我が国の65歳以上の高齢者人口は,「人口推計」(総務庁)によれば,平成9年6月に14歳以下の年少人口を上回り,10年2月には 2,000万人を超えるなど増加を続けている。
高齢者が何から収入を得ているかについて,「国民生活基礎調査」(平成8年)(厚生省)をみると,公的年金・恩給を受給している高齢者世帯のうち,公的年金・恩給の総所得に占める割合が 100%となっている世帯は,半数を超え(50.5%),60%以上となっている世帯まで加えると4分の3近くになっている。
貯蓄現在高階級別の世帯分布を「貯蓄動向調査」(平成9年)(総務庁)によりみると,世帯主が60歳以上の勤労者世帯,無職世帯共に, 3,000万円以上の貯蓄を保有する世帯がそれぞれ23.4%,26.2%と全体の約4分の1を占めている一方,600万円未満の世帯もそれぞれ19.8%,21.4%と全体の約5分の1を占めており,貯蓄現在高の世帯間の散らばりが大きい。
高齢者の就業状況について,「労働力調査」(平成9年)(総務庁)によれば,60〜64歳の者の完全失業率は 6.2%,また,「職業安定業務月報」(平成9年10月)(労働省)によれば,60歳〜64歳の者の有効求人倍率は0.07倍と,60〜64歳の者をめぐる雇用環境は厳しい状況にある。
60歳以上の者が, 何歳くらいまで収入のある仕事をするのがよいと思っているかを「中高年齢層の高齢化問題に関する意識調査」(平成10年)(総務庁)でみると,「年齢にこだわらず,元気ならいつまでも働く方がよい」が約3分の1にのぼるなど「60歳以上」とする者が約9割を占め,60歳を過ぎても仕事をするという考え方が一般的になりつつある。
同調査によると,60歳以上の者の約半数が過去1年間に何らかの活動(趣味,健康・スポーツ,地域行事の世話等)に参加したことがあるが,参加したことがない者について,その理由をみると(複数回答),「健康・体力に自信がない」が30.6%で最も高い割合となっており,以下「参加する時間がない」が20.7%,「家庭の事情(病人,家事,仕事)がある」が19.9%となっている。
60歳以上の者がどの程度生きがいを感じているかについて,「高齢者の健康に関する意識調査」(平成9年)(総務庁)によると,「十分感じている」と「多少感じている」を合わせると約8割に達している一方,「あまり感じていない」が15.6%,「全く感じていない」が 2.2%となっている。
高齢者が誰と一緒に一日を過ごしているかについて,「社会生活基本調査」(平成8年)(総務庁)をみると,65歳以上の単身高齢者については,「一人」でいる時間が12時間18分(高齢者が「一人」でいる時間の約2倍)となっており,これに睡眠時間を加えると20時間43分で, 単身高齢者は1日の大半を一人で過ごしていることとなる。
高齢者の暮らしは,それまでの生活環境,就業実態や家族構成等の相違を反映して,経済状況や健康状態なども個人差が大きく,高齢者が多様性を有していることが分かる。
今後とも,高齢者の多様性に配慮しつつ,高齢者が生きがいを持って自立した生活が送れるよう支援するとともに,それぞれの経験と能力をいかし高齢者が社会を支える重要な一員として各種の社会的な活動に積極的に参加できるよう,国及び地方公共団体はもとより,地域社会,企業,若年世代等社会を構成する各主体がそれぞれの立場から努力していくことが重要である。
一般会計予算における高齢社会対策関係予算については,平成9年度においては8兆 6,396億円, 10年度においては9兆 846億円となっている。
施策・事業の主な予算額(平成10年度)をみると,国民年金及び厚生年金保険(国庫負担分)が4兆 2,455億円, 老人医療費の確保が3兆 5,435億円,老人保護事業(特別養護老人ホーム等)が 4,301億円, 在宅サービス事業が 2,676億円などとなっている。
平成9年度に推進された高齢社会対策について,主な動きを挙げれば次のとおりである。
急速な高齢化の進展等に対応し,労働者の雇用の安定等を図るため,雇用保険法(昭和49年法律第 116号)及び船員保険法(昭和14年法律第73号)の一部改正が行われた。
改正内容は,介護休業制度が平成11年度から義務化されることを踏まえ,介護休業を行う労働者の雇用の継続を図るため,介護休業を取得した労働者に対する給付(介護休業給付)を創設することなどである。
医療保険制度の安定的な運営の確保,世代間の負担の公平等を図る趣旨から,老人医療を受ける者の一部負担金の額の引き上げ,薬剤に係る一部自己負担の創設等の措置を講ずることとし,老人保健法(昭和57年法律第80号)の一部改正を含む健康保険法等の一部改正が行われた。
老人保健法の改正内容は,訪問指導の対象者を心身の状況や置かれている環境等に照らして療養上の保健指導が必要であると認められる者に広げること,外来一部負担金の額を,保険医療機関等ごとに,1日につき 500円(ただし,同一の月に同一の保険医療機関等において4回を限度とする)とすること,入院一部負担金の額を,保険医療機関等ごとに,1日につき平成9年度においては 1,000円,10年度においては 1,100円,11年度においては 1,200円とすること,低所得者に係る入院一部負担金の額を,保険医療機関等ごとに,1日につき 500円とすること,外来の際の薬剤に係る一部負担に関し,1日分の薬剤につき,内服薬は,2〜3種類30円,4〜5種類60円,6種類以上は 100円,外用薬は,1種類50円,2種類 100円,3種類以上は 150円,頓服薬は1種類につき10円とすることなどである。
本格的な高齢社会の到来に対応して,国民の共同連帯の理念に基づき,要介護状態にある者等がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むために必要な保健医療サービス及び福祉サービスが総合的に提供されるよう,介護保険制度を創設する介護保険法(平成9年法律第 123号)が成立した。
介護保険制度は,市町村及び特別区が保険者であり,国,都道府県等が共同で支える重層的な制度となっており,40歳以上の者を被保険者としている。被保険者が介護が必要になった場合,保険者による要介護認定を受け,保険給付として介護サービスを利用する。その際,被保険者は,介護サービスの費用の1割を負担する。保険給付に必要な費用は,2分の1を保険料により,残り2分の1を公費により賄うこととしている。
少子化の進行等,児童及び家庭を取り巻く環境の変化を踏まえ,児童の福祉の増進を図るため,児童福祉法(昭和22年法律第 164号)の一部改正が行われた。
改正内容は,市町村の措置による保育所入所の仕組みを保護者が希望する保育所を選択する仕組みに改めること,児童家庭支援センターの創設による地域の相談支援体制の強化を図ることなどである。
ボランティア活動を始めとする特定非営利活動を行う団体に法人格を付与すること等により,これら活動の発展を促進する特定非営利活動促進法(平成10年法律第7号)が成立した。
同法においては,特定非営利活動法人の設立の認証,定款,認証の基準等,役員の定数や解散事由などの法人の設立,管理,解散・合併等に関する事項が定められている。