平成26年度アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリアにおける青少年のインターネット環境整備状況等調査
平成27年3月 内閣府

第2部 調査の結果

第4章 オーストラリア

2 青少年のインターネット利用環境に関する世論

(1) 青少年のインターネット利用に関しての最近のトピック

2007年3月に、ネットいじめを防ぐため、全州1,600の学校からのYouTubeを含む動画シェアウェブサイトへのアクセスを禁じた。この背景には、2006年にメルボルン郊外で発生した、17歳の女子が暴行を受ける映像がYouTubeにアップロードされ、警察が調査したことが関連している。

ビクトリア州教育サービス大臣のジェシンタ・アランは「学校とインターネット・サービス事業者はフィルタリングシステムを採用しており、ブロックされるべきウェブサイトのリストにYouTubeも追加された」と発表し、更に「学校内でのいじめは絶対に許容されるものではなく、このような非道徳的行為に対して毅然とした対応を、オンラインの世界にも適用させていく」と述べた。 学校からのビデオシェアウェブサイトアクセス禁止措置に対して、YouTubeの運営会社であるGoogleをはじめとする多くの人々が反対意見を唱え、論争にもなっている811
(2) 青少年のインターネット利用環境の法的規制に対する世論の動向
ア 規制当局及び業界団体の動向

ブロードバンド・通信・デジタル経済省管轄下の通信・メディア庁がオンラインコンテンツを含むメディアコンテンツの規制行政全般を担っている。通信・メディア庁は2005年7月1日に放送庁と通信庁が合併され、オーストラリア全土の通信環境を取り締まるものとして設立された。

インターネット利用環境の法的規制に対しての賛成意見は極めて少なく、インターネット・サービス事業者に対しての強制的なフィルタリングシステム導入政策についての賛成派は、5%程度に過ぎなかった。

反対意見として、高コストにより税負担の増加、非違法ウェブサイト遮断の可能性812、インターネット回線速度を低下させる可能性813や、プロキシサーバーを介することにより、フィルタリングをすり抜ける等の技術的問題等が挙げられている。

オーストラリアではネットいじめの割合が他の国々よりも高く、ネットいじめに関しては保護者も敏感で、他の問題よりも比較的意識の高いテーマとなっている。

ヨーロッパの25カ国に比べ、ネットいじめの被害経験はオーストラリアで多くなっており、過去12ヶ月以内にネットでいじめられた経験があると回答したのは、ヨーロッパの6%に対し、オーストラリアでは13%に達している。

ネットいじめはオーストラリアではどういった犯罪であるかは明確にされていないが、反対にネットいじめを取り締まることのできる法律はいくつか存在する814。それに加えて、Facebook等に代表される主なSNSでは、ネットいじめを原則禁止とするルールも存在するが、課題も多いテーマだとみなされている。

(3) 青少年のインターネット利用環境に対する保護者の動向(懸念、反応等)

多くの保護者が子供のインターネット利用、あるいはネットいじめに関心があり、インターネット使用について懸念しているが、いじめに対して親が過剰に反応することが多い。

子供の多くは、インターネットアクセス端末を取り上げられることや、親の介入によって状況の悪化を招く恐れがあるため、ネットいじめについて保護者に報告することが少なく、保護者がネットいじめに気づくことが遅れる傾向にある。

保護者に対して、政府や民間団体等が、ネットいじめへの対策用ガイドラインを提供しており、保護者による子供のインターネット管理を促進している815

3 青少年のインターネット利用環境に関する公的機関及び民間企業の取組み

(1) 青少年のインターネット利用環境に関連する政策・規制(法律)並びに監督官庁
ア 青少年の個人情報保護

オーストラリアの個人情報はプライバシー法1988年版(Privacy Act 1988 816 )によって管理、規制されている。これには個人情報の収集、利用、保管、開示やそれらの情報へのアクセスと修正を含んでいる。情報委員会は、情報の自由、プライバシー、情報政策に対して、責務を担っている817

青少年の個人情報保護の規制、管理を担っているのは、プライバシー法1988年版 (Privacy Act 1988)である。法改正委員会が2008年に発行したプライバシー法に関するレポートに、青少年のプライバシーに関する法改正案が記述されているが、現行のプライバシー法には個人情報の開示や利用等に関する年齢制限はなく、全てのオーストラリア国民の個人情報の収集や利用、保管、開示はプライバシー法によって管理されている818。また、通信省が管理を担当しているStay Smart Onlineのウェブサイト819では、インターネットの利用に関する危険性と個人情報を守るための手順等を提供している。

情報委員会(Office of the Australian Information Commissioner)は、青少年の個人情報保護に関連して、2013年4月に「プライバシー法の下、個人情報を守るための適切な手順を示したガイドライン(Reasonable steps to protect persona information)」を策定し、2014年の8月初旬には、ガイドライン改正草案が発表されている820。この改正草案では新たに、状況ごとの適切な手順、方法の参考例が提供されており、改正案に関する意見の提出は同年の8月27日まで行われた。

情報委員会のプライバシーに関する経年調査によると、個人情報漏洩に対する危機感が高まっており、48%がソーシャルメディアは多大なプライバシーリスクを背負っていると考えている821。ソーシャルメディアのプライバシー保護については、十分信用に値すると考えているのは、10人に1人もいなかった。また、IDなりすまし詐欺や盗難、データ保護、会計情報の漏洩等を危険視する声も多い。更には、ウェブサイトやスマートフォンのアプリがユーザーの個人情報を収集していることに関しても、不快な気分になると示している。

オンラインユーザー全体の内半分程度は、オンライン個人情報規約内容を確認していないが、個人情報を守るため、習慣的に名前や情報を偽るユーザーも3分の1程度存在している。

イ ネットいじめ

現在オーストラリアには、ネットいじめの取締りを目的とした法整備は行われていないが、ネットいじめを犯した者に適用できる法律が複数存在し、14歳以上が刑法上の責任に問われる822。また、法律を適用する場合、州法と連邦法のどちらが優先されるかも議論の対象となる。

表106 ネットいじめに該当する法律一覧
該当法律 抄 訳
The Commonwealth Criminal Code Act 1995:Misuse of Telecommunication Service 連邦刑法:通信サービスの不正使用
The Crime Act 1900:Assalts, Intimidation and Harassment at School(NSW) ニューサウスウェールズ州刑法1990年版:学校での攻撃、脅迫といやがらせ
Stephens v. Myers 判例法(ステファンv. マイヤーズのケース)
Stalking and Harassment in all Jurisdictions ストーキングとハラスメントに関する法律
Criminal Defamation in all Jurisdictions 中傷に関する法律

(出典:各省庁の文献をもとに作成)

2014年1月22日、通信省は、青少年に対するインターネットの安全性確保について討議書を提起し、保護者、学校、青少年や業界関係者から意見を求めている。その結果を踏まえ、1子供のための安全委員会設置、2ソーシャルメディア上での、ネットいじめに関するコンテンツ除去スキームの導入、3オーストラリアの子供をターゲットにした、ネットいじめコンテンツのオンライン投稿者に対する安全委員会からの通知体制を盛り込んだ法案を2015年までに議会提出すると発表している823

また、政府は2014/15年度に、子供のためのインターネット安全性向上のため、予算AU$1,000万を計上した824。予算の内訳として、AU$750万は学校での教育プログラムに充て、$240万を子供のためのインターネット安全委員会の設置に、残りのAU$10万を国民のサポートに使用する。

民間団体であるRaising Children Networkのウェブサイトでは、保護者向けに、ネットいじめから子供を守る方法等の情報提供を行っている825

ウ 児童売春等の青少年を性的行為に誘引する行為

オーストラリアでは青少年の性的行為への誘引は、州ごとに異なる法律で罰せられる。

表107 オーストラリアにおける州別の青少年性的行為への誘引に対する法律
地域 法律 最大刑罰 年齢区分
州連邦 刑法1995年版474条26項 15年の懲役刑 16歳未満
刑法1995年版474条27項 12年の懲役刑(27項3則に該当する場合は15年の懲役刑) 16歳未満
首都特別地域 犯罪法1900年版66条 第1項に該当する場合、10年の懲役刑(初版の場合は5年の懲役刑) 16歳未満
第3項に該当する場合、罰則点数100点と5年の懲役刑のどちらか、また両方 16歳未満
クイーンズランド州 刑法1899年版218A条 第1項に該当する場合、5年の懲役刑 16歳未満
第2項に該当する場合、10年の懲役刑 12歳未満
ノーザンテリトリー 刑法131条 第1項に該当する場合、3年の懲役刑 16歳未満
第2項に該当する場合、5年の懲役刑 16歳未満
刑法132条 第2項に該当する場合、10年の懲役刑 16歳未満
第4高に該当する場合、14年の懲役刑 10歳未満
ニューサウスウェールズ州 犯罪法1900年版(2007年性犯罪法改訂) 66EB条 第2A項a則に該当する場合、15年の懲役刑 14歳未満
第2A項b則に該当する場合、12年の懲役刑 16歳未満
第2B項a則に該当する場合、12年の懲役刑 14歳未満
第2B項b則に該当する場合、10年の懲役刑 16歳未満
南オーストラリア州 統合刑法1963年版63B条 第1項a則、第3項a則に該当する場合、10年の懲役刑 16歳未満
第1項b則、第3項b則に該当する場合、12年の懲役刑 12歳未満
タスマニア州 刑法1924年版125D条 最大刑罰の明記なし。裁判所の裁定で最大21年の懲役刑 17歳未満
西オーストラリア州 刑法204B条 第2項に該当する場合、5年の懲役刑 16歳未満
第3項に該当する場合、10年の懲役刑 13歳未満

(出典:犯罪学研究所:Online child Grooming Laws, Table 1:Offences using ICT to procure or groom children for sexual contact826

ニューサウスウェールズ州政府は児童保護の強化を図っており、子供に関する性的犯罪者がひそかに名前を変えて生活していた場合、5年間の懲役に科される827。また新たな改正により、10歳以下の子供を故意にけがをさせた場合にも、逮捕される可能性があると警察大臣は述べている。

改正後も、性犯罪で服役した者は、名前の変更を申請することができるが、被害者によって名前の変更が拒否される場合もあり、また警察の監視も強化されることになるとしている。今回の改正では、罰金等の罰則も大幅に引き上げられ、児童の性犯罪に関わっており、名前を変えていた場合、被疑者に科される罰金は改定前のAU$550からAU$55,000まで跳ね上がった。

また、罰金だけでなく、同時に懲役5年に問われる可能性がある。犯罪者たちは政府によって登録され、職種、メールアドレス、コンピュータでのログインや車の免許番号、旅行予定等の報告義務があったが、これに加えて車のレンタルや携帯電話番号等も報告しなければならなくなった。

児童売春のような性的行為への誘引は、チャットルームを利用して行われるケースが確認されている。インターネット性犯罪者たちは、チャットルームを通じて、子供たちと友好的な関係を築き上げ、個人情報や写真の入手又は実際に出会うことを目的としている。Stay Smart Onlineでは、子供に対して、チャットルームの危険性について、保護者の教育が重要になるとアドバイスし、情報提供を行っている。また、ThinkUKnowのウェブサイトでは、子供が性的行為へ誘引されている際によく見られるサインと、それを発見した保護者が取るべき行動についてアドバイスを行っている。

ニューサウスウェールズ州政府図書館が2007年に行った「子供をインターネット性犯罪者から守るための調査」828 によると、22%の保護者は、子供のインターネット利用に際して、性的行為への誘引を最も不安視しており、15%は、チャットルームの利用を禁止していた。チャットルームの利用は認めているが、制限をしている保護者は全体の13%であった。

エ 児童ポルノ

オーストラリア国内での児童ポルノを規制する法律としてはCriminal Code Act 1995(s 474.20)が該当する。この法律では、児童ポルノ画像の所有、作成、配布、輸入、輸出及びインターネット上での児童ポルノへのアクセスを規制している。犯罪を犯した者は、最大AU$275,000の罰金及び最高10年の禁固刑の可能性がある。オーストラリアでは、州ごとに違う法体系を持っており、 児童ポルノ規制にあたる法律は州ごとに、微妙に異なる。

近年オーストラリアでは、ポルノ画像の拡散増加が問題視されており、一部の幼児性愛者やペドフィリアの間では通貨として扱われている。オーストラリア連邦警察によると、犯罪者のコンピュータに保存されていた性的虐待映像やポルノ画像の数は、以前は数百単位であったが、今ではその数が急激に増え、10万?100万単位のケースが多くなっている829

現実には、子供に対する性犯罪者数が急激な増加傾向にあるわけではないが、インターネット上に画像や動画が無数にアップロードされていることが原因だと考えられている。また、児童ポルノ関連で逮捕されたのは2011年度では180人であったが、これは前年度と比較して30%増加している。そのためオーストラリア連邦警察は、新たに児童ポルノや児童の性的虐待に関する法律を整備し直さなければならないとしている

オ リベンジポルノ
ーストラリアでは、未だリベンジポルノに対抗する法律の整備はできていない。ビクトリア州は唯一オーストラリアでリベンジポルノに向けた対策を講じている州830になり、本人の同意なしに、脅迫になりかねない写真をアップロードすることを犯罪とみなすとしている831

他の州では現段階では法律は設立されておらず、ビクトリア州に次いで、規制に関する法律への議論が続いている。政府の意見として、現状でもリベンジポルノは取り締まることが可能であると考えている。これは1995年に制定された刑法に、インターネットを利用した性的な辱め等の攻撃行為が罰せられると記されているからであり、リベンジポルノもこの部分に該当する可能性がある。その他にも卑猥、下品なコンテンツを取り締まる法律も、リベンジポルノに関連性があるとされている

しかしながら、政府の意見とは反対に、現行の嫌がらせやハラスメントを取り締まる法律は、リベンジポルノに対して適当ではなく、新たにリベンジポルノを正確に取り締まる法律が必要であるとの意見もある。

オーストラリア連邦警察によると、リベンジポルノは非常に難しい問題で、被害者にとっては非常に腹立たしいが、仮に自分の写真がリベンジポルノウェブサイトに載っていたとしても、ウェブサイト運営者に削除要請をしてはならないとアドバイスしている。そうすることによって、警察の調査がより早い解決につながると考えている。

カ ウェブサイト運営者等が青少年による有害情報の閲覧を制限する措置等を取った場合における民事責任
1995年制定の刑法細則C(Criminal Code ACT 1995, Part 10.6, Division474.25, Subdivision C)には、インターネット・サービス事業者及びインターネットコンテンツホスティングが、児童ポルノや児童虐待に関するコンテンツへのアクセスにサービスが使用されていると気づいた場合、連邦警察にその詳細を届け出なければならないと規定されている832

通信・メディア庁が、ウェブサイトに記載されているコンテンツを違法とみなし、インターネット・サービス事業者に対して、アクセス制限やコンテンツ削除の通告を出した場合、該当する有害情報を削除及びアクセス制限を敷く責任がサービス事業者にある833 。また、責任を負うのは、違法コンテンツを提供、アップロードした組織や個であるため、インターネット・サービス事業者が、有害情報へのアクセス制限及び削除を行っても、民事責任は問われない834。というのが、一般的な見解である。

通信・メディア庁が作成した業界基準及び実務規範をインターネット・サービス事業者は遵守する義務があり、従わない場合の罰則として、業界団体の権利、権限の剥奪がなされる。また、通信・メディア庁の違法コンテンツ削除通知に応じなかった場合、2014年度では個人の場合AU$8,500の罰金が削除されるまで毎日科され、法人の場合最大で1日AU$42,500が科される。

キ 現在検討中の青少年のネット利用環境に関する新しい政策・規制とその背景

現行政府は、子供のためのオンライン安全性の向上方針策(The Coalition’s Policy to Enhance Online Safety for Children)を検討している。基本方針の一つである、子供のインターネット安全委員会のトップには政府高官を任命し、通信業界や子供たちとの接点となり、オンラインの安全性を改善する方針を作成していくことが与えられた責務の一つとなる。

2013年9月に発表された子供のためのオンライン安全性の向上方針策の基本方針は次のとおりである。

■ 子供インターネット安全委員会の設置を含む、インターネット規制に関する団体の合同事業の促進
■ 効率的なフィードバックシステムの設立
■ ネットいじめを犯罪として取り扱うこと
■ 保護者へのサポート
■ 学校へのサポート