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障害者施策トップ意識啓発20年度心の輪を広げる体験作文・障害者週間のポスター作品 > 平成20年度入賞作品 中学生部門 佳作

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出会いふれあい心の輪「心の輪を広げる体験作文・障害者週間のポスター」作品集
〜平成20年度入賞作品〜

【中学生部門】  ◆佳作

後悔をばねにして

加藤 綾
(新潟市立白新中学校3年)

 わたしの両親は耳が聞こえない。母は生まれつき聞こえなく、父は生まれて高熱を出し、聞こえなくなった。
 わたしが物心ついたときにはもう親の事情はわかっていて、手話も少しながら使えていた。だから親が耳が聞こえないからと言って動揺することはなかったし、「不幸だ」なんて思ったこともなかった。
 ただ、一回だけ、わたしは親に「耳の聞こえる家に生まれたかった!」という酷い言葉を口にしてしまったことがある。
 小学生のとき、わたしはピアノを習っていて、ピアノの発表会に出ることになった。もちろん親に「見に来てね」と言い、当日、わたしはステージに上がった。一生懸命練習した曲。先生に何度も指摘されたあの小節。わたしは何とか間違えないで弾ききった。そしてすぐ親の元に駆け寄り、感想を聞こうとした。しかし、何も言ってくれない。らちがあかないので、「ねぇ、どうだった……?」と母に聞くと、
「ああ、おつかれさま」
 ちがう。わたしはそういうのが聞きたいんじゃなくて……。わたしは感想を欲した。
「うん、よかったと思うよ」
 あいまいな言葉が返ってきた。わたしはそれにショックを受けた。どうして?真面目に聞いてくれなかったの?せっかく二ヶ月以上もがんばったのに。感想がそれだけって││。そしてわたしは、最低なことに皮肉たっぷりに、「耳の聞こえる家に生まれたかった」と言ってしまったのだ。当然、母は悲しそうな顔をした。
 でも、そのころのわたしは子供で、謝ろうともしなかった。今になって考えてみると、親は耳が聞こえない分一生懸命「心」で聞いていたのだと思った。それで、あの感想はその「心」で聞いた音への精一杯の讃美だったのではないか。それなのに、わたしは目先のことばかりに気を取られてあんなことを││。
 わたしは後日、そのことについて謝った。
「あんなこと言ってごめんなさい」と。
そうしたら、母は、
「私も、下手な感想しか返せなくてごめんなさい。これからは、あなたの気持ちも考えて言うからね。だから、あなたも、私達の気持ちを考えてくださいね」
 わたしは本当に酷いことを言ってしまったんだ、と思い、それ以上に、人間はお互いの気持ちを考えて発言しないと、相手をひどく傷つけることがあるのだと実感した。
 わたしは将来、手話通訳士になろうと思っている。わたし自身が経験したことをバネにして、健常者と障がい者が互いにいい気持ちで生活できるような社会にするための、心のかけ橋になって、わたしの過ちをくり返す人が出ないようにしていきたいのだ。

 

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