栄典制度の改革について
平成12年4月13日
自由民主党内閣部会
栄典制度検討プロジェクトチーム
- 検討の経緯
平成11年12月8日、内閣部会において、亀井政務調査会長から「21世紀を迎えるに当り、栄典制度を新しい時代にふさわしいものとするため抜本的な検討を加えるべき」との指示があった。このため、内閣部会に栄典制度検討プロジェクトチームを設け、平成11年12月17日以降11回会議を開催し、有識者からのヒアリングを含め栄典制度全般について検討した。会議は党所属国会議員の自由参加により行われ、プロジェクトチームメンバー以外にも多数の参加を得て活発な討議が行われ、平成12年4月13日、報告書をとりまとめた。 - 栄典制度改革の基本的考え方
- (1) わが国の栄典制度は明治時代に創設され、戦後一時期、生存者受勲が停止されたが、昭和39年再開され、今日に至っている。この間、昭和20年代から30年代かけて1度にわたり栄典法の制定が試みられたが実現に至らず、制度的には、創設時の姿を維持したまま、運用面で時代の変化に対応した改善が行われてきた。
しかしながら、近年、社会構造の変化や国民の価値観の変化が著しい中で、現行の栄典制度には様々な批判が寄せられるようになっている。具体的には、①肩書きや年功が重視され、真の功績者と言える人が正当に評価されていないこと、②年功重視の評価が世代交代の阻害要因となっていること、③官民格差が著しいことなどである。このため、21世紀を迎えるに当り栄典制度について抜本的に見直し、所要の改善を行う必要がある。 - (2) 栄典制度は国家社会に対する功績を評価し、顕彰するものであるが、人の功績を客観的に評価することは難しい。とりわけ、階級の明確な公務員はともかく、多種多様な職種に分かれる民間人についてその功績を公平公正に評価し、等級づけを行うことは大きな困難が伴う。このことを理由として、栄典制度そのものを廃止すべき、又は等級のある勲章制度を廃止すべき、との意見がある。しかしながら、われわれはこのような考え方はとらない。その理由は次のとおりである。
- [1] 現行の栄典制度は基本的には国民の間に定着している。栄典の授章を辞退する者は極めて少なく、ほとんどの受章者が受章を素直に喜び、誇りとし、名誉としている。そして、多くの人が将来、相応の叙勲を受けられることを一つの目標としながら、社会の様々の分野で営々と地道な努力を積み重ねているのであり、そうした人々の勲章に対する思いを軽視すべきではない。
- [2] 栄典制度は、わが国及び諸外国を含め長い人智の積み重ねの下に形成された伝統的制度であり、一世代の判断で簡単に廃止等をすべきではない。
- [3] ほとんどの国が栄典制度、とくに等級のある勲章制度を有しており、外国との友好のため勲章を活用していく観点からも、諸外国と著しくかけはなれた制度とすべきではない。 栄典制度改革に当たってのわれわれの立場は、現行制度の根幹(勲章と褒賞の2本立)を維持しつつ、国民の価値観に適合するように制度面及び運用面で思い切った改善を図ることである。
- (3) 栄典制度を改革していくに当り、最も重要な視点は、「社会のため真に貢献した人」を積極的に発掘し、顕彰していく制度、運用とすることである。
現状の栄典制度の運用は、長い先例の積み重ねにより形成された基準 によっており、とくにポストの高低と年功(在職年数)の長短が重要な判断要素となっている。この基準は一定の合理性を持っているが、この基準を適用した場合、「ポスト、肩書きはないが、社会の一隅を照らして努力している人」「年功は浅いが若くして大きな業績を上げた人」などが適切に評価されない場合があり、このことが栄典制度に対する批判の大きな原因となっている。
国民誰しもが納得する公正、適切な功績評価を行い、社会の真の功績者を発掘、顕彰していく制度とすることが、栄典制度に暖かい血をかよわせ、国民の信頼を高めていく上で最大の課題である。 - (4) 「信賞必罰」という言葉があるように、正しく褒め、正しく罰することは社会の秩序を維持する基本である。とりわけ、栄典制度は、国家社会にとってどのような行為や生き方が正しいか、というモラルを明らかにするものである。栄典が正しく行なわれるならば、人々がそれを一つの目標としながら人生を努力し、誇りを持って公のため働くことによって、社会の秩序と倫理が高められ、社会の活性化にも資することになる。栄典制度改革の意義は大きい。
- (1) わが国の栄典制度は明治時代に創設され、戦後一時期、生存者受勲が停止されたが、昭和39年再開され、今日に至っている。この間、昭和20年代から30年代かけて1度にわたり栄典法の制定が試みられたが実現に至らず、制度的には、創設時の姿を維持したまま、運用面で時代の変化に対応した改善が行われてきた。
- 改善すべき事項
- (1) 勲章について
- [1] 勲章の等級については、現在19等級となっているが、諸外国に比べやや詳細すぎること、とくに下位の等級について微細な差を付けることは適当でないこと等から、現在の19等級を13(受章者が極めて限られる大勲位2章及び旭日桐花大綬章を除いて10)に簡素化する。
- [2] 勲等(「勲一等」など数字による等級表示)については、下位の勲等の場合授章者の心情を傷付ける面があること等から、これを廃止するものとし、これに代わる表示(例えばデザインによる表示等)を検討し、今日にふさわしいものとする。
(例) - [3] 宝冠章(女性の場合に旭日章に代えて授与)は、女性の礼装に適したデザインであることから、現行どおりとする。
- [4] 勲章については、官民格差の是正(後述5)、及び殉職者を厚遇するなど選考基準の改善(後述4)を図る。
- [5] 勲章の授章は、受章者本人のみならず配偶者の長年の努力の賜物であることにかんがみ、配偶者に対する何らかの顕彰制度を検討する。
- (2) 褒章について
- [1] 褒章については、その社会的評価を高め、藍綬褒章、黄綬褒章及び紫綬褒章の積極的活用を図るとともに、次の改善を行う。
- [2] 緑綬褒章(「徳行卓絶な者」に授与)は、昭和27年以来授章例がなく形骸化しているが、これを積極的に活用することとし、介護に長年献身した者など「現代の有徳者」を発掘、授与する。
- [3] 紅綬褒章(人命を救助した者に授与)は、平成元年以来授章例がないが、これを積極的に活用し、PKO活動など危険な職務に献身し、功績のあった者に授与する。
- [4] 紺綬褒章(公益のため500万円以上寄付した者に授与)は、廃止するか、又は存続させる場合は寄付金を大幅に引き上げるとともに、多額納税者等も褒章の対象として検討する。
- (3) 新たな勲章の創設
- [1] 社会の流動化、多様化が進んでいる中で、社会の各分野で顕著な業績を上げ、広く国民の尊敬の対象となっている人々が輩出している。このような者を顕彰するため、文化勲章に匹敵する格の高い勲章制度として、「社会勲章」ないしは「社会功績章」(仮称)を設ける。
- [2] 授章者は、産業、福祉、教育など各分野を網羅して年間数十名程度とし、年齢制限は特に設けない(功績があれば若い人にも授与)ものとし、有識者による選考委員会を設ける。
- [3] 内閣総理大臣が授与している国民栄誉賞(「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績のあった者」に授与)は、新しい勲章制度に統合し、天皇陛下から授与すること等の見直しを行う。
- (4) 選考基準及び方法について
- [1] 現行の先例主義による基準(ポスト及び年功の重視)では高く評価されない「社会のため真に貢献した者」を積極的に発掘し、顕彰する。このため、
- a) 「従来の基準によらないで推薦できる特別枠」を設ける。
- b) 「地域推薦制度」(市町村及び都道府県が、地域住民こぞって評価する功績者を各省庁を経由せず直接推薦する制度)を設ける。
- [2] 現行の選考基準では在職年数(年功)が重視されているが、世代交代の阻害要因になっていること等にかんがみ、在職年数よりも実質的な功績を重視するよう運用を改める。
- [3] 選考にあったては次の諸点を改善する。
- a) 国家社会のため危険な業務に挺身した者、特に殉職者を厚く処遇する。
- b) いわゆるボランティアを積極的に顕彰する。
- c) 地方分権化に伴い地方公共団体とくに市町村関係者の評価を高める。
- d) 地域の伝統文化及び地域産業を継承する者を積極的に顕彰する。
- e) 芸能、スポーツ関係者をより重視する。
- f) 外国人の受章者を増加させる。
- g) 推薦省庁間や地域社会のレベルでみた等級のアンバランス(警察と消防のそれぞれの民間協力者間、小学校長と町村長の間など)を是正する。
- [4] 賞勲局の人員不足を補いつつ、できるだけ広く資料を集めて審査の適正を期するため、民間調査機関の活用等を図る。
- [5] 各界各層の有識者からなる諮問機関により、国民の幅広い意見を不断に栄典行政に反映させる。
- [1] 現行の先例主義による基準(ポスト及び年功の重視)では高く評価されない「社会のため真に貢献した者」を積極的に発掘し、顕彰する。このため、
- (5) いわゆる官民格差について
- [1] 勲章は公務員のための制度として発足した経緯があること等から、春秋叙勲の公務員、民間、公選職の比率は6:3:1と、官高民低になっている。しかしながら、現代は国民誰しもが公(パブリック)の担い手となる時代であり、このような勲章の官民格差を是正する必要がある。このため、春秋叙勲授章者の公務員対民間人の比率2:1を段階的に是正し、1:1とする。この場合、民間からも最高位を出せるようにし、また、各等級とも官民の比率が1:1になるよう努力する。
- [2] 一般職公務員を中心に格付けを見直すとともに、一定ポスト以上は必ず授章するというのではなく、実質的な功績を評価して授章者を選定する。なお、公務員(自衛官等を含む)にみられる中抜け状態(中級ポストにある者が叙勲を受けられない現状)を是正する。
- [3] 大学関係者等にみられる国、公、私立間の格差を是正する。
- [4] 国会議員について格付けを見直すとともに、原則として現職期間中は受章しないものとする。
- (6) 授章者の年齢について
- [1] 原則として現行どおりの運用とする(勲章は70歳以上、ただし現業的職務は55歳以上、褒章は原則として55歳以上)。ただし、若い人であっても大きな業績を上げた場合は敏速に褒章等を授与するなど弾力的な運用を図る。
- [2] 春秋叙勲(褒章を除く)の対象者は原則として現役を引退した者とし、現職期間中は受章しないものとする。したがって、再叙勲制度は廃止する。
- (7) 授章者数について
- [1] 社会の高齢化に対応して受章者数の増加が適当であるが、濫賞はさけるべきであり、春秋叙勲、褒章受章者(毎年10,600名)のおおむね1~2割の増加を図る。
- (8) その他の事項について
- [1] 位階制度は、約1400年の長きにわたって生きつづけてきた伝統ある制度であり、現在は、死没者を追悼する意味で運用されているものであるから、現行のまま存続させる。
- [2] 死亡叙勲の申請期限は死後1ヶ月とされているが、葬式その他遺族の多忙を考慮すれば3ヶ月ないし半年程度に延長することが適当である。
- (9) 今後の進め方について
- [1] 政府において、各界各層の有識者による検討機関を設置し、国民的合意の形成を図りつつ一両年検討し、必要に応じ栄典法の制定も含め、改革を図る。
- [2] 運用によって措置可能なものは推薦要網等を改正し、2001年春の叙勲から実施に移す。
- (1) 勲章について