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障害者施策トップ意識啓発20年度心の輪を広げる体験作文・障害者週間のポスター作品 > 平成20年度入賞作品 高校生・一般市民部門 佳作

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出会いふれあい心の輪「心の輪を広げる体験作文・障害者週間のポスター」作品集
〜平成20年度入賞作品〜

【高校生・一般市民部門】  ◆佳作

私と手話

むらかみれいのすけ
(神奈川県・79歳)

 平成十五年春、茅ヶ崎市身体障害者福祉協会員二十名ほどと九州に旅行した。その中に聴覚障害者が六名いた。彼等の対応は、手話の堪能な会長がしていた。
 鹿児島、長崎と泊まりを重ねて、別府温泉が最後の晩となり夕食の席で、私はろうの人達と同席になった。
 料理は、「シッポク料理」であった。ボーイさんが、「シッポク料理は長崎が名物で、昨晩長崎で喰べると良かったが、昨夜は皿うどんとのことで、昨夜の宿と当ホテルは姉妹館で、連絡をとり合い、今席は九州最後の夜なので、シッポク料理とさせてもらった」と説明し、さらに「シッポク料理」についての説明が加えられ、会食は始まった。
 健聴者の席では、早速箸が進んだが、私達の席の、ろうの人は箸を取らない。
 はてと、私は右隣りの、ろうの女性を見るとうなづきながら、胸元から用紙と筆記具を私の前に出した。
 私は、そうか、「筆談だ」と判り、今のボーイの説明を書き示した。それを見て女性は、他の、ろうの人に「手話」をした。了解されたらしくうなづき笑顔で箸を取り、料理にのばし始めた。私もほっとし料理をつまんだ。
 私は、思いがけないことで、ろうの人と筆談ではあるが関わりをもつことができ、意思が通じ合えたと喜びを感ずるとともに、これが「手話」だったらなお意思が通じただろうな、手話を習おうと思った。
 旅行から戻り、市障害福祉課に、手話講習について問い合わした。係は、「この夏にある」と返事をくれ、時期を待ち、三ヶ月の講習で、「私の名前は、ムラカミレイノスケです、よろしくお願いします」と指文字を覚え修了式となった。
 これだけでは、どうも中途半端であると、「手話サークル、茅の会」に入会した。
 会には、春の九州旅行で筆談した女性がおり、笑顔で迎えてくれ、嬉しかった。
 三ヶ月の基礎はあるもののなかなか覚えられない、一進一退、ろうの人との会話なんかおぼつかないありさまだ。
 入会して、三ヶ月ほど経ち、行きつけの総合病院に診察に行くと、先般の九州旅行で一緒だった、ろうの男性、新田(仮名)さんに会った。手話であいさつするチャンスだったが出ず、会釈を交わすのみだった。
 待合室で自分の呼ばれるのを待っていると、「新田さん、新田さん」と受付けの女性が呼んでいる。私は、「新田さんなら先ほど見かけた」と出会ったところを教えた。間もなく彼女は、新田さんを連れてきた。
 私は、新田さんに、「今貴方の名前を呼んだ、ここにいなさい」と、片言の手話をした。
 通じたらしく彼は笑顔でうなづいた。そこへ、「通訳さんがいました、ありがとうございました」と先ほどの女性が来て、新田さんを連れに来た。
 待合室には、大勢が待って居りなりゆきを見ていたが、思い切って手話を使って役に立ったと、安堵感を覚えた。
 私は、生涯学習二級インストラクター(書道)の資格を持ち、介護老人保健施設に、認知症の予防と改善のため書道ボランティアを平成十二年秋からやっていた。
 その中に、浜之郷施設があった。茅の会に通って一年ほど経ち、浜之郷にいつもの通りお手伝いに行くと、添削を待っている列の中に、小柄な八十代の女性が車椅子で並んでいた。その女性の番になると、介護の女性が、「この方耳が聞こえません」と言う。
 私は、「名前はムラカミですよろしく」と、手話した。彼女ニコニコしながら、坪井(仮名)と名前の書いた習字を差し出しながら、「下手、下手」と手話します。私、受け取り一枚を添削し、もう一枚に花丸をして「上手、上手」と手話して返した。
 花丸のついた習字を、彼女はニコニコしながら廻りの人達と見せ合い部屋に戻って行った。その後姿は、「手話の通ずる者に出会えた」という安心感がうかがえた。
 坪井さんとはその後、浜之郷へ行く度に会い、その都度、「下手」、「上手」のやりとりを、笑いながらした。
 私が、手話を習い始めて、ろうの人との会話例は、この二例に過ぎないが、手話を習ったから片言の手話ができ、ろうの人の手助けができたと思っている。
 茅の会に入会して五年になり最近では、会員の、ろうの人と少しづつ会話もできるようになったが未だ読取りができない。こちらからの一方通行手話である。私の手話に相手が戸惑い、筆談が混じり笑顔が出て、胸を撫でおろしている。
 先般外来講師の、「伊藤政雄先生」に同行されて来た奥様に「村上さんどうして手話を習おうとしたんですか」と聞かれ、冒頭のお話をし、「読取りが難しい」と話すと、「三年や、五年で読取りができたらすばらしいです。その内にだんだん判って来ますよ」と励まされ、焦ることはない、気長にやろうと意を強くした。
 例年「茅ヶ崎市障害者ふれあい行事」がバスで行われている。私は、ろう者乗車バスの世話係を仰せつかる。
 ささやかな、片言手話で彼等を笑わせ、写真を撮ったり、「お互い障害者同士」と楽しい旅行をしている。
 今年の秋も、千葉方面への旅行が決まっている。どんな旅行を、ろうの人達とできるのか今から楽しく、わくわくしている。

 

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