平成27年度「心の輪を広げる体験作文」作品集 中学生部門佳作

ゆいちゃんは私のヒーロー

安城市立安城南中学校三年 半田 碧(愛知県)

 私には九才下の六才になる従姉妹のゆいちゃんがいる。ゆいちゃんは無邪気な笑顔が可愛くて、見た目はどこにでもいる普通の女の子だ。ただ、「見た目は」だ。服を着る、ご飯を食べる、お風呂に入る、そんな日常であたりまえの動作をこなそうとすると、ゆいちゃんは人の倍、時間がかかってしまう。

 ゆいちゃんは生まれつき、障がいをもっていた。脳の一部に穴があいており、左半身が麻痺しているのだ。全く動かないわけではないが、手先を使う細かい動作などは一人ではうまくできない。

 私とゆいちゃんは、ゆいちゃんが生まれたときから大の仲良しだ。たくさん一緒に遊んだし、たくさん面倒も見てきた。正直、私は小さい子の面倒を見るのは苦手だ。少しでも目を離すと、すぐどこかへ行ってしまうし、どんな怪我をしてくるかも分からない。急に泣き出して、

「どうしたの?どこか痛いところでもある?」

と聞いても、泣いているばかりで何も答えない。だんだん、どう接すればいいのか分からなくなってしまうのだ。もちろん、最初は、ゆいちゃんにもどう接すればいいかわからなかった。それに、ゆいちゃんは障がいがある。変に神経を使ってしまう。余計な心配ばかりしてしまい、いつも以上に疲れた。

 でも、ゆいちゃんのお世話を投げ出したことはないし、嫌だなどと、思ったことも一度だってない。だって、ゆいちゃんは何度も私のことを救ってくれたのだから。私が落ち込んでいるとき、いつもそばにいてくれて、何も言わずにぎゅうっと、小さい体で抱きしめてくれた。そして、眩しいぐらいにきらきら輝く笑顔を私に向けてくれる。ゆいちゃんは私のヒーローになってくれた。

 春休みに行った旅行先で、思い出にゆいちゃんと写真を撮ってもらおうと思った。

「はい、チーズ。」

 しかし、ゆいちゃんは下を向いたままで、カメラのほうを見ない。どうしたんだろうと思い、私はゆいちゃんをのぞき込んだ。すると、ゆいちゃんは必死に、右手で左の指をピースの形にしようとしていた。私をマネて、ピースをしようとしたが、左手はできなかったのだ。私はそのとき、なんだか胸がきゅうっと締めつけられた気がした。そして、

「ピースはね、こうやってやるんだよ。」

と私はゆいちゃんの左手に、ピースの形をつくってあげた。

 そんなゆいちゃんに対して、

「かわいそう。」

とか

「大変だね。」

 などと言う人がいる。でも、それは違うと私は思う。確かに、ゆいちゃんはみんなにとってのあたりまえが、あたりまえではない。症状を少しでも軽くするために、リハビリセンターに通っている。特別な靴を履いている。普通の六才の女の子とは違う部分がたくさんある。だけど、それがゆいちゃんの人生だ。ゆいちゃんにしか送れない人生だ。私にだって、人よりできないことや苦手なことはたくさんある。ゆいちゃんと同じように。でも、それが私。私の人生。だから、ゆいちゃんはちっともかわいそうなんかじゃない。

 ゆいちゃんは来年から小学生だ。まだ、自分の障がいのことをよく理解していない。きっと、これからたくさん悩むことがあると思う。そのときは、私がゆいちゃんのヒーローになってあげたい。あのとき、ゆいちゃんが私のヒーローになってくれたように。

 ああ、ピカピカのランドセルを背負った、ピカピカの小学一年のゆいちゃんを想像するだけで、胸がわくわくしてきた。