パネルディスカッション「高齢社会フォーラム・イン津」

「健康寿命を延ばすための人づくり・地域づくり」

コーディネーター
鈴木 隆雄
(国立長寿医療研究センター理事長(総長)特任補佐、桜美林大学加齢・発達研究所長、大学院教授)
パネリスト
葛谷 雅文
(名古屋大学大学院医学系研究科地域在宅医療学・老年科学講座教授)
小松 美砂
(三重県立看護大学老年看護学教授)
雲井 純
(株式会社百五経済研究所特別顧問)
田村 学
(津市健康福祉部長)
鈴木 隆雄氏 会場写真

 皆様、改めまして、今日は御参加いただいてありがとうございます。午前10時から始まっていますので、皆さん少しお疲れかもしれませんけれども、最後のこのセッションはパネルディスカッションということで、「健康寿命を延ばすための人づくり・地域づくり」というタイトルで皆様から、それぞれのスペシャリストでございますので、いろいろな御意見、あるいはお考えを、あるいは貴重なデータといったようなものを頂戴しながら進めてまいりたいと思います。

 私は、先ほど御紹介いただきましたように、コーディネーターを務めさせていただきます鈴木でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

 最初に、私のほうから、今日の高齢社会の実態について、特に高齢者の健康というのはかつてないほどに実は健康度が高くなっております。そういったデータを1つきちっとお示ししたいと思います。そして、昔は、高齢者の健康をはかる指標があり、つい最近まで使われていたんですけれども、かなりそれが古くなってきて、新しい指標がようやく開発されました。その指標を見ると、こんなにレベルが高いのかということを改めてお気づきになられるのではないかと思います。

パネルディスカッションの来場者

 続いて最初に、皆様から御覧になって左側、最初に、名古屋大学の葛谷さんのほうからは、特に高齢期に気をつけなければいけない危険な老化というんでしょうか、専門的な用語ではフレイルというふうに呼びますけれども、きちっと対処しないと健康寿命を延ばすということができませんので、そういった視点で少し医学的な面からお話をいただこうと思います。

 その後は、三重県立看護大学の小松さんのほうからは、もう少し虚弱が進んだケア、それを地域のみんなでどうやって見守っていくのかとか、そういったようなことも今非常に大事な時代に入っておりますので、その辺のところを御紹介いただこうと思います。

 それから、百五経済研究所の雲井さんのほうからは、特に三重県、あるいは津市を中心とした、高齢者、人づくり、地域づくりにとって大事な基礎データとなるような三重県特有の、いろいろなデータを御紹介していただきながら、最後に、先ほども30分ほど津市の取組を御紹介されておりましたけれども、津市の健康福祉部長の田村さんのほうから、プラスアルファでいろいろな津市の現状もまた踏まえてお話をいただこうと思っております。

 いろいろな視点、切り口から、特に今後の日本の超高齢社会を迎えるに当たってのポイントといったようなものを皆さんとともに考えていただければいいかなというふうに思っております。

○高齢者の定義

 それでは、最初に、私のほうから、今日のパネルディスカッションの中で、「活力ある高齢社会の高齢者とは」ということで、今日の日本の高齢者の健康度について少し御紹介をさせていただきます。

 今、実は日本では、高齢者というとみんな65歳以上の方を言います。しかし、これは国によってちょっと違いまして、例えば隣の中国などは、今でもまだ60歳以上を高齢者としているような国もございます。多くの先進諸国、既に高齢社会を迎えた諸国では、大体押しなべて65歳以上を高齢者としてますが、65という数字、あるいは年に何か意味合いがあるかというと、実は全く意味がないんですね。

 誰が決めたかというと、100年以上も前に、ビスマルクという大変有名なドイツの宰相ですけれども、その方が、まだ65歳以上の方が人口のわずかだったときに、高齢者はそれまで国のために尽くしてくれたんだから、その後はゆっくり余生を過ごしていただこうということで、65という数字を立てたんですね。でも、それに何も別に意味があるわけじゃなくて、当時はたかだか数%ですから大きな社会負担にはならなかったという点があります。

 しかし、今日では、日本なんかは世界で最も高齢化率が進んでおりまして、26.7%、実数でいうと3,340万人の方が65歳以上です。しかも、もっと大事なことは、だんだんと時代が変われば、高齢者とされる方々の健康の度合いが違ってくるということですね。120年前の65歳以上と今日の65歳、全然違います。それは容易に推測できることだと思います。実は、日本の高齢者は10年前ともちょっと違う、20年前とはかなり違っています。

活力のある高齢社会の高齢者とは 65歳以上は高齢者?

○高齢者の意識

 今、日本では、まさに今回のフォーラムを開催している内閣府から出された意識調査ですけど、「一般に何歳ごろから高齢者だと思いますか」と。皆さんもざっと今すっとイメージすると、60とか、65というのは非常に少ないんですね。70歳以上とか、75歳以上を合わせると6割を占めているということになりますので、一般の皆さんの意識も、別に65だからと急にその方々を高齢者だと思っていない。意識がそもそも変わってきているということがございます。

 実際のデータをここに御覧いただきます。データは、老化に関する研究は、非常に精度の高い老化の研究をやっているのは日本で2か所あります。その2か所から全く同じデータが出ているんですね。それを御紹介します。

高齢者の意識調査結果 高齢者の健康状態について

 1つ目は、東京都老人総合研究所というところが出したデータです。いずれも歩くスピードを測定しているんですね。年をとったときに歩くスピードってすごく大事なんです。皆さんは、毎日、実は、ある一定の速度以上で普通に生活しておられます。それはどういうことかというと、大事なのは、1秒間に1メートルを進む速さなんです。

 実は、この速さがないと、町なかの横断歩道を青信号のうちに渡り切れないんです。ということは、横断歩道を渡り切るためには、1秒間に1メートルの速さで渡る能力が必要になります。

 ですから、歩くスピードというのは、実はいろんなことで大事なんですけれども、これを見ていただきますと、この上のほう、こちら側のグラフが男性です。こちら側のグラフは女性です。黄色いのは1992年の高齢者たち、赤いのは2002年の10年後になって高齢者になった方々です。各年齢階層、65から69、70から74、75からというふうに振ってあります。縦軸は歩くスピードです。どうですか、皆さん。1992年に65歳以上だった高齢者の方に比べると、2002年の高齢者の方々というのは、男性も、女性も、どの年齢階層も、全て新しい高齢者のほうが速く歩いています。

○歩行速度で見る高齢化

高齢者の意識調査結果

 1つ目は、東京都老人総合研究所というところが出したデータです。いずれも歩くスピードを測定しているんですね。年をとったときに歩くスピードってすごく大事なんです。皆さんは、毎日、実は、ある一定の速度以上で普通に生活しておられます。それはどういうことかというと、大事なのは、1秒間に1メートルを進む速さなんです。

 実は、この速さがないと、町なかの横断歩道を青信号のうちに渡り切れないんです。ということは、横断歩道を渡り切るためには、1秒間に1メートルの速さで渡る能力が必要になります。  ですから、歩くスピードというのは、実はいろんなことで大事なんですけれども、これを見ていただきますと、この上のほう、こちら側のグラフが男性です。こちら側のグラフは女性です。黄色いのは1992年の高齢者たち、赤いのは2002年の10年後になって高齢者になった方々です。各年齢階層、65から69、70から74、75からというふうに振ってあります。縦軸は歩くスピードです。どうですか、皆さん。1992年に65歳以上だった高齢者の方に比べると、2002年の高齢者の方々というのは、男性も、女性も、どの年齢階層も、全て新しい高齢者のほうが速く歩いています。

○高齢者の寿命は延びている

歩行速度の変化結果

 実は、この10年間で日本では4歳平均寿命が延びたんですね。平均寿命が延びて高齢者が増えるということは、このデータだけ見ても、例えばイメージとして、よく腰が曲がったり、足が曲がったりする高齢者のイメージがありますけれども、そういう人が増えるんじゃなくて、若くて活力の高い人たちが増えてくるんだということを正しく認識しておく必要があるかと思います。

 これはす国立長寿医療研究センター、ここも非常に精度の高い老化の研究を行っております。ここでも、これは、今度は、1997年に65歳以上だった人たちと、2006年に同じ地域で65歳以上だった人たちの同じように歩くスピードを比べています。

 先ほどの東京都老人総合研究所のデータというのは、実は、秋田県で調べられたデータなんです。これは、愛知県の大府市、あるいは東浦町の一般に住んでおられる高齢者の方々を調べたデータです。これも見てみると、10年前の高齢者に比べて、男性も、女性も、どの年齢階層も、みんな速くなっていることにお気づきになるかと思います。ですから、こういうことが日本全国で起きている。どういうことかというと、今の高齢者は、10年前、20年前の高齢者に比べて、歩くスピードだけでいうと大体10歳ぐらい若返っていると、あるいは老化が先送りされているというふうに考えられています。

生活機能の時代差

 歩くスピードではなくて生活する能力を測定したものです。同じように、これも非常に正確にとられたデータですが、女性を見てください。13点満点で生活機能を測定しています。後でもうちょっと詳しく言います。この一番下の点線は、1988年に70歳以上だった女性たちの13点満点で見たときの生活の能力です。次の線は、それから10年たった同じような年齢層の方々の生活機能の得点です。最後に、上の線は、2008年のデータです。すなわち、10年ごとに同じ地域の同じ年齢階層の人たちを生活の能力がどう変わっていったか、高くなっていったのか、低くなっていったのかを見たデータです。

 女性のほうは非常にきれいに出ておりますから、見ていただくとわかりますが、10年ごとにその平均得点がどんどん上がっております。どの年齢階層も上がっております。20年たつと、13点満点で平均点で2点上がっているんですね。これは、この地域にいる約1,000人の方々を調べたデータなんですけれども、1,000人の方々が13点満点の生活をする能力を調べたときに、平均点で2点も上がるというのは非常に大きな上がりです。

 このようにして、歩くスピードも速くなっている、生活をする能力も高くなっているということで、日本の高齢者というのは、確実に、非常によくなっているということなんです。となれば、私たちがややもすると古い時代の高齢者をイメージして物を考えがちですけれども、今日の高齢期には、やはりもうちょっと新しい、私たちは正しく理解した、今の高齢者は特に比較的若い高齢者、前期の高齢者と言いますが、非常に能力が高くなっているんだということを御理解していただきたいと思います。

 今、13点満点と申し上げました。13点満点ではかった生活の能力というのは、実は、この質問票なんです。これは、とても日本で代表的に今まで使われてきた老研式活動能力指標という東京都老人総合研究所というところが開発した、これができればあなたは立派な生活機能が自立していますよという、その13点の質問項目なんです。

 例えば、バスや電車を使って1人で外出できるか、日用品の買い物ができるか、自分で食事の用意ができるか、請求書の支払いができるか。知的活動性については、年金などの書類が書けるかとか、健康についての記事に興味があるかとか、社会的役割は、友達の家を訪ねることができるかとか。全部で13点満点です。

 これが満点をとれればいいんですが、実は、今の比較的若い65歳から74歳という前期の高齢者の方々は、ほとんどの方が満点をとってしまいます。皆さんだって、ほとんど満点をとっていると思うんですね。それはなぜかというと、1986年、今から30年前にできたものなんですね。皆さん、満点をとるということは、中学校の3年生に小学校3年生の算数のテストをやっているのと同じことです。ですので、これを変える必要があるということが出てきました。

92年コホートと基準分布 新たな生活能力指標の開発 13点の質問項目

○高齢者生活活動指標

 今は、これは去年からできたものですね。新しい現代の高齢者の生活の活動能力指標と呼ばれるものです。見ると、先ほどより大分進んでおります。例えば、町内会や自治会で活動しているか、ボランティア活動をしているか。最も大事なのは、自治会やグループ活動の世話役とか役職を引き受けているかということですね。それから、さっきの質問には全くなかったですけど、新しい機器がいっぱい出ています。携帯を使っているか、パソコンのメールをやっているか、ATMを使うか、ビデオでDVDプレーヤーの操作ができるか。恐らくこの中にはできない方もいるんじゃないかと思います。私も実はあまりできないんですね、これ。だから満点をとれないということですね。情報収集、外国のニュースに興味があるかとか、大事なことは、健康に関する情報の信憑性について判断できるか。これは、今よく言われる、ヘルスリテラシーという問題ですね。それから、生活のマネジメントとして、病人の看病ができるかとか、知人の世話ができるかとか、最後に、詐欺、ひったくり、空き巣の被害に遭わないようにしているかと。

 今はこういう指標で高齢者の能力、健康能力、生活能力を測定するというぐらいに実はレベルが高くなったということです。

新活動能力指標(JST版) 新活動能力指標の標準値

○健康能力高い日本の高齢者

 そのデータを全部集計しますと、やっぱり16点満点で平均点がまだ10点です。ただ、例えば、比較的若い前期の高齢者と後期の高齢者を比べると、平均点が11点と9点。男性と女性を比べると、男性は11点だけど女性は10点といったように、少しばらつきが出てきます。

 今後は、こういった指標で測らなければならないほど日本の高齢者というのはその健康の能力が高くなっていますので、特に前期の高齢者などというのは、今日のテーマにありますような地域づくりにぜひ貢献していただきたいと。そしてまた、貢献できるほどに、まさにこの地域づくりという意味で、社会参加のところは、ぜひ満点をとっていただきたいということが今後の1つの大きな課題だと思われます。

【葛谷】 名古屋大学の葛谷であります。

 私は、医療の面から見た健康長寿ということについてお話ししたいと思いますので、よろしくお願いします。

名古屋大学 葛谷雅文 新活動能力指標の今後の活用について

○100歳以上の高齢者実態

 この間の敬老の日、100歳以上のお年寄りの数が出ていましたが、6万人を超しています。毎年少しずつ増えているそうです。100歳以上の高齢者になりますと、何と女性が87%、圧倒的に女性優位の世界なんですね。

 今ここに記載がございますように、国内の最高齢は東京都の女の方で115歳ですね。現在、私が知っている限り、世界で最長寿はアメリカの女性で116か117歳なので、この方がもう1、2年頑張ると、また世界一になるかもわかりませんが、男性は112歳名古屋の方みたいですね。

 100歳以上の人数を県別に見ると、東京は当然人口が多いですから一番ですね。右下にあるのが、ここは人口100万人当たりの100歳以上の数で、これはほとんど西日本なんですね、島根、高知、鹿児島とか。これは高齢化率が非常に多いということで、当然こういう県が、人口10万人当たりに関しては大変多くなっているということです。今、100歳以上になりますと銀杯が贈られます。大変高価です。ただ、寂しいけど、厚生労働省は、来年から銀杯をやめて銀メッキにすると言っています。これは大変経費がかかるそうで、こんなに100歳以上が増えるとは多分思っていなかったんでしょう。来年からはどうもメッキになるそうです。残念です。

 さて、これはサザエさんですね。皆さん、御存じのとおりです。この2人は、何歳ぐらいに思いますか。私のレジュメを見ると答えが書いてあるので、レジュメを見ないようにしてくださいね。この方は、ぱっと見てどうですか。学生なんかに答えさせると、70代じゃないかと言いますね。このお2人、実は54歳。フネさんは、漫画の時代は48歳、実は、テレビだと52歳という設定らしいです。でも、やはりこの風貌を見ると、今の50歳代としては老け過ぎじゃないかというふうに思います。

医療の面から見た健康長寿の秘訣 100歳以上の人がいる市町村 サザエさんの波平とフネ

○平均寿命の推移

 これは日本人の平均寿命の推移です。昭和22年から平成26年までですね。これは等間隔ではないですが、でも、昭和22年から平均寿命は右肩上がりですね。昭和22年、日本人は、平均寿命が男女とも50歳代ですね。それから見ると、今は、女性は90に届こうとして、男性は80歳を超しています。これはどのぐらい違うかというと、こうやって線を引いて見てみますと、男女とも約30年平均寿命が違っているんですね。この間、60年ぐらいです。60年ぐらいで平均寿命が30年違っているということです。

 日本人は高齢の国だということはよくわかっていますが、平均寿命でいくと、実は、男性はここに書いてありますように8位です。女性は1番ですね。男女平均すると、やはり1番なんですけど、男性は、実は1番ではなくて、上には、イタリアとか、ニュージーランドとか、シンガポールとか、オーストラリアとか、そういう国が挙がっています。

平均寿命の推移 2014年度版WHOの報告結果

○PPKを実現するには

 さて、皆さん、高齢者の方に聞くと、PPKでいきたいと。PPKは皆さん御存じですよね。ピンピンころりですね。ピンピンころりがいいと。寝たきりは嫌だと。だから、ピンピンころりというのは、いわゆる、後で言いますが、健康長寿を実践して、要介護の期間が大変短い、こういうのがピンピンころりですね。ただ、現実はこういう人も多いわけですね、実は。自立度がだんだん減ってきて、ここら辺、要介護状態になって、ここの辺、寝たきりの状態ですね。これをNNKと言います。これ、皆さん、聞いたことはありますか。NNK、これをぜひ覚えておいてくださいね。これはネンネンころりというんですね。皆さんは、ネンネンころりじゃなくて、PPKでいきたいと、そういう御希望があります。ということは、ピンピンころりを実践するには、やっぱり健康寿命を延ばさなきゃいけないですね。

PKKとNNKの希望 健康寿命の概要

○健康寿命とは

 健康寿命の定義はいろいろあるんですが、大体ここに書いてあるように、日常生活に制限のない期間の平均という考え方が一般的かなと思います。ですけど、皆さん、これも御存じのように、実は、日本人は、健康寿命と平均寿命の差がちょっとあるということですね。男性では、ここに書いてあるように9年間、女性はもうちょっと長くて12.6年間あるんですね。ただ、昔、日本人は長生きだけど寝たきりが多いとか言われていましたけど、実は、健康寿命も日本は世界1番ですね。ですけど、いずれにしろ、9年なり12年の差があるので、この間を短くしたいというのが皆さんの御希望ですね。

 高齢者の寿命と健康寿命の関係を見てみます。これは高齢者がどうやって、最後は死に到達するかを簡単に記載しています。皆さんみとられるわけですけど、健康な高齢者が徐々に病気を発症して、障害があって、要介護状態になって、終末期を迎えて死に至ると。こういう簡単なプロセスが考えられます。では、健康寿命というのはどこら辺かというと、やはりここの障害が発症するまでですね。障害が発症してしまうと要介護状態になってしまいますので、何とかこの期間を短縮したいというのが皆さんの望みかなというふうに思います。

平均寿命と健康寿命の差 高齢者の寿命と健康寿命 要介護に至る年齢階級別要因

○要介護の主要因

介護が必要となった主な原因

 さて、日本人は要介護状態になるのにどういう原因でなっているかというのを調べてみました。左側に、若い年代から、あと5歳刻みに90歳以上までありますね。ここの中で、各年代の要介護になった要因がプロットしてあります。こうやってみると、若い年代、いわゆる前期高齢者の方々は、この青いところが大変目立ちます。

 この青いところは、実は脳卒中なんですね。脳血管障害と書いてあります。だから、若い年代の人は脳卒中によって要介護になる人が大変多いということがわかります。

 ただ、年をとるにしたがってその割合というのは見事に減っていきます。増えていくのが右下の部分ですね。ここは何かというと、骨折・転倒とか、あとは認知症、あとは高齢により衰弱とか、そういう要因で要介護になった人たちです。

○老年症候群

 これは年代別に割合で出していますが、これを日本人全体で示したのがこれです。そうすると、日本人の30.5%はここのピンク色をはじめとするここら辺、これは何かというと、ピンク色、18.5%の方が脳卒中によって要介護になっています。そのほか、心臓病とか、呼吸器の病気、糖尿病、がん、ここら辺は大体生活習慣病関連と呼んでもいいでしょう。そうすると、30.5%が生活習慣病関連で要介護になっているということがわかります。

 一方、この51.9%というのは、右下にあるここら辺、認知症、高齢による衰弱、関節疾患、骨折・転倒、ここら辺は高齢者になって起こってくるもので、老年症候群というような言い方がされますので、老年症候群関連というふうに名づけるとしましょう。日本人は51.9%がこういうものによって要介護になるということです。ですから、健康寿命を達成するには、大きく、2つの視点を持つことが大切かなと思います。1つは、比較的若い時代に生活習慣をしっかり管理する、コントロールするということと、高齢者になってからは、老年症候群というのをいかに予防していくかということが大変重要かなというふうに思います。

○フレイルとは?

フレイルとは

 1つ、ここで、高齢によるこの衰弱ということに注目したいというふうに思います。これは、1年半ぐらい前、日本の老年医学会というところが、これをフレイルというふうに呼びましょうと提案をしています。フレイルというのは、ここに書いてあるんですけど、言葉でいうと余計わかりづらくなっちゃうんですが、フレイルとは、老化に伴う様々な機能の低下、予備能力の低下によって、病気の発症や身体機能障害に対する脆弱性が増す状態。

 要介護に至るプロセスを2つのモデルを考えてみます。1つは疾病モデル、上のほうですね。もともと自立でいた人がある日脳卒中になってしまって、自立度が減って、これによりそして要介護状態になるんですね。さらに、ある日、転倒して骨折してしまった。さらに要介護状態が悪くなった。これを疾病モデルというふうに呼ぶとしましょう。これは皆さんの頭の中でわかりやすい、考えやすいモデルだと思いますが、別にフレイルモデルというのを考えてください。

○フレイルモデル

 フレイルモデルというのは、特別、病気とか、関係はないんですが、皆さん、だんだん毎年年をとっていきます。元気だった人がだんだんちょっとずつよぼよぼしていきます。それをずっと放置をしていくと要介護状態になってしまうということですね。自立と要介護状態の間の状態をフレイルというふうに呼びましょうということです。このモデルが大事なのは、矢印が全て右向きではなくて左向きにもあるということですね。

フレイルの診断

 すなわち、適切な行為をすることによってもとに戻すことができるモデルだということです。とはいっても、よくわかりづらい。もうちょっとわかりやすくするために、フレイルをどういうふうに診断したらいいかということを1つの例として挙げています。この例では、5つの項目が掲げてあります。この5つのうち3つ当てはまればフレイルと診断しましょうと。1つとか2つだったらフレイル前段階というふうに診断しましょうというふうに提言されています。

 まず1つ目は、体重減少。意図しない、痩せようと思っているわけじゃなくて、知らない間に半年間に2、3キロも痩せてしまった。2番目は、わけもなく疲れた感じがあると。疲労感ですね。3番目は、活動量の低下。散歩などの運動をあまりしないと。もともとよく散歩していたり、ゲートボールしていたんだけど、最近あまりおうちから出ない。これらが活動量低下になります。4番目が、先ほど鈴木さんのほうからもお話がありました歩行速度ですね。先ほど、1秒間に1メーターの速度というお話がありましたが、以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと。信号が青で渡り切れないというのは先ほどのお話のとおりですね。あとは筋力低下。握力が減ってきた。握力計があれば、数値を目標にすることがありますし、あとは、日常生活だと、例えばペットボトルのキャップがあけにくいとか、こういうものも指標になるかもわかりません。これの5つのうち3つ当てはまればフレイルというふうに診断しましょうというふうに言われています。

○サルコペニアとは?

 ここの4、5のところ、これはいずれも筋肉と関係していますね、歩く能力、あとは握力ですから。筋肉とか、筋量が年とともに減ることを、言葉だけ覚えておいてください、サルコペニアにというふうに最近は言われるようになりました。若いころは筋骨隆々だったのが、年とともに少しずつ筋肉が落ちてまいります。極端に落ちるとサルコペニアというふうに言います。

 例えば、これは太ももの横断面、MRIの像ですが、左側が若い方、右側が75歳であまり元気のない方です。真ん中の灰色のところが筋肉ですけど、明らかに筋肉が低下をしています。こういうのをサルコペニアと言います。サルコペニアがあると、先ほどのフレイルという状態にもなりやすいということが言っていいかなと思います。

 フレイルの状態だと、実は、転倒・骨折の原因になったり、いろんな病気の原因にもなりますし、あとは家縛りとか、なかなか家から出ないというように、社会的孤立と書いてありますけど、こういうものにもつながりますし、ひいては認知機能の低下にもつながっています。これら全ては、先ほどお話しした要介護状態と密接につながっているということですね。ですから、フレイルというのが大変大事だということを認識していただきたいと思います。最後、強調しておきたいのは、皆さんがなりたくない要介護状態というのは、もちろんこういう病気も大事ですが、病気以外に、フレイル、こういうものの予防というのも気をつけていただきたいなと思います。

サルコペニアの診断図 フレイルの悪影響 高齢者の健康寿命の短縮要因

○栄養と健康

 最後、栄養の話だけしたいと思いますが、これは日本人の体重の年齢別の値が出ています。これは平成24年の国民健康栄養調査から抜粋してきたものですが、若いときは、体重は増加するんですが、だんだん年とともに減ってまいります。一方、皆さん、BMIって聞いたことがあると思うんですが、BMIというのは体重を身長の二乗で割った値ですね。BMI18.5未満を痩せというふうに一般的に言われますが、痩せの割合は、若いときも多いんですが、やっぱり年をとってくると痩せている人が多くなります。

○肥満のほうが有利

 これは、日本人の65歳から79歳の方を11年間記録し、さっきのBMIと生命予後、死亡の危険度との関係を見たものです。例えばBMIが20から22.9の人と比べて、BMIが高い人、低い人がどれだけ死亡のリスクがあるかというのを見たものですが、御覧になってわかるとおり、BMIが高くても、あまり棒グラフが上に行っていませんね。あまりリスクになっていないというのがおわかりいただけると思う。むしろ痩せているほうがリスクが高いということがおわかりになると思います。

 BMIの30というのは、なかなか日本の高齢者ではいないんですよね、これだけ太っている人は。でも、30であっても、女性でほんのちょっとだけリスクが上がっているということです。すなわち、高齢者は、痩せより肥満というのが有利なんです。

年齢階級別体重、BMIの変化 太った猫と痩せた猫

○フレイルとサルコペニアの予防

 さて、先ほどフレイルとサルコペニアのお話をしました。予防の話を少ししたいと思いますが、皆さん、一般的に、高齢者というのは若い人に比べて体重が減少しやすかったり、栄養に障害が起きやすいという特徴があります。それは、いろんな原因があります。病気ありますし、あとは、例えばおひとり暮らしというのもあります。あとは、要介護認定を受けている方は、介護不足だと、当然、お食事の用意とか、買い物というのも大変ですからね。あとは、例えば認知症の患者さんというのも、やはり進行すると体重が減ってまいります。あとは、例えば痛み、腰が痛かってもそうですし、あと歯の問題も大事だと思います。さらには、間違った食事。例えば、歯が悪いのに普通の御飯を食べているとか、むせやすいのにお孫さんと同じような食べ物を食べているとか、あとは、私たちを含めて、医療者が間違った指導をし続けているということですね。

フレイル・サルコペニアの予防 高齢者体重減少・低栄養の病因

○高齢者ほど高たんぱく食を

 例えば40歳の人に指導するのと、80歳に指導するのはおのずと違うはずなんですが、医療者が同じような指導をし続けて、間違った捉え方をされているというのも1つ大きな要因かなと思います。

日本人高齢者のタンパク質必要量

 日本人の高齢者のたんぱく質のことをちょっと話したいと思いますが、皆さんは、年をとったらたんぱく質は少し減らしぎみでいいかなと思っておられるかもわかりませんが、これは逆で、実は、若い人よりも体重当たりのたんぱく質は高齢者のほうが多くとらなきゃいけないということがわかっています。健康な高齢者で体重1キロ当たり最低1日1グラムは必要ということもわかっています。すなわち、45キロの方だったらば最低45グラム、60キロの方だったらば60グラムのたんぱく質が必要ですし、筋肉は減少している高齢者だとさらに必要量は増えます。

 ある講演会で、60グラムのたんぱく質が必要と言ったら、ある人が手を挙げて、私は毎日肉を100グラムは食っておると言われたんですが、実は肉を100グラム食っても、たんぱく質は100グラムあるわけじゃないです。例えば、下に書いてありますね。1日のたんぱく質を5、60グラム食べるとすると、牛肉だったら300グラム食べなきゃいけません。卵だったら10個、お魚の切り身、切り身の大きさにもよると思うんですが、3、4切れは必要だということですね。だから、頑張って皆さん食べないと十分なたんぱく質がとれないということになります。

年齢階級別一日栄養摂取量

 これも日本のデータですが、実は、そうでも、男性、女性とも、この赤い線を見てください、70才以上になると、皆さん、たんぱく質の摂取量が極端に減ってくるんですね。だから、自ら気をつけなきゃいけないというふうに思います。

 皆さんは十分食べておられるでしょうか。ちょっと考えてみてください。でも、300グラムの肉を食わないかんと。朝からステーキを食えと言っているわけじゃなくて、別にいいですよね、たんぱく質、大豆もあるし、卵もあるわけですから、いろんなものでとればいいかなと思います。

○栄養と運動の関係

 あと、運動も大事だということがわかっています。運動は、有酸素運動、いわゆるウオーキングも大変大事だと思いますし、それもおやりになるのは大変いいと思いますし、あともう1つは、ちょっと筋肉に負荷がかかるような運動、例えば椅子で座って立ち上がるような運動。あとは、ちょっと右側にスクワットというような、こういう運動の方法とか、自分の体重を使って筋肉に負荷がかかる運動がいいかなと思います。ただ、1人でおやりになると危ないですから、必ず前にちゃんと机や何かを置いて、支えるものがある状態でおやりになることをお勧めしたいと思います。おひとり暮らしはどうしても食事が不規則になります。だから、不規則にならないように御自分で意識する必要がありますね。皆さん、帰ったら冷蔵庫を開けてください。食べ物で満ちていますか。空っぽになっていませんか。

食事からタンパク質を摂れているのか? フレイル・サルコペニアの予防法

 腐ったものはだめですよ。腐ったものを入れておいてもしようがないですから、食べられるものをいっぱい入れておいてくださいね。高齢者で多いのは、食欲がないときは水も飲まないんですね。だから、夏なんかは、食欲がないときは、脱水にもなりやすいので、夏は特にお気をつけください。たんぱく質は、さっき言いました、十分とるということは大事です。この年になったら恥ずかしいから肉は食わんとか、そんなことを言っている状態ではないですから、胸を張って肉を食ってください。サプリメントも最近たくさんございますが、私は、できたらば、普通の食材をたくさん、食材を介して栄養をとることをお勧めします。コレステロール、油、これもメタボ健診なんかで食べるのを控えるように皆さんすり込まれていますが、実は油というのは大事なカロリー源ですので、油も有効にお使いになることが必要かなと思います。ただ、既に動脈硬化の病気を持っている方とか、コレステロールの薬を飲んでいるような方というのは、やはり先生とちょっと相談をしてください。これで終わりですが、健康長寿の秘訣というのは、すごく単純ですね。しっかり栄養をとることと、しっかり運動を継続するということが大変大事だというふうに思います。

高齢者の栄養に関する注意事項 健康長寿の秘訣

 以上です。どうも御清聴ありがとうございます。


【小松】 それでは、続いて、三重県立看護大学の小松さんのほうからは、先ほどちょっと申し上げました、高齢者の、今度はケアというところを中心にして、地域とのかかわりといったようなところをお話しいただこうと思います。 よろしくお願いします。

 私のほうでは、老年看護学の立場からということで、大きく4点、1つは、地域における高齢者ケアの現状と課題というところからお話をさせていただき、次に、今、健康寿命の話が出てきましたけれども、その中でも、その健康寿命を延ばすための社会参加ということはどういう意味があるのかなということを一緒に考えていけたらと思っております。そして、今回のフォーラムのテーマにも関連します、支え合いのまちづくりというのはどういうことなんだろうなということを少し考えた上で、最後に、人と人との相互作用というところで、ケアリングという看護の概念を1つ御紹介したいと思っております。

三重県立看護大学 小松美砂 健康寿命を延ばすための人づくり・地域づくり

○地域における高齢者ケアの現状

 まず最初に、地域における高齢者ケアの現状と課題というところで、今、地域で介護に関して、もしくは高齢者ケアに関してどういうふうな課題が上がってきているかというところを5点ほど挙げますと、1つは、介護保険制度で要介護者または要支援者、そういう認定される人、その数が急速に増加している。特に75歳以上の後期高齢者の方が介護認定を受ける方が非常に増えているというのが1つの現状です。

老年看護学の立場から 地域における高齢者ケアのタイトル 地域における高齢者ケアの現状と課題

 そして次に、家族を介護するために、今ある仕事を離職する、もしくは転職する、そういう方が増えている。それも、特に女性にそういう方が増えているというのも1つの介護の現状でございます。

地域における高齢者ケアの現状と課題

 そして、3つ目に、要介護の中でも5という、一番状態の悪いというか、重度な認定を受けた方に関しては、半数以上の介護者の方がほとんど終日、1日介護しているという現状があります。要支援とか、要介護1、2とか、体の状態が、まださほど介護が必要でない状態の方に対しては、見守りとか、少し手を貸す程度というふうな現状もございますが、要介護5になってしまいますと、半数以上の介護者の方がほとんど終日介護しているということで、これも1つの課題になっております。

○老々介護の背景

 次に、介護を受ける側としてはどこで介護を受けたいかというと、自宅と御希望される方が男性で4割、女性では3割。実は、この割合は少しずつ減ってはきていまして、今、逆に施設などで最後を迎えたい、専門職のもとでとか、病院や施ろうろう設でと望む方も少しずつ増えてはきているんですけれども、割合としては、自宅で最後を迎えたいという方が多いというのもまだ現状でございます。

老々介護の背景

 次に、この老々介護について少し考えていきたいと思います。こちらは、平成25年の国民生活基礎調査、厚生労働省の調査の図なんですけれども、老々介護ということで、年齢別に見た同居の主な介護者と要介護者等の割合の年次推移ということで、一番上で赤く囲っております60歳以上同士、60歳以上の方を60歳以上の方が介護している割合というのが約7割。そして、その下で、65歳以上の方を65歳以上の方が介護しているというのも5割。

 そして、75歳以上の方を75歳以上の方が介護しているというのも3割近くあるというのが現在の現状でございまして、一番左のところが、平成13年のデータから平成25年のところまで少しずつ右肩上がりに上がってきているというのが御覧いただけるかと思います。老々介護と言われる高齢者が高齢者を介護する現状というのが、年を増すごとに増えてきているというのが今の介護の現状と捉えていただいてよいかと思います。じゃ、どうしてこんなに老々介護が増えるかと申しますと、これは65歳以上の高齢者のいる世帯の構成割合なんですが、一番上が1980年で、一番下が2013年なんですけれども、ここで見ていきますと、2013年のデータの一番多い世帯は黄色いところですね。これは夫婦のみの世帯。65歳以上の方のいる世帯の中で、今一番多い世帯が夫婦のみの世帯、それが3割を超えているんですね。そして、次に多いのが単独世帯、ピンクところでございます。これはひとり暮らしということなんですね。これを足すと半数以上。65歳以上の方が生活する世帯の中で、1人、もしくは夫婦のみで暮らしていらっしゃる方が半数を超えているというところが老々介護という現状に大きく影響しているということになります。

65歳以上の高齢者がいる世帯の形

 これを次のスライドでもう一度改めて見ますと、夫婦だけで生活しているという場合は老々介護という形に、ひとり暮らしの方は介護者不在という形になってしまいます、家族の介護者が不在。私も看護職でして、大学で講義をしているだけではなく、年に半分ぐらいは病院で学生と一緒に実習をしながら、実際に高齢者の方を受け持ってケアをしているんですけれども、すごく感じます。

 やっぱり入院患者さんが、じゃ、退院して自宅に帰るとすると、誰も介護者がいない、ひとり暮らしだ、もしくは夫婦で旦那様が介護する、もしくは奥様が介護するという現状でということをかなり多く聞きます。そういうときにどうなるかというと、やはり退院までにお一人で生活できる状態まで持っていかなければいけない。もしくは、じゃ、奥様がいらっしゃるから、奥様が介護していただくかというと、奥様も高齢だと、もし奥様に何かあったら、この方の介護はできなくなる。そういう危機感を感じながら、どこまでよい状態になってから退院していただくか、その前に1回違う病院に転院していただくかとか、施設に行っていただくか、おうちに帰って何か在宅サービスを受けていただくかとか、かなり退院後の様子も、介護者が誰か、もしくは、介護する人がいるのかとかというあたりで変わってきているというのは病院にいても感じるところでございます。ですので、なるべく介護が必要にならないよう自立して生活できる期間を延ばすというのがやはり目指すところになってきて、今日ずっとお話の中で出てきている健康寿命を延ばすということがやはり介護と関連して重要であるということが言えると思います。

○社会参加と健康寿命

健康寿命を延ばすための社会参加の意味

 その中でも、社会参加ということを考えていくんですけれども、これは鈴木先生が所属していらっしゃる国立長寿医療センターの健康長寿教室テキストのところに、先ほどのフレイルの話を踏まえて、高齢者の健康管理というところで6点ほど挙がっています。規則正しい生活をすること、そして定期的な運動、散歩や体操をすること。これは先ほど葛谷先生のお話にありまして、同じように、バランスのよい食事をする。たんぱく質のこととかもお話にありました。そして、4つ目に社会活動に参加すること。そして、5つ目に薬に頼り過ぎない。6つ目にかかりつけ医を持つことというところで、ほぼお話に上がってきていることですので、この社会活動に参加する、本日の鈴木先生のお話でも社会参加という言葉がございましたが、社会参加というのは、じゃ、どういうことなのかということを少し考えていきたいと思います。

 社会参加というのもいろいろ定義がございますが、社会における役割を見出し、生きがいを持って積極的に社会に参加することとして、この図がちょっと見えづらくて恐縮なんですが、これは高齢者が参加している活動というところで、黄色が平成5年、ピンクが平成15年、水色が平成25年というところで、高齢者がどれぐらい活動に参加しているかというところで、一番左に、参加したことがあるという割合が、平成25年ですと6割を超えています。これはこの色で見ていきますと、やっぱりどんどんこの10年ごとに参加している方が増えていると見ていただいていいかと思います。

高齢者の健康管理法 社会参加とは

○健康に関する社会活動

 じゃ、どういうことに参加しているかというと、一番多いのが健康に関する活動。スポーツとか、先ほど基調講演の堀田先生の中でも、ゴルフをやっているとか、ありましたね。そして、趣味、こういうところで先ほども出てきた旅行とか、いろいろあるかと思います。そういうことに参加していらっしゃる方が割合的には多い。

 左から見ていきますと、あと、地域行事、生活環境改善とか、生産・就業、教育・文化とかというふうに続いているんですけど、あとは少し少なくなっていくんですけれども、こういう形で、高齢者というのが一応65歳以上という定義でいきますと、65歳以上の多くの方が今社会参加をしていらっしゃる。それは年々増えている。今どういうことに特に参加していらっしゃるかというと、健康に関すること、スポーツ、趣味、地域行事、こういうのが多いというのが1つ現状かと思います。

 ここで、今回のフォーラムのテーマでございますシニア世代、そのシニア世代というのも定義がまた曖昧でして、50歳ぐらいからとか、定年退職後とか、また65歳以上の前期高齢者というふうにも考えられると思いますが、シニア世代というのがどういう特徴があるかというと、よく言われるのは、時間にゆとりがある。これはやっぱり個人差はかなりあると思うんですよね。時間にゆとりがない方もみえるかもしれない。そして、ほかによく言われるのが、経済的にもゆとりがある。これも多少個人差があるかなと。

シニア世代の体力の特長

 間違いなく特徴として言えるのが、鈴木先生のお話から、葛谷先生もおっしゃっていた、体力的には明らかにシニア世代と言われる、もしくは前期高齢者から後期高齢者に向けて体力が伸びてきているというのは、今まで何度もお話にあったところです。

 これはちょっと違う図ですけれども、文部科学省で平成26年度の体力・運動能力の調査結果というところでして、緑のところ、65歳から69歳、そしてブルーが70から74歳、そして赤いところが75歳から79歳、同じ色の中で上側にあるのが男性、下が女性ということですけど、どの年代を見ても、一番左の平成10年から今の平成26年までぐんぐん上がってきているというのは、今までの先生方のお話と同じです。


超高齢社会における社会参加とは

 社会参加をしているシニアの世代というのは、特徴として、やはり体力も十分備えた状態で、社会参加をすることができるというところを1つ踏まえた上で、超高齢社会、高齢化率が平成26年で全国的には26%、4人に1人以上の方が65歳以上。三重県は、平成26年10月で27.1%とホームページに書いてありましたので、全国平均より1%多い、高齢者の割合が全国平均よりもちょっと多いという状況かと思います。

○超高齢者社会での社会参加の在り方

 そういう超高齢社会において、社会参加するというのはどういうことなのか。社会とのつながりを持つというのは、じゃ、何をしていけばいいのかというところを少し考えますと、まずは御自身の健康というところで、先ほどの運動とか、食事で、御自身がまず健康を整えるということはとても大事と思います。そして、その次に趣味で楽しみをしていく。そういうことももちろんとても大事なこと。ですが、高齢者に満たされた社会の中で、次に考えていかなければいけないことがあるんじゃないかなと思います。

高齢者の社会参加とは

 これは先ほどと同じ社会参加の図なんですけれども、ポイントとなってくるのが、この赤いところで改めて囲ったんですけれども、社会においてそれぞれの高齢者の、特にシニアの方を中心、前期高齢者の方を中心に、どういう役割を見出すかというところで、健康・スポーツ、趣味、地域行事と申しましたが、右側のほうに、赤く囲ってあるところの1つが、高齢者の支援。そして、もう1つが子育て支援なんですね。

 これは、高齢者が参加している活動としては非常に割合は少ないんですけど、よくよくこの小さい図を見ていると、年々これも割合は上がってきているんですね。6.8%の方が、平成25年だと高齢者の支援をしている。高齢者の方が高齢者の支援をしている。そして、約5%の方が子育て支援をしている。これが参加している活動だというふうなところで上がってくる。このあたりの割合を増やしていくというのが超高齢社会の中では今後大事になってくるんじゃないかなと思うところでございます。

○ささえ合いの街づくり

 それを踏まえて、支え合いのまちづくりというところに次入っていきたいんですけれども、高齢者の支援、子育て支援って、じゃ、何をしたらいいのかということですけれども、まずは、シニアの方の役割として、よく言われることでもあるかもしれませんが、隣人としての役割。まちの中で、本当に隣の方にどういう視線を送るかというところですね。例えば、隣人の緊急時の対応、これは本当によくあることかと思うんですね。新聞がたまっていて、隣のおばあちゃんが雨戸をあけないよと。「どうしたかね」と声をかけたら、「ごめん」と、「転んじゃって起きられないよ」といって、「おう」って、そこから救急車を呼んでとかと、そういうことも、入院の患者様を見ているとよくありますね。そういう意味で、隣の人のことを少し気にかける。それだけでも大きな役割になってくるんじゃないかと思っています。

ささえ合いの街づくり ささえ合いの街づくり概要

○話し合うことの重要性

話し合いの実践例

 あと、病院に行くのに車がないから困っているというところをサポートする。先ほどの基調講演の堀田先生のお話でも、住民の方で話し合ったときに、どういうことをまずしてほしいかというところで、ごみ出しをしてほしいんだと。そして、自分に何ができるかというところで、それなら助けられるよというところを話し合いしていったらいいんじゃないかということをお話がありましたけど、まさにそういうことかなと思います。そういう何をしてほしいか、そして自分は隣人として何ができるかというところ、そこを丁寧に押さえていくと、支え合いのまちづくりということにつながるんじゃないかなというふうに考えます。

○地域包括ケア

 そこで、次に、実践例として、たまたま長寿科学振興財団の資料がありまして、そこにボランティアグループとして地域包括ケアを実践しているという人の実践例があったんですけど、地域包括ケアというのは、本当にこれからの超高齢社会の中で大事になっていくんですが、行政の方が主体でやっていらっしゃるだけでなく、住民が自分たちで組織化していくというところがとても大事になってくるかと思います。

 そこの中に、気になる人を真ん中にというところで、神奈川県川崎市のボランティアグループすずの会代表の鈴木恵子さんという方の言葉があったんですけど、地域の中での包括ケアは、発見する人の目があって、気にかけ合う人がいて、孤立させないよう人々がかかわり、できるだけ地域で生活できるように基盤をつくることだと思いますというふうなところ。地域の中で気にかけ合い、そして人々がかかわる、そういうことの積み重ねが住民主体の地域包括ケアの土台になっていくんじゃないかと考えるところでございます。

○ケアリングということ

人と人との相互作用ケアリング

 最後に、ケアリングというお話を少ししていきたいんですが、今、先ほども申しましたが、私、老年看護学を専門にしておりますので、看護学生と一緒に実習に行きます。常々学生は、実習が始まるときには、私たちは学生として高齢者にケアをしますと、私たちはケア提供者なので、頑張ってケアしますということをかなり意気込んできます。じゃ、実習の場面で実際どうかというと、たくさんのことを学生が高齢者の方から教わります。そして、多くのことを心遣いされます。

 「あなた、私はお昼を食べているけど、あなたは大丈夫? お昼、行っていらっしゃい」立ってお話ししていたり、しゃがんでいても「腰がしんどいでしょう。椅子に座りなさい」「家は遠いの? 夜眠れているの?」と。それとか、「先輩が怖いことを言っていたけど、看護師さん、怖いけど、先輩には好かれる努力をしたほうがいいわよ」とか、そういういろんな助言をもらったり、癒されて、逆に優しくされて、学生は、最初、それを、私はケアしに来たのに、そんなふうに心遣いされるのが申し訳ないとかというふうに言うんですけれども、老年看護学実習で、学生のそういうケア場面で、特徴的なこういう関係性があるのはどういうことかなというあたりで少し研究を進めて、そこで、この関係性が、ケアリングという看護の概念にある関係性なんじゃないかなというところが1つ私の研究課題でもありますので、少し御紹介します。

○ケアリング-する側とされる側の相互作用

ケアリングの相互作用図

 そもそもケアリングというのは、ケアをする人、そしてケアをされる人に生じる変化と、ともに成長発達を遂げる関係ということで、もともとが非常に古い時代から言われていることなんですけれども、改めて、例えば看護師と患者さんであっても、看護師がケアをする人だけではなく、看護師は患者さんからケアされる存在でもあるというふうな意味合いでございます。そしてそこで一番大事なのは、そういう関係性を通して、お互いがともに成長する、そういう関係性を言っています。ケアリングというのは、人と人との相互作用により成立するというふうに言われております。

 先ほどの研究のところで、学生が高齢者からケアされる、自分がケアするだけじゃなくてケアされる体験というのを学生が認識することには、私は意味があると思っていまして、それはどういう意味かといいますと、高齢者を、ケアを受けるだけの存在として捉えるか、高齢者が他者をケアする存在として捉えるか、そこには大きな差があると私は常々思っています。

○ケアの担い手としての高齢者

 超高齢社会の中で、26%が高齢者の中で、高齢者はみんなケアを受ける人と思ってしまったら、それは社会として成立するかというと、非常に厳しい問題も出てくると思います。また、高齢者そのもののイメージであったり、老いるということを非常にマイナスなイメージだけ学生が捉えてしまうと、この超高齢社会ではそういうイメージだけでは成立しない。ですから、なるべく高齢者や老いるということに肯定的な感情を育みたいというのが老年看護の中では大事かなと私は思っています。

 そして、学生も、私も含めて、全ての人が老いる、学生も20前後ですけど、自分も老いている。同じ社会の一員として、この超高齢社会の中で高齢者について考えるということがとても大事になる。その中で、高齢者というのはケアする存在でもあるんだということを認識することが必要なのかなと思っております。

ケアリングとは 高齢者からケアされる体験を認識する意味 人と人との相互作用

 最後に、まとめとなりますが、この真ん中で体操しているのが、イメージとしては体力のあるシニア世代の方とすると、シニア世代の方が、右側にあるつえをついて座っていらっしゃる高齢者の方、その方と関係性を持つ、ほんとうに隣人からの関係でいいと思うんですけれども、関係性を持つ。そこの中では、やはり私は、与えるだけではなく、相手の年配の方から学ぶことというのはたくさんあると思うので、この関係性はきっと相互作用なのかなと思っております。

○相互作用が生み出すもの

三重県立看護大学

 そして、若者、そして子供たちを思いやる。そしてまた、子供たちから与えられる癒しであったり、そういう関係性もあり、そのいろいろな相互作用、お互いが思いやり、支え合う。ものすごく理想論でちょっと抽象的と思われるかもしれませんが、私は真面目にこういうところを丁寧に検証していくことで、この超高齢社会の中で、高齢者とともに生きる社会の中で、どういうふうにケアを考えていけばいいのかということを常々考えていて、そういう土台に人と人との相互作用があるんじゃないかなというふうに考えております。

 看護の立場からということで、以上で話を終わらせていただきます。

 御清聴ありがとうございました。


雲井純

【雲井】 先ほど、鈴木先生からお話がありましたように、今までのお二方とは違って、地域の視点というところから高齢化社会を見ていきたいと。私は、立ち位置をまず最初にお話ししておきますと、昭和24年、1949年、津市の、地元の生まれでございます。ということは、同年代の方もいらっしゃるかと思いますけれども、66歳。つまり、このメンバーの中では唯一高齢者ゾーンに入った年代でございます。先ほど鈴木先生とお話ししたら、先生は51年だそうですけれども、まだちょっと一歩手前ですけれども、そういう意味では、私が唯一この年齢層に入ったと、そういうこともありますので、その辺の実感を踏まえながらお話をしていきたいなと思っております。 先ほど、鈴木先生からお話がありましたように、今までのお二方とは違って、地域の視点というところから高齢化社会を見ていきたいと。


高齢社会の過ごし方

 それから、私は地元出身ではありますけれども、大学から東京へ行きまして、そのまま東京で就職して、全国で26年間勤務しておりました。平成10年、98年にこちらへ戻ってまいりまして、百五銀行の役員、8年ぐらいやったのかな、それから経済研究所の代表、これをやはり8年ほどやって、その間に、三重大学が地域イノベーション学研究科という地域を活性するための人材を育てようと、こういう大学院を7年前に立ち上げましたので、その立ち上げのときから関与しまして、以来、非常勤講師として学生の指導に当たってくると、そういう経験をしておりますので、そういう意味で、はやこちらへ戻ってきてから17年は経過しましたけれども、一応、地域のこともわかって、それを踏まえた上でいろいろ御説明していきたいなというふうに思っております。

○三重県の人口減少の実態

三重県の人口と人口増加率推移

 ここに、三重県の人口と人口増加の推移ということについてグラフを載せてありますけれども、御承知のように、三重県は2005年をピークに絶対的な人口が減少に入りました。このグラフが増加率ですけれども、これは昭和50年ごろをピークに、今は右肩下がりで、増加率が下がってきて、ついに平成22年、2005年にマイナスになったと、こういう現実がございます。青の折れ線グラフが全国平均の増加率、全国平均でも0.2のプラスですから、間もなくこれはマイナスに入る。三重県を見ますと、平成12年から全国平均を下回って下げ足をちょっと速めてきていると、そういう実態が見てとれます。

 では、60年ごろから平成12年、ここが全国平均よりは減少率が緩くなっている時代があります。これは何だと思われますか。この辺はバブル前で、都市部の地価が高騰しまして、このあたりは、さきには桔梗が丘とか、大阪のベッドタウンとしての名張周辺でいろいろ住宅開発がされました。その後、大山田に大きな住宅開発がされて、そこで名古屋の人がたくさん移り住んできたと。この時代に人口が増えました。ただ、そこでもほぼ人口移転が終わって、その後、だんだん住宅地も年齢も高齢化してきて、やはり下降ペースに乗って今下げておるというのが実態でございます。では、この人口減少を少なくするために、また大きな団地開発をすればいいのかというと、皆さん御承知のように、そうやっても人が来るわけではございません。

 統計的に見ても、これは一昨年と昨年の1年間の数字を見まして、自然増減を見ていきますと、生まれたのが1万4,208人に対して、亡くなられた方が1万9,484ということで、マイナス5,200人ほどが減になっております。恐らく、これは徐々にマイナスの比率は、今の人口ピラミッドから推定すると上がってくるということは明らかです。

 それから、社会増減、他府県からの転入者、それからこちらからの転出者、これを見ても、約3万7,000人の転入者に対して3万8,000人少々が県外へ出るということで、社会増減についてもマイナス1,183人というふうになっております。これは、三重県のほうで、みえ高齢者元気・かがやきプランというところからちょっと拝借している図ですけれども、これは現在ですね。現時点で高齢者人口が27.7%、あと、20年後の2035年には、この比率が33.5%、つまり、人口の3分の1、3人に1人が65歳以上人口になってしまうと。

 これは2035年ですけれども、ちょっと話がずれますけれども、東海・東南海地震が30年後の確率が何%とかいうことで言われておりますけれども、この地震の場合は、来るか来ないかじゃなくて、必ず来るわけで、いつ来るかというところが問題と、それと、来たときの規模がどうかというところが問題になるわけですけど、かなり高齢人口が増えてきたところで地震のリスクというものが発生するということも、ちょっと頭の片隅には考えておかなきゃいかん問題だなというふうに思っております。

三重県の人口動態 三重県の年齢区分別人口推移 全国の年齢別医療費水準の違い

○高齢者の医療費

 いろいろ行政の方たちも、高齢化をどうするかと、特に健康寿命をどうするかということがこれだけ話題になるというのも、ここのグラフから御覧になられてわかるように、やはり75歳以上になりますと、どうしても入院も増えますし、医療費も増えると。例えば、悪いのかもしれませんけれども、最近の国産車ですと、12、3年はちょっとした定期メンテナンスでいけますけれども、そこから後はやはりいろいろと故障も出てきて、部品も交換しなきゃいけないということで、維持費がかかるようになるように、人間もやはり同じようなことが言えるわけで、そこをいかに抑えていくかと、この辺が大きな課題になっているというふうに考えられます。

○県別の健康寿命比較

都道府県別健康寿命

 では、三重県、健康寿命、健康寿命とたくさん、今日、お話が出てきておりますけど、これは2012年かな、厚労省の統計がずっと出ておりますけれども、三重県ってどのぐらいの位置にあるのかというふうに考えますと、健康寿命から高いほうから並べて、男性の健康寿命が16位で、平均よりも少し上、意外と三重県の男性はいい位置にあります。女性はちょっと下がって、絶対年齢は女性のほうがずっと高いんですけれども、26位という場所にあります。三重県というのは、いろんな統計的に並べますと、大体日本の全体の平均的なところに来るというのですので、これも比較的平均的なところにあるかなと、そういうふうに思っております。

○愛知県はトップクラスの健康寿命

 この中で見て、おやっと思うのは、東京が意外に低いところにあるんですね。これは絶対的にはわずかな年齢だし、人口構成とかそういうのによって微妙に違うんでしょうけれども。その意味では、三重県は割と高いところにある。そして、この近隣でちょっと見ますと、愛知県というのが男女ともほとんどトップクラスにある。これはなぜなんでしょうね。医療施設が整っているかどうかとか、そういうことになると、東京なんか、当然高いところにいくのかなと思っていたんですけれども、意外とそうでもないなと。愛知県ぐらいの規模の生活パターンというのは、それほど混雑もしていないし、比較的自然も近くにあって、病院とかそういうメディカルサービスも割と受けられて、そういう意味で比較的いいのかなと思うんです。それから、比較的温暖であるとか、こういう要素が絡んでいるのかなというふうに思われます。

平均寿命と健康寿命

 ここからが平均寿命と健康寿命というところ、これは再三先ほどからお話もありましたけれども、我々サラリーマンということにおきますと、まず、このごろ定年は60歳から65歳まで上がってきましたけれども、我々がまだ若いころは、大体銀行の場合ですと55歳と言われておりました。さすがにそれではいけないし、現在、年金支給年齢が65歳までなってきておりますので、そこまでいかにつないでいくか。定年延長とか、そういう形で会社のほうもいろいろと働く場を提供したりはしておるんですけれども、やはり我々の同期生を見ましても、65前後を機会に、同窓生名簿の中の職業欄がだんだんブランクになっていくというのが現実でございます。

○セカンドライフの在り方

 そこで、セカンドライフモードに入っていくわけですけれども、この間の過ごし方、銀行的に言えば、そういうセカンドライフを、ゆとりを持って過ごせるように早くから貯金しましょう、こういう投資信託で財産運用しましょうとか、そういうことが営業的なお話としてはあるんですけれども、年金は我々の世代ですともらえますし、ある程度の蓄えもできているというところですけれども、そこで何をしたらいいんだろうかというところがやはり問題でして、割と趣味でぶらぶらしたり、そういう世代が比較的多くなっております。この人たちが健康寿命を維持するためには、この年齢層いかに生きがいを持つかとか、さっきの濡れ落ち葉状態にいると、メンタル面でもおかしくなっていきますし、健康を維持するのが非常に難しくなってくるかと思います。ですので、そこをどういうふうにしたらいいのかなと。

○福祉予算と老齢人口

福祉予算と老齢人口問題

 最近そういう点から、地方創生と絡めて政府もいろんな政策を出すようになっています。今、いろんな世の中のニーズを書いてみたんですけれども、右側が国の事情、左側が個人の事情というふうに書いて、これの折り合いをどこでつけるかというふうなところで見ていただければいいんですけれども、国の事情としては、やはり高齢者が増えてきて福祉関係の費用が増える。年金の財源もどうしようかといったあたりで非常に厳しくなってきていることは間違いないです。

 その一方で、労働力人口はどんどん減ってきます。我々団塊の世代が、今、老齢人口に入りましたので、団塊世代の最後のほうですから、これが今66ぐらいですから、あと20年ぐらいしてくると、この年代層がごそっと減ってきます。その次に第二次ベビーブーム層が上がってはきますけれども、ですので、今後20年ぐらいで日本の人口というのはぐっと減ってしまうと。

 特に若年人口というのは今でも非常に減ってきておりますので、特に三重県の企業の方、いろいろヒアリングしても、若くて優秀な人をどうやってとっていったらいいんだろうかと、自分たちの後継者をどう育てていいんだろうかと、この辺が一番大きな悩みとして出てきております。

 先ほど申し上げたように、65歳から隠居モードに入る人も増えてきていますけれども、ただ、先ほどからの御説明にあったように、少なくとも昔に比べれば5歳は若返っていますね。5歳以上若返って、肉体的、精神的にもまだまだ元気な人がいっぱいいます。その一方で、我々が同窓会等で集まると、いろいろ話が出てくるのは、やはり親の介護問題。我々でいくと老々介護の中に入ってくるんだと思いますけれども、長生きの御両親の場合だと、田舎へ残してきた、大体お母さんが残っている場合が多いんですけれども、それをケアするために、兄弟間で交代で津に月のうち何日間かこっちへ帰ってきているとか、そういう人もおります。

 その一方で、アンケートを東京でとると、地方暮らしをしてみたいという人が結構いるんですね。これは、憧れといいますか、そういうだけで、ごみごみした東京ではなしに、地方へ行って畑を耕し、地方生活を満喫したいと、そういう思いを持っておられる方がいて、実際いろいろ実行されている方もおります。奄美大島とか、沖縄とか、結構東京から移住している人が多いです。

○地方で暮らす-新しい生きがい発見

 最近見ていますと、我々の仲間でも、さすがになかなか三重県は来てくれる人は少ないんですけれども、東京の郊外である軽井沢とか、山梨県とか、この辺は結構通勤可能圏みたいな感じで、2時間ぐらいで車で東京へ戻れるようなところへ家を建てて、そこに定住しているような人たちも増えてきています。ですので、そういう2つのニーズ、シニア層、この人たちにいかに生きがいを持って、何か夢を持って働いてもらって、そうすることによって健康寿命を延ばすと、それができないかといういろんな施策が始まっております。

 これは、UIターン受け入れの促進と。三重県でもいろいろ空き家をあっせんしましょうとか、こういう活動も活発にやっておるようでけれども。それから地方創生と絡めた2拠点居住者住宅のあっせん。私の実感からしますと、地方へ戻るといっても、東京で、名古屋でもそうかもしれませんけれども、家をつくってそこで定住してしまうと、家族の問題から、田舎暮らしにすんなり、家族の反対があってなかなか来られないというのが現実です。そのために、別に東京なり、大阪に家があってもいいじゃないのと。それから、月のうち何日間かは、地元というか、三重県なり、地方へ行って、そこでいろいろ地域に溶け込んで何か仕事をする、あるいは、そこで、今までできなかった仕事を見つけてやるとか、そういうような仕事をあっせんする政策というのが言われ始めております。それで、都会の人たちがこっちへ来る。そこへうまく定住することができれば、これは地方の活性化としてもいいわけですけれども。

○地方の人手不足

 それと、最近は、政府もまたいろいろ政策として、先ほどの、やはり地方では人手が足りなくなってきているという問題がたくさん、製造現場や、それから会社経営する人が少ない。それでは、いろんな経験を積んだ人たちを地方へあっせんして紹介しようと、こういうような政策もいろいろ打ち出されてきておりまして、最近ずっと動きを見ていますと、以前、バブルが崩壊したときに、倒産しかかった企業、これを救うために産業再生機構という機構をつくったんですけれども、これが、一応、最近経済的にも持ち直してきたので役割を終えまして、それが地域経済活性化支援機構とか、名前を変えて、いろいろ地域の企業をサポートしたりとか、そこにまた、さらにその下に、日本人材機構というような組織をつくって、東京の人たちなんかを地方の中小企業等に還元できないかと、こういう仕事を始めておるようでございます。

 ただ、なかなか地方と東京で働いた人たちの感覚とは違いますので、実際、我々の経験からいっても、すんなりとはそういう都会の人が地方へ来て働いていただくということは難しいだろうなと思うんですけれども、そういった動きが活発化してきていることは間違いありません。

 もう1つ、では、地方でこういう65歳以上の年齢層がどういう仕事で貢献できるのかなということで考えますと、特にエンジニアの方なんかですと、いろいろそういう技術を使って中小企業等でそれが適合する職場があれば、そこで活躍している方もおられます。

○地方の若者への支援

 ただ、私の実感からいくと、私が三重大学に参画しておるのもそうなんですけれども、今まで我々が経験してきたことを学生たちにフィードバックすることによって、地方大学にいる学生たちにとっても、全国の動きとか、これからの動きというのを知ってもらって、それでさらに自分の進むべき道を見つけて活躍していってもらいたいと。こういったあたりの仕事というのは結構あると思います。ですから、子供たちの教育にどういうふうに当たれるかですか、この辺というのはこれからさらに1つずつ整備していく事柄じゃないかなというふうに思っております。第一、若い人たちと接していろいろ議論していると、こちらも若返りまして健康寿命も延びるのではないかと、そういうふうに思っています。そういうものを通して、地方と都会との人口の交流、それによって地方に新しい文化というかな、そういうのが生まれることによって、また地方の若い人たちもそれに触発されると。都会へ流れずに地方へ定住するといった、そういう好循環にもつながってくるのかなというふうに思っておりますので、このあたりをどう現実的につくっていくかということが大きな課題かなというふうに思っております。

○地域おこし-若者と高齢者

 私はそういう意味でUターン者ですので、中央の事情と、それから地域の事情、いろいろと理解しているつもりですけれども、それぞれ県内の地域、例えば宇気郷村とか、松阪の奥ですね、それから熊野でも幾つかこういう地域おこしの活動が活発になってきたりしていますけれども、限界集落で消えていく村と、宇気郷村なんかはいろいろ活発に動いていますけれども、IターンやUターンの人たちで前向きな人が1人、2人いるところ、こういうところがやっぱり活性化しています。ですので、地域だけで頑張ってよと言っても、これはやっぱり無理。そこへちょっと若い人たちとかが入ってきて、それでお年寄りとか何かをうまくコーディネートしながら1つの方向性を与えていく、こういうのがやはり成功事例になっておりますので、こういったあたりをどう広げていくのかなといったところが重要かと思います。

英虞湾 カヤックを漕ぐ雲井

 これは今度伊勢志摩サミットが行われる英虞湾ですね。こうやって見ると非常にきれいですね。ですから、三重県をもっと再発見して、いろいろと人がもっと集まってきてよと。最後にこれですけど、カヤックをこいでいるのは私でございます。少しでも健康を維持し、活力を維持するためにカヤックを持って海を渡っておると、こういうことも1つの楽しみとしてやっています。

 御清聴ありがとうございました。


田村学

【田村】 改めましてよろしくお願いします。

 先ほど、大体、私どもの施策については一通り御説明させていただきました。その中で、このパネルディスカッションのテーマは健康づくりというふうに捉えております。

 冒頭から言い訳がましいんですが、私、健康福祉部長なんですが、実は、健康づくり、医療に関しましては、もう一人、部長級の担当理事がおります。そちらが担当しております。私は専ら福祉分野ばかりで、先ほどのように、介護保険の保険料がどうこうといいますと私の分野なんですが、健康づくりに関しては、ふだん担当していなくてちょっと弱いところがあって、なかなかいいお話ができなくて申し訳ないんですけれども、今日、このパネルディスカッションのテーマが、市としての健康づくりへの取組について御紹介させていただくような形かなということで、担当理事に何かネタはありませんかと言いましたら、実は、私どもの保健センターのほうで、今年度にモデル事業として新しい取組をこの10月にスタートさせたとのことです。

 これがどういうものかといいますと、三重県の後期高齢者医療広域連合が実質は事業主体になるんですが、津市が手を挙げて取り組んでいるので、大もとは国の補助事業になります。津市内の美杉地域、さらにその中のもう1つ細かい単位の伊勢地という地域で、管理栄養士さんがおうちへ入っていって栄養指導にかかわらせていただいたり、あるいは、集会所なんかで集合形式での栄養の関係の食生活の改善というのを、75歳以上の後期高齢者の方、特に重症化のリスクが高いような方、ふだんから高血圧症が出ていまるような方々に対して、どのようにかかわって、どのようにしていけばそれの改善が図れるのかということを実地に取り組むということが、ちょうど今この10月から始めております。来月には、その辺の事業の内容について、厚生労働省のほうで、有識者の方々から聞き取りがありますが、そのメンバーを拝見しておりましたら、コーディネーターをお務めいただいています鈴木先生も入っておられるというふうなことで、これも何かの御縁かなというふうに思っております。れは3年間という取組で今からスタートして、今後どういうふうな展開になっていくかわかりませんけれども、なぜ美杉地域かということなんですが、先ほど私が申し上げたように、津市の高齢化率、27.5%ですが、美杉地域だけを捉えていいますと56%を超えております。さらに、今御紹介させていただいた伊勢地という地域だけ見ますと60%を超えています。

 簡単にすぐ行ける病院もない、毎日の買い物をするスーパーもない、そういうふうなところです。そういうところでどういうふうな改善が図れるのか、まずやってみようという試みです。これが1つ、健康づくりに関した津市の最近の取組の、まだスタートを切ったところですけれども、御紹介とさせていただきます。

 それと、私ども福祉の分野では、先ほどは御紹介申し上げませんでしたが、今、いきいきサロンというのをこれからも1つのベースに、地域の助け合いとか、そういうふうなのを広げていこうということでやっています。介護保険の制度で今年既にスタートを切ったことを、私、さっき早口で飛ばしましたが、そういうサロンに、予算の関係もあってそんなに多くではないんですけど、今年から4か所について理学療法士さんに入っていただいて、専門家の目から、簡単な体操をしていただく。

 そういう中でも、触れ合いながら、関節の可動域のこととか、いろいろやっていくような、いわゆる皆さんでつくり上げている健康づくり体操をもうちょっと専門家目線でランクアップできないかという取組を今年させていただいているところです。これは、来年以降も、数は少ないんですけれども、続けていきたいというふうに考えています。私どもが今御紹介できる健康づくりに関しての具体例として、今、時間もあまりありませんので申し上げました。

 あと、個人的なことではありますが、先ほどの葛谷先生のお話で、私も、波平さんより年上になっていたなと。健康長寿を意識するのも人ごとではないなと思っております。

 どうもありがとうございます。


国立長寿医療研究センター理事長(総長)特任補佐の鈴木

【鈴木】 田村さん、どうもありがとうございました。

 実は、今、御紹介がございましたけれども、国のほうでは、後期高齢者の医療制度というものがございます。これから日本は高齢社会がもっと進行するんですけれども、一番特徴的なことは、高齢者の中でも75歳以上の後期高齢者の方だけが増えていきます。この方々というのは、前期の比較的健康度の高い元気な高齢者と違って、どうしても加齢に伴うような心身の機能の減衰というのは避けられません。その代表的なものが、先ほど葛谷先生が御紹介されたフレイルとか、サルコペニアと呼ばれるものです。

 そういう中では、やはり地域のケアというものが必要になります。そのケアをしていくときに、単にケアをする側とされる側という関係性が、される側のほうが得なような気もしますが、そうではないということですね。する側における喜びとか、相互の人間性ということについて、小松さんのほうから今御紹介いただいたと思います。

 それから、後期高齢の方が増えてくるときに、どうしても地域の活性化ということについては、これはやはり大きな課題になります。というのは、高齢社会というのはみんなで支え合っていく社会ということになりますので、いろいろな専門職や知識を持った人、あるいは、先ほどの雲井さんのお話ではありませんが、Uターンしてきた人材がそこで何とか活躍できるような場、あるいは新しい文化というものも必要になるだろうということで御紹介いただきました。

 最後に、今、田村さんのほうから、そういった後期高齢者の医療制度が、あるいは後期高齢者の社会というものが、今後日本では非常に大きな課題を幾つも持っております。特に、後期高齢者の方々がいつまでも自立していただくためにはどうすればいいのか。一番簡単な話が、実は、後期高齢者の方も健診の制度がございます。ところが、その健診は何をやっているかというと、いわゆるメタボ健診をやっているんですね。簡単に言うと、100歳の人が腹回り88だっていいじゃないですか。先ほどの葛谷さんのお話じゃないですけれども、太っているほうがむしろ健康で長生きをする、特に後期高齢の場合はというようなこともデータとしてきちっと出てきております。

 そういう中で、後期高齢者の人にとってほんとうに大事な保健事業というのは何だろう。その中で、本当にこれは偶然だったんですけれども、11月に入りましてから、日本全国のモデル的に後期高齢者に対するいろいろな取組をやっている自治体のヒアリングがございます、厚生労働省のほうで。

 そのときに、津市さんのほうからもお手挙げがありまして、実際にどんなことをなさっておられて、どういうことがまだ課題として残っているのかということについてのいろいろお聞かせいただこうということで、今、国のほうでは進めております。たまたま私もそこに絡んでいたものですから、今回、こちらのほうでパネルディスカッションのお世話させていただくこと、本当に偶然だったんですけど驚いております。

 ただ、そういう中で、津市さんが先駆的に取り組んでいらっしゃる。1つは、今、田村さんのほうから御紹介がありましたけれども、管理栄養士さんという専門職に地域の中に入っていただいて、要するにアウトソーシングのような形で、そして低栄養、これは葛谷さんのほうからフレイルの話の中であったと思いますけれども、これは非常に怖いです。後期高齢者の低栄養というのは非常に怖いものなんですね。あっという間に肺炎を起こしやすくなっていきますし、そういう意味では活力がなくなりますし、筋肉の力もあっという間に衰えていくということがわかっていますから、そういうことを1人でも防いでいく。そして、1人でも生活機能をいつまでも自立していただく。これが実は健康寿命を延ばすという、具体的に言うとそういうことでございます。

 そのためにも、やはり地域づくりというのは今後の大事な課題なんですけれども、今回の4人のパネラーの方々から、お一人お一人その専門に応じて、こういう地域づくり、人づくりということによって健康寿命を延ばしていく。特に、雲井さん、田村さんのほうからは、こういった三重県とか、津市とか、実際に皆様のその地域の中で、どんな視点でやっていったらいいのかということを御紹介いただいたと思います。

 実は、皆様からもいろいろ御意見をいただいたりとか、御質問をいただいたり、あるいはパネラーの皆さんからももうちょっとお話を聞きたいんですけど、一応、今日はここは4時半までということで時間が切られております。もうちょっと本当に熱心な御議論をいただければというふうに思っていたんですけれども、申し訳ございませんが、これをもちまして、パネルディスカッション「健康寿命を延ばすための人づくり・地域づくり」というのを終えさせていただきたいと思います。皆様のこれからのこの課題についてのヒントが少しでも思い浮かんでいただければ、我々一同、大変ありがたいと思います。

 まず、パネリストの皆さん、どうもありがとうございました。そして、最後まで熱心に聴講されました皆様にも厚くお礼を申し上げたいと思います。

 どうもありがとうございました。