はじめに

規制改革は、供給主体間の競争やイノベーションを通じて、生活者・消費者が安価で質の高い多様な財・サービスを享受することを可能とするとともに、自由な環境の下でビジネスチャンスを拡大し、社会全体としての生産要素の最適配分を実現することによって、経済を活性化するものである。このように、規制改革は、「生活者・消費者本位の経済社会システム構築」と「経済の活性化」を同時に実現する。

21世紀の幕開けとなる2001年は、我が国の経済社会が大きな転換点を迎えていることがだれの目にも明らかになった年である。経済社会の構造改革の必要性が唱えられて久しいが、今や5%を超える失業率は、構造改革が待った無しの状況にあることを象徴的に示している。未曾有の深刻な雇用情勢、低迷する景気、猶予できない財政構造改革等の厳しい条件の中で、規制改革の必要性とその有する需要喚起、新規産業・雇用創出の機能に寄せられる期待はますます高まっている。今こそ、構造改革を実現するための重要な柱として、規制改革を強力に推進すべき時である。

本答申は、このような背景事情の下に、「経済社会の構造改革を進める上で必要な規制の在り方の改革に関する基本的な事項について、総合的な調査審議を求める」との総理からの諮問にこたえ、今年度における総合規制改革会議(以下「当会議」という。)の調査審議の結果をとりまとめたものである。

提言するに当たって、当会議が規制改革に取り組む基本的考え方として、特に次の点を強調しておきたい。

ア「システム全体の変革」の重要性

規制改革を推進するため、政府は従来から、例えば個々の事業者又は事業者団体からの要望に積極的に対応すること等により、「個別の規制改革」を重点的に進め、大きな成果を上げてきた。また、規制改革を分野別に進めるという手法も採ってきた。

規制改革をより効率的に進め改革の実を上げていくためには、これらの手法に加えて、それぞれの分野の「あるべき姿」を念頭に置き、政策目標・理念を明確にした上で、競争促進のためのルール作りや予算措置等関連制度の見直しも含めた「体系的・包括的な規制改革」、すなわち、「システム全体の変革」についての取組を、意識的に強化していくことが効果的である。

特に、「生活者向けサービス分野」(いわゆる「社会的分野」)については、相対的に改革の遅れが目立っており、この分野の規制改革を強力に推進していくためには、このような「システム全体の変革」という手法の有効性が、より一層高まるものと考えられる。

また、民間事業者の自由な経済活動を阻害する規制を撤廃し、事業者間競争を促進する際には、市場機能が十分発揮されるよう、情報開示の義務付け、ルールの遵守やサービスの質の確保等の監視体制(違反者に対する罰則適用を含む。)及び事後的な紛争処理体制の整備、さらにはセーフティネットの充実等の新たなルール作りや既存のルールの明確化等にも積極的に取り組むことが重要である。

さらに、「民間でできることは、できるだけ民間に委ねる」との基本原則の下、公的主体(その規制下にある非営利団体等を含む)の行っている業務について、可能な限り株式会社を含む民間事業者が主体的に担い得るよう、参入を妨げる規制の撤廃を行うとともに、異なった経営主体が事業を行う際に存在する公的助成(予算措置等)などの競争条件の格差解消についても、これを規制改革の一環と位置付け、その積極的な推進を図ることとする。

なお、国や地方公共団体のみならず特殊法人、公益法人、特別な法律に基づき設立された法人についても、一般の民間事業者と比較して、競争上有利な立場にあり、この点は、規制改革を推進するに当たっての重要な視点と考えられる。

イ 速やかな改革の重要性

これまでも構造改革のために諸施策が講じられ効果を上げてきた。例えば、10年前と現在とを比較すれば、情報通信、金融、運輸等の分野における状況の変化は明らかである。しかしながら、残された課題はいまだ多く、改革施策が、少子高齢化、経済のグローバル化などの我が国経済社会を取り巻く急速な環境変化に有効に対応できるだけの十分な速さで実施されてきたとは、必ずしも言えない。

構造改革が急務となっている今日、改革施策の実施を一層加速化することが重要である。このため、本答申では、速やかかつ確実な施策の実施を確保する観点から、改革施策の実施時期を明示することを原則とした。

また、今後政府が実施すべき施策の具体的な改革行程を明らかにすることが、財・サービスの提供者、消費者の双方に対して、これからの行動を決定するための的確な情報を提供することにもなると期待している。

ウ「生活者向けサービス分野」(いわゆる「社会的分野」)の改革の重要性

「個々の生活者に向けたサービス分野」については、これまで公的主体が、サービスの主たる担い手として市場を直接管理し、市場原理には馴染みにくいものとされてきた。これは、多くの「生活者向けサービス」が、「非営利的なサービス」であるとの性格付けが濃かったためであるが、この結果、本分野には「規制」や「官業構造」が多々みられ、こうした供給側の問題から、コストの合理化や生産性の向上があまり進まず、サービスの質的向上・量的拡大も妨げられるなど、相対的に改革の遅れが目 立つに至っている。

今後の少子・高齢化社会においては、我が国の経済成長に貢献する新しい産業やイノベーションを開花させていくことが必要であるが、このような「生活者向けサービス分野」は、需要と雇用の拡大余地の高い分野であり、起業家精神の旺盛な個人による創業、迅速な事業展開が期待される。

当会議では、「生活者向けサービス分野」の改革の重要性を踏まえ、医療、福祉・保育、人材(労働)、教育、環境の各分野について重点的に検討を行い、新規産業・雇用の創出と、国民生活の質的向上に向けた抜本的なシステム改革を進めることとした。

また、都市は、生活の拠点であるとともに、その再生は、喫緊の課題でもあり、当会議においても、重点的に検討されるべき分野として、規制改革を積極的に推進することとした。

エ その他の分野の規制改革

産業活動に直接関係の深い分野(いわゆる「経済的分野」)の規制改革については、政府が比較的早い時期から重点的に取り組んできた結果として、これまでも進展がみられたところである。しかしながら、この分野においても、なお一層の規制改革が必要な領域が多い。言うまでもなく、これらの分野における規制改革は、経済の効率に直接的に影響するものであり、構造改革の観点から規制改革を引き続き推進していくことは、極めて重要である。

このため、本答申では、上記の重点6分野に加えて、競争政策、法務、金融、流通、農林水産業、エネルギー、運輸、基準認証の各分野の規制改革方策についても、検討の結果を掲げた。

なお、IT分野における規制改革については、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)の下のIT関連規制改革専門調査会において、当会議の委員も参加して議論が重ねられたところであり、その検討結果を受け、IT戦略本部において積極的な検討がなされることを期待したい。


内閣府 総合規制改革会議