これまでの我が国の医療制度は、国民皆保険体制と医療機関へのフリーアクセスの下、「すべての国民がいつでもどこでも安心して医療を受けられること」を基本的理念として運営されてきた。それによって社会保障としての医療は患者のニーズにこたえ、国民の健康増進に寄与してきた。
一方、近年の少子高齢化の進展、IT化の進展等、経済社会環境の大きな変化の中で、国民の生活スタイルや価値観、ニーズは多様化している。それに伴って医療サービスに対してもより良いもの、より快適なものを求める意識は高まっている。「自らが医療に関する情報を集め、自ら治療の方法について選択したい」という声も多く聞かれる。このような状況に照らし合わせてみた場合、現在の医療制度は国民意識の変化に十分に対応できないものとなっている。
医療の規制改革の目的は、患者本位の医療サービスを実現することである。そのためには、医療の質の向上、安全の確保を図りつつ、医療サービス提供上の無駄を徹底的に排除し、効率的な医療サービスを実現することが必要である。また、患者にとっては、医療の透明性が確保され自らの選択が尊重されるようになることが必要である。このような基本的考え方に基づいて、医療に関する徹底的な情報開示・公開の促進、医療分野のIT化の推進、診療報酬体系の見直し、医療機関相互の競争の促進等を積極的に実施するべきである。
また、患者本位の医療サービスの実現に向けては、保険者の果たすべき役割も大きい。患者本位の医療サービスの提供を実現するためには、保険者には被保険者(患者)のエージェント(善意の代理人)としての役割が求められている。これからは被保険者(患者)により近く、機動的な立場にある保険者が主体的に本来のエージェント機能を発揮することが重要であり、それが可能となるような環境を整備することが必要である。また保険者も意識を高め、その能力を強化することが重要である。
一方、国民一人一人の意識を改革することも不可欠である。「給付はなるべく多い方がよいが、負担はしたくない」、「医療サービスは国の責任でしっかり行うべき」という受動的な意識ではなく、国民一人一人が制度全体の運営を支える主人公であるという意識が求められる。国民は、健康な生活を送る権利を有するとともに、効率的で満足度の高い医療サービスを受けることを求めており、納得の上でそれに見合う負担をする義務があるということを改めて認識するべきである。
このような基本的考え方に基づき、当会議として以下の事項を求める。
患者本位の医療サービスを実現するためには、患者への医療に関する徹底的な情報開示・公開が大前提である。情報開示・公開の仕組みが整備され、提供される情報の患者による適正な評価が行われれば、現状の「情報の非対称性」を理由とする「患者保護」を目的とした規制の多くは不要となるとともに、患者の選択が尊重される患者本位の医療の実現により近づくものと考える。このためには以下の点が特に重要である。
現在、レセプトの開示についてはルール化されているが(平成9年厚生省通達)、それだけでは患者情報の開示の点で不十分との指摘がある。カルテについて、患者プライバシーの保護を図りつつ、患者の開示請求に基づく医師のカルテ開示を普及、定着させるため、診療情報開示に関するルールの確立やガイドラインの整備を行うべきである。
医療提供者(医師、医療機関など)の適切な情報が公開されることにより、患者は客観的な情報を活用して医療機関を選択しやすくなる。医療提供者にとっては、より良いサービスの提供に向けたインセンティブが生まれ、結果として医療サービスの向上につながる。そのような観点から、医療機関の医療機能、業務内容、医師の専門分野、診療実績などに関する客観的に比較可能な情報公開を促進するべきである。
そのため、医療に関する各種情報のデータベース化、ネットワーク化を行い、国民が容易に情報にアクセスできる環境の整備を実施するべきである。
医療機関の広告については、誇大広告など不適切な広告から患者を守るという観点から規制が行われているが、国民にとっては客観的事実に基づいた診療実績など真に知りたい情報の入手まで制限されている。患者の選択が尊重される患者本位の医療サービスの実現のためには、現在の広告規制を見直し、将来のネガティブリスト化を視野に入れつつ、当面は、現在広告が許されている内容・範囲の大幅な拡大を図るとともに(ポジティブリストの積極的拡大)、関係者の要望にもかかわらずポジティブリストへの掲載が困難な場合の説明責任を明確にするべきである。
現在、財団法人日本医療機能評価機構が評価を行っているが、評価の内容は医療機関の施設・構造や人員配置、組織体としての活動状況などの「構造評価」が中心であり、真に患者が知りたい評価、情報の提供という点では不十分である。患者本位の医療サービスを目指すためには、技術水準や治療方法にかかわる「プロセス評価」や、更には真に患者が知りたいと思う治療成果など「結果評価」にまで踏み込んだ評価が行われ、それが広く公開されることが望まれる。また、財団法人日本医療機能評価機構のみならず多様な第三者評価主体の出現により、評価面でも競争メカニズムが働き、評価の向上が図られることが望ましい。
なお、現在、評価を受けている病院は全体の6%程度と少なく、まずは国公立病院、特定機能病院、臨床研修病院等について積極的な受審を促進するとともに、これらの医療機関に対しては、評価結果、評価内容の公開をするように措置するべきである。
現在、医療分野においては、IT化が十分に進んでいるとは言い難い状況にある。例えば、レセプトやカルテは紙中心のものとなっており、このため、一連の医療事務の効率化が妨げられ、時間的にもコスト的にも多大な負担となっているだけでなく、医療の近代化、効率化が妨げられている。このような状況はIT化の推進により速やかに改善する必要がある。また、それにより多様、多量の医療情報のデータベース化が可能となり、医学研究が推進され、医療の質の向上が図られる。このためには以下の点が特に重要である。
平成13年10月1日付で、電子的請求を限定している「磁気テープ等(フロッピー等)を用いた費用請求の特例」(厚生省令:個別指定制度)は廃止された。しかしながらIT化のメリットを最大限享受し医療事務の効率化を図るためには、レセプトの電子処理方法を確立するべきであり、磁気テープなどによる請求に加え、オンラインによる請求をできるようにするべきである。このため、明確な目標期限、実現のための推進方策、安全対策などを明らかにした計画を平成13年度中に策定し、速やかに電子的請求の原則化を図るべきである。さらに、オンライン化による請求を中心のものとするため、一定期間を定め、それ以降オンライン請求をしないものに対しては、それに伴うコストを負担させる仕組みなどを導入し、オンライン請求を中心とする電子的請求の原則化を図るべきである。
また、オンライン請求を確実かつ安全なものにするためには、プライバシーの保護、セキュリティーの確保などが重要であるが、今日のIT化の進展及び他分野での運用の状況を勘案すれば、短期間でそれら安全面の対策がなされるべきである。
なお、実態を重視し、安全性が十分確保されているとするものについては即時にオンライン請求を可能とするべきである。【平成13年度中に措置(速やかに実施)】
現在、厚生労働省がレセプト電子化のための規格「レセプト電算処理システム」を定めているが、レセプト電子化の普及率は0.4%と低い。レセプトの電子請求を促進し、医療事務の効率化やレセプト情報の有効活用により医療の質的向上を図ることが重要である。
また、病名・手術名・処置名等やそのコードについてのレセプト、カルテの統一化や、それに適したレセプトフォームの規格化を実施し、その普及を促進するべきである。【平成14年度中に措置】
なお、診療報酬点数算定ルールは複雑かつあいまいなものになっているので、その明確化、簡素化を図り、コンピューターで利用可能な算定ルールの確立と周知徹底を行うべきである。
現在のレセプトには複数の傷病名が並列的に記載されており、傷病とそれに対する医療内容の対応関係や、医療サービスが提供された日付、転帰が不明であり、患者が受けた医療内容が明確に分かるものとなっていない。
このため、レセプト記載内容の明確化が必要である。例えば、入院治療に関しては、一定の基準に基づき主傷病、併存症、後発症を区別し、主傷病に応じて医療費を明確にするなど、レセプトの記載事項を見直し、それに基づき具体的に実施するべきである。
これらの情報は医療の標準化の基礎となるものであり、医療機関にとっては自己の医療水準の検証と改善に資することができる。また、保険者における被保険者に対するより良い保健サービス、情報の提供や包括払い・定額払い制度拡大に資するなど、その効果は大きい。また、医療機関、保険者、審査支払機関との間での共通理解が得られ、審査点検効率の向上につながる。
現在、医師、医療機関ごとに病名の表記が統一されていないなど、医療行為に関する情報が蓄積されにくい状況にある。カルテが電子化されることにより、情報の蓄積・分析が容易になり医療の質の向上が図られ、結果として患者に対する医療サービスを大きく向上させる可能性がある。
このため、電子カルテの導入・普及を積極的に促進するべきである。その際、用語・コード・様式の標準化を進め、医師、医療機関が同一のものを使用することが不可欠であり、現在標準化がなされている病名、医薬品名等の普及を促進するとともに、その他の用語の標準化を完成させるべきである。【平成15年度中に措置】
また、カルテにおける用語・コードなどはレセプトにおけるそれと統一したものとするべきであり、将来的にはカルテから機械的にレセプトが作成される仕組みとするべきである。
現在、カルテ等の患者情報は診療を行ったそれぞれの医療機関が管理している。安全で質の高い患者本位の医療サービスを実現するためには、個人情報の保護など一定の条件を備えた上で、患者情報を複数の医療機関で共有し有効活用ができるよう措置するべきである。これにより医療の効率化、医療機関の機能分担・連携の促進が図られる。
現在、診療内容については医療機関や医師ごとにばらつきがあり、患者が安心・信頼できる医療機関の選択が難しい状況である。患者本位の医療サービスを実現するために、診療ガイドラインの作成やデータベースの整備が必要であり、平成15年度中にEBMの提供体制を整備し、速やかにEBMが広く一般的に行われるようにするべきである。
また、患者が自ら診療内容等を理解し選択しやすくするためには、国民用の診療ガイドラインを整備することが必要である。これらは公正で中立な第三者機関が行うべきであり、政府はそのための環境整備を行うべきである。
我が国の医療制度は社会保険を制度の基本としており、患者本位の医療サービスの提供に当たっては、患者のエージェントとしての保険者の役割は極めて重要である。国民の生活レベルが向上し、それに伴う多様なニーズと要求されるスピードにこたえるためには、保険者が被保険者に対してより良い保健サービス・情報を提供し、本来の機能を発揮することが必要である。
そのためには、これまで国が行ってきた運営をなるべく各保険者の自主性にゆだねるとともに、その受皿となる各保険者が被保険者のエージェントとしての付託に応じ、自主自立の意識の下、責任を持ってその機能を十分果たしていくよう、保険者の体質強化が望まれる。また、保険者機能の強化のために、保険者による医療機関、被保険者に対する情報収集が円滑に行えることが必要である。このためには以下の点が特に重要である。
レセプトの審査・支払は本来保険者の役割であり、保険者の自由な意思に基づき、(1)保険者自らが行う、(2)従来の審査・支払機関へ委託する、(3)第三者(民間)へ委託するなど、多様な選択が認められるべきである。このために、健康保険組合などに対して社会保険診療報酬支払基金に審査・支払を委託することを事実上強制している通達(昭和23年厚生省保険局長通達)や医療機関に対して費用請求を審査支払機関へ提出することを義務付けている省令(昭和51年厚生省令)の規定を廃止する場合には、公的保険にふさわしい公正な審査体制と、患者情報保護のための守秘義務を担保した上で、保険者自らがレセプトの審査・支払を行うことを可能とするべきである。
保険者と医療機関は協力して被保険者の健康を守り、傷病からの回復の手助けをするという共通の目的を有しており、効率よく医療制度を運用して被保険者の利益を確保するために、協力していく関係にある。そのためには、保健事業の推進等を通じてより密接な関係を構築するとともに、フリーアクセスの確保に十分配慮した上で、保険者と医療機関がサービスや診療報酬に関する個別契約も締結できるようにするべきである。
保険者が患者のエージェントとしての役割を十分に果たすためには、医療機関や被保険者から必要な情報を入手できる仕組みが整っていなければならない。保険者が審査・支払について責任を負うという体制をとるからには、保険者がこれに必要な情報収集ができることが必要である。これを保険者の強制力をもった権限として構成するかどうかは、なお考慮を要するとしても、保険者が信頼関係に基づき、被保険者の協力を得て被保険者のためにする質問・調査等は現在でも可能であり、これを行政が周知徹底するべきである。被保険者のプライバシーの保護、保険者の守秘義務の確保等は伴って当然の問題である。
保険者は、昨今の厳しい保険財政においては業務のより一層の合理化・効率化が求められる。また一方で、被保険者のニーズに対応するためには疾病予防などの意欲的な保健事業活動が求められる。現在、保険者の運営に関し、多くの認可制、又は届出制が設けられており、機動的な活動が制限されている面がある。財産処分に関する手続など各種許認可手続に係る規制緩和や、保険者間で共同事業が円滑に実施できるようにするなど、保険者の自立的な運営のため、一層の規制緩和等の措置を講ずるべきである。
現在、我が国の診療報酬体系は出来高払いが中心となっているが、コストインセンティブが働きにくく過剰診療を招きやすいといった弊害が指摘されている。一方、包括払い・定額払い方式については粗診粗療を招きやすいといった弊害が指摘されるものの、医療内容が標準化され、在院日数の短縮やコストの削減など、効率的な医療サービスを提供するインセンティブが働くとともに、医療機関ごとの医療費の格差の縮小が期待される。また、診断群ごとの診療が標準化され、質のばらつきを少なくすることを通じてコストを削減することは、医療費の画一的な削減と大きく異なる点である。こうした点に留意し、医療の標準化、情報公開を推進しつつ、傷病の分類方式、対象分野、対象施設要件など、具体的内容、時期を定め検討し、包括払い・定額払い方式(診断群別定額報酬支払い方式など)の対象医療機関などの拡大を平成13年度より計画を明示して、段階的に進めるべきである。
国民の生活水準の向上や価値観・ニーズの多様化により、医療に関する国民の要求水準も上昇し、「自ら情報を集め、自己責任で治療方法を選択したい」、「保険のカバーする範囲を超える分は、自費や民間保険を利用しても納得のいく治療を受けたい」というニーズも強くなっている。国民が負担能力に関係なく適切な医療を受けられる「社会保障として必要十分な医療」はこれまでどおり確保した上で、「サービスとしての医療」という視点から、公的保険診療と保険外診療との併用を行えるようにすることは、患者自らの医療サービスの選択肢を増やすという観点から合理的である。
一方、「特定療養費制度」が導入され、主に「高度先進医療」や「選定療養(差額ベッド、歯科材料の一部、200床以上の病院の初診料など)」が認められているものの、その適用範囲は公的保険カバー範囲全体から見ると厳しく限定されている。
患者本位の医療サービスのためには、「特定療養費制度」の対象範囲の拡大を行うべきである。その際、医療技術の進歩や患者ニーズの多様化等に応じて、患者に対する十分な情報提供を前提とした上で、患者の選択により公的保険診療と保険外診療を併用することができるようにするべきである。
診療報酬、薬価、医療材料価格は、中央社会保険医療協議会で決定されているが、価格の根拠、決定プロセスなど、決定方法について問題点が指摘されている。
薬価については先発品と後発品の算定価格、画期的新薬の算定価格などに関して、開発のインセンティブが働くような適正な算定を行うなど、算定ルールの抜本的な改革が必要であり、また、既存薬の効能について、一定の基準に基づいた再評価を実施し、効能が認められなくなったものの承認を取消すなどの措置を講ずるべきである。また、現在、薬価205円以下(内服1日分、頓服1回分など)の薬剤に関しては、薬剤名などの内訳を省略して薬剤費請求ができる「205円ルール」が存在するが、これを廃止し、内訳を明示した請求とし、医療の透明性を図るべきである。
医療材料については、薬価算定の場合と同様に外国価格参照制度を導入するなど、価格の適正化や流通全体を通じた抜本的な改革による競争政策の徹底など、内外価格差を是正するための所要の措置を講じるべきである。
なお、医療が広く国民にかかわる事柄であることから、価格決定や保険導入の過程の透明化・中立化・公正化を図る観点から、中央社会保険医療協議会等の在り方を見直すべきである。
医療機関の経営形態に関する規制の根拠は、公益性が強い医療サービスについて、営利主体の参入を抑制することにより医療サービスの質を維持するためと考えられてきた。
しかし、持分のある医療法人の財産は、社会福祉法人と異なり、出資者に帰属しており、その資金調達方法は銀行などからの借入れに事実上限定されている。直接金融市場からの調達などによる医療機関の資金調達の多様化や企業経営ノウハウの導入などを含め経営の近代化、効率化を図るため、利用者本位の医療サービスの向上を図っていくことが必要である。このため、今後、株式会社方式などを含めた医療機関経営の在り方を検討するべきである。
医療法人の理事長は医師であるか又はそれ以外の者の場合は都道府県知事の認可を受けなければならないという規制が行われている。病院経営と医療管理とを分離して医療機関運営のマネジメントを行い、その運営の効率化を促進する道を開くため、平成14年度のできるだけ早い時期に、合理的な欠格事由のある場合を除き、理事長要件を廃止するべきである。
医療の技術の著しい進歩の中、安全で質の高い医療を確保するためには、医療従事者の質の確保、能力の向上が不可欠であり、医療従事者個々の専門性に応じて必要な最新の知識及び技能を修得できるような環境の整備が必要である。その方策の一つとして、平成16年度からの医師の臨床研修化に向けた臨床研修制度の改革や生涯教育の充実、研究の促進とその成果の普及などにより、資格取得後の医療従事者の質の確保を図るべきである。
現在、我が国では、出身大学による閉鎖的なネットワーク(医局制度)により、医師の自由な競争と正当な評価がなされていないと言われる。このような状況は早急に改革し、研修期間中は特定の医局(出身大学の医局)に入局せずに研修を行う方策、医師の客観的な評価が可能となる方策、広域で研修にかかる医師と病院をマッチングさせる方策などを可能とするべきである。【速やかに検討開始、平成15年度中に結論】
また、近年、医療事故の遠因として、一部研修医の過酷な勤務の問題が指摘されているが、安全で質の高い医療サービスの確保及び医師の保護の観点から、研修医の働く環境や安全管理の問題について早急に検討し対策を講ずるべきである。
医療分野に従事する専門的な人材の効率的な配置による良質で効率的な医療供給体制の構築が求められる。このため、医療関連業務の従事者の派遣に関する規制の見直しを検討し、結論を得るべきである。
医薬品について、平成11年3月31日に行った15製品群の医薬部外品への移行の実施状況を踏まえ、一定の基準(例えば、発売後、長期間経過しその間に副作用などの事故がほとんど認められないもの、など)に合致し、かつ保健衛生上比較的危険が少ないと専門家等の評価を得たものについて、一般小売店で販売できるよう、見直しを引き続き行うべきである。
介護・保育等の分野の共通課題は、高齢化の進展や働く女性の増加という社会環境の変化の中で、今後、急速に増大する利用者のニーズに対応した制度改革が求められていることである。また、介護や保育サービスの利用者が低所得者層以外にも一層広がり、ニーズの多様化が進むとともに、施設における居住環境の改善を含め、サービスの質の向上も大きな課題となっている。
これに対して、平成12年からの介護保険の開始や同年の社会福祉法(昭和26年法律第45号)の成立により、行政が必要なサービスを国民に「措置」として与えていた公的福祉は、事業者と利用者との間の「契約」を基本として、利用者の自由な選択に基づくものへと制度上は改革された。この結果、介護サービス利用者数は大幅に増加している。一方、新エンゼルプランに基づき保育サービスの供給量も全国的に増加している。他方、地域間の介護・保育需要の格差に見合った供給側の対応が遅れているという大きな問題が生じている。また、地域によっては介護や保育サービスの不足は深刻となっており、介護施設や認可保育所への待機者が多く存在している。
これは、新しい契約の制度と古い措置時代の制度の間に、様々な問題が生じていることによる面も大きい。政府は、介護保険法(平成9年法律第123号)及び社会福祉法の成立・施行後でも、介護等のサービスを含む福祉が「慈善・博愛」事業に含まれるとの憲法解釈を堅持しており、サービスの安定的・継続的な提供のために必要な規制・監督を課せない民間企業に対して、公費による支援を社会福祉法人と同等に行うことはできないとしている。この考え方に基づき、社会福祉法人立の介護等の福祉施設については、民間企業と異なる厳しい規制を受けることから、ストック面の公的助成が行われている。
現行の福祉制度については、情報公開、第三者評価を推進することにより、対等な競争条件を確保する方向へ改革することが必要である。また、NPOや民間企業を含む多様な経営主体の市場参入により、供給の大幅増大や質的向上なされることが、介護・保育政策の大きな目標である。
介護保険制度では、在宅介護分野について、民間企業を含む多様な事業主体の参入が広く認められた結果、事業者間の競争も促進され、消費者にとってはサービスの選択肢が広がった。他方、特別養護老人ホーム等の施設介護分野では、依然民間企業の参入は認められていない。日常生活の支援機能を有する施設において、特別養護老人ホーム等の介護施設と比べ、それと同様のサービスを提供する民間施設やケアハウス、グループホームについては、在宅サービスの延長として、介護保険の給付対象となる途が開かれているものの、介護報酬面で大きな格差が存在している。
これは、施設介護サービスに位置付けられる特別養護老人ホーム等は、居住・食事費等(いわゆるホテルコスト)は介護報酬の対象となっているが、民間有料老人ホームやケアハウスにおいて提供される介護サービスは、「高齢者が自ら選択した住居」を基盤とした在宅サービスとして位置付けられており、その入居者のホテルコストは介護給付の対象とされていないためである。
また、長期的には、医療保険診療報酬と同様に、介護報酬で施設整備費用を賄うこととし、これを社会福祉法人への施設整備費補助に代替する考え方もある。なお、既に、現行法でも、特別養護老人ホームを整備する社会福祉法人については、その施設整備の際に必要な資金(全体の4分の1)の一部を融資により調達し、それを介護報酬から返済することが可能とされている。
契約という利用者の選択にゆだねられる介護保険制度では、特別養護老人ホーム等と民間有料老人ホーム、ケアハウス等のうち、どのようなサービスを受けるかは利用者自らが選択できる。このため、資格制度の整備、事業形態の違いに基づく規制、介護サービスの標準化ばかりではなく、情報公開の徹底、契約の監視及び第三者評価等の事後的規制の整備を図っていくことが重要である。
保育の問題に関しては、何が子どもの幸せかを第一に考えなければならないが、特に低年齢児を中心に、認可保育所を利用できない「待機児童」や、休日保育などを必要とする児童を含め、認可外保育施設を利用せざるを得ないという児童も多数存在する。こうした状況は、子どもの幸せという観点から見て十分な状況とは言い難い。保育行政に関しては、法令上、認可保育所に対する児童福祉施設最低基準と、認可外保育施設に対する指導監督基準という2つの性格の異なる基準があり、それぞれの目的に従って運用されている。
いずれにせよ、提供されるサービスの質を考慮すれば、認可・認可外保育所利用者間の負担格差が生じている。
このような状況を改善するため、認可外保育施設から認可保育所への転換を促す規制緩和が進められているが、都市部における土地の取得が困難であることなどから、その効果はまだわずかなものにとどまっている。
他方、現在、「営業の自由」の原則の下で認可外保育施設における乳幼児など社会的弱者の安全や人権を守るためには、指導監督を徹底する必要がある。また、公設民営の積極的な活用などを通じ、質の高い保育所の量的拡大を図ることが必要とされる。
介護・保育サービスの主要な担い手としての社会福祉法人は、質の高い福祉サービスを継続的・安定的に供給することに大きく貢献しており、今後もその果たす役割は重要である。しかし、経営主体の差にかかわらず、事業者間の同一条件での競争を前提とした公的介護保険が開始された今日、公設民営方式を含む多様な民間企業の活用を図ることが必要である。これまでにも社会福祉法人に対する規制の緩和が行われてきているところであるが、更なる取組を進め、既存の社会福祉法人を含めた多様な経営主体の間で、できる限り同一条件での競争を促していくことが必要である。
特別養護老人ホーム等の介護施設では、入所者の居住性に配慮した個室化を推進することが求められている。この場合においては、特別養護老人ホームの入居者は、居住環境が抜本的に改善されることから、従来の介護・食事に係る利用者負担のほか、ホテルコストを原則として利用者負担として徴収するよう見直しを行うべきである。また、そうした負担に耐えられない低所得者層については、一定の配慮を検討すべきである。
「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)」(平成11年法律第117号)を活用した公設民営方式は、官民の契約に基づいて、PFI事業者が施設を建設し、地方公共団体がそれを取得した上で、これを当該PFI事業者に運営させるものである。その取得費用については、新たに国庫補助の対象とされたところであり、このほか、「公有財産を無償又は時価より低い対価で選定事業者に使用させることができる」とされているPFI法第12条第2項を活用していくべきである。また、地方自治法(昭和22年法律第67号)第238条の4第1項では、行政財産の貸付けは禁止されていたが、先の臨時国会においてPFI法が改正され、特例措置が講じられたところである。これらにより、PFIを活用した公設民営を促進するべきである。
社会福祉法第62条第2項では、公的部門や社会福祉法人以外の者がケアハウス等の社会福祉事業を行おうとする場合、都道府県知事の許可が必要とされている。これまでは、設置・経営主体として株式会社等の民間事業者が挙げられていなかったため、民間事業者の参入が事実上阻害されていたが、先般、関係通知の改正により、法人類型を問わず、都道府県知事の許可によって設置・経営主体となり得ることが明記されたところである。
痴呆性高齢者グループホームについては、平成13年度よりNPO法人等が施設整備を行う際の財政支援について予算化されたところであるが、併せて、同一敷地内では3ユニット以内に抑制されること、認可の際には市町村の意見書が必要とされることなど、新たな規制が加わっている。密室性が高く、利用者保護の体制整備が特に求められるグループホームにおけるケアの質を確保するためには、今後とも情報公開等を推進していくべきである。
公的部門、社会福祉法人、民間企業等といった経営主体にかかわらず、利用者やその家族が事業者を選択する際に活用できるチェックリストの作成などにより、介護事業者の情報公開義務を適切に果たさせるとともに、第三者評価を推進するべきである。また、消費者利益の観点から、その運営に関する監視体制の強化を図るべきである。
要介護者の様々なケースに対応可能とするために、介護職の養成研修を一層充実させるなど、介護福祉士やホームヘルパー等の介護職の資質向上を図る措置を講じ、要介護者のニーズに的確にこたえることの可能な介護職の育成を図るべきである。
現行の高齢者介護を行う代表的な施設には、特別養護老人ホームのほかに、在宅復帰に重点を置いた介護老人保健施設がある。特別養護老人ホームの全室個室・ユニットケア化といった居住条件の改善が進められる中で、介護老人保健施設についても、入所者にとっての生活の場である特別養護老人ホームとは性格が異なることにも留意しながら、療養環境の改善を図っていくべきである。【平成14年度中に措置】
また、医療保険と介護保険が重複して適用されうるサービスについては、介護保険が適用されると医療保険からの給付は受けられない仕組みとなっている。しかし、一部の医療サービスについては、主治医の「特別指示書」があれば、2週間は医療保険からの給付が受けられるため、本制度が濫用されているとの指摘もある。したがって、こうしたサービスに関する医療保険給付の適用範囲については、一層の周知徹底が必要である。【平成13年度中に措置】
社会福祉法の成立とあいまって、障害者福祉サービスについては、平成15年度より障害者に対する支援費制度へ移行することになった。これは従来の障害者施設や在宅サービスの内容が行政処分として定められた措置制度とは異なり、障害者自身がサービス内容と事業者を選択し、事業者との直接契約によりサービスを利用する仕組みである。
市町村は障害者の受けたサービスに対して支援費を支払うとともに、利用者は事業者に対して、本人及び扶養義務者の負担能力に応じた自己負担額を支払うことになっている。
こうした支援費制度により、利用者の選択肢が広げられることは評価されるものの、高齢者を対象とした介護保険制度との関連では、40歳以上65歳未満の障害者は介護保険の被保険者とされているにもかかわらず、加齢に伴う疾病によって介護を要する状態とならなければ、介護保険の給付は行われず、給付面は支援費制度となっている。この意味では、支援費制度について、介護保険制度の見直しと合わせて、両制度の関係についての抜本的な検討が必要である。
現在の保育はニーズの急速な増大とその多様化に、特に都市部等で供給が追いつかないことが大きな問題となっている。最近では、認可保育所では、定員数の増加や保育内容の多様化への努力が図られているものの、それが現実の需要増加のスピードに対応できない事態となっている。さらに、働く母親が増えている一方で、その就労条件も変化しており、保育時間の延長や休日保育などの新しい保育ニーズを増大させている。そのため、早朝や深夜からの長時間労働の親を持つ子どもたちが、認可保育所で十分対応できないため、ベビーホテルなどに預けられ、命にかかわる事故が起こるような事態となっている。
このような中で、一人でも多くの就学前の子どもたち及び小学校に通う児童に対して質の高い保育を増やすことが急務となっているが、保育に関する規制改革の目的は、子どもたちの発達を保証する質の高い保育の供給を迅速に増やすために、子どもたちを守るための必要な規制を残した上で、不必要な規制を廃止することにある。
保育サービスの不足に早急に対応できる措置として、認可保育所における受入れ児童数の増がある。特に公立保育所を中心に、待機児童の多い地域においては、定員基準の弾力化等を一層推進する必要がある。また、一定の設備にかかわる設置基準等については、その見直しを検討する。さらに、分園の積極的促進を図ることにより、サービスの質を確保しつつ供給量の拡大を図るべきである。【直ちに検討に着手、逐次実施】
保育サービスの増加を抑制している要因として、地方公共団体が財政状況の制約の中で、新たな認可保育所の運営費を捻出しにくいことが挙げられる。他方、地方公共団体によっては、国の設置基準以上の基準を導入し、補助のかさ上げを行っているため、その財政負担が重くなり過ぎているという側面もある。限られた財源を有効に活用し、一人でも多くの子どもを認可保育所に入所させるためにも、保育環境の質を下げることがあってはならないが、地方公共団体が合理的でない基準の上乗せや補助のかさ上げをすることのないことが望まれる。
さらに、待機児童の多い地域における定員基準の弾力化、認可基準等に適合した保育所についての迅速・的確な認可などにより、保育需要があるにもかかわらず認可保育所の供給を抑制しないことが必要である。このため、既に実施された規制緩和措置については、地方公共団体に対し、早期かつ逐次、周知徹底を図るべきである。【平成13年度中に措置(直ちに実施)】
公立保育所に関しては、社会福祉法人等が運営する認可保育所に比べ、運営コストがかかるだけでなく、利用者のニーズへの迅速かつ的確に対応できないとの問題を抱えている。このため限られた財源を有効に活用し、かつ社会のニーズに応じた保育を実施するという観点から、公立保育所の運営については、社会福祉法人やNPO、民間企業等へ民間委託することも有効な処方箋と考えられる。
また、先の臨時国会においてPFI法が改正され、行政財産に関する規制の緩和が行われたところである。介護施設と同様、PFI方式を活用することなどにより、学校の余裕教室等、活用されていない公的施設・土地を積極的に活用して保育所にするなど、潜在的資源に着目して公設民営を促進するべきである。
民間企業が効率的な経営の結果として得た剰余金が、さらに保育の事業拡大のインセンティブを阻害しないよう、関係通達の見直しを図り、会計処理の柔軟化を進めるべきである。
認可外保育施設には、実際に20万人以上の子どもが通っている。基本的には都市部に多いが、沖縄は歴史的経緯もあり、認可外保育施設に通う子どもの数が、認可保育所に通う子どもの数を上回っている。認可外保育施設の中には認可保育所に匹敵する質の高さを誇るものもあれば、いつ事故が起こってもおかしくない低レベルのものまで混在している。こうした施設における乳幼児など社会的弱者の安全や人権を守ることは、保育行政の重点事項となっている。
このため、先の臨時国会において、児童福祉法(昭和22年法律第164号)の改正が行われ、認可外保育施設に対する地方公共団体への届出、毎年の運営状況の報告、設備運営に係る掲示・利用者への書面交付が義務付けられた。また、地方公共団体は、毎年認可外保育施設に係る運営状況や立入調査結果を公表することとされ、悪質な施設に対する勧告・公表を行うことができることとなった。さらに、都道府県と市町村との連携も強化されることとなった。こうした法改正の趣旨を周知徹底するとともに、認可外保育施設に対する指導監督の徹底を図るべきである。
こうしたことに加え、保育所、保育ママ、地方公共団体における様々な単独施策(例えば、東京都の認証保育所や横浜保育室等)等を活用し、待機児童の多い都市を中心に受入れ児童数の増大を図ることになっている。
認可保育所においてもその保育の質・内容は多様であり、利用者が安心して保育所を選ぶことが可能になるだけでなく、運営側もそれを参考に更なるサービスの質の向上が図れるよう、現行法令を適切に運用し、経営主体にかかわらず、保育所の情報公開を進めるべきである。また、第三者評価については、ガイドラインを作成し、その取組を促進する仕組みを整備するべきである。
就学前児童の保育と教育の多様なニーズに的確に対応できるよう、保育所と幼稚園等の教育施設との施設の共用化(文部省・厚生省による平成10年の指針)を促進し、運営や施設利用の面で一層連携を深める必要がある。ただし、運営においては現在の親の就労や子育ての実態に即し、社会のニーズにこたえるものにしなくてはならない。
また、多様な保育ニーズにこたえる観点から、幼稚園における預かり保育の拡充を図るべきである。
平成9年の児童福祉法の改正や平成11年の保育所保育指針の改訂等を踏まえ、地域の子育て支援など時代の要請に沿った資質を持つ保育士を養成することができるよう、保育士養成所(短大、大学、養成施設)における養成課程等について見直しが行われた。
しかし、養成課程の見直しと併せて、保育士の卒後研修についても、保育士の質を維持・向上するといった視点から、研修内容をインターネットで提供すること等により、現場の保育士が学びやすい仕組みを検討すべきである。
また、保育所に配置すべき保育士定数について、平成10年から一定範囲で短時間勤務の保育士を充てることが認められたところであるが、その後も、延長保育、休日保育、年度途中入所など、保育需要が多様化かつ増加しており、これらに保育所が柔軟に対応できるようにする必要がある。これは、いったん離職した保育士が再び保育現場で活躍できる環境を作ることにも資するものであり、現在、短時間勤務保育士は2割以内としている規制の一層の緩和について検討すべきである。
なお、先の臨時国会において、児童福祉法の改正が行われ、認可外保育施設を含めた保育の質の向上のため、保育士の資格を国家資格とし、業務の定義、知事による試験・登録の実施等に関する規定を整備し、保育士でない者が保育士を称することを禁止する(保育士の名称独占等)等の措置が講じられたところである。
児童福祉法の改正により、平成10年4月から、保護者が保育所を選択して利用できる仕組みに改められるとともに、保育所も保護者の依頼を受けて、申込書の提出を代行できることとされた。しかしながら、市町村が審査事務を行い最終調整の上、保育所への入所決定を行う仕組みは、改正前の制度と変わっていない。
こうした新しい入所方式の実施状況、待機児童の状況、介護保険や障害者支援費方式の実施状況等を踏まえ、長期的には、保護者が直接保育を希望する保育所に申し込み、当該保育所が審査・決定を行うことができないか、その可否について検討すべきである。
また、利用者と施設との直接契約を検討する際には、保育の質の確保に留意しつつ、保育所に対する補助ではなく、利用者への直接補助方式の導入ができないか、その可否についても長期的に検討すべきである。
大都市周辺部を中心に、小学校低学年を中心とする子どもたちの放課後の受入れ体制が不足している。このため、放課後児童クラブや地域のすべての児童に居場所を確保する事業など、放課後児童の受入れ体制を計画的に整備すべきである。その際には、学校の余裕教室等も活用し、また、小規模な放課後児童クラブ(10人以上20人未満)への支援、長時間の開設や学校週5日制に対応した土日祝日の開設の促進を図るべきである。
社会福祉法人は、憲法第89条において、慈善・博愛事業について公の支配に属するもの以外への公金の支出が禁止されているとの解釈に基づき、公的助成が可能となるよう社会福祉法に基づき設置される特別な法人である。社会福祉法人は、様々な規制・監督を受けるとともに、施設整備費の4分の3の補助や税制上の優遇措置などが講じられている。
また、社会福祉事業を安定かつ継続して行っていくために、設立者がその社会福祉法人への寄付財産を回収することは禁止されており、法人解散の場合には、その財産は他の社会福祉法人か国庫に帰属することとされている。近年、社会福祉法人の多様化が進む中、利用者の立場に立って、社会福祉法人に関する規制改革を一層推進していく必要がある。
これまでに、社会福祉法人に関する規制緩和が進められてきた結果、社会福祉施設の整備に当たっては、都市部等の用地取得が困難な地域では、借地も認められるものとなっている。また、限られた範囲内ではあるが、介護報酬に基づいて運営される社会福祉法人については、施設整備に伴う融資の返済に充てることも容認されている。こうした既に行われた規制緩和措置について、地方公共団体に対し一層の周知徹底等を図るべきである。
さらに、今後とも、担当行政部門間の円滑な調整を図り、行政の不整合をなくし、社会福祉法人のより効率的な運営や、そのサービスの供給拡大を図っていくことが必要である。
社会福祉法人の在り方について、現行の方式だけでなく、多様な形態の社会福祉法人の在り方について検討を開始するべきである。【直ちに検討を開始し、平成13年度中に結論】
また、社会福祉施設の運営費の剰余金については、依然として厳格な使途制限が存在しており、業務の性格に応じて、社会福祉法人の在り方を踏まえつつ、検討する必要がある。
現在、社会福祉施設の運営費については、施設利用者の生活費と施設職員の人件費及び施設管理費から構成され、原則として公費により賄われてきたが、この剰余金の使途については、一定の範囲内で、引当金等として積み立てることが認められている。また、保育所については、これが特例的に土地建物の賃貸料等にまで拡大されている。さらに、特別養護老人ホームの介護報酬収入について言えば、サービスの対価としての報酬の性格にかんがみ、その使途の制限を基本的に撤廃している。
しかし、運営費の剰余金の使途については、依然として制約が大きいため、厚生省の関係通知(平成5年)を、例えば、以下の点について早急に検討すべきである。
本部会計への繰入れの対象範囲、人件費・修繕費・備品等購入引当金等の上限
社会福祉事業と公益事業との資金移動や、同一の法人が経営する複数の施設・事業間での運営費の繰入れ
社会福祉法人が本来の施設に加え、公的補助の対象とならない追加的な施設を整備する場合、それを担保に借入れを行うこと
【平成15年度中に結論】
消費者の選択の幅を拡大するとの観点から、社会福祉法人について株式会社並みの公認会計士等による会計監査等の一層の普及を図るなど、情報公開のための基準の強化を図るべきである。また、社会福祉法人の公益性にかんがみ、収支決算書、事業報告書、監事の意見書等は、インターネット上での公開を促進するべきである。
市区町村社会福祉協議会は、社会福祉施設、民生委員、ボランティア等の参加を得て、地域福祉の実施主体としての役割を果たしてきた。また、介護サービスが未整備な公的福祉の時代から、自らサービスを実施する事業型社会福祉協議会の取組が進められてきた。
また、社会福祉協議会においては、サービス利用者を支援する地域福祉権利擁護事業や利用者保護のための苦情解決について、第三者から構成される運営適正化委員会を設置して行っており、高齢者等の権利擁護の役割を果たすこととされている。
平成12年に改正された社会福祉法において、市区町村社会福祉協議会は、地域福祉の推進のための中心的な役割を担うことが明確にされた。このため、社会福祉協議会については、他の民間事業者、社会福祉法人では行いにくいサービスについて、重点的に取り組んでいく役割を担うべきである。
なお、在宅福祉サービスの実施に当たっては、公的助成のみに依存することなく、当該地域におけるサービスの実態を踏まえて、ほかの事業主体の参入による競争を妨げることのないよう、適切な運営に努めることが必要である。
長期的な経済・社会の構造変化の下で、労働市場の状況や雇用の在り方は大きく変わってくる。これに伴って雇用・労働市場をめぐる規制の在り方も変化する。人材(労働)分野の規制改革の基本視点はここにある。
まず人口の構造変化、すなわち人口高齢化に伴い、個人の職業人生は長くなる。年金支給開始年齢の引上げなどを考えれば、少なくとも60代中盤までは本格的に働かなければならない。一方で、経済のグローバル化に代表される国際競争環境の変化、消費者選択の多様化に代表される国内競争環境の激化、さらにはIT化に代表される技術構造の急速な変化などにより、個別企業、産業の栄枯盛衰のテンポは速くなる。結果として、個々の企業あるいは産業が労働者に対して保障できる雇用期間は短くならざるを得ない。
個人は雇用を守れなくなった企業から、人材を必要とし、雇用を増やそうとする企業へ移動することで長い職業人生を全うしなければならない。特にこれまでピラミッド型の人口構造の中では、経済の衰退部門から成長部門への労働力の比重移動は、主として若者の就職行動を通じて実現していたが、若年人口の激減するこれからは、主として中高年労働者の企業間・産業間移動を通じてこれを実現しなければならなくなる。就職から定年退職まで一企業で雇用を保障するのではなく、労働市場を通じて雇用を保障していく体制への移行が必要となる。
また、これまでは典型的な労働者像を基に労使関係や労働基準などの枠組みを考えてきた。雇主の指揮命令に従って、定時に仕事を始め定時に仕事を終わるようなタイプの仕事をする、常用労働者である。そうした中で、労働条件等は、雇用主と労働者との交渉上の地歩の乖離を前提として、集団的に決定されてきた。
しかし産業高度化に伴い、高度な専門能力を有するホワイトカラー層なども増えてきており、能力・成果主義賃金の浸透など、労働条件の個別決定化も進んできた。また個人の就労意識の多様化から、生活と仕事のバランスを考えて、パートタイム労働や派遣労働などを選択する個人も増えている。
こうした新しいタイプの労働者像に対しては、従来型の規制は必ずしも適切とは言えなくなっている。これは企業側にとって雇用しにくいというだけでなく、多様な形で働きたいと考えている個人にとっての選択肢を制約するという点でも問題となる。もちろんこうした変化に対応して、労働政策においても雇用の選択肢を拡大し、多様な就労形態を許容するための規制改革に取り組んできてはいる。しかし経済が急速に変化する中でその改革は必ずしもこの急速な変化に対応し切れているとは言えない。
以上のような観点から、経済・社会の構造変化に対応して雇用・労働市場の規制の在り方も、より市場を通じた雇用保障を拡充し、多様な就業・雇用形態に対応し得るような形に改革していく必要がある。
上記のような観点から人材(労働)分野においては、以下のような基本的な考え方により、今後検討を進めていくこととする。
一つは、円滑に人材の移動が行われるための労働市場システムの整備である。例えば、就職情報が行き渡って転職や就職のガイダンスを受けやすく、転職や一時的失業のコストが過大でなく、必要に応じて能力開発の支援があり、職業復帰がしやすい制度作りといった労働市場の条件整備である。その中には、募集・採用における年齢の制限緩和等も含まれる。
二つ目は、一を補完するものであるが、有期労働契約、派遣労働などの雇用の選択肢を更に拡充し、働きやすい・雇いやすい環境作りを進めることである。これは、個人の就労意識・価値観の多様化に対応する上でも重要であり、女性の社会進出の円滑化にも貢献する。また、労働形態による損得を生じさせないよう、あるいは女性の就業意欲を阻害しないよう、社会保険制度等を見直す必要がある。
これらの課題は、国際競争が激化する中、さらに本格的な少子高齢化社会を迎える中で喫緊の課題であり、法律の改正を伴わないものは可及的速やかに、法改正を伴うものであっても早期に実現することが極めて重要である。
また、将来に向けた課題として、高度な専門能力で仕事をするような新たな労働者像に対応した制度作りや解雇基準の明示化等、21世紀にふさわしい労働市場システムの整備についても早急に検討に着手することが必要である。
労働者の就業機会を拡大するためには、能力開発を促進し労働者のポテンシャルを向上させることが効果的である。今般、教育訓練給付制度については、大学・大学院等における高度な社会人向け教育訓練コースの指定拡大、職業との関連性確保等による講座の重点化等講座指定の在り方の見直しが図られたところであるが、労働市場全体のポテンシャル向上という見地からは、制度創設以来の運用実態等を踏まえ、支給対象者の範囲なども含め、教育訓練給付制度等の在り方についてさらに検討することも視野に入れる必要がある。
また、今後においても、キャリア・カウンセリングや職業能力評価制度の拡充、資金の貸付制度等の活用の促進等、個人の自発的な能力開発に対する支援を強化すべきである。
求職者からの手数料徴収の禁止は、我が国が批准するILO第181号条約にも定められた原則であり、一面で労働者保護に資するものではあるが、無料原則を貫くことは良質な求職者向けのサービス提供を妨げる面もある。多様な求職者のニーズに合致した職業紹介サービスを事業者が幅広く提供できるよう、求職者からの手数料徴収をILO第181号条約と職業安定法(昭和22年法律第141号)に定める例外の範囲内(求職者の利益となる場合には例外を認める)において可能な限り認める方向で、年明け早々に省令改正を行うべきである。具体的には、既に手数料徴収を認められているモデル、芸能家に加え、特に、いわゆるヘッドハンティングの対象となるような求職者、例えば一定以上の収入を得られる経営管理者層・プロフェッショナル等の求職者から徴収する手数料についてはその規制を撤廃すべきである。
求人企業から徴収する手数料は、求人企業と紹介会社との間で締結される企業間契約の問題であり、労働者保護の観点からその上限を規制すべき積極的理由はないとの意見もあり、求人企業から徴収する手数料の上限に係る現行の大臣基準の廃止も含め検討し、年明け早々に措置すべきである。
その際、トライアル雇用紹介<仮称>(トライアルの有期雇用に引き続き、求人者、求職者の合意を条件に「期間の定めのない雇用」を成立させることを予定して行われる職業紹介)が実施可能であること及びその方法について明確化を図るべきである。
職業紹介制度については、改正職業安定法施行3年後(平成14年12月)の見直し規定にかかわらず、調査検討が開始されたところであるが、学校等以外の者の行う無 料職業紹介事業の許可制については申請者の存立目的、形態、規約等から必要かつ適当であると認められる範囲の職業紹介を行うものであることを許可要件とする等、裁 量行政の余地を残しているという点で問題があるとの指摘もある。許可制を届出制に改め行為規制(事後規制)に徹することも視野に入れて検討を行い、可及的速やかに 法改正を行うべきである。
また、昨今の深刻な雇用情勢の下では、国・地方・民間等あらゆる機関の職業紹介能力を十分に活用する必要がある。地方公共団体が行う無料職業紹介が「事業」として行われるものでない場合には、従来からもこれを禁止せず、公共職業安定所からの求人情報の提供等の支援が行われているところであり、引き続き、地方公共団体が必要に応じて行う無料職業紹介については、より円滑にこれを行うことができるよう更なる支援の強化を図るべきである。
自ら求人・求職を受理せず、求人・求職の申込みを勧誘する業務等、職業紹介事業の「付帯業務」のみを行う事業は、職業紹介事業の許可・届出を必要としないが、許可・届出を必要とする求人・求職の受理と、これを必要としない求人・求職の申込みを勧誘する業務等との境界が明確でないとの指摘もある。職業紹介事業者が許可事業所を持たない地方においてもUターンの求人開拓等を円滑に行うことができるよう「付帯業務」の定義を明確化すべきである。
特定求職者雇用開発助成金を始めとする雇用関係助成金については、公共職業安定所の紹介要件を緩和し、都道府県労働局長への届出により、民間の職業紹介事業者の紹介による雇入れも支援対象とする措置が講じられたところであるが、不正防止にも留意しつつ、今後とも、要件緩和の趣旨・内容等の周知徹底を図るべきである。なお、こうした助成金の在り方そのものについても、費用対効果の観点からその見直しを検討すべきである。
また、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に定める就職促進給付のうち再就職手当の一部及び常用就職支度金についても、不正防止等の観点から公共職業安定所の紹介が支給要件とされているが、厳しい雇用保険財政に留意しつつこれを緩和することの可能性も含め、その在り方について検討すべきである。
職業紹介制度全体について調査検討が開始されたことに合わせて、「規制改革推進3か年計画」に記載された下記の項目についても検討を行うべきである。
職業紹介責任者の設置要件(人数)の見直し
その際、責任の所在を明確にするためにも、職務内容の見直しを前提に、1事業所につき1人とする方法も含め検討すべきである。
人事異動の都度必要とされる同責任者の変更手続の簡素化
講習制度について、その在り方及び講習内容の見直し
国外にわたる職業紹介に係る許可申請要件の緩和については、相手先国の関係法令及び日本語訳の収集手続を簡素化すべきである。
職業紹介制度全体の検討に合わせて、委託募集の許可制については、平成11年の法改正の施行状況、諸外国の状況等を踏まえ、許可制の在り方について検討を行うべきである。
また、その際、「規制改革推進3か年計画」で「中長期的に見直し」とされている労働者募集の規制に関する抜本的見直しについても留意すべきである。
本年9月に策定した改正雇用対策法に基づく「指針」においては、求人企業が募集・採用において年齢要件を課す場合にはその理由を明示することを求めており、年齢制限に関して一定の対応が図られたところである。当面は当該指針に関する指導の徹底を図るとともに、適宜指針において年齢上限の設定を認めている例外規定の妥当性についても検討すべきである。さらに、中長期的には、法律によって、例えば年齢上限の設定を行う企業に対してその理由を説明する義務を課すこと、あるいは年齢制限そのものを禁止することについてもその可能性を検討すべきである。なお、公務員については率先して年齢制限の撤廃を検討すべきである。
また、労働者派遣法(昭和60年法律第88号)は、労働者派遣の際に派遣元が派遣先に「派遣労働者の年齢及び性別」を通知しなければならないと省令で定めているが、法令遵守のため特に必要と考えられる場合にのみ通知義務を課す方向で、省令を改正することを検討すべきである。
募集・採用においては、人種・信条・社会的身分を理由とする差別禁止の法制化を検討することも必要である。労働基準法(昭和22年法律第49号)第3条は国籍・信条・社会的身分を理由とする労働条件の差別を禁止しているが、その「労働条件」には採用を含まないというのが現在の一般的な考え方である。しかしながら、男女雇用機会均等法(昭和47年法律第113号)の強化や雇用対策法(昭和41年法律第132号)の改正等、募集・採用についても法規制の対象とする考え方が次第に広まりつつある。また、経済のグローバル化が急速に進む中、従業員の構成や人種や宗教等にとらわれないものにしていこうとする動きも見られる。人権擁護推進審議会による「人権救済制度の在り方について」の答申も、人種・信条・社会的身分などを理由とする雇用差別に対する人権救済制度の整備について言及している。こうした時代の変化をも踏まえつつ、法制度の見直しを含め、募集・採用差別をより広く制限・禁止する方向で検討を開始すべきである。
労働者派遣制度については、昨今の雇用情勢の急速な変化を踏まえ、労働者の働き方の選択肢を広げ、雇用機会の拡大を図る等の目的から、派遣事業許可制度の在り方、派遣期間の延長や「物の製造」の業務の派遣禁止の撤廃等を含めて、法施行3年後(平成14年12月)の見直し規定にかかわらず、労働者派遣法の見直しに向け既に開始されている調査・検討結果を踏まえ、可及的速やかに法改正を行うべきである。
派遣労働者にも、他の労働者と同様に職業選択の自由が認められるべきであり、就くことのできる職種(業務)や働くことのできる期間が制限されていることは問題があることから、対象業務や派遣期間の制限については、これを原則として撤廃することが望ましいとの考え方に留意すべきである。
なお、法改正の検討に際しては「規制改革推進3か年計画」にあるように、派遣労働者の声に留意すべきである。
本来常用雇用代替の防止を目的として派遣期間を1年に制限することに合理性はないとの指摘もあり、これを撤廃することも含め検討すべきである。その際、派遣期間の制限については、旧適用対象26業務と同様の取扱いとすべきであるとの指摘があることにも留意すべきである。
なお、今般成立した「経済社会の急速な変化に対応して行う中高年齢者の円滑な再就職の促進、雇用の機会の創出等を図るための雇用保険法等の臨時の特例措置に関する法律」は、その内容が45歳以上の中高年齢者を対象とした派遣期間の延長にとどまる限定的なものとなっているが、現下の深刻な雇用情勢にかんがみ、その確実な施行を図るべきである。
派遣労働の対象となる業務については一層の拡大を図るべきであるが特に以下の点について見直しを図るべきである。
現行派遣法は、附則において、当分の間「物の製造」の業務について派遣事業を禁止しているが、製造業務の派遣事業に係る他国の状況も踏まえながら、これを解禁することも含め検討すべきである。
現下の深刻な雇用情勢にかんがみ、上記の法改正に至るまでの緊急措置として現在3年の派遣が認められている業務(旧適用対象26業務)の範囲を拡大する等、法改正を必要としない見直しについては今年度中に検討・結論を得るべきである。
その際、「規制改革推進3か年計画」が「営業や販売等、専門性の高い業務について、旧適用対象業務(いわゆる26業務)の範囲を拡大することにより3年程度の派遣を認めること」について調査・検討を求めていることにも留意しつつ、検討を行うべきである。
紹介予定派遣の円滑な運用を妨げている派遣先による派遣労働者を特定することを目的とする行為の禁止等については、平成13年9月に求人・求職の意思等の確認と求人条件等の明示の行為が認められる期間を、派遣就業終了予定日の1週間前から2週間前に前倒しする措置等が採られたところである。
しかしながら、紹介予定派遣を通常の派遣と同様の規定で律することには限界があり、実態調査等を踏まえ、紹介予定派遣の円滑な運用を妨げている阻害要因を取り除く方向で、上記労働者派遣法の見直しと合わせて、法制度を含む現行制度の見直しを検討すべきである。
派遣元責任者の選任の在り方について、労働者派遣制度全体の見直しに合わせ検討すべきである。
労働者派遣に係る手続の簡素化について、労働者派遣制度全体の見直しに合わせ検討すべきである。
派遣先事業主から派遣元事業主への通知について、労働者保護にも留意しつつ、労働者派遣制度全体の見直しに合わせ、電子媒体による通知も可能とすることを検討すべきである。
複合業務について主たる業務が旧適用対象業務の場合及び月初や土日のみ等、派遣日数が限られている場合に旧適用対象業務と同様に取り扱うことについて、労働者派遣制度全体の見直しに合わせ、その可能性を検討すべきである。
改正労働基準法は、有期労働契約の契約期間を最長3年とすることを認めたが、60歳以上の高齢者と労働契約を締結する場合を除き、高度の専門的な知識、技術又は経験を有する等の要件が課せられている。
労働契約期間の上限を現行の3年から5年に延長し、適用範囲を拡大する等の方向で、早期の法改正に向けて調査検討が開始されたところであるが、働き方の選択肢を増やし、雇用機会の拡大を図るためにも、速やかに検討を進めるべきである。【速やかに検討】
また、当面の措置として、大臣告示によって定められた専門職の範囲については、その範囲を一層拡大する方向で見直しを行うべきである。【平成13年度中に措置(速やかに実施)】
労働に対する価値観の多様化に対応して、労働者がより創造的な能力を発揮できる環境を整備する観点から、自己の裁量の下で自由に働ける裁量労働制を拡大する必要がある。
専門業務型裁量労働制については、当面の措置として、研究職、SE、放送等のプロデューサー、コピーライターなど11の対象業務に限定されているが、これを年度内に拡大すべきである。【平成13年度中に措置(速やかに実施)】
また、企画業務型裁量労働制については、当該制度に係る改正労働基準法施行3年後(平成15年4月)の見直し規定にかかわらず、調査検討が開始されたところであるが、実態調査を踏まえ、現行規制のどこに問題があるかを明確にした上で、法令等の改正に向けて速やかに検討を進めるべきである。【見直し前倒し】
なお、事業場における業務の実態については、当該事業場の労使が最も熟知していることから、将来的には、裁量労働制の対象業務の範囲についても、これら事業場における労使の自治にゆだねる等の方向で制度の見直しを図ることが適当であると考える。
労働基準法は労働契約の根幹を規定する基本法として、戦後50年余にわたり累次の改正を経つつ、我が国労働者の生活の安定と生活水準の維持向上を図る上で大きな役割を果たしてきたと言える。しかし冒頭に述べた経済社会の構造変化によって、雇用の在り方にも大きな変化が生じている。特に、高度の専門能力を有するホワイトカラー層などの新しい労働者像に、定型労働を行う労働者を念頭に置いた規制を一律に課すことは適切ではない。
こうした構造変化を踏まえ、新たな時代の雇用関係を規定する基本法とするために労働基準法の見直しを図っていく必要がある。
現行の裁量労働制は、みなし労働時間制を採用しており、労働時間規制の適用除外を認めたものではないが、その本質は「業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し当該業務に従事する労働者に対し具体的な指示をしないこと」にあることを踏まえると、管理監督者等と同様、時間規制の適用除外を認めることが本来の姿であると考えられる。
よって中長期的には、米国のホワイトカラーエグゼンプションの制度を参考にしつつ、裁量性の高い業務については適用除外方式を採用することを検討すべきである。なお、その際、現行の管理監督者等に対する適用除外制度の在り方についても、深夜業に関する規制の適用除外の当否を含め、併せて検討すべきである。
また、解雇について、労働基準法は予告手続等を規定しているだけで、解雇そのものは、現在のところ、いわゆる解雇権濫用法理を始めとする判例法で規制されている。しかし、解雇の有効・無効に関する労使双方の事前予測可能性を高めるためにも、解雇の基準やルールについては、これを立法で明示することを検討すべきである。なお、解雇ルール等の明示に当たっては、これが労働市場に与える影響についても留意することが適当であると考える。
就労形態の多様化に対応した社会保険制度の改革等を速やかに検討する必要がある。
パートタイム労働者と派遣労働者に対する雇用保険の適用拡大については、本年4月に措置が採られたところであるが、年金・医療保険においても、パートタイム労働者への適用拡大について早急に検討すべきである。派遣労働者については就業実態等を踏まえた健康保険組合の設立を認めるとともに、適用基準の明確化等を行うことについて早急に検討を進めるべきである。また、雇用保険法は原則としてすべての民間被用者を対象とした制度であり、現在、低い加入水準にとどまっている私立学校教員等については、雇用保険への加入を速やかに促進すべきである。
また制度が働き方の制約とならないよう、その中立化を図る必要があり、例えば企業倒産・転職時における企業年金のポータビリティの更なる拡大や退職金に関わる制度・枠組み等の見直しについて検討すべきである。
なお、女性の就業意欲の阻害要因と考えられる配偶者手当などの制度については、民間部門における手当廃止や見直しの動きに後れることなく、公務員についても、今後男女共同参画の観点から同様に見直すべきである。
社会・経済・文化におけるグローバル化が拡大し、国際的な競争がますます進展していく中で、教育分野においても、義務教育から高等教育までを通じて質の高い教育を提供し、社会のニーズにこたえることのできる優れた人材を育成することが不可欠である。また、大学や大学院においては先端的・独創的な研究を更に進め、新しい産業やイノベーションを開花させていくことが、我が国の発展維持のために喫緊の要事である。
大学においては教育機関や教員が互いに質の高い教育を提供するよう競い合うことが、また、初等中等教育においては多様化を進め、需要者による選択と参画を確保することが、我が国の教育全体の質的向上に特に強く結び付くと考えられ、そのような環境の下で学生や生徒に対し学習に対する積極的な動機付けを行っていくことが必要であると考える。
上記のような観点から大学や学部の設置に係る事前規制を緩和するとともに事後的チェック体制を整備するなど、一層競争的な環境を整備することを通じて、教育研究活動を活性化し、その質の向上を図っていくことが必要である。また、初等中等教育においては、児童や生徒の能力・適性に応じた教育機会の提供を推進するため、評価制度の導入や情報発信の促進により学校の透明性を高めるとともに、新しいタイプの公立学校の導入の検討や私立学校の設置促進などにより多様化を進め、需要者が選択をし、その運営に参画することを通じて質の高い教育サービスを提供していく体制を整備することが課題となるものと考える。
このため、当会議では、以下のような具体的施策について、提言を行うこととする。
大学教育の活性化を図るためには、教育機関や教員が互いに質の高い教育サービスの提供に向けて競い合うとともに、大学が自らの判断と責任により運営を行う自主性自律性を向上させることが必要である。この観点から、大学の提供する高等教育サービスに関する組織である学部や学科の編成は、大学の主体的な判断により機動的になされることが望ましい。しかしながら、現在、大学の設置、学部や学科の設置、その定員の変更(以下まとめて「大学の設置等」という。)を行おうとする場合には、文部科学大臣が定める大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)を満たし、大学設置・学校法人審議会への諮問答申を要することとされており、大学の自主的自律的な判断による機動的な組織編成を阻害している面がある。
また、大学は学生や社会のニーズにこたえた高等教育サービスを提供する責務を果たすために、自ら不断の努力を行わなければならないが、厳しい事前審査を行う一方で、事後的な監視点検が機能していない状況が、自らの提供する教育サービスに対する責任感の欠如とその質の低下を招いているのではないかという懸念がある。そこで、大学が自らの判断と責任において、質の高い教育研究活動を行うことができる競争的な環境に向けて、大学の設置等に関する規制を一層緩和する一方で、継続的な第三者による評価認証(アクレディテーション)制度の導入などの監視体制を整備する必要がある。
なお、大学の設置等に関する規制を一層緩和していくことにより多様な高等教育サービスが提供されることとなるが、サービスの需要者である国民にとっては、これまで以上に自らの判断と責任により選択していくという意識を持つことが必要になってくるものと考える。すなわち、質の高い教育サービスを提供する教育機関を選ぶ目を持つとともに、その選択に責任を持たなければならないことを付言したい。
大学・学部等の設置、定員の変更の認可に当たっては、文部科学大臣は学生教官比率、学生校舎面積比率など大学の質の確保のために最低限必要な客観的基準を明らかにするとともに、現在、大学設置基準や大学設置・学校法人審議会審査基準など、様々な形式によって重層的に規定されている基準について、法令レベルでその一覧性を高めるよう整理すべきである。
その際、それぞれの基準の必要性等を十分に吟味し、例えば、施設設備や教員組織の基準において不必要なものは廃止するなど、全体として最低限必要な基準となるよう厳選する。
また、大学設置・学校法人審議会における審査事項や手続の在り方についても、上記の基準の厳選に応じて、軽減、簡素化を図るべきである。
さらに、学部の下部組織である学科については、届出のみで設置又は廃止を可能とすべきである。
なお、設置後において、基準が満たされなくなった場合には、文部科学大臣による是正措置等を講じるとともに、改善されない場合には閉鎖を命ずることができるようにすべきである。
大学・学部の設置等に当たっては、学生教官比率、学生校舎面積比率等の数値的基準のみならず、大学として適正な教育カリキュラムや教員組織等の定性的な基準についても満たすものでなければならない。本来、これらについては各大学の自主的な判断と責任によるものであるが、学生との情報の非対称性がある中で大学として最低限必要な基準を満たしていることを評価することも必要であると考える。
各大学や学部が、これらの基準を満たすものであるかどうかについては、事務的な確認のみならず専門的な判断を要するものであるが、現在、この専門的な判断について、大学設置・学校法人審議会への諮問答申にゆだねられている。また、大学・学部の設置等の認可基準としては、大学設置基準のほか、大学設置・学校法人審議会審査基準や「平成12年度以降の大学設置に関する審査の取扱方針」(大学設置・学校法人審議会大学設置分科会長決定)など、様々な形式によって重層的に規定が設けられており、これが設置基準のわかりにくさの一因となっていると思われることから、これらを法令のレベルに整理し、その一覧性を高めていく必要がある。
その際、それぞれの基準について、その必要性等を十分に吟味し、不必要なものは廃止するなど大幅な見直しを行うことによって、基準全体として最低限のものに厳選することが必要である。また、大学設置・学校法人審議会の審査事項や手続についても、上記の基準の厳選に応じてその軽減、簡素化を図るべきである。
なお、最低限の教育研究の水準が継続的に保たれることを担保するため、設置後に上記の基準が満たされないことが明らかになった場合には、その改善を図ることについて行政的な措置を講じることができるようなシステムを構築すべきである。
「平成12年度以降の大学設置に関する審査の取扱方針」における「大学、学部の設置及び収容定員増については、抑制的に対応する」という方針を見直すべきである。
現在、多くの設置認可に係るルールについて、大学設置・学校法人審議会大学設置分科会長決定により定められているが、このような現状は責任の所在をあいまいにすることにもなることから、これらについては、その必要性をよく吟味した上で必要と認められる場合には、文部科学省令等により定めるべきものであると考える。
特に、「平成12年度以降の大学設置に関する審査の取扱方針」において「大学、学部の設置及び収容定員増については、抑制的に対応する」とされているなど、大学の設置等に対する参入規制として働くと考えられる規定が定められていることは問題であると考える。
校地面積基準や校地の一定比率自己所有規制の緩和を速やかに検討するとともに、財務情報の公開を一層促進していくべきである。
設置規制に関する実体的な規制に関しても、土地の高度利用が可能となった今、大学の教育活動にとって重要な因子は校地の面積ではなく校舎の面積であり、校地が校舎の3倍以上なければならないという基準(校地面積基準)の緩和を速やかに検討すべきである。
また、校地の一定比率の自己所有規制については、大学の経営の安定性継続性を確保する観点からの規制であるが、大学の都心立地を実質上妨げている面もある。
さらに、学生の学習の継続が確保されるために必要な財務情報の公開については、一層促進していくことが必要である。
「平成12年度以降の大学設置に関する審査の取扱方針」における、工業(場)等制限区域及び準工業(場)等制限区域についての抑制的取扱いを廃止すべきである。
「平成12年度以降の大学設置に関する審査の取扱方針」においては、工業(場)等制限区域及び準工業(場)等制限区域については他の地域より大学の設置等に係る認可について抑制的に取り扱うとしているところである。
イノベーション促進のための産学官連携や社会人への職業訓練、生涯学習機会の提供など、ますます高まっていく大学への多元的ニーズの中で、この制度が障害となって、需要の高い都心部での高等教育サービスの提供が行われないことは、大きな問題である。また、社会人のキャリアアップ学習支援に対する大学や大学院、専修学校における教育の充実の観点からも、今後一層都心部における土地の高度利用等による教育研究環境の整備充実が必要となっていくものと考える。さらには、魅力ある都市環境のためにも、都心部における優れた高等教育機関の整備充実が必要不可欠である。
大学の教育研究水準の維持向上の観点から、設置認可を受けたすべての大学に一定期間に一度、継続的な第三者による評価認証(アクレディテーション)を受けてその結果を公表すること等を義務づけるなどの評価認証制度を導入すべきである。併せて、評価認証の結果、法令違反等の実態が明らかになった場合には、文部科学大臣により是正措置等を講じることができることとすべきである。
第三者による継続的な評価認証(アクレディテーション)制度とは、大学の教育研究の質的水準の維持向上のための評価認証の仕組みであり、大学は5年から10年に一度、大学として必要な要件を満たすものであるかどうかについて、評価認証機関から評価認証を受けるものである。
大学に対する継続的な第三者による評価認証制度を整備していくため、次のようなシステムの導入が必要と考えられる。
評価認証機関は、学識経験者等によって策定された評価のガイドラインに従って適切に評価を行うことが可能かどうかについて、文部科学大臣による認定を受ける。当然、不適切な評価認証を行ったような場合には、当該認定は取り消される。
認定を受けた各評価認証機関は、評価のガイドラインに従って各大学への評価を行い、教育研究活動の状況など大学がその使命にふさわしい運営を行っていると認められる場合には、これに評価認証を与える。
事後的チェック体制の整備の観点から、各大学は、一定期間に一度、少なくとも一つの評価認証機関からの評価認証を受けることと、その評価認証結果を公表する義務を負うものとする。
万一、いずれの評価認証機関からも評価認証が受けられなくなった場合には、文部科学大臣は大学の認可を取り消すことができる。
その際、認可を直ちに取り消すのではなく、評価認証の結果、法令違反等の実態が明らかになった場合には、文部科学大臣により是正措置等を講じた上で、更に改善がみられないものについて認可を取り消すことも検討されるべきである。
評価認証機関については、互いに質の高い評価認証サービスを提供することを競い合う環境を整えるため、株式会社も含め設立できることとし、特定の機関の独占としない。
このような仕組みによって、大学に対する事後的なチェック機能を整備するとともに、各大学が提供する教育サービスについての必要な情報を、学生や社会が容易に得られるような環境が整うことになり、相互に競争的になることが期待される。
なお、工学教育や医学教育などの専門分野別、高度専門職業人養成や通信制などの各種テーマ別の評価認証についても、我が国の大学教育の国際的な通用性・共通性の向上や国際競争力の強化を図る上で重要な役割を果たすものとなると考えられることから、その普及、支援を図ることが必要である。
大学が廃止されることとなる場合、学生の就学機会の確保が図られるよう、適切なセーフティネットの整備を検討すべきである。
現在、私学経営が厳しいと言われる時代の中で、各大学においては様々な取組が行われているが、上記のような大学設置等に関する規制緩和が進めば将来的には経営が立ちゆかなくなる大学が生じることも予測される。
このため、学生が自己責任に基づいて入学しているとはいえ、万一大学の経営が立ちゆかなくなったような場合には、学生が学習を継続して行うことができるよう、その就学機会の確保を図ることが必要であり、適切な方策を検討すべきである。
中間とりまとめにおいて提言した次の事項については、引き続き取組を進めるべきである。(なお、(ア)、(ウ)、(エ)については、改革先行プログラムにおいて、既に取組を行うとされているところである。)
大学における研究体制を充実させるためには、様々な競争的資金の拡充を進めていくことが必要であり、その際、研究機関が研究資金を多く持ち込める研究者の採用を競争的に進めるなど、競争的環境の整備を推進すべきである。同時に、競争的資金による、優れた研究者や博士課程学生を十分支援できるような具体的な方策を進めるべきである。
国立大学の法人化を検討する際には、寄付金、受託研究等の扱いが国公私の大学で相互に競争的になるようにすることを検討する必要がある。
いわゆる招へい型を始めとした任期付き教官に対して給与法上の特例措置によって能力・実績に応じた給与等の処遇の改善が可能となるよう検討し、結論を得るべきである。
運営の効率化の観点から、大学における事務部門のアウトソーシングを大学の判断で自由に行えるようにするなど、大学の組織をより活発なものにするための検討を早急に行い、結論を得るべきである。
各大学において二つ以上の専攻(メジャー)を取得することができるよう、ダブルメジャー制度の導入を行うとともに、ダブルメジャーの導入の促進が図られるよう、大学におけるこのような取組に対する各種の支援方策の検討を行う。
現在、大学においては一つの専攻分野(メジャー)を取得することが一般的である。
学生が大学においてメジャーを定め、学修を進めていくに当たって、必ずしも一つのメジャーにのみ縛り付けられるのではなく、学生の興味関心に従って、各大学において二つのメジャーを履修させることも可能であり、このための教育課程の工夫を行うことも必要である。
社会人が正規の学生としてある程度長期にわたって学びながら学位を取得できるよう大学において正規学生としてパートタイム学生を受け入れるとともに、パートタイム学生の導入の促進が図られるよう、大学におけるこのような取組に対する各種の支援方策の検討を行う。
我が国では、長期間の学習によって学位取得を目指すパートタイム学生の制度が確立しておらず、社会人が継続的に大学や大学院において学習を続けることが一般的なものとはなっていない。現行制度上、パートタイム学生の概念としては、正規の学生としてある程度長期にわたって履修して単位を取得することによって学位を取得する履修形態を指すと考えられている。社会人がパートタイム的に学びながら学位を取得できるよう大学において正規学生としてパートタイム学生を受け入れるべきである。
我が国の高等教育機関は、質の高い教育研究を推進するとともに、優れた人材を育成するという使命を果たすべきものであり、教育に対する公的支援全体を見直す中で、高等教育に対する公的支援の充実を図ることが必要であると考える。
こうして充実された公的支援は、決して国立大学というだけで配分されるようなものであってはならず、国公私を通じた競争的環境の中で切磋琢磨しながら発展していくことができるよう、競争的経費の拡充によってなされるべきであると考える。すなわち、大学間に一層競争的な環境を整備し、より良い教育研究に対しては資源を重点的・効率的に配分していくことが必要である。
現在の国立大学の予算のうち、教育研究基盤校費については、各大学において配分方法を工夫し、基礎的な教育研究の継続に配慮しつつも、競争的環境の創出について、更なる改善努力を行うべきである。
競争的研究資金の拡充を図っていく中で、いわゆる基盤的経費については、競争的な環境の創出に寄与すべきとの観点から、その在り方を検討すべきである。
現在の国立大学における教育研究基盤校費については、学内において、本来、各大学の判断に基づき、効果的・弾力的な配分がなし得るものであるにもかかわらず、従来からの慣例に縛られ、硬直的なものとなっているという実態がみられる。
各大学内における教育研究基盤校費の配分に当たっては、学内の競争的環境の創出に資するようなものとなるよう、基礎的な教育研究の継続に配慮しつつも、その配分方法等を工夫することが必要である。
各大学における個々の教員の目標設定、設定目標に対する評価システムの構築や、実績に応じた評価基準及び審査方法の確立、評価を実行するための大学におけるマネジメント改革など、各大学において、適切に教員評価を実施するべきである。このため、教員評価を(1)イで示す継続的な第三者による評価認証(アクレディテーション)における評価項目の一つとして取り入れることも考えられる。
大学教員に対する制度的な評価は、これまで採用と昇任時に教授会によって行われるもの、あるいは大学や学部の新設の際に大学設置・学校法人審議会で行われるというものに限定されてきたが、大学の機能が量質ともに拡大し、その優劣が個人や社会にとって重要性を増してくるに伴い、社会は教員がその責任を果たしているのかの立証を求めるようになってきた。そして、何よりも大学の活性化自体のために、教員の活動の評価を適正かつ組織的に行うことが、各大学において必要となってきている。
教員の活動を評価するに当たっては、教育研究のみならず大学運営や社会活動など教員の活動領域の全般を見据えたものでなければならないし、またそれぞれの大学の使命、役割と、その中でのそれぞれの教員の役割や個人的な発展の方向と関係付けての評価が必要である。すなわち、一律の外的基準を設けて評価するという方法は、教員の専門性の高さや職務の多様さ、評価に要するコスト、指標の妥当性の限界など、いずれの面からも無理があるであろう。そして、どの側面の評価においても適正な評価が証拠に基づいて実施されていなければならず、評価結果を適切に反映できる処遇システムも必要となってくる。
このような大学における教員の評価システムを構築するに当たっては、その前提となる組織(大学、学部、学科)の使命の明確化と、教員を評価する体制づくりが必要となる。一つの大学の中でも、基礎学術系学部とビジネススクールなど職業系学部では、組織の目指している目標はおのずと異なってくるものである。各大学においては、このような多様性を考慮した強力な評価体制を整えることが必要である。
国立大学を早期に法人化するため、非公務員型の選択や経営責任の明確化、民間的手法の導入など平成13年度中に国立大学改革の方向性を定めるべきである。
国立大学を法人化することの意義は、これまで多重に規制に守られてきた国立大学制度に競争原理を導入し、個々の大学に自律的で戦略的なガバナンスを確立することによって日本の大学において世界的水準の教育・研究が行われるような環境を作り出すことにある。
文部科学省に置かれる調査検討会議での検討をまとめた平成13年9月の中間報告では、教職員を公務員とするか非公務員とするか等、幾つかの点については明確な結論を出していないところである。例えば、大学や研究機関にとっての「生命線」は人材であるが、国立大学においては教職員が公務員であることによって自由な採用、能力や実績に応じた処遇が行われにくい。また、企業との兼業をしたりベンチャー企業を立ち上げたりすることなどに対して制度的制約が存在しているなどの課題が指摘されている。
独立行政法人においては、公務員型・非公務員型とも、給与・勤務条件について人事院のコントロールは受けないことになっており、現状の国立大学に比べると自由度が増すが、公務員型では依然としてその性質から一定の人事管理上の制約がある。こうした点も踏まえた上で、更に検討を行い、国立大学法人(仮称)においては、最も重要な人的資源の確保のため、給与、定員、兼職・転職、休職、採用手続などに関して、当該組織が自律的に決定することができる制度設計としていくことが必要である。
また、職員の身分のほか、国立大学法人(仮称)における運営組織や民間的手法の導入の具体的な姿等、法人化に向けて更に整理を要する課題が存在する。
このため、国立大学を早期に法人化できるよう、平成13年度中には調査検討会議においてこれらの課題を整理し、その方向性を定めるべきである。
新たなタイプの公立学校である「コミュニティ・スクール(仮称)」の導入については、地域や保護者の代表を含む「地域学校協議会(仮称)」の設置、教職員人事や予算使途の決定、教育課程、教材選定やクラス編制の決定など学校の管理運営について、学校の裁量権を拡大し、保護者、地域の意向が反映され、独自性が確保されるような法制度整備に向けた検討を行うべきである。【平成15年中に措置】
また、モデル校による実践研究を行うに当たっては、校長公募制の導入、十分に広い通学区域の設定、教員採用における校長の人選の尊重、教育課程、教材選定、学級編制などにおける校長の意向の尊重等の要件を満たすよう努めるべきである。【平成14年度中に措置】
現在、初等中等教育における公立学校システムには、年間10兆円以上の公費が支出されているものの、そこで提供される「教育サービス」の質については、全国一律となりがちであり、地域や学校ごとのニーズにこたえられていない、学校の自律性や責任体制も欠落しがちであるなど、不十分であるとの意見がある。こうした指摘も踏まえ、地域に開かれた学校づくり、民間からの校長の登用、学校選択のための学区の弾力化など、次第に「改革」が進みつつあるが、具体的成果が十分に見えないこともあり、そのスピードも遅すぎるとの指摘もある。
地域の特性やニーズに機動的に対応し、一層特色ある教育活動を促すためには、公立学校全体を一律に競争的環境下に置くというよりも、地域との連携、裁量権の拡大と教育成果等に対する厳格なアカウンタビリティを併せ持つ、新たなタイプの公立学校「コミュニティ・スクール(仮称)」)の導入が有効である。
新たなタイプの公立学校である「コミュニティ・スクール(仮称)」の導入については、地域や保護者の代表を含む「地域学校協議会(仮称)」の設置、教職員人事や予算使途の決定、教育課程、教材選定やクラス編制の決定など学校の管理運営について、学校の裁量権を拡大し、保護者、地域の意向が反映され、独自性が確保されるような法制度整備に向けた検討を行うべきである。こうした新しいタイプの学校の導入により、保護者を始めとする地域住民にとっての選択肢の多様化のみならず、伝統的な公立学校との共存状態を作り出すことにより、健全な緊張感のもと、それぞれの学校間における切磋琢磨を生み出し、結果的に学区全体の公立学校の底上げにつながることが期待される。
また、モデル校による実践研究を行うに当たっては、校長公募制の導入、十分に広い通学区域の設定、教員採用における校長の人選の尊重、教育課程、教材選定、学級編制などにおける校長の意向の尊重等の要件を満たすよう努めるべきである。
近年、国際化、高度情報化、社会の成熟化が進展する中で、学校教育全般について、社会や国民の多様化、高度化する要請に応じた特色ある教育研究の推進が求められているが、それぞれの建学の精神に基づく個性豊かな教育研究活動に積極的に展開している私立学校の役割はますます重要なものになっている。
しかしながら、私立学校の数は、高等教育と比べて、初等中等教育、特に小学校では圧倒的に少ないのが実情である。私立学校の割合は、大学で74.1%、高校で24.1%であるのに対して、中学校では6.1%、小学校に至っては同0.7%となっている(平成13年5月1日現在)。
私立の小中学校の数があまり増加しないのは、同教育段階が、国民が無償で教育を受けることのできる義務教育であることが最大の理由と考えられるが、一方で、公立学校における学級崩壊が小学校低学年においてみられるなど、公立学校に対する信頼が揺らぎつつあるとの指摘もある。
このような状況の下、特色ある教育サービスを提供する私立学校に対して、需要者側である国民の期待は、特に大都市部において、ますます高まりをみせており、一部の私立学校では入試競争の激化がみられるところである。
こうした現実を踏まえれば、個性豊かで多様な教育サービスを提供する私立学校の設立を促進することは、国民に特色ある教育サービスを提供する機会を増やすのみならず、地域内での学校間競争の活発化を通じて、公立学校(及び既設私立学校)により良い学校づくりを進める契機を与えることも期待できる。
こうした状況を踏まえて、私立学校の参入を促進する観点から、公財政支出の見直しを図る中で、補助金配分に当たっては、児童生徒や保護者のニーズにこたえて優れた教育サービスを提供している私立学校を優遇する方向へ向けていくことも必要ではないか。
規制改革推進3か年計画において平成13年度中に検討を行い、結論を得るとされている小学校及び中学校の設置基準の明確化については、私立小学校及び私立中学校の設置促進の観点から、適切な要件を定めるべきである。また、各都道府県の私立小・中学校設置認可審査基準等及び学校法人の設立認可審査基準についても、その要件の適切な緩和を都道府県に対し促すべきである。
現在、私立小学校、中学校又は高等学校を設置しようとする場合には、都道府県知事の認可を受けることが必要になっている。
しかしながら、国が学校教育法(昭和22年法律第26号)に基づき定める学校設置に係る基準については、高等学校に関しては、高等学校設置基準(昭和23年文部省令第1号)として詳細が定められているのに対して、小学校及び中学校に関しては、学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)に大綱的な定めがあるのみで、基準は明確化されていない。なお、小中学校の設置基準の役割を実質的に果たすものとしては、(1)学校教育法施行規則等(学校の施設設備や教員に関する基準を規定)、(2)義務教育諸学校施設費国庫負担法(昭和33年法律第81号)(工事費を算定する上での面積等を規定)等がある。また、各都道府県においては、各都道府県における「設置認可審査基準」等により、私立学校の設置認可を行っている。
さらに、都道府県における設置認可審査基準等においては、例えば施設及び設備の負担附又は借用が原則として認められていなかったり、都道府県によっては中学校や高等学校を併置する場合にも校地の兼用が認められていないなど、各都道府県が地域の実情に応じた基準を定めており、小中学校段階が、国民が無償で教育を受けることのできる義務教育であることとあいまって、私立学校の設置の促進がされていない現状にある。
今回、国が小中学校の設置基準を明確にするに当たっては、教室や運動場の面積基準を過度のものとならないようにしたり、合築等ほかの用途との共同使用を認めるなど私立小・中学校の設置促進の観点から、適切な要件を定めるべきである。なお、運動場については所有の形態にはこだわるべきではないが、その確実な確保が図られることは必要であろう。
また、国の小中学校設置基準が明確化されることにより、都道府県がそれぞれ定める私立学校設置認可審査基準等が適切に緩和されることが期待される。
なお、教育サービスの需要者(児童生徒及び保護者)に運営状況を明らかにする観点から、学校法人の財務情報等の開示を促進し、学校法人についても設立認可審査基準の適切な緩和を都道府県に対し促し、新規参入を促進することが必要と考える。
私立学校審議会をより開かれたものにするための改革に向けて、構成員・運営を含む私立学校審議会の在り方を検討するとともに、委員名簿や議事概要等については、各都道府県のホームページ等において公開することを促進するべきである。
私立学校審議会は、各都道府県に設置されている知事の附属機関として、私立大学以外の私立学校、私立専修学校及び私立各種学校の設置並びにこれらの学校を設置する法人の設立等について審議し、知事に答申することを担当事務としている。また、これらの学校に関する重要事項について知事に建議する機能も有している。
この私立学校審議会については、私立学校の自主性の尊重の観点から既設私立学校関係者が構成員の4分の3を占めているところであるが、新しく私立学校を設置しようとする者がある場合に、私立学校審議会が競争抑制的に機能しているのではないかとの指摘や教育の需要者や地域社会の声が十分に反映されていないという指摘がある。
インターナショナルスクールにおいて一定水準の教育を受けて卒業した生徒が希望する場合には、我が国の大学や高等学校に入学する機会を拡大すべきである。
近年、外国からの対日投資の増加等に伴い、我が国に中・長期的に滞在する外国人が増えてきており、これら外国人の子女の多くが我が国のインターナショナルスクールに通っている。
今後、教育の国際化の観点からも、我が国の学校制度との整合性を勘案しつつ、インターナショナルスクールにおいて一定水準の教育を受けて卒業した生徒が希望する場合には、大学や高等学校に入学する機会を拡大すべきである。
これらの措置等を取ることにより、我が国においてインターナショナルスクールの設置が促進されることが期待される。
学校教育に対する社会的なニーズの多様化に対応し、画一的と批判される公立学校システムの多様化と質向上を推し進めるためには、公立学校間の特色が比較され、保護者や児童生徒によって学校が選ばれる環境を作り出すことも一つの重要な方法と考える。
公立小中学校においては、各学校ごとに通学区域が定められているが近年、通学区域の弾力化を行い、保護者の選択により通学する学校を選ぶことができるようにする動きがみられる。
一方、このように教育に対する選択の機会が拡大している中で、児童生徒や保護者の選択に際して適切な情報が提供されていないのではないかと考える。すなわち、学校を選択しようとする際には、当然ながら学校についての教育目標、特色に関する十分な情報が提供されている必要があり、適切な情報がない中で保護者間での評判や風評、あるいは学校施設の新しさなどで選択しているという実態は好ましくないであろう。
保護者や児童生徒の希望に基づく就学校の選択を適切に促進する観点から、各市町村教育委員会の判断により学校選択制を導入できることを明確にし、さらに学校選択制を導入した市町村にあっては、あらかじめ選択できる学校の名称を保護者や児童生徒に示し、その中から就学する学校を選択するための手続等を明確にするような観点から、関係法令を見直すべきである。
公立小中学校において、保護者や児童生徒が通学する学校を希望するという学校選択制については、これまでは、導入市町村は一部にとどまっていたが、近年その数が拡大しつつある。
しかしながら、学校教育法施行令(昭和28年政令第340号)第5条には、児童生徒の住所地の市町村教育委員会が就学すべき小学校又は中学校を指定するとされているだけで、学校選択制について規定した条文は存在せず、根拠が明確でないという意見も一部にある。
もちろん、保護者や児童生徒が就学しようとする学校について特段の意思表示をしない場合や特定の学校に希望が集中する場合も考えられることから、学校選択制を採った市町村教育委員会においては、学校選択制の下で適切な学校運営ができるように、市町村教育委員会自らが指定したり、必要に応じて選択結果を調整することも必要であろう。なお、選択肢の提供の方針・方法や希望の結果として調整の必要が生じた場合の調整の方針・方法は、各市町村の事情を踏まえて決定されるべきであるが、それらについては明示的に情報開示を行うことが必要である。
学校選択制を導入していない市町村にあっても、指定された就学校の変更を保護者や児童生徒が希望する場合の要件や手続等について、各市町村において明確にするよう、関係法令を見直すべきである。
学校教育法施行令第8条においては、当該市町村において学校選択制を採用していない場合も含めて、就学校の変更手続について定めているが、「相当と認めたとき」という漠然とした規定になっていることから、各市町村によってその判断がまちまちとなっている。また、同一の市町村内においても、認められたり認められなかったりする場合があると指摘する声も聴かれるなど、運用が不透明であるのではないかとも考える。
このような状況を踏まえ、今後、学校選択制を導入する市町村が増加していくと予測される中、必要な手続の整備等を中心に関係法令の見直しを行うべきである。
今日、保護者や地域住民の学校教育に対する参画意識が強くなっている中で、教育行政においても保護者や地域住民からの信頼を確保していくためのいわゆる「開かれた学校」づくりを標榜し改革を進めているところである。しかしながら、公立学校システムもまた、公的主体がサービスの担い手ということからくるサービス提供主体(学校・教育委員会・校長・教員等)とサービス需要者(児童生徒・保護者・地域住民)との間の情報の非対称性や、サービス提供主体内部からの改革がしにくいといった問題点が指摘されている。
各学校が特色ある学校づくりを目指し、様々な工夫を凝らしていくことは初等中等教育においても望ましい姿であるが、そこにはサービス供給主体による説明責任(アカウンタビリティ)の徹底と、保護者や地域住民が学校運営に参画しやすい仕組みが存在しなければ、持続した改善への取組とはなりにくい。
学校評議員制度の一層の効果的な活用を図る上で、必要に応じて、学校評議員が一堂に会して合議を行うといった工夫を講じたり、学校運営の評価に保護者や地域住民等の意見を採り入れるため、学校評議員が学校の評価を行うことが考えられる。また、市町村教育委員会による学校評議員に対するサポートを充実させるとともに、学校評議員の学校評価結果や学校評議員の活動に関する適切な情報公開についても検討されるべきである。
平成10年9月の中央教育審議会答申を踏まえて、平成12年4月にスタートした学校評議員制度については、地域や社会に開かれた学校づくりを一層進め、学校としての説明責任を果たしていくことにつながっているなど、一定の評価をすることができる。その設置については市町村教育委員会の判断で置くことができるとされているほか、その人選は校長の推薦に基づき市町村教育委員会が委嘱するとされており、校長の諮問機関的色彩が濃いが、地域住民等の学校運営参画をしやすくし、制度の効果的な活用を一層図る上で工夫が必要ではないかと考える。
文部科学省が市町村教育委員会担当課に実施したアンケート調査によれば、学校評議員(類似制度も含む)を全校で設置している市町村は14.2%にとどまり、「検討中」及び「設置予定なし」を合わせると58.1%にも上っている(平成13年4月 1日時点)。今後、学校や一定数の保護者・地域住民等から設置の要望があった場合には、各市町村教育委員会が積極的に学校評議員の設置を検討すべきであろう。当会議においては、学校評議員の設置を進めるとともに、その活用を促進していくべきであると考えることから、学校評議員制度の運用についての工夫を次のように提案したい。
まず、学校評議員制度は、あくまでも学校評議員個々人が校長の求めに応じて学校運営等について意見を表明するための組織であり、合議制でない長所も言われているところであるが、これについては学校評議員が必要に応じて一堂に会して意見交換を行うという工夫を講じることが必要であると考える。
また、学校評議員は、保護者や地域住民等に委嘱されるものであることから、学校を客観的に評価することも期待できる。このため、学校評議員制度の活用方法の一つとして、学校評議員は市町村教育委員会が定めた一定の学校評価の項目に沿って学校評価を行い、その結果について市町村教育委員会に報告し、市町村教育委員会がそれを公表することも考えられる。
この学校評価の公表は、保護者や児童生徒による学校選択の際に利用されることも期待されるものである。
さらに、校長の推薦により市町村教育委員会が委嘱するという学校評議員の選出方法については、例えば保護者や地域住民等といった学校評議員の構成などを定めた「学校評議員選出規則」等を設けるなど、各市町村教育委員会において選出方法の明確化を図ることが望ましい。
以上のような学校評議員制度においては、他校の好事例等や、保護者や地域住民等の優れたアイデアや工夫を踏まえて適切な意見を述べることができるようにするため、学校評議員の求めに応じて市町村教育委員会が情報提供するといったことも必要であろう。
なお、学校評議員の活動については、個人のプライバシーなど一定の条件の下で非公開とすることを残しつつ、保護者や地域住民等の求めに応じて情報公開をすることについても検討されるべきであろう。
「保護者講師」や「地域住民講師」など、保護者や地域住民が学校において授業を行う取組を一層積極的に推進し、こうした授業の実施に当たっては、学校と地域の連携を図るコーディネーター役として学校評議員の協力を得ることも必要と考える。
これまでの初等中等教育改革においても、教員以外の者からの校長登用や社会経験を有する者の積極的な教員採用など社会人の活用が広く掲げられており、教員免許を持たない者が教壇に立って教えられるようにするための特別非常勤講師制度等が推進されてきたところであり、これらの動きは今後とも一層推進されるべきものであると考える。
児童生徒にとっては、1人の教師と多くの時間を接することも大切なことではあるが、より多くの教師(大人)に接することが生徒の人格や価値判断、職業観の形成に重要と考えられることから、特別非常勤講師のような制度のみならず、保護者や地域住民による学校運営参画(ボランティア)の観点からの「保護者講師授業」や「地域住民講師授業」といったものを広く普及推進していくことが望ましく、今後こうした取組が一層推進促進されることが必要である。
このような取組は、現行の制度においても可能であり、一部実行されている学校もあるが、今後一層広く推進していくために、例えば「保護者講師授業」や「地域住民講師授業」の実施に当たっては、学校運営に関し地域住民等の協力を得る仕組みである学校評議員制度を活用し、学校と地域との連携を図るコーディネーター役として学校評議員の協力を得ることも必要と考える。
すべての小中学校において教育目標を作成するとともに、その実現を適切に進めているかどうかについて点検するような自己点検評価を実施するべきである。
学校が自らの提供する教育サービスの質的向上に向けた取組を行っていくためには、適切な教育目標の設定とその実現について自己点検を行っていくことが必要である。また、学校による自己点検評価と併せて、学校評議員が市町村教育委員会の定める項目に基づいた評価を行うなど、多様な方法で学校評価を実施することも考えられる。
自己評価については、既に実施されている学校も多いとみられるが、目標設定とその実現を図るという自己点検評価の仕組みを取り入れることが、すべての学校において実現されることが望ましい。
また、各学校において教育目標を作成していくに当たっては、すべての学校が同じようなものになる必要はなく、例えば基礎基本の学力又は体力を向上させることを重視する学校や、礼儀作法に重点をおく学校、国際理解教育を進め国際交流に積極的な学校など、多様な目標や特色となることが望ましい。
学校選択の促進に資するよう、学校の概要(教員数、児童生徒数、校舎面積、教育目標、運営方針、教育計画等)や自己点検評価の結果などとともに、教員の教育方針等の情報発信を促進するべきである。
現在のところ、学校選択制については限定的な導入にとどまっているものの各自治体の判断により実施が可能であり、今後一層その機会が拡大されることが望ましい。
学校選択制が適切に機能するためには制度の導入のみならず、保護者や児童生徒が学校選択に際して、学校の掲げる教育目標や特色などについて十分な情報が提供されていることが必要であると考える。必要な情報提供がなされていない中で、保護者間での評判や風評、あるいは学校施設の新しさなどで選択しているという状態を指摘する声も聴かれるが、そのような状態は好ましくないのは言うまでもない。
もちろん、一部においては学校ガイドブックのようなものを作成するなど、積極的に説明責任を果たしている学校もあるが、このような取組は全国的に広く浸透していないと考える。
また、情報提供が必要と考えられる情報としては、各学校において作成された教育目標やその自己点検評価の結果のほか、教育サービスにおいて最も重要であると考えられる、教員の教育方針等についても、公表が進むことが期待されるところである。
中間とりまとめにおいて提言した次の事項については、引き続き取組を進めるべきである。
創造力ある人材を育成するための教育、例えば理数系教育・IT教育・芸術教育・コミュニケーション/言葉教育、等については、その充実を図ることが必要であり、引き続きその具体的な在り方についての検討を進める。
また、社会性を身につける教育や勤労観、職業観をはぐくむ教育機会についても、充実していくべきであると考える。
工場跡地等における土壌汚染の判明事例数については、環境省の実態調査によれば、昭和50年度から平成11年度末までの間に都道府県等が把握した事例のうち、土壌環境基準の溶出基準項目に適合していないことが判明した事例は累計で431件に上り、このうち11年度に判明したものは117件に及んでいる。しかも、これらは、決して我が国における市街地土壌汚染の実数を示しているものではなく、氷山の一角にすぎないことが指摘されている。
人間活動の拡大に伴う温室効果ガスの排出量の増大によりその大気中の濃度が高まり、地表面の温度が上昇し、自然の生態系及び人類に悪影響を与えるおそれが生じている。
このような温室効果ガスの排出を抑制するため、1992年に国連気候変動枠組条約が採択され、1994年に発効し、その実効性を高めるため、1997年に京都議定書が採択された。そこでは、二酸化炭素を含む6種類の温室効果ガスについて、削減の目標が定められ、我が国は6%の削減が義務付けられた。同議定書はまだ発効していないが、本年11月の気候変動枠組条約第7回締約国会合(COP7: The 7th session of the Conference of the Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change)での運用細目に関する合意が達成されたことで2002年発効に向けて各国の議定書締結が進むことが見込まれる。
石油、石炭に比して二酸化炭素排出量が相対的に少ない天然ガスの使用を促進することは、地球温暖化対策という観点から極めて有効な施策の一つである。かかる観点から、二酸化炭素の排出源である発電、産業部門にて消費されている化石燃料の比率を、石油、石炭中心から天然ガスに転換させるための条件整備を行うことは焦眉の現実的課題となっている。
地球温暖化や廃棄物の大量発生など今日の環境問題解決のためには、社会のあらゆる主体が自主的・積極的に環境保全に取り組むことが必要であり、特に、経済活動の主たる担い手である企業の環境保全に係る自主的取組を促進することが不可欠である。
従来の公害対策においては、汚染物質が環境中へ排出される末端において負荷を低減しようとするエンド・オブ・パイプ的な対策が主として講じられてきたが、環境問題の複雑多様化に伴い、こうした従来型対策の限界が指摘されており、経済的手法や情報的手法等をも活用した総合的な政策を推進することが求められている。
近年、都市に特有の環境問題として、ヒートアイランド現象がクローズアップされている。
これは、都市化の進展に伴い、コンクリートやアスファルト等による地表面被覆の増加と緑地の減少とともに、空調機器や自動車からの排熱が増加することにより、都市部において、周辺部に比較して顕著な高温化の現象がみられるようになっているものである。
これにより、夏期には、高温化による熱帯夜の増加、豪雨の増加、熱中症の増加等の生活環境の悪化、さらには、冷房需要の増加による消費電力の増加等が生じている。また、冬期においては、逆転層の形成による大気汚染の悪化等の問題を生じている。
我が国は国土面積がそれほど広くはないにもかかわらず、豊かな生物相を誇り、固有種(日本列島だけに生息する種)の比率が高い。特に両生類やトンボ類など水辺と森林の両方を生息に必要とする動物の豊かさは比類なきものとも言える。
ところが今日では、メダカやキキョウなど、日本人の生活域にかつては普通にみられた動植物までが絶滅が危惧される種としてリストアップされる事態となっている。それは、ここ数十年間の経済成長により生活水準の向上が実現された一方で、人の営みの場(里地・里山、沿岸、浅海域など)における開発(全く人工的な構造物のない自然海岸は平成5年には全国の海岸総延長の55%にまで減少、干潟は6年には昭和20年の60%程度の面積にまで減少(いずれも第4回自然環境保全基礎調査[環境庁]による。))や生産形態(不適切な農薬の投与など)、生活様式の変化(大量消費・大量廃棄社会など)が起こったことによるところが大きい。
また、外来種による影響も大きい。現在、多様で大量の外来種の輸入や利用、人と物資の移動に伴う非意図的な移動により、野生生物が本来の生息地の外で野生化し、生態系への悪影響のみならず、産業や人の健康・生命にも悪影響をもたらすようになってきている。
廃棄物・リサイクル問題については、循環型社会の構築のため、リデュース・リユース・リサイクルの3Rを促進するとともに、廃棄物の適正処理を確保することが必要である。
都市部における開発事業においては、地域冷暖房施設、中水道施設等の整備による省エネ・省資源が可能となり、緑化スペースも確保されることから、一定の環境の向上も見込まれる。しかし、地方条例によっては環境アセスメントの手続に長期間を要する等の問題がある場合があり、より効率的で適正な在り方が問われている。
我が国には、農用地の土壌汚染については法制度が存在するが、市街地土壌汚染に関しては、ダイオキシン類を除き、現在法制度がなく、26項目の物質について環境基準が存在しているのみである。このため、各地で汚染地が発見されても、その浄化等の対策を進めるための法的制度が存在しない。このため、次のような問題が生じている。
汚染された土壌そのものの摂取による健康リスクについての対策がとられていない。
また、土地取引において土地が汚染されているかどうかについて十分に調査をしないで売買が行われるため、購入者が多額の浄化費用を負わされる事例があり、円滑な土地取引を阻害するおそれが生じている。
さらに、土壌の汚染は地下水の汚染につながっている可能性が高く、土壌汚染を放置することは、将来的には地下水を飲用(源水)に供することが困難になるおそれがある。
また、汚染地の調査・対策に関して、地方公共団体で条例や要綱を作るところが徐々に現れているが、各地で全く異なった制度が設けられれば、全国展開する事業者は個別の対応が求められ、大きな負担となる可能性がある。地方の実情に応じた対応も重要ではあるが、国がまず基準を示すことが肝要である。
また、現在のように市街地土壌汚染の対策に関する制度のない状況では、自主的に対策を行う者がかえって非難の対象となるなど不公平感を呼んでいる。
最後に、欧米の土壌汚染対策法制が1980年以降整備されたため、外国企業が我が国で土地を取得する場合や合併の際、自国の法制度と同程度の対策を求める場合が少なくなく、将来的には、我が国に土壌汚染対策の法制度がないことが、対日投資のディスインセンティブになるおそれもなしとはいえない。
我が国は、1990年レベルで先進国全体の二酸化炭素の8.5%、1998年には8.7%を排出しており、京都会議の議長国としても、温暖化防止に向けた応分の責任を果たすべきである。
このため、我が国においては、本年4月に、衆・参両院において、「地球温暖化防止の国内制度を構築するとともに、京都議定書を早期に批准し、京都議定書の2002年発効を目指して、国際的なリーダーシップを発揮すべき」とする国会決議が全会一致で可決されている。さらに、COP7における最終合意後、地球温暖化対策推進本部において、京都議定書の2002年締結に向けた準備を本格的に開始することとし、(1)京都議定書の目標を達成するため、「地球温暖化対策推進大綱」を見直す、(2)次期通常国会に向けて、京都議定書締結の承認及び京都議定書の締結に必要な国内制度の整備・構築のための準 備を本格化することが決定された。
したがって、京都議定書の批准に備え、総合的な対策を樹立すべきである。我が国の1999年度の温室効果ガスは、京都議定書の基準年に比べて全体で6.8%増加している状況にある。このため温室効果ガスの低減に最も効果的かつ実効性のある原子力発電所の活用について、安全確保を大前提に国民の理解と協力を得る努力を続ける必要がある。
同時に、省エネルギー対策の推進、天然ガスの利用拡大、風力や太陽光・バイオマス発電のような新エネルギーの推進、燃料転換等の対策等により、社会全体を環境低負荷型に変えていく政策を採る必要がある。その際、新エネルギーの普及、省エネルギーの促進について省庁横断的な取組をすることが検討されるべきであろう。
国内対策の検討に当たっては、(1)国民一人一人が地球温暖化防止に向けて自らのライフスタイルを変革すること、(2)政府及び国民各層が一丸となって取り組んでいく必要があり、国民一人一人の理解と行動を求めていくこと、(3)経済への過度な負担を回避すること、(4)個々の主体が合理的に最適な措置を柔軟に選択することにより経済全体に最小の負担で最大の効果が得られる施策とすることが重要である。
また、容易に輸送可能な石油、石炭とは異なり、天然ガスについては、その普及をめぐる問題点として、以下の点を明示的に考慮する必要がある。
天然ガスは輸入された後、内陸部に輸送する必要があるが、輸送のための導管ネットワークが十分に整備されていないことから、現状においては、供給可能な範囲が著しく局限される結果となっている。
このため、導管ネットワークを整備することが天然ガスの普及に際しての重要な前提条件となるものの、パイプラインを敷設するための建設コストが高いのが現状である。
また、天然ガスそのものについても、石油、石炭と比して高価格である。
このうち、高価格なガスコストについて、その理由の一つとして、ガス会社間の競争が不十分であるという問題を挙げることができるものと考える。この点については、我が国のガスパイプライン網は各会社の供給区域ごとに分断されているのが実情であり、ガス会社間の競争が生じにくいという側面も指摘できよう。
また、我が国の場合、欧米とは異なり、私有地におけるガスパイプラインの埋設用地の確保が困難であるため、公道下における埋設が基本になっている。このため、導管埋設者による地元折衝及び関係行政機関への協議等に相当な期間を要するところとなり、ガスパイプラインの敷設に要する期間が長期化している状況にある。
また、ガス管の埋設、修理工事等の際の施工方法に係る規制については、一般に我が国の場合、欧米と比して、より踏み込んだ内容となっているのが通常であり、その結果として、ガス管埋設や修理の単位コストが割高となっている可能性にも着目せねばならない。
以上を踏まえると、現行の規制について、その合理性及びこれを今後も維持すべき必要性を綿密に評価するとともに、その結果、当該規制が創設された当初において想定されていた役割を既に終えているもの、昨今の技術革新の成果等にかんがみ一定の合理化が可能なもの等については、積極的にその見直しを進めるべきである。
近年、企業活動による環境負荷を効率的に低減させるための手法として、自社の環境に対する取組、環境負荷に関する情報等を公表するための有効な媒体である環境報告書や企業の事業活動における環境保全のためのコストとその効果を可能な限り定量的に把握、分析する手法である環境会計が注目されているところである。
環境報告書及び環境会計については、それぞれガイドラインの策定、シンポジウムの開催等の普及策が講じられてきており、それらに取り組む企業数は年々増加しつつあるものの、企業全体に占める割合は依然として僅少にとどまっており、十分に普及が図られている状況にはなってない。
環境報告書及び環境会計の一層の普及促進を図るとともに、「統一化が図られていない。適正な記載になっているか確認の方法がない。」といった各方面からの指摘を踏まえ、環境報告書及び環境会計に係る比較可能性や信頼性の確保の観点からの検討を進めていく必要がある。
都市のヒートアイランド現象の解消には、欧州の都市生活にみられるように、夏期には長い休暇を取って都市を離れたり、企業等の活動水準を下げるといった対策も考えられるが、第一義的には高温化の原因となる排熱の削減、地表面被覆の改善等が必要であろう。
これらに関しては、従来から、関係各省・地方公共団体等により、省エネ対策、屋上・壁面緑化の促進、人工被覆の改善、都市構造の改善等の対策がとられてきている。例えば、国土交通省においては、都市緑地保全法(昭和48年法律第72号)を改正し、緑化施設整備計画認定制度を創設したところであり、東京都においては、条例による緑化の義務付け等の取組が行われている。
近年、我が国においては、多様な主体の参加による自然再生型の公共事業が計画されるなど「人と自然との共生」を目的とした政策が広く実施されるようにはなってきているが、急速に進行しつつある生物多様性の喪失、衰退のトレンドを止めるには至っていない。
現行の生物多様性国家戦略は、生物多様性の保全に関する関心や理解を高め、官民挙げての多様な取組を促す上で一定の役割を果たしていると言えるが、各省庁の施策の統合や連携の点で十分でないこと等の問題点があり、掲げられている理念や目標などに関してその実効性を高めていく必要がある。現行の生物多様性国家戦略を「人と自然との共生」を図るためのトータルプランとして内容の充実を図るとともに、さらに、その実施を推進するため関係省庁からなる自然再生事業推進会議を設置するなど、関係省庁の連携体制の一層の強化を図る必要がある。
また、外来種問題に係る仕組みとしては、現在、外国からの生物の輸入や国内での移動に関するものが幾つか存在するが、その目的は「農業生産の安全及び助長を図る」等であり、生態系、生物多様性、人の健康や産業など広範な人間活動に影響を与える外来生物のリスク管理全体を幅広くカバーするものではない。内閣府大臣官房政府広報室「自然の保護と利用に関する世論調査」平成13年5月によれば約9割の国民が外来生物に対する持込み制限などの規制を望んでいることにこたえるべく、「人と自然との共生」を図る観点から外来種問題に係る仕組みを整備する必要がある。
排出事業者や製造事業者の責任及び排出者としての国民の責務を徹底し、民間活力を活用することにより、廃棄物処理及びリサイクルを効率的に推進していくことが必要である。
我が国の都市を、より良いものとし、そこで暮らす人々が健全な環境の中で生活していることを実感できるような都市にするためには、十分に環境の視点を取り入れながら、都市全体の中長期な構想、すなわち都市のグランドデザインを策定し、迅速かつ効率的に進めていく必要がある。
下記の視点に留意しつつ、市街地の土壌汚染の調査・浄化等に関する対策を樹立し、次期通常国会での法案提出を含め検討し結論を出すべきである。
土壌汚染の調査については、人の健康等への影響、新たな汚染の拡大の防止、土地取引の円滑化等の観点から、有害物質の取扱事業場等について一定の場合に調査を行うことや、土地の開発前等に調査を行うことを検討するべきである。
近隣住民に対する情報開示のため、また、将来の購入者がリスク管理地をつかまされて多額の浄化費用を負担せざるを得ない状況に陥るのを防止するため、汚染地の登録・情報提供の体制を整備するべきである。
土壌汚染の浄化等に関しては、費用負担については汚染者負担の原則を踏まえることとしつつ、一定の場合に原因者、土地所有者等に対策を義務付けることとする。
対策の発動基準と対策の内容のバランスをとり、土地所有者等に過度に負担とならないよう柔軟に対応できるようにすべきである。
原因者が不明、資力不足等の場合に、対策の全費用を土地所有者等に負担させるのは困難な場合があることから、汚染者負担を原則としつつ、支援措置について、基金の設立や税制等も含めて検討すべきである。
国の制度を制定するに際しては、地方公共団体の条例等について地方分権の趣旨を尊重した上で、国の制度との整合性を確保するように努める。
土地の利用や取引の促進にも資するよう、民事上の損害賠償等の紛争を円滑に解決し、土壌汚染に係る調査や対策の実効性の確保にも資する手段について、既存の制度の活用も含め検討する。
下記により、総合的な対策を実施すべきである。
温暖化防止が社会・経済全体にかかわる問題であり、温室効果ガス(特に二酸化炭素)が国民の生活も含め、あらゆる発生源から生じていることにかんがみると、費用効果性の高い手法を用いることが肝要である。また、地球温暖化は、事業者に対して新事業のフロンティアをもたらすこともあることを念頭に置いて取組を進める必要がある。
温室効果ガスの削減技術の導入に当たっては、投資回収に長期間を要する等の理由から進んでいないのが事実であり、導入促進の実効性を高めるため、施策の裏打ちを行っていくことが必要である。公共交通機関、共同輸送、高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport Systems)、食品廃棄物リサイクル等の他の政策目的から実施するいわゆる「ノンリグレット対策」について有効な場合はその導入を促進すべきである。
分野別には、交通体系のグリーン化、脱温暖化社会の構築に向けた都市・地域基盤社会整備、ライフスタイルの脱温暖化、非エネルギー起源の二酸化炭素、その他の温室効果ガスの排出削減対策を含む環境保全のための枠組みを推進すべきである。
温室効果ガスの効率的・効果的な削減のために、従来の規制の方式以外に、税・課徴金や、市場メカニズムを通じた効率的な排出権取引などの経済的手法、自主的取組を組み合わせていくことが重要であり、これらの手法の具体的な在り方について検討することが必要である。この場合、対策を実施した結果について評価の上、必要に応じ、対策の追加を図っていくことが必要である。
なお、検討に当たっては、現下の厳しい経済情勢にかんがみ、経済界の創意工夫をいかし、我が国の経済活性化につながるものとするよう配慮すべきである。
また、新エネルギーについては、例えば新エネルギーの導入基準制度(RPS:Renewables Portfolio Standard)等電力分野における新たな市場拡大措置の導入に向けて具体的な検討が進められているが、このような措置も含め各種新エネルギー対策を強力に推進すべきである。
クリーンエネルギー自動車を含む低公害車、低燃費車について、普及を推進するとともに、低コスト化、性能面の向上に向けた技術開発等を推進する。
ただし、経済的負担を課す措置については、その有効性についての国民の理解の進展、措置を講じた場合の環境保全上の効果、国民経済に与える影響等についての調査研究結果、諸外国における取組の現状等、措置を取り巻く状況の進展も踏まえ、幅広い観点から検討すべきである。
また、民間における自主的取組に関し、経団連などの自主行動計画については、一層の信頼性を確保しつつ中長期的に自主行動計画の枠組みの中で産業界の取組を続けるために、民間による第三者評価を視野に入れたスキームとして国内登録機関の設置が検討されることが望ましい。
技術開発は、それによるブレークスルーによって大幅なエネルギー効率の改善が図られる可能性の高い対策であることから、引き続き推進していくことが重要。その際、産学官が適切な役割分担を図りながら、有機的・体系的に技術開発に取り組むことが重要。
なお、二酸化炭素の吸収源として大きな役割を果たす森林については、地球温暖化の防止や生態系の保全など森林の有する多面的機能が持続的に発揮されるよう、適切な森林整備・保全を進める必要がある。
ガス管敷設に係る規制の在り方等については、安全の確保等を大前提とし、欧米の状況等も念頭に置きつつ、検討すべきである。具体の検討事項については以下のとおりである。
埋設深度について、2MPa以上の高圧で市街地の道路下に埋設する場合であっても、当該道路の舗装厚や他の埋設物との離隔距離等に係る一定の基準に照らし支障なき場合には、1.8mではなく1.2mで足りることとする。【平成14年度中に措置(検討)、平成15年度中に措置(結論)】
また、将来的にはガスパイプラインが海底に敷設されるケースも想定し、海底敷設に係るガス管に係る材質、設計荷重、許容応力等、技術基準の在り方についても、欧米の状況等も念頭に置きつつ、安全の確保を前提として検討する必要がある。【平成14年度中に措置(検討開始)】
さらに、公益特権を持つパイプライン事業者によるガスパイプライン海底敷設に係る公益特権の行使が想定され民間主体相互の交渉では漁業権等に係る調整ができない場合には、客観性・透明性が十分に確保されるように当該調整の在り方について検討を行うべきである。【実際上の必要が生じた場合に検討】
大企業のみならず中小企業への環境報告書及び環境会計の普及を図るべく、環境報告書及び環境会計に係るデータベースを構築し情報提供を行うなど、普及促進のための行政支援策を講じるべきである。【平成14年度中に措置】
また、環境報告書及び環境会計がもたらす環境保全上の利益にかんがみ、これらに取り組む企業への何らかのインセンティブ付与の方策やこれら企業が社会から適正な評価が得られ、結果として企業の競争力の向上につながるような方策など、普及促進のための新たな枠組みや普及定着に向けた政府目標の設定について検討し結論を出すべきである。【平成14年度中に措置】
また、環境会計に期待される内部機能にもより一層着目し、原価計算、マテリアルフローコスト会計、業績評価への環境項目の導入など環境管理会計手法について検討をし結論を出すべきである。【平成13年度中に措置】
環境報告書の記載内容となる環境会計及び環境対策の評価結果(環境パフォーマンス情報)の更なる改良を行うことが必要である。具体的には、環境会計ルールの明確化のため環境保全対策に係る効果の体系付け等の理論的課題に対して検討を加えるとともに、環境パフォーマンス情報の集計方法を体系化する等により、実務上の利便性を向上させたガイドラインの改訂を行うべきである。そのため、業種間の比較がより一層的確かつ容易なものとなるよう項目の共通化を図りつつ、業種別の比較可能性の観点からも深堀すべきであると考える。
誤った情報による誤解を未然に防止する必要性から、EUでは「環境管理・監査制度(EMAS:Eco-Management and Audit Scheme)」による検証制度が構築されている。
国際的な動向を踏まえ、我が国においても第三者機関による監査制度の在り方も含めた環境報告書及び環境会計の内容の信頼性確保を図るための枠組みについて検討し結論を出すべきである。
その際、以下の点に留意の上、検討を行う必要がある。
監査実施者の専門家資格の創設あるいは公認がなされるようにするとともに、その養成や環境変化に伴う不断の資質向上について策を講じるべきである。なお、専門家資格を創設する場合には、資格に期限を設定すべきであるとともに、国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)同様に民間の認証機関とするべきであり、公認の資格の場合は現在監査を実施している公認会計士なども可能とすべきである。
可能な限り、監査手法や監査範囲、監査基準について標準的なものを明らかにすることが必要である。
第三者監査に当たっては、当該報告書を作成する者にとって、多大なコスト負担とならないことに留意すべきである。
企業に不利な、いわゆるネガティブ情報は消費者・投資機関・地域住民等にとって重要な情報となり得ることから、これらについても環境報告書及び環境会計に盛り込むべきである。
記載内容が虚偽であった場合の行政の対応についても検討すべきである。
都市のヒートアイランド現象の実情にかんがみ、下記のような対策を構ずべきである。
現在、各種の対策が関係各省、地方公共団体等において実施されているが、これをより効果的なものとしていくためには、従来のように、対策実施主体が個々別々に対応するのではなく、各種の対策が相互に連携し、体系立って実施される必要がある。
このため、環境省、国土交通省、経済産業省等関係省庁からなる総合対策会議を設置するなど、総合的な推進体制を構築するとともに、ヒートアイランド現象の解消対策に係る大綱の策定の検討をし結論を出すべきである。
また、ヒートアイランド現象については、地域により、排熱の原因別の寄与度や原因の相互関連性、地形等の差異があると考えられるため、対策の更なる推進のためには、更に各原因間の関連性、寄与度等複雑なメカニズムを更に解明していく必要があり、そのための調査・分析を進めるべきである。
一方、ヒートアイランド対策を考える上で、都市の形態も重要となると考えられる。例えば、都市内の一定地域においては高層化を図りつつ一方では中層・低層地域を別途確保することにより海や周辺地域からの風が都市内を通るようにする「風の道」を確保することや、高層化によりビルディングの建築面積を小さくする代わりに緑地帯を増やすこと、中心地域の高層化により都市の平面的な広がりを小さくして移動・物流に係るエネルギーコストや配電ロスを節約し排熱を減少させることなどにより、ヒートアイランドの緩和が図られることも考えられる。このようなことから、b.で述べたようにヒートアイランド現象のメカニズムを解明していく必要があるが、国土交通省においては都市政策の観点からもヒートアイランド対策について検討していくべきである。
生物多様性国家戦略を「人と自然との共生」を図るためのトータルプランとするため、次のような要素を取り込んだものに改訂すべきである。
奥山的自然地域を広くカバーしている自然公園を国土における生物多様性保全の屋台骨として積極的に活用する。
我が国の国土面積の7割近くを占め、国土の保全・水源のかん養・自然生態系の維持といった公益的な役割を果たしている森林の機能の持続的発揮を図る観点から、機能に応じた適正な整備・保全を行うことが必要である。
都市と奥山の中間地域としての里地・里山の生物多様性保全上の位置付けを明確にする。その上で、NPOの活動の支援、事業配慮の徹底など、多様な手法を有機的に組み合わせて目的を達成する有効な方策を講じる。
海岸・浅海域等の水系域や都市域など既に自然の消失、劣化が進んだ地域では自然の再生や修復が重要な課題である。自然の再生、修復の有力な手法の一つに、地域住民、NPO等多様な主体の参画による自然再生事業があり、各省間の連携・役割分担の調整や関係省庁による共同事業実施など、省庁の枠を超えて自然再生を効果的・効率的に推進するための条件整備が必要である。このため、関係省庁からなる自然再生事業推進会議を設置するなど、関係省庁の連携体制の一層の強化を図る必要がある。また、自然再生事業の推進に当たって、調査計画段階から事業実施、完了後の維持管理に至るまで専門家の参画や地域住民、NPO等の参画を得るためには、多様な仕組みを活用することが重要であり、例えば、維持・管理業務についてアドプトプログラム(ボランティア活動を行う企業や市民団体などが担当エリアを決め河川等の清掃・美化等を行う制度)の活用やNPOへの委託等により、きめ細かな市民ニーズへの対応を図る必要がある。また、再生事業や修復事業を行うに当たっては科学的検討を基にした具体的な目標を掲げるとともに、自然環境の復元状態をモニタリングしながら、その評価を事業にフィードバックするなど科学的な計画・手法に基づき実施することが必要である。
身近な自然の理解、保全のための学習の機会を広げる(自然再生事業や小中学校の学校教育等に取り入れる。)。
自然環境の保全に係る基礎調査の充実(国設のモニタリング拠点の整備、浅海域の生物・生態系情報のデータ整備、アジア地域の自然環境の基礎的データの充実など)を図る。
絶滅のおそれのある種の保全については、現状においてもアセスメントや各種施策の中で予防的な対策を講じているところであるが、自然再生事業の中に位置付けたり、里山・里地での生物多様性指標として取り上げて回復計画を実行するなど、現状の緊急避難的対策から予防的対策へとより一層重点を移すことが必要である。
外来種による生物多様性の侵食、生態系、人の健康・生命や産業への悪影響を回避するため、「人と自然との共生」を図る観点から外来種問題に係る仕組みを整備する。
※備考 「人と自然との共生」に係る施策については、次のような分野で特に大きな雇用創出が見込まれる。(1)調査・計画立案、(2)自然再生型公共事業(自然を再生させるには鉄やコンクリートではなく間伐材や粗朶など地域の自然資源を活用するため、労働集約的な作業が多く、事業費に占める人件費の割合が大きい)、(3)「人と自然との共生」に係る学習指導
「人と自然との共生」を図るための国家戦略の実現を担保するため、「生物多様性国家戦略」を定期的にフォローアップし、評価を行うべきである。
自然公園を生物多様性保全の屋台骨として積極的に活用するために、従来の風景保護に加え、生態系の保全と野生生物保護の機能を自然公園法(昭和32年法律第161号)に位置付けるべきである。
早急な対応が望まれる外来種問題については、既存の制度では不十分であり、「人と自然との共生」を図る観点からの制度の構築が必要であり、実効ある制度の構築に向け法制化も視野に入れて早急に検討を開始し結論を出すべきである。なお、上記検討に当たっては、外来種による生物多様性の侵食等の影響を回避するために必要と考えられる以下のような対策、制度の実効性の確保に不可欠であるリスク評価や水際対策等に必要な体制整備の観点も含めて議論し結論を得る必要がある。
外来種導入に関するリスク評価及びこれに基づく制限
危険性が高いと思われる種について、野生化の可能性や野生化した場合の生態系、野生生物種、産業、人の健康等への影響を科学的に評価を行う。その上で、危険性が高いと評価されたものに対しては、輸入、利用等に関し一定の制限を課す。
外来種の管理を適正に行うための対策
リスク評価の結果、適正な管理が必要と評価された種について、当該外来種を所有、利用、管理する者に対し、遺棄・放逐の禁止、逸出の防止、登録義務等を課す。
外来種の駆除や制御に関する対策
問題外来種の駆除事業を実施している自治体、NGOなどに財政的支援を行う仕組みが必要であり、問題外来種の野生化をもたらした責任を有する者等に対し、駆除と制御(増殖・蔓延・影響の抑制)に係る一定の役割を課す(定着した問題外来種の駆除、在来種の利用促進事業に係る基金への出資など。)
在来種の産業利用の促進
在来種の産業利用に係る研究・開発を促進し、外来種利用産業における在来種利用を促進する。
(※)廃棄物の定義・区分の見直しについては14年3月までに中間とりまとめを行う。また、拡大生産者責任の対象の拡大等、リサイクル市場の形成支援及びリサイクル施設の建設促進についても14年3月までに検討し、廃棄物・リサイクル体制の再構築を図る。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)(以下「廃棄物処理法」という。)を始めとする諸制度について、以下の検討をし結論を出すべきである。
廃棄物の定義・区分、廃棄物処理に係る業、施設許可の見直し等
廃棄物の定義、一般廃棄物・産業廃棄物の区分の見直しについて、その処理責任の在り方と併せて検討を行うとともに、併せてリサイクルに係る廃棄物処理法上の業及び施設の許可や手続の簡素化に関し早急に見直しを行うべきである。また、廃棄物処理法及び建築基準法(昭和25年法律第201号)の施設許可の運用における住民同意に関する調査を行った上で、必要な運用の適正化を図るべきである。
拡大生産者責任、デポジット制の導入等
廃棄物の発生の抑制、リサイクルしやすい製品の生産等に係る拡大生産者責任につき、従来導入されていなかった分野について導入を図るとともに、既に導入されている分野については、その強化を図ることを検討する。また、デポジット制の導入及び3Rの促進に関する規格や基準(環境JIS、国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(平成12年法律第100号)の情報提供措置等)の早急な拡大についても検討する。
不法投棄跡地等の修復対策の強化
不法投棄跡地等の修復対策に関し、費用負担、責任分担を明確化し、技術開発の促進や環境修復ビジネスの促進のための措置等を講ずるべきである。
以上においては、廃棄物処理法を始めとする諸制度について、国、地方公共団体、排出事業者、製造業者及び排出者の適正な役割分担に十分留意すべきである。
環境に配慮した都市づくりの推進のため、当会議として地方公共団体に下記のとおり要請する。
都市の将来像に関するグランドデザインを策定し、その中で中長期的な環境配慮型の都市づくりを迅速かつ効率的に更に進めていくことを目指すこと。
環境アセスメント条例の施行については、事業の内容や場所に応じた柔軟で効果的なアセスメントの推進に努めるとともに、課題が顕在化している一部の地方公共団体にあっては施行の実態を踏まえつつ、必要に応じ、次のような手続の合理化を計り、期間の短縮につながるよう努めること。
公示、説明会の周知方法の多様化
事業者と行政の協議、関係審議会の審議期間等についての迅速な標準事務処理期間の設定
説明会対象地域の設定に係る運用の合理化
類似の既存データの活用による効率化
我が国においては、1970年代以降、大都市圏への「過度の集中」をコントロールする政策が採られてきたが、これが一面では東京を始めとする大都市、ひいては我が国全体の生産性の伸びを低速させてきたとの指摘もある。近年、我が国の都市は、その生産性と魅力において、世界の諸都市との競争時代に入ったにもかかわらず、依然として長時間通勤、慢性的な交通渋滞等の従来から続く課題さえ解決されていない。また、これまでも不動産市場に係る様々な制度整備が行われてきたが、いまだに土地神話的な要素の残る不動産市場も存在している。
こうした状況の下、今後予想される環境変化にきちんと対応し得るような各種制度改革をスピーディーに行っていくことが重要である。まず、都市の魅力に直結する安全で豊かな生活空間の創造を目指し、住みやすく、働きやすい成熟した都市生活の実現に向けた政策の転換に加え、効率的な資源配分を実現する観点から、経済社会活動の中心となる都市の魅力と国際競争力を高め、その機能を十分に発揮させることが必要である。また、現代社会の状況に応じた、公正で透明な信頼のできる不動産市場を再構築するための構造改革を推進することが必要である。
都市の価値を維持し高めていくためには、経済社会の成熟化の進展に応じた適切なマネジメント手法や様々な仕組み・制度の導入が必要であることは言うまでもない。しかし、そうした仕組み等を活用しながら、地域の活性化を推進していく主体は、地域の住民自身や事業関係者であり、そこで求められているのは土地利用の公益性とダイナミズムの確保である。この観点から、不動産市場の構造改革と、都市にかかわる諸制度の抜本的見直しを進めていくべきである。
不動産市場の構造改革は、都市再生の基本課題であり、まず、取引情報の開示、仲介業者の機能やサービスの質の向上、証券化の更なる促進による流動性の創出等、不動産市場の透明性を高める方向の制度整備が重要である。取り分け、取引情報の開示の徹底は、最も基本的な施策である。その際、プライバシーの保護等の問題が予想されるが、土地利用の公益性、不動産市場の活性化という公共性を踏まえれば、国民全体として長期的に得られる価値の方が大きいと考えるべきである。情報開示の結果として、現在の国家的課題である不良債権処理等に直接間接に寄与できる部分も大きい。また、借家制度等、不動産と密接に関連する諸制度について、事前予測可能性を最大限確保する方向での制度改正も必要である。こうしたことを通じ、透明で公正な信頼できる不動産市場を確立する。さらに中古住宅を良質な社会資本として維持・流通させるため、中古住宅市場の整備を推進することが重要である。
都市にかかわる諸制度の抜本的見直しに当たっては、まず国際的水準の都市づくりを誘導する具体的なグランドデザインの策定と実行が必要であり、その際民間主体による積極的投資が行われるよう、民間の都市計画に対する責任と自発性を醸成することが重要である。また、民間主導の再開発事業を円滑に進めるための制度整備等を図りつつ、例えば、大都市の骨格としての環状道路と周辺地域の再開発事業の一体的整備を推進するなど、都市機能の一層の高度化を実現するべきである。加えて、地震等の災害に対して安全な都市空間を創造するためにも、街区の統廃合を含めた敷地の統合化を図り、国際的水準の都市骨格を形成することが必要である。これにより、高度利用が推進され、集積の利益を通じた都市の生産性が向上することとなる。さらに、交通基盤・情報通信基盤等インフラ整備に重点的な資源配分を促すとともに、インフラ整備を阻む制度的要因を是正することが必要である。
また、分譲マンションについて、現在既に築後30年を超えているものが約12万戸あるが、10年後には、約93万戸に急増すると予想されており、老朽化マンションへの対応は、住宅政策上の喫緊の課題となっている。マンション建て替えについては、その制度に多くの課題が指摘されており、早急に制度を整備することが必要である。
なお、都市再生を効率的に推進するためには、都市計画道路を早期に整備するための財源問題や、不動産市場の活性化に有効な税制の活用等、規制改革に加え、予算、税制を合わせた総合的な取組を推進していくことが極めて重要である。
不動産市場の国際化や不動産金融市場の成長、さらには、国民の不動産の品質に対する関心の高まりに伴い、不動産に関する正確かつ詳細な情報に対するニーズは著しく高くなっている。しかしながら、各種不動産関連情報は、公共部門等に蓄積されているものの、十分に開示、活用されているとは言い難い。そのため、国民からの要請に応じて適切な形で提供できるような仕組みを早急に検討し、不動産関連情報を開示していくことが求められる。
具体的には、不動産に関するインデックスを作成する民間主体等が、守秘義務を前提としながら、実売買価格を含む不動産取引事例の情報を十分に活用できる仕組みを整備するべきである。【平成14年度以降逐次実施】
さらに、地価公示価格の透明性及び社会的信頼性を高めるため、取引当事者・取引対象地等が特定されない範囲で、評価に用いた基礎的情報及び評価手続について、閲覧等により一般に公開できるようにするなど、地価公示価格情報の一層の開示を図るべきである。【平成13年度以降逐次実施】
また、固定資産税評価額について、現在自己の資産に関する部分に縦覧が限定されているが、これを他の資産の評価額と比較できるよう、固定資産課税台帳の縦覧対象範囲の拡大を図るほか、更なる情報開示を進めるべきである。【次期通常国会に法案提出、平成14年度中に措置】
不動産の証券化、企業会計における時価評価の導入等の不動産をめぐる構造変化の下、不動産の鑑定評価に対するニーズが多様化・高度化している。このようなニーズに的確に対応できるよう、収益性を重視した、より精緻な手法や、より詳細な調査等を位置付けた不動産鑑定評価基準への見直しを行うことにより、不動産鑑定士等が依頼者に対するより一層の説明責任を果たすことができるようにするべきである。また、実務レベルにおいて、その基準に基づいた不動産鑑定評価の普及・定着を図るべきである。
不動産流通を活性化させるためには、より透明で公平な不動産取引の確保を図らなければならない。そのためには、不動産関連情報の開示とともに、不動産仲介業務の再構築が必要である。
一連の不動産流通業務の中で、中古住宅の耐震性能検査や入居後の定期検査などについては、従来の宅地建物取引業務の範囲を超えるものであり、そのような高度なサービスを望む消費者のニーズに対応できるように、他の専門性を有する組織・専門家との協働を促進することが重要である。
このため、まず、宅地建物取引業者の業務及び責任の範囲を明確にするべきである。
その上で、それ以外のサービスの在り方について検討するべきである。
あわせて、複雑化している「重要事項説明」について優先度を考慮して再整理を検討するべきである。
居住用建物について、当事者が合意した場合には定期借家権への切替えを認めることを検討するべきである。また、定期借家契約締結の際の書面による説明義務の廃止、居住用定期借家契約に関して強行規定となっている借主からの解約権の廃止について、その是非を含めて検討するべきである。【平成14年度中に措置(検討)、平成15年度中に措置(結論)】
また、借地借家法(平成3年法律第90号)上の正当事由制度について、建物の使用目的、建て替えや再開発等付近の土地の利用状況の変化等を適切に反映した客観的な要件とすることや、正当事由に関する賃貸人からの立ち退き料の位置付け・在り方について検討するべきである。【平成14年度中に措置(検討)、平成15年度中に措置(結論)】
さらに、長期の定期借家契約の普及を促進する観点から、1か月とされる賃貸に関する仲介手数料について、実態の調査・分析を行い、その在り方について検討するべきである。【平成14年度中に措置(検討結論)】
民法(明治29年法律第89号)第395条の短期賃貸借保護制度については、抵当権に後れる賃借権で事前に抵当権者が合意しないものは競売実施後の存続を一切認めないなど、廃止を基本として検討するべきである。
競売参加者による物件内覧の機会の拡充について検討するべきである。占有の正当性を占有者が挙証できない場合につき占有権原を否定する途を開くことを検討するべきである。民事執行法(昭和54年法律第4号)の保全処分など占有排除に関する処分については、当事者を確知できなくともその物件の占有者に対して効力が及ぶよう立法措置を検討するべきである。
また、最低売却価額の制度の在り方及び競売物件の瑕疵担保責任の在り方について検討するべきである。
土地情報の基礎である地籍の明確性は、都市再生の円滑な実施の前提条件であることから、その実施率が低い都市部において、一定の目標に向けて計画的集中的に地籍調査を行えるよう、財源確保及び外部専門技術者の活用等執行体制の強化を図るべきである。【平成14年度以降逐次実施】
また、土地境界紛争に関する裁判外紛争処理制度の仕組みについて、裁判手続との連携強化のための基本的な枠組みを規定する法律(いわゆる「ADR基本法」)の制定を踏まえて、必要な方策を検討するべきである。【ADR基本法を踏まえて平成14年度以降措置】
都市再生の分野においては、規制改革に加え、予算、税制を合わせた総合的な取組が極めて重要である。特に、都市の再生のためには、土地の流動化を図ることが必要であり、例えば、多様な主体の不動産証券市場への参加促進による不動産市場の活性化等、投資促進の観点から規制の見直しや、予算、税制の活用を行うべきである。
現行の都市計画法(昭和43年法律第100号)に基づくマスタープランにおいては、各地方公共団体の判断で、環境負荷の軽減、防災性の向上等の各種の社会的課題を都市計画の目標として定めることができることとされているが、特に大都市地域においては、都市の将来像に関するより一層の具体的かつ明確なグランドデザインを広く国民に示す必要性が高い。
その基本は、下記のようなエリアなどにより、高度利用するべきところは積極的に高度利用を図ることができるようにするとともに、ある程度抑制するべきところは抑制できるようにすることである。
高度利用するべきエリア:地下鉄の駅周辺などの高度利用を促進するべき地域については、安全性や都市基盤の充実を条件に、高度利用地区等を活用することにより、高い容積率を認める。
用途を複合化するべきエリア:特別用途地区等を活用することにより、住居、オフィス、商業の複合的利用を認める。
さらに、今後大都市地域においては、下記の項目についても明確に位置付けるべきである。
都市の骨格・中核となる都市計画道路、大規模公園、緑地等の整備目標年度
都市の過度な外延化の防止、職住近接の実現により、良好な都市環境を形成するための、都市全体と各エリアにおける人口密度(昼夜間人口)、一人当たり都市空間(住宅・オフィススペース)等に関する数値
ヒートアイランド現象の解消に資する、いわゆる「風の道」ともなる主要な緑地の配置の方針、確保目標
新しい時代のまちづくりに対する住民の自発性と責任を醸成し、住民が地区単位等で自律的に計画づくりに参画できるようにすることが必要である。そのため、住民の意向を尊重し、これを適切に都市計画に反映させるよう、都市計画の提案に係る手続等を整備することについて、次期通常国会での法案提出を目指し、検討するべきである。【平成13年度中に措置(検討結論)】
あわせて、都市計画審議会の運営について、都市計画の案の審議が円滑に進むよう、必要に応じ、開催間隔の短縮化、年間開催計画の公表、手続の短縮化等の運用改善に努めるべきである。【平成14年度中に措置】
再開発地区計画等の都市計画・建築規制において、現在、都道府県知事等に容積率規制や斜線制限の緩和等に関する幅広い裁量が認められているが、決定前にその内容を確定的に予測することは困難であり、また決定までに相当の期間を要する。このため、より効率的な事業推進のために可能な事前準備に着手できず、結果的に事業が長期化する要因となっている。民間のまちづくりの意欲を高め、投資を積極的に誘導し、良好な市街地整備を実現するために、都市計画・建築規制の運用に関する基準について、さらに客観性・明示性の高いものとするとともに、容積率規制の緩和等の都市計画等に関する問い合わせについて、都道府県知事等が一定期間内に回答するような仕組みの導入を図るべきである。
現行の敷地単位の建築確認制度では、複数の建築物の計画、既存の建築物との整合等について総合的に審査できないため、街区・地区単位で建築規制を課し、周辺との整合を勘案して緩和や規制を柔軟に行える仕組みについて、次期通常国会での法案提出を目指し、検討するべきである。
建築基準法(昭和25年法律第201号)の集団規定をできるだけ仕様規定から性能規定に移行させることについて、次期通常国会での法案提出を目指し、検討するべきである。また、移行できない規定についても、その趣旨・目的の明確化や内容の簡明化に努めるべきである。例えば、道路斜線制限(道路の幅員による高さの制限)は、道路上の採光等を確保するための制限であり、天空率等を指標として定量的に説明されるものであるが、今後、簡明さの維持という点も十分に踏まえつつ、各種技術進歩を活用し、基本的指標である天空率等の考え方ができるだけ柔軟にいかされるようにするべきである。【平成13年度中に措置(検討結論)】
また、同法の単体規定については、採光に関する規定の合理化について検討を行うべきである。【平成14年度中に措置(検討結論)】
都市計画決定権者は、用途、容積率等に係る規制について、その根拠の説明責任を果たすようにするべきである。【平成14年度中に措置】
また、都市計画・建築規制に関する行政事件訴訟について、出訴要件の明確化の観点から、処分性、原告適格等に関する情報提供等ができるようにするべきである。【平成13年度中に措置(検討)、平成14年度中に措置(結論)】
建築規制に関する違反是正の実効性確保のため、行政代執行の積極的活用に向けた違反建築物対策のためのマニュアル策定や運用の徹底のための措置を始め、違反建築物に関する情報開示、賦課金等の経済的なインセンティブ効果のある対策等について、幅広い観点から検討するべきである。
市街地再開発事業の施行区域要件について、耐用年限の3分の2を経過した建築物は、耐火建築物の算定から除外されているが、地震災害に強いまちづくりを推進していく観点からも、この耐用年限の短縮化を図り、施行可能なエリアの拡大を行うべきである。
民間の資金やノウハウを活用し、魅力ある都市の再生や木造住宅密集地域の改善を積極的に推進するため、用地買収型である第二種市街地再開発事業の施行主体として、地方公共団体、公団等の公的主体に加え、一定要件を備えた民間主体も認めることについて、次期通常国会での法案提出を目指し、検討するべきである。
第一種市街地再開発事業の権利変換計画の認可について、事業の迅速化を図る観点から、法令等の客観的基準に違反しないと認められる場合には、都道府県知事等は速やかに認可しなければならないとする旨周知徹底するべきである。
市街地再開発事業に係る工事のために必要がある場合、施行者は土地建物等の占有者に対して明渡しを求めることができ、明渡しがなされない場合、施行者の請求により都道府県知事が行政代執行を行うことができるとされているが、行政代執行が実施されることは極めてまれである。市街地再開発事業の迅速化を図るため、施行者より請求があった場合には、都道府県知事等による行政代執行の的確な実施が確保されるよう、マニュアルの充実等運用の徹底を図るべきである。
同一の街区内で複数の建築物を計画する場合、容積率の適切な配分変更等を円滑に行えるようにするため、一団地の総合的設計制度等を活用するほか、事業計画の変更等によって高度利用地区、再開発地区計画等の都市計画について、内容の変更が必要となった場合には、迅速な手続により行うべきである。
地方公共団体による要綱行政については、駐車場や住宅付置義務、負担金や施設提供義務など実質的な強制を行うようなものは、これを条例化することを原則とするとともに、その内容を法令の趣旨に照らし適正なものとするなど、ルールの明確化・客観化を図るよう要請するべきである。
また、要綱による行政は、必要最小限の期間に限ることとし、その目的・意義を一定期間ごとに再検討し、できるだけ縮小することを基本とするよう要請するべきである。
国際的水準の都市づくりを実現するためには、整備が進んでいない都市計画道路について、整備目標年限を定めた上で、その早期達成に努めることが重要である。そのため、公共用地取得に係る財源確保及び執行体制の強化を図るべきである。
都市計画道路等の公共事業の施行に当たっては、予算や実施体制等を総合的に勘案して適切な事業計画を定めるとともに、適切な時期に収用手続に移行することが重要である。
このため、事業者に土地収用法の事業認定等を適期に申請させるための措置について検討するとともに、事業の進行管理の適正化の観点から、適期申請に資する説明の責任を果たさせることを検討するべきである。また、都市計画事業についても、適切な時期に事業者が収用手続に移行すべきことを明確化し、一定期間内にそれを完了させるための措置について検討するべきである。
電線地中化・ガス管・水道管等の工事で、道路使用・占用許可が1日当たりの混雑を低く保つことを重視しているために、都心の工事期間を長期化し、工事全体の発生させる混雑のコストを高めている場合もあると考えられる。したがって、道路使用・占用許可は、工事全体が発生させる混雑のコストを引き下げることを考慮して運用されるべきである。
都市における交通渋滞を緩和し、効率的な経済活動を実現するためには、違法駐車問題の解決が重要である。都心部における駐車違反取締りを効率化するため、引き続き当該業務の一部の民間委託等を積極的に推進するべきである。
都心の土地の有効活用のためには、快適に通勤できる乗客の総数を大幅に増やす必要がある。そのために有効な手段は、オフピーク時の運賃を安くし、ピーク時の運賃を高くする「時間差料金制」である。
時間差料金制は、(1)安いオフピーク料金を利用した通勤者を増やす。これは特に商業を中心としたサービス業に従事する通勤者を増やすため、都心の活性化にも役立つ。(2)ピーク時の通勤者を他の時間帯に分散させる。現在の大都市の通勤鉄道では、ピーク時間帯の30分から1時間の間に集中している。この料金制は、ピーク時の混雑度を下げ、通勤時間帯を広げる効果がある。すなわち、この料金制度は、混雑時の乗客が発生させる外部不経済効果を内部化させることによって、資源活用の有効化を図れるという公益的な機能を持っている。
しかし、現在の料金規制制度は、時間差料金制を採用する誘因を鉄道事業者に与えていない。時間差料金制を採用する誘因を鉄道事業者に与える方策を検討するべきである。
首都圏及び近畿圏の既成市街地等における産業及び人口の過度の集中の防止等を目的として、一定床面積以上の工場や大学等の新増設を制限する工業(場)等制限法については、産業構造の変化、少子化の進行等、社会経済情勢が著しく変化する中、次期通常国会を目指し、その在り方について廃止を含め抜本的に見直すべきである。
区分所有法の建て替え要件を5分の4以上の合意のみとすることや、隣接敷地との敷地共同化による建て替えや住宅部分以外の床(商業・業務床)の大幅な増加を認めることも含めて、マンション建て替えを円滑に実施するための方策を早急に検討し、平成14年秋までに改正法案を作成するべきである。
区分所有者による良好な居住環境を備えたマンションへの建て替え事業を円滑化するため、法的安定性の確保に留意しつつ、行政庁の認可に基づく法人格を有する建て替えのための団体の設立、抵当権等を含む関係権利が建て替えに伴って円滑かつ確実に再建建物に移行するための仕組みの整備等を内容とする新たな建て替えの制度について早急にとりまとめるべきである。
総合設計制度等の容積率特例制度の積極的活用等により既存不適格マンションの建て替えの円滑化を図るべきである。
中古住宅の外装、内装、設備、耐震性能等を第三者である評価機関が買主又は売主に代わって標準化された方法により検査し、その結果を参考とし売買契約や賃貸借契約の締結を判断できるような制度を導入するべきである。
管理組合によるマンションの適正な維持管理を支援するとともに、中古マンションの市場での流通円滑化を図ることを目的として、管理組合及び中古マンション購入者による維持管理等に係る履歴情報の利用可能性を高めるための方策を検討するべきである。
地方公共団体等の公的主体が所有する公営住宅等の用に供する土地が必ずしも有効に活用されていないという実態を踏まえ、PFI事業の積極的推進等により、民間施設も含めた複合・高度利用を推進し、都市を中心とした、公的主体が所有する土地の有効活用を図るべきである。
公営住宅については、真に住宅に困窮している者に的確に供給することが重要であり、入居における資産の考慮も含めた適正な管理や地域の状況に応じた効率的な運営の在り方について検討するべきである。【平成14年度中に措置(検討)、平成15年度中に措置(結論)】
また、公的に家賃の援助を受けている公営住宅入居者の家賃滞納防止のため、家賃を公営住宅の担当部局が家賃援助の担当部局より直接受領する等の関係部局が連携した対策の推進など、公営住宅の家賃の滞納防止を図るべきである。【平成14年度以降措置】