ドット・キッズ法(Dot Kids Implementation and Efficiency Act of 2002)」
2003年
「児童搾取防止のための起訴方法などの改正法(PROTECT (Prosecutorial Remedies and Other Tools to end the Exploitation of Children Today) Act of 2003)」
2006年
「2006年 アダム・ウォルシュ児童保護・安全法(Adam Walsh Child Protection and Safety Act of 2006)」
2008年
「2007年 児童ポルノの効果的起訴法(Effective Child Pornography Prosecution Act of 2007)」
「2008年 児童保護法(PROTECT (Providing Resources, Officers, and Technology To Eradicate Cyber Threats to) Our Children Act of 2008)」
「2008年 21世紀児童保護法(Protecting Children in the 21st Century Act)」
「2008年 性犯罪者のいないインターネットを実現する法(Keeping the Internet Devoid of Sexual Predators Act of 2008)」

出典:米国司法ニュース 163及び司法省のガイド 164をもとに作成。

州法レベルでも取締りが行われている。2013年9月現在、10州(アーカンサス州、カリフォルニア州、イリノイ州、ミズーリ州、ノースカロライナ州、オクラホマ州、オレゴン州、サウスカロライナ州、サウスダコタ州、テキサス州)において、コンピューター技術者や情報テクノロジー技術者が勤務中に児童ポルノの存在に気づいたら、警察やNCMECに通報することを義務付けられている 165

児童ポルノ取締りに関わっている連邦政府機関は、表22のとおりである。

表22 アメリカの児童ポルノ取締りに関与する連邦政府機関
省庁 下位機関 活動内容
法務省(DOJ) 連邦捜査局(FBI) 児童に対する犯罪を防止できるよう先回りした捜査活動を行う。全米56箇所の事務所に「児童に対する犯罪部隊」のコーディネーターが配属されている。「イノセント・イメージ国家イニシアティブ(IINI)」も行っている。
刑事局 児童搾取・わいせつ課(CEOS) 児童ポルノ犯罪、性的な目的での児童の誘惑、性的な目的で犯罪者又は児童を州境を越えて移動させること、国内における性的目的のための子供の人身売買、及び児童買春ツアーといった児童性的搾取犯罪の実行者を起訴する。
94箇所の連邦地方検事局 児童搾取関連の連邦裁判所管轄事件の起訴を行う。
少年司法・非行防止事務局(OJJDP) インターネットを利用した児童に対する犯罪に対し、複数管轄・複数機関にわたる対応を行っているICAC特捜班に対して資金分配と運営を行う。
国土安全保障省(Department of Homeland Security:DHS 米国移民通関管理局(ICE)・ サイバー犯罪センター(Cyber Crime Center) 国境を越えて児童搾取に関する連邦法違反を取り締まる。児童ポルノなどの違法商品や密輸品がアメリカ内に流入するのを防ぎ、児童ポルノの所持、受領、流通、広告、輸送及び制作に関与する個人を捜査、阻止及び起訴する。
米国シークレットサービス(United States Secret Service:USSS) 失踪している、又は性的に搾取されている児童に関して、犯罪科学的・技術的な支援を行う。
米国郵政公社(USPS) 米国郵便監察局(U.S. Postal Inspection Service:USPIS) 米国郵便を利用した(又は一部で郵便が利用された)インターネット関連の児童ポルノや児童の性的搾取事件の捜査を行う。児童搾取プログラムの目的は、郵便システムを利用して児童の性的搾取を促進する資料の調達や配送を行うことを減少させ、やめさせることである。

出典:米国会計監査院の報告書 166をもとに作成。

2009年に、国防省の「刑事捜査組織(Military Criminal Investigative Organizations:MCIO)」の窓口がNCMECに設置された。同窓口は、児童に対する性的搾取を記録した画像や動画があった場合にCyber Tiplineと連携する。

Cyber Tiplineへの通報は、ESP(企業システムサービス事業者)が事前登録を行うと、安全かつ確実に通報が行えるようになっている。2010年現在、約5,000社あるといわれるISPのうち、738社が登録済みである。NCMECによると、2008年1月~2010年12月末の間に、194の登録済みESPから24万8,000件の通報があった。また、法律で義務付けられてはいないが、自主的に児童ポルノの早期発見努力を行っているというESPも何社か存在する。

Cyber Tiplineに通報があった場合、まず以下の8つのカテゴリーのいずれかに分類される。

  • <1> 児童ポルノの所持、制作、配布
  • <2> インターネット上における児童の性的行為への誘惑
  • <3> 児童買春
  • <4> 児童が関わる買春ツアー
  • <5> 家庭外性的児童虐待
  • <6> 児童へのわいせつ物強制送付
  • <7> 偽ドメイン名
  • <8> インターネット上の虚偽的単語やデジタル映像

その上で、以下の点について映像の調査・分析が行われる。

  • 児童ポルノとされる映像の児童が実在する児童であるかどうか。
  • その映像が新しいものであるか、それとも以前にも警察が確認したことがあるものか(これによって虐待が進行中かどうかわかる)。
  • 電子メールアドレス、ウェブアドレス及びその他の情報から、通報された児童ポルノ法違反者が児童ポルノ共有組織に関係しているかどうか。

分析の結果、児童ポルノ法違反者の地理的位置が判明すれば、その所轄の警察署に連絡する。地理的位置が不明の場合は、連邦政府関係機関(FBI、ICE、USPIS)に連絡する。

Cyber Tiplineへの通報に対するNCMECの処理と対応は、図18のとおりである。


図18 Cyber Tiplineの通報を受けた後の全米失踪・被搾取児童センターの処理過程

出典:米国会計監査院の報告書 167をもとに作成。

以上のように、アメリカでは現在、ISPが自主的に児童ポルノを見つけ次第、ウェブサイトを閉めさせる場合を除き、児童ポルノが発見されてからの捜査に何か月も要することがあるという状況が続いている。

また、サイバー犯罪捜査に対応できる警察官を増員する必要もある。司法省は、インターネット上の児童ポルノ事件に対してどのように捜査を行っていくかについての実践的な指針を警察に配布している 168

関係連邦機関の対応状況は、表23のとおりである。

表23 全米失踪・被搾取児童センター(NCMEC)連絡員の置かれた各連邦機関による、Cyber Tiplineの通報の捜査への活用手順
関連機関 捜査への活用手順
連邦捜査局(FBI) NCMEC担当の連絡員を1名配置し、さらに2名の捜査支援専門家が通報の審査を監督する。
FBI関係者によると、児童ポルノ関連のCyber Tiplineへの通報は、FBIの捜査範囲であるか、管轄や被害者が特定できるかなどによってまず優先順位が決定される。通報に含まれている情報を開いて確認しなければ、捜査範囲に分類される通報であっても、優先順位をつけることはできない。
FBIの捜査支援専門家によって、Cyber Tiplineの通報がFBIによる捜査の開始又は進行が可能であると判断されると、FBIのデータなど他の通報から情報を補足して捜査パックを準備する。FBI連絡員はそのパケットを検討し、その後FBIの現場捜査員に送る。
米国移民通関管理局(ICE) Cyber Tiplineのシステムに入って直接Cyber Tiplineの通報を審査することができるが、ICEが実際にレビューを行う通報は、NCMECの調査員から直接電子メールで送られたものがほとんどである。
Cyber Tiplineの通報を他国の法律取締り機関に送る際には、ICE独自の情報源なども利用する。約10か国とバーチャル・プライベート・ネットワークを整備している。
米国郵便監察局(USPIS) NCMECに配属されているUSPISの連絡員でなく、現場の経験豊富な郵便検査員(最大5名)がCyber Tiplineのシステムにアクセスし、通報を審査している。USPIS連絡員が直接Cyber Tiplineの通報を審査すべきであるとNCMECが判断した通報が電子メールで送られてくることもある。
連絡員は、郵便が確実に関与しているCyber Tiplineの通報を現場に送る。USPISが対象とするCyber Tiplineの通報は、<1>米国郵便と確実につながりがあるもの、<2>現存する住所があるもの、<3>被害者あるいは通報した人(保護者など)の協力が得られるもの、である。2011年春からは、NCMECの連絡員を配置し、Cyber Tiplineの通報を審査する予定であった。

出典:米国会計監査院の報告書 169をもとに作成。

児童ポルノ等の違法情報がNCMECに通報された場合に、誰がそのウェブサイトにアクセスしようとしているか、又は誰がそのウェブサイトを運営しているのかどうか不明であっても、多くの管轄区域で、警察は「ノーティス・アンド・テイクダウン(Notice and Takedown:NTD)」を要請することができる。これは、違法コンテンツをISPのサーバーから除去する、又は他のサーバーからも利用者がそのウェブサイトにアクセスできないようにする手続きを指す 170

インターネット・ホットラインの国際組織INHOPE(後述) 171によると、NCMECのホットラインが開設されたおかげで、アメリカにおいてNTDに要する時間は短縮されてきたという。最新の統計では、通報された違法情報サイトが削除又はアクセスできないようにされるまでに要する時間は、違法情報サイトの75%以上で1~3日、10%程度が4~7日、5%程度が8~11日、5%程度が12日以上となっている(図19参照)。


図19 アメリカ及びEUにおける「ノーティス・アンド・テイクダウン」に要する時間別割合の推移(2011~2013年)

注:EUは構成国からスウェーデンを除き、ボスニア・ヘルツェゴビナ、アイスランド、ロシア、トルコを含む。所要時間は、コンテンツ・サービス・プロバイダー(CSP)に対する通報日から削除日まで。
出典:INHOPEの報告書 172をもとに作成。