平成28年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰式(第15回)受賞者概要

内閣総理大臣表彰(2件)
株式会社ジェイ・ティー・アール
(所在:埼玉県戸田市)【厚生労働省推薦】
【概要】
  • 我が国で唯一35年に渡り、点字プリンターの開発、製造から販売まで行っている企業であり、日本国内はもとよりアジア諸国に至る視覚障害者の大切な文字である点字の普及発展のために意欲的に事業を展開している。
  • 全国の点字図書館、視覚障害者情報提供施設、社会福祉協議会などから発行される点字図書を製作する点字プリンタ・プロッタを開発、点字を通じ、視覚障害者が健常者と同等に文字情報を入手することができるよう、また、視覚障害者が健常者と同等の読書環境の整備と情報収集を行いやすい環境整備に力を注いでいる。
  • 量産及び企業努力により、個人でも購入しやすい価格としたため、自宅で点字プリンターを使用することを実現させ、視覚障害者の自立支援や社会参加および就学に貢献している。
  • 点字印刷のみならずグラフィックも表現できる点図印刷機能も備えたプリンターを製品化している。
【特に顕著な功績・功労】
  • 全国の点字図書館、視覚障害者情報提供施設、社会福祉協議会などから発行される点字図書を製作するため、静音性に優れ、印刷速度が速い点字プリンタ・プロッタの開発生産し、視覚障害者のQOL向上に多大な貢献をしている。
  • 中途失明者が点字を覚える為、通常よりもドットと一文字が大きい点字(L点字)の開発要望を受け、新しい機種を開発。これにより、点字習得をあきらめていた中途失明者が手軽に点字を活用できるようになり、大きな貢献をした。
  • 地域の小学校の総合学習の点字学習や社会科実習を積極的に受け入れ、地域の子供達の育成や点字を啓蒙する活動に貢献している。
  • グラフィック表現点図印刷機能により、アニメーションの主人公を点図で表現し、視覚障がいを持つ子どもが、健常な子どもと同じテーブルで同じ本を同じように読み、同じように笑うことができるようにし、視覚障がいを持つ子どもに大きな喜びを与えている。
  • 点訳ボランティア養成の一環として、点字プリンターを動作させるうえにおいて必要不可欠な点訳ソフトの無料操作方法の講習会を開催し、より多くの人々に視覚障害者のためのボランティアとして活動してもらうための活動を行っている。
  • 製品から出力された点字の点の丸みは、海外からも高い評価を受けており、読みやすい点字の海外視覚障害者への普及を図り、日本のみならず海外においても視覚障害者のQOL向上に貢献している。
株式会社静岡新聞社・静岡放送株式会社 メディア・ユニバーサルデザインプロジェクトチーム
(所在:静岡県静岡市)【静岡県推薦】
【概要】
  • 静岡県におけるマスメディアの中核を担っている企業である。社員がカラーユニバーサルデザインの研修に参加し、従来から行っていた情報発信が、色覚障がい者の特性などを理解しておらず、一部の人には伝わりにくいものになっている可能性が高いことに気づき、メディア展開におけるユニバーサルデザインを進めることとした。
  • ユニバーサルデザインの導入に当たっては、NPO法人メディア・ユニバーサル・デザイン(MUD)協会の監修などを受けながら、色覚障がい者だけでなく、国内初の取り組みとして、白内障などで見えにくさを感じている高齢者も視野に入れた配慮を行った。また、新聞、放送共同でプロジェクトチームを発足させ、グループ全体で使用するMUDガイドブックを作成したほか、社内にMUD教育検定の資格取得者を配置し、常時メディアとしての適正な表現についてチェックが行えるようにしている。グループ会社を含めたガイドブック活用の研修も実施している。また、新聞紙面に新聞UDフォントを導入し、高齢者にも読みやすい新聞紙面の取組も進めている。
  • 平成28年3月、静岡県立静岡文化芸術大学デザイン学科の小浜朋子准教授(工学博士)とメディア・ユニバーサル・デザイン協会による「後期高齢者参加型高齢社会のQOL向上に向けた調査」を実施し、新聞UDフォントを導入した静岡新聞のテレビラジオ欄は、調査対象主要5紙と比較し一番読みやすいという評価を得た。また、静岡新聞はより明るい光源下、より暗い光源下の両条件においても他紙よりも読みやすいという結果が確認された。
【特に顕著な功績・功労】
  • 色覚障がい者は男性の20名に1人の割合で存在、白内障などで色の識別が困難になっている高齢者は色覚障がい者の10倍は存在するとも言われている中、高齢者と色覚障がい者が共通して理解できる配色は一般的にはまだ知られておらず、従来発信している方法では、色覚障がい者や高齢者に情報が伝わらないという問題意識から、全ての人に優しい情報発信を可能にするため、メディア側による色覚障がい者や高齢者などの色認識の特性を理解することが必要と考え、静岡新聞社・静岡放送の主要組織からスタッフを集めて「メディア・ユニバーサルデザイン(MUD)プロジェクトチーム」を編成し、「MUDガイドブック「制作視点」~色覚タイプの異なる人と高齢者に優しいメディアを目指して~」をNPO法人メディア・ユニバーサル・デザイン協会の監修(NPO法人メディア・ユニバーサル・デザイン協会から得た色相環をベースにした色覚障がい者と高齢者が共通して理解できる独自のノウハウをガイドブックに導入)により制作した。
  • 使用可能な色と不可である色などのカラーユニバーサルデザインに関する項目をリストアップし、新聞読者やテレビ視聴者に理解しやすい配色を行うなどのカラーユニバーサルデザイン対応を実施した。
  • 新聞紙面に「新聞UDフォント」を導入し、多くの人がより見やすい紙面作成を行った。(静岡新聞、伊豆新聞及びハワイ報知(アメリカ合衆国ハワイ州)(※伊豆新聞・ハワイ報知は、静岡新聞グループ会社))
  • 新聞・放送で問題があった可能性のある記事やフリップなどを過去10年間に遡りリストアップし、その改善例を具体的に記載することでメディア・ユニバーサルデザインに配慮する側にも理解しやすく、実践に移しやすいガイドブックになるよう制作面でも工夫した。
  • ユニバーサルデザイン導入後、新聞・放送両現場において、色弱者、高齢者への表現に対する意識が変わり、「全ての人にわかる」「誰にもわかる」ということはメディアの役割という理解が進むとともに、それに基づいた具体的取り組みが実施されており、徐々に他メディアにも広がりつつある。それ程遠くない将来、全てのメディアでユニバーサルデザイン化が進むことが期待される。
内閣府特命担当大臣表彰優良賞(2件)
有限会社さいとう工房(さいとうこうぼう)
(所在:東京都墨田区)【東京都推薦】
【概要】
  • 誰もが入手しやすい市販機で、オーダーメイドに近い多機能電動車いすを作ることを目指し、6年の歳月をかけて多機能選択型電動車いす「レル・シリーズ」を開発した。
  • 「レル・シリーズ」は、まだ日本で普及していない(※)6輪型を採用し、直径96㎝での小さな旋回や大幅な軽量化を実現し、屋内外での傾斜がある場所においても同社開発の独自機構(平成25年4月特許取得)により、安心・安全を利用者に提供する段差越え機能を備える。また、座面の奥行、幅、高さ、座角を機械操作で簡単に調整できるようにし、寝ることを可能にしたティルト・リクライニング機能、食事や洗面時に必要な適度な姿勢をつくりだす座角変換機能等も備えている。

 (※) 補装具費の支給制度を利用する際の額の算定基準に関係するJISの規格において、電動車いすが「前2輪、後2輪の四輪で構成したもの」と定義されていることが原因の1つであると考えられる。社長は、JIS開発委員会及びその分科会の委員の一人として、平成28年度末までの改正JIS原案の作成にも尽力。

【特に顕著な功績・功労】
  • 「レル・シリーズ」は、既存の大型となる多機能電動車いすと比べ、非常にコンパクトに作動し、また、日本の住環境や生活様式から考えられた様々な機能を備えており、利用者に配慮した電動車いすとなっている。また、利用者の活動範囲が広がったたけでなく、就労にもつながったなど、障がい者の社会参加にも貢献している。
  • 販売台数を増やせなくても、ユーザーの体や障がいの特性に合わせて微調整・フィッティングを繰り返しながら作製している。
  • 日本で不要になった電動車いすを発展途上国へ提供するとともに、現地での技術指導や、海外からの研修生の受け入れを行う事業(NPO「さくら・車いすプロジェクト」)を立ち上げるなど、海外での多機能電動車いす普及にも貢献している。
  • 障がい者・高齢者と健常者の境のないユニバーサルデザインの実現に向けて取り組みを強く推進しており、その姿勢は特筆に価する。同社は、電動車で障がい者・高齢者が、自分らしく自立した生活を送ってもらうためのきっかけになればとの思いを込めて製作・開発などに当たっており、2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会を契機とした就労支援型電動車いすの開発を目指している。
なにわ一水(なにわいっすい)
(所在:島根県松江市)【島根県推薦】
【概要】
  • 障がいのある人や高齢者が家族と一緒に旅行に出かけ、家族全員で旅行の楽しみを共有できる環境づくりが必要と考え、ユニバーサルツーリズムと福祉介護が共存し、すべての人に非日常を楽しんでもらえる旅館を目指し、施設改修やサービスの充実に取り組んでいる。施設の概要:5階建、客室全25室
  • 障がい者のサポート方法や施設整備について、障がい者の社会参画支援を行っているNPO法人プロジェクトゆうあい(バリアフリーマップの製作、宿泊施設へのバリアフリー研修などの実施について、平成20年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者内閣府特命担当大臣表彰(奨励賞)を受賞)から意見を得ながら施設及び心のバリアフリー化を進めている。
【特に顕著な功績・功労】

1 社員がサービス介助士などの資格を自発的に取得しスキルアップできる社内環境を作っている。
2 利用者アンケートの内容を社員全員が共有し、社員一人ひとりが利用者のサポート方法を考え、より利用者の意に沿った対応に取り組んでいる。
3 車椅子利用者を中心としたものが多いが、視覚障害者や聴覚障害者への配慮もあり、その配慮方法に工夫がみられる。
 (1) 筆談ボードの配置
 (2) 専用PHSの配置(呼び出し、緊急連絡用)
 (3) 音声情報機器の配置
 (4) 点字ボードの配置、配布
 (5) 障がいを持つお客に対応した「避難マニュアル」の作成、避難訓練の実施
 (6) 障がい者、高齢者やアレルギー体質者に配慮した食事の提供
 (7) 車椅子利用者の利便性を考慮した設計(トイレ、洗面所、風呂場、廊下)
 (8) 送迎用にリフト付きバスを導入
4 「あいサポート」運動の精神をよく理解し積極的に利用し、従業員の研修を積極的に推奨している。旅館業は一般に設備などのハード面の改良によってバリアフリーを強調することが多いが、コミュニケーションなどのソフト面をよく研究されており、情報バリアフリーを積極的に取り入れている。
5 高齢の従業員への配慮も工夫しており、働きやすい環境を整備している。  以上のように、宿泊施設のバリアフリー・ユニバーサルデザイン対策としては突出しており、他の模範として多くの宿泊施設の目指すものと考えられるとともに、今後の事業展開に大いに期待できる。

内閣府特命担当大臣奨励賞(2件)
ヤマハ株式会社新規事業開発部 SoundUDグループ(サウンドユーディーグループ)
(所在:東京都港区)【総務省、京都府推薦】
【概要】
  • 空港、交通機関、ショッピングなどで流れるアナウンスや観光地のガイダンス、非常放送、災害放送など、街中では様々な音情報が流れているが、聴覚障がい者や耳が遠い高齢者、日本語がわからない外国人は、内容を理解できず不自由を強いられることが多い。 開発した「おもてなしガイド」は、世界初の「音のユニバーサルデザイン化」をコンセプトとして、ヤマハの音響通信技術と国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の高精度音声認識技術を活用して実現したシステムであり、インターネット回線を必要とせず、既存の放送設備も活用でき、災害に強いことも特徴である。
  • この「おもてなしガイド」は、日本語アナウンスの内容が、ユーザー各自のわかる言語文字として、瞬時に各々のスマホなどに表示することができるもので、特に、訪日外国人には通訳者を、聴覚障がい者には手話通訳を介することなくアナウンスなどの内容を伝えることができ、バリアフリー化に極めて有用なものである。
【特に顕著な功績・功労】
  • 「大坂の陣400年天下一祭冬の陣」、「ミラノ万博日本館」など、国内外でのイベントでの公式採用のほか、国内の主要空港・交通事業者・商業施設・観光地など、既に全国34社でも「おもてなしガイド」を用いた展開が進んでいる。また、平成28年5月には、京都府・京都市で初の地域連携プロジェクトを立ち上げ、音のユニバーサルデザイン、バリアフリーのインフラ化に向けて、点から面での展開がなされている。
  • 「おもてなしガイド」は、どこの施設にもある一般的なスピーカーや映像ディスプレイから送信でき、ユーザーはスマートフォンやタブレットに表示できるもので、特殊な送受信機材を必要とせず、また、インターネット環境のない場所や災害時でも使用できることから、特に訪日外国人や聴覚障がい者などに対するバリアフリー化が顕著で、多大な功績がある。
座間キャラバン隊(ざまきゃらばんたい)
(所在:神奈川県座間市)【神奈川県推薦】
【概要】
  • ダウン症の妹を持つ小学校6年生の男児が、自閉症の児童の不思議な行動を馬鹿にする同級生に対して、自閉症についてどう説明したら良いのかと母親に問いかけてきたことを受け、その母親が学校の先生に相談し、障がいのある児童について説明する時間を持つこととなった。その際、仲間たちへ持ち掛け、アイデアを出し合い、台本、カード、グッズなどを作り、地域の小学校で障がいのある児童を理解するための公演をしたことがきっかけとなり、平成13年に「座間市手をつなぐ育成会地域啓発キャラバン隊」を結成した。
  • 平成14年に公演活動が全国的に知れ渡り、冊子・ビデオの作成、ビデオレンタルなどで活動内容を広範囲に広め、平成20年には、座間市手をつなぐ育成会から独立した。平成15年以降、現在まで300回近い公演を行い2万人以上が公演活動を観賞しているほか、雑誌、テレビ、ラジオにも多数取り上げられ、自閉症支援実践賞「いとしご賞」などの賞を受賞するなどにより、類似の活動の全国へ広がり、障がい児童への理解促進において多大な功績がある。
【特に顕著な功績・功労】

公演を観賞した児童などに、

  • 障がい児童の困り感に気付く。
  • 障がい児童の気持ちを理解し、想像して、されたら嫌な行動を考えるようになる。
  • 障がい児童と接したいという気持ちをもつようになる。
  • 障がい児童の頑張りにも気付くようになる。
  • 障がい児童に限らず、支援を必要とする子との距離感が縮まる。
  • 支援学級へ遊びに行く児童が増え、偏見について考えるようになる。
  • お互いの子どもの障がいへの理解が深まった。
  • 様々な障がいのある人に対する心の目が変わった。
  • 障がい者へどう対応すればいいかということに興味を持つようになった。
  • 相互理解の必要性を感じるようになった。
などの変化が芽生え、障がい児童への理解の輪が広がった。