第1章 新しい事業の創出

1990年代以降、我が国は経済のグローバル化や少子高齢化など外的環境の急激な変化の中で経済の停滞を余儀なくされている。それに伴い、国際社会における我が国経済に対する評価も、例えばIMD(International Institute for Management Development)の国際競争力ランキングに象徴されるように、低下し続けている。しかし、我が国経済の現状のパフォーマンスが劣っているとはいえ、我が国が今なお高度の技術力・莫大な個人資産・高レベルの国内消費市場など、他に優位な要素を擁する世界有数規模の経済システムを有することに疑いの余地はなく、その潜在力をいかして自信を取り戻せば、現状の危機を乗り越えることは十分可能であると考える。

我が国の潜在力を目覚めさせ経済活性化を図るためには、新規事業の創出とその成長を支援することが最優先の課題の1つである。しかし新規事業の創出という観点で見た場合、現状の我が国においては、既存のシステムに保護されている人と新たに起業する人との間にリスクの差が大き過ぎるほか、制度面でも差が大き過ぎ、やる気のある人々の起業意欲をディスカレッジしているとの指摘がある。また一方で既存事業の再編が遅々として進んでいない、大学等の研究機関における成果が十分活用されていないなど、現有資源の有効活用も十分でないという問題もある。新規事業の創出のための施策については、こうした現状を踏まえて、起業のハードルを下げて我が国の「創業力」の底辺を広げるとともに、事業に必要なヒト・モノ・カネといった資源(技術を含む)が成長する企業や分野に最適配分されるような仕組みの構築を至急検討し、実現すべきである。

規制改革はこうした施策における重要な手段として位置付けられる。これまでも規制改革は、新たなマーケット創出による成長機会の提供という形で新規事業の創出を支えてきた。しかし、上記の問題意識を踏まえれば、我が国の新規事業創出に関するインフラについて、起業の創出からその後の成長ステージまでを包括した観点から、集中的かつ包括的な規制改革を迅速に行う必要がある。

具体的には、「起業のハードルを下げる」点では、起業に伴う諸手続の時間や事務負担の削減を図るとともに、各種の有限責任の法制度上の事業形態を一層利用しやすい制度に再構築する必要がある。 また「ヒト・モノ・カネの資源の最適配分」という点では、エクイティ・ファイナンスの拡大や担保制度の拡充等を通じ「リスクに応じた資金調達手段の多様化と円滑化」を図る必要があるほか、画一的な教育制度の見直し・大学の活性化・多様な働き方を可能とする雇用制度の見直し等を通じた「意欲ある人材を育成・支援する仕組み」、さらには産学連携の強化やM&Aに関する制度の改善を通じた「技術力や既存事業などの現有資源を最大限いかす仕組み」の整備について、同時並行的に大胆な規制改革を進める必要がある。

最後に新規事業の観点から税制面での検討を行うに当たっては、特例措置自体が税の公平・中立・簡素といった原則の例外措置であることを認識し、政策目的、必要性、効果などを十分吟味することが必要である。その上で、例えば間接金融からエクイティ投資など直接金融へのシフトや、長期雇用から多様な働き方への選択肢の拡大等、従来の我が国の諸制度についてのパラダイムの転換が求められているという現状を踏まえ、我が国の諸制度の将来の在り方についてのビジョンに基づいた上で、一連の規制改革と連携しつつ、検討されるべきである。


1.資金供給に関する規制改革

意欲と創造力のある人々が起業し、又は新規事業を営もうとする際には、その事業リスクに見合った形でリスクマネーが供給されることが重要である。その意味で、資金供給に関するインフラ整備は新規事業の創出を支援するために極めて重要である。

我が国の金融市場は今後、直接金融(いわゆる市場型間接金融を含む)へのシフトを強めることが予想されるが、証券の発行体が成長途上にある新規事業であるような場合については、私募形態での証券発行による資金調達手段を充実し、そのためのインフラを整備することによって、新規事業への円滑な資金供給を促すことが求められる。

他方、依然として重要な位置を占める間接金融(金融機関等からの借入れ)については、従来の不動産担保に偏重した銀行融資の見直しが不可避であり、新規事業への新たな資金供給の促進の観点から不動産以外の動産や債権を担保とする制度の整備等の環境整備について検討すべきである。また、企業が倒産した場合に、その経営者が負う個人責任の範囲について、潜在的起業家が事業立ち上げに躊躇する一因との指摘があることを踏まえ、リスクを取る新規事業の立ち上げに対する障害の除去という政策的観点から、個人保証の在り方について検討するとともに、関連する制度等の見直しが必要であると考える。

(1)直接金融分野

1)証券取引法上の開示規制の見直し

a)私募ルールの見直し【平成14年度中に検討開始】

新規事業が起業及び成長のための資金を円滑に調達できる機会を拡大するためには、私募による資金調達についての環境整備が急務である。現在の我が国の私募市場はいまだ十分な発展を遂げていないとの指摘もあり、新規事業への資金供給の円滑化という観点からも、私募市場を活性化するために、現行制度を見直すことが必要である。

したがって、例えば、いわゆるプロ私募における適格機関投資家の範囲(プロの範囲)の拡大、エクイティ性証券の取扱い等について、具体的な検討を開始すべきである。

b)有価証券届出書の効力発生期間の短縮【平成14年度中に検討】

近年の情報通信技術(IT)の進歩により、投資家への迅速な情報提供が可能となり、また本年6月より有価証券届出書等についてEDINET(証券取引法に基づく有価証券届出書等の開示書類に関する電子開示システム)の適用が開始されたことをも踏まえ、投資家保護の観点から適当であると認められる場合についての有価証券届出書の効力発生期間の短縮、また、EDINETにより提出される訂正発行登録書に係る発行登録の効力停止期間の短縮を検討すべきである。

2)投資事業有限責任組合制度(ベンチャー・キャピタル制度)の拡大【平成14年度中に措置】

「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」(平成10年法律第90号)に基づく「投資事業有限責任組合」は、これまで幅広い投資家層による中小・ベンチャー企業への資金供給を促進する役割を果たしてきているが、企業活動をより活性化させるために、本制度の一層の整備が求められている。 したがって、我が国における事業資金供給の一層の促進を図るという観点から、例えば、投資対象の拡大など、本制度の範囲の拡充について検討すべきである。

(2)間接金融分野

1)個人保証の見直し(差押禁止財産の範囲拡大等)【平成15年中に措置】

我が国では、金融機関が融資先企業の経営者等から常に個人保証を徴求することが、商慣行として定着している。しかしながら、保証債務を負っている中小企業等の経営者や個人事業主が、経営に失敗し、個人破産等に至った場合に、再起不能な程度まで財産を失ってしまうのでは、当該経営者の再挑戦が困難となるのみならず、これから会社を興そうとする潜在的起業家の創業意欲も減ぜられることになりかねない。この点で、現行の差押禁止財産・自由財産の範囲は狭いとの指摘がある。

したがって、創業の促進及び再挑戦可能性の確保の観点、我が国の中小企業等の持つ構造的特徴等をも踏まえつつ、関係法令を見直し、差押禁止財産・自由財産の範囲を拡大すべきである。

2)コミットメント・ラインの対象企業の拡大【平成15年度中に検討・結論】

コミットメント・ライン契約(特定融資枠契約)は、既に制度が導入されている大企業等のみならず、新規事業を始めようとする中小企業等にとっても有益な資金調達手段であり、現行制度において、借主の範囲に中小企業を事前に一律に排除していることは適切ではないとの指摘がある。

したがって、経済的弱者の保護という利息制限法(昭和29年法律第100号)及び出資法(「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」、昭和29年法律第195号)の趣旨を踏まえつつ、コミットメント・ライン契約を利用できる借主の範囲について検討すべきである。

3)動産・債権担保法制の整備による資金調達の円滑化【平成15年度中に検討開始】

現在の我が国の法制によれば、動産(集合動産を含む)及び債権(集合債権を含む)についての譲渡担保権はその要件・効果が全て判例法にゆだねられており、実務上これらの利用に不便があるとの指摘がある。また、一般に担保権の目的となった動産を第三者が善意取得すれば担保権者はその権利を失うとされており、このようなルールが担保権者と第三者との利害調整のルールとして妥当か否か再考の余地があるとの指摘もある。さらに、動産及び債権担保法制においては米国の法制のような公示制度を整備すべきであるとの指摘もある。他方、譲渡担保権については、立法化によりかえって制度が硬直化して利用の便が悪くなるとの指摘もある。また、例えば集合動産譲渡担保権者と第三者との利害調整のルールには特段の問題がないとの見方もある。米国の法制を参考にするとしても、実効性のある公示制度を整備することは困難であるとの指摘もあるところである。

したがって、新規事業者や中小企業を中心とする事業者の資金調達の円滑化を支援する観点も踏まえ、動産担保法制及び債権担保法制の整備に関するニーズの有無、問題点の洗い出し等について検討を行うべきである。


2.事業の仕組み及び運営に関する規制改革

近年、新規株式公開市場の整備や数度にわたる商法改正によって、我が国における新規事業の創出についての環境は相当程度整いつつあるが、実際には、我が国における起業や新規事業を営もうとするケースは依然として低い水準にとどまっている。

しかしながら、我が国における労働者の働き方や職業観の急速な多様化によって、いわゆるSOHO(Small Office/Home Office)や高齢者・主婦による起業等、様々な起業形態や起業者層が出現してきており、潜在的な起業家層は多いと見られている。

したがって、「起業しやすい」あるいは「小規模でも運営しやすい」制度を整備することや、起業者のリスクを「過大にしない」あるいは「予見可能な範囲にとどめる」観点での制度整備が意欲のある人々を後押しするために是非とも必要である。

また、我が国経済の活性化という観点からは、起業数の大幅な増大はもとより起業後における市場での競争力向上を促す仕組みや、潜在的に成長力ある企業が組織再編を活用できるようにすることで、その成長を促進する仕組みを整備することが、新規事業創出を真に経済活性化につなげる上で重要である。

(1)より簡易な起業制度の整備

1)事業形態インフラの整備(有限責任諸形態の整備)

a)企業組合制度の改善【平成14年度中に措置】

中小企業等協同組合法(昭和24年法律第181号)に基づく企業組合制度は、個人や小規模事業者が法人化し、安定した職場を確保するのにふさわしい組織形態としてこれまで利用されてきたが、近年では、最低資本金の制約がないことや有限責任が認められること等、起業しやすい制度として福祉・社会貢献の分野を中心に設立が増加している。

したがって、今後こうした動きを促進するとともに本制度を利用して働く者を支援する観点から、現行の制度をより活用しやすいものとするため、(1)設立時に発起人を4名以上とする要件の緩和、(2)法人の組合員資格の容認、(3)従事比率要件(組合員の組合従事比率、従事者に占める組合員比率)の緩和、等について検討し、制度整備を図るべきである。

b)私法上の事業組織形態についての検討【平成14年度中に検討開始】

現在用意されている私法上の組合や法人の諸形態については、これらを一層利用しやすい制度に再構築する必要があるとの指摘がある。

この点に関しては、本年3月に閣議決定された「規制改革推進3か年計画(改定)」においても「私法上の事業組織形態についての検討」として平成14年度に検討を開始することとされている。 したがって、合理的かつ健全な事業組織形態の在り方について、私法上の問題点の整理と検討を開始するとともに、併せて税法上の取扱いも検討すべきである。

2)事業の組成・設立手続の簡素化

a)新事業創出促進法の改正(商法の特例の検討)【平成14年度中に措置】

新事業創出促進法(平成10年法律第152号)は、創業5年以内の個人又は会社を支援対象として認定し、金融支援や商法上の特例措置を設けることにより、これまで新規事業の創出に貢献してきた。

したがって、最近の商法改正をも踏まえ、さらに起業をしやすくする環境を整備するという観点から、同法の認定を受けた企業における最低資本金規制の緩和・検査役調査等の免除等について商法の特例措置を盛り込むよう新事業創出促進法を改正するとともに、新事業の認定手続の迅速化を図るべきである。

b)会社設立に関する諸手続についての電子化【平成14年度以降継続的に実施】

現在、我が国において会社を設立する場合に要する時間や各種手続上の事務負担が、機動的かつ活発な新規事業創出の実現を阻害する一因となっているとの指摘がある。

したがって、起業者が会社設立に際して要している時間や事務負担を大幅に削減する観点から、会社設立に関する諸手続(会社設立登記後の各種申請等の公的手続を含む)の電子化を一層推進すべきである。

3)フランチャイズ・システムに関する業種横断的な制度整備

a)情報開示制度のサービス分野への適用拡大等サービス・フランチャイズに関する環境整備【平成14年度中に措置】

「フランチャイズ・システム」は、小売・外食・サービス業等の広範な産業分野における新規産業・雇用の創出に大きく貢献するシステムであり、近年、フランチャイズ・システムを採用する企業群は、小売業だけでなく、サービス業等の幅広い産業分野に広がっているが、最近では小売業以外のフランチャイズ産業のウェイトが高まるとともに、流通・サービス分野における異業種間の融合が急速に進展している。

しかしながら、現在の中小小売商業振興法(昭和48年法律第101号)は中小小売商業の振興を目的とした法律であるため、同法に定めるフランチャイズ本部と加盟希望者間の契約締結の際の情報開示及び説明義務は、小売業以外の産業分野には適用されない。したがって、フランチャイズ・チェーンシステムの普及促進等を通じた中小企業及びベンチャー企業の健全な発展を図るためにも、サービス業等の小売業以外のフランチャイズについても、その実態把握を十分に行った上で、契約締結時の情報開示に関する制度の整備等について検討するとともに、相談窓口の整備等の施策を講ずることにより、サービス・フランチャイズシステムに関する環境を整備すべきである。

(2)迅速な組織再編(統合・分割)を可能とする制度整備

1)証券取引法上の強制公開買付規制(3分の1ルール)の見直し【平成14年度中に検討開始】

現行制度では、証券取引法(昭和23年法律第25号)適用会社の株式については、著しく少数の者から買付等を行う場合には、買付等の後の株式取得者の所有割合が総議決権数の3分の1を超えるときは、公開買付の方法によることが義務付けられている。しかしながら、このような3分の1超の株式の移動を市場に情報開示することは投資家保護の観点から重要であるものの、その手段として相対での株式売買であっても公開買付を強制することは、公開買付を行う者にとって負担が重過ぎ、相対での株式譲渡等による事業再編を阻害しているとの指摘がある。実際にも、公告等に要する費用が多大であるほか、株式の取得を望む者は市場価格より低い価格での公開買付を事実上強制される事例が少なくなく、合理的でない。

したがって、迅速なMBO(Management Buy-Out)等による企業組織の再編を活発化し、新規事業にダイナミックな成長機会を提供する観点から、例えば上記3分の1を超える株式の移動について、強制公開買付規制の見直しを検討すべきである。少なくとも、担保権の実行等の場合には、ヨーロッパ諸国でも認められているように、公開買付の義務付けは廃止すべきである。

(3)新規事業の事業機会の拡大等に向けた政府調達制度の見直し

中小企業者の事業機会の確保のための施策については、これまで、資金調達、人材育成、技術開発などの観点から、新規事業者への支援を重視した中小企業政策が展開され、官公需においても、新規開業者や技術力ある中小企業者に対する受注機会の拡大への配慮など、事業機会の確保のための施策が講ぜられてきたが、経済活性化と雇用拡大の原動力である新規事業者への配慮をこれまで以上に行う一方で、真の意味で結果ではなく機会を確保するという視点からの見直しが必要である。この点については、公正性と経済合理性の担保、効率的な予算執行等の観点を十分踏まえ、今後、抜本的な検討が必要であると考えるが、社会的にも関心の高い政府調達に関連する事項については、当面、次のような見直しを図るべきである。

1)入札参加資格の見直し

a)国の物品の製造・販売等に係る入札参加資格の見直し【平成14年度以降継続的に検討】

事業者が国の一般競争入札等の競争契約に参加する際には、全省庁統一の資格審査を受ける必要がある。その審査基準は、事業者の「営業年数」を始め「年間平均生産高」、「自己資本額」、「機械設備等の額」などを点数化して、その合計値ごとに事業者の等級を決定する仕組みとなっているが、事業者の履行能力を確認することに資する反面、業種によっては、高い技術力を有していても創業後間もなく企業規模も小さい新規事業者が入札に参加することを困難にしている場合がある。

こうした事態の改善を図り、新規事業者の入札機会を拡大するために、例えば、入札参加資格の在り方の検討を行うとともに、技術力ある中小企業等の入札参加機会を拡大するための運用弾力化措置の徹底を図るべきである。また、指名競争入札についても、特に早急に改善すべきである。

b)公共事業契約に係る入札参加資格等の見直し【平成14年度以降継続的に検討】

公共事業の契約において、必要に応じて「工事、製造又は販売等の実績」、「工事等についての経験」を参加資格として定める場合については、契約実績を掲げるときは、官公庁契約のみに限らず、同等の技術力等を要求されると考えられる民間契約もできる限り同等に扱う必要がある。「入札に参加する者の事業所の所在地」等に関する必要な資格を定める地域要件についても、新規事業者が事業範囲を拡大していく場合の制約となっていないか等の視点も含め、諸外国の制度を参考にしつつ、官公需における中小企業者の受注機会の確保の在り方についての見直しを踏まえて、今後、その在り方を検討する必要がある。

2)政府調達の公正性・経済合理性の更なる確保【平成14年度以降継続的に検討】

官公需法(「官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律」、昭和41年法律第97号)に基づく「中小企業者に関する国等の契約の方針」(閣議決定)における中小企業者向け契約目標については、無理な分割発注等の施策を強いることとなっていないか等の観点から、政府調達の公正性と経済合理性や効率的な予算執行の確保といった視点を十分踏まえて、その在り方を検討する必要がある。また、この検討結果を踏まえて、「中小企業者に関する国等の契約の方針」における「分離・分割発注の推進」についても、例えば、分割発注方式を採用する場合には、透明性確保の観点から、採用する理由を明らかにし公表すること等、改めて見直しを検討する必要がある。


3.人材の育成及び供給等に関する規制改革

事業を創出するのはあくまでも"人"である。新規事業において人材が十分に確保されるためには、やる気のある人が集まり創意工夫をもって挑戦し続けることを阻害しないことが重要であり、今日の会社と個人の関係における人々の意識の変化にも対応しつつ、雇用・労働制度におけるパラダイムを転換していく必要がある。

また、大学の研究成果を活用する「大学発ベンチャー」等大学の研究シーズを素早く実用化・産業化することや、大学において社会的ニーズも踏まえた教育研究を行うこと等、産学の連携を一層促進していくことが、新規事業の創出・支援のためには極めて有効である。

さらに、教育においては、これまで、行き過ぎた平等主義・画一主義に陥り、新しい価値を創造して人々を牽引するリーダーの輩出を妨げる傾向があった。

したがって、新規事業を担う独創性と創造性に富んだリーダーの資質を持った人材を育成するため、社会や地域住民、需要者のニーズに応じた人材の育成を支援することにより、義務教育段階から多様な教育が提供されるべきである。

(1)新規事業における人材確保を支援する規制改革

1)労働者派遣及び有期労働契約の拡大【迅速に検討・結論】

新規事業においては、派遣・有期・パート等柔軟に人材を確保することが必要であり、また多様な就業形態を求める人も増加してきている。

労働者派遣制度については、働き方の選択肢を広げ、雇用機会の拡大を図る等の目的から、労働者派遣法(「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」、昭和60年法律第88号)の見直しに向けて検討を行っているところであるが、派遣期間についてはその制限の撤廃を含めた見直し、派遣対象業務についてはその一層の拡大について検討すべきである。

また、有期労働契約については、契約期間の特例の延長やその適用範囲の拡大等について労働基準法(昭和22年法律第49号)の改正に向けて検討しているところであるが、早期に結論が得られるよう、検討を進めるべきである。

2)紹介予定派遣制度の見直し【迅速に検討・結論】

雇用のミスマッチを解消し、新規事業にとっては採用実務を効率化するという意味で、従来の試用期間制度に加え、常用目的紹介や紹介予定派遣を積極的に活用することが極めて有効である。派遣先への就職を前提とした紹介予定派遣制度については、実態調査を踏まえ、労働者派遣制度全体の見直しと併せて、例えば派遣就業終了前の面接可能時期の前倒し等、法制度を含む現行制度の見直しを迅速に検討し、円滑な運用の阻害要因を取り除くべきである。

3)民間職業紹介事業の規制緩和

a)職業安定法における許可基準の見直し【迅速に検討・結論】

新規事業への円滑な労働移動を図るに当たって、民間職業紹介事業者の果たす役割は大きく、その活動をより活性化する必要がある。職業紹介制度については既に有料職業紹介・無料職業紹介の双方について制度全体の見直しに向けた検討を開始したところであるが、例えば、兼業規制の緩和や学校等以外の者の行う無料職業紹介事業の許可制について許可制を届出制に改めること等、幅広い検討を行うべきである。

b)求職者からの手数料規制の緩和【迅速に検討】

求職者からの手数料については、モデル・芸能家に加え、年収1,200万円以上の科学技術者・経営管理者からも徴収可能となったところであるが、新規事業への求職者が必ずしも高額の年収だけを求めるのではないこと等を考慮し、新規事業への求職者に限らず、例えば年収要件の大幅な引下げ等により、対象者の拡大を図ることを検討すべきである。

(2)会社と個人の新しい関係に応じた規制改革

1)労働基準法の抜本的改正【迅速に検討・結論】

労働基準法(昭和22年法律第49号)については、高度の専門能力を有するホワイトカラー層等の新しい労働者像にも対応した、新たな時代の雇用関係を規定する基本法とするための抜本的見直しを検討すべきである。その際、米国のホワイトカラー・エグゼンプションの制度をも参考にしつつ、裁量性の高い業務については労働時間規制の適用除外を採用することについて検討すべきである。また、現在は判例法にゆだねられている解雇の基準やルールについて立法で明示することを検討すべきである。その際には、いわゆる試用期間との関係についても検討するとともに、解雇の際の救済手段として、職場復帰だけでなく、「金銭賠償方式」という選択肢を導入することの可能性を検討すべきである。

2)裁量労働制の拡大【迅速に検討・結論】

新規事業の立ち上げにおいては、目標を共有した意欲的な人々が自らの意思で仕事を進めていくことが多く、こうした意欲を阻害してはならない。企画業務型裁量労働制を採用するための現行の手続が煩雑になっていることにかんがみ、成長過程のベンチャー企業等にとっても使いやすい制度となるよう、企画業務型裁量労働制の手続の簡素化について、早期に結論が得られるよう、検討を進めるべきである。

3)個別労使紛争への対応強化【遅くとも平成16年中に措置】

新規事業においては、迅速かつ低廉な費用で個別的な労働関係の紛争を適切に解決するスキームが求められることから、労働調停制度や労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否等について早急に検討し、所要の措置を講ずべきである。

4)企業年金及び退職金制度の改革【平成14年度以降適宜検討・結論】

新規事業への有能な人材の移動を支援するためには、従来型の年金や退職金といった長期勤続を優遇する制度が人材流動化の阻害要因とならないようにする必要がある。企業年金については、転職が不利にならないよう、確定給付型年金のポータビリティ向上を目的とした中途脱退者の通算制度の拡大や、コストを抑えた効率的な運営システムの整備等による確定拠出型年金の拡大を図るべきである。また、退職金については、長期勤続者を過度に優遇する現行制度の見直しを図るべきである。

(3)産学連携の促進

1)大学教員の勤務条件の弾力化等

a)国立大学教員の流動性の向上【平成15年度中に検討・結論】

教員の流動性を高めることによる大学の教育研究の活性化及び産業界の専門性の高い人材を活用する観点から、国立大学が法人化される際には、各大学の判断によりいわゆる招聘型任期付教員の能力・実績に応じた給与等の処遇を可能とし、任期制の積極的導入を図るべきである。

b)国立大学教員の企業での兼業の促進【平成14年度中に検討・結論】

大学の研究成果が素早く移転できるよう、平成14年10月から国立大学教員の役員兼業に係る人事院の承認権限が文部科学大臣に委任され、さらにその権限を大学長に再委任できることとされたところであるが、国立大学の法人化を待たずに弾力的な勤務形態(例えば週20時間勤務)による任用を進め、兼業・起業を促進すべきである。また、商法が改正され、社外取締役(同法第188条第2項第7号ノ2)が規定されたことを受け、関係制度の変化や公益性に関するコンセンサスの形成状況を見極め、国立大学教員の社外取締役との兼業について、有識者の意見を聴取しつつ、解禁に向けた検討を行うべきである。

2)大学及び大学院における起業家の養成

a)学部・学科の設置規制の柔軟化【平成14年度中に措置】

我が国の高等教育機関においては、ビジネス実務を学べる機会が少ない。自らビジネスの世界に飛び出そうとする、やる気のある個人が起業家となるための教育を受けられる環境を作り、「大学発ベンチャー」の誕生を支援するための仕組みを作ることが急務である。

したがって、この観点も踏まえ、大学が主体的な判断により機動的に編成できるように、国立大学の法人化を待たず、学部・学科の設置規制を柔軟化し、教育機関間の競争を活性化することを図るとともに、大学院における高度専門職業人養成の充実を図るべきである。

b)学校外教育の認定の促進【平成14年度中に措置】

起業家や経営スタッフの育成を図るためには、国内外の大学や民間の教育機関が連携して取り組める環境の整備が必要である。そのため、例えば、民間企業やNPOにおける起業家講座やインターンシップ等、起業家や経営スタッフの育成に資する学校外での学習のうち、一定の質を満たす場合については、これを大学の単位として認定することを促進し、人材育成面での産学連携を加速すべきである。

c)若手研究者の参画の推進【平成14年度中に措置】

研究資金を獲得するために行われる受託研究や共同研究において、ポストドクターや大学院生の若手研究者に発明の機会を与え、発明に対するインセンティブを持たせるために、企業からの受託研究の研究代表者となることなど若手研究者が積極的に参画することを推進し、人件費等の配分についても、自由に大学で決定できるようにすべきである。

(4)新規事業創出を担う人材の育成

1)小・中学校の改革

a)教育プログラムの多様化の推進【平成14年度から措置】

学習指導要領は、各学校において編成する教育課程の大綱的基準であり、最低基準としての性格を有するものであるが、各学校において弾力的な取扱いがなされていない面も見受けられる。したがって、創造性豊かな人材の育成を進める観点から、各学校段階間の連携等、各学校において、創意工夫に満ちた教育課程の編成や多様な指導が行われることを一層推進すべきである。

b)教員評価の導入等による教員資質の向上【平成15年度中に措置】

社会や地域住民、保護者や児童生徒のニーズに応じた教育を推進し教員の資質向上を図る観点から、教員の能力に応じた処遇が適切になされるシステムに転換するよう、各教育委員会に対し新しい教員評価の導入の促進を図る。また、例えば、英語教育を充実する観点においては、「英語が使える日本人」の育成を目指した行動計画を平成14年度中にとりまとめるとともに、特に中学校については、平成15年度から外国人の優秀な外国語指導助手の正規教員等への採用を促進する等、教員の資質を向上させ、公立小・中学校の改革を推進すべきである。

c)都道府県の私立学校設置認可審査基準等の見直しの促進【平成14年度中に措置】

私立学校の設置を促進するため、平成14年4月に小学校設置基準及び中学校設置基準が制定され、教育上及び安全上支障がない場合には、廃校となった公立学校等を共用又は借用することができることが明確になったところである。

したがって、学校間の競争を促し、教育の質の向上を図る観点から、各都道府県の私立小・中学校の設置認可審査基準等における校舎や運動場の面積基準等の要件の見直しを各都道府県に促すべきである。

d)私立学校審議会の見直し【平成14年度中に検討・結論】

私立学校審議会は、私立学校の自主性を確保する観点から、私立学校行政に関する所轄庁の権限行使に当たり、私学関係者の意見を反映するために設けられており、現行の私立学校法(昭和24年法律第270号)第10条は、私立学校関係者以外の民間有識者等を同審議会の構成員数の4分の1以上にしてはならない等と規定している。しかし、この規定は、各都道府県の私立学校行政を過度に規制しかねない可能性もあることから、例えば、上記規定の在り方等、構成員・運営を含む私立学校審議会の在り方を検討すべきである。

2)コミュニティ・スクール導入に向けた制度整備【平成15年中に検討】

新しいタイプの公立学校であるコミュニティ・スクールを導入することの意義は、教職員人事を始めとする運営・管理及び教育の実施等について、学校、保護者、地域の独自性を確保する一方で、地元代表や保護者の代表を含む「地域学校協議会(仮称)」に対しアカウンタビリティを負うことにより、社会や地域住民・需要者のニーズに応じた多様で機動的な学校運営を可能とし、独創性と創造性に富んだ人材の育成に資することにある。これらの点を踏まえ、コミュニティ・スクール導入のための制度整備に関しては、例えば、「地域学校協議会(仮称)」の設置と権限、教職員人事運営・管理、教育の実施等に関する学校の裁量権拡大等の点について、法改正を含めた検討を行うべきである。

3)インターナショナル・スクールに関する制度整備【平成14年度中に措置】

インターナショナル・スクールについては、社会の急速なグローバル化の進展に対応した多様な教育活動を行う面と、我が国でビジネスを展開する外国人の子女に対する教育機関として海外からの人材流入の不可欠なインフラとしての性格を有する面とがある。それにもかかわらず、現行制度においては各種学校の扱いしか受けておらず、例えば中学校相当のインターナショナル・スクールを卒業したとしても、義務教育を修了した取扱いとされていない。

したがって、インターナショナル・スクールの定義を明確化した上で、学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に基づく私立学校に準じた取扱いとし、例えば、私立学校と同程度の資金面等の各種の支援措置が検討されるべきである。また、インターナショナル・スクールの卒業者について、我が国の大学の入学については、大学入学資格検定を受検しなくとも、高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認められるようにするとともに、高等学校の入学については、例えば中学校卒業程度認定試験の受験資格を拡大する等により、大学や高等学校への入学機会を拡大すべきである。


内閣府 総合規制改革会議