【中学生区分】 ◆優秀賞 清塘 麻央(きよとも まお)

心の成長清塘 麻央(熊本市立出水中学校2年 熊本市)

私には、知的障害のある兄がいる。兄は、とてもこだわりが強く、思い通りにいかないと大声を出して怒るため、家族はふり回されている。また、話すことができないため意思がよみとりにくい。夜は家中の電気を消して回るし、人の食べ物でも平気で奪い取る。そんな兄の行動に小学生になった頃の私は、強い違和感を感じ、次第に嫌悪感を覚えるようになった。そして、兄の存在をはずかしいと思い、兄とは関わらないようになんとなく避けていた。

私と兄は六歳差で、兄が中学生になる年に私は小学校に入学した。入学してすぐに兄の一学年下の六年生たちから、
「M君の妹でしょう?いいなあ。」
などと声をかけられた。また、兄の担任だった先生は、会うたびに、
「M君元気?」
と声をかけてくれた。私はてっきり、兄は小学校でも嫌がられる存在だったのだろうと思っていたが、とてもかわいがられて人気者だったことを知って驚いた。なぜだろうと考えても当時は全く分からなかった。

私が通った小学校は、隣接する熊本支援学校と創立以来四十年交流を続けている。四年生のときは毎週昼休みに支援学校を訪問し、障害のある子どもたちと遊具で遊んだり、ゲームをしたりして過ごした。支援学校には兄のような知的障害の子や、手足が不自由な子など様々な障害をもつ子がいるので、初めはどう接すればいいのか分からず戸惑っていたが、遊びを通して相手の性格を知ったり、不自由な体で懸命に頑張る姿を見たりするにつれ、交流が楽しみになり、心が通い合うようになった。障害のある子のお世話をする気持ちだったのが、普通の友達に会いに行く気持ちへと変化した。この交流を通して、相手を深く知ることで、障害者に対する違和感がなくなり、相手の健常者と違うところを見るのではなく、違いを受け止め、良い所をたくさん見つけられるようになった。私が一年生だったときの六年生がみんな兄のことを好きでいてくれたのは、支援学校での交流を通して障害者への偏見や差別の意識がなくなっていて、兄の良い面を知ってくれたからかもしれないと思う。そして、兄に偏見をもち、その存在をはずかしいと思っていた自分がはずかしくなった。

兄には、素直で優しいところや一つのことに集中できるなどの良いところがある。相変わらず嫌なこと、大変なことも多いが、兄は障害者になりたくてなったわけではないし、不自由を抱えながら懸命に生きているので、すごいと思う。最近は機嫌がいいときを見計らってこちょこちょをして笑わせたり、簡単なダンスを教えたりして遊べるようになった。兄も嬉しそうに笑ってくれるので、私も嬉しくなる。しゃべれなくても心を通わせることはできる。兄が困っているときは手助けをして、自分で壁を乗り越えようとしているときには、逆にあまり手を貸さず、本人が充実した生活を送れるようにほどよく介助することが自分の役目だと思えるようになった。

兄との生活や支援学校での交流を通して、私は障害者に対する見方を変えることができ、少し心が成長できたのではないかと思う。兄のような障害者が生きやすい社会を実現するためには、健常者と障害者が交流する機会を増やし、お互いを知り、違いを認めることが最も大切なことだと思うが、たとえそのような機会がなかったとしても、全ての人が障害の有無に関係なく、自分とは違う相手のありのままを尊重していくことで、心を成長させられるはずだ。そして、その「心の成長」こそが全ての人が生きやすい、偏見や差別のない社会の実現につながっていくと私は信じている。