〜平成20年度入賞作品〜
【中学生部門】 ◆佳作
あの子に出会って
二〇〇七年十一月十五日。念願の保育園への職場体験が始まった日だ。去年の私には、この日が楽しみで楽しみでしょうがなかった。というのは、私の母は保育士。いつも帰って来たら園児の自慢話を聞かせてくれる。その話がいつも楽しみで「保育士」という仕事に興味を持っていたからであった。だから中学2年生になって、職場体験の話になった時に私は迷わず保育園に行きたいと思った。
当日、ワクワクする気持ちもあったが、その倍くらいに不安な気持ちにもなった。子供達と仲良くなれるかと、とても心配だった。けれど、いざ行ってみると、みんなすごく明るくて保育士さんも優しくて、ホッとした。最初は慣れないことばかりで、腰や足が痛くなったりで大変だったが、とてもやりがいがある仕事ばかりだったので、楽しんでいた。しかし、園児達が悪いことをしても、最後の日まで、怒ることができなかった。どの子もみんな、本当にかわいかったのだ。
その中に一人、障害を持っている子がいた。他の子より、行動が遅かったり、上手くしゃべれなかった。私は初めの日、その子と出会い、その子に抱きつかれそうになった時、おもわずよけてしまった。鼻水がいっぱいついていたからだ。それから何となく、その日からその子をずっと避けていてしまった。3日目の給食の時、私は給食のお茶をほとんどこぼしてしまい、かなり落ちこんでいた。そこに、あの子がやって来て、落ちこんでいる私に「お茶なら、まだあるから、もらってきてあげる」と、とてもゆっくりであったが、そう言ってくれたのだ。すごく嬉しかったのだが、その反面に、この子になんて悪いことをしてしまっていたのだろう、という罪悪感が湧き上がってきた。その瞬間、その子を思いきり抱きしめた。何度もお礼を言った。鼻水がついちゃう、など、もうどうでも良かった。最後の日、お別れの時、みんなが手でアーチを作ってくれた。低かったので通りにくかったが、とても嬉しくて、泣いてしまった。そうしたら、またあの子がよって来てくれて、「先生、大丈夫?」と言ってくれた。そこでさらに泣いてしまい、とても別れにくかった。本当にこの保育園に来て良かったと思える瞬間だった。
私達は普段、自分達と少しでも違う人がいれば、嫌がってしまう傾向があるといえる。その人自身が悪い訳でもないのに、すぐに差別をしたがる。私も、そうだった。けれど、この保育園に来て、あの子に会って、変わった気がする。障害を持っている人は、どうしても浮いてしまい、周囲から好奇の目を持たれたり、嫌な顔をされてしまう。しかし、だからこそ、人の痛みを分かっていて、普通の人よりも、何倍も優しいのだろう。
なので、私はこれからは「障害者」などという言葉でまとめたり、区切ってしまうのではなく、一人の人間として、その人自身のことを見ていこうと思った。