平成27年度「心の輪を広げる体験作文」作品集 中学生部門佳作

手を差しのべる勇気

鹿屋市立大姶良中学校一年 齋藤 利奈(鹿児島県)

 母と乗ったバスの中での出来事。バスの座席には、疲れた顔の学生や仕事帰りの人々。私たちは、バス前方へ移動し、つり革につかまっていた。

 しばらくバスにゆられていると、あるバス停で一人の女性が乗車してきた。ずい分乗るのに時間がかかっているなと思い、乗車口を見た。その人は、大きなリュックを背負い、手にはつえ。手さぐりで乗車してきた。「どうしてつえを持ってるのかな」と思い、良く見ると……。「この人は、目が不自由なんだ」と、私は、すぐに分かった。となりの母も気づいたらしい。二人で目を合わせた。「どうしよう。手伝うかな」そう思い迷っている内に、その人は私たちのすぐ近くまで来ていた。

手伝えばよかったと後悔した。みんなの視線の中、声をかけるのが恥ずかしかった。もしかしたら他の人が声をかけるかもなんて考えていた。私は、申し訳ない気持ちを持ちながら、その人がカーブやブレーキで倒れないよう近くに立つことにした。

 途中、一人の男子学生が席を譲ろうとした。しかしその人は、

「すぐ降りるからいいですよ。」

と言って断っていた。声をかけた男子学生、恥ずかしかっただろうけどえらいなと思った。

 バスの運転手さんは、目の不自由な方が乗っていることに気づいていないのか、カーブやブレーキの時、あまり気をつけていないようだった。信号が赤になった。バスがスピードを落とした。私の体がズズッと前方へ動いた。同時にその人の体も。私と母は、慌ててその人の腕をつかんだ。とっさの出来事、体勢が戻った時、その人が

「ありがとう。」

と、ほっとした様子で言われた。一度きっかけをつかむと、後は恥ずかしさなんてなくなった。

「大丈夫でしたか。」

と声をかけた。そのやりとりで運転手さんも目の不自由な方に気づいたのか、後はゆっくりと優しく運転をしてくれた。それが伝わってきて私の心は、ぽかぽかしていた。

 私と母が降りるバス停に着いた。なんとその人も降りるらしい。私は、その人に

「私もここで降ります。手を取ります。」

と言った。母は先に降り、その人の腕を、私は後ろから肩を支えた。その人がバスから降りるまで、階段を降りるまで。

 バスから離れ、二・三歩三人で一緒に歩いた。私は、安全にバスを降りることができてほっとしていた。

「どこまで行かれるのですか。」

と尋ねた。私たちは、家へ帰るだけだったので送ろうかと思ったのだ。その人の目的地はバス停の目の前だった。近くてよかった。私も安心して帰れる。私たちは、その女性とあいさつして別れた。私は歩きながら心が体があつかった。

 初めは声がかけられず助けてあげられず、もやもやしていた私の心。どうしてすぐに手を貸せなかったのか後悔していたバスの中。でも声をかけることができて、手助けができて、うれしかった。

 本や新聞などで、学校で自分より弱い人を助けることについて読んだり聞いたりする。頭の中では、よく分かっていることだ。しかし実際にそのような場面に合うと、実行にうつすのは難しいと思った。今回のような場面に出会うと、心の中で、いろいろな自分が戦っている。手助けしたいけれどなかなか動けない。そんな自分にいらいらする自分。何が正しい行動なのか考え判断していけたらと思う。そして、次は、自分から行動できたらと思う。

 相手が必要としている手助けが、自然にできる自分になりたい。