第5章 「規制改革特区」の実現に向けて

1.基本理念

(1)規制改革特区の目的

我が国においては、近年、規制改革を通じた経済活性化が急務となっているにもかかわらず、様々な事情により、規制改革の早急な実現が妨げられている場合も多い。

規制改革の早期実施のためには、これまでのような全国一律の実施にこだわらず、特定地域に限定して、その特性に注目した規制改革を実施することにより、全国的な規制改革につなげ、我が国全体の経済活性化を図ることを目的とする「規制改革特区」制度を創設することが、極めて重要である。

なお、こうした「規制改革特区」制度が創設されても、それと並行して、全国的な規制改革はあらゆる分野において恒常的に推進されるべきものであり、規制改革が特区において先行的に行われていることを理由として、その全国的な取組を遅らせることはあってはならない。

(2)実現に向けた基本方針

「規制改革特区」制度の実現に向けては、以下の点を基本方針とすべきである。

  1. 民間の提案を最大限活用して、地方公共団体が自発的に立案し、それに基づき様々な規制に関する特例措置を可能とする制度とし、具体的な特区の内容をあらかじめ国が選択したメニューだけに限定するという手法はとらないこと。

  2. 「規制改革特区」制度の対象となる規制は、一定の基準を満たす範囲内で可能な限り幅広いものとすること。

  3. 国による税の減免や補助金等、従来型の財政措置は用いないこと。

  4. 個別規制の特例措置は、地方公共団体の責任をもって実施すること。


2.制度設計の方向

(1)規制の特例措置を講ずる際の法的枠組み

「規制改革特区」制度が対象とする規制は可能な限り幅広いものとするとの基本理念からすれば、特区制度の法的枠組みとしては、具体的な規制をあらかじめ列挙しないことが望ましいと考えられる。

しかしながら、法制化作業の効率化等の観点から、特区制度の法的枠組みとしては、「特例措置を講ずることが可能な規制を、あらかじめ法律上、一定の基準を満たす範囲内で可能な限り幅広に列挙しておき、この中から地方公共団体が選択・申請し、国が認定する通則法形式」を基本とすべきである。 なお、現に地方公共団体から「規制改革特区構想」として挙げられている規制改革事項を見ると、これらは複数の分野にまたがっており、所管する関係省庁も多岐にわたっている場合がほとんどである。上記の「通則法」形式は、こうした地方公共団体の提案する分野横断的・省庁横断的な規制改革を、パッケージとして実現するためのより有効な手段であるものと評価できる。

(2)特区制度に関わる主な法的論点

1)法の下の平等との関係

当該地域の特性及び規制の趣旨・目的に照らして、当該地域のみ規制の特例措置を講ずることの合理性を説明できれば、憲法第14条の法の下の平等の問題は生じないものと考えられる。また、特定の地域において国の基準を下回る基準を条例で定めることを認めている例もある。

具体的には、特区における規制の特例措置について、当該地域の特性に照らし、その地域の活性化を通じて我が国経済の活性化など国全体の公益が達成されるといった積極的論拠と、規制改革をしても代替措置等を講ずることにより社会的な弊害が生じないといった消極的論拠が備わるという立論が可能であれば、異なる事情の下での異なる規律を行うことにほかならず、平等原則に違反するといった問題は生じないものと考えられる。

2)試行的な制度の妥当性

特区制度は、法の施行状況を踏まえ、十分な評価を前提に、必要な場合には全国に広げていくとの趣旨からは「試行的」な制度と言える。ただし、これまでの各種の地域振興立法などは、国が事業内容をあらかじめ決め、地方公共団体がそれに応募するという国主導のモデル事業的な政策であったのに対し、特区制度は地方公共団体が自発的な意思により事業を企画し実施するという点で、政策的に大きく異なるものである。

なお、特区制度は、「試行的」ではあるが、法制的には、「ある地域について他の地域と規制を異にする合理性が備わったときに、諸条件の違いを理由として規制の特例措置を設け、そこで実績が挙がれば、後に他の地域で同等の諸条件が整ったところから当然同様の規制の特例措置を講ずることも実質的に可能となるもの」と位置付けられる。この意味において、特区制度は、派生的に試行的・実験的機能を果たすことになるということに過ぎない。

3)不可逆的な規制改革

特区制度の対象となる規制は不可逆的なもの(一度導入した場合に元に戻すことが困難なもの)も含み得るが、規制の特例の弊害を防止するためには、原則として、以下の措置を担保することが求められる。

不可逆的な規制については、その他の規制に比べて、弊害が発生しないような代替措置等をより慎重に検討する必要がある。ただし、その場合でも、自己責任原則の下での本人の自発的意思の確認など、適切な代替措置がなされることなどにより、特区制度の対象となり得るものである。

なお、特定地域であれ、全国であれ、規制を変更することは、多少なりとも不可逆的な効果が生じるものである。ある規制が不可逆的だからといって、それが直ちに特区の対象にならないわけではない。例えば、一定の政策目的を実現するために適した規制の方法として、現行制度が常に唯一の完全な方法ということはなく、より適した規制方法が導入されていないことにより重大な問題等が発生している可能性もある。むしろ、特区制度はそのような不可逆的な規制についても、適切な代替措置を講ずることによって、より規制が合理化、高度化されることを実証する「試行的な制度」として、積極的に活用されるべきである。

4)代替措置

特区制度については、例えば、特区内において、規制の特例措置を講ずる際に、自己責任原則の下で、本人の自発的意思の確認や、情報公開や紛争処理の仕組みといった事後チェックルールの整備を行うなど、必要な代替措置が講ぜられる必要がある。

このような代替措置に関し、どのような措置を講ずれば適当と言えるかについては、規制の目的に応じて個別・具体的に、かつ地域の実態に即して検討していく必要がある。少なくとも特区制度の対象とすべき規制が選定されるに当たって、規制所管省庁は、当該規制に関する創設経緯、社会的背景等を含めた多くの情報を有していることから、特区において特例措置を合理化できないと主張する場合には、原則として当該官庁が、その法的・社会的論拠を挙証すべきである。

(3)特区制度における「地域」についての考え方

どの地域を特区とするかという判断に際しては、特定地域のみ規制の特例措置を講ずるという特区制度の趣旨を踏まえ、その地域で規制改革を行う合理的な根拠、すなわち上記(2)1)で述べた積極的論拠や消極的論拠がある地域を、特区の対象地域とすることを基本とすべきである。

具体的には、ある地域において、その固有の条件(自然的・歴史的条件、施設や技術、機能の集積等)をいかしつつ、当該規制改革により可能となる事業を行うことが、当該地域の活性化を通じて我が国全体の経済活性化等に貢献するか否かなど(比較優位性など)を判断材料とすべきである。

具体的な地域の範囲は、特例措置を講ぜようとする規制の特質、具体的な事業内容等によって異なり得るが、指定対象範囲は、原則として市町村の範囲を基本として考えていくべきである。ただし、市町村よりも狭い範囲において特例措置を講ずることを排除するものではない。

(4)特区制度の対象となる規制の選定基準(試行的手法としての特区制度に馴染む規制)

1)検討対象となる規制

特区制度の検討対象となる規制は、「規制改革推進3か年計画(改定)」に掲げられている全項目及び地方公共団体や民間から要望のある事項とすべきである。

2)規制の選定基準

特区制度に馴染む規制を選択する際には、内閣主導により、個々の規制ごとに具体的に政策判断する必要があるが、例えば、以下のような基準に該当する場合は、特区制度の対象外とすべきである。

なお、生命・身体・健康、公序良俗、消費者保護等に関する規制であるという理由によって対象外とすべきではなく、適切な代替措置等を講ずることが可能かどうかなどによって判断すべきである。

3)対象となる規制の追加等

特区制度の対象となる規制は固定的なものとはせず、地方公共団体や民間の提案により、毎年、追加し得ることとすべきである。

(5)検討すべきその他の法的論点

以下の各点については、制度化段階において精緻に検討すべきであるが、その際、常に上記「1.基本理念」の趣旨を踏まえ、検討を行うべきである。

1)申請主体

申請主体については、当面、地方公共団体とする。その場合、都道府県と市町村の関係や、申請主体の民間への拡大の可能性について、引き続き検討する。

2)申請の内容など

申請の内容としては、規制改革を行おうとする地域、規制改革事項、地域の固有の条件、代替措置の具体的内容、規制改革の効果・影響などが考えられる。

3)申請窓口・認定主体たる推進母体

「都市再生本部」方式など、内閣官房において、各省の総合調整を行いやすい形で特区制度の推進母体を設けるべきである。

当該推進母体については、各地方公共団体からの申請を受け付け、これらを最大限尊重しつつ、特区制度を推進する観点から認定できる体制を整備すべきである。

4)住民及び他の地方公共団体の意思の反映

住民及び他の地方公共団体の意思を反映させるには、どのような段階で、どのような方法があるか検討すべきである。

5)法改正を要しない政省令等に関する特例措置の在り方

政省令、告示、通達等の法改正を要しない規制改革事項についても、法改正事項に準じて、積極的な対応を図るべきである。

6)特例措置を講じた後の評価方法(体制)

講ぜられた規制の特例措置について評価機関による一定の期間後の評価を行った上で、重大な問題等が生じなかった場合は、当然に全国へ展開する又は当該地域において継続して規制改革を行い、また、重大な問題等が生じた場合は、取り消し等により措置の停止ができるような評価方法(体制)を検討すべきである。

7)地方公共団体の申請までの過程における透明性の確保

地方公共団体が国への申請を行うまでの過程において、住民や民間の提案を最大限活用すべきである。その際、こうした提案を地方公共団体が真摯に検討するよう、徹底した情報の開示を行うこととすべきである。


3.特区制度の推進方法

(1)推進母体の構成

特区制度の企画立案・推進のため、先般、内閣官房に設けられた推進母体においては、特区制度の目的が達成されるよう、企業経営や具体的事業に通じた民間や地方公共団体の人材を、積極的に活用することを検討すべきである。

また、下記(3)の「推進母体と総合規制改革会議との関係」を緊密化するため、両組織間の密接な連携が確保される形とすべきである。

(2)推進母体における検討

1)提案公募

上記(1)の推進母体において、検討対象とすべき規制を選択するに先立ち、地方公共団体や民間からオープンな形で広く提案を受け付けるべきである。

特に、地方公共団体に対しては、提案機会の均等性を周知徹底する意味からも、一定期間、集中的に提案を受け付ける機会を設けるべきである。

2)法的枠組みの検討

推進母体における当面の検討のうち、特に法的枠組みを検討する際は、上記2.(1)で提言しているような「通則法方式」を基本として、1.の基本理念を最大限実現するために適切な法的枠組みを検討すべきである。

(3)推進母体と総合規制改革会議との関係

推進母体における今後の検討が、この中間とりまとめを実現する形で進められるよう、推進母体は、法案策定に当たり当会議と密接に意見交換すべきであり、当会議は推進母体に対し、必要に応じ意見を述べるものとする。

特に、特区制度の対象とすべき規制を選定するに当たっては、各省との調整の段階で当会議は、プロセスの透明性を確保しつつ、規制改革全般の観点から関与することとし、関係各省との折衝・調整等に関し、推進母体に対して最大限の協力を行うものとする。

なお、「経済財政運営と構造改革の基本方針2002」(平成14年6月25日閣議決定)においても、「構造改革特区については、……内閣官房に推進のための組織を設け、総合規制改革会議等の意見を聴きつつ、地方公共団体の具体的な提案等を踏まえて制度改革の内容等の具体化を推進する」とされているところである。


4.規制改革特区の構想例

以下に挙げる規制改革特区の構想例については、当会議の規制改革特区ワーキンググループ又は当会議事務室が地方公共団体と行った意見交換において、地方公共団体等から提案された規制改革事項の主なものなどを、今後の地方公共団体や民間における検討の助けとするために、分野ごとに整理し、可能な限り数多く例示したものである。

したがって、1.の基本理念でも示したように、当会議としてあらかじめ特区のメニューを限定して提示するものではなく、本例示で示されていない規制改革事項も、規制改革特区の対象となり得るものである。

当会議としては、地方公共団体や民間において、上記2.(3)に述べたように、地域の固有の条件をいかしつつ、当該地域の活性化を通じて我が国全体の経済活性化等に貢献すると考えられる具体的な規制改革事項について、積極的な検討・提案が行われることを期待する。

また、その際、上記2.(1)に述べたように、以下に例示するような一つの特定分野に限定された特区だけではなく、具体的な事業に照らして複数の分野を組み合わせた独創的な特区の構想が立案されることを期待したい。

(1)新事業の創出

(2)国際物流の機能強化(港湾等)

(3)国際交流・対内投資の促進

(4)研究開発の推進

(5)環境・エネルギー対策の推進

(6)産業集積・ものづくりの推進

(7)農企業の創生

(8)高度先端医療の推進

(9)福祉・保育等の生活空間の創造

(10)教育の高度化・多様化推進

上記の規制改革事項の中には、既に関係各省庁等において、全国的な規制改革としてその早期実現に向けた検討等が行われているものなどもあるが、そのような事項については、その早期の実現が望まれる。

なお、上記の規制改革事項は、地方公共団体等の提案を例示したものであり、個々の事項が特区制度として馴染むか否かを具体的に判断したものではない。


内閣府 総合規制改革会議