【高校生区分】 ◆佳作 山口 杏音(やまぐち りおん)

先入観にとらわれず山口 杏音(佐賀県立牛津高等学校3年 佐賀県)

私は高校二年生のとき、佐賀県高等学校教育研究会が主催する、海外研修に参加した。その研修の内容は、研修先である台湾の福祉について学ぶことだった。研修で、高齢者施設や幼稚園などの見学をしたのだが、最も印象に残っていることは、障害者施設の見学だ。そこでは主に、知的障害を持つ方が入所されていた。私は、障害者の方と接することがほとんど無く、施設の入所者とどのように接すれば良いのかわからなかったため、とても不安だった。

施設に着き、中へ入った時に、セキュリティがしっかりしており、きれいに清掃されているのだなと思い、施設の内装を見ていたのだが、一人の入所者と目が合った。その方はこちらをじっと見つめていて、私は「何だろう、怖い」と思った。その時の印象が強く残ってしまい、施設内の見学では入所者の方と目を合わせたくないと思ってしまった。入所者の方が施設の方に話しかけることでさえも怖く感じてしまっていた。しかし、施設内見学の後の、施設長の講話で、私の怖いという思いは無くなった。

施設長は、施設の歴史から話し始めた。元々、障害者施設ではなく、孤児院として運営されていたそうだ。その中で障害児の割合が増えていき、障害児施設に切り変わり、やがて今のような施設になったのだと話してくれた。施設長の話の中で最も印象に残り、私の今までの考えを改めるきっかけとなった話がある。それは、障害者の方たちが今までにどんな人生を送ってきたのかの話だ。台湾では障害者に対する理解がされるようになったのは最近のことで、それまで障害を持つ人や家族は、差別を受けてきていた。本人を守るために施設に入所させる家族がほとんどだったが、中には、自分たちが差別を受けないようにするために入所させていた家族もいたそうだ。その話を聞いて私は、ひどい事だと思ったが、自分自身も同じような事をしていたのではないかと思った。一瞬の出来事だけで、入所者全員のことを怖いと思い込み、先入観にとらわれてしまっていたことに気づいた。過去にも、このような理由で差別をしてしまっていた人がいるのではないかと考えた。周りの環境や風潮に流され、本人自身を見ずに施設へ入所させてしまった家族がいるかもしれない。今は世間が障害への理解をし始め、差別は少なくなってきているが、完全に無くなったわけではない。それは、台湾だけではなく、日本でも同じだと思う。私は、この施設見学で、障害者への理解を深めなければならない事と、無意識に人を差別しているかもしれないという事を学んだ。

施設から出る時、入所者の方と職員の方が見送ってくれた。その時に、最初にこちらを見ていた入所者の方とまた目が合った。今度は怖いと思わず、その方に、「謝謝」と伝えた。すると、表情がふと柔らかくなった。私は少し驚いたが、その方に自分の言葉が伝わった事を嬉しく思った。そして同時に、この方も、私たちが怖かったのだろうと気づいた。見ず知らずの外国人が、自分の家同然のこの施設を見て回っているのだから、不安になることもわかる。自分のことにしか目がいかず、周りの人への気遣いができていなかったことを反省した。

私は、看護師を目指している。常に周りを見て行動することはとても大切なことだ。そして、どんな患者さんとでも対等に接しなければならない。台湾の研修では、これらができていなかった。なので、これからは常に周りを見て行動し、誰とでも対等に話すことを心がけて生活しようと思った。そして、障害者施設で学んだ、先入観にとらわれないということを周囲に働きかけていこうと思う。自分が実際に体験した、あの施設でのことをきっかけに考えが変わったのだと話をし、障害者に対する差別や偏見を無くしていきたい。一人ひとりの認識が変われば、必ず差別は無くなる。簡単なことではないが、自分のできることをしていこうと思う。一日でも早く、障害がある、ないに関わらず、みんなが笑顔で過ごせるようになってほしいと願う。