第2章 民間参入・移管拡大による官製市場の見直し

経済・労働環境の変化、少子高齢化、グローバル化等に伴って、国民の財・サービスに対するニーズは多様化している。

この多様化する国民のニーズに対応し、安価で良質な財やサービスの提供を確保するためには、従来のように供給主体をコントロールするのではなく、公共性・公正性の確保を前提に、多様な主体が市場に参入し、競争を通じて利用者の満足度を高めていく仕組みを構築し、社会全体の費用を低減させることが望まれる。

経済活動における典型的な主体である株式会社は、利用者や顧客のニーズに最も敏感に反応することができ、かつ最も効率的に財・サービスを供給しようとする動機付けが働きやすい組織であると考えられる。また、株式会社は一般に、情報開示等の透明性、取締役制度・監査制度などの主体の統治機構(ガバナンス)等に優れた面を持っており、現在参入制限をされている市場を株式会社に開放することにより、多様なニーズへの対応や創意工夫の発現を助長し、市場競争を一層促進することが可能となる。

また、これからの政府部門(国及び地方公共団体)の役割としては、これまでの供給をコントロールすることから、「利用者の選択」を重視した競争が公平・公正に行われることを監視・促進する方向に転換すべきで、それが市場全体の活性化につながる。

公共サービスの提供については、政府部門が企画立案から事業の実施に至るまでのすべての段階を行う体制になっている分野が多いが、必ずしもそのようなすべての段階での主体である必要はない。成熟した社会の多様化するニーズに対応した公共サービス実現のために、多様な主体と、民営化、民間委託、PFI等の多様な手法とを活用することが、今後の政府部門の在り方として求められる。

このような観点から、運営主体の制限を行うなど公的関与の強い市場及び公共サービス分野(いわゆる「官製市場」)において様々な規制改革を推進することが重要である。これにより、当該市場・分野で一層の競争が行われ、社会全体の創意工夫が反映される仕組みが構築されることにより、国民にとっての公共サービスの満足度が高まるものと考えられる。


1.消費者主権に立脚した株式会社の市場参入・拡大

医療、福祉、教育、農業等の公的関与の強い分野においては、しばしば、「営利主義に走ることは、利用者の利便性を損ない、公共性が確保されない」という考え方に基づき、個別の行為規制だけでなく、運営主体が制約され、新規参入・競争が制限されていることが多い。しかしながら、運営主体の形態による制限をなくし、多様な運営主体による財・サービスの提供が行われることは、消費者の選択の幅を拡大させ、消費者が享受する財・サービスのコストや質の向上に寄与することになる。その上で、どの運営主体のものを選択するかは、利用者の判断にゆだねることが望ましい。

利用者の自由な選択を一層実現するためには、徹底した情報開示や第三者による評価、事後チェック等の環境整備が不可欠であり、かつ、公共性、公益性又は利用者の安全確保のためには、合理的で最低限の行為規制のみで足りるのであって、運営主体を制限するなどの事前規制は不要とすべきである。 「株式会社」という経営形態の有するメリットは以下のとおりである。

  1. 株式会社は、投資効率や資産効率の向上による利益の増大や企業価値の増大を目指す経済主体であり、そのため、徹底した顧客満足の向上・サービスの向上や無駄なコストを省く効率的な経営に資する。

  2. 取締役会・監査役会等の主体の統治構造(ガバナンス)に優れた面を持つとともに、株主や社債等の債権者による外部チェックにより経営の透明性・健全性の追求が求められる。特に、商法上の大会社(資本金5億円以上又は負債200億円以上)においては外部会計監査の義務付けや社外監査役の設置による経営のチェックが、また上場企業においては有価証券報告書の作成・供覧による情報開示の義務付けや不特定多数の株主による経営のチェックがなされることで、より透明かつ健全な経営に資する。

  3. 努力した者(経営者・従業員)が報われるための多様な報酬制度等のインセンティブ付与は、利用者・顧客に対する財・サービスの適正化、利便性の向上に資する。

  4. 株式、社債などの直接金融手段による多様な資金調達が可能であり、設備・システムなど必要な投資資金の確保が容易になる。なお、配当は、間接金融における金利同様、資金調達のコストであることを認識する必要がある。

このような株式会社の有する効用に着目し、現在参入が制限されており、かつ、相当の市場規模があり経済活性化に資すると考え得る医療、福祉、教育、農業などの分野について、株式会社の参入が可能となるよう、その門戸の開放・拡大を図るべきである。なお、情報公開や外部監査制度等が一定水準にある株式会社について、より積極的に参入促進を図っていくことも考えられる。

(1)医療分野における株式会社の参入【平成14年度中に検討・措置】

医業経営への株式会社参入によるメリットとしては、資金調達の多様化、徹底した患者ニーズの把握による患者サービスの向上等による患者満足度向上だけではなく、経営効率化につながるシステム環境整備、経営マインドの発揮、管理・事務スタッフ等必要な人材投入等による患者ニーズに直結した効率的な経営などが挙げられる。

一方、問題点としては、以下のようなことが挙げられている。

  1. 医療の強い公共性と株式会社の株主への利益配当という2つの要請には相容れない面がある。

  2. 医療機関が自己利益の追求に向けた行動を取る結果、患者の利益が損なわれるおそれがある。

  3. 全体として、医療費の高騰を招きかねない。

  4. 株式会社が医療法人よりも効率的で医療の質の向上に寄与するという証拠はなく、米国においてもその問題点が指摘されている。

  5. 情報の非対称性という医療サービスの特殊性のため、サービスの質や量の決定が供給者側にゆだねられており、適正なサービスを選択できないおそれがある。

しかしながら、前述したように、利益の配当は資金提供に対する対価であり、医療の公共性とは何ら関係しない当然の支払いコストに過ぎず、また、現行の持分を有する医療法人でも内部留保を蓄積し、解散時にはそれを出資者に配分することは可能であることなどを考え合わせると、医療の公共性と利益配当が相容れないという議論は意味をなさない。患者利益が損なわれることや医療費高騰といった懸念については、現行の医療法人においても、金融機関からの借入返済圧力などを受けて増収行動をとる場合もあり、払拭されるものではない。これらの懸念を払拭するためには、徹底した医療及び経営情報の開示を通じて患者の自由な選択を確保するなど競争環境を整備することが重要である。また、米国の例では株式会社が非営利法人より効率的で医療の質の向上に寄与しているとは言えないとの主張は、米国の非営利法人が納税面や資金調達面で極めて有利な制度下に置かれていることにも原因がある。問題は医療法人であれ株式会社であれ患者利益の向上に寄与しないものは淘汰されるだけあり、このような比較に意味はなく、十分な競争環境の下では、いずれも同じ効率性に収斂することになる。医療サービスの質・量の決定が供給者側の手にゆだねられているということについても、適正なサービスが供給されていれば問題はなく、医療機関の経営主体が何者であるかを論じることは無意味である。そのためにも、広告規制の緩和、第三者評価の充実などより一層の情報開示を推進し、医療サービスにおける情報の非対称性を是正していくことが求められる。

以上にかんがみ、医療分野に株式会社の参入を認めない積極的な理由は存在しない。したがって、医療法第7条第5項の「営利を目的として開設しようとするものに対しては病院の開設の許可を与えないことができる」との規定、及び昭和25年の「会社組織による病院経営は認めない」こととしている事務次官通達等の該当部分は撤廃し、株式会社の参入を認容すべきである。(別紙に厚生労働省の意見掲載)

(2)福祉分野における株式会社参入の推進【平成14年度中に検討・措置】

1)特別養護老人ホーム経営への株式会社の新規参入

特別養護老人ホーム(以下「特養」という。)経営への株式会社参入によるメリットとしては、利用者満足度向上に向けたニーズの把握によるサービスの向上、資産等の効率的な運営によるコスト低減、また特に利用者の多い都市においては、一般の住宅や他の介護施設等との複合事業などによる供給増も期待される。

一方、問題点としては、以下のようなことが挙げられている。

  1. 入所者は要介護高齢者であり、施設に対して権利主張を行い難い。

  2. 不適切なサービス提供があった場合には、要介護高齢者に具体的な被害が発生し、事後チェックでは回復不可能。

  3. サービス提供は夜間・早朝も行われる等、外部からの目が行き届きにくい。

  4. 入所者にとって、施設は終の棲家であり、経営主体が自由に退出せずに、長期間安定した形でサービス提供をし続けることが求められる。

しかしながら、いわゆる介護付き有料老人ホーム等の経営について実績・ノウハウを有している株式会社も数多く存在しており、特養でのサービスを株式会社が提供することについて問題視する理由はない。不適切なサービス内容を防止することは、社会福祉法人であれ株式会社であれ、外部による検査体制、苦情処理機関、情報公開等の手段で対処すべきものである。また、事業者の自由な退出の懸念については、他の特養による入所者の引受などサービスの継続が確保されるためのセーフティネットを講ずることで対処できる。以上により、上述の懸念は社会福祉法人でなければ払拭できないという性質のものではない。また、セーフティネット整備につながるサービス供給増加を達成する手段としても、多様な経営主体の参入が必要である。

したがって、老人福祉法第15条第1項、同条第3項及び第4項において、特養の設置主体を地方公共団体及び社会福祉法人に限定しているが、同条第5項規定のケアハウス等同様、その他の主体についても特養の設置を認めるための法改正をすべきである。(別紙に厚生労働省の意見掲載)

2)株式会社のケアハウス参入要件の緩和

また、ケアハウスについては新たに株式会社の参入が認められたところであるが、本年1月の厚生労働省老健局計画課長通知において、前期の利益基準(経常利益1億円以上)や前期末の純資産基準(純資産3億円以上)などが示されている。しかしながら、前期利益を基準とすることは、出資者を募り新たにケアハウス事業を目的として設立される法人の参入を排除することになるため、速やかに撤廃すべきである。また、株式会社の基準が3億円以上の「純資産(総資産から負債を除したもの)」であるのに対して、社会福祉法人等は1億円以上の「資産(現預金、有価証券、不動産)」とされている資産基準についても見直しを行い、両者の不均衡を是正すべきである。(別紙に厚生労働省の意見掲載)

(3)教育分野における株式会社の参入【平成14年度中に検討・措置】

学校経営への株式会社参入によるメリットとしては、資金調達の多様化、増大している社会人教育ニーズの把握とそれに対応した教育サービスの充実・向上、経営・事務スタッフ等必要な人材投入による学生ニーズに直結した効率的な経営などが挙げられる。

一方、問題点としては、以下のような点が指摘されている。

  1. 教育への再投資の確保が株式会社では不可能

  2. 株主の意向による教育内容等の安易な変更の危険性

  3. 安定性・継続性が確保できない危険性

しかしながら、株式会社が行う余剰金の処理の方法は、間接金融における利息支払に該当する配当を行った残余は基本的には利益剰余金として積み立てられて、将来の投資に向けられるものである。たとえそれが直接教育に向けられないとしても、現行の学校法人も教育以外の使途での投資を許容されているのであり、両者の間に差異はない。株式会社は、顧客満足度を高め企業価値の増大を図ることを踏まえると、株主の意向による教育内容の安易な変更等、顧客である学生をないがしろにした教育サービスの提供は考えられない。安定性・継続性の問題は、現行の学校法人についても同様であり、特に株式会社の属性ではない。必要とあればサービスの継続が確保されるためのセーフティネットを講ずればよい。

学校教育法第2条は、学校の設置主体を国・地方公共団体及び学校法人に限定しているが、株式会社を含む法人についても学校の設置を認めるよう法改正すべきである。

また、株式会社が参入した場合においては、その経営する学校は教育の一端を担うことから、学校法人同様、新規参入者たる株式会社についても、助成の手立てを行い得るようにすべきである。この場合、憲法との関係でそれが許容されるように必要な関連法令の整備を行うこととすべきである。(別紙に文部科学省の意見掲載)

(4)農業分野における株式会社参入の一層の推進【平成14年度中に検討・措置】

平成13年3月に改正農地法が施行され、一定要件のもと株式会社形態を採り入れた新たな農業生産法人制度がスタートした。農地取得を認める株式会社の範囲を拡げるメリットは、より多様な株式会社が参入することによって、農業の担い手の多様化、それによる農業の生産構造の強化などが図られることである。

一方、株式会社参入拡大に対し、次の懸念が挙げられ、更なる制度の改革についてはスタートしたばかりの新制度の定着状況を十分見極めていくことが重要との意見がある。

  1. 投機、資産保有目的での農地取得が行われる

  2. 農業は、水管理、土地利用等の面で地域の農業者の集団活動により成り立っているが、このような地域社会のつながりを乱す

しかしながら、我が国農業の生産構造は零細でかつ高齢化した個人の担い手による経営が長期的に継続しており、産業としての農業の競争力を向上させるには、株式会社等の企業的農業経営者や意欲と能力のある農業者が生産の大部分を担う生産構造を確立するよう、農業の構造改革を加速する必要がある。

改正後の農業生産法人制度による株式会社形態の参入は、現時点では約25に達しており、地域の食品企業等が株式会社形態の農業生産法人を設立するなどの農業経営の株式会社化が見られるが、現状以上に株式会社形態の農業生産法人が農業の担い手として積極的に参画し、農業の法人化を加速的に進める必要がある。

このため、現行の売上基準(農業及び関連事業の売上が過半)、役員(過半が農業従事者)、出資割合(1構成員当たり10%以下)といった農業生産法人の要件を撤廃し、資金調達、研究開発、労働管理等の面で優位性のある株式会社の全面的な参入を認めるべきである。その際、株式会社形態の農業生産法人の大幅な参入によって農地の投機的取引の発生等に対する懸念があるというなら、別途、農地の転用・転売の制限措置を講ずること等も併せて検討すべきである。

なお、医療・福祉・教育などの純粋にサービスを供給している分野とは異なり、農業は商品の供給を伴う分野であることから、生産段階のみならず、流通段階での改革も必要である。したがって、流通や農業支援サービスに一層の競争原理を導入し、イコールフッティングを目指すことが重要であり、このため、これに対応した農協系統自らの改革を促すべきである。(別紙に農林水産省の意見掲載)


2.官民役割分担の再構築

多様化するニーズに対応した公共サービスの提供を実現するためには、民営化、民間事業体の参入、PFI(Private Finance Initiative)、民間委託、あるいはこれらを包括するPPP(Public Private Partnership)など様々な手法を駆使することが必要であり、かつ、それにより政府部門の効率化を図っていく必要がある。効果的・効率的な「競争」の導入は社会的費用を縮減させるということを十分勘案し、政府部門は、直接的関与ではなく、極力多様な主体・手法の活用を志向するよう価値観の転換を図るべきである。

(1)行政関与の在り方の見直し

行政関与の可否に関する基準は、平成8年に行政改革委員会において、1)公共財、2)外部性、3)市場の不完全性、4)独占力、5)自然(地域)独占、6)公平の確保 といった「市場の失敗」による基準を提示しているが、これに行政の非効率、責任の不明確、既得権益の擁護といった「政府の失敗」を比較考量するとともに、極力費用便益分析等を行い、行政活動の範囲を限定することが必要である。

なお、上記基準では、基本原則として「民間でできるものは民間にゆだねる」という考え方を示しているが、現在においては、「民間でできるものは官は行わない」という基本理念を確立すべきである。

また、行政関与の必要性が確認されたものであっても、そのすべての役割を政府部門が担う必要はなく、1)行政処分、2)インフラ(公共財)の整備・維持管理、3)住民等への財・サービスの提供 という公共サービスの提供について、どの役割をどのような方法によりどの程度まで政府部門が担うかを検証することが重要である。

当該公共サービスの提供全体としては民間にゆだねることができない場合であっても、政府部門がすべてを実施するのではなく、競争環境や公正性確保の仕組みを整備しつつ、従来担ってきた機能の分離、委託可能な範囲の拡大等、積極的に民間参入の拡大を進めていくことが必要である。

民間参入の形態としては、

  1. 事業譲渡:事業を民間企業に売却する方式

  2. 株式会社化:いったん政府部門の出資による株式会社を設立し、事業を承継し、逐次に株式を公開して最終的には全株を放出して完全民営化する方式

  3. 経営委託:政府部門が担っている業務の包括的管理ないしは経営を一括して、期間や一定の条件をあらかじめ定め、事業のリスクや会計上の責任を含めて民間事業者にゆだねる手法。

  4. 業務委託:政府部門が担っている業務の一部を民間に委託する手法。

といった方法が考えられる。

今後、民間参入の拡大を進めていくに当たっては、各事業・事務について、その固有の特性、地域事情等実態を踏まえた検証を行い、積極的な民間参入の拡大を実施するものとする。次項では、上下水道及び公営ガスについて提言しているが、これらは喫緊の課題として推進すべきものであり、それらの例に倣って他の事業・事務についても民間参入の拡大を進めていくべきである。なお、以下の例は当会議におけるヒアリング等を通じ民間参入の拡大の検討対象の例示として挙がったものであって、現に政府部門が行っている事業・事務のうち民間参入の拡大の検討対象すべてを含むものではない。

(例)

○インフラ(公共財)の整備・維持管理、財・サービスの提供

経済動向の分析等、世論調査、公文書等記録の保存・利用、救急業務、公営ガス事業等、経済実態調査、刑務所・少年刑務所・拘置所等、証券及び印刷物の製造、政府刊行物の編集・製造・発行、学校給食、文化施設、学校、水道事業、病院、老人福祉施設、保育所、職業紹介、職業訓練、国有林野の管理運営、中央卸売市場、地方卸売市場、農業災害補償制度、機械類信用保険、貿易保険、工業用水道事業、展覧会・博覧会等、道路事業、港湾の整備・運営等、都市公園、下水道、住宅・宅地の供給等、土地の測量・地図の調製、気象の予報・警報・気象通信、公園管理、一般廃棄物処理、公の施設の管理、各種研修、各種統計

○行政処分(給付・徴収・登録事務等含む)

免許関係事務、運転免許に係る講習、自動車保管場所証明手続、駐車違反対応業務、恩給の支給、登記事務、競売、公証事務、出入国審査、旅券業務、税徴収、通関手続及び関税等徴収、著作権等に係る登録、国民健康保険の徴収・支払、政管健保の徴収・支払、国民年金・厚生年金の徴収・給付、失業手当等給付、検疫・検疫に付随する衛生検査、品種登録(種苗法)、植物検疫、動物検疫、特許権付与等、回路配置利用権等の登録事務、鉱業登録事務、貿易管理(輸出入承認等)、自動車の登録業務

その際、以下のような考え方を踏まえ、包括的な移管に馴染みにくいものについては、機能・役割の仕分けをして、政府部門の担うべき機能・役割を極力限定した上で、効果的な民間参入の拡大を設計すべきである。

  1. 「住民等への財・サービスの提供」の多くは、原則完全な形での民への移管が可能である。地域独占の状態、インフラ整備の状況等を勘案し、事業譲渡、株式会社化ないしは経営委託を推進すべきである。

  2. 「インフラ(公共財)の整備・維持管理」は、インフラ使用の対価性等、当該インフラの性質を勘案しつつ、特に対価を受領できるものについては積極的な移管を進めるべきである。なお、インフラとそれを通じた財・サービスの提供が一体である事業については原則1)によると考えられる。

  3. 「行政処分」は、公によらざるを得ないものであるが、給付、徴収等の事実行為については積極的な業務委託による民の活用を志向すべきである。

(2)官から民への事業移管の推進

公共サービスについては、その需要者たる国民が必要とするものを最小の費用で提供することが重要である。このためには、可能な限り市場原理を活用した手段・形態を導入し、「官から民への事業移管」の推進を図るべきである。

官から民への移管に関する手法は、民営化、民間事業体の参入、PFI、民間委託、あるいはこれらを包括するPPPなど多岐にわたるが、個々の公共サービスを各手法に当てはめることにより、それぞれの事業移管を阻害する規制を抽出・撤廃することを検討するとともに、PFIや民間委託を推進させるため以下のような制度設計が必要である。

1)「公の施設」の受託管理者の拡大

地方自治法では、住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設を「公の施設」と規定し、その「管理」の主体を地方公共団体及び地方公共団体出資の法人(第三セクター)等に制限している。

しかしながら、地方自治法は、条例で公の施設の管理に関する事項を定めることを規定しているため、条例等により、管理受託者の管理に関する事項が実質的に規定してあれば、管理受託者の範囲を制限することは理由がない。より効率的な公共サービスを提供するためには、その提供方法の多様化を図ることが必要であり、「公の施設」の管理の担い手を、民間事業者等多様な主体に拡大すべきである。 また、「公の施設」の管理とは、管理権限を言うに過ぎず、現行法の下においても、現実の管理業務を行うことは地方公共団体及び地方公共団体出資の法人等に限定するものではなく、広く民間へ委託することを容認しており、地方公共団体に留保されている権限は外形上の料金決定に限られるとの指摘もある。しかし、地方公共団体によってはこの趣旨は必ずしも徹底されておらず、「公の施設」であるがゆえに、現実の管理業務を自ら行うほかはないとの誤解も多い。

上記のことから、まず、「公の施設」における管理とは、公金としての施設の利用料金の徴収とその料金決定権のみが地方公共団体等に留保されているに過ぎないことを直ちに周知徹底すべきである。【平成14年度中に検討・措置】

さらに、より広範囲に民間への委託を実現するため、当該外形要件の考えを廃止し広く管理委託の考えを認めるべきであり、一定の条件での料金の決定権等を含めた管理委託を地方公共団体及び地方公共団体出資の法人(第三セクター)等のみならず、民間事業者等に対して認容できるように地方自治法の改正についても検討を行うべきである。【平成14年度中に検討開始】

2)行政財産の民間開放の推進【平成14年度中に検討・措置】

公共サービスの提供手法を多様化させるためには、政府部門が所有する土地・建物等の財産を活用することが必要であるが、国有財産法第18条及び地方自治法第238条の4においては、国、地方公共団体及び政令で定めるもの以外について行政財産に私権の設定を行うことを禁止している。情報公開等により透明性、公平性を担保しながら、行政財産に関わる占有や使用について、より柔軟かつ弾力的な使用の在り方を認めるべく規制緩和を図るべきである。

なお、行政手段の多様化の推進を図るため、補助金については、その交付を受け建設した施設において、住民に提供されるサービスの実態が不変であり、補助目的や施設の効率的利用等に照らし適当である場合には、事業主体の変更等があっても(例えば、地方公共団体から民間事業者への転換)、補助金の取扱いを変えないこととすべきであり、その明確化を図るべきである。また、地方債については、地方債の発行により建設した供用中の公共施設について、地方公共団体から民間事業者に対する貸付等の手法により事業主体を変更する場合、当該施設が低廉な利用料で広く一般住民の直接の利用に供されるか否か等を総合的に勘案し、地方公共団体が自ら事業主体となる場合と同様の公共性を有するものについては、地方債の繰上償還を要しない旨を地方公共団体に対して周知すべきである。(別紙に総務省・財務省の意見掲載)

3)上水道事業の民間経営の推進【平成14年度中に検討・措置】

上水道事業1,873事業は、地方公共団体が実施しているが、うち利用者5万人以下の水道事業者が1,000以上となっており、約96%の供給体制が整備されている中、広域化・外部委託等による運営面の効率化が求められている。このためには、まず地方公共団体による上水道の運営事業について、可能な場合には、地方公共団体の判断により、出来るだけ民間事業者への譲渡等による民営化を図るべきである。その際より多くの多様な経営主体を参入させるためにも、水道法上の水道事業者は、「設備の所有を要件とされていない」ことについて、直ちに周知徹底を図るべきである。

平成13年の水道法改正(平成14年4月施行)により、技術上の業務を民間委託することが可能となったが、一層の効率化を図るためには、民間事業者に対して、料金設定への関与等を含めた包括的な委託を推進すべきである。

4)下水道事業の包括的民間委託の推進【平成14年度中に検討・措置】

現在においても、浄化槽法に基づき民間事業者が下水道法上の下水道と同様の排水等の処理施設を設置・運営することは可能である。また、現行下水道法の下でも、悪質下水の排除規制や排水区域内の下水道の利用義務付けなど公権力の行使以外のものについては、その相当部分が既に民間事業者に委託されているが、民間事業者の創意工夫をいかし事業の効率化を進めるためには、設備の維持修繕や料金設定への関与等も含めた包括的な委託を推進すべきであり、そのための環境整備及びその周知徹底を行うべきである。これらにより、事業形態の類似した上下水道の一体的運営等による事業の効率化も期待される。

5)公営ガス事業等の地方公営企業の民営化の推進【逐次実施】

公営ガス事業は、高カロリー化への対応、行財政改革の進展等により、事業譲渡による民営化や民間委託が進められているが、競争・事業規模等の観点から更なる民営化等の推進を図るべきである。また、公営バス事業、自治体病院事業等他の地方公営企業においても、同様に民営化等の推進を図るべきである。

6)PFI事業推進のためのルールづくりと規制緩和の促進【平成14年度中に検討・措置】

官から民への移管の新たな手法であるPFIは、従来型の公共事業とは異なり、その事業範囲は広範で、かつ長期間にわたる。契約に当たっては、官民の適切なリスク分担を契約書に具体的に明記することにより、事業の安定性・継続性を確保することになるが、PFIは官製市場開放にかかわる一つの有効な手法でもあり、その推進を図ることが必要である。

民間の創意工夫の導入といったPFIの特性を最大限発揮させるとともに、官民双方の入札手続に係る負担を軽減するためには、競争上の公平性と透明性の担保を前提として、政府部門側があらかじめ一定の審査手続等を明確化し、入札前に段階的に事業者を絞り込む(多段階選抜)とともに、交渉・協議によって契約内容を詰める手続(契約交渉・協議)を行うべきである。

したがって公正性、透明性の確保を図りつつ、現行法令の下でも可能とされている手続の具体化を図るため、リスク分担の明確化・詳細化などについて、入札前に政府部門と入札参加者が契約協議を行い契約書案の変更を行うこと及び事業提案の内容に係る審査を資格審査段階においても行う等の入札前における多段階選抜の適用について、こうした措置が可能な場合、資格審査の内容及びその具体的手続についてガイドライン等により明確にすべきである。

さらには、WTO政府調達規定に準拠しつつ、多段階選抜並びに契約交渉・協議を可能とする手続を新たな公共調達の一類型として法律上位置付け、PFI事業に適用すべきである。

また、PFIの推進に関して、その推進の障害となっている規制の撤廃又は緩和を速やかに推進すべきである。(別紙に総務省・財務省の意見掲載)

(3)同一市場における競争条件の均一化

政府部門や多様な法人形態による運営主体が同一市場におけるサービスの供給を行っている場合でも、その競争条件は大きく異なっている。サービスの受給者の満足度を高めるためには、供給者間での競争を活発化させ、品質の向上やダイナミックな参入退出を促す必要があるが、供給者間の競争条件に不均衡がある場合、新規参入が進まず、市場内の競争は抑制される。

政府部門が行うサービスは、他の供給主体が存在する市場では極力少なくしていくとともに、同一市場で行うサービスにあっては、供給者の形態の如何にかかわらず競争条件の均一化を図るべきである。

特に、福祉・教育分野においては、その量的な拡大や利用者に対する多様なサービスの供給が求められているところであるが、憲法第89条後段の解釈によりそれらが阻害されている。

1)教育・福祉分野における株式会社等への助成の取扱い【平成14年度中に検討・措置】

憲法第89条後段は、公の支配に属さない慈善、教育、博愛事業への公金の支出等を禁止しているため、国・自治体・学校法人・社会福祉法人とその他の民間事業者との競争条件の均一化の妨げとなっている。

憲法第89条後段の立法趣旨は、1)教育等の事業の自主性の保障、2)国費の濫用防止、3) 教育等の事業からの宗教性の排除等が挙げられる。1)については財政の援助は強制でないこと、2)については国費濫用の防止は財政支出一般の問題であることなどにかんがみ、また第89条前段との関連を考慮すると、3)の教育等の事業からの宗教性の排除を目的とするものと考え得る。すなわち、第89条後段の立法趣旨は、政教分離の補完が目的であり、教育等の事業への宗教的信念の滲透を防止するに必要な「公の支配」が成立する限り、財政援助を行うことは可能と考えられる。

「公の支配」がいかなる程度のものを意味するかについては、法定の系統に属する法人が法的規制を受けることや所轄庁の監督に服すること等の法令の諸規定から帰納して、法定の系統に属する法人は、憲法第89条にいう「公の支配」に属するものとされている。

現在学校教育法は、「学校は国、地方公共団体及び私立学校法第3条に規定する学校法人のみがこれを設置することができる」と規定するが、同法において株式会社等他の法人に学校設置を認める場合には、同法、私立学校法、私立学校振興助成法等の法的規制や所轄庁の監督に服するように制度設計することにより、当該法人についても憲法第89条にいう「公の支配」に属するものと考えられる。

また、社会福祉法は、平成12年法改正時の通知において、「今後、利用者が事業者と対等な立場で、契約に基づき適切なサービスを利用することが基本となる」と基本的な精神について記述している。当該精神を敷衍する中、また、介護「保険」の導入や保育所への株式会社の参入等が行われている今日において、同法が対象としている社会福祉事業はもはや憲法第89条にいう「慈善」ないしは「博愛」の事業と捉えるのは適当でない。

以上のことから、教育・福祉分野において株式会社等新規の事業者が参入する場合、学校法人や社会福祉法人同様の財政援助の取扱いを行うべきである。(別紙に財務省・文部科学省・厚生労働省の意見掲載)

2)補助金・税制におけるイコールフッティングの実現【平成14年度中に検討・措置】

現行の補助金制度や税制等の下では、民間事業者が公共サービスを提供する場合、事業運営上不利になる場合が生じ、多様な手法の実現や民間の事業参画の機会が制限される。

同一市場における同一条件の下で行われるサービスにあっては、提供されるサービスの内容に着目して、補助金や税制等のイコールフッティングの実現を図るべきである。(別紙に財務省・厚生労働省の意見掲載)


3.利用者選択の拡大【平成14年度中に検討・結論】

利用者の選択を拡大させるためには、運営形態の拡大を図るとともに、運営主体同士の競争条件を極力均一化し、より競争を促進させ、運営主体の創意工夫を導き出すことが必要である。

福祉、教育など、多様な運営主体が併存している分野においては、政府部門・社会福祉法人・学校法人等を基本とした機関補助が行われているが、機関補助では、利用の実態に応じた補助は行いにくく、また利用者が運営主体を選択することにより醸成される競争がもたらす効率化や利用者便益への配慮という効果も期待しにくい。このような問題を解決するためにも、海外事例などを勘案しつつ、例えば、機関補助から利用者補助へのシフトによる利用者選択の拡大を検討すべきである。(別紙に財務省・文部科学省・厚生労働省の意見掲載)


内閣府 総合規制改革会議