「栄典制度の在り方に関する論点の整理」に対する意見募集の結果の概要
- 意見募集の概要
栄典制度の在り方に関する懇談会(以下「懇談会」という。)は、平成13年5月22日に、「栄典制度の在り方に関する論点の整理」(以下「論点の整理」という。)を取りまとめた上公表し、6月22日までのおよそ1ヶ月間、国民からこの「論点の整理」に対する意見を募集した。
- 意見の提出状況
- 提出された意見の総件数は119件(個人68人、団体3)であった。
- このうち、電子メールによるものが34件(28.6%)、ファックスによるものが28件(23.5%)、郵送によるものが57件(47.9%)であった。
- 個人、団体別にみると、個人によるものが113件(94.9%)、団体によるものが6件(5.0%)であった。
- 年齢層別にみた内訳は下表のとおりであった。
年齢層 |
人数 |
合計 |
68人(100.0%) |
0~19歳 |
0人(0%) |
20~29歳 |
3人(4.4%) |
30~39歳 |
8人(11.8%) |
40~49歳 |
3人(4.4%) |
50~59歳 |
7人(10.3%) |
60~69歳 |
19人(27.9%) |
70歳~ |
11人(16.2%) |
不明 |
17人(25.0%) |
注)上記の数は、匿名のもの(9人)、陳情・問合せに関するもの(5人)を除いている。
- 意見の概要
「栄典制度の在り方に関する論点の整理」に対して寄せられた意見を、今後の懇談会における審議の参考とするため、論点の項目ごとに、その状況を以下のとおり要約・整理した。
- 栄典の意義
栄典の意義については、次のような意見が寄せられた。
- 日本人の叙情性、国あるいは天皇に対する尊敬などの点から、日本の文化の一つとして存続を認めても良い。また、外国との国際儀礼という面からも残す必要がある。
- 栄典は国家や社会への功労を評価し、報い、栄誉を称えるものとされているが、その価値判断の基準を見て国民は公共心、公共性をといったものを明確に理解できるといえるため、この基準を明示すべきである。道徳観があいまいになってきている現代では、公共心、公共性というものについても価値判断の基準を具体的に示さないと国民は判断できないのではないか。
- 年齢が高くなって自分の人生を振り返るとき名誉や栄誉を欲するというのは日本社会の通例であり、官・民や都市・地方の別なく共通であると思う。
- 「社会への価値判断の提示」という機能を重視したい。社会に自己中心の風潮が広がる中で、栄典を通じて、他人のためという美徳を世の中に明示していくのが良い。
これに対して、栄典の意義について消極的な意見も寄せられた。主な内容は、
- ポスト自体が名誉である者に対して、屋上屋を架して国が栄誉を与える栄典制度に意義はない。
- 巨額の借金で国民に痛みを強いるならば、国費を節約するため、廃止してほしい。
- 国家の方針に同調する人ばかりが受章しており、人間にランクをつけ差別意識を植え付けている等の問題がある。
- 受章理由のほとんどは、個々人の職務に関する功績であり、職業として職務を遂行するのは当然であって全国民が対象となってしまうので、職業を通じた功績を評価する栄典制度は形骸化している。
などであった。
- 叙勲制度の基本
- 等級について
- 官の叙勲と民の叙勲の在り方について
- (1) 功績の質の違いについて
警察官、自衛官等に対する叙勲については、次のような意見が多く寄せられた。
- 公務員は、公的立場から任務を行う者であるため、民間人とは叙勲のレベルを別にするか、あるいは異なる勲章を授与すべきである。
- 国民一人一人が国家の一員であり担い手であるという意識を持ち国家を形成すべき現代においては、栄典制度も、国民の中から自分たちのために頑張ってくれた者に対し感謝するという目的から設けられるべきものである。この目的に照らせば、対象者が官であろうと民であろうと関係ない。
- (2) 政治家、公務員の扱いについて
政治家、公務員に対する叙勲については、次のような意見が寄せられた。
- 公金から給料をもらっているので、勤務時間内の働きを評価しての叙勲は疑問。
- 一定の地位に一定の期間在職しただけで叙勲の対象とされるのではなく、実質的な功労を評価すべきである。
- ほとんどの公務員は国民への奉仕者として真摯な取組みを営々と続けており、その積み上げてきた功績が評価され、叙勲の対象とされることに対する喜びと誇りには測り知れないものがある。
- (3) 警察官、自衛官等に対する叙勲の在り方について
警察官、自衛官等に対する叙勲については、次のような意見が多く寄せられた。
- 国家の安全と国民の生命財産を守るため、身命を賭して任務にまい進する特別の任務を有している。命と引き換えの十分な補償も無い彼らに国家がしてあげられることは、名誉を与えることだけである。
- 警察官、自衛官等は、治安、防衛など社会、公共のため身命を賭して奉仕することを本務とする特殊な職務であるため、他の一般の公務員等とは別の叙勲とし、早めの叙勲や随時の受章機会を設けること及び受章者数を増やすことに賛成。階級にとらわれず日夜努力している者に対しては公平にその労に報いるべきである。
- 警察官、自衛官等の職務上身体・生命の危機にさらされる機会が多く定年も早い職種にあった者の等級が、相対的に低くなりがちであるのは問題。現行よりも等級を上げるべきである。
- 平時においてPKO等の海外での危険な業務に従事し顕著な功績があった者、あるいは国内での災害派遣や危険物の処理等で評価に値する者に対して、受章の機会を設けるべきである。
これに対して、少数ではあるが、
- 警察官、自衛官等の中にも一般の職業とあまり変わらない業務に従事する人もいるので特別扱いは疑問。
といった意見もあった。
- 男女別の勲章について
男女別の勲章については、概ね「栄典制度は性に中立であるべき」という意見が多く寄せられた。なお、その場合において
- 宝冠章について『皇室用』『外交用』として存続することが望ましい。
との意見もあった。
これに対して、
- 宝冠章のデザインが極めて美麗であるとして世界的にも高い評価を得ているのであれば、そのまま残して良いのではないか。『栄典制度は、性に中立であるべきである』と心から思うが、デザインが美しいものは、女性の受章者にとってもうれしいものではないか。
との意見もあった。
- その他
その他叙勲制度の基本的事項に関して寄せられた意見は次のとおりである。
- 国家・公共への貢献と民間の経済活動やボランティア活動とを同一の勲章で比較評価することには無理があるので、立法、国家行政、地方自治などの分野ごとの功労に対して勲章を授与することとしてはどうか。
- 倒産した大企業のトップ等の勲章は返還、褫奪されていない。厳格な没収要件を定めたはく奪規定の検討が必要ではないか。
- 皇族に対する勲章については、国民に対するものとは別系列のもとして整備すべきではないか。
- 叙勲制度の運用
- 叙勲の対象について
叙勲の対象については、
- 阪神大震災で活躍されたボランティア、地下鉄サリン事件の関係でいまだ活躍しているボランティアの医師、教育関係者、少年防犯関係者、その他社会奉仕活動などのボランティアに努力されている人に対して授与すべきである。
等の意見が寄せられた。
- 受章者数について
受章者数については、
- 我が国より人口の少ないヨーロッパ諸国においても、我が国より受章者数が多いことにかんがみると受章者数を増やすべきである。
- 現行の制度で積み残されている対象者を処理するため、受章者数を増やすべきである。
等の意見が寄せられた。これに対して、
- 受章者数が多すぎて、名誉としての価値が低下し、叙勲に対する敬意が希薄になっている。叙勲対象の簡素化や功績評価の基準の厳格化により対象を減らし、叙勲の権威と重さを期するべきである。
との意見もあった。
- 受章者の年齢、時期について
受章者の年齢については、次のような意見が寄せられた。
- 70歳以上、危険業務従事者等は55歳以上という現在の原則は適当であると思う。
- なるべく60歳を超えたらすぐに出し、受章後のもうひと頑張りを期待することとしてはどうか。
- 叙勲を受けるまで関係団体等に居座る人もおり、社会の改革が遅れている要因となっているので、受章年齢を引き下げるべき。
- 科学、医学等の分野で貢献している立派な若年層にも眼を向けるべき。タイムリーに表彰が行われてこそ、受章者の喜びや有難味も増すのではないか。
- 候補者の推薦・選考手続・審査の在り方について
候補者の推薦・選考手続・審査の在り方については、次のような意見が寄せられた。
- 一般国民からの公募を検討してはどうか。
- 国民的視点から隠れた功労者を評価するため、NPO団体等による新しい推薦方式を確立すべき。
- 選考は、有識者からなる選考委員会を開催して行うべき。
- 各省庁の所管分野ごとにみると取り上げられないが、多分野で活躍されて総合的にみると非常に功績の高い人もいるので、漏れの無い公正なシステムを整備してほしい。
- 選考過程、選考基準などをできるだけ公開し、栄典制度の透明性を確保すべき。
- 功績評価の基準(尺度)(特に民の功績評価の基準(尺度))について
功績評価の基準については、次のような意見が寄せられた。
- ポストや在職期間により画一的な勲等を決めるのではなく、功績に応じた評価基準とする必要がある。
- 世代交代を促進し、社会の活力を向上させるためにも、ポストと在職年数でなく、在職年数は短くても、全身全霊を捧げて職務に献身し、その結果として顕著な実績を挙げた者を高く評価すべきである。
- 評価基準の設定は難しく、現行のポストや在職年数による査定はやむを得ないと思うが、特に在職年数については、あまり機械的に過ぎると逆に公正を欠く可能性がある。
- 官民格差について
- (1) 数の比率
受章者の数の比率における官民格差については、次のような意見が寄せられた。
- 民間人をもっと多く対象としてほしい。
- 民間人は自分で儲けているだけではないか。民間人の受章者数は減らしてよい。
- 政治家や公務員については叙勲対象者の数をできるだけ減らすべき。
- 公務員が公的な職業である以上、結果として国家的・公的視点からの顕彰である叙勲制度において官の数が多いのは当然至極である。
- 官民比率を同率くらいにすべきである。
- 官民格差は、功績評価の基準を地位や在職期間にではなく国民への貢献度に置いた結果であるならば説得的であるといえるのではないか。逆に、前もって官と民との比率を固定化することは、本来の基準であるべき貢献度や対象とすべき職務を軽視した逆差別に陥るおそれがある。
- 警察官、自衛官等の治安、防衛等に従事する公務員については、一般公務員とは異なるため、官とか民とかいう分け方をするのは適当ではない。したがって、これらの者を官の中に入れて「官は民の2倍である」という議論をするのは公正ではなく、実際はあまり官民の差はないのではないかという議論に賛成。
- (2) 上位勲等における官民比率
上位勲等における官民比率については、
- 勲一等から勲三等までは政治家及び高級公務員が多数を占めているが、今後は、人目につきにくい分野の功労者(厚生関係従事者、新規医療関係開発者、町村内における無償奉仕活動従事者等)を増やすべきではないか。
等の意見が寄せられた。
- (3) 同一分野における官民格差
同一分野における官民格差については、次のような意見が寄せられた。
- 功績評価の基準における官民格差を無くす必要がある。例えば、国立大学の教授や国立病院の院長等が民間に移った場合であっても、社会のためになる著しい功績を残したような場合には国立の場合と同等の評価をするような配慮が必要なのではないか。
- 例えば、国公立学校の教官経験者に比べて私立学校の教官経験者の叙勲が非常に少ないが、教職者の「国家又は公共に対する功労」にその所属機関の運営母体によって差が生じているというのはおかしいのではないか。
- 勲等バランス(国・地方間等)について
勲等バランス(国・地方間等)については、
- 懇談会における2つの議論(「地方分権という観点からすると、もう少し地方に対する貢献というものを評価すべきではないか」「全国団体の役員の方が地方団体の役員よりも勲等が高い、あるいは大企業の方が中小企業よりは勲等が高いというのは、見直しを考えても良いのではないか」)は大変説得的であり、審査基準等の見直しを行うべき。。
等の意見が寄せられた。
- 褒章
褒章については、次のような意見が寄せられた。
- 紅綬褒章については、今後は国際的にも身分を賭して活動する方が多くなると考えられるため、もっと数を増やすべきではないか。
- 今日の道徳の乱れや自由の履き違いに終止符を打つため緑綬褒章を増やしてほしい。また、紅綬褒章は、警察官、自衛官等にも適用するなど幅広く適用してほしい。更に、今後の我が国にとって発明、発見、技術の開発こそが最も大切であるため、紫綬褒章を増やし、かつその都度授与するようにしてほしい。
- 各種褒章について次のようにしてはどうか。①紺綬褒章を高額納税者に授与することは、国民的コンセンサスを得られないと考えられるため行わない、②緑綬褒章については現行の運用規定は現代にそぐわないと思われるため、ボランティアや家庭介護に携わった人等を対象とする、③紺綬褒章については現行の手続きを簡素化し、関係団体から申請を受けるようにする、④紫綬褒章については対象にスポーツ関係も含める。また、藍綬、黄綬、緑綬褒章を一本化し新たに例えば青綬褒章といった章をつくり、受章基準を善行とすることを検討してみてはどうか。
- 「『徳行』には時代によって変わるものと不変なものがあり、何が『徳行』にふさわしいかについては慎重な検討が必要である。」とあるが、だからといって、次世代に残したいと思う徳行に対する褒章の授与を躊躇することはない。
- 紺綬褒章は、金銭で名誉が買えるようであり、現代ではどうかと思われる。多額納税者についても、すべての者が褒章を受けるのにふさわしい者であるかどうかについて疑問が残る。
- 文化勲章
文化勲章については、
- 年齢に関係なく、重要な発明、発見をしたなど学問、芸術等に顕著な功績のあった者に授与してほしい。また、受章を励みとすることが重要だと思うが、現行では若い人たちが対象となっておらず、その効果が少ない。
との意見が寄せられた。
- 叙勲、褒章と関連する制度
位階、「国民栄誉賞」・「内閣総理大臣顕彰」等の表彰制度については、
- 現行の国民栄誉賞は、スポーツ選手のみに与えている感があり良くない。産業、学問、芸術の発展こそ我が国の発展の原動力なのであるから、これらの分野で重要な発明、発見をしたなど顕著な功績のあった者にその都度授与し、若い人たちの励みとすべきである。
との意見が寄せられた。
- 法制面の問題その他
法制面の問題については、
- 栄典制度の見直しを実のあるものとするために、法的根拠を明確にすべきものと考える。「栄典の意義」及び「叙勲制度の基本」の内容を栄典法の趣旨として盛り込み、若年層を含む国民の叙勲への意識を新たにするよう努めてはどうか。法制化の過程では様々な意見があり、まとまりのつかないことも予想されるが、それはむしろ国民に栄典の意義を浸透させるために意義のあることと考えて、じっくりと取り組んでも良いのではないか。
との意見が寄せられた。
また、過去の受章者との関係については、次のような意見が寄せられた。
- 過去の受章者との整合性についてもある程度配慮する必要があるが、重視し過ぎると改革が不可能になってしまう。未来に向かって我が国社会の活性化につながるよう、栄典制度をうまく機能するようにすることがもっと重要なのではないか。
- 叙勲が国家・社会・公共に対する功績の大きさを評価するものであるとすれば、その大きさの違いに応じた等級は必要であり、また、従来の制度との整合性を図ることは不可欠であると考える。
このほか、次のような意見が寄せられた。
- 今回の制度見直しの後はこの先数十年はないであろうから、21世紀を見据えた新しい感覚で制度化してほしい。
- 勲章を着用する機会を冠婚葬祭などに広げるとともに、略章を広く利用することも検討すべきである。