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第10回障がい者制度改革推進会議 差別禁止部会(2011年11月11日)
議事要録
【議事 司法手続の分野における差別禁止について】
- (東室長)第9回障がい者制度改革推進会議(平成22年4月26日開催)で法務省からヒアリングをした。捜査段階における配慮については逮捕状の提示、弁護人選任権や黙秘権の告知、取り調べ等の各場面において障害の内容や程度等に応じて適切な配慮が行われている。公判中における配慮に関しては、聴覚障害者の手話通訳等による陳述、知的障害者への分かり易い発問や理解の確認等をしている。証人が出廷する場合は支援員が付き添う他、証人尋問の際に被告人と証人の間で一方からまたは相互に相手を確認できないような措置等を講じている。また、裁判員裁判では裁判員の状況に応じて視覚障害者のために点字資料を提供する、聴覚障害者のために供述調書をモニター画面に映す等の配慮がなされている。なお裁判の傍聴における配慮について、障害者基本法29条は司法手続きの当事者が対象なので傍聴者への配慮は含まれないが、庁舎内の移動に際して職員が介助するなどの配慮が行われているという事だ。ヒアリング後の動きとして、本年3月にとりまとめられた「検察の在り方検討会議」の提言を受けて、法務大臣は、検察当局において知的障害のためコミュニケーションに困難を抱える被疑者等の取り調べの録音・録画を3か月以内を目処に試行し1年後を目処に多角的な検証を実施すること、最高検察庁において先端の専門的知識を組織的に集積・活用するため3か月以内を目処に分野別の専門委員会を設置することを指示し、これを受けた取組が進められている。また、法務省の法制審議会では取調べの可視化等新たな刑事、司法制度を構築するための審議が行われている。更に、最高検察庁は地方検察庁に対し、障害者等の特性についての検察官の知見を涵養するため精神医療関係者や福祉団体、関係者等との意見交換や講義等の機会を設けるよう指示をしたとのことだ。
- (発言)推進会議でのヒアリングで、法務省から事実とかけ離れたことが報告され、驚いた。法務省の認識と弁護士として感じていることとの落差を理解して頂くために、資料を提出した。捜査段階、取り調べ過程では、知的障害、発達障害のある人に対して障害特性が理解されていないために不利益取扱いがなされ、冤罪又は不当な逮捕につながる事例がある。また、合理的配慮がないために司法にアクセスできない例として通訳の問題がある。民事訴訟法154条は、口頭弁論に関与する者が耳が聞こえない者もしくは口がきけない者であるときは通訳人を立ち合わせることとしているが、筆談でもよいとあるため通訳が保障されない。また、刑事訴訟法175条、176条では外国人が陳述する場合は通訳を付けることは義務となっているが、耳の聞こえない者又は口のきけない者の場合は「通訳人に通訳をさせることができる」と裁量規定になっており、両者の扱いに差がある。拘置所又は刑務所での接見、面会の時、暗号の使用等で職員が理解できない表現方法をした場合、面会を中止させることができることになっており、手話が暗号の扱いを受けて禁止されることがある。また、多くの刑事施設や刑務所で暗号に通じる手話は使えないとして、筆談を強制される。精神障害や知的障害のある人は刑事訴訟法28条により、心神喪失ではないとされた場合、法定代理人を付けることができるとされているが、刑法の手続でこれが利用されたことはほとんどない。訴訟能力がないとされた場合は同法314条により公判の執行停止となることがある。刑事訴訟法480条~482条で医療の保障に関することが規定されているが、刑事施設では医療が保障されておらず、刑務所にいる難病患者等は厳しい条件に悩んでいる。
- (発言)刑事施設等で手話が暗号とされていることに怒りを感じる。手話は暗号ではなく日本語だ。即刻改善される必要がある。知的障害をもつ被疑者に対し警察や司法が描いたストーリーを押し付けるやり方は差別の象徴と言える。難病の人たちについては刑の執行を止めるのではなく、刑事施設内で適切な処遇を受けられる合理的配慮が必要だ。逮捕から23日間以内に起訴しなければならないが、起訴前鑑定となると23日を超えても拘留できるという問題の解決が必要だ。
- (棟居部会長)法律の規定とかけ離れた実態があるという意見だった。規範が悪いのであればそれを直していく必要があるが、規範は整っており現実がずれている場合は規範についての議論は現実にどれだけのインパクトを与えられるだろうか。
- (発言)法が差別的である例として、外国人が陳述する場合に通訳を付けるのが義務であるのに対し手話を付けるのが裁量規定になっているという格差を指摘した。法に規定がない例としては、逮捕状の提示や黙秘権の告示について知的障害のある被疑者に適切な配慮をすること等が規定されていないことが挙げられる。加えて、後者の手続きについて法務省は裁判所の判断にゆだねられる事実認定の問題だと説明するが、現場で適切な手続きが保障されなければ不利益を被ってしまう。以上のことから、差別禁止法に合理的配慮の必要性や不利益取扱いの禁止を規定し、更に刑事訴訟法等でも手続規定を設ける、あるいは法律上の格差をなくすといった改正が必要だ。
- (棟居部会長)法律の内容の問題だとの指摘だが、法務省は事実認定の問題だと主張し議論がかみ合わない。議論の接点ができないものか。
- (発言)裁判の準備書面や訴訟資料等が点字で視覚障害者に提供されないのは差別だという申立がある。この背景には介護保険の支給量に関する訴訟で、全盲の原告が点字の訴状を裁判所に提出し、裁判所がこれを受理したという例がある。裁判所は活字文字に置き換えて被告である自治体に送付し、被告に点字で答弁書を提出するよう指導した。人権侵害と言えるのかというのが悩ましいが、合理的配慮としてどこまで問われるのかという事例だ。
- (発言)今後の議論では、個別分野で起きている差別の具体的事実と併せて、関連する法律の検証とそれへの対応も重要だ。
- (棟居部会長)今の意見は、法律の中の間接差別的なもの、つまり一見中立的だけれども、障害者には差別的に機能するという問題点を指摘することで、間接差別禁止を規範として掲げる意味を確認する必要があるということか。
- (発言)その通り。加えて、障害者基本法では手話は言語だと明確にされており、これを受けて関連法の見直しが求められる。障害者基本法の規定が、各個別法に反映される必要がある。
- (発言)現行法の見直しは必要だが、現行法には合理的配慮が明記されていないので、差別禁止法に書く必要がある。その際、過重な負担については司法手続のルールの本質を根本的に変える合理的配慮は過重な負担と言えるが、金銭コストは含まれないのではないか。また、合理的配慮という事後的、個別的な差別禁止規定だけではなく、教育啓発訓練等の事前的、予測的な措置を差別禁止法に入れておくべきではないか。
- (発言)知的障害を伴わない発達障害者が「人を殺す経験をしたかった」等の発言をして、これが報道されると、社会的にバッシングされて厳罰化に追いやられる。専門家によるとこうした心理は誰にもあるが、通常は言葉にすると他者からどう見られるか分かるから言わない。それに対して発達障害者は、コミュニケーションの土台である共通認識や体験に基づく暗黙の了解事項が理解できないという特性があるので、上記のような発言をする。精神鑑定で被疑者に発達障害があるとされる事件は毎年何件か起きている。捜査や裁判、少年審判の段階で言葉や態度に反省がないというレッテルを貼られ、猟奇的だというイメージで厳罰化に追いやられている。また、少年院や刑務所では彼らの特性に合わせた環境や矯正プログラムがないため、よりひどい状況で社会に戻り、同じことを繰り返す負の連鎖に陥っている。イギリスでは発達障害者が逮捕されると通訳者がつき、彼らの言葉を警察官に伝え、警察官の話を彼らに伝える。また、刑務所にいる人が例えばアスペルガー症候群だと分かると病院に移して矯正プログラムを行い、地域に出してアフターフォローをしている。日本では警察官向けの障害についての研修は行われているが、制度になっていないので継続しない。ニューヨーク州では警察官、検察官、裁判官向けに発達障害についての研修が制度化されており、日本でも障害の特性を理解するための事前研修プログラムを制度化してほしい。発達障害者のコミュニケーションを支援する通訳者の制度化も必要だ。
- (発言)今日の資料で「日常生活」「労働」「教育」等各項目が示されているが、今後この項目に沿って分野毎の議論をするのか。また、今日の司法手続きについての議論では現行法の問題点が多く指摘されているが、各分野について問題点をあぶりだした上で差別禁止規定をどのように検討するのか、今後の進め方を示してほしい。
- (東室長)議論すべき各論の分野については後で議論したい。総論はまだ詰め切れていないが大きな方向は示された。各論については総論のように時間が取れないので、委員から出されている法律として具体化する場合を想定した資料等を参考に議論して頂きたい。今年の夏を予定している骨格提言の取りまとめの過程で、詰めるべき点を詰めていきたい。
- (発言)捜査段階は捜査密行の原則があり、民主的コントロールが難しい。裁判の段階では裁判所は独立性があるため、必要な配慮等についての意見を最高裁といえども他の裁判所に言えない。点字の資料化については民事の場合、原告や被告に視覚障害があることをどの時点で誰が判断するのかが難しい。今のシステムでは、裁判所は当事者に点字を用意するよう言うしかなく、裁判所が点字化することにはならない。発達障害についての研修を裁判官、警察官、弁護士にする必要があることは誰も否定しないが、発達障害者への対応や支援の在り方は難しく、差別禁止法で解決できるのか議論が必要だ。
- (発言)司法における合理的配慮が必要だと言っても、その具体的な中身を誰がどこで責任をもって決めるのか。合理的配慮を実現するための調整機関を差別禁止法に設ける必要がある。それは各分野ごとにバラバラに設けるのではなく、横断的な調整機関とするべきではないか。この点について、いつ、どこで論点とするのかという、議論の進め方も検討して欲しい。
- (棟居部会長)提出資料「障害を理由とする差別を禁止する法律」(日弁連法案概要)について説明頂きたい。
- (発言)今回のテーマに沿って「参政権」と「司法」を抜粋して提出した。差別禁止を規範性のあるものにするため、どの分野でも第1項で権利の内容を明らかにした。次に第2項で合理的配慮を、第3項で差別の定義を規定した。「司法」の裁判を受ける権利は、あらゆる場面で障害を理由として差別を受けることなく適正な手続が保障されることを原則としている。続く合理的配慮は個別具体的に広く想定した。「司法」では更に、裁判の傍聴を障害がある人も一般市民同様にできるようにすること、人的設備充実義務として障害についての専門性の教育等も規定した。裁判を受ける権利は憲法で保障されているが、障害があるが故にアクセスできないことがあるため、権利として明確化すべきだ。合理的配慮については細かく規定すべきなのかどうか検討すべきだが、差別禁止法を条文化する際にこれを参考にして頂きたい。
- (発言)EUの流れは障害のある方の司法へのアクセスを高める方向性にあり、このなかで司法に携わる者への訓練は強調されている。差別されない実効性を高めるには、司法に携わる者が障害特性を含む障害への理解を深める必要があるという考えに基づく。合理的配慮の過重な負担に関わり、特定の司法に関わる項目については無料で受けることができると規定している国々もある。調整過程について意見があったが、重要なので調べたい。
- (発言)司法の分野では逮捕されると隔絶された環境に置かれ外からの支援が届かないので、サポートが難しい。合理的配慮がなされるようにしなければ、実態が骨抜きになる危険性がある。アメリカでは行政庁内部にADAコーディネーターが配置され、調整や職員の指導援助をする。差別禁止法をつくるだけではなく、運用の方法を構築しないと実効効果が上がらない。
【議事 選挙等の分野における差別禁止について】
- (東室長)昨年、総務省に「障害者に係る投票環境向上に関する検討会」が設けられ、検討の結果、これまで手話通訳が付与されていなかった知事選挙の政見放送につき、今年4月の統一地方選挙を皮切りに、今年度実施された16都道県の知事選挙全てで手話通訳が導入された。政見放送における手話通訳、字幕の付与の状況について、衆議院小選挙区は共に持込ビデオに挿入可で、衆議院比例代表は手話通訳が平成21年選挙から導入だが字幕は取組まれていない。参議院選挙区は共に対応されていない。都道府県知事は手話が平成23年3月から導入されているが、字幕は取組まれていない。参議院比例代表は手話が平成7年選挙から導入で、字幕は次回通常選挙から実施となっている。字幕の付与については放送事業者の体制や技術的な問題があるため、次回参議院比例代表選挙での実施状況等を踏まえ、それ以外の選挙について検討することになっている。選挙情報の提供については、平成19年に比べ平成23年は点字及び音声による選挙のお知らせ版を発行する都道府県が増えたが、都道府県議会議員選挙や市町村議会議員選挙等では選挙公報を発行しないところもある。選挙公報を発行する場合は国政選挙等に準じて対応するのが望ましい。物理的な環境については、投票所のバリアフリーの状況を障害者、高齢者の視点で点検し必要な措置を講ずることになっている。また、中山間地域の障害者等投票所への移動が困難な人の投票機会のため、巡回バスの運行等につき配慮するよう全国の選挙管理委員会に要請している。推進会議では成年被後見人が選挙権及び被選挙権を有しない事について議論があったが、これに関する訴訟が全国で4件提起されているため、その動向を注視している。内閣府委託調査である「障害者に対する障害を理由とする差別事例等の調査」で選挙について配慮や工夫して欲しいことが5点挙げられている。<1>テレビの政見放送に手話や字幕を入れること。<2>政見放送の内容をわかりやすくすること。<3>必要な点字投票用紙や点字器を用意すること。<4>成年被後見人となっても選挙権を認めること。<5>投票用紙の記入台を明るくすること。低い記入台を設置すること。
- (発言)この分野は「選挙」ではなく「政治参加」という枠組みで捉えたい。公民権を発動する重要な権利が選挙だが、障害者が政治家になった場合や議会の構造的アクセスの問題等も含め検討していただきたい。ある市議会で言語障害がある議員に通訳を付けることを認めないということが起きたが、このように他の議員との平等な活動を奪われるという実態がある。成年後見制度を受けた場合、選挙権がはく奪されるのは大きな問題だ。施設で暮らしている障害者が実質的に選挙権を行使できない実態もある。そのような実態に着目し、すべての障害者が選挙権を行使できるようにしていただきたい。政見放送における字幕はすぐにでも実行できるため行っていただきたい。
- (発言)選挙権だけではなく、被選挙権も強調されても良い。政策決定のあらゆる側面に障害者が参加する権利について幅広く盛り込んだ方が良い。選挙に立候補する権利、国や地方自治体の公的な活動に参加する権利等が重要だ。障害のある人はどこにでもいるのだから、障害者の意見をあらゆる政策に反映させることが重要だ。
- (発言)精神障害者は約30万人が入院しており、その中に投票の機会を奪われている人は相当数いると推測する。任意入院の場合は外出も本来は自由なので投票所に行けるはずだが、約45%の人が閉鎖病棟で処遇されており、疑問が残る。医療保護入院の場合は自由に投票所に行けない。施設で暮らす障害者の選挙権の問題同様、入院している精神障害者の選挙権についても論点として考える必要がある。
- (発言)入院、入所中の障害者の選挙権の行使の問題は、選挙管理委員会が施設等に出張して入院、入所者に投票してもらう制度を拡大すれば解決する。精神病院に出向かないのは人権侵害が常態化していることになる。声帯を摘出した市会議員に本人の選択する方法での議会における発言を認めないのは、議員の自由な政治活動を奪うことになる。このような実態を解決しなければ、障害者にとっては憲法が保障する国民主権を無視されていることになる。
- (発言)知的障害の人が投票に行くと追い返されてしまうことがある。誤解されていることが多い。政見放送の分かり易さも課題だが、選挙葉書は知的障害の人には理解できない。漢字ばかりで細かい字で書かれていることがバリアである事を知って欲しい。字を書けない人の代筆投票の制度は上手く使われていない。投票用紙に顔写真があり丸を付けるような分かり易さも必要だ。発達障害の人には視覚的な分かり易さが効果的であることは実証されている。
- (発言)選挙の代筆を頼むと、確認の際に後ろの立会人に見える可能性があり、いつも議論になる。選挙管理委員会には投票の秘密という意識をもっていただきたい。
- (発言)代筆投票の際、代筆する人とは別にもう一人の立会人が内容を確認することになっている。秘密投票の問題ではなく、制度上、確認が必要になっている。
- (発言)そういう意味ではない。書く人が1人と立会人がいる。その後ろに、選挙全体の立会人がいる。その選挙全体の立会人に見えてしまうという事だ。
- (発言)発声障害のある議員への代読発言拒否事件の示唆は、合理的配慮における当事者の自己決定という論点だ。合理的配慮は必ずしも障害のある方にとって望ましいものではない場合があるが、過重な負担を伴わない限り、つまり議会であれば議会の内部規律の本質を害さない限り、あるいは危険な方法でない限りは、当事者の希望に沿ったものでなければ嫌がらせやハラスメントになりかねない。この問題は参政権等の論点に限らず、合理的配慮として当事者の自己決定を規定するという論点にもなる。続いて、提出資料「第10回部会時点での私見と私案」を説明する。第1章で、総則として障害者、障害の定義、合理的配慮の定義、不均衡待遇とは何かを書いた。第2章以下は各則で、労働、公的制度、教育、物品・サービス等の後に、救済手続という流れになる。各則の議論で得られた具体的な理解を踏まえ、総則の定義を見直しながら議論を進めることが必要だ。次に、積極的措置という考え方について、イギリスでは合理的配慮を合理的調整と言っているが、事前的に障害者がサービスを使うことを予測して行う合理的調整と、事後的に配慮をする合理的調整に分かれる。日本でもこの考え方を入れる必要があると。また、労働、教育、物品・サービス等、各則の分野は相互に重なる規定が出てくるため、どちらを優先させるのか調整のための規定を設ける必要があるだろう。各則では、まず誰がそのような差別をしてはいけないかという差別禁止条項を明確にしなければならない。次に合理的配慮の内容をある程度具体的に書く。そして過重な負担の内容を書く。最後に、積極的措置を事業主に課すという組立てになるのではないか。先程の秘密投票の実質確保については、個別的な救済になじまないので積極的措置に入る。
- (発言)選挙権、被選挙権の行使について差別がある。国民誰もが選挙権、被選挙権を行使できることは基本理念で、いかなる障害があってもこの権利を確保することが原点になる。障害のある人だけではなく高齢者や過疎地域で移動ができない方々の場合、多くは投票する権利を失っている。アメリカでは投票を可能にする機械が開発されており、自宅でも投票できる。成年後見制度を利用すると選挙権が無くなるのというのもおかしいことだ。
- (発言)ヨーロッパではこの分野を「選挙」と限定するのではなく、「政治及び公的活動への参加」と幅広くとらえ、これを障害のある人にも促進する方向だ。差別禁止の範囲は選挙権に限らず、非選挙権や政策決定への参加等も含まれている。合理的配慮と自己決定という論点や、選挙権に関する合理的配慮や過重な負担をどうとらえるかという論点等も議論されている。部会でこれまで議論されていない論点としては、複合的な差別、例えば障害のある女性に関わる問題がある。政治参加に関する複合的な差別に関して、障害のある男女の差について対策が必要だという議論等がヨーロッパではある。選挙等に携わる人たちへの訓練も課題であり、その取組が進められている。成年後見についてはヨーロッパでも議論があり、欧州人権裁判所が昨年、成年被後見人であるというだけの理由で選挙権がなくなるのは問題だとの判決を出している。
- (発言)選挙に関わる法律の中に、障害者への必要な配慮を拒否する、あるいは間接的な差別になるような項目があるのかどうか検証する必要がある。
- (発言)政策決定プロセスに障害者の実質的な参画をいかに確保するかが大事だ。例えば、パブリックコメント制度は障害のある方々にとってアクセスしづらいのかどうなのかについて、総合的に見なおす必要があるのではないか。公聴会についても、障害種別に応じた情報保障がその都度確保されているかという問題がある。これらを差別禁止法の中に書くのか、または現行の制度やガイドラインを実質的に変えるのか、検討が必要だ。差別禁止法に禁止規定を書くことが重要だが、加えて障害者がモニタリングのための監視機関に参画することが必要だ。この監視機関に政策提言機能を与え、問題点をあぶり出し、内閣、国会、地方議会に提言できるシステムをつくる必要がある。
- (発言)資料3「障がい者に係る投票環境向上に関する検討会報告書」、選挙公報の点字版を「選挙のお知らせ」と書いてあるが、これは選挙公報そのものではないという意味だ。「総務省は・・・各都道府県選管に要請する」とあるのは、選挙公報が視覚障害者に保障されていない中で、選挙公報の一部だけを点字化する都道府県や、点字版を選管としては配付していない都道府県があるので、このような要請をしているという背景に注意して欲しい。政治参加や投票の権利を保障するためには選挙公報が重要だ。発達障害者や知的障害者も含め、すべての選挙人に理解できる工夫を選管がしないのなら、団体が選挙公報を書き直すことを認めるべきだ。
【差別禁止部会における今後の議題(案)】
- (東室長)「差別禁止部会における今後の議題(案)」を示している。日常生活として商品、役務、医療、不動産を一つの枠に入れた。労働、教育、公共的施設、交通施設の利用、情報、選挙等、司法手続をあげている。選挙等については、「政治参加」とするべきだという議論もあった。こういう分野で良いのか、違う切り口があるのではないかという意見を頂きたい。公共サービスとして選挙等、司法手続、公共的施設、交通施設の一部、教育を含むというまとめ方も考えられる。千葉県条例を作った時のアンケートを見ると、障害福祉サービスだけでなく保育所等を含む福祉サービスの分野に多くの事例が集まった。また、市町村が行う健康診断や成人式等の催し、各種の講座等に参加できず、障害者だけを集めて行うこともある。このような事例が上記の分野で網羅でるのか等、議論していただきたい。
- (発言)車いすの障害者が居酒屋に行き、店主が拒否をした場合は、どの項目に入るのか。
- (東室長)「商品、役務」に入る。
- (発言)役務とは何なのか。
- (東室長)居酒屋では酒を買うだけではなく、酒を飲み楽しむ場やサービスを提供される。これらを「役務」という。「商品」は物を買うが、「役務」はサービスを買うことになる。
- (発言)子どもに関することでは、教育以外にも保育所や学童保育という分野がある。日常生活の中の医療は、病院で治療を受けることを想定していると思うが、医療的ケアを必要とするために一般の福祉サービスや特別支援学校等で排除されている実態があるので、医療的ケアを検討分野に入れる必要がある。公共施設や交通機関については、ノンステップバスや車いす用スペースがあるにもかかわらず利用拒否があり、このように直接差別と考えられる事例の検討も必要だ。介助の支給時間や利用範囲が不十分であるために生活に制約を受ける等、福祉サービスにおける権利性の担保という課題もある。
- (東室長)保育の問題は幼稚園も含め、どの分野に入れるかという議論が必要だ。医療的ケアは各論のどの分野かという問題ではなく、医療的ケアに関わって差別が発生した場合に、これは障害を理由とする差別なのかどうかという議論であり、直接、間接、関連という差別の類型にかかわる議論だ。ノンステップのバスが来るまで待たされ一般のバスに乗れないというのは各論に分野として設けるという問題ではなく、各分野でどのような差別があるのかという問題だ。介助の支給量については、差別の問題なのか社会福祉の問題なのか、議論が必要だ。
- (発言)各則の議論の後にモニタリングや救済に関わる章立てがあると考えるが、これについては、いつ頃、議論するのか。最終結論を出す時期の目途と併せて示してほしい。
- (東室長)モニタリング、救済については春辺りに議論する予定だ。最終的には平成24年の夏頃に差別禁止法に関する骨格提言をまとめるよう求められている。それまでに、中間的なまとめを行いたい。全国民に後の議論を理解していただくためには、中間的なまとめが必要だ。
- (発言)障害者基本法の改正は関係省庁と調整して内閣府がまとめた。総合福祉法の法案の作業は厚労省が担当している。障害差別禁止法については夏に骨格提言をまとめるが、法案作成について私たちの役割は何か。法案まで我々がつくるのか。人権救済法については法務省所管になるが、差別禁止法も法務省が法案をつくることになるのか。
- (東室長)差別禁止法は内閣府が所管し、閣法として出す。人権救済部分については法務省で検討されている人権救済法案があるため、どうやってドッキングさせるのかということになる。場合によっては、独自の救済システムを差別禁止法に入れ込むこともあり得る。差別禁止法の骨格提言については、法案そのものではなくても法案と似た形の提言にならざるを得ないと考えている。骨格提言ができた上で、内閣府がそれをベースに法案を作成する。その策定過程の中において、部会の意見を聞くことになる。
- (発言)救済機関は、4月以降に議論することになると伺った。モニタリングに関わっては、障害者基本法に基づく政策委員会が、合理的配慮についての一般的な基準を設けること等にも関与できるのか。現在、法務省が予定している人権救済機関に影響を与えるように議論するのであれば、前倒しで議論しなければいけない時期に来ているのではないか。それを踏まえた上で、4月以降に救済機関やモニタリング機構についてどのように議論するのかを確認したい。
- (東室長)救済機関について、差別禁止部会で議論したことを踏まえ、法務省で検討して頂くことも可能かもしれないが、詳細に時間設定をしている訳ではない。総論、各論の議論を踏まえた上で、どういう救済機関をつくるのかを検討する必要があるため、先に救済の在り方を議論できない。時間的には非常に厳しいが、そのような順番で議論することになる。
- (発言)ヒアリングした欠格条項については問題意識としてはあるという理解で良いか。
- (東室長)特定の分野で欠格条項を定める既存の法律が存在し、かつ差別的であるとされる場合、差別禁止法のその分野でどう対応するのか。この部会で既存の法律の差別条項を変えるべきだと結論を出すのか。それをすべての欠格条項について行うのは不可能だ。ただ、明らかにおかしい部分を議論しないわけにもいかない。欠格条項は、差別禁止法ができたからといって、自動的にすべてが改正されるわけではない。政策委員会等で議論を積み重ね、制度改革をしていく流れの中で変えるのも一つの方法だろう。
- (発言)日常生活は民間によるサービスだと思うが、特に国、県、市町村による公共サービスについても検討して頂きたい。
[以上]
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