平成27年度「心の輪を広げる体験作文」作品集 中学生部門優秀賞

「十人十色」

福岡市立照葉中学校三年 山口 詩温(福岡市)

 「十人十色」という言葉を知っているだろうか。一人一人がそれぞれ違う個性を持っているという意味だ。僕はこの言葉こそ今、一番学ぶべき言葉ではないかと思う。

 そう思い始めたのは、一人の友達との出会いがきっかけだった。彼はいつも明るくて力強く、しかもいつも会うたびにあいさつしてくれる心優しい一つ年上の少年だ。そして彼は生まれつきの病気で車いすに乗っていた。

 僕が彼と出会ったのは小学二年の時だった。初めて彼を見た時、僕は正直「うわっ」と思った。当時僕は車いすを本の中でしか見たことがなかったので「本当に乗っている人がいるんだ。」とびっくりしてしまった。そして、ついかわいそうだとも思ってしまった。そんな僕の表情を察したのか、彼は自分から自分の足について語り始めた。そこで僕は彼の強さを知った。もし自分が彼の立場ならば、自分の障がいは自分の弱点だと思い、それを嫌うだろうと思った。しかし彼は自分の足についていきいきと話し出したのだった。

「僕の足はちょっと不自由だけど全く気にしていないよ。車いすは楽だし、足が使えなくても出来ることはたくさんあるんだ。」

彼はそう言い切った。僕は彼の言葉に心を大きく揺さぶられた。実は自分も障がいとよべるほどのものではないが、アレルギーを持っていた。当時は、人が食べられるものを自分が食べられないということが嫌で、自分は人と違うと思い、それを弱点だと感じていた。しかし、彼の、自分の持っている弱点と向き合う姿から「弱点なんかじゃない。むしろ、それも個性の一つなんだ。」と思った。当時はまだ小学二年生だった僕ではあったが、悩みを振りはらってくれた彼とその言葉との出会いは大きな衝撃だった。

 それから彼とのつきあいが始まったが事実、彼は本当に強かった。運動面では、車いすバスケットをして日々汗を流し、それ以外でもピアノを習うなど様々なことに挑戦し、個性にあふれてかっこよかった。そんな彼を僕は大好きだった。

 ある日のこと、僕は彼に会いに行こうと一学年上の教室に向かった。そして、その教室の近くで彼の同級生の言葉を偶然耳にした。

「ねえ、一組の○○(彼)って知ってる。」

「知っとうよ。車いすの子やろ。」

「そうそう車いす。あの子ちょっと話しづらいやん。」

「そうそう、分かる。ちょっと車いすってだけでも抵抗あるよね。」

 僕は何気なく話していた彼女たちのその会話にすごい怒りを覚えた。何でそこしか見ようとしないのか。彼にはもっと優れたところがたくさんあるのに、たくさん個性があるのに何でそっちに目を向けないんだ。と本気で怒った。その時、僕は彼と初めて会った日のことを思い出した。自分も初めて会った時「うわっ」と思ってしまったのだ。自分を彼女たちのどこが違うんだと思った。しかし、すぐに違うと思い直した。僕は彼のこともちゃんと知ろうとした。知ってその個性を認めようとした。個性を認めようとする努力もせず、遠くでこそこそ話す彼女らとは違うと自信を持って思うことができた。そして、それと同時に一人一人の個性を認めることの大切さを知るきっかけとなった彼に本当に感謝した。

 中学生になってすっかり彼とは疎遠になってしまったが、今の世の中の雰囲気を感じるたびに、彼との出会いを思い出す。今の世の中は人とちょっと違うところを「キモイ」のひと言ですませ、すぐに差別の対象とする。少し違うところも個性として見れるのにと思う。一人でも多くの人々が個性の良さに気付き始めたら差別やいじめは減っていくのではないだろうか。「十人十色」の真の意味をみんなが知り、それぞれの個性が輝き、互いが認め合えるようでありたいと僕は思う。