第2回区分所有法改正に係るヒアリング・意見交換議事概要

1. 日時

平成14年7月25日(木)15:30〜16:40

2. 場所

永田町合同庁舎 2F 大会議室

3. 出席者

配付資料(法務省提出)

資料1

法制審議会建物区分所有法部会第11回会議(6月4日)における提出資料(「建替え決議の要件・手続及び団地の部分に関する問題点の整理」)

資料2

同部会第13回会議(7月2日)における提出資料(「建物区分所有法の一部を改正する法律案に関する要綱案の叩き台」)

資料3

同部会第14回会議(7月18日)における提出資料(「建物区分所有法の一部を改正する法律案に関する要綱案(案)」)

参考

「法制審議会建物区分所有法部会第11回会議議事録」


議論の概要(「区分所有法改正検討状況について」)

法務省吉田参事官から、法制審議会建物区分所有法部会第13回会議での建て替え要件に関する検討が資料2の第5の注1の記載に基づいてなされたものである旨説明があり、また、その検討の際の事務局の説明及び委員・幹事の発言の具体的な内容について説明があった。

そして、同部会の第14回会議の際には建て替え要件についてそれほど詳細な議論はされなかったが、会議では、(1)客観的要件の意義としては極めて不合理な決議を避けるための歯止めという認識である、(2)30年は建て替えを検討できる入口の要件であるが、それだけでは対応できないので建物の価額の要件を設けている、(3)建物の価額の要件についてはより明瞭で緩和した基準でも良いとは思うが、多数決のみでよいとする人の意見はパブコメ等で見てみると、建て替えに反対した人は建て替え決議が成立したらすぐ他に移るのではないかという理由を述べているが、建て替えたくないとか、その場所に住み続けたいという少数権利者の保護も考える必要があり、そういう意味で客観的要件は必要だろう、等の意見が出された旨説明があった。

さらに、8月6日の同部会の次回の会合で、区分所有法の改正の要綱(案)について議論を行い決定する予定であるが、資料3の第5の1の注1(客観的要件を設けずに多数決のみで建て替え決議をできるものとする見解)の取扱いについて問うたところ、客観的要件を残した形で要綱(案)を作るべきとの部会の意見になった旨説明があった。

その後、委員等と法務省との間で、以下の議論が行われた。

久米専門委員:いくつか質問させていただきたい。まず、説明いただいた資料(「法制審議会建物区分所有法部会第13回会議」)の議論の中で、委員の発言の最初のところで「久米教授や福井教授の発想は、トータルの社会的な効用が増加するのであればそれをよしとする比較的シンプルな功利主義の 考え方。」とあるが、我々は社会的公正に関する価値観として「最大多数の最大幸福」というベンサムの考え方を持っており、これは弱者への再分配も含めた非常にオーソドックスな価値観だと考えているが、この論者の方は一体どのような価値観を持っているのか、もし分かれば教えていただきたい。我々の価値観は、「到底すべての人のコンセンサスは得られない」と書かれているが、最もオーソドックスでかつ弱者を意識した価値観を持っているのではないかと認識しているので、この点について法務省がもし説明できるならお願いしたい。

吉田参事官:これは正直申し上げてお答えはできないと思います。

久米専門委員:それから二番目に、6月4日の会議(区分所有法部会)の議事録中、5ページ以降の所で、色々な建て替え要件の案についての説明が法務省からなされているところが紹介されている。この議事録を先日読ませていただいたところ、例えばこの中で、老朽化を要件とする甲案や、損傷・ 一部滅失を要件とする甲案については、色々問題点を指摘している後に、5ページの30行目辺りで「この点の説明としては次のようなことが可能ではないかと考えられます」ということで、いわば疑問点・問題点に対する想定問答的な模範解答が詳しく説明されている。それに対し、10ページ中段で、先ほど席上に1枚紙が配られていると言うことで、5分の4の多数決のみを決議要件とする案が紹介されているが、これについては問題点だけを説明している。この点について、前回6月28日の総合規制改革会議の当WGでのヒアリングにおいては、「6月4日の部会では、中間試案で掲げた案と並べて、5分の4の多数決のみを決議要件とする案を資料として配付し、対等な立場で比較検討していただくという趣旨で御議論いただきました」と胸を張って発言していたが、一方の案には問題点の後、模範解答を縷々丁寧に説明しつつ、もう一つの案については問題点だけを述べるという説明のしかたが、法務省のいう「公平な立場、対等な立場で比較検討していただく」という方法なのか。

吉田参事官:問題点の指摘ということだけではでなく、10ページの第3パラグラフのところで中間試案の中身、まさにこれは補足説明のところで最後に修正していただいたところであるが、多数決だけを要件とする案の根拠について説明を加えているところである。問題点、根拠・反論については同様に説明しているつもりである。

久米専門委員:案の根拠について説明が非常に不十分で、なおかつ、順番として、問題点があるということで説明が終わっているのと、問題点の後に模範解答を示して終わるという説明の仕方とがあるが、それを法務省は対等な紹介の仕方だと考えていると理解して良いのか。

吉田参事官:問題点の後に、積極的な理由付けや支持する立場からこういう意見があるということですので、片方だけは問題点だけという紹介の仕方ではないと思っている。また、本日の資料にもあるとおり、久米先生や福井先生の文献を第13回会議で資料として紹介させていただいている。第11回会議の議事録だけをみて御批判されているが、これ自体についても問題点と(根拠を)両方紹介しているので、それほど不公平ではないと思っているが、第13回会議の方でもきちんと補充させていただいたこと を御理解を願いたい。

福井教授:では、5分の4多数決のみを要件とする案について疑問点や意見が出されたときに、その疑問点は理由がないとか、その考え方は間違っているとかの反論を述べるだけの知識・経験やあるいは意見を持った者は事務局や委員の中にいるのか。

吉田参事官:その点については、ただ資料としてお配りしたものを参考にしていただいたということになろうかと思う。

福井教授:逆に言えば、吉田参事官を始めとした事務局自身が、何とかしてその案に落ち着かないように一生懸命資料を作って説明しているから、このような案については誰も擁護者がいない、ただ批判にさらして誰も賛同者がいなかったことにしよう(とした)と、明らかに議事録からも会議資料からも見える。それはフェアではないのではないか。

吉田参事官:ここでは賛成意見も反対意見も同じように述べられていて、それに対する反論の形で賛成意見も反対意見も、事務局の方からはこの第13回会議においてコメントすることは行っておらず、どちらかを擁護するという立場では議論に参加していない。

福井教授:ある説を俎上に乗せる際には、その説を守る人と攻撃する人が対等の立場で同じ土俵で議論しなければ、その説の欠陥も長所も分からない。それが前提を欠いている。

森委員:我々が何故30年を要件に入れるのに反対しているかについて説明すると、いくつかあるが、まず、都市再開発法の中に、最初は耐火要件というものがあったが、それがなくなった。耐火建築物ばかりになってきたことから、今度は建築年齢というもの、45年という基準ができて、それ(基準を超えるもの)は非耐火と見なすこととされ、その後また改正があって、その3分の2で良いのではないかということになり、そのようにして30年という数字が出てきた。これがあるために、ここの議論においても、30年とは絶対要件なのだ、30年経たなければ(建て替えは)やってはならないのだという意味で30年を主張している人もあれば、30年とは建て替えるべき期限だ、つまり、耐用年数が来たという合図であり、それ以降はむしろ建て替えを研究すべきなのだ、(30年とは)そういう意味の指数だと思っている人も存在する。それからもう一つ、住み続けたいと主張する人がいるというのが反対する意見としてあるが、あたかもその人が30年住んでいたかのように思っているようだが、実態は20年も経つと4割ぐらい新しい住人が入り、30年も経つとほとんど新しい人ばかりになってしまう。年数の経過とともにだんだん資産価値が下がり、(資産)レベルの低い住人が増え、40年も経つと建て替えの元気がなくなってしまうものであるが、そういう実態をご存じなのか。
現在は、そういう実態を知らずに空しい議論が行われているように思える。このような期限については、建物によって30年でも立派なものも あればボロボロのものもある。最初から100年建築というのもあるが、どういうメンテナンス・補修がされたかという歴史にもよるものである。
そのような点を議論している人もいるが、そういう人は30年にこだわるなと言っている。つまり、どこから考えても、30年という数字が一人歩きし、好きなように解釈されてしまう。(建て替えに)反対する人や現状維持でいいという人に利用され、論拠にされるだけである。我々仕事をしている者からは非常に迷惑な基準であると言わざるを得ない。都市再開発法でも困っているが、新しい建物を再開発地域の中に建てた人がいるともう、動かしてはいけないかのようになり、再開発を行うポテンシャルがなくなることにもなっている。(この上、区分所有法についても)
余計なことを持ち込んで混乱を招く必要はないというのが実務の立場からの意見である。このほかにも色々あるが、要するに実態をよく知らないで議論されている。もし、30年も経てば、(住人が)共同建て替えか、仮に、皆がそこに住んでいて建て替える力がない人達ならば、権利消滅させて売却する路を選ぶか、そのための基準とするのならば分かるが、共同で建て替えをしましょうということについては、(30年は)全く関係のない数字だと思う。

吉田参事官:30年という形式的な数字を基準として設けた場合、森委員が言うように、建物の実情で全てのケースに対応できない場合があり得るというのはよく理解できる。ただ、繰り返しになるが、今ある建物に改正法を適用することを前提に議論しているので、その場合に、今ある区分所有権の内容としてどこまで変更を加えても財産権の観点から問題がないのかという点を考える必要がある。その場合、今の区分所有法の建て替え決議の基準は、問題点があることは指摘のとおりだが、一つの考え方としては、維持ができないような不合理な事態を費用の過分性ということで条文に表し、要件にしているという意味では、それはそれとして理由は成り立っていると理解している。しかし、そこから多数決だけの要件に変えたときに、個別の区分所有者の意識、取得した経緯、何年住んでいるかといった事情はそれぞれ異なるから、もちろん全てがそうなるということではないが、今の区分所有法の下で区分所有権の内容が、費用の過分性を満たした上で5分の4の多数決がなければ権利を強制的に奪われることはないという権利状態になっていることからすると、何の理由もなしに多数決だけで同じような建て替えができるという制度に切り替えることが可能なのかどうかという点が一番の問題である。部会での議 論もそういう観点からの問題意識が強かったのではないかと思う。そのことからすれば、30年という線の引き方が良いのかどうかという議論はあると思うが、何らかの現行法の要件との連続性というか、反対者に対して建物の建て替えを強制する理由付けとしては、年数というのは一つの考え方であるし、それを何年にとるかは議論を呼ぶかもしれないが、明確な要件として線が引け、かつ、現行法との連続性を維持した形で要件を設けることからすると、年数という要件も選択肢としてはやむを得ない部分があると思う。

森委員:いくつか納得できない点がある。少数者の財産権を守ると言うが、建て替えたら守れない、建て替えなければ守れるという判断はどこから来るのか。むしろ建て替えないでいると財産価値はどんどん下がるのに、財産権を守ったことになるのか。もう一つは、権利者というときに、実際に(所有者が)居住していることが前提になっているようだが、実態は、時間が経つと、(実際の居住者は)権利者は権利者だが、借家人であるという場合が増えている。だから、古くなった建物を建て替える際には、借家人の権利をどうするかということこそが本当の問題なのにその点については何も触れていない。三つ目は、現行法との連続性というが、(現行法自体が適当かどうかも)規制改革会議で検討しているのであって、それにこだわるのがこの場合正しいのか。

吉田参事官:少数者の財産権を守ると言っても建て替えなければかえって価値が下がって、財産権が守られないのではないかというご指摘だが、その物について所有権を有している訳であるから、建て替え制度については制約を加えているが、原則論として、所有権というのは、その人の意思に基づいてそのまま保持し続けることができるというのが原則であるから、放っておくことで朽ち果てて財産価値が下がっても、少数者としては、ボロボロになっても住み続けたいという・・・

福井教授:今の質問は、少数者が「俺はぼろいままで良い」と言ったときに、ぼろいまままじゃ困ると言う人が必然的に巻き添えを食うということ。

森委員:そういうことではない。当然巻き添えを食って、迷惑をすることもある。
法務省が守っている少数者の財産権をむしろ侵害というか、傷めていると思える。つまり、古くなれば古くなるほど処分する価値がどんどん下がっていく。それを一生懸命サポートしている。そういうこと財産権を守るということになるのか?

吉田参事官:どこまでも少数者の言い分を聞き続けたら、最後は無価値になってしまう。何も無くなってしまう・・・。

森委員:どうもできなくなって、お互いに地震が来るまでの命というか、処分価値がなくなってしまう。最後まで頑張っていたら。

吉田参事官:そういう極端な事態を避けるために、現行法でも多数決での建替え制度があると思っている。

森委員:それだけでいいのではないか?

吉田参事官:でも、朽ち果てていない状況の中で、多数の人たちが建替えたいと言った時に、建て替えられるかといえば現行法ではそうなっていない。

森委員:もう一つ言ったのは、30年経ってもぼろぼろのもあるし、立派なものもある30年と決める根拠はないと思う。

吉田参事官:30年経って、個別に建物の状況が違うのは指摘の通りであると思う。
30年の間経てば、多数決要件が満たされれば、少数者が我慢していただかなければならなくなる、線の引き方としては、ひとつの考え方であると思う。

森委員:それも違うのではないか。30年も住み続ける保証してもらいたい、安心して住みたいと報告されているが、それは借家人の言い分である。所有者の言い分ではない。所有者は一番いい時に買い換えるということが必要である。その辺は論理のすり替えが起こっている気がする。

吉田参事官:実際の使用状況が借家になっているかどうかは、マンションによってはいろいろあると思うが・・・。

森委員:その点を議論の中で触れていない。研究もされていない。

吉田参事官:それは、財産権の保護とか、住んでいる立場からすると住居の保護とか、生活権の保護というものはある。ここで議論している財産権の保護というのは、基本的に所有権の保護である。バリエーションとしては、委員ご指摘の借家状態になっている時に、借家権をどう考えるのかというのはあると思う。

森委員:別問題である。

福井教授:今一番の争点は、30年経ったら、いかに反対者がいても保護しなくていいと言われるが、その逆に30年経つ前は、どんなに賛成者がいても絶対建替えさせない。それが30年を境目に、そのように扱いが変わることの合理性は何か?

吉田参事官:30年経たなければというのは、別枠の要件があることは補足しておく。
維持・回復に特段多額の費用が要しない場合には、30年経つまでは建替え決議ができないというのは、ご指摘のとおりである。

福井教授:その理由が問題。30年経っても、反対者は反対者で残る。言われている案が反対者の保護になっていないのは以前のヒアリングでもご自身が言っていた。反対者である続ける限りにおいて、年数の経過で突如として扱いが変るということの合理性をどう説明するのか?

吉田参事官:30年経つまでの間は、反対者の立場で反対したら建て替えは実現しないし、30年経てば反対される・・。

福井教授:その違いは、なぜそういう風に違えることが合理的なのか?

吉田参事官:30年間は区分所有権として取得した人の立場としては、最低限保護すべき、特段の事情がなければ、建物として維持する・・。

福井教授:それは憲法のどこに書いてあるのか?またはそういう原理原則があるのか?

吉田参事官:そういうことではなくて、現行法では維持に費用の過分性がなければ・・。

福井教授:立法論をやっている時に、現行法と考え方を変えないというのであれば、やらない方が良い。

吉田参事官:考え方を変えないということではない。

福井教授:立法論であるのだから、現行法の不適切なところは、現行法の仕組を変えるというのが前提であるから、合理的かどうかを検証しないで、考え方を変えないというのは間違っていると思う。

吉田参事官:考え方を変えないということではない。何も要件を設けないものと比較してどうなるのかというと問題が大きすぎるのではないかと思う。

福井教授:問題というのは、30年経つまでは財産権として年数経過を保護するというドグマを持っているが、その根拠を知りたい。前に聞いたら、実態調査もしていないし、そのような学説・論文もない。担当参事官の頭の中だけで作られた30年という基準について、何の論拠があるのかを一度も聞いていない。

森委員:今日本では、平均寿命が木造では24年、鉄筋だと26年である。だけど30年と言うが、何か根拠があるのか?

吉田参事官:他の法律、例えば借地借家法の期間として決められているのが30年とか、公営住宅の建替えで35年とかがある。

福井教授:法律に先例があるとかないとか、条文の中から拾ってくるとかではなくて、今議論しているのは、老朽化したマンション或いは損傷したマンションの建替え問題である。その問題に即して合理的かどうかでないと、条文の中にありますというのは、全く論拠として成り立たない。要するにマンションの建替え問題を議論するときに、30年までとにかく待ちなさい、実際は20年でも老朽化しているのが多いのに30年まで待ちなさいという社会実態としての合理性を何ら説明していないのに、何でそこにこだわるのか、全く理解できない。

吉田参事官:建物として、一般的にマンションを買った人がどれくらい期間居住するかということを意識として持っているか・・・。

福井教授:意識調査はしたのか?

吉田参事官:していない。

福井教授:していないのに、どうして分かるのか?

吉田参事官:他の制度の下で、建物の寿命を・・・。

福井教授:他の制度ではない。マンションの建替えの議論である。マンションの建替えに際して、30年まで期待権があるという社会実態の意識調査の結果を基にして言っているのか?

吉田参事官:意識調査はしていない。

福井教授:なんで分かるのか?

吉田参事官:他の制度で、こういったことを建物の寿命として社会的効用に基づいて、一般的にこう考えているといった制度があるのだったら、それを参考にしても構わないのではないか。

福井教授:公営住宅は公的ストックで、公的住宅部局が当時の技術の粋を集めてつくったものと、今建替えが問題となっている民間のある意味はしりの頃の劣悪なストックですよ。制度の前提が違うのに、そのまま引っ張ってくるというのが間違いである。およそ建物なら何でも30年と言われるなら、そういう人が立案すること自体間違っている。

吉田参事官:そんなことは言っていない。

福井教授:さっき公営住宅が30年だと言ったではないか? 前提が違うと言っている。

吉田参事官:借地借家法の存続期間が30年と定められていて、これは建物の一般的な経済的な寿命を30年としておくのが良いということで定められたと聞いている。

福井教授:今は分譲マンションのことを言っている。借家一般と同じであるというデータが何かあるのか?

一場局付:マンションでも、分譲マンションだけではなくていろいろなかたちのマンションがある。建物一般としての寿命として借地借家法を参考にしても問題はないと思う。

福井教授:もともと分譲で出された共同住宅と、戸建てもビルも含むいろいろな形態の借家法の比率のもとと同じでなければならないという合理性はない。

一場局付:区分所有法も特段分譲マンションだけを規律の対象としているわけではない。

福井教授:区分所有法自体、もともと分譲形態ですよ。

森委員:寿命であるが、物理的寿命に何でこだわるのか? 本当のまちは、社会的寿命でことが決まっていく。再開発でも建替えの場合でも、30年も経っているのは空家だらけになっているか、売りがたくさん出ている状況である。建物としてはそんなに古くないが、様式として古い。風呂がないとか、天井が低いとか、耐震基準に合っていないとか。それは物理的にも関係しているが、家賃が急激に下がったとか、効用がなくなっているとか。何で物の価値にこだわって、ライフスタイルを犠牲にしなければならないのか。まちの在り方とか、実態とかを全く知らない人が議論しているように思える。

福井教授:中味の議論をこれ以上しても、全く理解されていないことは分かったので、あまり意味がないと思う。このまま真っ向から意見が対立しているものをまとめて、今後どうするのか? もともと5分の4がベースとなっているのは閣議で決まっている。これまでの説明では、あまりフェアでない提示をしているし、内在的に理解されている方が誰もいない場で議論したことでまとめられようとしている。このまま推移して、総合規制改革会議として5分の4のみにするということはかなり重要事項だという認識で、このまま閣内不統一でどうするのか?

吉田参事官:基本的な案のベースが5分の4のみの案であると言われたが、閣議決定の内容としては、この点を含めて検討するということになっている。それから建替えの円滑化のためにそういった具体的な施策を講ずることとなっている。いろいろと途中でご批判をいただいて、それを踏まえて意見の紹介もさせていただいたので、審議で検討をしていないとか、検討が不充分であるということはないと考えている。

福井教授:検討が不充分であるという見解もあり得るわけで、その場合に5分の4についてフェアに提示していただいた上で、きちんとその得失について議論された上で、5分の4のみという要件が不合理であるということが当会議で分かるような、納得ができるような議論があったのならともかく、今まで見た限りではそういうふうになっていないという印象である。
まともな反論を一回も見せてもらっていない。

吉田参事官:制度論であるので、従前の考え方は要するに無くして議論するのだということだが、もともと区分所有建物というのは、物理的に建ちあがって区分所有権として成立したときに、そういう権利として一応成立しているものであるので、その時に権利の内容を法律で定めるということを前回に福井先生の方から言われたが、その時に5分の4のみに直ちにすることは、多数決のみで建替え決議に拘束されて、所有権が奪われる余地がないという制度、そういう前提の下で所有権を取得した人の立場を考えると、もちろん制度改革の議論であるし、立法論であるから、ある程度フリーハンドで議論する必要があって・・。

福井教授:そういう議論をすると、1回つくった制度は物が自然に朽廃するまでいじってはいけないということなら分かるが、そういうことを言っているのではないなら、今回もある程度、制度をいじるのであれば、そういうまるで矛盾したことを論拠に持ち出すことはおかしい。

吉田参事官:矛盾しているわけではなくて・・・。

福井教授:建った時にその時の法制度でずっと期待権があるということ自体が、遡及法があり得る以上馬鹿げた議論である。現にその時から事情が変ったら、財産権の内容を法律で決める、憲法に適合する限り法律で決めると書いてあるのだから、動かし得ること自体だって、あるゆる財産権は前提としている。およそ取得した時から変らないという議論はあまりに非常識だから止めた方が良い。

吉田参事官:財産権の内容をどういう内容を変えて、例えば本質にどこまでいじるのかということに絡んでくるので・・。

福井教授:それは、憲法の制約の中で立法政策の問題である。憲法上、憲法解釈論上、ここまでしかできないという限界をきちっとした論拠で示されるのなら分かるが、1回も示されたことはない。

吉田参事官:そういう点に問題があるのではないかという意見があった。

福井教授:憲法解釈論上、どこまでは限界で、どこからが乗り越えているのかを教えて欲しい。そういう論文か、ここまでが解釈論上の限界で、ここからが立法政策上許されないという解釈の明確な指針がないのに抽象的な議論で抵抗されても説得力がない。

吉田参事官:現行法の規定からすると、客観的要件が必要とされている訳である。

福井教授:現行法の規定が憲法に違反しているのかどうか、現行法の規定のみが憲法に適合しているのかどうか、憲法解釈論をした上で言っているのか?

吉田参事官:そういうことはない。

福井教授:だったら、軽軽しくそんなことは言わない方が良い。

八田主査:遡及して変えられるということは、ありとあらゆる人の権利に影響を及ぼすことになる。この問題のように社会的に重要な問題について、権利を失う人と社会的な便益と比較して大改革することは当然あり得る。従って、これができないという理由が制度の連続性だけというのなら、最初から閣議決定に賛成するべきでなかった。制度の連続性から5分の4のみというのは検討に値しないと言うべきであった。検討するということは、制度の連続性という初めから指摘されていることは白か黒かはっきりしていることからは外して、社会的・実態的にどちらが望ましいかということを検討されることを我々は期待していた。そして、30年で切るということの実態的な検討で我々が説得されるようなものがなかった。経済的寿命と物理的寿命の話をしたが、どんな事業を行うにしても物のストックの寿命を決めることは、経済的寿命というのが非常に重要で、それが来たら物理的寿命というのは意味がない。それを判断できるのは、法律とかの外ではなくて、持っている人が判断するより仕方がないと思う。ここで社会的便益を論ずるときに、基本は当事者の判断で、それ以外の30年とかの要件を持ってくるのは余程の理由でなければならない。
それが連続性だけの理由であれば、改革にあたっては閣議決定があったことを前提とすると採るべき議論ではないと思う。

吉田参事官:議論としては、区分所有権の本来の姿として、遡及しないとした前提で議論した場合でも、権利の内容としては通常の意識としてはそういうことも考えて権利を設定すべきという議論もあったということは言っておきたい。

久米専門委員:資料1で建替え要件の委員・幹事のいろいろな発言があったが、法務省から見て、法務省が今提案している根拠は二つ立論があると思う。一つ目は財産の処分を強制する、その場合には少数の財産権を保護するには5分の4の多数決ではなくて、他の合理的な要件を付加することが必要である。第二点目が、年数要件や費用要件は財産処分を強制する根拠として合理的である。この二つの立論であることは間違いないか?

吉田参事官:説明としては、そうであると思う。

福井教授:合わせてお願いしたいのは、今の二つの論拠と今日言われたことを含めて、参事官の私的メモでも、民事局の見解でも構わないので法制審を隠れ蓑にしないで、法務省の見解を文書にして来週前半にでも頂きたい。

吉田参事官:それはちょっと。これは部会での議論があったことを話している。

久米専門委員:とてもそれが言えないというのは、法改正をしようとしているのにひどいのではないか。

福井教授:先程から聞いていると、法制審の委員が言っていることではなくて、参事官自身の見解で発言されている。法制審でとりまとめる必要はないから、論拠を文書にしていただきたい。

吉田参事官:とりまとめ自体は、法制審ですから・・・。

福井教授:法務省として見解を持っているから発言されている訳ですよね。言ってはいけないことになっているのだったら、何も言えないことになる。

吉田参事官:言ってはいけないということではない。部会の委員とか幹事の考え方の立場では、ここでは言うことができない。それを何か支持する論拠が考えられるのであったら、担当者の立場で話せということであるから、話をしている。それが役所の公式見解かと言われると・・・。

福井教授:もう一つご留意いただきたいのは、あくまで諮問機関の法制審がどういうものをまとめられるのかというのは、法制審の委員が最終的に自立的にまとめればいいことであるが、要するに、法制審の事務局の人格としてではなくて、閣議請議大臣としての法務大臣或いは法務省の組織としてどういう判断を持つのか? 諮問機関の判断とは人格的に独立であるから、どのような見解を持つつもりなのか? 法制審の意見と本当に同じであると言うのか?

吉田参事官:閣議決定の内容を遵守して、閣議メンバーの下の法務省に所属している者として、それを遵守したかどうかで判断することになると思う。

福井教授:閣議が遵守されたどうか、法務省だけが判断すれば済む話ではない。自分だけが判断できると思うのか?

吉田参事官:我々としては、そう判断している。

福井教授:閣議決定の遵守の最終判断権は、法務省だけにあるのか? 内閣が決めることではないか? 内閣が判断するという認識でよろしいか?

吉田参事官:それは私が決めることではないと思う。一般論としては、閣議決定を守ったかどうか・・。

福井教授:検証主体は内閣ではないのか?

吉田参事官:それぞれの立場で、内閣に所属している者が判断するものであると思う。

福井教授:合議体としての内閣ではないのか?

吉田参事官:それはそうだと思う。

久米専門委員:改正要綱案をつくられているが、その最大の根拠は先程確認させていただいた二つの命題であるが、この二つの命題の根拠として今日資料として配布された委員の意見のうち、特に法務省としてこの人の意見が我々の言いたいことを言っているのは、この場で2〜3推薦していただきたい。ご説明されただけでは、どれも根拠なく結論を言っているように思える。特に説得的なものを推薦していただきたい。

吉田参事官:我々がどれを推薦するかというコメントをできる立場ではないが、例えば費用の比較ということを要件に組み込むにあたって、持っているものをそのまま維持するかどうかについて、出費費用を参考の判断資料にするというのはあり得るという発言があったと思うが、思いつきで結果だけを言っているのではないと思う。

福井教授:費用だけ比べるというのは、ずっと議論していますが、効用を考えず費用だけを考えるというのは、まさに思考過程と違うというのは議論があったのか? 問題提起されたのか?

吉田参事官:それは、配った資料は効用を前面に出して、それを重視するということであるから、委員は検討はしている。

福井教授:説明はされているのか?

吉田参事官:特にしていない。

久米専門委員:先程の話で、なぜ根拠がないかと判断したかと言うと、非常に多くの人の発言が「こういう要件があっても不合理とは言えないのではないか」と言い方をしている。一人も「〜だから合理的である」とは言っていない。そういう意味で、根拠を示している人の意見を指摘して欲しい。

吉田参事官:今の話は、反対する者を保護する立場で、歯止めが必要ですねという前提に基づき要件を何か設けると。その中の選択肢としてどうかということであるから、合理的であるというのが説明になっていると理解している。

福井教授:歯止めが要るかどうかというのが論点のひとつ。もし要るとしたら、この30年要件が合理的かどうか。損傷の場合だったら再建築費とかの費用関数だけで考えるのが合理的かどうか。それぞれ論拠とか論点があるはずである。もらった資料では、それが確認できないということ。委員の発言内容からでも参事官の発言でも分からない。

吉田参事官:この中で特にこれというのはない。

八田主査:毎回平行線をたどっているのは残念だが、ご審議の内容について、詳しくご説明いただき、ありがとうございました。

以上

(文責 総合規制改革会議事務室


内閣府 総合規制改革会議