第3節 一人暮らし高齢者
高齢者の家族構成をみると、子との同居が減り、一人暮らしや夫婦だけで暮らす者が増えてきている。特に、男女ともに「一人暮らし」の高齢者の増加が顕著である。昭和55(1980)年には男性約19万人、女性約69万人、高齢者人口に占める割合は男性4.3%、女性11.2%であったが、平成12(2000)年には男性約74万人、女性約229万人、高齢者人口に占める割合は男性8.0%、女性17.9%となっている(図1−3−1)。また、一人暮らしの高齢者が高齢者全体に占める割合を年齢別にみると、女性の80歳以上を除いて年齢が高いほどその割合は高くなっている(前掲図1−1−5)。
図1−3−1 「一人暮らし」の高齢者の動向
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今後も、一人暮らしの高齢者は増加することが見通されている。平成27(2015)年の一人暮らし高齢者は男性約155.3万人、女性約341.7万人であり、高齢者人口に占める割合は、男性11.4%、女性18.7%となり、男性における上昇が顕著である。また、一人暮らし高齢者の男女構成をみると、その割合は12(2000)年にはおよそ男性1に対して女性3となっているが、27(2015)年にはおよそ男性1に対して女性2となる(前掲図1−3−1)。一人暮らしの男性高齢者が増加する背景には、未婚率や離婚率の上昇、配偶者の死別後でも子と同居しない者の増加があると考えられる。
このように増加が予想される一人暮らし高齢者は、どのようなニーズを持ち、それに対してどのような施策を講じていくのかを本節において概観する。
1 経済状況の良くない一人暮らしの女性高齢者
一人暮らし高齢者の所得をみると、男性で262.6万円、女性で172.6万円となっている。
これを、二人以上の世帯に住む高齢者の個人所得(男性319.6万円、女性94.7万円)と比べると、男性では低く、女性では高くなっている。一人暮らし高齢者の所得が男性で低いのは、単独世帯に住む高齢者は、二人以上の世帯に住む高齢者よりも後期高齢層が多いことなどが背景にあるものと思われる。また、女性で高いのは、(1)自分の老齢年金よりも配偶者と死別した結果支給される遺族年金の方が高い場合が多いこと、(2)個人所得が低いと成人子等との同居をする場合が多いことなどが理由として考えられる(図1−3−2)。
図1−3−2 高齢者の性・年齢階級別にみた個人所得(単独世帯・二人以上の世帯、平成9(1997)年)
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また、この一人暮らし高齢者の所得を所得階層別にみると、男性では所得が400万円以上の者が10%程度いる一方で、80万円未満の者も11.4%と同じくらいおり、所得水準の多様性がうかがえる。これに対し、女性では80万円未満の者が22.6%で、これに80〜160万円未満の者を合わせると、全体の60%程度を占める一方で、400万円以上の者は5%程度となっており、女性の場合、低所得層に偏った分布となっている。
この所得分布を二人以上の世帯に住む高齢者の所得分布と比較すると、男性の場合、二人以上の世帯では、「所得なし」もいるものの、160万円未満の者の割合は一人暮らしより低く、逆に、400万円以上の所得を得ている者の割合は一人暮らしより高い。女性の場合、二人以上の世帯では「所得なし」が20.4%を占めており、これを合わせて所得が160万円未満の者の割合は約85%に上る。女性の場合、低所得層が多いものの、二人以上の世帯に住む高齢者よりも多少個人所得の水準は高いところに分布しているといえよう(図1−3−3)。
図1−3−3 所得の有無・個人の所得階級別にみた一人暮らし高齢者の割合(平成9(1997)年)
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しかしながら、二人以上の高齢者の世帯所得を一人当たりでみると、男性で213.3万円、女性で210.0万円となっており、単独世帯の所得より男性では低く、女性では高い。男性で二人以上世帯の方が低くなるのは所得のない家族に対して所得移転を行う場合が多いためであり、女性で二人以上世帯の方が高くなるのは、男性の場合とは逆に、他の家族からの所得移転を受けることが多いためであると考えられる(図1−3−4)。
図1−3−4 高齢者の性・年齢階級別にみた一人当たり世帯所得(単独世帯・二人以上の世帯、平成9(1997)年)
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次に、貯蓄についてみると、貯蓄のない一人暮らしの高齢者は男性で22.7%、女性で21.7%存在する。一方、貯蓄が1,500万円以上の者は男性で13.5%、女性で9.4%存在する。二人以上の世帯に住む高齢者と比較すると、二人以上の世帯に住む高齢者では、「貯蓄なし」は男性8.9%、女性9.5%と一人暮らしの高齢者の半分以下である。一方で、貯蓄が1,500万円以上の者は男女とも20%を超え、一人暮らしの者を上回っている。このように、貯蓄についても格差がみられるが、一人暮らし高齢者は、二人以上の世帯に比べて、貯蓄が少ないほうに偏った分布となっていることが分かる(図1−3−5)。
図1−3−5 世帯の貯蓄階級別にみた世帯員の分布(平成10(1998)年調査)
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また、生活保護を受けている者のうち65歳以上の者は36.6%を占めているなか、一人暮らし高齢者の状況をみると、65歳以上の単身者は26.1%、65歳以上の女性の単身者は16.6%となっている(表1−3−6)。
表1−3−6 性・年齢・世帯の種類別にみた被保護人員
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総数 |
65歳以上 |
|
うち単身世帯 |
人員(人) |
総数 |
1,031,770 |
377,122 |
268,859 |
男 |
465,838 |
145,997 |
97,663 |
女 |
565,932 |
231,125 |
171,196 |
割合 |
総数 |
100.0% |
36.6% |
26.1% |
男 |
45.1% |
14.2% |
9.5% |
女 |
54.9% |
22.4% |
16.6% |
資料:厚生労働省「第54回被保護者全国一斉調査(基礎調査)」(平成12年)
このように、一人暮らしの高齢者は、経済的に豊かな者がいる一方で、低所得や低貯蓄などの経済的に決して豊かでない者も多い。特に女性の高齢単身者についてみると、個人の所得については他の高齢の女性よりも平均所得は高いが、低所得者が多く、経済状況が良くない場合が多い。
(新大綱に基づく施策の方向)
今後増加を続ける一人暮らし高齢者、その中でも特に女性の一人暮らし高齢者が貧困に陥ることを予防するために、高齢期になっても就労所得を得、また、適正な額の年金を得られるよう、生涯を通して職業能力開発を進め、男女の均等な機会及び待遇の一層の確保を図るほか、職業生活と家庭生活の両立支援対策を進め、女性のニーズに対応した職業紹介や職業訓練、農林漁業経営への女性の参画を促進する。
また、就業など個人のライフスタイルの選択によって不合理な取扱いが生じないよう、公的年金制度の見直しを進める。