1 序
世界的な人口高齢化に対応した1999年の国際高齢者年の諸活動を振り返るとともに,国際的な視野に立った今後の高齢社会対策について展望する。
2 人口高齢化の国際的動向
世界の総人口に占める65歳以上の人の割合(高齢化率)は,2000年の6.9%から2050年には16.4%にまで上昇するものと見込まれている。
人口の高齢化は,先進地域はもとより開発途上地域でも急速に進展するものと見込まれ,とりわけ中国・韓国などで顕著である。
3 国際高齢者年に至る経緯
世界的な人口の高齢化に対応するため,国連主催による初めての「高齢化に関する世界会議」が1982年(昭和57年)に開催され,「高齢化に関する国際行動計画」を採択し,同年の国連総会で決議された。
1991年(平成3年)の国連総会において,「高齢化に関する国際行動計画」を促進するため,高齢者の自立,参加,ケア,自己実現,尊厳の5つの原則を内容とする「高齢者のための国連原則」が採択された。
1992年(平成4年)の国連総会において,1999年を国際高齢者年とすることが決定された。
4 国際高齢者年の取組
国際高齢者年は「高齢者のための国連原則」を促進することを目的とし,高齢化が社会全体を含む多様な問題を含んでいることから,テーマを「すべての世代のための社会をめざして」に設定した。
我が国では,国際高齢者年の趣旨を踏まえ,国際高齢者年中央記念式典を始めとして,シンポジウム等の開催,高齢者向けの新しい体操の制定,国際高齢者年ニュースの発行等を行った。
各国においても様々な取組が行われたほか,国連では「国際高齢者年のフォローアップのための特別会議」が開催され,各国における国際高齢者年の取組状況等が報告された。
5 国際高齢者年におけるNGOの活動
国際高齢者年においては,内外の様々なNGOが活発な活動を行うとともに,我が国では高齢者年NGO連絡協議会が結成されるなど自主的な連携への取組も進められた。
NGO自ら国際会議等を開催し,日本からも積極的に参加するなど,NGOの国際的な取組と交流が行われた。
6 国際高齢者年を踏まえた今後の高齢社会対策の展望
我が国の高齢社会対策は,「高齢化に関する国際行動計画」,「高齢者のための国連原則」の趣旨を踏まえ,高齢社会対策基本法,高齢社会対策大綱に基づき,推進されている。
我が国は,高齢化に関する国際協調・協力として,サミット(主要国首脳会議)において世界福祉構想やアクティブ・エージング(活力ある高齢化)を提唱するとともに,高齢化に係る技術協力や人材交流,人材派遣等を実施している。今後,高齢化先進国として,更なる協力・取組等が期待されるものと考えられる。
国際高齢者年の活動を通して,NGOの活発な活動や国際高齢者年のテーマ「すべての世代のための社会をめざして」と密接に関係する世代間の問題等が改めて注目されたものと考えられる。
国際高齢者年での取組及びそこで得られた知見をいかし,来るべき本格的な高齢社会の到来を,負担としてではなく,むしろ新しい社会への変化のための良い機会と捉え,次世代に豊かで活力ある社会を引き継いでいくことが重要である。
1 高齢社会対策関係予算
一般会計予算における高齢社会対策関係予算は,平成11年度においては10兆 3,215億円,12年度においては10兆 5,699億円となっており,各年度の一般会計予算全体に占める割合はそれぞれ12.6%,12.4%となっている。
施策・事業の主な予算額(平成12年度)をみると,国民年金及び厚生年金保険(国庫負担分)が5兆 1,529億円,老人医療費の確保が3兆 3,127億円,介護保険制度の実施が1兆 2,912億円などとなっている。
2 高齢社会対策の動き
平成11年度に推進された高齢社会対策について,主な動きを挙げれば次のとおりである。
(1) 法律の制定・改正
急速な高齢化の進展等に対応し,高年齢者の雇用の安定の確保等を図るため,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案を第147回国会に提出した。
改正法案では,事業主は定年の引上げ,継続雇用制度の導入等の措置を講ずるよう努めなければならないものとするとともに,高年齢者等の再就職の促進に関する措置を充実すること,シルバー人材センターの業務の拡大等を内容としている。
少子高齢化の一層の進展等に対応し,公的年金制度の長期的安定を図り,あわせて将来の活力ある長寿社会の実現に資するため,国民年金法(昭和34年法律第141号)等の改正が行われた。
この改正では,将来世代の保険料負担の上昇を抑制するため,国民年金及び厚生年金保険について,給付水準の適正化,給付額の改定方法の見直し,60歳台前半の厚生年金の支給開始年齢引上げ等を内容としている。
また,保険料負担の公正を確保するため,厚生年金制度において賞与を一般の保険料や給付額に反映させる総報酬制度の導入等を行うとともに,国民年金制度及び厚生年金保険制度の長期的な安定等を図るため,厚生年金保険及び国民年金の積立金を自主運用することとしている。
現下の経済情勢にかんがみ,平成11年平均の全国消費者物価指数は10年平均の全国消費者物価指数を下回ったが,平成12年度の特例として,国民年金法による年金の額等を据え置くため,平成12年度における国民年金法による年金の額等の改定の特例に関する法律(平成12年法律第34号)が成立した。
国民の高齢期における所得の確保に係る自主的な努力を支援し,公的年金と相まって国民の生活の安定と福祉の向上を図るため,確定拠出年金法案を第147回国会に提出した。
同法案は,個人又は事業主が拠出した資金を個人が自己の責任において運用の指図を行い,高齢期においてその結果に基づいた給付を受けることができるようにするため,確定拠出年金に係る規約,加入者等の資格,掛金及びその運用,給付並びに資産の移管について必要な事項を定めること等を内容としている。
高齢社会への対応,高齢者福祉等の充実の観点から,痴呆性高齢者等の判断能力が不十分な者の保護を図るため,禁治産・準禁治産制度の改正等を内容とする民法(明治29年法律第89号)の改正が行われるとともに,任意後見制度の新設を内容とする任意後見契約に関する法律(平成11年法律第150号)が成立した。
民法の改正は,現行の禁治産・準禁治産制度を,各人の判断能力及び保護の必要性の度合いに応じた柔軟かつ弾力的な措置を可能とする制度とするため,補助(新設)・保佐(準禁治産の改正)・後見(禁治産の改正)の制度に改めるとともに,社会福祉協議会等の法人や複数の者が成年後見人等となることを可能とし,成年後見人等の権限濫用を防止するために監督制度の充実を図ることなどを内容としている。
任意後見契約に関する法律においては,本人が自ら選んだ任意後見人に対し,判断能力の不十分な状況における自己の後見事務について代理権を付与する任意後見契約を締結することにより,公的機関の監督の下で任意後見人による保護を受けることができることとしている。
医療保険制度の安定的運営を確保し,併せて給付と負担の公平等を図るため,老人保健法(昭和50年法律第80号)の一部改正を含む健康保険法等の一部を改正する法律案を第147回国会に提出した。
老人保健法の改正内容は,薬剤一部負担金を廃止すること,一部負担金における定率制の導入,老人医療受給対象者が支払った一部負担金等の患者負担の合計額が著しく高額であるときは,高額医療費を支給すること等である。
急速な高齢化の進展に対応し,高齢者,身体障害者等の公共交通機関を利用した移動に係る身体の負担を軽減することによりその移動の利便性及び安全性の向上を促進するため,高齢者,身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律案を第147回国会に提出した。
同法案は,交通事業者等に対して,鉄道駅等の旅客施設の新設・大改良及び車両等の新規導入に際し,移動円滑化基準への適合を義務づけるほか,旅客施設を中心とした一定の地区における道路,駅前広場,その他の施設の整備の推進等を内容としている。
(2) 地方分権の推進
地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第87号)成立により,地域のニーズに合った施策が効果的に展開できるよう,高齢社会対策に関しては,老人保健施設・病院・薬局の開設許可等が自治事務となった。
また,これまで都道府県知事の機関委任事務とされてきた社会保険関係事務は,国の直接執行事務とされ,平成12年4月から,新しい社会保険の実施体制の下で,地方公共団体との連携により,制度の一層の安定の確保を図ることとしている。
(3) 介護保険制度の実施に向けての取組
介護保険制度が平成12年4月から実施されることから,11年10月に要介護認定が開始され,12年2月には介護報酬等が設定された。
また,介護保険制度の円滑な実施を図るため,高齢者保険料の特別措置や家族介護支援対策等を内容とする特別対策が取りまとめられた。