【高校生区分】 ◆佳作 坂本 波奈(さかもと はな)

祖母と私坂本 波奈(宮城県立西多賀支援学校3年 仙台市)

私の祖母は、大正生まれの九十四歳です。認知症があります。食べたことも自分がどこにいるのかもわからなくなるようですが、私のことはいつも「はなちゃん」と忘れずに言ってくれます。

私は生まれつき脳性麻痺の障がいがあり、支援学校の高等部に通っています。なんとか自由に使えるのは右手ぐらいでいつもは車椅子に乗っています。日常生活ではヘルパーさんや親に介助をしてもらいながらも楽しく生活を送っています。

私と祖母が同居し始めたのは六年前のことでした。祖父が亡くなってから祖母は一人暮らしとなり、翌年東日本大震災が起こりました。その頃から徐々に祖母の認知症も進み始めて心配事も多くなり、私の中学校入学と同時に横浜から仙台に引っ越し、祖母との同居生活が始まりました。その頃の祖母は認知症があってもまだ体力もあって、学校の話を聞いてくれたり、カルタやトランプをして遊んでくれました。

当時、私と祖母が交換日記のようなことをしていた時期がありました。
「いつもおばあちゃんが笑っている顔を見ていると明るくなります。その笑顔をこれからもたくさん私に見せてね。おばあちゃんの笑顔を見ると、私も自然に笑顔になるよ。これからも私と一緒にいっぱい遊んでね!よろしくね! 波奈より」
「はなちゃんへ おばあちゃんも同じですよ。はなちゃんがそばにいるだけでもうれしい。おしゃべりするともっと、もっとよ!明日は何をしようかな?おしゃべり、おえかき??楽しみに」
「おばあちゃんへ 私から見ておばあちゃんの印象はとても明るい人です。たまに一緒に遊んでくれてありがとう。おばあちゃんから見て私の印象はどうですか?あとで私に教えてね。波奈より」
「はなちゃんへ ありがとうー。うれしい!おじいちゃんがいないのだけが残念。写真が喜んでいますよ」

その後にはこのようなことも書かれていました。
「おじいちゃんが居るだけで安心。そして毎日楽しく過ごせます」

祖母の心の中にはずっとおじいちゃんがいるのでしょう。その頃の私は、きっと写真の優しそうな顔をしたおじいちゃんが祖母に声をかけていたのかなと思っていました。

若いころの祖母は行動的な人だったそうです。ゴルフをやったり絵を描いたり、裁縫や料理も得意で、華道の先生やPTA役員などもやっていたと母から聞きました。その中でも今も続いていることが絵を描くことです。私はその祖母しか知りません。おじいちゃんが亡くなってからは大きなキャンバスに描くことをやめ、身の回りをスケッチするようになりました。私が勉強している姿と祖父の写真を毎日何枚も何枚も楽しそうに描いています。集中力が途切れず、好きなことをずっと続けている祖母を尊敬しています。たまにご飯を食べるのをやめて描いている時もあり母に怒られます。私は手も不自由なので絵を上手に描くことができません。いつも祖母の絵を羨ましく見ていました。
「おばあちゃんへ 私はおばあちゃんの描いた絵ってとても才能がある絵ですごいと思います。どうやったらおばあちゃんみたいに上手な絵が私も描けるの?コツを今度私に教えてね!波奈より」
「はなちゃんへ 絵が描ければいいの。いいきもちが絵にあらわれますよ」

祖母と私の関係は、認知症のある祖母と障がいを持つ私ではありません。普通の孫とおばあちゃんなのです。一般的に認知症はいろいろなことが出来なくなると思われていますが、私にとっての祖母はまだまだ何でも器用にできる人なのです。例えばいつも洗濯物をたたんでくれます。しわを伸ばしながら丁寧にたたんでくれるので、家族は気持ちよく服を着たり、タオルを使ったりすることができます。

祖母も私が勉強している姿を見て、スケッチブックの片隅に「ガンバレ!波奈を見習って自学自習」と書いています。それを見ると少しは私も祖母の役に立っているのかなと思います。

私は「障がいがあっても頑張っている」と言われるよりも、祖母のメッセージのように前書きのない純粋なエールが一番嬉しいです。

祖母はこの夏、心筋梗塞という病気をして入院しました。コロナの流行のため病院の面会も出来ないので様子もしばらくわからず、正直、もうだめかもしれないと思っていました。しかし徐々に回復し、今は前のように家で絵を描き続けています。誰もがすごい生命力だと驚いています。そしてまた毎日の日課であった足踏み五十回が始まりました。私はその音で今日は元気か元気でないかがわかります。少しずつ力強い音に戻っています。

今の祖母は自分から話をすることはあまりありません。しかし、いつものメモ書きには「夕食ありがとう。オイシイ!」と書いてあります。そして寝る前には必ず「先に寝て悪いね。ごめんなさいね」と言います。私は、いつも周りに気を遣い、当たり前のことにも感謝を忘れない祖母をお手本に見習っていきたいと思っています。