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第11回障がい者制度改革推進会議 差別禁止部会(2011年12月9日)
議事要録
【議事 公共的施設及び交通施設の利用における差別禁止について】
- (東室長)公共交通や建物に関しては「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー法)が、従前のハートビル法と交通バリアフリー法を発展的に統合して、平成18年12月に施行された。この法律では、新設や大規模改良等の際には施設の所有者、管理者等に移動等円滑化基準への適合を義務付けており、既存の施設については基準適合への努力義務を課している。また国土交通省を中心に、国民の高齢者、障害者等に対する理解や協力を深めるための啓発活動等を実施しているとのことだ。ここで、バリアフリー法と差別禁止法制との関係を整理しておく。バリアフリー法は行政施策によってバリアフリー環境を底上げするもので、他の者との平等な機会を確保するという点で合理的配慮の提供に当たる。ただ、本来の合理的配慮は個々の状況に応じて提供されるので、一律に提供されるバリアフリー環境の底上げは、最大公約数的に類型化された合理的配慮と言えるのではないか。バリアフリー法は国と事業者の関係を規律するもので違反があっても利用者が何か言える法的構造ではないが、差別禁止法は障害者と事業者との関係を規律することが予定されており権利をどう救済するかという観点から議論されるべきだ。バリアフリー法に基づく現行の施策の問題点については障害者政策委員会で基本計画の実施状況の監視という形で議論することになるので、差別禁止部会では何が差別か、どのような合理的配慮が提供されるべきかという観点から差別禁止法について議論をしてほしい。以下、バリアフリー法の大枠を説明する。この法はハード面のアクセスのみならず、事業者への教育訓練や障害当事者の適切な接遇方法の紹介等ソフト面もカバーしている。対象施設を5つの分野に分け、それぞれに移動等円滑化基準を設けている。「旅客施設及び車両等」では新設か改良時は基準適合が義務で、それ以外は努力義務だ。「道路」では高齢者や障害者の通行が多い道路の新設又は改良時は義務、その他は努力義務だ。「路外駐車場」では有料かつ500平方メートル以上のものの新設又は改良時は義務だが、同じ規模等でも既存のものは努力義務にとどまる。「都市公園」では園路・広場、休憩所、野外音楽堂、駐車場、便所、掲示板、標識等の新設又は改良時は義務だが、同じ施設でも既存のものは努力義務にとどまる。「建築物」では病院、百貨店等不特定多数の者又は主として高齢者、障害者が利用する建築物で2000平方メートル以上のものの新設又は改良時は義務、同様の建築物で2000平方メートル未満のものや既存のもの等は努力義務となっている。その他、バリアフリー法には点字ブロックの敷設や筆談用具の設置等情報に関する規定もあるが、情報については別の機会に議論する。
- (発言)交通機関等のトラブルは枚挙にいとまがない。これは、本来は差別禁止法があってそれに基づきバリアフリー施策が展開されるべきなのに、そうなっていないからだ。基準適合等の考え方も障害者ではなく事業者の発想で規定されている。差別禁止の制定により、改めてバリアフリー法を再編する必要がある。
- (発言)利用者が不満に感じるのは、障害のない利用者に比べて予約等の手続に時間がかかることや特別なやり方でないと取れないこと、介助者にばかり話をして当事者に話をしないこと、ホテルで車いす対応室だと広い空間を取るので割高料金を取られること等だが、そういった扱いが差別に当たるかという問題がある。先ほど説明のあったバリアフリー法で基準適合義務とされた2,000平方メートル以上の建築物から学校・事務所・工場・共同住宅は除かれており、この法律は障害者が社会で教育を受け、働き、暮らすことを想定していない。また、問題が起きたときに訴える術の規定がない。国交省に「移動は権利だ」と言うと「それは法務省の話でこの法律の話ではない」と言われてきたが、この点をどう伝えるかを議論してほしい。
- (東室長)特別支援学校は基準適合義務とされた建築物に入るが、地域の学校は入っていないということだ。障害者個人の権利保護の観点から差別禁止法を検討する中で、バリアフリー法の問題点があれば政策委員会等で議論をしていく必要があるのではないか。
- (発言)バリアフリー法は特定の施設についてのみ改修等の義務を事業者に負わせているが、これでは障害者の行動を特定の施設でだけ保障することになり、行動の制約になる。合理的配慮を担保する意味では、バリアフリー法は差別禁止法によって見直しの対象になるのではないか。移動等円滑化基準の策定や車両設計等の仕様に当たっては当事者参加が必要だ。
- (発言)バリアフリー化対策は、鉄道でも飛行機でも、介助者か施設提供サイドから人が出ることを前提にした配慮、対応がされている。差別禁止法のレベルで考えたときに、広い分野にわたって、人が介在しなくても障害当事者が権利を確保できる配慮が必要だ。
- (発言)権利条約のインクルーシブとアクセシビリティという考え方を原則にするなら、バリアフリー法の対象施設が限定されているのはおかしい。他の者との平等という観点から、様々な生活場面で保障されるべきだ。ただ例外規定もあり、合理的配慮における過度の負担という観点をバリアフリー法と差別禁止法の中で検討する必要がある。
(対象とする施設の範囲について)
- (東室長)まず、この分野の対象範囲をどうするか。障害者基本法第21条「公共的施設のバリアフリー化」は「国及び地方公共団体は自ら設置する官公庁施設、交通施設(車両、船舶、航空機等の移動施設を含む。)その他の公共的施設について、障害者が円滑に利用できるような施設の構造及び設備の整備等の計画的推進を図らなければならない」と規定されている。また、障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例では「障害のある人が建物その他の施設又は公共交通機関を利用する場合において」とある。障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例では「障害者が不特定かつ多数の者の利用に供されている建物その他の施設又は公共交通機関を利用する場合において」、さいたま市誰もが共に暮らすための障害者の権利の擁護等に関する条例では「不特定かつ多数の者の利用に供されている建物その他の施設又は公共交通機関を利用する場合において」とある。「不特定又は多数」と「不特定かつ多数」で範囲が異なっている点も念頭に置き、差別禁止法における公共施設、公共交通機関の場合の対処について議論していただきたい。
- (発言)国の解釈では「不特定かつ多数」と「多数の者」は大きな違いがある。学校は所属する子どもの名前も何もわかっているから「不特定」ではないとして対象からはずしており、差別的な規定の基になっている。千葉県条例の方がよい。
- (発言)基本的にはすべての交通機関と建物をバリアフリー法の対象とすべきだが、現時点ではなるべく網羅されるよう「不特定」と「多数」を別々に入れてほしい。「多数」は数字の多い少ないではなくて、公共性のある機関、交通機関ということが確認される必要がある。
- (東室長)条例等では、交通機関については「公共交通機関」とあり「特定」「多数」とは書いていないので、「公共性のある機関」と解釈でき、無人駅や利用者数の少ない駅でも対象になるのではないか。建物について「すべての建物」と言う場合に、集合住宅や個別の住宅も含むという趣旨か。
- (発言)「すべての建物」と言いたいが、簡単なことではない。法の対象にすべきものは検討が必要だろうが、少なくとも公営住宅や集合住宅では法の概念は踏まえていただきたい。ある村にコンビニエンスストアが1軒しかない場合、その店は公共性が高い。
- (発言)バリアフリー法はハードの整備だが、2階建てなら小規模な建物まですべてエレベーターを付けろというのは無理がある。一方、差別禁止の観点ではエレベーターがない場合でも2階から係員が降りてきて対応する等の工夫をすることで、すべての施設で障害のある方の利用を拒否してはならないと言えるかどうかがポイントだ。全ての施設でハードの整備をするのは現実には難しいだろう。バリアフリー法の問題点は改善する必要があるが、一方でハード面がどうあれ利用できるかどうか、サービスを享受できるかどうかに焦点を当てて考えるべきだ。
- (発言)バリアフリー法で「不特定」「多数」という要件が課されるのはなぜか。「不特定」については二つの理由が考えられる。一つは、不特定の人が利用する建物は障害者が利用する可能性があるので義務を課すことが正当化できるが、特定の人が利用する建物は障害者が利用するとは限らないため努力義務にとどめるという理由である。今一つは、誰に利用させるかは建物の所有者や管理者の自由で障害者の受入れを強制はできないことから、特定の者が利用する建物に義務を課すと契約の締結強制を認めることになるので努力義務にとどめるという理由である。「多数」に関しては、少数の人しか利用しないのに義務を課すとコストが過大になり所有者等に負担を課すことはできないが、多数の利用がある場合はコストに見合わないという抗弁は認めないという理由が考えられる。差別禁止法とバリアフリー法の考え方の共通点と相違点を検討する必要があるので、教えてほしい。
- (棟居部会長)バリアフリー法はハード面の最大公約数と考えられるのではないか。すると、「不特定」「多数」という概念が、最大公約数とどう結びつくのか。
- (東室長)バリアフリー法の移動等円滑化基準は、多くの障害者に対する合理的配慮の最大公約数を基準化したものと言える。この基準についての議論とは別建てで、基準を適用する対象について、今議論をしているということだ。
- (発言)不特定の人の中には障害のある人が存在する可能性があるので配慮しておくべきだとの考え方ではないか。また、多数であれば一定割合の障害のある人が存在するから障害のある人の利用を予定するべきだし、準備していなければ事後的に合理的配慮義務を果たして利用可能にするべきだ。そうすると「不特定または多数」というくくりがよい。この場合特定少数だけが除かれ、障害のある人が利用する可能性がない領域では事前に何らかの配慮をする必要はなく、事後的に合理的配慮義務を果たす必要もない。
- (発言)バリアフリー法が障害者集団を対象として事前にアクセスを整備するのに対し、差別禁止は個別的、事後的な当事者の要求に対して相手側が調整をして平等な機会を図るものだ。役務を提供する主体や教育機関等は合理的配慮を提供すべきだ。イギリスでは合理的配慮の内容を<1>規定、基準、慣行といった表面上は中立的なルールや物事の決め方等の変更を求めること、<21>社会の側の物理的な障壁を除去すること、<3>障害者個人のために補助手段を提供すること、と整理している。財政的な負担が過度な場合やサービス等の本質を変える場合は過重な負担となるが、そうではない範囲で相手側は合理的配慮を柔軟に提供しなければならない。その内容は、障害当事者と相手側との話合いの中で決まるということだ。
- (東室長)役務提供は各論の1つの分野になると考えられるが、施設や建築物等の利用とサービス提供は重なるのか。法律に「役務提供をするところ」等と書くのか、お考えはあるか。
- (発言)書き方は工夫が必要だ。合理的配慮義務を負う主体を特定する書き方が分かりやすい。
- (棟居部会長)所有者もしくは管理者という形で特定はできると思うが、どういうものの所有者もしくは管理者かが問題になっている。
- (発言)バリアフリー法が規定する接遇を含む教育訓練は、この法で義務や努力義務を負う施設のみが実施対象で、それ以外の施設はこの教育訓練すら実施しなくてよいのか。
- (東室長)バリアフリー法の第8条5項で何ら限定なく「公共交通事業者等は、その職員に対し、移動円滑化を図るために必要な教育訓練を行うよう努めなければならない」と規定しているので、教育訓練の実施はこの法の義務や努力義務の対象かどうかは問わないということになる。
- (発言)「不特定かつ多数」に関連して、以前、国交省は個人の住宅は対象外だと話していた。個人の住宅は訪問客を含めれば不特定だが、解釈によっては特定だということのようだ。
(どのような行為が差別となるのか)
- (東室長)交通関係については、事業者が一定の差別的な行為を行うことを禁止する規定がある。鉄道営業法6条、道路運送法13条等では、一定の場合を除き運送の引受けを拒絶してはならないことが書かれている。道路運送法30条1項では「旅客に対し、不当な運送条件によることを求め、その他公衆の利便を阻害する行為をしてはならない」、道路運送法30条3項では「一般乗合旅客自動車運送事業者等は、特定の旅客に対し、不当な差別的取扱いをしてはならない」、海上運送法13条では「特定の利用者に対し、不当な差別的取扱いをしてはならない」等の規定がある。また、建物等に関しては、地方自治法244条3項に「普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない」という規定がある。ただ「不当な差別的取扱い」の定義は書かれていない。また、千葉県条例2条2項六のイでは「利用を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を課し、その他不利益な取扱いをすること」という定義があり、ロでも「利用を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を課し、その他不利益な取扱いをすること」とある。熊本県条例も「利用を拒み、若しくは制限し、又はこれらに条件を付し、その他不利益な取扱いをすること」という書きぶりだ。さいたま市も「その他不利益な取扱い」とは書いていないが、「利用を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を課すこと」と似通った書きぶりだ。
- (発言)各県の条例に「建物の本質的な構造上やむを得ない場合」や「障害者の生命又は身体の保護のためやむを得ないと認められる場合」等差別の例外についての規定があるが、差別禁止条約にもこれを入れるとすると、誰がどのようにこの条件を認めるのかという基準が必要だ。千葉県条例2条2項六号のイに「施設の利用を拒否し」とあるが、利用の制限や利用に条件を課すことはあっても、拒否はどんな場合でもだめだ。
- (発言)現実は車いすのタイプによって鉄道やバスで公然と利用を拒否される。スロープ付きバスの運転手のミスで障害者がけがをしたため、リフト付きバスでも当面は車いす利用者の乗車を拒否するという事例もあった。こういう拒否に対して有効な是正の勧告や命令、判決が下されるよう、差別禁止法が求められている。今の法律では差別が正当な差別と見なされてしまう。
- (発言)役務の提供者が合理的配慮義務を負うことに関連して、問題になるのは商品の内容ではなく商品にアクセスできるかどうかだ。障害者のための物を売れと言っているのではなく、障害を理由に不当に商品を売らないことや障害者が商品を入手できるような合理的調整をしないことを差別禁止法で禁止するということなので、「特定」「多数」等がどれだけ重要なのか疑問だ。差別概念として合理的配慮を行わないことと不均等待遇の二類型を提案しているが、不均等待遇の中の直接差別については抗弁が認められない旨を盛り込むべきだ。
- (東室長)先ほど「拒否はどんな場面でもだめだ」という意見があったが、拒否については例外事由がないということか、それともこの分野の差別で「拒否」は使うべきではないということか。
- (発言)千葉県条例では正当な理由があれば拒否してもよいと書いているが、拒否という言葉が障害者の心を傷つけているので抵抗がある。「制限し」や「条件を課し」という表現以上に「拒否」は慎重に扱うべきだ。
- (東室長)差別行為として拒否という言葉を使うべきではないという趣旨ではなく、拒否の場合は例外を設けるべきではないという趣旨と受けとめてよいか。
- (棟居部会長)拒否は当事者の意見や提案を一切受付けないということなので、そうではなく、どのような場合に例外として正当化されるかという方向で議論すべきとの指摘だ。
- (東室長)さいたま市条例には「その他の不利益取扱い」といった包括的規定はないが、これは必要ないか。
- (発言)聴覚障害者等が視覚的な案内がないため、地震発生後何十分も経ってから地震があったことが分かったということもあるので、この分野では不利益な取扱いを明記すべきだ。
- (発言)利用を制限する、あるいは条件を課すという場合に、有料のサービスで料金を高く設定することが含まれると一般に理解されているのか。「条件を課す」というのは、対価ではなく、使用に関して何らかのルールを守ってもらう等、付随的な条件のイメージが強い。
- (東室長)他との平等という観点から見れば、他には課されない条件を課されることがあり得るだろう。利用申込みをしたら一般はすぐ対応するのに障害者は何日前に申し込まないと対応しない、他の人は乗りたい時間の列車に乗れるが障害者は手続が要るので後の列車になる等の事例が念頭にあると思われる。オプションを選んだ場合に料金が高くなるのは障害のない人も同じだから、料金が高くなることは条件に含まれないのではないか。ただ、障害があるゆえにお金が高くなるということであれば含まれるのではないか。
- (発言)障害者が利用する場合にはプラスアルファのサービスが不可欠なので料金が2割増しになるという約款がある場合には、ここでいう条件に該当すると理解してよいか。
- (東室長)合理的配慮は費用を取る前提はなく、合理的配慮に必要な費用を徴収することは実質的な均等を害することになるのではないか。
- (発言)海外旅行に行く時に障害のある方には必ず介助者を付けてくださいと旅行会社が言ったら、ここで言う条件になるだろう。本人が介助者と行く場合には倍の料金を払うことになるが、これが不利益な取扱いになるか考えなくてはいけない。また障害を理由とした優遇も問題ではないか。
- (東室長)アメリカにキャリアアクトという航空機に搭乗する際の差別禁止法があるが、単独で乗れると利用者側が主張するにもかかわらず、会社側で、だれか連れてくれば乗せると言った場合の付き添いの費用は会社で持つという規定があったかなと覚えている。しかし、自ら連れて行く場合に、その付添人の費用を取ることが条件を課すことになるかというのは議論すべき問題だろう。
- (発言)概念的には優遇しないことが差別という発想があり得る。合理的配慮をしなければならないことは一種の優遇を認めることなので、差別は不利益な取扱いという定義でいいのではないか。
- (発言)合理的配慮は、ほかの人と同じ扱いを受けるための手段なので、優遇と理解していない。
(どのような場合に例外として正当化されるのか)
- (東室長)道路運送法13条には運送に適する設備がないとき、運送が法令や公序良俗に反する場合等は、事業者は運送の引受けを拒むことができるという規定がある。運送に適する設備がない時は拒むことができるというのは、合理的配慮をしなくてもよいとも読める。鉄道営業法4条2項には、付添人がいない重病者の乗車を拒絶できると規定されている。旅客自動車運送事業運輸規則13条1項四号には「付添人を伴わない重病者」の運送を拒絶できるとある。建物関係では地方自治法244条2項で、正当な理由があれば住民の公的施設利用を拒むことができるという例外規定がある。差別禁止条例では、施設の構造上、あるいは本人の生命、身体の保護のためやむを得ない場合等は正当な理由があるとされている。差別禁止法に例外を設けるべきかどうか、設けるとしてどのような場合に認めるのか等について議論をしてほしい。
- (発言)建物や公共交通機関のアクセスについて、定型的な排除は規定するべきではない。身体の障害や重度の病気、付き添いがいないこと等を理由に利用を拒むことが正当化する立法趣旨として考えられるのは、一つには周囲への悪影響または迷惑という問題だ。もう一つは、本人の生命、安全を確保する責任を事業者に持たされては困るということではないか。これらは正当な根拠なのかという強い疑問があるので、こうした規定を設けるべきではない。また、公共施設などの利用を、障害を理由に拒むことが正当な理由に入るという解釈もあり得ない。
- (棟居部会長)付添人を付けることで会社側の安全配慮義務が緩和されるのか。また、安全という概念は絶対的なものではないはずだが、我々はある程度の安全か危険かという判断をしながら自分の責任でやっており、多少危険でも構わないという自己決定を一切許さないニュアンスを感じる。
- (発言)安全ではないという理由で障害者は利用を拒否されるが、安全を判断する基準がないので、何らかの一般的な原則が必要だ。また、個別的に問題を受付けて処理をするシステムが必要だ。
- (発言)ガススプリングが付いている車椅子等の場合に発火の危険性があるという理由で航空会社から飛行機への搭乗を拒否される、人工呼吸器の利用者が機内で電源を使えないため人工呼吸器を使えないまま乗った等の事例があり、いずれも安全性が問題になった。今はライターを2個以上は機内に持ち込めない等安全対策が一般的に行われるようになっており、障害者だけ安全の問題を例外とするべきなのか、判断が難しい。ロンドンに行くのに搭乗の3日前に申し込んだところ、航空会社から対応するスタッフを用意するから搭乗を4日間待ってくれといわれた。このような場合は搭乗拒否になるのか、それともその人が必要とする介助者を航空会社が用意するために一定の時間を求めてきたとして適切な対応と受けとめるのか。
- (発言)合理的配慮は会社の規模などで出費の範囲が違うが、三委員提出資料の適用除外案で著しい出費がある場合は適用しないとしているのは、会社の規模は関係ないということか。
- (発言)合理的配慮の例外事由と同じようにつくったので、過度の負担と同じ考え方だ。適用除外事由は他と横並びで入れたので、適切ではない部分もあったかもしれない。
- (発言)事業所の規模や能力等はすべて判断材料に入るとしてつくったのではないか。
- (東室長)交通関係では安全性を理由として例外事由が書かれているが、安全性は抽象的で幅があるので、ある程度明確に書くことが求められる。建物等についてはその本質的な構造上やむを得ない場合として例外事由が書かれているが、これは人的支援があれば利用できるという場合も拒否できるという結果になる。こうした点をどう考えるかについて議論していただきたい。
- (発言)エレベーターがない小規模な2階建てで行うサービスを、車いすを使う方が利用したいと言う場合、構造上すぐにはエレベーターを付けられない。この場合は人が1階で代替的なサービスを提供する等の制限を課すという表現はあり得るが、拒否という書き方は適切ではない。
- (発言)エレベーターがない駅で、車いすを持ち上げる駅員を集めるために10分待たされて、乗車したことがある。帰りは時間に合わせて駅員を配置するとのことだった。別の交通機関では、利用する1か月前に駅の状況等を照会したら、駅の構造上、車いすが使えないと言われた。合理的配慮には代替手段もあるので、建物の構造だけで制限を加えることは正当ではない。いろいろな方法があるから、断言的にこれはできないと言うのは適切ではない。バリアフリー法は社会施策で、街づくりを推進する法律だ。差別禁止法は個々の人が置かれた状況の改善をするもので、個人を主役に考える必要がある。
- (発言)建物の本質的な構造上やむを得ない場合は利用を拒否できると差別禁止法に書いた場合、建物の利用を拒否された原告が差別だと主張し、被告は上記の理由で例外的な許容事由に当たると抗弁する。これを受け原告は、こういう合理的配慮があれば利用できたと再反論をする。そして被告が、それは過度な負担になるから合理的配慮の例外だと反論する。このような展開になるのなら結局は合理的配慮の問題になり、「本質的な構造」という規定を置く必要があるのか。
- (東室長)「建物の本質的な構造上やむを得ない」という例外の書き方なので、別の合理的配慮があるという流れになるだろう。しかし、公共交通機関の「本人の生命又は身体の安全」という例外については、直接差別の問題としてそのような理由で拒否してよいかという問題になる。
- (発言)「生命又は身体の安全」の場合でも「建物の本質的な構造」の場合と同じく合理的配慮の問題になるという展開はあるのでないか。
- (東室長)同じ展開もあり得るが、ここでは拒否したことが差別に当たるかが問題になる。合理的配慮は拒否が正当化された場合に出てくる議論なので、裁判では別個の請求原因となる。
- (発言)本人の生命や身体の安全という文脈で制限を加えることは現実にはあるだろうが、それを障害者差別禁止法やバリアフリー法に持ち込んでよいのだろうか。生命や身体の安全は障害者に限らない問題だ。
- (発言)生命・安全を害する場合に搭乗できないのはどの人にも適用される一般的なルールなので、直接差別は生じてない。しかし、合理的配慮は個別の差異を認めるためにルールに例外を設け、相手側が何らかの調整措置をすればその人は搭乗できるのだから、調整をしなさいというものだ。
- (東室長)直接差別には例外を設けるべきではないという議論があったが、千葉県条例の例外事由では「障害を理由として」と書かれており、直接差別を念頭に置いていると考えられる。直接差別、間接差別、関連差別をまとめるという議論もあったが、その場合例外事由をどのように書くことが適切か。
- (発言)直接、間接、関連差別を一つにまとめる場合は、直接差別では一切例外を認めない旨を次の項で明記する。
- (発言)「生命・安全を理由とする搭乗拒否は、どの人にも適用される一般的なルールなので、直接差別は生じない」という意見があったが、それによると、始めから直接差別ではなかったと説明せざるを得ず、そもそも請求できないことになる。しかし、異別取扱いを受けたといえれば、原則としてそれだけで障害者が責任追及をすることを認めるべきではないか。
- (発言)そのケースはそもそも直接差別に該当せず、「等しいものを等しく扱わなければならない」というルールに違反していなから、直接差別の請求原因はない。その代わり合理的配慮は請求できる。直接差別ではないから間接差別だという段階論ではなく、同時に問題にできる。
(この分野において合理的配慮として特筆する点について)
- (発言)アメリカでは建築物障壁撤去法で、連邦予算から補助を受けている建物等については一定のアクセシビリティの基準を満たさなければならないと定められており、新築や改築時にこれが適用される。この法が適用されないものはADAで対応する。ADA第2編公共サービスや公共交通機関によるサービスの提供における差別や、第3編民間企業によって運営される施設、サービスの提供における差別が、アクセシビリティと関係する。裁判では、アクセシビリティ確保の障壁を確実に取り除くことができるにもかかわらず、これを取り除かない場合に差別が発生するとされる。その際、修繕費用や修繕の必要性の比較衡量や、財政的能力等が考慮されることとなる。また、サービス提供の際に付加的な補助等何らかの措置がとられているかどうかもポイントとなる。紛争解決手段が用意されていることは重要で、建築物障壁撤去法ではアクセスボードという独立の連邦機関がアクセシビリティに関する苦情、申立てを受ける。航空アクセス法では各空港に紛争解決局を置かなければならず、障害を抱える乗客のサービスに関して問題が生じた場合にはこちらでまず対応する。
- (発言)2000年代半ば以降、EUでは公的施設及び公共交通機関の利用について、障害者が障害のない人と同じようにアクセスできるようにする取組が進んでいる。取組は、海洋及び内陸水路の航行、鉄道、航空、バス等、多岐にわたっている。たとえば、「バス及び長距離バスの旅客の権利」のEU規則では、すべての市民のための公共のバスは障害のある人も障害のない人と同じように利用する権利があることを規定している。バスの利用に当たり安全確保ができない場合を除いて、すべての過程で拒否をしてはならないとうたわれている。利用に当たって追加の料金も課してはいけない。旅客会社、旅行会社、運転者は個別の支援を提供しなければならず、障害のある人は個別の支援を受ける権利があると書かれている。権利を享受するには、事前に(この場合は遅くとも36時間前)申し出ることとなっており、申し出ない場合は努力義務だ。EUレベルの差別禁止法やアクセシビリティ法が議論されているので、採択されれば相互に影響するだろう。個別の支援はソーシャルインクルージョンの観点から無料で提供されなければならず、これはほかのEU規則もすべて同様だ。併せて、関係のスタッフに研修、訓練が提供されなければならない。障害のある人や移動に制限のある人々を代表する組織が、施設や交通の利用に関する様々な場面で関わる必要があるとも書かれている。また、各国はこの規則の履行に責任を持つ執行責任機関を設けなければならず、旅客はこの機関に苦情を申し立てることができる。そのほかに附則などで、個別の支援や研修・訓練の内容が具体的に示されている。
- (棟居部会長)最終的な訴訟を見据えた議論になり勝ちだが、アメリカのアクセスボードのような小回りのきく行政救済的な手法が障害者差別の解消には必要ではないか。EUで言われている個別の支援も、個別性にポイントがあるのだろう。
- (東室長)バリアフリー法の基準だけでは対象範囲の議論も含めて、差別禁止の分野としては狭すぎる。公共交通機関、建物について合理的配慮として議論するべき点があれば議論していただきたい。委員提出資料にある「2007年日弁連法案概要」では、合理的配慮をすべき相手方についての細かい記述や最低基準を差別禁止法の中で定めること等も書かれている。
- (発言)「2007年日弁連法案概要」では「2 合理的配慮義務」で「(4)建築物が最低基準に適合していることが、個別の合理的配慮義務を免除するものと解釈してはならない」と書いて、最低基準により全体を底上げしつつ個別にも保障することを考えていた。建築物だけではなく雇用、教育等各分野の法律と差別禁止法の関係が問われるが、事前に制度的に保障するものと個別保障を意識したものを整備しなければいけない。
- (棟居部会長)合理的配慮という新しい考え方を従来の基準とどう関連づけるかが問題になるが、基準は一般的な最低基準であり、それに個別の合理的配慮を積上げるというすみ分けか。
- (発言)最低基準に合致しているかどうかについては個別の請求権はないが、合理的配慮は個人が請求するものだ。バリアフリー法と矛盾なく、差別禁止法に合理的配慮を個人請求権として規定するために「(4)建築物が最低基準に適合していることが、個別の合理的配慮義務を免除するものと解釈してはならない」と規定した。
- (発言)「2007年日弁連法案概要」の合理的配慮以外の規定として、「建築物の利用」では最低整備基準を「障がいのある人の権利委員会」が設定し、これに適合しない場合は是正する義務があるとしている。また「差別の定義」で最低整備基準に適合しない建築物を新たに建築・設計・施工することは差別になるとしており、差別の基準としても最低整備基準が使われている。
- (棟居部会長)最低整備基準はハード面で事前に整備すべき仕様であり、合理的配慮は実質的に同じサービスを提供するために人がサービス提供の仕方を工夫することという振り分けでよいか。建物のハードをアクセスしやすくしておけば合理的配慮を求める必要はなく、合理的配慮にはこのような人による工夫も入るのではないか。
- (発言)すべての建築物にエレベーターを付けるよう規定しても、既存の建物の中には設置できず最低整備基準に合致しないものが多くある。その場合には補うための手段が必要だ。
- (棟居部会長)「すべての人に配慮したデザイン・計画(design for all)」がハード面に組み込まれていれば合理的配慮は必要ないと考えた。
- (発言)まず「すべての人に配慮したデザイン」が必要だ。階段を人的支援で上ることは合理的配慮だが、人に担がれることに抵抗を感じる障害者は多いので、基本的にはエレベーター等の垂直移動システムが組み込まれるべきだ。障害者の誇りやプライド、人間としての尊厳を損ねないという視点に立った施策が必要だ。
- (発言)「すべての人に配慮したデザイン」は存在するだろうか。ベーシックな整備は必要だが、合理的配慮には個人差がある。そういう意味ではユニバーサルデザインと合理的配慮は両立する。
- (発言)「すべての人に配慮したデザイン(design for all)」は理念的には正しいが、現実的には一つのデザインですべての人に配慮することはできない。アメリカの建築物障壁撤去法に基づくアクセスボードはADAに関しても重要な役割をもっているが、その構成は障害のある人が数多く入っている。日本でアクセスボードのような組織を作る場合も、メンバー構成が重要だ。また「追加の料金」についての報告があったが、現在新幹線では車いすで使える席は指定席にしかないため指定席料金を払わなければならず、障害のある人の選択肢を狭めている。これは差別に当たる場合があるのではないか。
- (発言)合理的配慮は個人にマッチしたものだ。それを実現する手続は個別的な救済になるので、社会全体を障害のある人に利用しやすくする政策効果は高くない。それに対してバリアフリーや最低整備基準のようなものを設定すると、社会全体のアクセス性を高める効果はある。差別禁止法とバリアフリー法を車の両輪のようにかみ合わせる必要があるのかどうかは考えた方がよい。
- (東室長)差別禁止法とバリアフリー法等が実質的な関連を持ち、同じ方向性を向くことが大事ではないか。そのためには最低整備基準を実質的に機動させるアクセスボード等の介在が必要との議論だが、その点に関しては差別禁止法の救済機関や障害者基本法で予定されている政策委員会の機能も念頭に置かなければならない。現実的に差別禁止法が用意すべき内容を考慮する必要がある。
(差別禁止部会における今後の議題)
- (東室長)「差別禁止部会における今後の議題(案)」(資料2)以外に、取り上げるべきテーマについての議論をしていただきたい。
- (発言)精神障害のある人の社会的入院や強制入院の問題を医療に含めて議論できるのかどうかについて、別だてで議論する必要がある。また、差別禁止法ができた場合に期待される法律効果についても検討する必要がある。
- (発言)一つは女性障害者の分野だ。国際的にも女性であり障害者であるために様々な生活上の困難を負っているという報告等があり、障害者権利条約では明確に含めている。もう一つは障害児の分野だ。教育以外でも様々な場面で保護者も含め生活上の制限を受けているという実態がある。
- (発言)権利条約では文化的生活、レクリエーション、余暇、スポーツ等もあるので、社会生活全体を考えると、そういう側面も取り上げた方がよい。
- (発言)外国籍の障害のある人や難民の障害のある人についても障害のある女性と一緒に検討してはどうか。その際イギリスの2010年平等法では、結合差別、複合差別という概念があるので、この点について検討してはどうか。
- (発言)障害のある女性等について検討する提案に賛成だ。マイノリティな障害の問題を議論してほしい。
- (発言)全体にかかわるが、障害を理由とするハラスメントを盛り込んでほしい。
- (東室長)法律効果については議論が抜けていた。日本の民法、民事訴訟法、保全処分などに関して、処分禁止の仮処分のように具体的な義務づけをした命令のようなものを裁判所が出すことができるのか。日本の法律体系で可能なのかも含めて、総論的な問題として議論が必要だ。ハラスメントに関しては障害者虐待防止法ができたが、ハラスメントは虐待だけではないので議論が必要だ。
- (発言)権利を認めるとして、権利実現の方法が問題になる。集団的ないしは団体的な権利実現の手法、特に団体訴権のようなものまで視野に入れて議論をするかどうかが大きな問題である。個別の障害者の権利救済を認めるだけはうまく機能しないだろう。その点で検討課題に属するが、今回はどこまで検討するのか。
- (東室長)消費者関係の法律には団体訴権があり、個人だけの権利擁護活動ではカバーできない部分をそういう手法で取組むという流れだ。これも含めて今後検討したい。
[以上]
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