第1章 高齢社会対策の方向

2 経済状況の多様性

(所得)
 高齢者の経済状況について、現実の経済生活は世帯を単位として行われているという観点から、一人当たり世帯所得でみると、その所得水準は現役世代と比較してさほど遜色はない(後出第2章表2-2-12)。ただし、一人暮らしの女性高齢者では一人当たり172.6万円と、同じ一人暮らしの男性高齢者の65.7%にとどまっており、全世帯平均(男性216.1万円、女性203.7万円)と比べても、二人以上世帯(男性213.3万円、女性210.0万円)と比べても低い(図1−1−8)。

図1−1−8 高齢者の性・世帯の家族類型別一人当たり所得(平成9(1997)年の所得)  <CSVデータ>

家族類型別、男女別にみた高齢者の一人当たり所得を示したグラフ

 次に、高齢者個々人の経済状況の多様性を明らかにするという観点から、世帯ではなく高齢者個人の所得をみると、65歳以上男性の平均所得は316.4万円、女性は107.8万円となっており、女性は男性の3分の1に過ぎない。この背景には、(1)就労しておらず、年金も受給していない「所得なし」の者が女性の方に多いこと、(2)就労している場合も女性は賃金が男性より低い場合が多いこと、(3)年金を受給している場合も女性には遺族年金の受給者が多いこと、(4)自分自身の被用者年金を受給している場合も、女性は一般に男性に比べて就労期間が短く賃金も低いため、受給額が低いことが考えられる。
 また、年齢階級別でみると年齢の低い階層ほど個人所得は高くなっているが、女性は、男性ほどには顕著な差はない。これは、特に男性では、後の世代ほど公的年金制度が整備されていること、年齢の低い層ほど雇用や事業等の就労による所得も得ていることが背景にあると考えられる(図1−1−9)。

図1−1−9 高齢者の所得水準(平成9(1997)年、所得の種類別)  <CSVデータ>

男女別、高齢者別にみた高齢者の所得、所得種類を示したグラフ

 高齢者の個人所得の分布をみると、男性では、「所得なし」や「80万円未満」がそれぞれ4.8%、11.6%いる一方で、「400〜600万円」、「600万円以上」もそれぞれ10.8%、9.2%いる。これに対して女性では、「所得なし」や「80万円未満」がそれぞれ17.0%、38.5%となっており、合わせると半数以上を占めている(図1−1−10)。

図1−1−10 所得の有無・高齢者個人の所得階級別にみた高齢者の割合(平成9(1997)年)  <CSVデータ>

男女別、高齢者別にみた高齢者個人の所得階級別構成割合を示したグラフ

(貯蓄)
 高齢者の貯蓄の分布をみると、「なし」や「50万円未満」が男性で合わせて15.7%、女性で18.0%である一方、「1,500〜3,000万円」や「3,000万円以上」が男性で合わせて23.3%、女性で19.1%となっている。貯蓄がないか極めて少ない世帯に属する者がいる一方で、貯蓄額の大きな世帯に属する者も同じくらいの割合でいる(図1−1−11)。

図1−1−11 世帯の貯蓄階級別にみた世帯員の分布(平成10(1998)年調査)  <CSVデータ>

男女別、高齢者別にみた高齢者が属する世帯の貯蓄階級別構成割合を示したグラフ

(持ち家率)
 高齢者の持ち家率は、男性で87.5%、女性で85.9%となっており、年齢総数(男性68.4%、女性70.8%)に比べて高い。ただし、一人暮らしの高齢者の間では、持ち家率は低くなり、65歳以上の単身普通世帯で65.2%、75歳以上で69.4%となっている(図1−1−12)。

図1−1−12 高齢者の住宅(住宅の所有の関係別)  <CSVデータ>

年齢階級別、男女別にみた高齢者の住宅所有関係構成割合を示したグラフ

 このように、高齢者の経済状況は平均してみれば現役世代に比べて遜色はなく、貯蓄や持ち家は現役世代よりも恵まれた状況にある者も多い。しかし、個人所得では女性高齢者は男性の3分の1と低いこと、一人暮らしの女性高齢者は一人当たり世帯所得の平均額が低いこと、一人暮らし高齢者は持ち家率が低いことにみられるように、女性高齢者や一人暮らし高齢者の経済状況は必ずしも恵まれているとはいえない。

 

テキスト形式のファイルはこちら

目次 前の項目に戻る     次の項目に進む