理工系女子の未来を考えよう in 沖縄 開催報告
概要
2016年1月30日(土) 17:30~19:00
沖縄県立博物館・美術館 3階講堂
プログラム
- (1)挨拶 島尻 安伊子 内閣府特命担当大臣(科学技術政策)
- (2)講演 「宇宙・人・夢をつなぐ」 山崎 直子 宇宙飛行士
- (3)シンポジウム 「リケジョが日本をリードする」
パネリスト
島尻 安伊子 | 山崎 直子 | 玉城 絵美 | ディルワース・マチ |
内閣府特命担当大臣 科学技術政策、沖縄及び北方対策、 宇宙政策・海洋政策・領土問題担当、 情報通信技術(IT)政策担当、 クールジャパン戦略 |
宇宙飛行士 千葉県松戸市生まれ。 2010年4月、スペースシャトル・ディスカバリー号で宇宙へ。 2011年8月JAXA退職後、内閣府宇宙政策委員会委員などを務める。 |
H2L創業者、博士、JST さきがけ研究員、早稲田大学助教 沖縄県出身。2011年東京大学大学院博士課程修了。2012年H2Lを創業。 2015年ウーマンオブザイヤー準大賞受賞。同年、世界初の触感型ゲームコントローラーUnlimitedHandを発表。 |
沖縄科学技術大学院大学 男女共同参画担当副学長 理学博士(UCLA)。アメリカ国立科学財団(NSF)生物基盤部長、東京事務所長、国際科学技術局長等を経て、2015年より現職。 |
モデレーター
角南 篤 政策研究大学院大学 教授、内閣府本府 参与(科学技術・イノベーション担当) コロンビア大学政治学博士号(Ph.D.)取得。専門は、科学・産業技術政策論、公共政策論。 科学技術振興機構中国総合研究センターシニアフェロー、宇宙航空研究開発機構(JAXA)アドバイザー等を努める。 |
開催案内(PDF形式:61KB)
シンポジウム開催挨拶
内閣府特命担当大臣(科学技術政策) 島尻 安伊子 |
若い皆さまがこのように大勢参加する行事を沖縄の地で開催することができ、大変うれしく思います。
ここで本日の行事の意義を少しだけお話しさせていただきます。1月22日に閣議決定した第5期科学技術基本計画の中で、女性研究者、いわゆるリケジョの活躍の拡大を重要な政策課題として取り上げました。具体的には女性研究者の新規採用割合を自然科学系全体で5年以内に30%にすることを目標として設定をいたしました。女性など多様な人材が理工系の分野に参入することで、イノベーションが活発になって、社会や経済が発展することを期待しています。科学技術にとって、イノベーションを起こすということは、多様な視点や発想を持つ女性の活躍が不可欠です。
今日の行事はこのようなリケジョの活躍の促進に向け、第5期科学技術基本計画がスタートする年のはじめに、その第一弾の取組として、この沖縄で開催するものです。今日の行事がここにいる若い皆さまにとって、リケジョを目指す、あるいはリケジョとして夢を持つ、何かのきっかけになればというふうに思う次第です。本日はリケジョの先輩方の話を聞いて、たくさんのワクワクを感じてください。
講演 「宇宙・人・夢をつなぐ」
宇宙飛行士 山崎 直子 |
【子供の頃好きだったこと、宇宙飛行士を目指したきっかけ】
子どもの頃から、動物や生き物や星など、自然科学のようなことが好きだったのですが、本や漫画も好きでした。また、中学校、高校時代は、いつかは海外にも留学したいし働きたい、文系の仕事も面白そうなど、色々と悩みました。
中学生の時に、国際宇宙ステーションという計画が発表され、日本人も宇宙に行けるようになることにワクワクしたのを覚えています。また、中学校3年生の時には、スペースシャトルが打ち上げ後に爆発したという事故が起きたのですが、大変な中頑張っている人達がたくさんいることが逆に現実としてすごく伝わってきて、その頃から宇宙開発に関われたらいいな、宇宙飛行士になれたらいいな、と意識するようになりました。
高校時代はテニス部だったのですが、そのときの経験が後でつながってきます。というのが、宇宙飛行士になったからといって、すぐ宇宙に行けるわけではなく、私は11年間下積みの訓練の期間がありました。部活でも、他のことでもそうですが、最初のうちは地道なことの方が多いです。毎日楽しいとは言わないけれども、ようやく試合に出たときはやっぱり嬉しいものです。何か一生懸命打ち込むことっていうのは、泥臭いけど結構楽しいな、ということを体で感じたのが高校時代だったと思います。しかしその時も進路については、まだ理系か文系かで悩んでいた時期もありました。しかし、やっぱり宇宙開発に携わりたいということで、まずはエンジニアになって少しでも携われることを目指そうというところから、スタートしました。
【留学経験、宇宙飛行士への挑戦】
20歳代半ばにして、1年間アメリカに留学をするという、初めて海外に行く経験がありましたが、英語が通じないなど、うまくいかないことも沢山ありました。でも、アメリカやアジアの国々も含め、様々な国から留学をしている人達と一緒に学べたというのは、今振り返ると、非常に貴重な体験でした。留学中のパーティーで知り合った70歳を超えた女性が現役でヘリコプターを操縦していることにとてもびっくりして、今まで自分が思っていた世界が小さかったこと、世の中ってもっと広いんだということを知って、ガツンと衝撃を受けました。
それに感化されて宇宙飛行士の試験に挑戦しました。最初は書類審査の段階で不合格でしたが、2度目の挑戦で合格しました。しかし、5度目や6度目で合格した同僚もいましたし、まず興味を持って、一歩動いてみることが大切です。それも1度や2度では決まらないので、何とか歩いてみるということも大切なのかなと思いました。
【エンジニア・宇宙飛行士として】
その後、エンジニアとして働いていた時は、国際宇宙ステーションの中の「きぼう」と呼ばれている日本が作った実験棟の開発チームにいました。新人のときに希望した研究部門とは違うところでの業務でしたが、後で振り返ると、実際にこの「きぼう」の開発に少しでも携わることができたというのは、貴重な経験でした。
だから、長い目で見たときには、何が良くて悪いのか、自分の希望通りにいったから良いのか悪いのかというのは一概には言えないものだなと思います。
私が宇宙に行ったのは、2010年、今から6年前です。宇宙船は打ち上げ後、たったの8分30秒で宇宙にたどり着きました。そしてエンジンが止まった後、身体がふわっと浮く無重力状態になりつつ、しばらく地球の周りをまわりながら、3日目にこの宇宙ステーションに合流し、その組み立てに携わりました。一緒にスペースシャトルで飛んだのは7名で、15日間一緒に過ごしました。他に、国際宇宙ステーションに6か月滞在していた人達もいたのですが、その中の一人が野口聡一さんでした。
この時、私も含めて4人の女性が同時に宇宙に滞在しましたが、それは全く初めてのことでした。宇宙船の中の仕事も訓練は、男の人も女の人も同じようにやるという意味では全く違いがないのですが、今まで宇宙に行った550名のうち、女性の割合は約10%です。まだまだ少ないですが、徐々に増えていってくれるといいなと思います。ちなみに、日本でも数年に1回くらい宇宙飛行士の募集をしますが、やはり女性の割合は10%です。応募割合がそのまま実績に繋がっているので、まずは挑戦してほしいなと思います。
実は、今年、大西卓哉さんが宇宙に滞在する予定ですが、そのときの地上責任者は女性なんです。ですから、宇宙の分野でも女性の方が責任あるポジションにつくケースも、今どんどん増えてきています。これは色々な先人の方の努力があったからだと思います。
【宇宙船での生活と科学技術】
実際の宇宙船は、ものすごくごちゃごちゃしています。一つ一つのものにバーコードを付けて、どこに何が何個あるか、物品管理をしています。こういったところにもIT技術が欠かせなくなってきていますし、宇宙食も、飲み物やおかず、おやつも含めて300種類くらいあるんですが、栄養を評価して、保存が効くパッケージをするという過程の中にも、色々な加工技術、食品安全技術が含まれています。しかし、味が美味しくはなったとはいえ、朝昼晩ずっと加工食品を食べているとやっぱり飽きます。時には、生ものが食べたいとか、自給自足が出来たらいいということで、実は今、宇宙農業に非常に力を入れています。
宇宙環境を利用して新しい薬や材料をつくる等、色々実験をやっているのですが、例えば、重力があるかないかという環境が変わるだけで、その機能の表れ方が変わってくる遺伝子があることが分かってきました。また、宇宙空間にいると、私たちの体も当然変わります。身長を測ると大体の人は2センチから5センチ伸びます。というのが、背骨と背骨のその間隔が重力で押されないためです。歩かないで済む分、足の筋肉は減ります。骨の密度も1カ月に数%くらい減っていきますので、宇宙に行くと足がひょろっとして、背骨の部分だけが伸び、胴体が伸びて血液は上に行くので、頭がちょっと浮腫むという、宇宙人のイラストに出てくるような体形に近づくと思います。
今高齢化社会と言われています、骨が弱くなったり、筋肉が衰えたりというのは、まさに高齢化現象と一緒で、それが宇宙ではより早く現れます。そういった部分を研究し解明することで、健康寿命を延ばしたり、寝たきりになる方を少なくするということにも応用できたらいいなと思います。
宇宙船の中では水をリサイクルしており、トイレで回収する尿も、蒸留殺菌して飲み水にかえています。空気も呼吸で出た二酸化炭素は、吸い取って酸素にかえます。また、太陽光発電や、水素電池のようなものを使っています。宇宙で生活してみると、日常生活の全てが色々な科学技術に支えられていることを実感します。
科学技術や理系というのは、決して特殊な分野ではなくて、これからは生活にさらに密接する分野だと思いますし、そういう中で、女性、男性含めて、様々な取組が非常に必要だと思います。
シンポジウム 「リケジョが日本をリードする」
パネリスト
科学技術政策担当大臣 島尻 安伊子 |
宇宙飛行士 山崎 直子 |
H2L創業者 玉城 絵美 |
沖縄科学技術大学院大学 副学長 ディルワース・マチ |
モデレーター
政策研究大学院大学教授 角南 篤 |
【Q1:リケジョとして仕事をしている中で、女性がいることの良さは?】
ディルワース氏:女性という理由で、理系の仕事をすることの強みとか弱みとかはなく、その発想が、女子は理系に向いていないというような間違った先入観となっていると思う。親御さんや先生など、女子生徒に大きな影響を与える立場である方は、是非、全く先入観のない教え方をしていただきたい。
玉城氏:多様性は重要で、特に工学系では、新しいものを作り出すときに、その人の個性が出る分野。女性が少ない理系分野だからこそ、多様性・ユニークさが際立つ。チャンスだと思うので、ぜひチャレンジしてほしい。
山崎氏:多様な人が関わることによって、女性だけはなくて男性にとっても環境が良くなっていく。
島尻大臣:日本の国会議員の女性議員の数というのも、世界的に見ると非常に少ない。政治の世界も、どんどん女性に参画してほしい。
【Q2:もし宇宙飛行士選抜試験に落ちていたら、何になっていましたか?】
山崎氏:エンジニアとして宇宙開発に携わりながら、自分が納得するまで何度でも宇宙飛行士選抜試験を受けていたと思う。
【Q3勉強・研究を続けて暮らしていきたいが、学んだものを世の中に還元しなくてはいけないとも考えている。ご意見をお伺いしたい。】
ディルワース氏:一生学ぶことはすごく大切なこと。最初は学業に励み、その後学生や社会人になった段階で社会に還元できることがたくさんあることが分かってくると思う。
玉城氏:研究をしていると、新規と寄与、再現の3つがものすごく重要視される。大学3年生くらいから研究が徐々に入ってきて、仕事をしながら学問と研究、社会的に寄与する方法や再現性等を表現する方法を学ぶ人もいる。そうすると、自分のやりたいことで、社会的に還元する方法が自然に見えてくる。ただし、勉強は一生続けることになると思うので、覚悟しておいてほしい。
山崎氏:勉強はいつまでたっても終わりはなくて、働きながらでも学ぶことはできるし、外国では社会人として勉強している人もたくさんいるので、一生追い求めてほしい。
島尻大臣:突き詰めると、どのようにして世の為、人の為に自分の一生を捧げるのかというところに行きつくのではないか思う。今自分がやっていることからどういう社会貢献ができるのかということを常に忘れずにいてほしい。
Q4:【下積み時代の11年間の中で一番大変だった訓練は何ですか?】
山崎氏:ゴールが見えないことが大変だった。宇宙飛行士になっても、宇宙に行けるという保証は全くない。その間、世界各地を転々とするので、家族に迷惑を掛けてしまう。夢を追うというと格好いいが、自己満足かなと悩んだ時期もある。研究も同じで、どこまでがゴールなのかというのが見えないことも多いので、悩むところは当然出てくる。でもそこで、好きだと思う気持ちがあり、楽しさを感じていれば、それが力になるので、その気持ちをぜひ大切にしてほしい。
【Q5:やりたいことがいっぱいあり、それを全部やりたい。やりたいと思った瞬間にやるようにしているが、限界がある。どうすればよいか?】
ディルワース氏:自分をリミットしないでどんどんやってほしい。曲がり角に来た時に色々な機会やチャンスが生まれる。私もそうだった。色々と興味を持ってやっていれば、チャンスが訪れて、自然と道が開けてくる。
玉城氏:私は、やりたいことを今全部やっている。やりたいことを消さなくていいので、全部リストアップして、一個ずつ叶えていけばいい。 必ずチャンスが来るので、ゆっくり焦らずに一つずつ叶えていけばいい。
山崎氏:宇宙分野では、今他の分野と同様、理系でも、スペシャリスト系と、色々な分野を分かっていて、プロジェクトマネージャーや運営を行うゼネラリスト系が求められているが、後者が圧倒的に少ない。専門分野をつなぎ合わせて、色々企画やアイデアを出して実行に移すなど、まさにピッタリだと思う。それを強みとして活かしてほしい。
島尻大臣:体を壊さない程度に全部やったらいい。ただし、人生の中では、やりたくないことをやらなくてはいけないことも出てくる。その時は尻込みせずに何でもやる癖を自分でつけているとよい。
【Q6:最近、部活の副部長をやっているが、私に務まっているのかがどうか自信がない。自信をなくした時に、どういう風に自分を鼓舞し、プラスの気持ちに変えることができるのか?】
ディルワース氏:信頼ができて、正直にアドバイスをくれる人の所に行くといい。最後は、自分で自信を持ってやることが大切。
玉城氏:隠さずに周りの人に不安であることを伝えてアドバイスを求めるのが一番良い。私なりのアドバイスとしては、半分は「できる」と自画自賛しておき、あと半分は「もうどうにでもなれ」と頭の中で囁き続ける。問題が起きたときに、皆で一緒に頑張りたいなら、皆の目を見ながら一生懸命やっているときっとついてきてくれる。
山崎氏:初めてのことをやるときは誰しも緊張する。全力を尽くして、あとは天命に任せる。自分ではしょうがない部分もあるから、そこは「何とかなるさ」という気持ちを持つ。リーダーにも色んなスタイルがあって良い。自分自身のスタイルを見つけてやれば、皆それを見ているはずなので、自信を持ってほしい。
島尻大臣:弱音を吐きながら、それを克服している人がいるので、その人の真似をするとよい。そうすると、自分なりのリカバーの方法が分かってくると思う。
【Q7:将来医者になりたい。日本よりも高い技術を学ぶためには、大学から海外に出て学ぶべきか、一旦日本で学んでから海外に出る方がいいか?】
ディルワース氏:日本で医者になるのであれば、日本の医大で勉強した方がいいと思うが、外国に行くという経験というのは凄く必要なこと。日本でまず医師の資格を取って、それから外国に留学や研修をすることを勧めます。
【Q8:Possessed Handを全身に応用する可能性はあるか?】
玉城氏:Possessed Handの技術は、現在、体の末端に近い部分などでしか使えない。足や全身に使おうとすると、まだ研究する部分がたくさんある。
【Q9:会場にいる皆さんへメッセージを一言。】
ディルワース氏:人生は長いので、焦らずに自分のペースでゆっくりやってほしい。助けが必要なときは、躊躇しないで頼みましょう。
玉城氏:女性・男性に限らず、色んなことにチャレンジしてほしい。無理かなと思うことでも、チャレンジしてみると、楽しいことが色々起きる。是非チャレンジしてほしい。
山崎氏:変化の多い時代だと、数年後のことを予測するのも難しく、悩んだり不安になったりすることも出てくると思います。でもそれは、道は一つに決まっているわけではないので、どう感じて、動いて、人と出会っていくかによって、道はできるし、可能性も生まれる。未知なことに不安を感じるのではなくて、是非チャレンジしてほしい。
島尻大臣:「本当に信じていきたい」と思う道に向かって、確信を持って頑張ってほしい。