〜平成20年度入賞作品〜
【小学生部門】 ◆優秀賞
勇気を出せば
ぼくは、ちょっとはずかしがりやで、人見知りしやすいです。それで、勇気を出して人に接することができないこともあります。
ある日、おばあさんにお客さんが来られました。その人は、目の見えない人だったのです。おばあさんは、何とぼくに
「この人を部屋まで案内してあげて」
と、言ったのです。
迷いました。どんなふうに案内したらいいのでしょう。万一、けがでもされたら大変です。初めてお会いした方、そのうえ目の見えないこの人に対する人見知りもありました。
でも、この方を見ると、六十才くらいで、じみな服そうで、とてもやさしそうに見えました。ぼくのおばあさんのような人のようにも見えました。だから、何とか、
「段がありますよ」
「少し、すべりやすいですよ」
などと言いながら、ご案内することができました。すごく話しかけにくさも感じましたし、どう手助けしたらよいかも分からず、おっかなびっくりでしたけれど……。
それから数日たったとき……。また、あの方が来られたのです。そして案のじょう、
「おーい、歩。また、たのむよ」
と、おばあさんの声。
「またかあ。ちょっとやだなあ」
ぼくは、正直なところ、こう思いました。そして、しかたなくやり始めました。
でも、やり始めてみると、気持ちが変わりました。二回目でなれたからでしょうか。はずかしさ、こわさなどの人見知りはふしぎと消えていました。
段があることやすべりやすいことだけでなく、ろう下の広さとか、とびらがあることなど、たくさんのことを注意させてもらうことができました。その方の用事のこととか、ぼく自身のこととか、勇気を出して話を切り出すと、目の見える方と同じように、いやそれ以上に、楽しく、すらすらとお話しすることができました。
「すまないね、ありがとう」
と言われ、お菓子までくださいました。うれしかったし、すごくすっきりした気持ちになりました。「よいことをしたんだ」という達成感までわいてきました。
思い出してみれば、ぼくがご案内したときこの方は、とてもしっかりとした足どりで歩いておられました。きっと、ぼくが案内しなくても大じょうぶだったと思います。それなのに、ていねいにお礼を言われ、そのうえ、二回目にはぼくにお菓子まで用意していてくださったのです。むしろ、親切にしてもらったのは、気をつかってもらったのは、ぼくの方ではないか……。そう思えてなりません。
このことがあってからのぼくは、目や足に障害のある人を見かけると
「だいじょうぶですか?」
「お手伝いしましょうか?」
など、すすんで声をかけることができるようになりました。たいていは、
「いいですよ。大じょうぶですよ」
と言われますが、声をかけただけでもすごく気持ちがよくなります。いや、障害のある人に、いい気持ちにさせていただいているのかもしれません。
はじめは、「しかたないなあ」と思っていたぼく。でも、二回も同じような手助けをさせていただいたぼく。他の人にはできないとても大切な体験をすることができました。
そして、この体験を通して、勇気をもらいました。やさしい心ももらいました。他にもいっぱい大事なものをもらいました。
ぼくは、これからも勇気を出して、自分にできる人助けをすすんでしていきます。そして、みんなにも、そのすばらしさをたくさん伝えていきたいと思います。