バリアフリー化推進要綱~ 誰もが社会の担い手として役割を持つ国づくりを目指して ~

I 基本的考え方

1.基本認識

(1) 21世紀を迎えた我が国は、急速な少子高齢化の進展などさまざまな社会経済情勢の変化に直面しており、今後も人口の減少をはじめとする多くの課題に対処していかなければならない。

 このような中にあって、我が国において活力と魅力に満ちた国づくりを進めるためには、国民一人ひとりが社会の活動に参加・参画し、社会の担い手として役割と責任を果たしつつ、自信と誇りと喜びを持って生活を送ることができるような社会を目指していくことが求められており、今後このような理念を踏まえた取組みを以下のように推進していく必要がある。

(2) 人の能力や個性は一人ひとり異なっており、これらの属性がすべて同じ人は存在しないと言っても過言ではない。また、このような人の属性については、年齢や環境等による影響を受けるものであり、同じ人であっても状況によって刻々と変化していくものである。

 このため、さまざまな政策の遂行に当たっては、このような人の能力や個性における多様性を認識しながら個別の施策に取り組んでいくことが基本である。

(3) 一方、我が国では、急速に人口構造が高齢化し、10年後には国民の約4分の1が65歳以上となることが推計されるなど本格的な高齢社会が到来しつつあり、このような時代の変革に的確に対応した社会経済システムを構築していくことが喫緊の課題となっている。

 また、成熟期を迎えた我が国が豊かで活力に満ちた社会を築いていく上において、いわゆる「共生社会」の実現が求められている。

 このため、年齢や障害の有無等にかかわらず国民誰もが社会に参加するとともに、余暇活動等を通じて心の豊かさや生きがいを感じることができる環境を形成していく必要がある。

(4) 以上のような認識を踏まえ、このバリアフリー化推進要綱(以下「要綱」という。)においては、関係府省が一体となって、ハード・ソフト両面にわたる社会のバリアフリー化のための施策を強力に推進するものとする。

(5) なお、このような取組みは、あらかじめ年齢や障害の有無等にかかわらず多様な人々が利用しやすいように製品、都市、生活環境等をデザインするという「ユニバーサルデザイン」と考え方を同じくするものであり、国民誰もが社会に参加・参画し、社会の担い手として役割と責任を果たすといった要綱の理念を基本としつつ、その視点や考え方を発展させていくこととしている。

2.バリアフリー化の推進状況

(1) 社会のバリアフリー化の推進については、高齢社会対策大綱(平成13年12月)、障害者基本計画(平成14年12月)等の政府全体としての計画等においてその必要性が明らかにされており、既存のさまざまな関連施策と一体となって関係府省等における取組みが進められている。

(2) 平成12年3月には「バリアフリーに関する関係閣僚会議」(以下「関係閣僚会議」という。)が設置され、関係府省が一体となってバリアフリー化を推進する体制が整備されるとともに、同会議により平成13年11月にはバリアフリー化推進功労者に対する表彰制度が新たに創設されたところである。

(3) また、関係府省においては、「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(以下「ハートビル法」という。)、「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(以下「交通バリアフリー法」という。)の制定・改正をはじめ、生活環境、教育・文化、雇用・就業、情報・製品等さまざまな政策分野においてバリアフリー化への取組みが行われてきているところであり、社会のバリアフリー化に向けた環境整備が逐次進捗しつつあると言うことができる。

(4) しかしながら、改めて我が国の現状を見ると、社会のバリアフリー化が未だ十分なレベルに達しているとは言い難いところであり、「1.基本認識」において示した認識の下、より一層のバリアフリー化の推進に努めなければならない。

 このような状況を踏まえると、今後、関係府省が地方自治体、民間団体等の関係者と一体となってバリアフリー化への取組みをこれまで以上に確実かつ効果的に推進していくことが急務であり、その一環として社会のバリアフリー化の推進に向けた政府としての方針等を要綱としてとりまとめることが有効かつ必要であると考えられる。

3.今後の基本的取組み

(1) 要綱は、以上のような認識に立ち策定することとしたものであり、今後は、関係閣僚会議を活用しつつ関係府省が一体となってその推進に取り組むこととする。

(2) 社会のバリアフリー化について、国民は、「2.バリアフリー化の推進状況」において述べたような状況下にあって、その取組みが進捗しつつあることを確実に、そして身近に感じ始めている。

 今後は、さらにバリアフリー化の推進に係る実績を着実に積み重ねることにより、概ね10年後を目処として、高齢者、障害者をはじめ誰もが社会の担い手として役割を持つ国づくりを目指すこととする。

(3) また、社会のバリアフリー化の推進に当たっては、その実効性をできる限り大きく、できる限り早く確保する観点から、以下のような視点に立って取り組むものとする。

 1) 利用者のニーズを踏まえた施策の展開

 バリアフリー施策の実施による効果を最大限発揮させるためには、当該施策の目的や内容について、国民誰もが社会に参加・参画し社会の担い手として役割と責任を果たすことができるよう、できる限りその地域で生活する利用者のニーズに対応したものとする必要がある。

 また、行政サイドだけの一方的視点のみでは、バリアフリー化の推進に必要な要素が抜け落ちる蓋然性も否定できない。

 したがって、バリアフリー化の推進に当たっては、利用者として想定される地域の関係者や専門家からの評価や意見を積極的に把握するなど、住民参加や当事者参加を進めることが必要である。

 また、各種公共施設等の整備に当たっては、バリアフリー化を基本として計画を進めるとともに、対象地域や時期等に関し投資効果等を考慮しつつ重点的かつ効果的に取り組んでいくものとする。

 さらに、既存の施策についても、利用者のニーズや情勢の変化等に的確に対応したものとなっているかどうかについて、常にチェックすることが必要である。

 2) ハード施策とソフト施策の総合的推進

 バリアフリー化の推進のためには、施設等の整備だけでは十分でなく、さまざまな状態の利用者を想定すると、高齢者、障害者等も含めた利用者の相互理解と、当該施設等の関係者を含めた地域全体としてのサポートが必要な場合も多い。

 特に、費用面や物理面の問題から直ちに必要な場所に必要な施設がすべて整うとは限らないこと、施設整備の進捗に伴い年々ストックが積み上がるハード施策と継続的な取組みが望まれるソフト施策では本質的に性格が異なることなどを考えると、ハード面の施策に加えて人材育成や啓蒙活動等ソフト面の施策を有機的に組み合わせつつ、総合的に施策を展開していくことが必要である。

 3) 関係府省等における政策間連携・調整の推進

 バリアフリー施策は、関係府省がそれぞれの政策分野において実施してきており、当該府省の中においても複数の部局にまたがる場合が多いほか、観光振興をはじめ他の横断的重要政策との関連も深い。

 また、政府以外でも、地方自治体や民間団体等多くの関係者がバリアフリー化の推進に向けて活動している状況にある。

 さらに、障害者等が移動する場合においてはその出発地から目的地に至る動線上に存する複数の施設・空間や車両等が連続的にバリアフリー化されることにより初めて円滑な移動が可能となる、といった例からもわかるように、複数の施策ないしは複数の政策分野が共同歩調を取ることが望まれる場合が多い。

 したがって、バリアフリー化の推進を担う関係者が自らのバリアフリー施策と関連を有する分野やその政策に常に目を配り、これまで以上に利用者の視点に立った政策展開を図るという観点から、内閣府をはじめ関係府省等の関係者間において積極的な連携・調整を確保するよう努めることが必要である。

 4) 官民を通じた社会全体での取組みの推進

 バリアフリー化の推進は多くの政策分野に関連するため、バリアフリー施策の中には、バリアフリー化を主たる目的とするものだけではなく、他の政策目的の達成に合わせバリアフリー化の推進をその施策の柱の一つとして実施するものも多い。

 また、社会全体を見渡すと、行政による規制・指導や支援等が及びにくい施設や分野も存するところであり、行政だけによる対応には自ずと一定の限界があると言わざるを得ない。

 したがって、行政関係者においては、さまざまな施策の実施に当たり常にバリアフリー化の推進に配慮するとともに、地域・民間団体・家庭・国民一人ひとりの参加意識を醸成し、社会全体でバリアフリー化の推進に取り組んでいくことが必要である。

 5) 国民への積極的な情報提供・情報公開

 バリアフリー化の推進がどのようになされ、その結果各地域でどのような環境が実現したのか、さらには今後どのような施策が実施されていくのか、等については、高齢者、障害者のみならず広く国民が関心を寄せる事項であると考えられる。

 また、バリアフリー化された施設やサービスを利用しようとする国民からの視点に立つと、必要なときに、いつでも容易に適切な情報を入手できるようにすることがその利便性の向上につながると考えられる。

 したがって、バリアフリー施策の実施はもとより、国民に対し関連情報をわかりやすく利用可能な形で整理・加工し、積極的に提供・公開していくことが必要である。

(4) なお、社会のバリアフリー化は短期間で達成されるものではなく、その実現に向けては中長期的な視点からの粘り強い取組みが不可欠である。

 また、バリアフリー化推進のための方針や施策に関しては、その実施状況、社会経済情勢等に応じて内容等の大きな修正が必要となる場合がある。

 このため、要綱については、今後、その実施状況等をフォローアップするとともに、必要に応じて見直しを行うものとする。


II 分野別の基本的取組み

 社会のバリアフリー化の推進に当たっては、以上のような基本的考え方に則り、分野別には以下の取組みをその基本的方向とする。

1.生活環境

1.-1 バリアフリー化された生活環境の形成

 高齢者、障害者等全ての人々が日常生活や社会参加を行う上で、建築物、交通機関、歩行空間等の生活基盤について、バリアフリー化された環境を形成することが必要であり、バリアフリー化されたまちづくり(ハード面)とこれを利用しやすい状況づくり(ソフト面)の双方を進めていくことが重要である。

 (1)総合的な環境整備

 生活環境のバリアフリー化については、関係条例等により地域の取組みが進められているが、これをより効果的に進めていくためには、地域自ら目標を掲げて創意工夫をこらしながらその特性に応じたバリアフリー化に取り組むことが重要であり、これに向けて個別の施設等の整備だけではなく計画的、横断的な取組みを支援していくことが必要である。

 このため、バリアフリー化の面的な実施に向けて、交通バリアフリー法に基づき市町村が策定する基本構想(鉄道駅等の旅客施設を中心とした地区における旅客施設、道路、駅前広場等の重点的かつ一体的なバリアフリー化のための基本的な構想)について、交通バリアフリープロモーターの派遣、専門家のノウハウ活用、当該基本構想等の策定状況の調査・公表等を通じて策定を促進するとともに、事業計画の策定や事業の実施を積極的に支援し、計画的なまちのバリアフリー化を進める。

 加えて、重点整備地区内の建築物も含めた一体的なバリアフリー対応について基本構想策定の際に配慮されるよう、交通バリアフリー法に基づく基本方針を改正しその旨を明確化することにより、総合的なまちのバリアフリー化を推進する。

 また、各地方公共団体におけるバリアフリー環境の整備状況に関する現状を総合的に指標化したバリアフリー指標のとりまとめ及び公表を行うとともに、各地域における駅、歩行空間、建築物、公園等のバリアフリー化に係る先進的事例に関する情報を提供する。

 さらに、市町村が主体となって行う障害者等の点検・調査を踏まえたまちづくりに関する基本計画の策定、まちのバリアフリー化情報の提供、同計画に基づく公共施設(病院、市町村庁舎等)のバリアフリー化等の一体的な取組みを推進する。

 なお、都市再生等のプロジェクトの計画に際しても、バリアフリー化された生活環境の実現に配慮することが必要である。

(単位:ヶ所)
項目実績値
交通バリアフリー法に基づく基本構想15年度:6515年度末累計:127
バリアフリーのまちづくり基本計画(※)15年度:1515年度末累計:59

※ 厚生労働省の補助に係る計画

 (2)住宅・建築物

1) 官公庁施設
(施設)

 多数の人々が利用する官公庁施設については、その公共性等にかんがみ、円滑な利用が確保されるよう積極的に施設のバリアフリー化を進める必要がある。

 このため、ハートビル法に基づき官公庁施設のバリアフリー化を進めることとし、国の施設の新築に当たってはスロープ、エレベーター、視覚障害者誘導用ブロックの整備等のバリアフリー化を行う。特に、窓口業務を行う施設については、事務室の自動ドア化、多機能トイレ等の設置を含めた高度なバリアフリー化を推進する。既存施設については、順次改修が行われつつあるが、引き続きバリアフリー化を進める。

(単位:ヶ所)
項目整備対象数実績値整備目標
窓口業務を行う官署が入居する
国土交通省所管の既存官庁施設
(高度なバリアフリー化)
15年度末:1,500 15年度:84
15年度末累計:933
22年度末:1,500
法務局庁舎(登記特別会計)(※) 15年度末: 67 15年度:5
15年度末累計:31
 - 

※ 登記特別会計により整備されるためその上段とは別掲したもの

(サービス)

 官公庁施設のバリアフリー化のためには、施設面だけでなく、サービス面についての取組みも重要である。

 このため、障害者等が容易に行政情報等を入手できるよう、各府省等のホームページや刊行物のバリアフリー化(音声による読み上げ機能への対応等)等を進める。

 また、窓口業務を行う施設においては、職員に対する啓発を行うなど、バリアフリー化の観点からサービスの向上を進める。

2) 住宅

 高齢者、障害者等全ての人々にとって、住宅は、そこで過ごす時間が長いことともあいまって生活の拠点であり、生涯を通じて安定とゆとりある住生活を実現できるようバリアフリー化が必要である。

 このため、高齢者等に配慮した仕様の標準化、既設住宅の改善により公共賃貸住宅のバリアフリー化を進めるとともに、高齢者向け優良賃貸住宅の供給の促進、バリアフリー化された持家の取得、バリアフリーリフォームへの支援、高齢者が居住する住宅の設計に係る指針の普及等により民間住宅のバリアフリー化を推進する。

項目整備対象数実績値整備目標
住宅のバリアフリー化(※) 全住宅ストック(居住世帯のある住宅)
約4,392万戸(10年度)
10年度:約3% 19年度:約1割
27年度:2割

※手すり(2ヵ所以上)、段差のない室内、車いすで通行可能な幅の廊下の3点を備えた住宅

3) 建築物(官公庁施設を除く。)

 多様な人々が利用する建築物は、高齢者、障害者等全ての人々が日常生活や社会参加を行う上で重要な基盤となる。

 このため、ハートビル法に基づき定めた利用円滑化基準による建築物のバリアフリー化の義務づけ(出入り口等の幅員確保、スロープ、エレベーター、障害者用トイレの整備等)等を行い、車いす使用者、視覚障害者を含めた高齢者、障害者等が建物の出入口や駐車場から目的の場所までの移動や当該建物内での活動を円滑に行うことができる状況を確保する。

 また、同法に基づく利用円滑化誘導基準を満たす建築物の認定及びこれに対する支援を行い、よりバリアフリー化された建築物の導入を促進する。さらに、設計者等向けの技術的なガイドラインの普及を図る。

 なお、自動回転ドアの安全性確保等の取扱いについては、バリアフリー化推進の観点も含めて早期に検討を進め、適切に対応する。

項目実績値整備目標
不特定多数の者等が利用する建築物(※)のバリアフリー化 14年度末:約3割 19年度末:約4割
利用円滑化誘導基準に対する認定 14年度:280ヶ所
14年度末累計:2,272ヶ所
 - 

※ 病院、劇場、ホテル等不特定かつ多数の者が利用し、又は主として高齢者、身体障害者等が利用する建築物

 (3)公共交通機関

1) 旅客施設

 高齢者、障害者等全ての人々が日常生活や社会参加を送る上で、さまざまな場所や施設等との間の移動が不可欠であり、公共交通機関を円滑、安全に利用できるようにすることが必要である。

 このため、交通バリアフリー法に基づき、旅客施設(鉄軌道駅、バスターミナル、旅客船ターミナル、航空旅客ターミナル)の新設等に際し、移動円滑化基準への適合の義務づけ(エレベーター設置等による段差解消、視覚障害者誘導用ブロック等の案内施設整備、障害者用トイレの設置等)を行うとともに、既存施設についても同基準適合に努めるよう義務づけを行っているところである。これにより、平成22年までに主要な旅客施設のバリアフリー化を実施するなど、車いす使用者や視聴覚障害者を含めた高齢者、障害者等が乗車券を購入し、出入口から車両等に乗り込み、降りるまでの移動を円滑に行うことができる状況を確保する。

 これに向け、旅客施設のバリアフリー化への支援を行うとともに、NPO等との連携による鉄道駅バリアフリー施設等の情報提供の拡充、旅客施設のバリアフリー化状況のとりまとめ・公表を引き続き実施するとともに、障害者等による点検・調査と関係者による対策実施等を進める。さらに、旅客施設として望ましい技術的な仕様を定めたガイドラインの普及を進める。

(単位:ヶ所)
項目整備対象数実績値整備目標
旅客施設(※) 14年度末現在:2,815 14年度:172 14年度末累計:1,109(39.4%) 22年末累計:100%
  鉄軌道駅 2,739 166 1,068(39.0%)  
バスターミナル 45 2 32(71.1%)  
旅客船ターミナル 9 2 5(55.6%)  
航空旅客ターミナル 22 2 4(18.2%)  

※ 1日当たりの平均的利用者数が5,000人以上の旅客施設

2) 車両等

 公共交通機関の車両等については、交通バリアフリー法に基づき、新規導入時にバリアフリー化の義務づけ(車いすスペースの確保、低床バスの導入、障害者用トイレの設置等)を行うとともに、既存車両等についても同基準適合に努めるよう義務づけており、平成22年までに鉄道車両の約30%の移動円滑化、バス車両の20%~25%のノンステップ化等を実施する。

 これに向け、車両等のバリアフリー化の支援を行うとともに、車両等のバリアフリー化状況のとりまとめ・公表を引き続き実施する。

 また、ノンステップバスについては、ユニバーサルデザインによる高齢者、障害者等を含むバス利用者の高い利便性の確保及び製造コストの低減を図るため、平成15年度に創設した標準仕様ノンステップバス認定制度による認定を受けたバスに対し平成16年度から重点的に補助を行うとともに、乗降時における円滑性向上や利便性向上を図るため、その運行に係る関係者との連携や運行情報の提供を促進する。

 これに合わせて、車両等のバリアフリー化だけでなく、運行情報提供システムの整備、ICカード乗車券の共通化等ソフト面の取組みも促進する。

 また、高齢者、障害者等が活動する上で移動手段の確保が重要であり、地域の鉄道・バス輸送の維持・活性化を図るとともに、これらの公共交通機関では十分対応しきれない高齢者、障害者等からの個別ニーズに応じたSTS(スペシャル・トランスポート・サービス)の充実を図るため、平成16年度から規制を緩和し、NPO等による高齢者等の有償運送の全国的な実施を図るとともに、高齢者等を対象とするいわゆる福祉タクシーの導入を促進する。

項目 整備対象数
14年度末現在
実績値
14年度
実績値
14年度末累計
整備目標
鉄軌道車両 51,136両 2,357両 9,922両(19.4%) 22年末:30%
バス 58,424台      
  低床バス   2,990台 8,095台(13.9%) 27年末:100%
(うちノンステップバス)   1,541台 3,835台(6.6%) 22年末:20-25%
旅客船 1,116隻 21隻 23隻(2.1%) 22年末:50%
航空機 465機 57機 114機(24.5%) 22年末:40%

3) 人的支援

 高齢者、障害者等が公共交通機関を円滑、安全に利用できるようにするためには、旅客施設や車両等のバリアフリー化に合わせ、各種施設、事業の関係者をはじめ周りの誰もが高齢者、障害者等に対し自然に快くサポートできる環境づくりが必要である。

 このため、高齢者、障害者等の介助体験、疑似体験等を内容とする交通バリアフリー教室について、学校教育との連携を図るとともに、その内容の交通分野以外への拡充や小中学生向けのバリアフリー情報の提供を進める。

 また、鉄道駅及びその周辺において高齢者、障害者等の移動をサポートするバリアフリーボランティア等の取組みを支援するとともに、バリアフリーに係る交通事業関係者の人材育成を促進する。

項目実績値
交通バリアフリー教室の開催(※) 15年度:60ヶ所 15年度末累計:100ヶ所(13年度~)

※ 国土交通省の主催によるもの

 (4)公共施設

1) 歩行空間

 高齢者、障害者等全ての人々がまちを円滑、安全に移動するためには、鉄道駅や建築物等の各種施設単体だけではなく、全体として歩行しやすい環境となるようこれらの間を結ぶ歩行空間がバリアフリー化されていることが必要である。

 このため、より円滑で安全な移動の確保に向けて、市街地の鉄道駅、商店街、病院等に係る主要ルートにおいて、幅の広い歩道の整備、歩道の段差解消、視覚障害者誘導用ブロック等の案内施設整備、音響信号機(歩行者用信号が青になったことを鳥の声等の音で知らせる信号機)や高齢者等感応信号機(押しボタン等の操作により歩行者用信号の青時間が延長される信号機)の設置等を行うとともに、エレベーター等の設置や建築物との直結化がなされた立体横断施設や交通広場等の整備を図るなど、歩行空間のバリアフリー化を進める。特に、主要な鉄道駅等旅客施設を中心とした地区については、交通バリアフリー法に基づき積極的に取り組み、車いす使用者や視覚障害者を含めた高齢者、障害者等が鉄道駅等の周辺から官公庁施設、福祉施設等に至る通路等における移動を円滑に行うことができる状況を確保する。

項目実績値整備目標
旅客施設(※)の周辺等の主な道路のバリアフリー化 15年度末累計:21% 22年末:100%
旅客施設(※)の周辺等の主な信号機のバリアフリー化 14年度末累計:約4割 22年末:100%

※ 1日当たりの平均的利用者数が5,000人以上の旅客施設

 また、歩行者及び自転車利用者の安全で快適な通行を確保するため緊急に対策が必要な住居系地区又は商業系地区をあんしん歩行エリアとして指定し、都道府県公安委員会と道路管理者が連携して面的かつ総合的な死傷事故抑止対策を講じるほか、踏切事故の防止及び交通の円滑化を図るため、踏切道の立体交差化等を重点的に促進するとともに、歩行者等の踏切横断の安全確保と円滑化のための踏切道の構造改良等に取り組む。

項目成果目標
あんしん歩行エリアの整備
(約1,000ヶ所)
平成19年度までに、エリア内の死傷事故を約2割抑止(歩行者・自転車事故は約3割抑止)

2) 都市公園

 都市公園は、高齢者、障害者等全ての人々が、緑豊かで安全、快適な生活環境の中で様々な体験活動を行う場である。

 このため、園路、トイレ等都市公園における施設のバリアフリー化を進めるとともに、健康づくりや機能回復等の活動ができるよう公園整備を行う。

3) 水辺・海辺空間

 河川、海岸等の水辺・海辺空間は、高齢者、障害者等全ての人々が憩い交流する身近な自然空間としての機能を有している。

 このため、治水対策として堤防等を整備するに際し、水辺にアプローチしやすいスロープや手すり、緩傾斜堤防等の親水空間を近隣に病院や福祉施設等が立地する地区を中心に整備する。また、海岸についても、海辺へアクセスしやすいバリアフリー化に配慮した海岸保全施設の整備を行う。

 (5)農山漁村

 農山漁村は農林水産業の基盤であるだけでなく、国土・自然環境の保全、良好な景観形成等の機能を有しているが、高齢化が急速に進展しており、その生活環境の整備が必要である。

 このため、集落道等における幅の広い歩道の整備及び段差解消、農業施設のバリアフリー化、バリアフリーに配慮したフォレスト・アメニティ施設(公園、障害者用トイレ、キャンプ場等)の整備等を進める。

項目実績値
フォレスト・アメニティ施設(※) 15年度:15地区 15年度末累計:26地区(14年度~)

※ 農林水産省の補助に係る施設

 (6)その他生活環境

 高齢者や障害者が自立した生活を送る上で、健康の基本となる食生活環境の改善が重要である。

 このため、大活字・点字、画像音声インターネット等により食生活情報を提供するとともに、高齢者や障害者による食品購買や調理等の支援方策について検討を行う。


1.-2 観光振興との効果的な連携~当面の重点的な取組み~

 (1)観光振興とバリアフリー化

1) バリアフリー化の位置づけ

 高齢社会の到来により高齢者人口が急速に増加していく中にあって、高齢者、障害者等何らかの要因により円滑な移動に制約を伴う人々(以下「移動制約者」という。)についても、日常生活を離れて、気軽に、我が国の自然や伝統・文化、洗練された街、個性あふれる町並み等を満喫し、心の豊かさや生きがいを感じることができるようになることが重要であり、そのためには生活環境のバリアフリー化がなされていることが不可欠であると考えられる。

 一方、「I-1.基本認識」において示したように、社会のバリアフリー化の推進は、年齢や障害の有無等にかかわりなく国民誰もが心豊かに安心して暮らすことができる社会の実現を目指すものであり、このような取組みは、各地域の魅力を向上させ、そこで生活をする人々がその地域に誇りを感じることを可能とする。

 加えて、日本人、外国人を問わず観光やビジネス等さまざまな目的で外部から地域を訪れる人々にとっても、安心かつ快適な旅行を可能とし、これに伴う満足度の向上等を通じて、その地域の魅力を実感することにつながるものである。

2) 観光立国の推進状況

 最近、我が国において観光は、ゆとりある生活の実現、経済波及効果への期待、地域振興・地域活性化への寄与、国内・国際交流の拡大等の観点から、その振興が強く求められている。

 このため、政府においては、平成15年5月に観光立国関係閣僚会議(主宰 内閣総理大臣)を設置し、同年7月には「観光立国行動計画」をとりまとめるなど、「住んでよし、訪れてよしの国づくり」を実現するため観光立国を積極的に推進している。

3) 観光振興の観点からのバリアフリー化

 このようにバリアフリー化を観光振興という観点から見た場合、地域の価値や評価を高め、より多くの人々を引きつける上での有効な手段であるとともに、我が国が海外に発信する魅力を向上させ、観光立国の形成にも好影響を及ぼすということができる。

 また、日常生活から離れて見知らぬ土地を訪ねる上で、その地域がバリアフリー化されていることは、移動制約者が安心して旅行に出かけるための重要な要素であると言える。

 特に、高齢化の進展により、今後移動制約者の増加が見込まれることにかんがみると、これらの視点はより重要になると考えられる。

 なお、バリアフリー化による地域の価値や評価の向上等を通じて国内外からの旅行者の増加といった効果が生じてくれば、当該地域においてバリアフリー化に配慮して整備した施設等の利用者も増えることが見込まれる。

 (2)観光振興との効果的な連携

1) 観光地のバリアフリー化

 観光地のバリアフリー化を進めるため、ハートビル法に基づく宿泊施設のバリアフリー化の支援やそのバリアフリー情報の提供を行うとともに、外客の利便の増進のため、国際観光ホテル整備法に基づき、登録ホテル等において高齢者、障害者等の客室の利用を容易にする設備・備品の整備等を促す。

観光地における面的なバリアフリー化を進めるためには、交通バリアフリー法に基づく基本構想を活用することも有効であり、その策定の促進を行う。

また、国立・国定公園等の整備に当たっては、自然環境の保全に配慮しつつビジターセンター、園路、トイレ等のバリアフリー化を行う。

さらに、沖縄県において質の高いバリアフリー観光を推進するため、地域特性等を踏まえた推進方策を検討するとともに、バリアフリー観光に必要な人材育成等受入体制の整備を図る。

2) 観光振興と連携した取組みの推進

 観光地のバリアフリー化を進めるとともに、旅行しやすい環境整備につなげるため、国内・国際の交通ネットワーク拠点、観光地へ向かう交通機関、関連施設等においても、幅広くバリアフリー化を推進することが重要であると考えられる。

 このような認識を踏まえ、地域の先進的な取組み事例の情報提供を強化すること等により、地域による観光振興への取組みと効果的に連携しつつ、バリアフリー化された生活環境の形成を進めていく必要がある。

 また、これに合わせ、日常生活を離れて見知らぬ土地を訪ねる場合が多いという観光の特性を十分踏まえて、観光振興に資するバリアフリー情報の提供を強化していくことが必要である。

2.教育・文化

 (1)学校教育

 障害のある児童生徒等が支障なく学校生活を送ることができるよう、施設のバリアフリー化等を推進する必要がある。特に、公立小中学校施設は、地域住民にとって最も身近な公共施設であり、積極的にバリアフリー化を支援することが重要である。また、社会全体のバリアフリー化を推進する上で、学校教育においてもこれに資する観点に配慮して指導を行うことが重要である。

 このため、バリアフリー対策の推進について教育委員会等に周知するほか、スロープ、エレベーター、障害者用トイレ等の整備への積極的な支援を行うとともに、平成15年度に作成した学校施設のバリアフリー化等に関する指針の普及を図り、学校施設のバリアフリー化を推進する。

 また、障害のある児童生徒等が多様な教育的ニーズに応じて可能性を伸ばし、自立と社会参加に必要な力を養うため、盲・聾・養護学校等での教育の充実に加え、高等教育における受験機会の確保、教育に必要な設備や体制の整備等を行う。

さらに、バリアフリー化の推進に資するよう、児童生徒の発達段階に応じて、高齢者や障害者との交流やボランティア活動等を推進し、高齢者等への理解や福祉の重要性等について指導する。

(単位:学校数)

項目整備対象数(※1)実績値(※2)
国立学校211185
公立学校39,02125,290
私立学校2,142817

※1 国立学校は15年12月、公立学校は14年5月、私立学校は11年5月(私立特殊教育諸学校は16年3月)時点の小学校、中学校、高等学校、特殊教育諸学校
※2 エレベーター、自動ドア、スロープ、障害者用トイレ等何らかの設備が整備されている学校数を元に算定

 (2)社会教育

 近年の価値観や行動様式の変化等を背景に、人々の学習需要が高度化・多様化しており、これに対応した学習機会を提供する社会教育施設が重要な役割を果たしている。

 このため、体育館、プール等の社会体育施設の整備に際し、高齢者、障害者等の利用に配慮した整備に対する支援を行うとともに、博物館を誰もが利用しやすい施設とするため、平成16年度から改善策を調査研究し、その普及を図る。

 また、社会教育施設を中核とした社会教育活性化のための事業の実施を通じて、地域のバリアフリー化を促進する。

(単位:ヶ所)

項目整備対象数(14年10月末)実績値(※)(14年10月末累計)
公民館等18,8199,696(51.5%)
図書館等2,6502,396(90.4%)
博物館等5,3633,415(63.7%)
文化会館1,8321,797(98.1%)

※ エレベーター、自動ドア、スロープ、障害者用トイレ又は簡易昇降機のうち何らかの設備が設置されている施設数を元に算定

3.雇用・就業

 障害者の雇用を促進する上においては、設備・施設の改善、援助者の配置等が求められており、障害者が能力を最大限発揮できるよう職場環境を整備することが重要である。

 このため、障害者の雇用やその継続に伴う職場環境のバリアフリー化の支援等を行うとともに、公共職業安定所に手話協力員を配置する。さらに、ハートビル法に基づき事務所、工場におけるバリアフリー化を推進する。

 また、障害者の就労支援機器導入に対する事業主の理解を深めるとともに、障害者の雇用促進に資するため当該機器の貸し出しを推進する。

項目実績値
企業の作業施設等の整備(※)14年度:519ヶ所
公共職業安定所における手話協力員14年度:202人 15年度:296人
就労支援機器の貸出14年度:105件14年度末累計:671件

 ※ 厚生労働省の補助に係るもの

4.情報・製品

 (1)情報通信機器・システム

 我が国社会全体でIT利用が急速に進展する中にあって、年齢・身体的な条件等に起因するITの利用機会や活用能力に個人格差(デジタル・ディバイド)が生じており、その是正を図っていくことが必要である。

 このため、高齢者や障害者に配慮した情報通信機器・サービスの開発・普及、字幕放送・解説放送等の普及、地域におけるIT利活用の総合的な支援等を進めるとともに、障害者が情報通信機器を使用するために特別に必要となる機器等の購入を支援する。

 また、電気通信アクセシビリティに関するガイドラインの改定を進めるほか、平成15年度にJISとして制定した高齢者や障害者に配慮した設計指針について、国際標準化を推進する。

さらに、障害者等の自由で円滑な活動を支援するため、情報技術を活用した移動支援のための情報通信機器・システムの開発を進める。

項目実績値目標
字幕放送の普及14年度末累計:NHK77.9%
民放28.9%
2007年までに新たに放送される字幕付与可能な全ての放送番組に字幕を付与等
情報機器の購入助成15年度:60ヶ所 全都道府県・指定都市で実施を継続

 (2)福祉用具、生活用品等

 高齢者や障害者が自立した日常生活や社会参加を行う上で、福祉用具が重要な役割を果たしている。また、生活用品等ついては、汎用的に用いられるものであることから、年齢や障害の有無等にかかわりなく全ての人々が利用しやすい、いわゆるユニバーサルデザインが重要である。

 このため、福祉用具の研究開発や普及を支援するとともに、福祉用具に関する情報の収集・提供等を行う。

 また、ユニバーサルデザイン化された生活用品等の周知・普及を図るとともに、平成16年度からは人体寸法等の人間特性を把握し製品開発等に反映させるため、人体寸法・形状の計測を行い、人体形状データから人体寸法を自動的に算出するシステムの開発を進め、ユニバーサルデザインのものづくりを促進する。

 さらに、福祉用具等の標準化ニーズの把握等を行うとともに、平成15年度にJISとして作成した高齢者や障害者のニーズを的確に規格化するための評価検討の考え方等を踏まえ、点字表示方法等優先的に取り組むべきテーマから規格化の検討を進める。

5.広報・啓発等

 バリアフリー化の推進は、行政だけの取組みで完結するものではなく、関係者はもとより広く国民が社会のバリアフリー化の推進に努めていくことが必要である。

 このため、民間団体や地域・家庭など国民一人ひとりがバリアフリー化の理念や必要性等に対する関心と理解を深め、それぞれの立場からバリアフリーの推進に積極的に協力していくような環境づくりに向けて、セミナーの開催や各種啓蒙活動を推進する。

 加えて、バリアフリー化に顕著な功績のあった団体等に対する表彰を行い、バリアフリー化推進に係る優れた取組みの普及を図る。

 また、バリアフリー化に向けて活動しているNPO等との連携を図りつつ、バリアフリー化された施設や国・地方自治体によるバリアフリー施策等の関連情報に容易にアクセスでき、必要な情報をいつでも取り出すことが可能となる総合的な提供体制を整備する。

 さらに、地域自らのバリアフリー化への取組みを促進する観点から、地域のバリアフリー化状況に係る各種統計や指標の整備状況等を踏まえつつ、地域全体として先進的な取組みを進めている地域の評価・公表を行い、全国のモデルとしてその取組みの奨励を図る。

項目実績値目標
バリアフリー化15年度:12件16年度~18年度
推進功労者表彰(総理大臣表彰1、官房長官表彰11)30~60件程度

(備考)要綱中の実績値等の数値は、各府省の統計、資料によるものである。