司会 | 飯田恭敬(京都大学大学院教授) |
報告 | フレッド・ヴェーグマン(オランダ道路安全研究所所長) 『より安全な道路の実現による事故と死傷者数の削減』 |
パネリスト | 松井 寛(名城大学教授) 久保田 尚(埼玉大学大学院助教授) |
○飯田 それでは、午後のセッションを始めさせていただきたいと思います。午前の冒頭のご挨拶でもございましたように、交通事故による死者は1975年に最悪の16,000人に達しておりますが、その後は国を挙げての交通安全対策の成果によりまして、昨年は半数の約8,000人というところまで減少いたしました。日本政府はこの10年間でさらに半減をするという方針を決定いたしております。ヨーロッパでは1990年前後から、イギリス、スウェーデン、オランダ、フィンランドなど、各国が積極的に交通安全対策に取り組んでまいりました。基調講演をされましたオルソップ教授の話にありましたように、世界の中で、道路交通の死者率が最も低いのはイギリスとオランダということでございました。このような状態に至るには、交通安全対策の様々な対策が取り組まれてきた結果だということが言えると思います。
本セッションで特別講演をされるヴェーグマンさんのオランダでは、サステイナブル・ロード・セーフティと称する長期計画に基づいて、交通安全計画を実施しております。その目的は講演で述べられると思いますけども、今日及び将来の交通事故の結果が、将来世代に対して負担を発生させないことと言われております。個人的なことですが、先週マドリッドでITSの世界会議に参加してまいりましたけども、その中での新しいトピックの一つに、eセーフティということがございました。ヨーロッパでの交通安全に対する意識の高さには改めて感心をさせられた次第でございます。我々はイギリスとオランダを始めとするヨーロッパにおける交通安全の先進国から、その経験と政策に学ぶところが多いと思われます。
今日はまず、ヴェーグマンさんからオランダを中心とした安全対策の基本的な考え方や取り組みを紹介していただき、続いて、日本側から松井先生、久保田先生のコメントをいただくということにしております。そしてオランダと日本の共通点、あるいは相違点というものを明らかにして、今後のわが国の安全対策への方向を見出したいというふうに考えております。それでは、まずヴェーグマンさんからのプレゼンテーションからお願いしたいと思います。よろしくお願いします。
○ヴェーグマン
<はじめに>
皆さん、こんにちは。この暖かい部屋に、ようこそいらっしゃいました。皆さん、この30分くらい時間を使って話をしますが、ぜひ皆さん、目を開けていただきたいと思います。この交通安全道路ということで、私は、より安全な道路によって衝突事故を減らす、そして死傷者を減らすということをタイトルにしております。オランダは小さい国です。世界の真ん中にはありませんけれども、ちょうどヨーロッパの北のほうにありますけれども、私たちの研究所、ここでは道路安全の様々な項目について、例えば行動科学ですとか統計学とか、いろいろなことを検討しております。そして私たちは、オランダ政府に対して助言をしております。ヨーロッパでも活動を広げておりまして、ヨーロッパ以外にも、その活動の範囲を広げています。
こちらのグラフ(配布資料参照)を見ていただきますと、四つの国が出ております。四つの国の統計ですけれども、どれくらいの人口があって、どれくらいの死者数があるかということですけれども、赤い国がオランダになっております。人口10万人当たりの、70年代以降の交通事故死者数ということになっております。大体、もう既に今朝聞いておりましたように、25人から26人ということで、かなり下がってきました。日本はもう少し高いですけれども、ご覧になりますように、日本も驚異的な進歩を遂げたのではないかと思います。もちろん、ここでの問題という意味では、じゃあ、これからどうするのだということになるわけです。
<これまでの交通安全>
私たちがこれまでやってきたことを分析してみますと、この道路交通の安全ということを見たときに、非常に面白い考え方を見てとることができます。それをちょっと挙げてみました。100年前、私たちは道路の交通事故というのは運が悪かったねということだと思っていたわけです。まだまだその自動車が、それほど数が多くないころ、そういった事故に遭遇してしまうのは、運が悪かったという考え方でして、その後、いや、これは運の問題ではないということで、ある特定の道路がやはり事故が多いという傾向があるということが分かりました。こちらの道路のほうが、衝突事故が多いのだという分析ができるようになってきました。
そして、その次に私たちは、主な事故の原因は何かということを検討するようになったわけです。特にこれを行ったのは警察で、主要な事故原因ということを中心に対策を取りました。例えば、飲酒運転ですとか、あるいは速度違反とか、こういったことが原因だと。比較的簡単な分析ですけれども、いろいろの要素が実は複合して、それが原因となって、この衝突事故の起きる可能性が高くなるわけですが、その後コンピューターを使って、もっと多くの多様な原因を見るようになりました。その後今度は、やはり利用者の行動に問題がある。その教育に問題があるということになったわけです。事故の原因が人間にかかわること、これが95%であると。つまり行動が間違っている。つまり教育がうまくいっていないという考え方に切り替わってきました。
そしてその後、私たちはそういった知識、専門知識をベースにして、もっと既に知っている知識をうまく行動を変えるような方法で使えないかどうか。そのための行動の方針ができないか、実行ができないかということで、「持続可能な安全対策」ということになったわけです。
<新しい道路交通安全のパラダイム:安全性が道路設計基準の中核へ>
ここでご紹介したいのは、どういった要素があるかということなのですが、まず一つの事故ということを考えてみましょう。一つのある事故を事例として考えていただければいいわけですけれども、18歳、そして土曜日の夜、強風の土手道を走っていた車、ディスコの帰り、友だちを送ってうちに帰る途中、雨が降っていて、非常に速度を出している。そしてカーブのところで、道路わきに並木があると。速度を出しすぎている。そのときの原因というのは、たった一つに絞ることはできないわけです。つまり様々な要素が複合しています。やはり経験の足りない若い運転者であったということ、そしてその状況も悪かった。夜間であって暗い。雨も降っていた。しかし、その状況に照らした適切な速度で走っていなかった。また思ったよりも、かなり急激なカーブだった。またボルトタイヤを使っていた。しかもカーブのところに並木があったと。
こういった事故を分析していくと、なぜ、このような事故が起こってしまったのかということを考えてみますと、基本的な問題はその道路利用者とその状況、この中で、やはりかなり、ヒューマンエラーな確率が高くなってしまったということです。そこで新しい道路交通安全パラダイムというものを打ち立てました。これは基本的な考えとしては、なぜこの衝突事故が起こり得るのかということを基本にしています。まず出発点となるのがヒューマンエラー。必ず、人間というのは、間違いを犯すものだという考え方から出発します。これは人間の基本的な性格の一部です。そしてエラーをすることによって、人間は学習するわけですね。ですから道路交通の中では、人間はエラーを犯すものだという考え方をするわけです。しかし、そのエラーの確率をできるだけ少なくしよう。そのために安全な行動を取るようにする。また、望ましくないエラーが起こる確率を少なくするという対策が必要になるわけです。そして、そういった対策を取ることによって、確率を減らそう。そして、この人間がエラーを起こすものだということを受け入れた上で、その過ちを正すチャンスを与えようではないかという考え方を持つようになりました。そして、この新しい道路安全のパラダイムの一つとなっているのが、もうどうしても、事故が避けられないときには、システム設計によって、人間のエラーの許容量を上げていこうということです。
例えば、人間の身体が衝突に対して、どのような反応をするかという観点から対策を取るというものです。人間のエラー、それから、その人間のエラーに対する許容度。この二つが、重要な要素となります。我々の道路のシステムの設計が、十分にこういったことを考慮してつくられていない。例えば鉄道とかあるいは航空、それぞれの設計では、やはり安全性ということを非常に考えてつくられています。そういった交通手段に比べますと道路はそうではない。やはり、この道路交通システムは、人間にとって非常に複雑なシステムであるということが言えるわけです。そこで、必要なのは、もちろん大きな変化が必要なわけですけれども、ここで必要になってくるのが、このシステムを変えていくということです。つまり安全性が、その設計基準の中核となるような変革が必要だということになります。これは理論的な話だと思うかもしれませんけれども、これはあと20分ぐらいでもっと詳しく話を進めていきたいと思います。
<安全を意識した計画の三要素>
では最初に、この道路の安全性について、これをどのように定義していくのか。それからその安全性品質について、どのように評価していくのか。そして道路をよりよいものにしたときの安全効果。そして最後に、私たちオランダのビジョンである持続可能な安全性について、ご紹介します。
より道路を安全にするということを考えるときに、今ある道路、これを安全にするということもありますけれども、基本的にはやはり計画、工学のレベルからスタートしなくてはなりません。道路を計画する。そして空間を計画する。都市計画をする。それまで考えていかなければならない。その段階で、安全性の条件を定義していくということです。道路の安全性の条件を、その段階で既に定義していかなければならないと思います。そのように基本的な安全品質ということを、考えていくことがどんどん今後重要になっていくと思います。つまり安全を意識した計画ということです。これは道路安全を考えた都市計画、空間計画ということです。計画の中で、まだ安全というのが主要な要素になっていませんけれども、この道路安全ということを考えたときに、必ず計画の段階で考えなくてはなりません。そして、その安全を考えたデザイン、設計、道路の設計。これが二番目の要素となります。
そして、三つの影響の対象となる要素があります。まずリスクにさらされていることの最低限化。そしてリスクを、例えば衝突リスクがあったときに、どのように対応するか。その衝突リスクの最低限化。そして、けがをしそうになったときの負傷リスクの最低限化。これをデザイン及び計画によって、最低限にしていこうということです。この安全という観点から見た視点というのは、新しい視点ですけれども、やはりまだまだ今後改善ができる分野だと思っています。従来はこの衝突リスク、それからけがのリスクに対応を取っていたかもしれません。しかし、このもう一つのリスクにさらされていることを越えて三つの要素を考えていく必要があると思います。安全を意識した計画ということになると、三つの要素が対応しなくてはならない要素となります。土地利用の計画、そして輸送ということになりますと、ソフトの輸送手段なのか。それから二番目の要素がルートマネジメント。我々の道路利用者の意思決定ということになりますけれども、その道路網の中の、どの経路を取るのかということには幾つかの選択肢があるわけです。ですからどのルートを取るのか、道路利用者が選択することになります。それを安全なルートが選べるようなものにしなければならない。それからアクセスマネジメント。アクセスマネジメントというのは、例えば、どこの道路でもどこからでも入れるということはするわけではない。ある一定の制限を設けるということです。こういった要素はすべて計画の段階で、よく知られている手法です。しかし、この手法を道路安全に応用してきたかどうかというと、そうではないと思います。ですから、今後、この道路安全の中に、含めていかなくてはなりません。
一つ、例を挙げましょう。この土地利用の計画について、リスクにさらされていることを最低限にするという話をしましたけれども、効率的な土地利用が必要です。東京を歩いていますと、非常に効率的な土地利用が行われているので、日本では問題になっていないかもしれません。しかし、ここから影響力を行使する。この分野で何回車に乗るのか。またその運転する距離はどれくらいなのかということを短くするということです。やはり同じように三つの、この土地利用にかかわる要素が三つあります。リスクにさらされていること衝突リスク、けがのリスクということです。その中で重要なのは最も短い経路です。最短距離のルートを一番安全な経路にしなくてはならないということです。やはり、この運転者のパターンとしては、一番短い距離を行きたい。ですから最短距離を選ぶことになります。ですから、その経路が最も安全な経路になるようにしなければならないということです。それから道路網の機能性。これも重要になってきます。後でまたお話しますけれども、機能的なアプローチ。これが必要になってきます。そして最後の要素になりますのが、土地利用にかかわる限りは、やはりスピードに影響力を持つということです。速度を制限させるということです。これについては、定量的な情報を持っておりますので、実際にこの論文の中に入っておりますウェブサイトの情報を皆さん、ご覧いただければと思います。
安全を意識した設計ということになりますと、やはり私は道路の機能性というのが、私の専門分野の一つですけれども、機能的なアプローチというのが非常に重要になってきます。30年前、40年前は、機能的な、機能別の道路の分類というのが、うまくできていなかったわけです。60年初めにブキャナンの報告書などでも出ていたのですけれども、これを実際に今応用しているということです。幹線とそれから準幹線道路、それからアクセス道路を、この三つに分けて後で説明したいと思います。
また設計の一貫性、均質性というのが、非常に重要になってきます。特に、ある特定の一つの道路系において、違う設計要素が存在すると混乱しています。これはよく知られているコンセプトで、幅広く応用されています。特に私の国では、このコンセプトはよく知られているのに、設計マニュアルの中に実は入っていなくて、我々のデザインマニュアルに載っていないというのは、不思議なことだと思います。今、使える知識をできるだけ使うということ。これも、おかしな話だと、皆さん思うかもしれませんけれども、例えば我々の道路網が最近変わってきて、その中で十分に、それが応用されているかどうかということが、問題になってきます。何枚かスライド飛ばしますけれども、この安全効果ということについてです。いろいろな可能性がありますけれども、幾つか写真をお見せして、事例をご紹介したいと思います。
<安全効果の具体例>
基本的な道路安全のアクションというふうに呼んでいるものがあります。これはシンプルな、非常に簡単なことのように思われるわけでありますけれども、しかし、道路当局の予算を削っていくということになりますと、あるいは高い品質のものが維持できなくなってしまいます。例えば標識を見ていただいてもそうなのですけれども、ここに書かれているような電柱がありますが、これらが道路に存在しているというのは、必ずしも安全ではない。高速を出していると、それにぶつかって死傷事故が起きてしまうこともあるわけです。こうしたこともやはり、大変大きな問題として扱っていかなくてはならないわけです。
それから、ローコストのエンジニアリング・メジャーと書かれておりますけれども、いわゆる工学的な工夫です。このように左側で示しておりますのが、やはりポールが立っているわけです。近道をしようと思うと、衝突事故が起こってしまうわけです。これはT字路になっているわけなのですけれども、これによって、ポールがあることによって、それが起こりにくくなるわけです。こちらのほうは、やはりフェンスの間にポールを置いているということで、2本のポールがあるということで、車幅をつめているという例になっています。
それから路肩の安全性というのも非常に重要な要素です。大きな木が見えますけれども、ほとんど道路に木々がかぶさってきています。これは安全であるとは言えません。路肩の安全性というのはまだ確保されておりませんので、この段階では、この木を取り除けることはできないわけです。ただスペースというのも非常に大きな要素であるので、そちらとの兼ね合いが重要かと思われます。
スピード管理というのも、安全の中で重要な要素になっていますが、特に道路の設計上、重要な考慮事項です。これは制限速度が時速60キロというのは、これは郊外の道路です。オランダでは大体このぐらいの速度が一般なのですけれど、現在調査を行ってみますと、どうやらこれが功を奏しているらしいということです。それから都市部、あるいは安全地帯になると30キロになるわけです。都市部における道路の80%が時速30キロ用に設計されています。それ以上のスピードというのは、実は都市部では必要ないからです。80%ということで、このような形で行われていたのですけれども、この80%の半分を時速35キロにしていくという計画が行われておりまして、実際にそれも一部行われて交渉しています。
それからスピードを止めるためのハンプを設けるということもしょっちゅう行われています。このようなやり方がメイン道路で行われるようになってきました。つまり時速50キロの通りで、大体60キロ、70キロ、80キロというふうになってしまいますと不可能になりますが、そこにスムーズなハンプをつくることによって、本線、あるいは幹線道路でもハンプを設けることができるようになってきているわけです。不可能ではないわけですね。道路、あるいは交通のエンジニアの考え方、従来の考え方とは違っているのかもしれませんが、こうしたことが増えています。
ただ、これだけでは不十分です。やはり取締りが必要です。これは日本で学んだことでもあるのですけれども、やはり取締りに関する考え方も大切で、速度制限を守らないという人たちを、捕まえるためのカメラですね、スピードカメラというのが、もう何百個も設置されています。常に、それが作動しているわけではありませんけれども、オランダにいらっしゃって車を運転される際には、ぜひ気をつけてみてください。しょっちゅう、スピードカメラを見ることができます。こんなにきれいなカメラまで存在します。これもそうなのですよ。カメラ見えますか。このカメラを設置するたびに、この木まで設計の分野に含めてしまったかのように見えます。
最後にもう一つ、おそらく日本でもあるでしょうけれども、オランダにも独特の問題があります。市民の数よりも、自転車の数が多いと言われています。自転車はどこにでもありますし、乗ってない人がいない。土地がまっ平らで天候もよいので、自転車がどうしても多くなってしまうわけで、やはり国としては、この自転車対策が重要な要素になってしまいます。
<道路交通安全の先進国:サンフラワー調査>
さて、こうした様々な対策の効果についてのお話をいたしましょう。ここでお話をしたいのが、この部屋の一番前にいらっしゃる2人の同僚と行いました、サンフラワー調査と呼ばれるプロジェクトです。これは3カ国、スウェーデン、イギリス、オランダの3カ国なのですが、オランダはネザーランドなので、三つ合わせるとサン(SUN)になるわけです。これらの国において、なぜ進歩があったのかということを分析しようとする調査です。その結果をご報告したいと思うのですが、この報告書の中の抜粋をご紹介しましょう。この表です。こちらは80年代から2000年までの間に、どの分野で進歩があったかということを示しています。シートベルトの利用、車両の安全性、それから飲酒運転、これらに関しては、50%も死亡率を低減させる貢献度があったということで、非常によく知られている三つの分野です。すべてを説明することは不可能でありまして、最後の二つに関してはうまく説明することができません。即ち、路上弱者とそれから同乗者に関する対策です。
しかしながら、この3カ国において、大きな影響を持った、このような対策はあったということは明らかなわけです。これらのパーセンテージがこれほど、国の間で異なるというのは、元々は期待していなかったので、少々、面白いなと思ったところでありました。この3カ国なのですけれども、ここで三つ、もしくは四つのエリアを定義しました。三つでありますね。法制度とそれから行動に分かれているのですけれども、まず25%の低減を車両の改造によって得ようとしています。そしてそれから、50%がスピード管理と道路のエンジニアリング。そして25%が行動の改善です。オランダの場合なのですけれども、道路安全性の戦略及びスピード管理というのが一番重要な要素になっており、さらにこれを改善したいと考えています。これはもちろん、ほかの2国でも同じなわけです。
<オランダの「持続可能な安全」とは>
さて、それでは一体、具体的には何をしようとしているのか。これを私たちは、「持続可能な」というふうに呼んでいるわけです。いろいろなサステイナブル・デベロップメント、これは環境に絡む持続可能な開発という意味を表しているのですが、これを道路の安全性にもあてはめることにいたしました。即ち、次世代に対して、現在の事故が起こるような状況をそのまま継承させるわけにはいかないということです。毎年1,000人の死者が交通事故で出ています。で、一体どのような知識があれば、どのような活動を取れば、これを改善することができるのかという知識が必要なわけであります。ですから、1,000を750とか500とかというのではなく、さらに200にするにはどうしたらいいのかということを考えなくてはいけないわけです。
まだまだ人の自由はある。そして、自動車は使われているわけです。道路のシステムがある以上は、やはり1,000人の死者ではなく、やはりせいぜい数百人にまで、これを低減させていかなくてはいけないというのが、私たちの使命だと思うわけです。ということで、事故の確率を大きく低減させるためには、インフラの設計が重要です。また、人間の行動そのものも、衝突事故をあらかじめ回避できるように変えていかなくてはなりません。事故のないシステム、全くないシステムを設計するのは不可能ですが、しかし、事故が回避できないのであれば、それではけがを回避しようではないかという考え方をしなくてはなりません。人間の能力というのが、実はこの中では最も重要な焦点となります。一体人の能力はどこにあるのか。何が人間にはできるのかという辺りが重要です。また、弱い人間でありますから、それを守るための車両の設計ということも必要でありますし、できるだけシンプルなドライビングができるものでなくてはなりません。
また、道路利用者に対する教育も必要です。昔は道路利用者に対する教育と言えば、現状にどう自分を合わせていくかということしかありませんでしたけれども、しかしそれ以上のことができるはずです。ということで、道路のクラシフィケーションという分類がございます。3種類あります。一つが幹線、二つ目が補助幹線、そして三つ目がアクセス道路なのですが、この三つの中に全ての道路を分類するわけです。この機能に対してリスクという考え方を持ち込みます。そうすることによって、リスクを低減させようとするわけです。既に高速道路、あるいは都市部においては、それらを行っています。しかしまだ、地方ではそれが十分に行われておりません。このような形で分類することによって、道路の階層構造、ヒエラルキーをつくるわけです。その中で機能、それから速度制限という設計、そして人間の行動という三つの機能を考えていくわけです。このシステムの部分的な絵をご覧にいれましょう。こちらの一番上に書かれておりますのが、いわゆる幹線部分になります。そしてその二つ目が補助幹線と呼ばれる道路になります。ですから幹線よりは、小さな道路になります。これが補助幹線。木が生えているところは、アクセス道路ということになります。ということで、このように補助幹線とアクセス道路を分けて考えているわけです。アクセス道路というのは車も入ってきますけれども、しかし大変低速でなくてはいけない地域です。道路の分類をこのように国内で行いました。小さな国でありますので、それほど難しいことではないと思われますが、中央政府が、このような計画を行っていくためにつくった分類において、オランダにおける道路網の90%が分類されました。
ですから、当局は全てこの分類をもっていて、それをスターティングポイントとして、様々な活動の計画を行っているのです。で、道路のレイアウトが見やすいようにというのが一つ重要な部分になってきます。こちらでは5枚写真を示していますが、先ほど申し上げた三つの道路の種類を地方と都市部で示しています。このコンセプトそのものが、道路の利用者にとっても明らかになることが分かります。
ということで、いろいろな、いわゆる理論的な面では面白いものが出来上がってきたわけなのですけれども、これをどのように実施していくのかというのが、もう一つの問題です。協力というのが重要だという話が今朝ほどありまして、まさにその通りです。即ち、全ての関係者、ステイクホルダーの協力が必要です。何百という自治体があるわけなのですけれども、500ほどあるわけで、そこの人たちを全て計画に取り込むということが、第一に行われるべきことです。全ての自治体にコミットメントをしてもらう。また警察にも協力してもらう。25ぐらいの自治体は、どちらでもいいと考えている。50ぐらいは反対であるとか、中立であるとか、いろいろなところもあるわけなのですけれども、しかし、やはり100%の協力をしてもらわなくてはいけないわけで、そうしないと道路の安全というのは、担保できません。100%の協力、それから、この100%の協力を得るための組織化ということが大切です。いろいろな面白そうなアイディアを実現していくためには、それが必要だということです。関係者を招聘して、ビジョンをつくり上げていきましょうと。即ち、私たちのほうからつくり上げたものを押しつけてもだめなわけです。私たちの文化の中ではそれが、魅力があるものなのですね。上から、これはいいのですよ、悪いのですよというふうに押し付けてもだめで、やはり自発的にこれは行われていかなくてはいけないわけです。これは非常にいい姿勢ではないかなと私たちは思っています。
また合意づくりが大切です。スタートアップ・プログラムというのを1997年から2002年にかけて、つくり上げていきました。これが全ての関係者の間でとられた、合意を形にしたものです。このアプローチというのは、基本的にはビジョンと、大変野心的なビジョンであるわけなのですけれども、それから、それを実際に実現していくことによるシナジー効果が見られます。既存のシステムを変えようということになりますと、大変難しいですし、コストもかかります。例えば150億ユーロ、何円になるのでしょうか、分かりませんけれども、とにかく多額のお金がかかるわけで、簡単にこれを調達するわけにはいかないわけです。ですから、なんらかの形の実施の戦略が必要になります。それの例についても、お話をしたいなと思っています。
わが国では、ビジョンゼロというのは、私たちの文化には似合いません。ゼロという言葉がだめなのです。これは政治的なやり方、それから経済的な評価、この組み合わせが必要です。私たちの政策は、それに沿ったものです。何らかの方策で、政治家が投資をしてもいいと思えるようなものをつくり上げていかなくてはなりません。それから組織化された実際の安全性の実現ということが必要です。何もしないで実現できるものではありません。組織化が必要で、いわゆるアクションプランが必要なわけです。ビジョンがあり、戦略があり、アクションプラン、行動計画があると。この行動計画を関係者全てと一緒につくり上げていくことによって初めて、ものが実現できるということになるわけです。
結果と効果についてのお話をしたいと思うのですけれども、基本的には100%の関係者によるサポートが必要だということで、これに関しては、これを得るためにかなりの時間、努力を費やしてきました。それから、かなりの投資がここ数年間の間で行われていきます。何億ユーロという金額が、実際にこのシステムに対しては投入されました。
このビジョンの実現にあたっては、何億ユーロという投資を行っているわけですので、やはりそれに対するコミットメントということは、誰の目にとっても明らかになっているわけです。ということで、時速30キロの実現に関しては、現在大都市内だけではなく、全長の50%で、30キロを導入しようとしています。この30キロゾーンを通らなければ、どこにも行けないぐらいになっていくでしょう。それからスクーターというのは、実は非常に危ないカテゴリーになっています。そして最後にラウンドアバウトに関して、こうしたことに対する投資が行われてきたというご紹介でありました。これらの投資を行ってきましたということで、ほかの機関にその効果を対比して見ています。60年代から、こうしたデータが取れているわけなのですが、4%から5%ぐらい死亡リスクを低減させることができましたと。日本の数字は分かりませんけれども、大体年間4〜5%です。90年代には3%ぐらいでした。ここ7年くらい、大体7.5%ぐらいで推移しているということであります。ということで、既にこのような形で、様々な、これまでに導入された方策による効果が得られてきているということなのです。
<まとめ>
ですから、私のメッセージというのは、うまく様々なターゲット及び実現のメカニズムを組み合わせるということです。そして、ビジョンを組み合わせる。この三つの要素が、私たちの国で効果を上げた組み合わせです。ビジョンと目標、そして実現ということです。この成功を説明するとき、二つの分野があります。まず持続可能な安全道路網、そして集中的な警察の取締りです。次の段階に、今私たちは入ろうとしています。まず効果的なパートナーシップを延長するということです。これまでできてきた協力関係をさらに延ばすということです。そして次世代の持続可能な安全性です。これは現在設計しているところです。どのような形でITSを使うか。これがこの中に含まれます。これは新しい、この活動の要素となっていきます。新しい世代の持続可能な安全性の設計段階に現在ありますけれども、来年には、今後の2年間、3年間の状況をまた詳しく、ご説明できるのではないかと思っております。どうもありがとうございました。
○飯田 はい、どうもありがとうございました。それでは続きまして、日本側のパネリストであります松井先生のほうから、コメントいただきたいと思います。よろしくお願いします。
○松井 それでは私のほうから、今、ヴェーグマンさんのご発表に対して、いくつかのコメントをさせていただきたいと思います。既に、司会の飯田先生からもご紹介がありましたけども、オランダというのは、英国及びスウェーデンと並んで、世界の中で、道路交通事故死亡者の少ない国でございまして、いわゆるヴェーグマンさんの先ほどのプレゼンテーションによると、この三つの国が、そういう意味で先端を走っているところでございます。オランダと言いますと、我々交通工学を専門にしている人間からいくと、いくつかの先端的な提案をした国にということで、よく知られているわけですが、これは皆さん、ご存じと思いますが、自転車システム、これは非常に普及しております。そのほかに歩行者と自動車が住宅地の中で共存して、安全に生活できる。そういうボンエルフという、これは日本ではコミュニティ道路という名前で知られておりますが、このボンエルフ方式を生み出した国でもあるわけであります。この三つの国、先ほどのご紹介でいくと、サンフラワーカントリーということになろうかと思いますが、この三つの国が特に交通安全の分野で成功を収めつつある背景を考えてみますと、これらの三つの国では、早くから戦略的目標の設定と、実施体制を確立して、国を挙げて積極的な取り組みをした結果ではないかというふうに思います。
例えばイギリスにおきましては、1987年に交通安全計画。これはロードセーフティ・ザ・ネクスト・ステップという名前で知られておりますが、こういう計画を策定しております。この中では具体的な数値目標を掲げまして、その目標値を達成してきているわけであります。一方、スウェーデンでは先ほども、ご紹介がありましたビジョンゼロという名前で知られている交通安全計画を掲げまして、長期目標として交通事故、死亡者、重傷者ゼロを目指すという計画を進めております。一方オランダでは1990年に具体的な数値目標と長期ビジョンを掲げたサステイナブル・ロード・セーフティという交通安全計画を立てて、強力に推進してきた成果があらわれつつあるのではないかというふうに思います。
一方わが国はと言いますと、現在第7次交通安全基本計画。これは1996年にスタートした5カ年計画でございまして、その中で数値目標としては、1997年までに道路交通事故死亡者数を1万人以下にする。そして2000年までに9,000人以下にするという目標を掲げましたが、それらは既に達成することができました。さらに、今年に入りまして、政府の目標として、今後10年間を目途に交通死者数を半減するという数値目標を掲げ、世界一安全な国を目指すことになっています。しかしながら、交通事故死者数半減のための具体的な戦略というのは、まだ十分描けていないのが現状であります。オランダでは1970年代初頭に約3,300人という交通事故死亡者数を記録しましたが、その後交通安全対策に伴い、2000年には約1,100人まで、すなわち約3分の1に減少させることに成功しております。一方わが国の道路交通事故による死亡者数は1970年に1万6,765人というピークを記録しましたが、その後、交通安全対策を実施して、近年、ようやく半減する状況になってきました。即ち、半減するのに約30年間を要したことになりますが、このことから考えると、さらに10年間に交通事故死亡者数を半減させるためには、今までの延長上の対策のみでは、なかなか難しいのではないか。なんらかのブレイクスルーが必要ではないかというふうに思っております。この意味において、ただいまご紹介いただいたヴェーグマンさんの、このレポートというのは、非常に様々な示唆を与えるものだというふうに思っております。
例えば、交通安全性の確保というのを、土地利用計画の段階、交通計画の段階、道路計画の段階、及び交通運用の段階を含む、全ての段階において、安全性の観点から評価を行って、安全性を確保しようとしているところが、非常に注目されるわけであります。確かにわが国においても、道路の計画、設計、運用にあたって、それぞれ安全性という評価項目が含まれてはおりますが、その位置づけは多くの様々な評価項目の一つに過ぎず、必ずしも安全性が第一優先で、考慮されているとは言えないわけでございます。したがって安全性が十分確保されていないと言えるかもしれません。
世界保健機関(WHO)の予測によりますと、1998年の世界で、道路交通事故で亡くなった方は約117万人で、これは世界中の全死者の2.2%に相当するわけでありますが、その後も増加傾向が続き、予測によると2020年には230万人に達する。このときには世界全体の死亡原因の理由からいきますと、3位にまで上昇することが予想されているということであります。このような状況を考えると、国民の交通安全のリスクに対する認識を高めて、国民の理解を得ながら、交通安全に対するウエイトというものを、これから高めて取り組んでいく必要があると思います。ヴェーグマンさんのレポートに示されているように、この持続可能な安全性、サステイナブル・セーフティの目的に掲げてありますように、毎年多くの交通事故による死者や負傷者を出す現在の道路システムを、このまま放置したまま、問題の解決を次の世代に持ち越すことは許されないという、そういう問題意識を国民全体で共有することが、今、求められているのではないでしょうか。
安全性の評価に対する信頼性、客観性を得るには、同時に交通事故原因に対する科学的、緻密な分析が重要であります。航空機事故や鉄道の場合は、その事故原因が徹底的に調査され、再発防止のためのフィードバック対応が取られておりますが、道路交通事故の場合には、往々にしてドライバー自身の責任に科せられ、再発防止の対策が十分取られていないケースもあります。オランダを初め、英国やフィンランド等の国々では、交通事故やリスク情報の収集分析が継続的に行われ、データベース化され、具体的な安全対策の実行に生かされていることも、多いに参考になるところでございます。もっとも最近わが国にでも、警察庁と国土交通省の協力のもとで、交通事故分析センターが1992年に設立されました。また事故多発地点の重点的な緊急安全対策が取られつつあることも、大きな進歩であります。しかし、これらの取り組みはいずれも事後的対策でありまして、今後は交通事故死亡者数半減の目標に向かって、予防的対策にも、積極的に取り組む必要があると考えております。
持続可能な安全社会を実現するには、道路計画全般にわたって、安全性重視の思想を反映しなければならないと思います。この意味においてヴェーグマンさんのレポートで紹介されている、これはイギリスで最初導入され、今欧州に広がりつつある道路安全監視制度、RSAと略しておりますけれども、あるいはEUが提唱しました道路安全事前評価、これはRIAでありますが、これらは独立した第三機関による安全設計に関する事前評価制度でありまして、これはわが国にはまだない制度ということで、注目されるわけであります。また、国が目標とする交通事故死亡者数の半減を実現するためには、限られた予算、要因の制約の中で、交通安全対策の効率化を高めることも重要であります。どの交通安全対策に重点を置くかというのは、それぞれの国の置かれた交通事情、交通事故の違いが反映することになると思いますが、その意味において、わが国とオランダの交通事故の発生状況を幾つかの表を見て、考えてみたいと思います。
今見ていただいておりますのは、一番左側、日本の数字。その右がオランダ、一番右が、オランダの数値を1としたときの比率をあらわしております。一番上は、これ人口でございまして、日本の人口はオランダの約8倍ということでございます。その次が自動車の数でありますが、これが9.6倍。やや日本のほうが、人口比率に比べると多いということになります。三つ目が道路延長でございまして、日本は約オランダの10倍の道路網があるということになります。その次は交通事情でございますが、これは、単位は台キロであらわしてありますが、これは6.8ということで、人口等から見ますとやや少なめでありますけれど、恐らくこれは日本が島国で、特に物流は船を使う割合がかなりありますので、その分が少し、日本のほうが少なめになっているのかなという感じがいたします。最後の3列は、それぞれ事故でございますけど、ここが非常に注目されるわけですが、事故の発生件数、及び死傷者の数。これがオランダの20倍を越えるということで、これはかなり深刻な状況と考えられます。最後の列は、これは死者数でございますが、これもオランダに比べるとやはり多いということになります。
その次は、歩行者、自転車、自動車別の比率でございまして、これで見ると、一番上にあります歩行者が犠牲になる割合が、オランダに比べますとかなり高いということが言えるかと思います。これは年齢別に見たわけでございますけども、14歳以下では、これはオランダが、少し逆に多い感じがしますが、ちょっとこれはよく分かりません。ヴェーグマンさんにお聞きできればと思いますが、注目するのは、やっぱり一番下の65歳の高齢者の事故が日本は非常に多いということであります。最後のこの表は、事故のリスクを、一番上は人口当たりで見たものです。それからその次は、車の台数当たりであります。死者数を比較しております。3列目は交通量の台キロ当たりの事故率でありまして、日本はオランダよりも3割強高いということになります。交通の発生件数、死傷者数の発生割合もかなり高いということが言えるかと思います。そういう特徴が見られるわけであります。わが国でも、特に高齢化社会に向けて、安全安心社会の実現に向けて、様々な取り組みが行われています。それは、一つは自然災害に対する防災の取り組み、もう一つは犯罪に対する防犯への取り組みであります。それと同時に、この交通安全を、やはり国の重要施策として取り組む必要があるのではないかという感じをいたしました。
最後に、ヴェーグマンさんにいくつかの質問をしたいと思いますが、一つは、確かに安全性を最重視するという考え方は基本的には賛成でありますけれども、よく国民に対するアンケートを取りましても、道路に対する安全性と共に、利便性であるとか、円滑性に対する要望も非常に強いわけでございます。したがって、この安全第一主義の原則を国民の理解と合意形成を得るために、どのような努力をされてきたのか。その辺をお伺いしたいと思います。もう一つは、先ほど第三者機関による道路の安全設計に評価、事前評価の制度、そういう考え方が導入されていると、RSAとRIAがございましたけど、オランダの例を挙げて、その仕組みがどうなっているのか、もう少し、具体的に説明をお願いしたいと思います。三つ目でありますが、今回のレポートで言われましたのは、どちらかと言うと、道路側サイドでの安全対策であります。一方、よく知られておりますけども、交通事故の原因には道路要因に加えて、人的要因、車両要因があると言われております。そういった中で、この道路の安全化によって、全体として交通事故の死亡者をどれだけ減らせると期待していいのか。その辺りをお聞きしたいと思っております。以上で、私のコメントとさせていただきます。
○飯田 どうもありがとうございました。松井先生から三つの質問がございました。それではヴェーグマンさんのほうから、できるだけ手短にお願いできればと思います。
○ヴェーグマン どうもありがとうございます。またコメントもありがとうございます。そのなかで一つ、コメントなのですけれども、非常にやはり大切なことというのは、研究者によってこの統計がうまく使われていることだと思います。私の国では、この統計、特にこの衝突事故ということになりますと、道路の情報、またその運転状況は非常に重要な研究情報になります。こういった情報を取るということ、その分野で携わる人の手に、その情報が渡るということが、非常に重要だと思います。私の感じですと、さっきのお話を聞いていて思ったのですけれども、その情報収集について情報が渡るかどうかについて、問題があるのではないかなと思いました。そういった情報を、研究者に渡してやるというステップが、非常に重要だと思います。そうすると研究者がもっと貢献ができるのではないかと思います。
それから市民の理解。市民のいくつかの要望ということがありますけれども、利便性とかもっと運転時間を短くして目的地に行きたいとか、いろいろ要望があるわけですが、道路安全を政治的な課題にしてもらうということ。その政治家と意思決定者が十分な情報を持った上で、判断をしてもらうということが重要だと思います。道路安全ということになりますと、そういった情報がなかなか渡らないということは、つまり、私自身がもうデータを集めて情報を集めて、そしてこの意思決定者に渡す。できるだけ分かりやすい形にして渡してやる。できるだけ定量化して、透明な情報を渡してやるということだと思っています。そうすることによって、例えば道路安全のこの影響評価、国のプログラムとして、モニタリングを行って、中立的な情報を意思決定者に渡すということが、私の仕組みの一つだと思っています。そうすることによってバランスを取っています。道路安全はなんでも一番と、最優先ということではありません。情報を渡して決めてもらうということです。そして適切な情報を、その意思決定者に渡すということが重要だと思っています。そうすると、どのような行動を取るか、その信頼性のある行動を取ってくれると思います。
やはり、市民の参加が非常に重要だと思います。まず、問題があるということを市民が認識しなければならない。第二段階目はその方策・対策について合意が必要だということです。例えばいくつか事例がありますけれども、一つの先ほどの事例の中で、最近30キロ制限の道路を始めたと言いました。これはまず、市民に合意をもらわなければならなかった。その人たちの、30キロという制限に対しての生活者の合意が必要だったということです。そういった方策を、市民から要求が出ていたということもあります。そういった要求がなければなかなかできないわけで、市民の反対を押し切ってまで対策を取るということは、非常に困難だろうと思います。また、この事前評価制度、それから監査制度についてお話をしましたけれども、目的というのは、できるだけ明示的に地域を公開するということです。交通工学とか、道路工学の問題というのは、いろいろな要素を暗示的に取扱い過ぎる。はっきりさせないと、公開させないということだと思います。もっと透明度の高い情報を出す。これを第三者がやる。第三者が実際のデザインについて、検討する、評価するということが大事だと思います。
三番目の質問ですけれども、どこで私たちが貢献しているかということなのですけれども、サンフラワーの3国のグラフで見えましたけれど、オランダでは、今後10年間、どこに重点を置くのか。車で25%、ITSを応用するというのもそうです。それから25%の取締り。また、免許制度の改善。それから残り50%が、道路の改善ということです。このような重点の割り振りをしております。これは将来の重点の割り振りということになります。これは、私たちが何をしようかという意図が明確になって、それが基本になっているわけです。そして具体的な対策をつくっています。そのための手段を明確にしています。こういったはっきりした意思決定をもう既にしているわけです。ヨーロッパで今議論になっているのが、皆さんご存じかもしれませんけれども、この通貨の統合ということです。ヨーロッパで3%の財政赤字しか認められない。そうすると、政府も予算の縮小に動きます。既に、この道路安全の予算も下がってくることになるのです。しかし、それはもうはっきりしていることですから、それでも私たちの意図は変わりません。
○飯田 続きまして、久保田先生のほうからプレゼンテーションいただきたいと思います。
○久保田 それでは、ヴェーグマン先生のご発言から触発されて、いくつか感じたことをお話して、最後にちょっとご質問させていただきたいと思います。なんと言いましても、印象的だったのは、サステイナブル・セーフティという大きな概念を持ち出されて、特にインフラストラクチャーを設計する際に、それが人間の能力の限界というものを前提として、インフラストラクチャーを考える。ここがやはりキーではないかと思います。それを道路の設計、あるいは道路管理、交通管理といったところに持ち込んでいく。さらに松井先生もおっしゃったように、道路計画とか都市計画にまで、それを中核概念として持ち込んでいこうというのが、非常に新しい考え方ではないかと思います。やはり、振り返って日本の行政の中で、都市計画の議論の中で、ここまで安全というものを考えるということにまだなっていなかったようにも思いますので、非常に印象に残ったところでございます。
それで、お話にあったいろいろなヨーロッパの考え方ですが、実は今までもかなり日本に影響を与えてきたわけであります。簡単に、ごくかいつまんでお話しますと、ヴェーグマン先生のお話にも出てきましたブキャナンレポートの考え方です。道路の段階構成でネットワークをつくっていくというのは、もちろん日本にも大きな影響を与えているわけであります。ただ、どこまで実現しているかという現段階で言うと、まだそこまでいってない。こういう理想までいってないかもしれませんけれども、考え方としては、明らかに輸入されております。
それからボンエルフですね。松井先生のご指摘にありましたようなオランダの1970年代の発明であります。皆さんご存じのように、人と車が同じ空間を共有する。さらに必要に応じて駐車スペース、あるいは緑化スペース、木ですね、空間に共存させていくという非常にユニークな概念だったわけでありまして、これが日本にもコミュニティ道路といったような名前のタイプの道路として、広く普及しているわけであります。実は私自身、ボンエルフに非常に興味を持ちまして、発祥の地であるデルフトには、既に7回か8回おじゃましております。あるとき、デルフト工科大学の先生に言われましたのは、ボンエルフというのは、日本にこそ、ふさわしいのではないかということであります。その先生は、日本には畳というものがあるだろうと。
畳の部屋というのは、日本人の皆さんはだれでもご存じですけども、同じ空間で寝る、食べる、何でもやるわけですね。ですからまさに共存を生活の中で実現しているわけなので、そういう考え方を道路に持ち込むというのは、日本ならできるのではないかというふうに、その先生はおっしゃっていました。私はまだボンエルフについて、日本でまだいろんな検討する可能性は残っているように思います。右側の写真は、数は少ないですけれども、日本で実現している例でございます。さらにヴェーグマン先生の話に何度も出てきました30キロゾーンにつきましても、日本で、これはコミュニティ・ゾーンという名前で普及が図られているわけであります。それで、その事後調査、交通事故の削減効果の事後調査をした結果ですけれども、ある19のゾーンのトータルで20%の事故の削減を達成しているということで、この30キロゾーンについて、効果が認められるということが言えるかと思います。
ここからはヨーロッパの知恵をどう日本に生かしていくかということを考えたときに、やはり日本には日本の非常に独特な特徴がある。難しさがあるということがあるわけです。一つは歩行者事故の多さであります。既によく知られていますように、日本では交通事故死者数の3割が、歩行者であります。特に子どもや、高齢者については、その比率は半分にまで達しているわけであります。さらに、これも有名な数字ですけども、歩行者事故の6割は、自宅から500メートル以内という非常に近いところで起こっている。特に子どもの場合、下のグラフは子どものケースですけども、事故に遇って亡くなった子どもの、それがどこで事故が起こったかということを見ますと、ほとんどが自宅のすぐ近くであるということでありまして、我々は身近な道路をもっともっと安全にしていく必要がある。年間8千数百人の方が亡くなっているわけですけども、そのなんと17%もの方が、家の近く、500メートル以内を歩いていて亡くなった歩行者ということになりますので、これは相当高い数字だと思います。交通事故死者数半減を考えるためには、やはり、ここにも大きく手をつけていかなればいけないというふうに思います。
そういうことを考える上で、非常に我々考えなきゃいけないのは、ここのところでありまして、ちょっと変な話から始めますけども、日本にモータリゼーションというのはなかったのではないかというのが、私の持論であります。つまり、モータリゼーションというのは、このヨーロッパで馬車があってその馬の代わりにモーターをつけるということが、モータリゼーションであります。ところが日本の場合には、もともと車両というものがありませんでしたので、我々の社会に車を持ち込むということは、モータリゼーションではなくて、車両化、ビークライゼーションではないかというふうに思います。
つまりヨーロッパは、もともと馬車のための道路の幅員は確保されていたわけですけども、日本の場合は、市街地をも全体としてつくり変えなければ、車を受け入れることができない。こういう大きな条件がございます。そういう条件、歴史的条件のために、我々の日本の社会においては、この非常に狭い道路で、車をどう扱うかという大きな問題がございます。さらに先ほど申しました歩行者をどう安全にしていくか。そしてそれをネイバーフッドの中でどう達成していくか。この三つが我々考えなきゃいけない大きなポイントだろうと思っております。例えばゾーン30、コミュニティ・ゾーンにつきましてもバウンダリーがまだないというところがいっぱい、実はあります。計画中の道路ですから、現状ではまだその境界の道路がまだ存在しない。こういう問題に直面しているところもございます。
それから歩道と車道が区別されてないところで、しかし、車のスピードを落とさなければいけないということで、こういう工夫をしているところもございます。ハンプですら、歩道のない道路に設置される場合があります。つまり、歩行者もこのハンプを乗り越えなければいけないのですけれども、これは我々の社会の中で、どうこれを扱っていくかという大きなテーマであると思います。あるいは信号のない交差点の近くにこういうハンプを置いて、まさに人間の能力の限界。つまり、ここで一旦停止しなければならないということを怠ったドライバーに対して、物理的に一旦停止を促すといったような工夫。こういったような工夫を、今やり始めたところでございます。という状況ではありますけれども、まだまだ我々知恵を絞っていかなければならない状況にありますので、ぜひヴェーグマン先生からいいアドバイスをいただければ、ありがたいなと思っております。以上でございます。
○飯田 はい、ありがとうございました。それでは、これから討議のほうに移りたいと思います。質問から始めたいのですが、久保田先生のほうから、プレゼンテーションに関係してご質問お願いしたいと思います。
○久保田 はい、今の点をぜひ、お考えをお聞かせいただければと思います。つまり、歩道と車道が区別できないぐらいの狭い道路において、交通静穏化と言いましょうか、トラフィックカーミングをどう実現していくのか。よいヒントがあればお聞かせいただければと思いますが。
○飯田 はい、今の久保田先生のご質問に関係するのですけれども、日本ではこういったコミュニティ道路が整備されているのですね。やはり自転車、歩行者の交通事故が非常に多いということでありまして、それに取り組む一つの方法として、ヒヤリ・ハット地図を作成するという、非常にユニークな方法が開発されております。ヒヤリ・ハット地図というのは、日常の道路利用者が、危険と感じた箇所を地図上に示してもらいこの地図をベースにして、住民と協力して安全対策をするという仕組みでありまして、成果を上げつつあるということでございます。久保田先生の質問とも関係するのですけど、こういったヒヤリ・ハット地図というものもご理解をいただいて、交通安全対策、自動車との共存型と分離型、いろいろあると思うのですけども、自転車、歩行者あわせた交通安全対策について留意すべきことをヴェーグマンさんのほうから、お考えをお聞きしたいと思います。
○ヴェーグマン いくつか安全性を上げるための方法はあります。一つは過去における衝突の統計を取るということです。事故の統計を取るということです。例えば、いわゆるブラックスポットと呼ばれる事故多発地点というのがあるわけで、ここにおいては事故のいわゆる密度が分かるわけです。これを使って、それから交通量と組み合わせることによって、どれくらいのリスクがそこにあるのかということは、はじき出すことができます。また、既にどのようなプロセスで事故が起こるのかということに関しては、既に知見があるわけです。例えばコミュニティ・ゾーンとか、コミュニティ・ストリートという話がありましたけれども、基本的には、こうしたエリアに関しては、自己分析は必要ないと思います。恐らく重要なのは、歩行者、自転車、自動車が共存している場合だけだろうと。それからその中で、自動車がスピード違反をすることが問題なのであろうと思われますので、この組み合わせを回避すればいいわけです。そうすると車のスピードを下げればいい。簡単な方法でできます。これに関しては、大掛かりな調査を行う必要はないくらいです。
基本的には、人がどれだけのインパクトに耐えられるかどうかというあたりに問題の根本があるわけで、ですからこそ、私たちは30キロというコンセプトを考えだしたわけです。これはコスト効果があるやり方でもありました。30キロというスピードを、日本の方が物理的な方法なしに受け入れられるようになれば問題はないわけです。標識を立てて、そしてみんながよい行動を取るようになれば、大変楽なわけですが、しかし日本の方が、オランダ人と同じような習性を持っていらっしゃるのであれば、それに加えてほかのことが必要になります。私たちは二つ物理的なものを導入しています。
第一に、ドライバーに対して30キロのゾーンに入りますということを明らかにすることです。そこに入る時点での誤解が生じ得る可能性があるので、例えば門があったりとか、あるいはちょっと盛り上がりがあったりとかということで、標識があったりということで、明らかにしてやるということです。それから交差点における速度の低速ということがありますが、これに関しては例えば、ハンプを設けるというやり方があるわけです。歩道と車との間、車道との間の高さを変えるというような可能性があるわけです。基本的には一般の人に対して、道路の工学者がハンプをつければいいのですけれども、皆さんからの盛り上がりが必要なんですよというふうに、働きかける必要があります。そうじゃないと、つくってくれてありがとう、でもいらないのですよというふうに言われてしまっては意味がないわけで、そうするとまたスピード違反が起こってしまうということになりますから、住宅地域におけるスピード管理というのは、住民側から働きかけてもらうほうが、すっと楽なわけです。
それから、これらの地域を通り抜けていく、つまり本流からの逃げ道となっている場合がありますけれども、この場合には、そこに行くつもりでもなければ、そこは通りににくくなるという利点が、例えば30キロ制限を設けることによって得られます。大体、水は低きに流れると言いまして、抜け道を探すというのが人間の本性ですので、混雑があるとすれば、どっか別なところへ行きたいと。抜け道を探したいということになりますけれども、その抜け道があまりにも小さい、細い道だったりすると、そこには行きたくないというふうに私たちは思うのですが、ただ昨日タクシーに乗りましたら、日本のタクシーが本当に細い道にどんどん入っていくので、とてもびっくりしました。ですから、そういう意味では、タクシーが広い道の選択をしているなというふうには感じたわけでありますけれども、日本の特性というのもあるのかもしれません。
○飯田 まだこの問題続けたいと思うのですけども、ほかにも議論したいことがありますので、ほかの議論に移らせていただきたいと思います。ヴェーグマンさんのお話の中で、ロードセーフティ・エンジニアリングの中に、安全を考えた計画、セーフティ・コンシャスプランニングというのがありましたけれども、この中では土地利用計画、ルートマネジメント、アクセスマネジメント、という内容になっているというお話でございました。久保田先生のお話にもありましたように、このような土地利用計画、都市計画的な観点から、交通安全というものを考えることは日本ではまだ、明示的になされてないと思うのですね。ヴェーグマンさんのお話にもありましたように、最短ルートが最安全なルートになるような道路ネットワークの構成でありますとか、道路整備によるリスク、「エクスプロージャー」という言葉を言われていましたけれども、これは我々が、危険な機会に遭遇する数、距離や台キロで考えるということが分かりやすいと思うのですけれども、こういったことを考えて土地利用計画を進めるのは、日本ではまだ難しいと思います。特に、土地利用計画はいろいろな利害が複合してきますので、こういった利害調整をどうするのかというのが非常に大きな問題になってくるかと思います。この点に関して、オランダではどういうふうに考えておられるか、その辺りをヴェーグマンさんにお聞きしたいと思います。
○ヴェーグマン これは時間もエネルギーもかかるプロセスですね。こういうことだと思います。計画を立てるときに、道路安全というのは、もちろん意思決定の重要な要素にはなっていないわけです。今、そこには存在しない要素です。が、私たちがつくろうとしているのは、エンジニア、工学学者が、この道路安全性を考えてほしいということで、いろいろな方式を考えています。それは実現するための方法なのですけど、一つの例を挙げますと、例えば新しい道路を建設しようとするときに、今あるシステムに追加して、新しい道路ができるわけです。そのときに、じゃあ、その新しい道路の、道路網を既存の道路網にどうつなげるかということなのですね。例えば、新しいこの幹線道路、モーターウェイ、フリーウェイをつくると。それを大都市圏、近くにつくる。都市の近くにつくる。そうすると多くの道路交通がそっちに流れることになる。そうすると都市を迂回して、外に出て行く交通量が出てきますから、都市内の交通は軽減されると。そのような形で建設しなければならない。
それからもう一つ、どう接続するかということについてなんですけれども、1キロずつ、1キロごと、5キロごとに、その接続網をつくるかということなのですが、私たちは、この道路網を設計するときに意思決定者に対して、今ある道路を、どう変えればどうなるか。どういった影響がその地域、あるいは道路網内の交通パターンがどう影響されるかということを示すわけです。意思決定者に対して、そして例えば比較できるようにします。三つ、四つ、五つぐらいのパターンを考えて、それを定量的な評価を行って、その三つ、四つ、五つぐらいのその案についての、それぞれの安全性も出すわけです。そして意思決定者が例えばA案を選ぶと、年間2人は交通事故死亡者が出てくるとか、B案だと7人とか、そういう数で出すわけです。評価をするわけです。それを意思決定に利用してもらうということです。
そのほか、やはり重要な要素がありますけれども、財政的な影響もありますし、あるいは、その化学物質、環境の問題もあります。全て、様々な異なる側面のようですけれども、道路安全というのは、やはり目に見えないものですから、大切なのは、この安全が目に見えるような定量的な評価として、情報を提供するということだと思います。基本的には三つの要素、道路の機能性、交通量、それからこの道路種類ごとのリスクレベル。これでいくつかの、その安全性の影響をパターン化していくことができると思います。
○飯田 最近日本では、コンパクト都市構想が、研究者の間で盛んに言われるようになってきました。このコンパクトシティが何かということは、なかなか説明しにくいのですけど、簡単に言わしていただきますと、今までは土地利用が純化されてきて、一つの目的に使われる、例えば住宅地であるとか、商業地であるとか、工業地であるという土地利用です。しかし最近では、土地利用を複合化しようというふうにだんだん変わってきました。例えば、住宅地と商業地が一緒になるとか、住宅地とオフィスが、同じ場所で土地利用されるということなのですが、そうなればトリップ距離も短くなります。また公共交通機関の周辺に、都市施設を集中させる考え方が、最近研究者の間で盛んになってきているのですけれども、こういったことも、たぶん、交通安全に大きく関係するのではないかなというふうに思われます。この辺りについては、久保田先生、お考えいかがでしょうか。
○久保田 土地利用と交通安全の関係は、恐らく長期計画と短期計画と分けて考えるといいと思います。今、先生がおっしゃったのは、長期計画として、まちのあり方、まちの構造を変えて、あまり車に頼らなくても、自由に動きが取れるようなまちづくりをしていこうということで、公共交通や、自転車とかそういうものを充実していく。結果的に、車があまり使われず、事故も減ると。こういうことじゃないかと思います。もう一つ、私、強調したいのは、短期として、いわゆる沿道の土地利用コントロールという、これも都市計画の分野だと思いますけども、これが日本ではまだまだ遅れていると思います。例えば、オランダではないことだと思いますけど、バイパスをつくるとバイパスの沿道に、いろんなものが立地してくるわけです。これは、ヴェーグマン先生の先ほどお話しにあったアクセスマネジメントということからすると、非常にコントロールが行き届かない例だと思います。つまりバイパスというのは、本来、通過機能、交通機能の卓越した道路としてつくられているはずなのですけども、日本の場合、そこにアクセスが生じてくる。ですから通過機能とアクセス機能がそこで錯綜を起こして、危険が生じるということもあると思うので、土地利用コントロールというものを交通安全という視点から、もっともっと日本で考えていったらいいのではないかと思います。以上でございます。
○飯田 はい、ありがとうございます。それからもう一つ、ルートマネジメントということをお話になりましたけれども、これはファンクショナリティというようなことですね。道路機能に応じた道路の使い方をするというお話があったのですけれども、日本の道路はまだまだ、機能分化がなされていないと思われます。オランダでは、もう90%道路の分類ができたというお話しされて、私はびっくりしたのですけども、日本ではまだまだ道路機能の分化が進んでいないので、ルートマネジメントということについては、かなり難しい部分があるというふうに思われます。あまり無理に実施しても、規制したり、誘導したりということになってくるかと思うんですけども、日本の場合は、かえって混乱して問題になるんじゃないかなと思います。こういう状況ですけども、このルートマネジメントというのは、どういう考え方をすればいいのか、ヴェーグマンさんにお聞きしたいと思います。
○ヴェーグマン 最後の質問はちょっとお答えできないですね。難しいですね。でもルートマネジメント全般について、一般的なことはお話しできると思います。アクセスマネジメント、ルートマネジメントについてですが、アクセスマネジメントというのは、そんなに複雑なことじゃないとは思うのです。一番最初から、これを考えていかなければならないわけですが、例えばバイパス道路をつくる。もともとその意図というのは、準幹線道路、補助幹線道路、集散道路であると。都市の中で、そのときにアクセスマネジメントが非常に重要になる。そのときの施設の設計の問題です。例えば、工場の入り口から何百メートルは、こういったものはつくっちゃいけないと。これが最終的な道路安全の基礎となると思います。
それだけではなく、例えば渋滞。これはきのうのタクシー運転手に戻るのですが、当たり前のことなのですね。道路の真ん中に、勝手にタクシーが止まるというのは、その乗客を降ろすとか、乗せるとかするために、勝手に突然止まるわけですね。で、みんなそれは、別に怒っているふうでもないと。これは日本では受け入れられるわけで、それは問題ではないのかもしれません。そこへとアクセスマネジメントの話をしますと、そういったことも一つずつ重要になってくるのではないかと思います。そしてルートマネジメントについては、90%は、その計画の中でカバーするということで、まだ現実ではないのですね。実際は、最短距離が安全というわけではありません。我々の計画であって、これを今、明確にしようとしていると。まだやはり、道路安全問題というのはあるわけですが、一番安全な最短距離のパスを選んでもらう。そのためにはいくつかの手法というのがあると思いますけれども、一つだけ、ご紹介できるかと思います。
基本的には状況は二つあると思うのです。道路で1台だけで自分で勝手に速度を決めることができると、ほかの車に影響受けないという場合。でもほとんどは、ほかの車が前にいたりするわけですね。オランダ、日本、それぞれそういう状態が増えてくると思います。1台だけということはないだろうと思うのです。そうすると、何台も車があると、調整しながら、その道路網を通っていくということになります。そうすると、速度とか判断が必要になってくる。後続車も関係がしてくる。信号を使うことによって、適切な速度を守るようにしていくというのも一つです。例えばイギリスなどでもこれが行われています。もう何十年も行っています。ほかのヨーロッパ諸国では、それほどでもありませんけれども、うまく調整、チューニングをするということです。その運転する速度の調整ができるようにする。ここら辺で、大体車が速度を上げると、次の信号のところで、止まるようにさせると。道路交通安全ということと、それからキャパシティということを考えて、それが必要になってくると思います。
そういった面で進歩が見られるのではないかと思います。
次の世代の安全対策というのは、機能性を考えなくてできるはずがないと。必ずこれは必須になってくると思います。それに対してほかの代替案は、考えられません。どうしても、道路網の機能別分類をやらなければならないのではなかと思います。勝手に運転手さんが選択するということではいけないと思います。もちろん、それは日本の決断ですけれども、皆さんが持っているそれぞれの土地は、皆さんが思うように決める利用法だと思いますが。
○飯田 この問題について、いかがでしょうか。
○松井 このルートマネジメントというのは、かなり広い概念を含んでいると思うのですけども、これも長期的に対応すべきものと短期的なものとあると思いますが、長期的なものとしては、ネットワーク全体をどういうふうに使っていくかという、その道路の機能別分類をやっぱり時間がかかってもやっていく。幹線道路はより幹線道路としての、使い方に向いた形に持っていく。生活道路は、生活道路にふさわしい使い方をしていくということが必要でしょうし、それから、道路の種類別に交通事故の事故率を見ますと、やはり都市内の幹線道路の事故率が、やっぱり高いわけです。ですから事故を減らすという意味では、環状道路をつくるというのもかなり効果があると。要するに余計な通過交通をまちの中に入れないようにするということも、これもルートマネジメントの考え方になってくるのではないかなというふうに思います。
それから短期的なものとしては、要するに道路がいろんな使われ方、いわゆる駐車車両が結構多いと。これは交通を阻害すると同時に、安全性についても問題でありますので、この路上に駐車している車を排除するということも、これも大きな安全性の効果はあると思います。それとやはり、この自転車、歩行者、あるいは自動車。これを混合させるというのが、やっぱりこれは一番リスクの高い使い方でありますので、それをやっぱり分けていくと、分離していくという形も、これも非常に大事なことではないかと思います。
○飯田 はい、ありがとうございました。交通の安全性に対する評価をどのように記述するのかは非常に大事ですけども、難しい問題です。で、日本では、事故多発地点ということで、ブラックスポットアプローチになると思うのですけれども、全国で約3,200か所抽出されております。この抽出の仕方が、統計的によいかどうか、その評価の仕方がよいかどうかということは、十分に解明されておりませんけども、三つの抽出基準で選択されております。例えば、死亡事故件数が4年間で、2件以上発生しているか所です。このほか二つの基準があります。この対策でかなり効果があったということで、2003年から新しい基準で、追加的に事故多発地点が抽出されて、その対策がこれから進められるということでございます。
こういった考え方は、ヨーロッパの場合と違うかと思うのですけども、交通事故対策の評価の方法を考える場合に、事故の絶対数を少なくするということを重視してやるのか。あるいは費用対効果を考えて、その基準をつくるのか、いろいろな考え方があると思います。また、その起こった事故だけではなくて、潜在的な危険度、これも非常に大事だと思うのですが、そういったものを捉える、評価する方法があるのかどうかです。こういったことにつきまして、ヴェーグマンさんにお聞きしたいと思います。
○ヴェーグマン 私のペーパーのほうで書いてあるのですけれども、ブラックスポットアプローチというのがよく知られているということを書いてあります。過去の事故多発地点を見るというやり方なのですが、最初は非常に有効であると考えられたわけです。しかしながら、オランダではもうあまりこれを使わなくなりました。まだ幾つかあるのですけれども、しかしほとんど使いません。それに代わるものとして、アメリカ、ヨーロッパで、別々な方策が取られるようになっています。
ヨーロッパでは、ライナム先生が前にいらっしゃって、いわゆるユーロレップ・プログラムというのを指導されていらっしゃるのですが、ユーロレップというのは、ユーロNCAPというのと似たアプローチ、これはニュー・カー・アセスメントプログラムというものです。現在ロード・アセスメント・プログラムというのを開発中で、ライナムさんのほうから、後ほどお話があるのかもしれませんが、基本的には、これによっていわゆる規範を定めていこうと。即ち、どのくらいの死傷者が出るのかについての基準をまず判断し、その基準を外れた場合を評価していくという方法です。ですから、アクションを取るためには理由が必要なので、その理由に資することを目的としているわけです。道路の種別による事故率を、それによって見ていくわけです。
それから、それとは別にアメリカで取られている方法もあります。セーフティ・アナリスト・プログラムというふうに言われているのですが、ウェブサイトのほうでも、公開していますけれども、これはカナダのハワーさんがつくられたものです。サイツ・ウイズ・プロミスという言葉が、その中では使われています。これは何かというと、改善措置が取れる場所という意味です。いろいろなプロットコールがあって、方式があって説明するのは面倒くさいのですけれども、基本的にはそれによって、過去に起こった多くの事故だけでは、実際に危ないところは分からないと。一体、どのような改善策を取ることができるのかという考え方もそこには入れなくてはいけないということなのです。即ち、費用対効果を考えるわけです。そのようないくつかの評価方法が現在使われるようになってまいりました。
ブラックスポットアプローチというのは、まだ少しは残っているのですけれども、このようなほかの手法が新しく開発されつつあり、それを基にして、過去の事故、それから改善措置、両方合わせた形での評価が行われるようになっているということです。
○飯田 最後に、ヴェーグマンさんのお話しにありました、将来計画で自動車事故を50%削減することに関して伺います。これにはITSを使うのだというようなお話でございましたけども、このITSの将来性と交通安全削減に対する期待ですね。この辺りをヴェーグマンさん、松井先生、久保田先生から、一言ずつ、ご意見伺えたらと思います。久保田先生からお願いしましょうか。
○久保田 基本的に、非常に期待は高いと思います。それで、例えば50年、今から50年先の社会を考えれば、例えば今既に、ヨーロッパでもいくつか実験プロジェクトが行われているような、交通規制速度以上の速度が出せないようなシステム。あるいは交差点において、その危険が生じたら、自動的にブレーキがかかるようなシステム。そういうものが、たぶん社会の中で、相当普及しているだろうというふうに考えるのが、むしろ自然じゃないかなと思います。ただそこに至る道のりを考えると、どうやってそこに至ればいいのかが知恵の絞りどころだと思います。例えば、自動車のメーカーやユーザーにどういう動機付けを与えて、そういうシステムを普及させていくのか。あるいは、その普及の途中段階での安全性等に、その心配はないのか。その辺りさえ押さえていけば、少なくとも数十年先には、私は交通安全というのは、そういうものによって基本的に達成されていくのではないかというふうに、私は信じております。以上です。
○飯田 松井先生、お願いいたします。
○松井 時間の関係で、最後の発言になるかと思いますけど、日本が今後10年で交通事故死者数の半減を目標に挙げたわけですけど、これを実現する上において、きょうのヴェーグマンさんのお話は非常示唆に富んだ内容だったと思いますが、特に、ご紹介がありましたけども交通安全監査制度。それから交通安全の事前評価制度。これはまだ日本にはない制度、いわゆる道路管理者、交通管理者とは独立した第三機関が、安全性という視点からチェックを入れると。これは非常に実行性があるような、効果がありそうな感じがいたしますので、これはぜひ、日本に取り入れるように、今後努力していきたいとは思っております。
それから今お話がありました関係でいきますと、今まで日本はどちらかと言うと事後対策、交通事故が多いところに重点的に対策を立てて、減らしてきたわけですけども、その結果交通事故死亡者数はかなり減りましたけども、負傷者数は相変わらず増えている。その全体の交通事故の件数を減らすためには、今起こっている事故だけの対策ではなくて、予防対策に入っていかないと思うわけですね。要するに事故が起こらないようなシステムに変えていくと。その一つが、このITSだと思います。このITS、これは日本が非常に得意とする分野でありますので、簡単な話、自動車の中にいろんなセンサーをつけるわけですね。人間の代わりのセンサーをつけることで、安全性を確保し、事故が起こらない。そういう形にもっていくということが、期待できるわけであります。
それから最後に申し上げたいのは、イギリスあるいはオランダで交通事故が少ないのは、今まで様々な努力をされてきたこともありますが、もう一つ、考えられるのは、実はイギリス、あるいはオランダでもラウンドアバウトという交差点処理が使われているわけですね。これは日本ではない。いわゆるロータリー式の信号機のない形で、交差点の処理をするわけです。これの安全性が非常に高いのではないかと。日本では交通事故の中の6割は、交差点で起こっているわけですね。ですから交差点の事故を減らすということが、一番大事なところなのですけども、日本ではまだ経験がないからラウンドアバウトというのは導入しておりません。しかし、イギリス、オランダでかなり事故が減ったというのは、その効果がかなりあるのではないかなと、データとしてはないのですけど感じているわけです。ですから日本で、いきなり導入するのは難しいけれども、今、国がいろんな地域開発で、経済特区をやっていますけども、ああいう感じの、交通安全特区でもつくってですね、そこでラウンドアバウトで、一体交通事故が減るかどうか、そういう実験も出来たらいいなというふうに思っております。
○飯田 はい、ありがとうございます。それでは、ITSを含めて全般について、ワン・ワードお願いいたします。ヴェーグマンさん、よろしく。
○ヴェーグマン ラウンドアバウトは大賛成ですね。これは大変効果があります。強く推奨したいと思います。オランダでも、ここ数年間つくられてきました。3,000ぐらいあります。これに関する調査なども行っておりますし、大体70%ぐらい死傷者数がこれによって減ったということもありますから。それからITSに関してなんですけれども、きのうのタクシードライバーの話に戻っちゃうのですが、2台携帯電話使っているのですね。それからカーナビを使っていました。常に曲がる、曲がる、曲がると。私が行きたいところが分からないものですから、非常にITSを賢く使っているなというふうに思ったのですが、しかし、これらの情報を与えられながら運転してもらうというのは、少々危険なのではないかと、私は少々警告したくなりました。
しかし、ITSというのは有望だと思います。もちろん、導入の際には難しいかもしれないと思いますけれども、しかし、スピード・アタプテイションということに関しては、非常に効果があるのではないかというふうに思っていまして、実際にそれも導入されているのは知っておりますので、ただ話し始めると長くなりますからお話しませんが。重要なのは、道路の安全を高めようと考えるのであれば、短期的には、そして長期的にもそうですけれども、インフラの整備による効果というのは、かなりのものがあるはずなのです。ですから、どのような形とインターフェイスしていきたいのかということを考えながら、上手に計画していただければ、今後10年くらいの間で、様々な手法が功を奏してくるのではないかというふうに思います。実際に、皆さんの関心がこれだけ高いということですので、必ずや成功されると思います。ありがとうございました。
○飯田 進行の不手際で、若干時間オーバーをしてしまいました。本来なら、ここで総括すべきところですが、この後で、分科会総括報告が、ありますので、そちらの方にまわさせていただきたいと思います。3人の先生から、非常に示唆的なお話をたくさんいただきました。こういうものは、これからわが国の交通安全対策にぜひとも生かされるように大きな期待をいたしております。どうもありがとうございました。これで、終わらせていただきたいと思います。