第2章 高齢社会対策の実施の状況(第3節1(2))

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第3節 分野別の施策の実施の状況

1 就業・所得

(2)勤労者の生涯を通じた能力の発揮

ア 勤労者の職業生活の全期間を通じた能力の開発

「職業能力開発促進法」(昭和44年法律第64号)及び同法に基づく「職業能力開発基本計画」の策定により、経済社会の活力の維持・向上の観点等から、雇用労働者のみならず、ニート状態にある者、出産・育児等により職業キャリアを中断している者、職業生活からの引退過程にある高齢者等、職業キャリアの準備期、発展期及び円熟期の各段階に応じた職業キャリア形成支援政策を進めてきたところである。


イ ゆとりある職業生活の実現等

勤労者が、職業生活と家庭や地域における生活とを調和させつつ、生涯にわたってその能力を有効に発揮するためには、心身の健康を保ちつつ、仕事のための時間と家庭・地域・職業能力開発などのための時間を様々に組み合わせ、バランスのとれた働き方を選択できる環境を整備していくことが重要である。
このため、勤労者の職業生涯を通じ、その心身の健康が確保されるとともに、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を実現する長時間労働の抑制が重要な課題となっている。
我が国の労働時間の現状を見ると、脳・心臓疾患の発症するリスクが高まるとされる月80時間以上の時間外労働に相当する週労働時間60時間以上の雇用者の割合が1割弱となっており、また、年次有給休暇の取得率は近年5割を下回る水準で推移している。
この状況を踏まえ、「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」(平成4年法律第90号)及び「労働時間等見直しガイドライン」(「労働時間等設定改善指針」(平成18年厚生労働省告示第197号))に基づき、所定外労働の削減及び年次有給休暇の取得促進をはじめとした労使の自主的な取組を促進する施策を推進した。


ウ 雇用・就業における女性の能力発揮

働き続けることを希望する女性が就業意欲を失うことなくその能力を伸長・発揮することができる雇用環境を整備するため、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(昭和47年法律第113号)に沿った男女均等取扱いが確保されるよう、企業への積極的な周知啓発、指導を行うとともに、事業主と労働者の間に紛争が生じた場合には円滑かつ迅速な解決が図られるよう援助を行っている。
また、男女労働者間に生じている事実上の格差を解消するための企業の自主的かつ積極的取組であるポジティブ・アクションの一層の推進を図るため、経営者団体と連携した「女性の活躍推進協議会」の開催やポジティブ・アクション普及促進のためのシンボルマーク「きらら」の活用促進、「均等・両立推進企業表彰」の実施等により、ポジティブ・アクションの必要性について意識を醸成するとともに、「ポジティブ・アクション情報ポータルサイト」を通じた企業の取組事例についての情報提供を行う等により、企業の取組を支援している。
さらに、平成22年8月末に、男女間賃金格差の縮小に向けて「男女間賃金格差解消に向けた労使の取組支援のためのガイドライン」を作成し、企業の労使による男女間格差の「見える化」を推進するため、実態調査票等の実践的な支援ツールを盛り込んでいる。これにより格差の実態把握と取組の必要性について「気づき」を推進し、労使の自主的な取組を支援している。
また、「食料・農業・農村基本計画」(平成22年3月閣議決定)等を踏まえ、女性が対等なパートナーとして、男性と共に農林水産業経営及びそれに関連する活動に参画していくことのできる社会の実現に向けた施策を実施した。


エ 職業生活と家庭生活との両立支援対策の推進

(ア)職業生活と家庭生活との両立のための制度の一層の定着促進

更なる仕事と家庭の両立支援の推進を図るため、介護のための休暇制度の新設等を内容とする改正「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号。以下「育児・介護休業法」という。)が平成22年6月より施行された(表2-3-2)。

表2-3-2 育児・介護休業法の概要

1 育児休業制度

労働者(日々雇用される者を除く。以下同様。)は、その事業主に申し出ることにより、子が1歳に達するまで(両親ともに育児休業を取得する場合は、子が1歳2か月に達するまでの間に1年間)の間(子が1歳を超えても休業が必要と認められる一定の場合には、子が1歳6か月に達するまで)、育児休業をすることができる。
※育児休業については、次のいずれにも該当する有期契約労働者も対象
<1>
同一の事業主に引き続き雇用された期間が1年以上であること
<2>
子が1歳に達する日を超えて引き続き雇用されることが見込まれること(子が1歳に達する日から1年を経過する日までに雇用関係が終了することが申出時点において明らかである者を除く)

2 介護休業制度

労働者は、その事業主に申し出ることにより、対象家族1人につき、常時介護を必要とする状態に至るごとに1回、通算して93日まで、介護休業をすることができる。
※介護休業についても同様の考え方で有期契約労働者も対象

3 子の看護休暇制度

小学校入学までの子を養育する労働者は、その事業主に申し出ることにより、小学校就学前の子が1人であれば年に5日まで、2人以上であれば年10日まで、病気・けがをした子の看護のために、休暇を取得することができる。

4 介護休暇制度

要介護状態にある対象家族の介護を行う労働者は、その事業主に申し出ることにより、要介護状態にある対象家族が1人であれば年に5日まで、2人以上であれば年10日まで、介護のために、休暇を取得することができる。

5 短時間勤務等の措置

事業主は、3歳に満たない子を養育する労働者であって育児休業をしていないものについて、労働者の申出に基づく短時間勤務の措置を講じなければならない。
事業主は、常時介護を必要とする状態にある対象家族の介護を行う労働者で介護休業をしていないものについて、次のいずれかの措置を講じなければならない。
短時間勤務制度、フレックスタイム制、始業・就業時刻の繰り上げ下げ、介護費用の援助措置

6 所定外労働の免除

事業主は3歳に満たない子を養育する労働者が請求した場合は、所定外労働時間を超えて労働させてはならない。

7 時間外労働の制限

事業主は、小学校入学までの子を養育し、又は常時介護を必要とする状態にある対象家族の介護を行う労働者が請求した場合においては、1か月24時間、1年150時間を超えて時間外労働させてはならない。

8 深夜業の制限

事業主は、小学校入学までの子を養育し、又は常時介護を必要とする状態にある対象家族の介護を行う労働者が請求した場合は、深夜において労働させてはならない。

9 不利益取扱いの禁止

事業主は、労働者が上記1~8の申出をしたこと等を理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。(※4~8については、今回の法改正により追加。)

10 転勤についての配慮

事業主は、労働者の転勤については、その育児又は介護の状況に配慮しなければならない。

下線部は、平成21年6月の法改正により改正された部分
施行日:原則として平成22年6月30日(ただし、4、5、6については常時100人以下の労働者を雇用する企業は平成24年7月1日)

資料:厚生労働省

改正育児・介護休業法の周知徹底を図り、同法が定着するよう引き続き事業主に対して指導等を行うとともに、労働者からの相談に対しては、そのニーズに応じて、都道府県労働局長による紛争解決の援助や調停制度を活用し、迅速かつ適切な対応を行う。

(イ)仕事と家庭を両立しやすい職場環境整備

育児や介護を行う労働者が働き続けやすい環境整備を推進するため、助成金の支給による事業主への支援やファミリー・フレンドリー企業の普及促進等を行っている。


オ 多様な勤務形態の環境整備

(ア)多様な働き方を選択できる環境の整備

パートタイム労働者がその能力を一層有効に発揮することができる雇用環境を整備するため、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(平成5年法律第76号)に基づく是正指導や均衡待遇・正社員化推進プランナーによる相談・支援のほか、パートタイム労働者の均衡待遇の確保等に取り組む事業主等に対して助成金を支給し、正社員との均衡のとれた待遇の確保のための取組を推進した。
また、所定労働時間が短いながら正社員として適正な評価と公正な待遇が図られた働き方であり、育児・介護や地域活動など個々人のライフスタイルやライフステージに応じた働き方を実現させるものとして期待される「短時間正社員制度」について、その導入・定着を促進するため、制度を導入した事業主に対して助成金を支給するほか、企業の人事担当者等を対象に制度の導入・運用を支援するセミナー等を実施した。

(イ)情報通信を活用した遠隔型勤務形態の開発・普及

テレワークは、高齢者の就業機会の拡大及び高齢者の積極的な社会への参画を促進する有効な働き方と期待されている。
政府は平成22年5月に「新たな情報通信技術戦略」を策定し、その中で2.地域の絆の再生(2)高齢者等に対する取組に「テレワークの推進」を位置づけ、関係各省が連携して、テレワークの一層の普及拡大に向けた環境整備、普及啓発等を推進することとされた。
これに基づき、企業のテレワーク普及・推進を図るためのセミナー等を開催するとともに、テレワークによる働き方の実態やテレワーク人口の定量的な把握、大都市圏郊外部等におけるテレワークセンター等の普及に向けた取組を行った。
また、機器や場所の制約なく、地方公共団体や中小企業等がテレワークを容易に導入できる次世代高度テレワークモデルシステムの検証、テレワークによる環境負荷低減効果の検証の実施、テレワーク導入のために設置される電気通信設備に係る課税標準の特例措置による支援等に取り組んだ。
また、全国各地でのセミナーの開催等に取り組んだ。
さらに、在宅勤務ガイドラインの周知・啓発、テレワーク相談センターでの相談活動や、事業主・労働者等を対象とした「テレワーク・セミナー」の開催等により、引き続き適正な労働条件の下でのテレワークの普及を図った。
また、総務省など複数の省庁で、国家公務員テレワークの一層の推進を図っている。

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