「障害者の社会参加に関する特別世論調査」の分析
1.はじめに
平成16年6月に行われた障害者基本法の改正により、「障害を理由とする差別禁止」の理 念が法律に明示されたことを踏まえ、内閣総理大臣を本部長とする「障害者施策推進本部」 は平成16年12月1日に本部決定を行い、国民に対して「障害について理解し、日常生活や 事業活動の中で配慮や工夫をすること」を呼びかけたところであり、この呼びかけを実効あ るものにするための方策の検討が課題となっています。
その一環として、今回、「障害者の社会参加に関する特別世論調査」を実施し、現時点に おける国民の全体的な意識状況を把握することとしました。
2.調査の概要
- (1)調査目的
- 障害者の社会参加に関する国民の意識を調査し、今後の施策の参考とする
- (2)調査時期
- 平成17年1月13日から平成17年1月23日
- (3)調査対象
- 全国20歳以上の者3,000人
- 有効回答数:2,047人(68.2%)
- (4)調査項目
- (1)「共生社会」の知名度及び考え方について
- (2)身近に障害のある人がいたことがあるか
- (3)将来自分や家族が障害のある状態になることがあり得ると思うか
- (4)障害のある人の相談相手や手助けをしたことがあるか
- (5)障害のある人の社会参加の機会を広げるためにできること
- (5)調査方法
- 調査員による個別面接調査
- 調査員が以下の説明をした上で質問を実施
障害者基本法では、「障害者」を「身体障害、知的障害又は精神障害があるため、継続 的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」と定義しており、以下の方のうち 継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある者が含まれます。
- ○車いす使用等の肢体不自由のある者
- ○視覚障害や聴覚・言語障害のある者
- ○人工透析や心臓ペースメーカーを使用している腎臓や心臓等の臓器に障害のある者
- ○知的障害のある者
- ○自閉症や学習障害等の発達障害のある者
- ○統合失調症、てんかん、うつ病等
昨年6月には障害者基本法が改正され、「障害を理由とする差別禁止」が法律の基本 的理念として明記されました。これを受けて、政府は、障害のある者の社会参加を広げ るための様々な施策を推進するとともに、広く国民に対して、障害について理解し、障害 のある者の社会参加の機会を広げるために日常生活や事業活動の中で配慮や工夫を することを呼びかけています。
3.調査結果の概要
(1)「共生社会」の周知度及び考え方について
- 質問1:「共生社会」とは、障害の有無等にかかわりなく、国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う社会のことです。あなたは、この「共生社会」という言葉を聞いたことがありますか。また、このような社会のあり方についてどのように考えますか。
- ・聞いたことがあり、賛同できる 40.0%
- ・聞いたことはあるが、賛同できない 2.0%
- ・聞いたことはないが、賛同できる 46.9%
- ・聞いたことはなく、賛同できない 2.5%
- ・わからない 8.5%
- (1)「障害者基本計画」(平成14年12月24日閣議決定)に基づいて策定された「重点施策実施5か年計画」(平成14年12月24日障害者施策推進本部決定)においては、「共生社会」の用語、考え方の周知度を障害者基本計画の計画期間中に「成人国民の50%以上とする」ことを明示しています。
- (2)今回の調査は、「共生社会」の周知度を始めて調査したものですが、「共生社会」という言葉を聞いたことがあり、その考え方にも賛同できるとする人の割合が40%であることが判明しました。
(2)身近に障害のある人がいたことがあるか
- 質問2:これまで、あなたの身近に障害のある人がいたことはありましたか。また、それはどのような場面でしたか。(複数回答)
- ・自分自身又は家族等身近な親族 21.0%
- ・隣近所 20.7%
- ・学校 19.5%
- ・自分の職場 13.3%
- ・仕事関係(自分の職場以外) 8.4%
- ・趣味等の活動 3.5%
- ・その他 2.4%
- ・身近にいたことはない 36.9%
- ・わからない 1.4%
- (1)障害の問題が国民にとってどれだけ身近な問題として受け止められているかについて、障害のある人が身近にいたことがあるかという観点で調査したものです。
- (2)「自分自身又は家族等身近な親族」に障害のある人がいたという回答が約2割あり、障害の問題が決して他人事ではない現実が浮かび上がりました。
- (3)更に、隣近所、学校、職場等を含めたいずれかの場面で自分に身近な存在として障害のある人がいたとする割合は6割(61.7%)に達しており、家族以外でも障害の問題を身近に感じている人が多いことが伺えます。
- (4)なお、身近な存在に感じた場面として「学校」をあげた人の割合は、年齢層の若くなるほど高くなる傾向が顕著に見られました。
20代 | 43.2% |
30代 | 37.5% |
40代 | 27.2% |
50代 | 12.8% |
60代 | 8.1% |
70歳以上 | 3.5% |
(3)将来自分や家族が障害のある状態になることがあり得ると思うか
- 質問3:あなたは、将来において、自分や家族が障害のある状態になることがあり得ると思いますか。それともそうは思いませんか。
- ・十分あり得ると思う 40.7%
- ・ある程度はあり得ると思う 29.2%
- ・どちらともいえない 15.3%
- ・あまりあり得ないと思う 3.9%
- ・ほとんどあり得ないと思う 3.8%
- ・現在自分や家族に障害がある 2.1%
- ・わからない 5.1%
- (1)「将来自分や家族が障害の状態になる可能性」について、「十分あり得る」(40.7%)、「ある程度はあり得る」(29.2%)、「現在自分や家族に障害がある」(2.1%)を合わせて、約7割(72.0%)の人が「あり得る」と考えており、障害の問題が幅広い国民層に身近な問題として理解されていることが明らかとなりました。
- (2)また、障害のある人が身近にいた人ほど、障害の問題を自分自身の問題として考える傾向が強く、場面別には、隣近所より学校や職場といった関係でより顕著な傾向であるため、一緒に学んだり働いたりする中で障害のある人のことをよく知ることによって、障害が自らの問題として理解されることが伺われました。
「あり得る」とする回答 | |
---|---|
身近にいたことがある | 77.8% |
自分自身又は家族等身近な親族 | 80.0% |
学校 | 84.5% |
自分の職場 | 81.6% |
隣近所 | 74.9% |
身近にいたことはない | 57.9% |
(4)障害のある人の相談相手や手助けをしたことがあるか
- 質問4:あなたは、障害のある人の相談相手になったり、手助けをしたことがありましたか。
- ・あった 40.5%
- ・なかった 59.5%
- (1)「相談相手や手助け」の経験があるのは約4割(40.5%)に止まり、6割の人は自ら積極的に対応するには至っていないことが分かりました。
- (2)障害の問題を自分自身の問題として考えている人ほど、相談相手や手助けをしている傾向が強いことから、障害のある人と自然な形で交流できる機会を作り、障害を身近な問題として理解できる状況を作っていくことが、具体的な行動を起こす上でも有効と考えられます。
「あった」とする回答 | |
---|---|
身近にいたことがある | 57.5% |
自分自身又は家族等身近な親族 | 72.5% |
学校 | 59.9% |
自分の職場 | 58.4% |
隣近所 | 51.8% |
身近にいたことはない | 13.5% |
- 更問:「相談や手助けをしたことがなかった」と答えた者(1,217人)の理由(複数回答)
- ・そのような機会がなかったから 85.0%
- ・おせっかいになるような気がしたから 6.3%
- ・障害のある人とのコミュニケーションの方法がわからなかったから 4.7%
- ・専門家や関係者に任せた方がよいと思ったから 4.4%
- ・自分が何を求められているかわからなかったから 4.1%
- ・関わるのが面倒だったから 2.0%
- ・自分にとって負担になると思ったから 1.6%
- ・その他 1.1%
- ・特にない 2.4%
- ・わからない 1.6%
- (1)「機会がなかった」(85.0%)という理由が大半を占めていることから、自然な形で相談相手や手助けができるような機会を作っていくことも課題と考えられます。もっとも、現実には機会はあっても気づかないことも相当あることが予想され、障害のある人がどのような場合にどのような手助けを必要としているか具体的に伝えるなど、個人が「自分にできる手伝い」をしやすい状況を作ることが有効と考えられます。
- (2)一方、現実に機会があっても行動しなかった理由としては、「お節介になるような気がした」(6.3%)、「コミュニケーションの方法が分からない」(4.7%)、「専門家や関係者に任せた方がよい」(4.4%)、「自分が何を求められているか分からなかった」(4.1%)といった理由が挙げられており、普段から障害のある人と自然な形で交流する機会を作り、適切な対応ができるようにしていくことが有効と考えられます
(5)障害のある人の社会参加の機会を広げるためにできること
- 質問5:障害のある人の社会参加の機会を広げるために、あなた自身にできると思われることは何ですか。(複数回答)
- ・困っていそうな場面を見かけたら、一声かけて自分にできる手伝いをする 76.0%
- ・点字ブロックの上に物を置かない等、障害のある人のための施設や設備の利用を妨げないよう注意する 42.0%
- ・仕事や地域活動をする上で、障害のある人のことも考えてみる 31.5%
- ・障害者に関するボランティア活動に参加する 19.1%
- ・簡単な挨拶ができる手話等のコミュニケーション方法を身につける 17.2%
- ・障害疑似体験(アイマスクや車いすを使っての体験)など障害について学ぶ機会があれば、参加してみる 14.4%
- ・その他 1.4%
- ・特にない 4.0%
- ・わからない 3.1%
- (1)4人のうち3人は「困っていそうな場面を見かけたら、一声かけて自分にできる手伝いをする」(76.0%)と回答しており、このような思いを現実の行動に移すためには、無理のない範囲で自分にできることが何かを具体的に理解できるようにすることが課題と考えられます。
- (2)誰でもすぐに実践できそうな「障害のある人のための施設や設備の利用を妨げないよう注意する」(42.0%)が4割程度に止まっている背景には、こうした施設や設備の存在自体が余り認識されていないことも考えられるため、この点も含めた啓発を行うことが課題と考えられます。
- (3)このほか、「障害者に関するボランティア活動への参加」(19.1%)、「手話等のコミュニケーション方法を身につける」(17.2%)、「障害疑似体験に参加する」(14.4%)といった、より積極的な取組への関心のある人に対しては、身近な場所でそのような機会を作ることも課題と考えられます。
4.おわりに
今回の調査結果については、今後の国民への意識啓発の効果的な推進方策等の検討に活用するなど、 様々な場面で基礎的な資料として活用していく予定です。