【中学生区分】 ◆優秀賞 志田 識乃(しだ しきの)
心を守る、皆で支える志田 識乃(相模原市立大沢中学校1年 相模原市)
曾祖母の名前は、「すみちゃん」。赤ちゃんのような満面の笑みをする、とても可愛い人です。ただ、認知症だから、すみちゃんの娘である祖母のことも、孫である母のことも、わかっていないことが大半です。説明してもすぐに忘れてしまいます。出かける時は、興味を持った方向へふらっと行ってしまうので、手をつながないといけません。でも、手をつなぐと、すみちゃんは嬉しそうです。
すみちゃんは、私がまだ幼い頃、農作業を頑張っていました。ひざをさすってはいましたが、記憶も体も元気でした。少しずつ部屋の片付けが苦手になり、少しずつ思い出せない事が増えてしまいましたが、以前は、とてもしっかりしていたのです。
障害にも色々あります。生まれつきのもの、事故で急になってしまったもの、病気で徐々に症状が強くなってしまうもの……。御本人にとっては、どれも受け入れ難いでしょう。すみちゃんが、いったいどんな気持ちで毎日を過ごしてきたのか、年に数回会うだけの私には、想像しか出来ません。
すみちゃんは、何回も同じ事を質問します。特に多いのは、
「おみゃあ、誰だ。」
正直、悲しい気持ちが生まれます。しかし、これはすみちゃんの責任ではありません。すみちゃんの周りにいる人たちは、何回でも、同じ内容を笑顔で答えます。
「そうかえ、そうかえ。」
と、すみちゃんは笑います。すみちゃんは、手の力が弱い時があるので、お茶をこぼしてしまいます。けれど、誰も怒りません。皆ですみちゃんの心を守っているようです。優しい気持ちで接し続けるのは、凄いと思います。
祖母の兄夫婦と暮らしながら、週二回デイサービスに通うすみちゃん。祖母の兄夫婦は会社経営をしている為、まだ仕事があり、毎日忙しくしています。近くで暮らす、祖母の姉、弟、祖母、それぞれの家族が、すみちゃんの暮らしに関わっています。皆、とても仲良しです。それでも、自分のやりたいこと、やらなければいけないことがある中で、皆ですみちゃんを気にかけている――。本当に素敵なつながりで、これって愛なのかなと、感じます。
去年の夏、すみちゃん、祖父母、母と私の五人で、農業祭に行きました。すみちゃんと手をつないで、ゆっくり歩く駐車場までの百メートル程の道のりが、いつもと違う景色に見えました。
「段差あるから、気をつけてね。」
「信号だから、止まろう。」
声をかける度に、すみちゃんは、笑顔で私を見ました。
今年の春夏は、コロナウイルスの影響を考えて、他県で暮らす私と母は、すみちゃんに会いには行けませんでした。会えても、私を覚えてはいないだろうけど、手紙を書いても何のことかわからないかもしれないけれど、せめてもの思いで絵手紙とお菓子を送りました。描いたのは、すみちゃんと家族の笑顔。選んだお菓子は、すみちゃんの大好きな最中。一瞬でも、すみちゃんの笑顔の時間が増えますように。すみちゃんと暮らす家族に、感謝の気持ちが伝わりますように。
「うみゃあ、うみゃあ。」
最中を頬張るすみちゃんの姿を思い浮かべると、私も笑顔になっていました。
すみちゃんや家族を見ていると、福祉とは特別な事柄ではなく、日常にある心の優しさなのではないかと思います。誰かの優しさを感じた人が、他の人に優しくし、その優しくされた人も別の人に優しくする。もしくは優しく仕返す。そんな風に、優しさに満ちていったら、私たちの暮らしはもっと心豊かになるでしょう。