第4章 韓国
3 青少年のインターネット利用環境に関する制度、法及び政策とその背景
青少年保護法第16条第1項は、「青少年有害媒体物であり 大統領令の定める媒体物を販売・貸与・配布しようとする者、又は視聴・観覧・利用するよう提供しようとする者は、その相手の年齢及び本人であることを確認しなければならず、青少年に販売・貸与・配布したり、視聴・観覧・利用するよう提供したりしてはならない」と明示している。ここで注目すべきは有害媒体物と疑われるコンテンツを使用する者に年齢確認だけでなく本人確認の義務まで課している点である。
これに対して、2013年5月15日にオープンネット(理事長:ジョン・ウンフィ)は、第16条第1項の本人確認義務と同法施行令第17条が憲法に違反しているとして、憲法訴願を提起した。本人確認のためには利用者の個人情報が確保される必要があるが、この情報が音声で流通したり、対外的に流出したりするおそれがあるというのがオープンネットの主張である。また、匿名で表現物に接近できる権利が事実上失われるだけでなく、成人にまで権利侵害が及ぶことからも違憲である、と主張している 565。
(1)インターネット環境において青少年保護に係る行政機関
ア 青少年保護委員会
(ア)概要/沿革
青少年保護委員会は、青少年を有害環境から保護するために「青少年保護法」第27条にもとづいて設置された女性家族部所管の行政委員会である。
1997年7月7日に同法同条にもとづいて発足し、2005年4月27日に文化観光部青少年局と統合して青少年委員会に整理され、2006年3月28日に国家青少年委員会に改称された。そして、2008年2月29日に保健福祉家族部傘下の青少年保護委員会に改編されたのち、2010年3月19日に保健福祉家族部が保健福祉部に改編されるのに伴い、女性家族部に移管した。
(イ)職務
「青少年保護法」第36条各項において、委員会の職務を次のように定めている。すなわち、青少年有害薬物・青少年有害物・青少年有害所等の審議・決定等に関する事項、定期刊行物等を発行・輸入した者に対する課徴金賦課の審議・決定に関する事項、青少年保護のために女性家族部長官が必要であると審議を要請した事項、他の法律によって青少年保護委員会が審議・決定するように定められている事項等を審議・決定することである。
イ 放送通信審議委員会
(ア)概要/沿革
放送内容の公共性及び公正性を保障し、情報通信における健全な文化を創出し、情報通信の正しい利用環境を造成するための機関であり、独立して業務を行う独立機構である 566。
2008年2月のイ・ミョンバク(이명박)政権成立時に、従来の放送委員会と情報通信部の下に通信サービス政策・規制を総括する放送通信委員会が大統領直属機構として成立した。
(イ)職務
放送通信審議委員会ウェブサイトに紹介されている委員会の職務内容は次のとおりである。
- 「放送法」第32条に規定された事項の審議
- 「放送法」第100条にもとづく制裁措置等の審議・議決
- 「情報通信網利用促進及び情報保護等に関する法律」第44条の7に規定された事項の審議
- 電気通信回線により一般に公開されて流通している情報のうち、健全な通信倫理の涵養のために必要な事項であり、大統領令が定める情報の審議及び是正の要求
- 電気通信回線を利用して流通する情報の健全化に関する事項
- 審議委員会の事業計画、予算及び決算に関する事項
- 審議委員会規則の制定、改定及び廃止に関する事項
- 他の法令によって審議委員会の審議事項と定められた事項
(例)名誉毀損紛争の調停・利用者への情報提供請求の審査(「情報通信網利用促進及び情報保護等に関する法律」第44条の6及び10) - 青少年有害媒体物の決定(「青少年保護法」第8条)
- 選挙放送審議委員会の構成及び運営(「公職選挙法」第8条の2)
ウ ゲーム物管理委員会
(ア)概要/沿革
ゲーム物管理委員会は、韓国において制作・配給されるコンピューター・ビデオゲームの内容を事前審議し、消費者が正しく選択できるようにこれに等級を付与する文化体育観光部傘下の公共機関である 567。また、等級が分類されたゲーム物を管理して不法ゲーム物監視団を運営し、不法ゲーム物の営業を取り締まっている。
かつては、映像物を審議する映像物等級委員会がゲーム物の審議も行っていたが、2006年4月に改定された「ゲーム産業振興に関する法律」にもとづき、同年10月30日にゲーム物のみを管理するための機関としてゲーム物等級委員会が設立された。2013年5月22日に同法律が改正され、12月23日にゲーム物管理委員会として再出発した。
(イ)職務
ゲーム物管理委員会ウェブサイトに紹介されている委員会の職務内容は次のとおりである。
- ゲーム物の等級分類の決定
- ゲーム物の青少年有害性及び射幸性の確認
- 等級分類を受けたゲーム物の制作・流通、又は正常な利用提供状況の確認・点検等、等級分類の事後管理
- 不法ゲーム物取締り業務の支援
- 政府通信網を通じて提供される不法ゲーム物等の是正勧告
- ゲーム物等級分類の客観性確保のための調査・研究
エ 映像物等級委員会
(ア)概要/沿革
映像物等級委員会は、映像物の倫理性及び公共性を確保して青少年を保護するための等級委員会である 568。
1966年1月に韓国芸術文化倫理委員会という名称で創立され、1986年1月に公演倫理委員会に、1997年10月11日に韓国公演芸術振興協議会に改称され、1999年6月7日に現在の名称に変更された。
(イ)職務
映像物等級委員会ウェブサイトに紹介された委員会の職務内容は次のとおりである。
- 公正で合理的な等級分類及び推薦業務の遂行(公益性と公正性を原則とするが、作品の創意性と自律性を最大限尊重する)
- 等級分類及び推薦対象
- 映画:韓国内外の映画の等級分類
- 映像コンテンツ(ビデオ物):韓国内外の映像コンテンツ(ビデオ物)の等級分類
- 公演物:外国人の韓国国内公演の推薦及び青少年有害性の有無の決定
- 広告・宣伝物:映画、ビデオ等の広告・宣伝物の年少者有害性の有無の決定
- 各種委員会の運営
- 等級委員会の開催:年20回を予定
- 再審事由発生時には委員会が積極的かつ能動的に対処
- 委員会の主要懸案事項を論議及び決定
- 委員会の中長期的発展策を整備
- 事後管理委員会の開催
- 非営利民間団体推薦の人士を含めて7人以下で構成
- 等級分類制度、基準等の研究
- 小委員会の開催:映画の等級分類、韓国内外のビデオ物の等級分類、舞台公演物の推薦、広告・宣伝物の青少年有害性の有無
- 等級委員会の開催:年20回を予定
- その他の等級分類及び推薦業務の支援
オ 刊行物倫理委員会
(ア)概要/沿革
韓国刊行物倫理委員会は、有害刊行物から青少年を保護し、刊行物の倫理的・社会的責任を具現するために、刊行物の審議及び関連調査・研究を主に行う文化体育観光部傘下の特殊法人であり、その他の公共機関として指定されている 569。
1970年1月21日に韓国図書出版倫理委員会、韓国雑誌倫理委員会、韓国児童漫画倫理委員会を統合して韓国図書雑誌倫理委員会が発足し、1976年6月24日に韓国図書雑誌週刊新聞倫理委員会に改編された。1989年9月26日に社団法人韓国刊行物倫理委員会に改編され、1997年7月25日に「青少年保護法」第45条にもとづいて法定機構である韓国刊行物倫理委員会として発足した。2012年9月16日に施行された「出版文化事業振興法」第16条にもとづき、電子ブックの出版等によるデジタル環境の変化と出版市場環境のグローバル化に対応し、出版文化産業を総合的かつ体系的に振興することを目的として、財団法人韓国出版文化産業振興院が設立され、従来の韓国刊行物倫理委員会を廃止して、振興院傘下に刊行物倫理委員会を置くこととなった。
(イ)職務
刊行物倫理委員会ウェブサイトに紹介された委員会の職務内容は次のとおりである。
- 国内刊行物小委員会:韓国国内で発行された小説、写真集、画報集等の図書、漫画単行本、漫画雑誌、電子出版物及び定期刊行物等の有害性の有無の審議・決定
- 外国刊行物小委員会:韓国国外で発行されて国内に輸入された小説、写真集、画報集等の図書、漫画単行本、漫画雑誌、電子出版物及び定期刊行物等の有害性の有無の審議・決定
- 【審議基準】「出版文化産業振興法」第19条及び同法施行令第13条、「青少年保護法」第9条及び同法施行令第9条において定められた審議基準、並びにこれにもとづいて整備された刊行物倫理委員会の審議及び運営規定(関連法規中の審議規定を参照のこと)を適用する。
カ 青少年保護委員会及び各審議機関の役割分担
各審議機関の担当媒体及び審議形態は、表50 570のとおりである。
審議機関 | 所属 | 担当媒体 | 審議形態 |
---|---|---|---|
青少年保護委員会 |
女性家族部 |
すべての媒体物(音盤・音楽ファイルを含む) |
事後審議 |
映像物等級委員会 |
文化体育観光部 |
映画・ビデオ・映像物 |
事前等級分類 |
放送通信審議委員会 |
大統領直属機構 |
情報通信物 |
事後審議 |
放送プログラム |
事後審議 |
||
刊行物倫理委員会 |
文化体育観光部 |
刊行物 |
事後審議 |
ゲーム物等級委員会 |
文化体育観光部 |
ゲーム物 |
事前等級分類 |
出典:放送通信委員会のウェブサイト 571をもとに作成。
キ 有害及び違法情報に対する処置
「青少年保護法」第11条~第19条は、まず有害媒体物の制作者と流通者に自主規制を促しており、その後審議の結果、有害物と決定された場合には有害表示を義務付けており、販売の際に青少年の接近範囲から区分・隔離することを明示している。また、特定放送時間と屋外の広告宣伝を法令の各項によって制限している。
青少年有害媒体物を提供するウェブサイトには、「19歳未満の者は利用できない」という趣旨の記号や語句が表示されていなければならない(「青少年保護法」第13条第1項及び「情報通信網利用促進及び情報保護等に関する法律施行令」第24条)。
青少年有害媒体物を提供していながら、これらの記号や語句を表示していないウェブサイトの運営者は、2年以下の懲役又は1,000万ウォン(※2014年3月における為替レートは1ウォン=0.095円である。)以下の罰金に処せられる(「青少年保護法」第59条第1号)。
また、ゲーム物の等級区分に違反して青少年がゲーム物を利用することができるよう提供したウェブサイト運営者は、1年以下の懲役又は1,000万ウォン以下の罰金に処せられる(「ゲーム産業振興に関する法律」第46条第3号)。
「シャットダウン制度」とは、16歳未満の青少年が午前0時から午前6時までインターネットゲームをすることができないように、ウェブサイトへの接続を遮断する制度のことである(「青少年保護法」第26条第1項)。すなわち、16歳未満の青少年が午前0時を超えて使用しようとしても、インターネットゲームが中断され、午前6時まで再接続・新規接続ができないようにするというものである。
これに違反した場合には、2年以下の懲役又は1,000万ウォン以下の罰金に処せられる(「青少年保護法」第59条第5号)。