第1章 高齢化の状況(第3節3)

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第3節 地域における高齢者の「出番」と「活躍」~社会的孤立を超えて地域の支え手に~

3 高齢者の社会的孤立を防止し、高齢者自身を「地域」の支え手に

(1)高齢者の社会的孤立がもたらす問題点

ア 生きがいの低下

  • 誰とも会話をしない、近所づきあいをしない、困ったときに頼る人がいないといった、社会から孤立した状況が長く続くと、生きがいを喪失したり、生活に不安を感じることにもつながる。
  • 近所づきあいがほとんどない人、困ったときに頼れる人がいない人は、生きがいを感じていない割合が高い(図1-3-7)。
図1-3-7 生きがいを感じていない人の割合

イ 高齢者の消費者被害

  • 高齢者の消費者被害が深刻な問題となっているが、これには高齢者の孤立化が関係している可能性がある。被害を防ぐには、不安や悩みを話せたり、ちょっとした相談ごとができる場や人間関係をつくることが重要である。

ウ 高齢者による犯罪

  • 犯罪を繰り返す高齢者には孤立化の傾向が認められる。前科・前歴や受刑歴などがある人ほど、初犯者に比べ、単身者が占める割合が高く、また、親族や親族以外の人との接触機会が少ない。つまり、孤立化を防ぐことは安全・安心な社会を築く上でも重要である。

エ 孤独死

  • 東京23区内における一人暮らしで65歳以上の人の自宅での死亡者数は、平成19(2007)年~21(2009)年まで3年続けて2,000人を超えている。また、単身の居住者が誰にも看取られることなく(独)都市再生機構の賃貸住宅内で死亡したケース(自殺や他殺を除く)は、21(2009)年度に665件、65歳以上に限ると472件となり、12(2000)年度に比べ全体で約3倍、65歳以上で約4倍に増加している(図1-3-8、図1-3-9)。
図1-3-8 東京23区内で自宅で死亡した65歳以上一人暮らしの者
図1-3-9 (独)都市再生機構における「孤立死*」の発生状況

(2)高齢者の「見守り」や「居場所づくり」の取組

事例<1>:地域における見守りネットワークの推進

 東京都足立区の「あんしんネットワーク事業」は、閉じこもり、認知症、介護問題など高齢者が抱える問題を早期発見し、見守りや声かけ、適切な機関との連携などを行うことにより、安心して暮らせるまちづくりを目指すものである。具体的には、地域住民である「あんしん協力員」や、商店街、銭湯、薬局、老人クラブ、配食サービス事業者、消防署、郵便局、電力会社、ガス会社、新聞配達店などの「あんしん協力機関」が、地域の高齢者を見守り、気がかりな人を発見したときに地域包括支援センターに連絡を行う仕組みである。地域包括支援センターが連絡を受けると、「専門相談協力員」(民生委員)とも協力しながら必要な支援を行っている。地域包括支援センターでは、町内会等の行事にも参加し、町内会や老人クラブが抱えている高齢者に関する課題に一緒に取り組んでいる。

事例<2>:地域の茶の間

 新潟県内に2,000か所以上あるといわれている「地域の茶の間」は、新潟市在住の河田珪子さんが始めた有償の助け合い活動の事務所が、自然発生的に、子供からお年寄りまでの居場所となったことから始まった。平成15(2003)年には、常設型の「地域の茶の間」である「うちの実家」(新潟市)も開設された。ここに行けば、いつでも人に会い、話しができ、人と一緒に食事をとることができる。車椅子の人、認知症の人、目や耳が不自由な人、小さい子からお年寄りまで、お互いに助け合いながら、それぞれ好きなことをして過ごしている。

事例2の写真

事例<3>:「時間通貨」の取組

 特定非営利活動法人「たすけあい遠州」(静岡県袋井市)が運営する街の居場所「もうひとつの家」には、地域の高齢者、子ども連れの母親、昼食時に来るサラリーマンなど、様々な人が集う。ここに集まった人たちの「助け合い」を促すために、8年前から「時間通貨」の取組を始めた。助けられたとき、「ありがとう」の気持ちを込めて、時間通貨である「周」というカードを渡す。「周」を介して「ありがとう」の気持ちが通貨のように周っていく。「周」があることで、困ったときに気兼ねなく頼むことができるし、助ける側も張り合いが出るという。「時間通貨」は、全国40か所以上に広がっている。

事例3の写真

事例<4>:高齢者を対象にした昼食会の開催

 秋田県鹿角市の老人クラブの連合体「谷内高砂会」(会員数約300人)では、平成5(1993)年から月1回、一人暮らしの高齢者などに声をかけて「わいわいランチ」と名づけた昼食会を開催している。参加者はお客様ではなく、お互いにもてなす役にもなる。また、昼食会に欠席した高齢者に、その都度、電話等で安否を確認する「元気確認運動」も行っている。また、毎年3月には、小学生が父兄とクラブ役員とともに一人暮らしの高齢者を訪問する見守り活動を行っている。小学生は手紙を持参し、一緒にクラブの会員が用意したいなり寿司を食べながら、3世代で楽しいひとときを過ごしている。

(3)高齢者の社会的な活動(ボランティア活動)を促進する取組

事例<1>:介護支援ボランティア制度

 高齢者が介護支援のボランティアに参加することを促進するため、活動時間に応じて換金可能なポイントを付与する「介護支援ボランティア制度」を導入する地方自治体が増えている。

 横浜市では、介護保険料の改定が行われた平成21(2009)年10月に介護支援ボランティア制度「ヨコハマいきいきポイント」をスタートさせ、今では登録者数が4,000人にのぼっている。ボランティアの内容は、入居者の話し相手、昼食の配膳、散歩の補助やレクリエーションの補助、配食サービスなどである。ポイントは1回200ポイントで年間8,000ポイントを上限に貯められ、1ポイント1円換算で換金もしくは介護施設等へ寄付できる。

事例<2>:援農ボランティア

 特定非営利活動法人「たがやす」(東京都町田市)は、高齢化により担い手不足が深刻化している農家に、草取りや種まき、収穫などの農作業を手伝う「援農ボランティア」を派遣している。ボランティア会員約100人のうち約7割が60歳以上で、男性が7割を占める。ここでは、週末も含めて随時、農家とボランティア双方から感想や苦情を聞いて派遣先を調整したり、会員同士の交流も図っている。また、ボランティアに対して、収穫した新鮮な野菜および若干の謝礼金を支払っている。有償のボランティアとなっていることで、農家から要求されるレベルが高くなることもあるが、ボランティアを継続する1つのインセンティブになっている。

事例<3>:子育て支援ボランティア

 「岩沼市生活学校」(宮城県岩沼市)は、昭和43(1968)年に活動を開始した、女性を中心とした高齢者の集まりで、現在、市の放課後対策事業「のびやか教室」に参加している。「のびやか教室」は市内の小学校で、6月~2月に月3回、午後2時~4時半まで開いており、下校の早い低学年の児童には、教室に来ると宿題をさせ学習アドバイスを行い、高学年の児童が訪れる午後3時からは食育、紙芝居、昔遊びなどのほか、季節行事を行っている。生活学校のメンバーは、夏休みには子育て支援の安全研修にも参加し、子どもたちの安全や救命方法を学び、活動に活かしている。

事例<4>:コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)

地域ぐるみで子どもを育てる「コミュニティ・スクール」(学校運営協議会制度)に指定された三鷹市立第四小学校では、課外のクラブ活動の指導にあたる「きらめきボランティア」など40人ほどの高齢者がボランティアとして活躍している。なお、教育支援ボランティアの自立組織である特定非営利活動法人「夢育支援ネットワーク」が、学校内に活動の拠点を置き、ボランティアの発掘・登録、指導プログラムの提案などを行っており、ボランティアをしたい人と学校をつなぐコーディネート役として重要な役割を果たしている。

(4)今後の取組の方向性

ア 取組主体の多様化

 高齢者の「居場所づくり」の取組は、これまで自治会や老人クラブなど「地縁」による取組が主体であったが、近年は、住む地域にかかわらず参加できる「居場所」が増えてきている。また、高齢者の「見守り」に関しても、民生委員だけでなく、地域住民や学校、企業、NPO等とも協力して取り組む事例が増えている。
 地域の中で孤立した人を、地域と結びつけるためには、高齢者の多様な状況やニーズに応えられるよう受け皿を広く用意することが重要であり、地方自治体が地域住民や市民団体、地元企業、NPO等との協力関係を築くことや、市民団体等の主体的な活動を支援していくことが必要であろう。


イ 多世代交流の促進

 「居場所づくり」の事例は、高齢者に限らず、そこに集う人々がお互いに助け合い、支え合うことを目指したものである。「コミュニティ・スクール」は、年齢にかかわらず参加できるようにした結果、多世代が集まる場になっている。
 高齢者と若者との交流・支え合いは、若者が我が国の数十年後の社会や地域のあり方を考えるきっかけづくりとなるものであり、また、高齢者と若い世代との連帯を深め、希薄化している地域の絆をすべての世代で再生するという観点からも積極的に進めることが望ましい。


ウ 「有償」の仕組みを含めたきっかけづくり

 事例で紹介した「介護支援ボランティア制度」のように、ボランティアをしたらポイントをもらえたり、「援農ボランティア」のように、収穫した新鮮な野菜がもらえるといった「有償」の仕組みや、感謝の気持ちをカードに託して渡す「時間通貨」の仕組みがあると、ボランティアを始めるきっかけづくりになるだけでなく、支援が必要な人にとっても、かえってその方が助けを求めやすくなるという効果があると考えられる。
 今後、高齢者の社会的な活動(ボランティア活動)を一層促進していくためには、さまざまなきっかけづくりが必要であり、その一つの形態として、有償ボランティアや、それに類した仕組みを導入することも有効であろう。


エ 男性による活動の促進

 本節で紹介したように、「一人暮らしの男性」が地域から孤立しやすい傾向にあるといえるが、社会的な活動(ボランティア活動)は目的や活動内容が明確であり、人づきあい、近所づきあいが得意でない人でも気軽に参加できると考えられる。
 また、60歳以上の人への調査によると、地域活動・ボランティア活動に「積極的に参加したい」又は「できるだけ参加したい」人の割合は、女性の23.9%に対して、男性は34.6%であり、実は男性の方が活動への参加意欲が高いことがわかる。このため、参加意欲の高い人を実際の活動に結び付ける視点が重要である。その際、日本の高齢者は、諸外国と比較して異性の友人を持たない傾向があることから、男性が多く参加したいと思っている地域活動・ボランティア活動(図1-3-10)への参加について働きかけを行うことも有効であろう。

図1-3-10 地域活動・ボランティア活動への参加意向(複数回答)

〔コラム<5>:限界的な集落のコミュニティ再生〕

  • 一般的に、住民の半数以上が65歳以上で、生活道や林野の整備、冠婚葬祭など共同体としての機能を果たせなくなり、維持が限界に近づいている集落を「限界集落」という。
    • 我が国の高齢化率(65歳以上人口の総人口に占める割合)は、平成67(2055)年に40%を超えると予想されており、「限界集落」は、日本の未来を先取りした姿だともいえる。
  • 高齢化率が5割に近づいている岐阜県高山市高根地域では、高山市社会福祉協議会が中心になり、高山市の遊休施設を活用して冬季の高齢者住宅を開設し、冬季には他地域からの除雪ボランティアを組織している。入居者の家族からは、「こんなに安心して過ごせた冬は初めて」との喜びの声が多数上がっている。交流サロンや餅つき大会などの行事を行うことで、地域の拠点としても機能しつつある。
    • 高齢化率が60%を超える鹿児島県南さつま市金峰町大阪地区では、特定非営利活動法人「プロジェクト南からの潮流」が中心となって、住民の手作りによる遊歩道への道標設置、住民参加による眺望所の整備などを行っている。地域住民が作業のために毎日会って話をすることで元気が出ること、作業をやり遂げた喜びをみんなで味わうことが何よりの成果だという。また、鹿児島市に住む子供たち(60歳以上)が帰ってきて作業の手伝いを始めたことにより、今後の集落に明るい日差しが見えたと感じている。
  • こうした地域の取組も参考にしながら、今後の日本全体の在り方を考えていくことが必要ではないだろうか。

〔コラム<6>:ドイツにおける高齢者の社会参加促進の取組〕

  • ドイツでは、高齢者の社会参加の促進について、行政の支援を受けながらも市民団体が中心となって取り組んでいる。
    • 地方都市ヘンネフにある市民団体「ヘンネフ高齢者事務所」は、市役所の建物内に拠点があり、地域の高齢者のためにパソコン教室、外語教室等を開いているほか、高齢者間の交流を目的としたカフェ(アクティブ・カフェ)を開設している。また、市から委託を受けて、高齢者のボランティア活動に関する相談窓口業務も行っている。なお、ここにいるボランティア自身も、定年退職した高齢者が中心である。
    • 1971年に設立された市民団体「ソーシャルワーク ベルリン」は、高齢者のコミュニティづくりを目的に活動を行っている。建物にはカフェ、ボウリングなどの設備もあり、高齢者が思い思いの時間を過ごしている。運営は、約70人のボランティア職員を中心に行われているが、そのほとんどが高齢者であり、活動歴20年以上の職員も少なくない。
    • このように、ドイツでは、定年退職した高齢者がボランティアとして社会参加活動を行うことが多いが、ボランティアといっても専門性が高い。
  • 高齢化は日本だけに起きている問題ではなく、先進国に共通する課題となっており、各国の先進的な取組から多くのことを学ぶべきであろう。

〔コラム<7>:東日本大震災被災地における高齢者の活躍〕

  • 東日本大震災では、多くの高齢者が被災して避難生活を余儀なくされ、自宅にとどまることができた人も、ライフラインが止まり流通が麻痺した中で困難な生活を強いられた。
  • 介護ヘルパーの派遣や高齢者への配食サービスを行っている宮城県仙台市の特定非営利活動法人「あかねグループ」は、調理場で配食用の弁当をつくり終えた頃、震災に見舞われた。建物は大きな被害は免れたが、電気が消え電話も通じなくなった。
    • しかし、ボランティアのスタッフは余震が続く中、暗い町を懐中電灯をたよりに歩き、お年寄りたちの安否を確認しながら弁当を配達して回った。家の中で震えているお年寄りもいたが、何とか全員の無事が確認できた。
    • スタッフの多くは高齢で、身内が津波の被害を受けたり自宅が被災して避難所生活を余議なくされた人もいたが、その後も避難所から事務所に通い配食や介護サービスを続けた。
  • 今回の大災害では、被災者に対するきめ細かな取組が市民団体等によって行われ、また、市民団体同士のつながりを生かして、震災直後から県外からも支援物資が届けられた。
    • そうした民間団体間の連携をさらに強化し協働を進めるため、全国のNPO等民間団体からなる「東日本大震災支援全国ネットワーク」が結成された。政府や地方自治体による支援に加え、民間レベルでの被災地への支援活動も着実に全国に広がっている。
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