〜平成20年度入賞作品〜
【中学生部門】 ◆最優秀賞
たくさんの出会い
ぼくは、この四月に中学校に入学した。
入学したばかりの頃は、友達ができるか不安だった。
しかし、新しい友達もできたし、中学校生活にも慣れてきつつあり、今のところ順調だ。
ぼくは小学校に入学したての頃、時々教室を逃げ出して学校をとび出した。理由はまったく覚えていない。そのうちに先生は、ぼくが教室を出ようとすると、何も書かれていない真っ白な紙を、
「これを五年一組まで届けてきて」
と渡されるようになった。ぼくは、その紙を母が担任しているクラスまで持って行っていた。
これは、ぼくが勝手に出て行ったのではなく、用事があって出て行ったように見せかけてくださっていた先生の配慮だったらしい。
ぼくは母の顔を見ると、落ち着いて自分の教室に戻っていくことができた。おかげでしばらくすると、授業中も落ち着いて席に着いていられるようになり、教室から逃げ出すこともなくなった。
授業が始まってから、いつまでも職員室をのぞいていると、
「ちょうどよかった。印刷を手伝って」
教頭先生について印刷室へ行き、横で印刷されたプリントが出てくるのをわくわくしながら、眺めていた。終わると、
「はい、これは君のクラスの分」
自分のクラスの分を受け取り、得意気に教室へ帰った。
校長室へ入って行くと、
「怜央君、良く来たね」
と笑顔で話を聞いてくださった。理科室に行くとじゃんけん対決をしてくださる先生、四階へ上がるといつも元気よくハイタッチをしてくださる先生。
そういえば学校中どこへ行っても、先生方や上級生に声をかけてもらえた。教室の中でも誰かが声をかけてくれたり、ドッジボールに加えてもらったりした。宿泊学習の部屋割りで、二つのグループに分かれるとき、一緒の部屋になりたいと願っていた友達に、
「怜央君、どっちのグループにするの」
とたずねられたときはうれしかった。
ぼくに発達障害があると知らされたのは、高学年になってからだった。
ぼくはいろいろな先生方に見守ってもらい、多くの友達から励まされたから、ここまで進んでくることができたのだと思う。
ぼくは中学生になって新たな挑戦をしている。それは、年末に行われるミュージカルに出演することだ。ぼくは人前に出るのも、歌を歌うことも苦手だ。ましてやダンスみたいに体のいろいろな部分を同時に動かすのは、一番苦手で避けてきた分野だ。しかし、約百人のミュージカルの仲間とそこにいるだけで楽しい。そこに自分の居場所があるようでほっとする。やっぱりぼくは、まわりのみんなに支えられているんだなあと思う。
まだ先の長い中学校生活、どんなことが起こるのかわからないが、一つ一つ自分のペースで乗りこえていきたい。そしていつか、誰かを支える人にもなってみたい。